【実施例】
【0026】
(実施例1)
上記ターボチャージャにかかる実施例について、
図1〜
図6を用いて説明する。
本例のターボチャージャ1は、
図1、
図2に示すごとく、インペラ13が配された空気流路10を内側に有するコンプレッサハウジング2と、インペラ13を一端に固定したロータシャフト14を回転自在に支持する軸受ハウジング3とを備える。
そして、空気流路10は、インペラ13に向けて空気を吸い込む吸気口11と、上記インペラ13の外周側において周方向に形成され、インペラ13から吐出される圧縮空気を外部へ導く吐出スクロール室12とを有する。
【0027】
同図に示すごとく、コンプレッサハウジング2は、インペラ13に対向するシュラウド面221と、シュラウド面221から吐出スクロール室12に向かって延びるディフューザ面222とを有する。
軸受ハウジング3は、コンプレッサハウジング2のディフューザ面222に対向すると共にディフューザ面222との間にディフューザ通路15を形成する対向面311を有する。
【0028】
コンプレッサハウジング2のディフューザ面222及び軸受ハウジング3の対向面311の両方に、デポジットの付着を防止するための付着防止部4が設けられている。
図4に示すように、付着防止部4は、表面形成部42と空気タンク部41とを備える。表面形成部42は、ディフューザ通路15側に開口する多数の微細な貫通孔43を有する。
空気タンク部41は、表面形成部42によってディフューザ通路15側から覆われている。そして、空気タンク部41は、
図3に示すように、ディフューザ通路15よりも下流側(本例では、アウトレットポート16よりも下流側)において空気流路に連通しており、圧縮空気の一部が供給されるように構成されている。
そして、
図6に示すように、圧縮空気がディフューザ通路15を通過する際に生じるエジェクタ効果により、空気タンク部41に供給された圧縮空気が貫通孔43を介してディフューザ通路15へ噴出するように構成されている。
【0029】
本例のターボチャージャ1の構成について、以下に詳述する。
ターボチャージャ1は、PCVを備えた内燃機関に接続して用いることができる。
図1に示すごとく、ターボチャージャ1は、自動車等の内燃機関から排出される排ガスによってタービンを回転させ、その回転力を利用してコンプレッサにおいて吸入空気を圧縮し、その圧縮空気を内燃機関に送り込むよう構成されている。したがって、ターボチャージャ1は、軸方向において、コンプレッサの外殻を構成するコンプレッサハウジング2と反対側にタービンハウジング(図示略)を備えている。
【0030】
タービンハウジングの内側には、タービンインペラが配された排ガス流路が形成されている。タービンインペラは、ロータシャフト14に固定されている。すなわち、ロータシャフト14によって、コンプレッサのインペラ13とタービンインペラとが連結されている。これにより、タービンインペラの回転に伴い、コンプレッサのインペラ13が回転するよう構成されている。
【0031】
同図に示すごとく、コンプレッサハウジング2は、吸気口11を形成する筒状の吸気口形成部21と、シュラウド面221及びディフューザ面222を形成するシュラウド部22と、吐出スクロール室12を形成する吐出スクロール室形成部23とを有する。シュラウド面221は、軸受ハウジング3の対向面311に対向するように円環状に形成されている。また、シュラウド面221は、軸受ハウジング3の対向面311との間にディフューザ通路15を形成している。ディフューザ通路15において、後述のインペラ13により圧縮された圧縮空気は、
図4において矢印Pで示すように上流側のインペラ13側から、下流側の吐出スクロール室12側へ流れる。
【0032】
図3において矢印P1で示すように、インペラ13側から吐出スクロール室12側へ流れた圧縮空気は、吐出スクロール室12内を渦状に旋回しながら、矢印P2で示すように下流側のアウトレットポート16まで流下する。その後、矢印P3で示すようにアウトレットポート16から外部(内燃機関側)に導出される。
【0033】
また、
図2に示すように、コンプレッサハウジング2のシュラウド部22の内周側には、インペラ13が配置されている。インペラ13は、軸端ナット141によってロータシャフト14に固定されるハブ131と、ハブ131の外周面から突出してなると共に周方向に並んで配置された複数のブレード132とを有する。複数のブレード132は、コンプレッサハウジング2のシュラウド面221に対向して配置されている。
図5に示すように、ブレード132は、インペラ13の外縁13aにおける接線(出口接線)方向に沿う仮想直線L2に対して傾斜しており、インペラ13の外縁13aにおけるブレード132と仮想直線L2とのなす角(バックワード角)αは約60度となっている。
【0034】
また、
図1、
図2に示すように、コンプレッサハウジング2とタービンハウジングとの間には、ロータシャフト14を回転自在に軸支する軸受ハウジング3が配置されている。軸受ハウジング3の軸方向の一端側には、略円板状のフランジ部33が設けられている。フランジ部33におけるコンプレッサ側の面には、コンプレッサハウジング2のディフューザ面222に対向する対向面311が円環状に形成されている。
【0035】
図1、
図2に示すごとく、コンプレッサハウジング2と軸受ハウジング3には、それぞれ付着防止部4が設けられている。各付着防止部4は、それぞれ、コンプレッサハウジング2のディフューザ面222および軸受ハウジング3の対向面311において、周方向全体にわたって環状に設けられている。また、付着防止部4は、ディフューザ面222および対向面311において、径方向におけるディフューザ通路15の全長の半分以上の長さ領域に形成されている。
【0036】
図2に示すように、付着防止部4は、空気タンク部41と、表面形成部42とを有する。空気タンク部41は、コンプレッサハウジング2のディフューザ面222および軸受ハウジング3の対向面311に円環状に形成された溝部のディフューザ通路15側を、表面形成部42で覆うことにより形成された円環状の空間である。
図2に示すように、空気タンク部41にはバイパス経路50が接続されている。
図3に示すように、バイパス経路50はコンプレッサハウジング出口フランジ部24に取り付けられて、アウトレットポート16よりも下流側に位置する空気流路に接続されている。これにより、空気タンク部41は、バイパス経路50を介して、ディフューザ通路15よりも下流側(本例では、アウトレットポート16よりも下流側)において空気流路に連通して圧縮空気の一部が供給されるように構成されている。
【0037】
図3に示すように、バイパス経路50の吸入口51は、当該空気流路における圧縮空気の流れる方向P3に開口しており、吸入口51に流入する圧縮空気の流れる方向Rは方向P3と反対方向となっている。
【0038】
図3、
図5に示すように、表面形成部42は、円環状(ドーナツ状)の板状部材である。表面形成部42の材質は、例えば、アルミニウム、鉄などとすることができる。
【0039】
表面形成部42には、ディフューザ通路15側に開口する多数の微細な貫通孔43が形成されている。貫通孔43は、
図4に示すように、空気タンク部41からディフューザ通路15に貫通している。各貫通孔43の直径は、例えば、約0.5μm〜約50μmとすることができる。これにより、圧縮空気が貫通孔43を通過する際の圧力損失を適度に抑制しつつ、貫通孔43を介した圧縮空気の逆流を効果的に防止することができる。本例では、各貫通孔43の直径は、約1.0μmである。
【0040】
図4に示すように、多数の微細な貫通孔43はそれぞれ、空気タンク部41側の開口部から上記ディフューザ通路15側の開口部に向かう孔の形成方向Qが、ディフューザ通路15の下流側(吐出スクロール室12側)に傾斜するように形成されている。すなわち、貫通孔43の形成方向Qとディフューザ通路15における圧縮空気の流れ方向Pとのなす角θが90度未満となっている。本例では角θは約40度である。なお、流れ方向Pはディフューザ面222に平行な方向となっている。
【0041】
図5に示すように、多数の微細な貫通孔43は、ディフューザ通路15において、インペラ13の外縁13aを起点とするインペラ13のバックワード角αに沿う仮想直線L1に対して、起点(外縁13a)からディフューザ通路15の下流側(吐出スクロール室12側)に向かう程、インペラ13の回転方向Rと反対方向に離れるように湾曲した仮想曲線Cに沿って形成されている。そして、
図5における仮想曲線Cを、インペラ13の軸芯13bを中心として所定角度の間隔で回転させた各位置に貫通孔43がそれぞれ形成されている。
【0042】
貫通孔43が設けられる密度は、特に限定されず、必要とする付着防止効果が得られる範囲で適宜、変更してよい。例えば、ディフューザ通路15の表面における、貫通孔43の開口部の占める面積の割合が、約20%〜約50%となるようにすることができる。
【0043】
次に、本例のターボチャージャ1における作用効果を説明する。
本例のターボチャージャ1では、ディフューザ面222及び対向面311は、付着防止部4が設けられている。付着防止部4は、ディフューザ通路15側に開口する多数の微細な貫通孔43を有する表面形成部42と、表面形成部42のディフューザ通路15と反対側に圧縮空気の一部が供給されている空気タンク部41とを有する。
そして、
図6に示すように、ディフューザ通路15の空気流路は、インペラ13側の空気流路及び吐出スクロール室12側の空気流路よりも狭くなっている。そのため、インペラ13側から圧縮空気がディフューザ通路15を通過することにより、付着防止部4においてエジェクタ効果が生じる。すなわち、表面形成部42の多数の微細な貫通孔43を介して、空気タンク部41内の圧縮空気がディフューザ通路15へ噴出する。これにより、付着防止部4に飛来してきたデポジットと、付着防止部4におけるディフューザ通路15側の表面との距離を確保することができるため、デポジットと付着防止部4におけるディフューザ通路15側の表面との間の分子間力を抑制することができる。そのため、付着防止部4に飛来してきたデポジットは、ディフューザ通路15を流れる給気(圧縮空気)によって吹き飛ばされることとなる。その結果、当該デポジットが付着防止部4におけるディフューザ通路15側の表面に付着することが防止される。
【0044】
さらに、付着防止部4において、貫通孔43を介してディフューザ通路15へ噴出するガスとして、インペラ13から吐出される圧縮空気の一部を利用している。かかる圧縮空気は、ディフューザ通路15の圧縮空気との圧力差よりも若干圧力が低いが、給気によるエジェクタ効果により、特に加圧ポンプで加圧したり、逆流防止弁を設けたりすることなく、ディフューザ通路15内の圧縮空気が貫通孔42を介して空気タンク部41側へ逆流することが防止することができる。
【0045】
なお、コンプレッサ2の出口温度が比較的低い場合においては、液状のオイルミストがディフューザ通路15に飛来することがあるが、液状のオイルミストは付着防止部4からディフューザ通路15へ噴出する圧縮空気によってはじかれると共に給気によって吹き飛ばされる。そのため、オイルミストがデポジットとしてディフューザ通路15に堆積することを防ぐことができる。
【0046】
以上のごとく、ターボチャージャ1によれば、ディフューザ通路15におけるデポジッ
トの付着を防止することができる。
【0047】
ターボチャージャ1において、多数の微細な貫通孔43はそれぞれ、空気タンク部41側の開口部からディフューザ通路15側の開口部に向かう孔の形成方向Qが、ディフューザ通路15の下流側(吐出スクロール室12側)に傾斜するように形成されている。これにより、それぞれの貫通孔43がディフューザ通路15の下流側(吐出スクロール室12側)に向かって形成されているため、貫通孔43における圧縮空気の流れる方向が、ディフューザ通路15内における圧縮空気の流れる方向(インペラ13側から吐出スクロール室12側)と同様となる。その結果、空気タンク部41内の圧縮空気は貫通孔43を介してディフューザ通路15内へスムーズに流れることとなる。そして、圧縮空気がディフューザ通路15をP方向に流れることによって生じる、貫通孔43を介した空気タンク部41の圧縮空気の巻き込み効果が向上する。これによって、付着防止部4におけるデポジットの付着防止効果が向上する。
【0048】
本例では、各貫通孔43の形成方向Qと圧縮空気の流れる方向Pとのなす角θが約40である。これにより、当該角θが90度に近い場合に比べて、貫通孔43を介した空気タンク部41の圧縮空気の巻き込み効果が充分発揮される。また、当該角θが0度に近い場合、すなわち、ディフューザ通路15の圧縮空気の流れ方向Pに平行に近い場合に比べて、各貫通孔43の長さが短くなっているため、貫通孔43における圧力損失が適度に抑制されている。また、貫通孔43の数が充分確保できるとともに、貫通孔43の形成が容易となる。
【0049】
ターボチャージャ1では、貫通孔43は、ディフューザ通路15において、インペラ13の外縁13aを起点とするインペラ13のバックワード角αに沿う仮想直線L1に対して、起点(外縁13a)からディフューザ通路15の下流側に向かう程、インペラ13の回転方向Rと反対方向に離れるように湾曲した仮想曲線Cに沿って形成されている。
図5に示すように、ディフューザ通路15において、インペラ13から吐出された圧縮空気は、ディフューザ通路15の下流側(吐出スクロール室12側)に進むにつれて、インペラ13のバックワード角αが徐々に小さくなる方向に流れる。すなわち、インペラ13から吐出された圧縮空気は、仮想曲線Cに沿って流れることとなる。したがって、多数の微細な貫通孔43は当該圧縮空気が流れる方向Pに沿って配列していることとなる。これにより、空気タンク部41内の圧縮空気は、貫通孔43を介して、ディフューザ通路15内にスムーズに噴出して、ディフューザ通路15内の圧縮空気が流れる方向Pへスムーズに流れる。その結果、付着防止部4におけるデポジットの付着防止効果が向上する。
【0050】
また、ターボチャージャ1において、吐出スクロール室12によって導かれた圧縮空気を導出するアウトレットポート16よりも下流側の空気流路にバイパス経路50が接続されているとともに、バイパス経路50を介して空気タンク部41に圧縮空気が供給されるように構成されている。これにより、バイパス経路50が接続される部位では、圧縮空気はある程度整流化されているため、オイルミストやデポジットがバイパス経路50に流入することが抑制され、付着防止部4におけるデポジットの付着防止効果の低減を防止できる。
【0051】
また、ターボチャージャ1において、バイパス経路50の吸入口51は、アウトレットポート16よりも下流側の空気流路における圧縮空気の流れる方向P3に開口している。これにより、圧縮空気の流れ方向P3に沿って飛散するオイルミストやデポジットがバイパス経路50に流入するのを防止できる。
【0052】
また、付着防止部4は、ディフューザ面222及び対向面311の双方に設けられている。これにより、ディフューザ面222及び対向面311のいずれにおいてもデポジットの付着を効果的に防ぐことができる。
【0053】
また、付着防止部4は、ディフューザ面222及び対向面311において、周方向全体にわたって環状に設けられている。これにより、ディフューザ通路15におけるデポジットの付着の防止効果が、周方向全体にわたってばらつくことを防ぐことができる。
【0054】
また、付着防止部4は、ディフューザ面222および対向面311において、径方向におけるディフューザ通路15の全長の半分以上の長さ領域に形成されている。これにより、ディフューザ通路15へのデポジットの付着を効果的に防ぐことができる。
【0055】
本例では、付着防止部4は、ディフューザ面222及び対向面311の双方に設けられているが、これに限定されず、付着防止部4を、ディフューザ面222及び対向面311のいずれか一方にのみ設けることとしてもよい。この場合には、付着防止部4を双方に設けることによる作用効果を除いて上述の作用効果を奏する。
【0056】
また、本例では、バイパス経路50は、アウトレットポート16よりも下流の空気流路に接続されているが、これに限定されず、ディフューザ通路15よりも下流側の空気流路に接続されていればよい。例えば、吐出スクロール室12と内燃機関とを接続するインテークマニホルドにバイパス経路を接続して、インテークマニホルドから圧縮空気の一部を空気タンク部41にバイパスするように構成することもできる。
【0057】
(実施例2)
実施例2のターボチャージャ1では、実施例1における金属板からなる表面形成部42に替えて、
図7に示すように、多孔質体からなる表面形成部420を備える。なお、実施例1のターボチャージャ1と同等の構成要素等には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0058】
表面形成部420は、
図7に示すように多数の微細な貫通孔430を有する。表面形成部420において、各貫通孔430の形成方向は不規則となっている。そのため、各貫通孔430は、実施例1の場合の表面形成部42のように所定方向Qに形成されておらず、仮想曲線Cに沿って形成されてもいない。このような貫通孔430を備える表面形成部420においても、圧縮空気がディフューザ通路15をP方向に流れることによって、エジェクタ効果が生じて、
図7において矢印Sで示すように、貫通孔430から空気タンク部41内の圧縮空気が噴出する。これにより、ディフューザ通路15へのデポジットの付着を防ぐことができる。さらに、表面形成部420を多孔質樹脂からなるため、貫通孔430を容易に構成することができ、安価に表面形成部420を形成することができる。
【0059】
なお、実施例1において、貫通孔43が所定方向Qに形成されていること、及び貫通孔43が仮想曲線Cに沿って形成されていることによる作用効果を除いて、本例においても、実施例1の場合と同様の作用効果を奏する。