特許第6031047号(P6031047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031047
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】粘着シートおよび電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/02 20060101AFI20161114BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20161114BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20161114BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20161114BHJP
   H01L 21/67 20060101ALI20161114BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20161114BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C09J7/02 Z
   C09J133/06
   C09J4/00
   H01L21/78 Q
   H01L21/78 M
   H01L21/68 E
   H01L21/68 N
   C09J11/06
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-553251(P2013-553251)
(86)(22)【出願日】2012年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2012083954
(87)【国際公開番号】WO2013105455
(87)【国際公開日】20130718
【審査請求日】2015年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-4493(P2012-4493)
(32)【優先日】2012年1月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 岳史
(72)【発明者】
【氏名】津久井 友也
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−103516(JP,A)
【文献】 特開2009−124135(JP,A)
【文献】 特開平07−033832(JP,A)
【文献】 特開2009−155503(JP,A)
【文献】 特開2003−292910(JP,A)
【文献】 特開2007−224258(JP,A)
【文献】 特開2010−168541(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024174(WO,A1)
【文献】 特開2011−210989(JP,A)
【文献】 特開2010−116474(JP,A)
【文献】 特開2003−277695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 −201/10
H01L 21/301
H01L 21/67
H01L 21/683
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に光硬化型粘着剤層を積層してなる粘着シートであって、該光硬化型粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と光重合性化合物と多官能イソシアネート硬化剤と水酸基を有する光重合開始剤と粘着付与樹脂とを含み、前記粘着付与樹脂が水添率30〜100%である完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂である粘着シート。
【請求項2】
前記完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂が、水酸基価50〜250である請求項1記載の粘着シート。
【請求項3】
前記光硬化型粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部と光重合性化合物5〜200質量部と多官能イソシアネート硬化剤0.5〜20質量部と光重合開始剤0.1〜20質量部と完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂0.5〜100質量部とを含む請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記光硬化型粘着剤は、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体と水酸基を有する光重合開始剤と完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂とが、イソシアネート硬化剤により化学結合している請求項1〜3の何れか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の前記粘着シートを用いた電子部品の製造方法であって、
リングフレームに貼り合わせられた前記粘着シートに半導体ウェハ又は基板を貼り付ける貼付工程と、
前記半導体ウエハ又は前記基板をダイシングして半導体チップ又は半導体部品にするダイシング工程と、
前記粘着シートに活性光線を照射する光照射工程と、
前記半導体チップ又は前記半導体部品同士の間隔を広げるため粘着シートを引き伸ばすエキスパンド工程と、
前記粘着シートから前記半導体チップ又は前記半導体部品をピックアップするピックアップ工程と、を含む電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートおよび該粘着シートを用いた電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ又は基板は、粘着シートを貼合してから、素子小片への切断(ダイシング)、粘着シートの延伸(エキスパンディング)、粘着シートからの素子小片の剥離(ピックアップ)などの各工程へ配される。これらの工程で使用される粘着シート(ダイシングテープ)には、ダイシング工程では切断された素子小片(チップ)に対して充分な粘着力を有しながら、ピックアップ工程時には糊残りのない程度に粘着力が減少していることが望まれる。
【0003】
粘着シートとして、紫外線および/又は電子線などの活性光線に対し透過性を有する基材上に紫外線等により重合硬化反応をする粘着剤層を塗布したものがある。この粘着シートでは、ダイシング工程後に紫外線等を粘着剤層に照射し、粘着剤層を重合硬化させて粘着力を低下させた後、切断されたチップをピックアップする方法がとられる。
【0004】
このような粘着シートとしては、特許文献1および特許文献2には、基材面に例えば活性光線によって三次元網状化しうる、分子内に光重合性不飽和二重結合を有する化合物(多官能性オリゴマー)を含有してなる粘着剤を塗布した粘着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−196956号公報
【特許文献2】特開昭60−223139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体ウエハ又は基板の加工工程のうち、ダイシング工程では切断された素子小片(チップ)が飛散しないために、粘着シートの粘着剤に粘着付与樹脂を含有する場合があるが、活性光線を照射した際に粘着付与樹脂が悪影響し、粘着剤の硬化阻害を引き起こし、ピックアップ工程時に剥離ができなかったり、糊残りが生じる場合があった。さらに、粘着付与樹脂が半導体ウエハ又は基板表面に経時でブリードアウトする場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、ダイシング時にチップが飛散せず、ピックアップが容易にでき、糊残りが生じ難い粘着シートを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、基材に光硬化型粘着剤層を積層してなる粘着シートであって、光硬化型粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と光重合性化合物と多官能イソシアネート硬化剤と光重合開始剤と粘着付与樹脂を含み、粘着付与樹脂が完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂である粘着シートとした。
【0009】
本発明の一態様においては、前記完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂が、水酸基価50〜250である。また、前記完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂が、水添率30〜100%である。
【0010】
また本発明の一態様においては、前記光硬化型粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部と光重合性化合物5〜200質量部と多官能イソシアネート硬化剤0.5〜20質量部と光重合開始剤0.1〜20質量部と完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂0.5〜100質量部とを含む。
【0011】
また本発明の一態様においては、前記光硬化型粘着剤は、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体と水酸基を有する光重合開始剤と完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂とが、イソシアネート硬化剤により化学結合している。
【0012】
さらに、本発明は、請求項1〜5記載の前記粘着シートを用いた電子部品の製造方法であって、リングフレームに貼り合わせられた前記粘着シートに半導体ウェハ又は基板を貼り付ける貼付工程と、前記半導体ウエハ又は前記基板をダイシングして半導体チップ又は半導体部品にするダイシング工程と、前記粘着シートに活性光線を照射する光照射工程と、前記半導体チップ又は前記半導体部品同士の間隔を広げるため粘着シートを引き伸ばすエキスパンド工程と、前記粘着シートから前記半導体チップ又は前記半導体部品をピックアップするピックアップ工程と、を含む電子部品の製造方法をも提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ダイシング時にチップが飛散せず、ピックアップが容易にでき、糊残りが生じ難い粘着シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
1.粘着シート
【0015】
本発明に係る粘着シートは、基材に光硬化型粘着剤層(以下、単に「粘着剤層」とも称する)を積層してなり、光硬化型粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体と光重合性化合物と多官能イソシアネート硬化剤と光重合開始剤と粘着付与樹脂を含み、粘着付与樹脂が完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂であることを特徴とする。
【0016】
(1−1)(メタ)アクリル酸エステル共重合体
(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体のみの重合体、又は、(メタ)アクリル酸エステル単量体とビニル化合物単量体との共重合体である。なお、(メタ)アクリレートとはアクリレートおよびメタアクリレートの総称である。(メタ)アクリル酸等の(メタ)を含む化合物等も同様に、名称中に「メタ」を有する化合物と「メタ」を有さない化合物の総称である。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステルの単量体としては、例えばブチル(メタ)アクリレート、2−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレートおよびエトキシ−n−プロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル単量体に共重合可能なビニル化合物単量体としては、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、メチロール基、スルホン酸基、スルファミン酸基又は(亜)リン酸エステル基といった官能基群の1種以上を有する官能基含有単量体が挙げられる。
【0019】
水酸基を有する単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートがある。
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、アクリルアミドN−グリコール酸およびケイ皮酸がある。
エポキシ基を有する単量体としては、例えば、アリルグリシジルエーテルおよび(メタ)アクリル酸グリシジルエーテルがある。
アミド基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミドがある。
アミノ基を有する単量体としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートがある。
メチロール基を有する単量体としては、例えば、N−メチロールアクリルアミドがある。
このうち、被着体への汚染を防止するため、イソシアネート硬化剤と反応し得る水酸基を有する単量体を含むことが好ましい。
【0020】
(1−2)光重合性化合物
光重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、シアヌル酸トリエチルアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレートなどが用いられる。
【0021】
光重合性化合物として、上記アクリレート系化合物の他に、ウレタンアクリレートオリゴマーを用いることもできる。ウレタンアクリレートオリゴマーは、ポリエステル型又はポリエーテル型などのポリオール化合物と多価イソシアネート化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマに、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られる。
【0022】
多価イソシアネート化合物には、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4−ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが用いらえる。また、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートには、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、グリシドールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートなどが用いられる。
【0023】
光重合性化合物としては、ビニル基を4個以上有するウレタンアクリレートオリゴマーが、紫外線等の照射後の粘着剤の硬化が良好である点で好ましい。
【0024】
光重合性化合物の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して5質量部以上200質量部以下とすることが好ましく、20質量部以上120質量部以下がより好ましい。光重合性化合物の配合量を少なくすると、放射線照射後の粘着シートの剥離性が低下し、半導体チップのピックアップ不良を生じやすくなる。一方、光重合性化合物の配合量を多くすると、ダイシング時の糊の掻き上げによりピックアップ不良が生じ易くなるとともに反応残渣による微小な糊残りが発生し、汚染の原因となる。
【0025】
(1−3)多官能イソシアネート硬化剤
多官能イソシアネート硬化剤には、イソシアネート基を2個以上有するものであり、例えば芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、これらの二量体や三量体、アダクト体などが用いられる。
【0026】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネートおよび1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネートがある。
【0027】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えばトリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネートおよび2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートがある。
【0028】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンおよび1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンがある。
【0029】
二量体や三量体、アダクト体としては、例えばジフェニルメタンジイソシアネートの二量体、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとのアダクト体、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとのアダクト体がある。
【0030】
上述のポリイソシアネートのうち、イソシアネート基を3個以上有するものが好ましく、特にヘキサメチレンジイソシアネートの三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとのアダクト体、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとのアダクト体が好ましい。
【0031】
多官能イソシアネート硬化剤の配合比は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下が好ましく、1.0質量部以上10質量部以下がより好ましい。多官能イソシアネート硬化剤が0.5質量部以上であれば、粘着力が強すぎないので、ピックアップ不良の発生を抑制することができ、さらに水酸基を有する光重合開始剤と完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂との化学結合により、光重合開始剤と完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂が粘着剤表面へのブリードアウトによる汚染を抑制することができ、多官能イソシアネート硬化剤が20質量部以下であれば、粘着力が低下せず、ダイシング時に半導体チップの保持性が維持される。
【0032】
(1−4)光重合開始剤
光重合開始剤には、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類またはキサントン類などが用いられる。
【0033】
ベンゾインとしては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテルなどがある。
アセトフェノン類としては、例えばベンゾインアルキルエーテル類、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−アセトフェノン、2,2―ジエトキシ−2−アセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンなどがある。
アントラキノン類としては、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンなどがある。
チオキサントン類としては、例えば2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどがある。
ケタール類としては、例えばアセトフェノンジメチルケータル、ベンジルジメチルタール、ベンジルジフエニルサルフアイド、テトラメチルチウラムモノサルフアイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノンなどがある。
このうち、被着体への汚染を防止するため、イソシアネート硬化剤と反応し得る水酸基を有する2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(BASFジャパン社製、製品名IRGACURE127)などが好ましい。
【0034】
光重合開始剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下が好ましい。配合量が少な過ぎると、放射線照射後の粘着シートの剥離性が低下し、半導体チップのピックアップ不良を生じやすくなる。一方、配合量が多過ぎると、光重合開始剤が粘着剤表面へブリードアウトし、汚染の原因となる。
【0035】
光重合開始剤には、必要に応じて従来公知の光重合促進剤を1種または2種以上を組合せて併用してもよい。光重合促進剤には、安息香酸系や第三級アミンなどを用いることができる。第三級アミンとしては、トリエチルアミン、テトラエチレンペンタアミン、ジメチルアミノエーテルなどが挙げられる。
【0036】
(1−5)粘着付与樹脂
粘着付与樹脂としては、テルペンフェノール樹脂を完全又は部分水添したテルペンフェノール樹脂が好ましい。
【0037】
テルペンフェノール樹脂は、例えば、テルペン化合物1モルとフェノール類0.1〜50モルを反応させて製造することが出来る。
【0038】
テルペン化合物としては、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、カンフェン、トリシクレン、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等が挙げられる。これらの化合物の中で、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、α−テルピネンが本発明では特に好ましく用いられる。
【0039】
フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0040】
テルペンフェノール樹脂のフェノール類の比率は、25〜50モル%程度であるが、これらに限定はされない。
【0041】
完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂の水酸基価は、50〜250が好ましい。水酸基価が50未満の場合は、イソシアネート系硬化剤との反応が十分ではなく、粘着剤表面へブリードアウトし、汚染の原因となり、250より多いと粘度が上昇し、(メタ)アクリル酸エステル共重合体等との混合ムラが生じ、ピックアップ特性が安定しないためである。
【0042】
水添する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、パラジウム、ルテニウム、ロジウムなどの貴金属またはそれらを活性炭素、活性アルミナ、珪藻土などの坦体上に担持したものを触媒として使用して行う方法が挙げられる。また、水添率は、臭素価測定、ヨウ素価測定等により測定することができる。
【0043】
完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂の水添率は、30%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。30%未満の場合、活性光線の照射による光重合性化合物の反応阻害により粘着力が十分低下せず、ピックアップ性が低下するためである。
【0044】
完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂の配合比は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して0.5質量部以上100質量部以下が好ましく、1.0質量部以上50質量部以下がより好ましい。完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂が0.5質量部以上であれば、粘着力が低すぎないので、ダイシング時に半導体チップの保持性が維持され、100質量部以下であれば、ピックアップ不良の発生を抑制することができる。
【0045】
粘着剤層の厚みは、3μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。粘着剤層が厚過ぎると粘着力が高くなり過ぎ、ピックアップ性が低下する。また、粘着剤層が薄過ぎると粘着力が低くなり過ぎ、ダイシング時のチップ保持性が低下し、リングフレームとシートとの間で剥離が生じる場合がある。
【0046】
粘着剤には、老化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤および光安定剤などの各種添加剤が添加されていてもよい。
【0047】
(2)基材
基材の材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸エステルフィルム、エチレン−エチルアクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、および、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体やエチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を金属イオンで架橋したアイオノマ樹脂などが挙げられる。基材は、これら樹脂の混合物又は共重合体であってよく、これら樹脂からなるフィルムやシートの積層体であってもよい。
【0048】
基材フィルムの素材はアイオノマ樹脂を用いることが好ましい。アイオノマ樹脂の中でも、エチレン単位、メタアクリル酸単位、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を有する共重合体をNa、K、Zn2+等の金属イオンで架橋したアイオノマ樹脂を用いると、切削屑抑制効果が顕著であり、好適に用いられる。
【0049】
基材は、上記材料からなる単層あるいは多層のフィルムあるいはシートであってよく、異なる材料からなるフィルム等を積層したものであってもよい。基材の厚さは50〜200μm、好ましくは70〜150μmである。
【0050】
基材には、帯電防止処理を施すことが好ましい。帯電防止処理としては、基材に帯電防止剤を配合する処理、基材表面に帯電防止剤を塗布する処理、コロナ放電による処理がある。
【0051】
帯電防止剤としては、例えば四級アミン塩単量体などを用いることができる。四級アミン塩単量体としては、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、p−ジメチルアミノスチレン四級塩化物、およびp−ジエチルアミノスチレン四級塩化物が挙げられる。このうち、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩化物が好ましい。
【0052】
2.電子部品の製造方法
本発明に係る電子部品の製造方法の具体的な工程を順に説明する。
【0053】
(2−1)貼付工程
まず、貼付工程において、粘着シートを半導体ウエハ(又は基板)とリングフレームに貼り付ける。ウエハは、シリコンウエハおよびガリウムナイトライドウエハ、炭化ケイ素ウエハ、サファイアウエハなどの従来汎用のウエハであってよい。基板は樹脂でチップを封止したパッケージ基板、LEDパッケージ基板などの汎用の基板であってよい。
【0054】
(2−2)ダイシング工程
ダイシング工程では、シリコンウエハ等をダイシングして半導体チップ又は半導体部品にする。
【0055】
(2−3)光照射工程
光照射工程では、基材側から光硬化型粘着剤層に紫外線等の活性光線を照射する。紫外線の光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプを用いることができる。また、紫外線に替えて電子線を用いてもよく、電子線の光源としてはα線、β線、γ線を用いることができる。
【0056】
光照射により粘着剤層は三次元網状化して硬化し、粘着剤層の粘着力が低下する。この際、上述したように、本発明に係る粘着シートは加温してもウエハ等に過度に密着することがないため、紫外線等の照射により十分な接着力の低下が得られる。
【0057】
(2−4)エキスパンド工程/ピックアップ工程
エキスパンド工程/ピックアップ工程では、半導体チップ又は半導体部品同士の間隔を広げるため粘着シートを引き伸ばし、チップ又は部品をニードルピン等で突き上げる。その後、チップ又は部品を真空コレットまたはエアピンセット等で吸着し、粘着シートの粘着剤層から剥離してピックアップする。この際、本発明に係る粘着シートでは紫外線等の照射により十分な接着力の低下が得られているため、チップ又は部品と粘着剤層との間の剥離が容易となり、良好なピックアップ性が得られ、糊残りなどの不良が生じることもない。
【実施例】
【0058】
<実施例1>
「表1」に示す配合に従って光硬化型粘着剤を調製した。この光硬化型粘着剤をポリエチレンテレフタレート製のセパレーターフィルム上に塗布し、乾燥後の粘着層の厚みが20μmとなるように塗工した。この粘着層を基材フィルムに積層し、40℃で7日間熟成し、粘着シートを得た。
【0059】
基材フィルムには、エチレン−メタアクリル酸−メタアクリル酸アルキルエステル共重合体のZn塩を主体とするアイオノマ樹脂であり、MFR値1.0g/10分(JIS K7210、210℃)、融点86℃、Zn2+イオンを含有するもの(三井・デュポンポリケミカル社製、品番:HM1855)をTダイ押出しにより100μmに成膜したものを用いた。
【0060】
[光硬化型粘着剤]
〔(メタ)アクリル酸エステル共重合体〕
A−1:綜研化学社製SKダイン1496;2−エチルヘキシルアクリレート96%、2−ヒドロキシエチルアクリレート4%の共重合体、溶液重合により得られる。
A−2:日本ゼオン社製アクリルゴムAR53L;エチルアクリレート42%、ブチルアクリレート22%、メトキシエチルアクリレート36%の共重合体、乳化重合により得られる。
【0061】
〔光重合性化合物〕
B−1:根上工業社製UN−905;イソホロンジイソシアネートの三量体にジペタエリスリトールペンタアクリレートを主成分とするアクリレートを反応させたものであり、ビニル基の数が15個。
B−2:新中村化学社製A−TMPT;トリメチロールプロパントリアクリレート、ビニル基の数が3個。
【0062】
〔多官能イソシアネート硬化剤〕
C−1:日本ポリウレタン社製コロネートL−45E;2,4−トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンとのアダクト体。
【0063】
〔光重合開始剤〕
D−1:BASFジャパン社製IRGACURE127;2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン。
D−2:BASFジャパン社製IRGACURE651;ベンジルジメチルケタール。
【0064】
〔粘着付与樹脂〕
α−ピネン(ヤスハラケミカル(株)製α−ピネン、純度95%)1モルとフェノール(関東化学(株)製フェノール、純度99%)0.5モルを反応させ、GPCによる数平均分子量600、重量平均分子量800のテルペンフェノール樹脂を用い、E−1の部分水添されたテルペンフェノール樹脂を得た。
E−1:水酸基価120、水添率75%の自社合成品
以下は、α−ピネンとフェノールのモル比率を変更し反応させた、テルペンフェノール樹脂を用い、完全又は部分水添されたテルペンフェノール樹脂を得た。
E−2:水酸基価5、水添率75%の自社合成品
E−3:水酸基価250、水添率75%の自社合成品
E−4:水酸基価3、水添率75%の自社合成品
E−5:水酸基価300、水添率75%の自社合成品
E−6:水酸基価120、水添率30%の自社合成品
E−7:水酸基価120、水添率20%の自社合成品
E−8:水酸基価120、水添率0%の自社合成品
E−9:水酸基価120、水添率100%の自社合成品
【0065】
得られた粘着シートをダミーの回路パターンを形成した直径8インチ、厚さ0.1mmのシリコンウエハとリングフレームに貼り合わせ、ダイシングした。その後、光照射、エキスパンド、ピックアップの各工程を行った。
【0066】
ダイシング工程の条件は以下の通りとした。
ダイシング装置:DISCO社製DAD341
ダイシングブレード:DISCO社製NBC−ZH205O−27HEEE
ダイシングブレード形状:外径55.56mm、刃幅35μm、内径19.05mm
ダイシングブレード回転数:40,000rpm
ダイシングブレード送り速度:50mm/秒
ダイシングサイズ:10mm角
粘着シートへの切り込み量:40μm
切削水温度:25℃
切削水量:1.0リットル/分
【0067】
光照射工程の条件は以下の通りとした。
紫外線照射:高圧水銀灯で照射量150mJ/cm
【0068】
エキスパンド・ピックアップ工程の条件は以下の通りとした。
ピックアップ装置:キヤノンマシナリー社製CAP−300II
エキスパンド量:8mm
ニードルピン形状:250μmR
ニードルピン数:5本
ニードルピン突き上げ高さ:0.3mm
【0069】
ダイシング工程およびエキスパンド・ピックアップ工程において、以下の評価を行った。
(1)チップ保持性
チップ保持性は、ダイシング工程後において、半導体チップが粘着シートに保持されている半導体チップの残存率に基づき、以下の基準により評価した。
優(◎) :チップ飛びが5%未満
良(○) :チップ飛びが5%以上10%未満
不可(×):チップ飛びが10%以上
【0070】
(2)ピックアップ性
ピックアップ性は、ピックアップ工程において、半導体チップがピックアップできた率に基づき、以下の基準により評価した。
優(◎) :チップのピックアップ成功率が95%以上
良(○) :チップのピックアップ成功率が80%以上95%未満
不可(×):チップのピックアップ成功率が80%未満
【0071】
(3)汚染性
粘着シートをシリコン製ミラーウエハに貼り付けて、20分後に高圧水銀灯で紫外線を150mJ/cm照射した後、粘着シートを剥離した。シリコン製ミラーウエハの貼り付け面上に残留した0.28μm以上の粒子数をパーティクルカウンターにて測定した。
優(◎) :パーティクルが500個未満
良(○) :パーティクルが2000個未満
不可(×):パーティクルが2000個以上
【0072】
【表1】