【実施例】
【0096】
(実施例1:薬物標的化の改善および組織工学物質の改変のための、脂肪酸結合体による生分解性ポリエステルの表面改変)
(材料)
固有の粘度0.59dL/gを有するPLGA(lot D02022)を、Birmingham Polymers,Inc.から得た。ポリビニルアルコール(M
W平均値30〜70Kd)、パルミチン酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS−パルミチン酸塩)、卵白由来のアビジン(アフィニティ精製された)およびビオチン−B−フィコエリトリン、アガロース上で固定化されたビオチンを、全てSigma Chemical Co.から取得した。クロマトグラフィー等級の塩化メチレンおよびトリフルオロエタノールを、Fischer Chemicalsから得た。全ての他の試薬は、試薬等級であり、得たものをそのまま使用した。
【0097】
(アビジン−パルミチン酸結合体の調製)
2%デオキシコール酸塩緩衝液を含むPBS中で、10mg/mlのアビジンと10倍の過剰量のNHS−パルミチン酸とを反応させた。この混合物を、軽く超音波処理し、そして37℃で12時間、穏やかに混合させた。過剰な脂肪酸と加水分解されたエステルとを除去するために、反応物を、0.15%デオキシコール酸塩を含むPBSに対して透析した。移動相としてのPBSによる線形メタノール勾配を使用するPrevail(登録商標)C18カラムによる逆相HPLCおよび280nmにおけるUV検出によって、生じたアビジン−パルミチン酸塩結合体を確かめた。
【0098】
(表面改変および特徴づけ)
改変された水中油中水(W/O/W)エマルジョン方法を、脂肪酸PLGA粒子の調製のために使用した。第一のエマルジョンにおいて、100μLのPBS中の蛍光ウシ血清アルブミン(BSA−FITC)を、塩化メチレンおよびトリフルオロエタノール(4:1)%V/Vに溶解させた、ボルテックス中のPLGA溶液(5ml)に滴下した。この第一のエマルジョン(W/O)を、調べたアビジン−パルミチン酸の種々の濃度を含む200mlの5%PVAに急速に添加した。この外相を、一定の室温で4時間、激しく攪拌し、塩化メチレンとトリフルオロエタノールとをエバポレートさせた。次に、生じたエマルジョンを、12,000gで15分間、遠心分離により精製し、続いて、DI水で3回洗浄した。この研究において、この後に、粒子の濾過も分類も行わなかった。粒子を凍結乾燥させ、それから−20℃で保存した。サンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)により特徴付けた。サンプルを、アルゴン雰囲気中、陰圧下で40mAのスパッタ電流を使用して、金でスパッタコーティングした(Dynavac Mini Coater、Dynavac USA)。SEM分析を、5〜10kVの加速電圧によるLaB電子銃を使用するPhilips XL30 SEMによって実行した。
【0099】
(表面密度および官能性特異性)
2−ヒドロキシアゾベンゼン−4’−カルボン酸(HABA)による比色アッセイを使用して、PLGA粒子上の表面アビジン基の密度を定量化した。HABAはアビジンに結合し、500nmで吸する黄橙に呈色される複合体を生成する。まず、溶液中のアビジンとHABA吸収との間の線形相関を、500nmでの吸光度を測定することにより取得した。続いて、この標準化された相関を使用して、表面アビジン基の密度を定量化した。このアッセイにおいて、乾燥粒子のうちの3mgのアリコートを、1mlの10mM HABA(10mM NaOH中の24.2mg HABA)中に懸濁した。ビオチン−フィコエリトリン(ビオチン−PE)(赤色蛍光タンパク質(PE)のビオチン結合体(240kD))を使用して、表面官能性をモニタリングした。回転振盪機上で、PBS中の示された量のビオチン−PEを、10mgの未処理の粒子および10mgの表面改変された粒子に添加した。これらの溶液を、15分間インキュベートし、それから遠心分離(10分間/11,000g)し、そしてDI水で3回洗浄した。粒子の蛍光を、フローサイトメトリーにより測定した。
【0100】
(動的条件(dynamic condition)下での標的に対する親和性)
ビオチン化アガロースビーズ(2mlの4%架橋されたアガロース)を、フリット状(fritted)ガラス製カラムに入れ、未処理粒子または改変粒子の添加前に静置させた。ベッド(bed)を軽く超音波処理し、捕捉されていた気泡を除いた。PBSでの溶出の前に、PBS中に懸濁した粒子を、この充填物の頂部に穏やかに加え、充填されたベッド中に静置させた。ベッドに添加した粒子の体積は、充填されたベッドの体積の10分の1を超えなかった。続いて、カラムを、緩衝液で注意深く満たし、そして緩衝液の一定した流れ(0.2ml/分)を、Jascoポンプにより維持した。画分を、0.5ml毎にポリスチレンUVキュベットに集め、サンプルの濁度を、600nmでのUV分光測定により分析した。混合物の濁度は、カラムからの粒子の溶出の指標であった。改変粒子については、濁度が下がった場合に、6Mグアニジン塩酸塩をカラムに添加し、記載されるように、画分を集めた。
【0101】
(表面安定性およびBSA放出の速度論)
カプセル化BSA−FITCおよび表面結合ビオチン−PEの放出を、37℃においてリン酸緩衝化生理食塩水中で行った。示される時点において、サンプルを11,000gで10分間遠心分離し、サンプルの1mlの上清を除去し、37℃で事前にインキュベートした新しい緩衝液と置き換えた。FITC含量およびPE含量を、蛍光により測定した(BSA−FITCについて(λ
励起=480、λ
放出=520)およびビオチン−PEについて(λ
励起=529、λ
放出=576))。示される時点におけるBSA−FITCの量またはビオチン−PEの量を、粒子の同一のストック10mg中の両方のタンパク質の総含量で割ることにより、放出されたタンパク質の画分を計算した。10mgの粒子を1N NaOH中に一晩溶解させることにより、BSA−FITCの総含量を測定した。1N NaOH中でBSA−FITCを滴定することにより、標準を調製した。ビオチン−PEは、粒子の表面に局在していたので、粒子のアリコート(5mg)の赤色の蛍光を、溶解させる必要なく直接測定した。
【0102】
(PLGAの足場の表面改変)
PLGA50/50足場を、塩浸出方法(25)により調製した。PLGAを、塩化メチレン中に溶解させた(500μl中、10mg)。塩化ナトリウム粒子(100mg、平均直径100<d<250を有する)を、円形PVDF容器(Cole Parmer #H−08936−00)に撒き、続いてPLGA溶液を添加した。溶媒の蒸発後(室温で24時間)、足場を、DI水で3日間、徹底的に洗浄した。足場を凍結乾燥させ、以後の使用のために−20℃で保存した。アビジン−パルミチン酸の取り込みは単純な析出手順であった。100μlの一滴を、乾燥足場の頂部に局部的に置き、RTで15分間浸漬させ、続いて1×PBS+1%BSAで5回洗浄した。表面染色のために、足場全体を、室温で10分間、ビオチン−PE溶液中でインキュベートし、続いてDI水で二回目の洗浄を行った。
【0103】
(結果および考察)
(アビジンのパルミトイル化)
パルミチン酸によりタンパク質を改変するための全体的なスキームを、
図1Aに示す。NHS−パルミチン酸を、10倍過剰なモル濃度でアビジンに添加し、2%デオキシコール酸塩界面活性剤の存在下で反応させる。NHSエステルは、アビジンのアミン基と反応して、安定なアミド結合を生成し、タンパク質を疎水性にする。反応工程および精製工程の両方は、パルミチン酸塩のベシクル形成を防止するために界面活性剤の存在下であった(Huang J Biol Chem 1980;255(17):8015〜8)。緩衝液単独により単一の均一なピークとして溶出される遊離のアビジンと比較して、アビジン−パルミチン酸は、ある程度の凝集を示し、メタノールにより移動相に溶出された。このことは、結合体の疎水性の増大を反映する。移動相中のメタノールのより高い濃度において、発明者らは、カラムとの結合体の結合が種々の程度であることを示す数個の溶出ピークを観察した。可能性のある説明は、NHS−パルミチン酸が、結合体化のために、タンパク質の個々のリジン残基およびアミノ末端を標的化するということである。この結合体化は、疎水性固定相と別々に結合するパルミトイル化アビジンの不均一な集団を生じ得るプロセスである。
【0104】
(粒子の形態学に与える表面改変の影響)
未処理のアビジン粒子およびパルミトイル化アビジン粒子の両方が、不均一なサイズ分布を示した。未処理粒子および表面改変粒子の平均直径は、4μm〜7μmの範囲であった。したがって、この研究で使用されるエマルジョン中、そしてこの研究で使用される濃度でのアビジン−パルミチン酸塩の存在は、粒子のサイズ分布に有意な影響を与えなかった。驚くべきことに、エマルジョン中で結合体により調製された微粒子は、SEMにより特有なきめおよび表面の粗さを示した。この特徴は、エマルジョン中のアビジン−パルミチン酸の濃度とともに変動した。これらの画像は、ベシクルまたはラメラの形態でのパルミチン酸が、粒子の形成中にPLGAの表面上に広がることを示す。表面の拡散は、最終的なエマルジョン中、および粒子の形成中での、機械的分散または溶媒の存在(溶媒の蒸発工程の間の塩化メチレンおよびトリフルオロエタノール)または低濃度の界面活性剤の存在(0.15%デオキシコール酸塩)により促進される。
【0105】
脂質または他の両親媒性の共安定剤(co−stablizer)の添加に際して、PLGAの表面形態学において観察された特有の変化は、以前に類似の系で観察された。例えば、1,2−ジパルミトイルホスファチジコリン(dipalmitoylphosphatidycholine)(DPPC)を使用して、PLGAエマルジョンを安定化させた場合、X線光電子分光法により、表面化学において有意な変化を観察した(Evoraら、J Control Release 1998;51(2−3):143−52)。本研究は、この観察と一致し、PVAの高い表面エネルギーとは対照的に、脂質(DPPC)またはパルミチン酸の低い表面エネルギーがPLGAの表面化学を支配し、観察された形態学的変化に寄与するという事実を支持する。しかしながら、本研究は、これらの変化がまた、タンパク質へのカップリングのための表面官能基の提示を促進し得ることを明らかにする。
【0106】
(PLGA粒子上のアビジン−パルミチン酸の表面密度および官能性)
500nmにおけるHABAの吸光度の上昇は、溶液中のアビジンの存在と関連する。この関連性を使用して、PLGA粒子上の表面アビジン基の密度を確認および定量化した(表1)。エマルジョン中のPLGA1mgあたり、0.25mgの結合体に、表面密度の明らかな最大値を観察した。粒子へのアビジン−パルミチン酸塩取り込みの効率は14%〜24%の範囲であり、エマルジョン中のより低い濃度のアビジン−パルミチン酸塩において、より高い効率の取り込みを観察した。それゆえ、明らかな最大値の存在は、より高い濃度において、脂肪酸が凝集する天然の傾向を反映し得る(PLGA相に形成される脂肪酸の分配を制限する)。
【0107】
標的ビオチン化リガンドに対する、取り込まれたアビジンの官能性および特異性を確かめるために、未処理粒子およびビオチン−PEで処理された改変粒子の蛍光を、フローサイトメトリーにより比較した。表面改変粒子の平均チャネル蛍光は、コントロールの微粒子よりもおよそ3桁大きい大きさであった。この官能特異性をまた、蛍光顕微鏡検査により定性的に確かめた。蛍光画像は、結合体が局在し得る粒子上の局所的な高密度の結合領域を示す、より明るい蛍光の領域を示した。
【0108】
処理粒子の表面上の分子叢生(molecular crowding)の程度を決定するために、ビオチン−PEを、種々の濃度のアビジン−パルミチン酸により調製された微粒子に滴定した(
図2)。増加量(0、0.025wt/v、0.05wt/v、0.15wt/v、0.25wt/v)の結合体により改変された表面は、より高い平均チャネル蛍光(MCF)により反映されるように、より多くのビオチン化フルオロフォアを結合した。粒子に添加されたより高い濃度のビオチン−PEにより、PEの自己クエンチングを観察した。フルオロフォアの濃度の増加に伴いMCFのわずかな減少をもたらす自己クエンチングは、局所的な領域において50Å〜100Åで近接するフルオロフォアの「叢生(crowding)」により生じ(Lakowicz JR.Principles of Fluorescence Spectroscopy.New York:Plenum Press;1986)、粒子の表面における分子叢生および高密度のビオチン−PEの指標である。
【0109】
(動的条件下での表面改変微粒子の機能性アビディティ)
生理的環境において、注射された粒子は、ほとんど静的なままではないが、流れに起因して剪断を受け、そして細胞および組織に遭遇する。これらの環境において、表面活性粒子の機能に重要な点は、表面活性粒子がそれらの標的に結合する能力である(Hammerら、Annu.Rev.Mater.Res.2001;31:387−40)。動的条件下での機能性アビディティを評価するために、未処理微粒子および表面改変微粒子を、ビオチン化アガロースビーズで充填したカラムに注入し、続いて生理食塩緩衝液で溶出した。未処理微粒子を、PBSによりカラムから迅速に溶出したが、改変微粒子は、目に見えて充填物に付着し、充填物を物理的に乱す高い流速の緩衝液によっても溶出しなかった。改変粒子の溶出には、6Mグアニジン塩酸塩(GuHCl)(ビオチン−アビジン結合を破壊することが公知である強力なタンパク質変性剤)の添加を必要とした。質量収支は、緩衝液での溶出後に1%wt〜3%wtの未処理微粒子がカラム充填物に非特異的に付着していたが、GuHCl溶出前に表面改変粒子のうちの80%−90%がカラムに結合したままであったことを示した。
【0110】
(BSAのカプセル化効率に対する表面改変の効果)
ストラテジーは、エマルジョン段階での粒子の同時カプセル化および表面改変を包含しため、アビジン−パルミチン酸の添加は、BSAのカプセル化効率に影響し得た。したがって、エマルジョン中の種々の濃度のアビジン−パルミチン酸塩で改変されたPLGA粒子中にカプセル化されるBSAの量を測定した(表2)。
【0111】
【表2】
結果は、微粒子のパルミトイル化が、濃度依存的な様式でBSAのカプセル化を増強したことを示した。0.25(wt/vol)アビジン−パルミチン酸塩で改変された粒子のカプセル化効率は、未改変粒子よりも4(fthe)倍高かった。エマルジョン中のより高い濃度のアビジン−パルミチン酸塩により、粒子の収量における増加があった(表2)。他でも、PLGAエマルジョンへのPEG化ビタミンEまたは脂質DPPCの添加によるカプセル化効率および粒子の収量に対する類似の効果が見出されている(Muら、J Control Release 2003;86(1):33−48;Muら、J Control Release 2002;80(1−3):129−44)。この一般的な効果についての可能性のある機構は、PLGA粒子形成およびカプセル化効率の増大を促進する共安定化性(co−stabilizing)両親媒性分子(例えば、脂肪酸または脂質)の存在に起因する、疎水性の安定化の増加に関連し得る。(Thomas inら、J Pharm Sci 1998;87(3):259−68)。
【0112】
(BSA放出の速度論およびアビジン−パルミチン酸塩層の安定性)
図3は、37℃、25日間の制御放出実験の期間にわたっての、未処理微粒子および表面改変微粒子の放出プロフィールを示す。未処理粒子および改変粒子の両方は、酷似したBSA放出速度論を有した(最初の24時間の間にイニシャル放出バーストがあり、その後、緩やかな放出が続き、そしてバルク侵食段階(12日目)が表面改変粒子および未改変粒子についてほぼ同時に生じた)。PE蛍光は、上清においてほとんど無視できた。遠心分離された粒子は、実験の全時間経過の間、目に見えて、明るい赤色を呈した。この時間の期間をわたって、10%未満のPE蛍光の累積的な損失を検出し、この実験の時間を通しての安定な表面官能性を示した。
【0113】
SEMを使用して、21日後の未処理粒子および改変粒子の両方の形態学を調べた。驚くべきことに、未処理微粒子は、終点において実質的な形態学的変化を示したが、改変粒子は、比較的球状の形態であった。SEMにより、より劇的ではない形態学的変化を示したことに加えて、調べた大半の微粒子において、異なるキャッピング層を観察した。これらの実験の時間経過にわたる持続的な結合アビディティと合わせて、表面改変に関連する異なる表面トポロジーゆえに、侵食された改変微粒子で観察されたさらなる表面層が、球体の分解の間のアビジン−パルミチン酸基の表面再配列および再構築に起因し得ることを仮定した。
【0114】
制御放出の間の、形態学における変化の大幅な減少および標的化する基の再構築の可能性と合わせて、表面活性(>90%)が数週間持続したという事実は、パルミトイル化アビジン表面の顕著な堅牢性および弾力性を示唆する。観察から鑑みて、これは、表面がポリマーの加水分解に起因して酸性の微気候(microclimate)を経験する可能性がある(Maderら、Pharm Res 1998;15(5):787−93;Brunnerら、Pharm Res 1999;16(6):847−53;Shenderovaら、Pharm Res 1999;16(2):241−8)。
【0115】
(PLGA足場の表面改変)
PLGA粒子の表面改変へのアプローチを、組織工学適用のための合成マトリクスを改変するための有効なストラテジーに変えた。ビオチン−PEとともにインキュベートした場合、局部的にアビジン−パルミチン酸により処理した足場は明るい赤色の蛍光を呈し、処理した領域のみに表面官能性を示した。さらに、これらの足場は、37℃、PBS中において3週間後に、依然としてその赤色を維持していた。このアプローチは単純であり、かつ組織の首尾よい増殖のための以下の3つの重要な局面を促進する:1)選択的な細胞の付着に対して、マトリクスが確実かつ容易に官能性になる能力、2)種々のリガンドを付着する点に関しての柔軟性、および3)マトリクス上に付着した細胞の長期間の増殖および分化のための、リガンドの持続的な提示。
【0116】
PLGAの表面改変のためのストラテジーは、PLGA粒子のエマルジョンの調製の間に、目的のリガンド(アビジン)に結合した機能的に活性な両親媒性脂肪酸(パルミチン酸)を導入することによる。このストラテジーはまた、組織工学適用のためのPLGA足場の局所的改変に変換された。この系の一般性およびその適応性に起因して、異なるリガンドがパルミチン酸に付着され得、種々のリガンドによる表面改変を促進し得、そしてインビボでの粒子の標的化またはクリアランスを改善し得る。例えば、同一の粒子に取り込まれたパルミトイル化PEGとパルミトイル化アビジンとの併用は、インビボ適用のための長い循環半減期と長期間の標的化薬物送達とを組み合わせる理想的なビヒクルとして役立ち得る。さらに、PLGA足場上の局所的な改変ならびにリガンドの密度および型の調整の容易さの組み合わせは、種々の適用(例えば、数種の細胞型からなる機能性組織の同時培養(co−culture)および増殖)のための異なる細胞型の比を調整する強力なストラテジーに寄与する(Quirkら、Biotech.Bioeng.2003;81(5):625−628)。
【0117】
(実施例2:タンパク質の送達のための、LPSによる非特異的な標的化)
リポ多糖類(LPS)はグラム陰性細菌の主要な外膜成分を代表し、重篤なグラム陰性感染の間に重要な役割を果たす。LPSは、TOLL様レセプター4により認識され、これは、先天免疫(非特異的な免疫)と関連するTOLLレセプターに標的化するPAMPS(病原体関連分子パターン)と称されるリガンドのクラスのうちの一つである。これらは、ワクチン接種のための抗原に対する先天免疫の応答を初回刺激するのに役立つアジュバントの非常に有効な成分である。結果として、これらは、アジュバント(例えば、活発な免疫応答を刺激する完全フロイントアジュバント)の重要な成分である。LPSは、ペンダント脂肪酸を有する多糖類バックボーンである。
【0118】
(A.皮下投与によるワクチン接種)
この特定の適用において、オボアルブミン抗原をカプセル化し、そしてマウスを、LPSで改変した粒子を使用して、皮下投与によりワクチン接種する。そして結果を、同一の抗原をカプセル化した未改変粒子によりワクチン接種したマウスと比較する。
【0119】
改変LPS粒子は、オボアルブミン抗原に対する強力な応答を誘導する一方で、未改変粒子は、非常に弱い応答を示した。またブランクの粒子は、応答を誘導しなかった。
【0120】
(方法および材料)
LPSを、微粒子の形成中、好ましくはエマルジョンの形成中に、200mgのポリマーあたり1mg〜10mgのLPSの比で添加する。オボアルブミンのカプセル化は、エマルジョンの形成中、200mgのポリマーあたり100μg〜10mgである。
【0121】
マウスを、LPS/OVA粒子、LPSを含まないOVA粒子およびブランクの粒子により皮下でワクチン接種した。3日後、マウスを屠殺し、脾細胞を単離した。脾細胞を、免疫応答について調べるために、インビトロでOVA抗原により刺激した。首尾よいワクチン接種を行った場合、脾細胞は、用量依存的な様式でOVA抗原に応答し得る。ワクチン接種を行わなかった場合、脾細胞は、応答し得ない。
【0122】
(結果)
図4Aおよび4Bは、オボアルブミンをカプセル化したLPS標的化微粒子(黒塗りの円)またはコントロールの微粒子(オボアルブミンを含まない(黒塗りのひし形)、LPSに標的化しない(白抜きの円))の皮下投与により、ワクチン接種したマウス由来の脾細胞の刺激のグラフである。
図4Aは、ワクチン接種したマウス由来の脾細胞の刺激であり、
図4Bは、オボアルブミン抗原の非存在下でワクチン接種したマウスの刺激である。
【0123】
(B.経口ワクチン接種)
粒子を飢餓マウスにおいて経口栄養法(oral gavage)により経口投与した場合に、同様な結果を得た。単回用量の粒子を飢餓マウスに給餌して2週間後に、良好な免疫化応答を観察した。ブースター投与を与えなかった。結果を、
図5Aおよび5Bに示す。
図5Aおよび5Bは、オボアルブミンをカプセル化したLPS標的化微粒子(黒塗りの円)またはコントロール(リン酸緩衝化生理食塩水(黒塗りの四角)、LPSに標的化しない(白抜きの円))の経口投与により、ワクチン接種したマウス由来の脾細胞の刺激のグラフである。
図5Aは、ワクチン接種したマウス由来の脾細胞の刺激であり、
図5Bは、オボアルブミン抗原の非存在下でワクチン接種したマウスの刺激である。
【0124】
(実施例3:星型PEGリンカーまたは分枝PEGリンカーの使用による微粒子の標的化の増大)
高密度の免疫調節性薬物をカプセル化する高分子キャリアへのT細胞抗原の単純な付着を促進する有効な方法を、開発した。抗原提示薬物キャリアを、無毒性、多分枝のポリエチレングリコール/ポリアミドアミン(PEG/PAMAM)樹状ビヒクルから構築した。T細胞抗原を、このビヒクルの分枝に係留した一方、薬物を、コアPAMAM(薬物の「ナノレザバ(nanoreservoir)」として作用する)中に効率的にカプセル化した。特定のT細胞集団に対する抗体および主要組織適合リガンドによるT細胞応答を調節することにおける、これらのビヒクルの効力を実証した。抗有糸分裂薬(ドキソルビシン)をカプセル化する抗原提示キャリアは、遊離の抗原よりも10倍〜100倍大きいアビディティで、その標的T細胞に結合し、一貫してT細胞応答をダウンレギュレートした。その一方で、薬物を含まない構築物は、この標的集団に強力な刺激を誘発した。提示される抗原の性質および密度ならびに薬物取り込みにわたる適応性に起因して、これらの高アビディティの人工抗原提示ビヒクルは、強力な免疫刺激手段または免疫抑制手段としての二重の役割で、臨床上の広範な使用を有する。
【0125】
T細胞免疫応答を定義付ける特徴は、その抗原の精巧な特異的な認識である。T細胞におけるこの特異的な認識は、クローン的に分布したT細胞レセプター(TCR)と抗原提示細胞上のリガンドとの相互作用により支配され、このリガンドは、内在化したタンパク質抗原に由来する短いペプチドからなり、主要組織適合(MHC)クラスI分子またはクラスII分子に結合する。ウイルスにより感染されたか、形質転換されたか、またはその他の方法により変更された細胞の認識の欠如あるいは自己抗原の誤認識は、悪性疾患および自己免疫疾患の病因を媒介し得る。したがって、T細胞レセプター複合体は、これらの疾患状態を調節するための重要な標的である。
【0126】
抗原特異的T細胞応答の強度と範囲(breadth)とを追跡する能力は疾患の診断に明らかに有用であるが、この応答を標的化し、そしてそれを調節するさらなる能力は、免疫系の欠陥を修復し、免疫能力を回復させるために使用され得る。抗原特異的応答を調節するための一つのアプローチは、抗原特異的T細胞に対する抗体またはペプチド/主要組織適合リガンド(ペプチド/MHC)の制御用量への曝露による抗原特異的T細胞の不応答またはアネルギーの誘導を包含する。第二のアプローチは、標的T細胞への直接送達のための免疫抑制薬物へのこれらの試薬の結合体化を包含する。しかしながら、キャリア抗原への薬物の結合体化は、有効な薬物送達を達成することと合わせて妨害されない抗原提示を達成するために、間接的かつしばしば困難な化学反応を必要とする。さらに、大半の抗原特異的T細胞の部分集合は通常少数で循環するという事実と合わせて、低親和性のペプチド/MHC−TCR(1μm〜100μm)は、抗原特異的T細胞への持続性の相互作用のための可溶性ペプチド/MHCモノマーの使用を妨げる。したがって、ペプチド/MHCの多量体化が、標的T細胞に対する親和性の増大のために、しばしば必要とされる。T細胞の標的化は、増大したアビディティで、かつ有意により低い解離速度でT細胞に結合することを可能にする、複数のT細胞抗原を含む構築物の使用により改善され得ることが仮定された。そのような構築物が薬物分子を負荷するさらなる能力とともに作製され得る場合、それらは、抗原特異的T細胞への薬物送達に必要な相互作用を持続する魅力的な試薬であり得る。
【0127】
可溶性多価分子を、高密度の薬物を細胞標的に送達する技術と組み合わせ、それにより、高アビディティ相互作用とT細胞の部分集合への標的化薬物送達とを組み合わせる、多用途の、生理的に適合性の多官能性システムを得た。高容量薬物キャリアとして機能する「ナノレザバ」ポリ(アミドアミン)球状コア(PAMAM)へ、ポリ(エチレングリコール)鎖(PEG)を連結することにより、堅牢な無毒性抗原提示キャリアを作製した。ドキソルビシンを、PAMAMコア中に効率的にカプセル化した(構築物1molあたり、32molのドキソルビシン)。ビオチン化抗体またはビオチン化MHCを、ストレプトアビジンリンカー(これは、PEGに共有結合している)を介してPEG鎖に非共有結合的に結合させた。構築物1つあたり、およそ13個のストレプトアビジン分子を結合させた。構築物は、T細胞に特異的であり、かつ増大したアビディティ(遊離の抗体またはペプチド/MHCキメラよりも10倍〜100倍高いアビディティ)でT細胞に結合する。この複合体は小さく(20nm〜50nmの範囲の流体力学的直径を有する)、有効な内在化および同時の蛍光検出を可能にする。ドキソルビシンを負荷させた構築物をカップリングさせたT細胞特異的抗体(抗CD3ε)によるインビトロ実験は、刺激の存在にもかかわらず、増殖の強力な阻害を明らかにした。ペプチド−特異的MHCによる実験は、同様にT細胞のIL−2応答の顕著な調節および終点増殖を明らかにした。
【0128】
(方法および材料)
マウス:Balb/Cマウス(6週齢〜8週齢)を、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME)から取得した。2C TCRトランスジェニックマウス交配ペアは、Dr.Fadi Lakkis(Yale University School of Medicine)から好意的に提供された。動物施設内で、C57BL6バックグラウンドで交配することにより、2Cマウスをヘテロ接合性として維持した。表現型を、クローン型1B2抗体(Dr.Jonathan Schneck(Johns Hopkins School of Medicine)により提供された)により試験した。
【0129】
細胞:使用した全ての細胞を、ホモジェナイズしたナイーブなマウス脾臓から、低張性溶解によるRBCの除去後に取得した。CD8+細胞を、CD8+T細胞サブセット富化カラム(R&D systems)を使用した2C脾細胞からのネガティブセレクションにより単離した。純度>95%を、慣用的に得た。
【0130】
PEG/PAMAM:メタノール中の10wt% PAMAM Generation 6(Aldrich)を、窒素の穏やかな流れ下でエバポレートさせ、そしてさらなる操作の前に、高真空下に一晩置いた。蛍光標識された構築物を調製するために、0.2Mホウ酸塩緩衝液pH 8.0中で、24倍過剰なモル濃度のBoc−NH−PEG3400−NHSと6倍過剰なモル濃度のフルオレセイン−PEG5000−NHS(Nektar Pharmaceuticals、Huntsville AL)とをPAMAMに添加した。未標識の構築物のために、30倍過剰なモル濃度のPEG3400を使用した。混合物を穏やかにボルテックスし、回転振盪機上に24時間置いた。透析緩衝液としてホウ酸塩を使用する10,000MWCO Slide−a−Lyser(Pierce Chemical,Rockford IL)による透析によって、未反応のPEGを除去した。tBoc保護基を除去するために、複合体を48時間凍結乾燥させ、一定に攪拌しながら、室温で30分間、トリフルオロ酢酸中で再溶解させた。トリフルオロ酢酸を、真空下で1時間、除去した。残った産物をホウ酸塩緩衝液中に溶解させ、次に水中で透析した。最終的なPEG/PAMAM複合体をもう一度凍結乾燥させ、−20℃で保存した。これらの複合体の性質決定は、先の報告
12に詳細に考察されている。
【0131】
ストレプトアビジン−PEG/PAMAM:ストレプトアビジン(Sigma)を、0.1M MES、0.5M NaCl緩衝液pH 5.1中に1mg/mlで溶解させることにより、アミンカップリングのために活性化させた。カップリングのための活性エステル官能基を形成するために、NHSおよびEDC(Pierce Chemical Co.)を、それぞれ5mMおよび2mMの濃度で添加し、そして室温で15分間反応させた。未反応のEDCを、終濃度20mMの2−メルカプトエタノールによりクエンチした。PEG/PAMAMへのアミンカップリングのために、100倍過剰なモル濃度の活性化ストレプトアビジンを、PEG/PAMAMに添加し、室温で2時間反応させた。200K MWCO CEエステルメンブレン(Spectrum Laboratories,Rancho Domingeuz CA)による広範な透析によって、過剰な反応物および結合体化されなかったストレプトアビジンを除去した。複合体の均質性を、移動相として30%アセトニトリルを使用する逆相HPLCによって評価した。
【0132】
動的光散乱:サイズを、動的光散乱(DLS)により測定した。装置は、532nmで作動するダイオードポンピング(pumped)レーザー(Verdi V−2/V−5,Coherent)、二重濾過された(0.1mm)トルエンで満たされた屈折率適合バットを使用するALV−SP S/N 30角度計(ALV−GmbH,Langen,Germany)およびALV−500相関器(correlator)から構成された。低濃度の構築物(<5μg/mL)を、きれいなホウケイ酸塩培養チューブにピペットで入れ、その後、90°散乱角度での自己相関関数の強度を測定した。流体力学的半径(RH)を、結果の二次キュムラント(cumulant)の非線形最小2乗フィッティング(ALV software)により決定した。
【0133】
抗体およびMHCのカップリング:ビオチン化抗体(ビオチン結合体化ハムスター抗マウスCD3εおよびビオチン結合体化ラット抗マウスCD45R/B220)(BD Biosciences Pharmingen)を、さらなる精製を行わずに使用した。可溶性MHC−IgダイマーL
d−Igは、Dr.Jonathan Schneck(Johns Hopkins School of Medicine)により提供された。MHCモノマーを、MHC−Igのパパイン処理により、結合実験に使用した同一のダイマーストックから調製し、そして記載されるように精製した(Pierce Immunopure Fab調製キット)。パパイン処理によるMHC−Ig Fabフラグメントの調製により、機能的に活性なタンパク質を得、これはバイオセンサー(Biacore)の表面に固定化したTCRに特異的に結合した(データは示していない)。MHC L
dモノマーおよびMHC L
dダイマーを、pH7.4において、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)(Molecular probes)により蛍光標識し、サイズ排除クロマトグラフィーにより精製した。タンパク質濃度を、280nmでの吸光度を測定する分光測定法により決定した。穏やかな酸性条件(pH6.5)下で剥離させ、そして40倍過剰なモル濃度のペプチドおよび2倍過剰なモル濃度のb2−ミクログロブリンの存在下で再折りたたみすることにより、L
dモノマーおよびL
dダイマーの両方にペプチドを負荷させた。高次構造感受性ELISAを使用して、85%を超えるL
dモノマーが適切に折りたたまれたことが推定された。ビオチン化抗体またはL
dモノマーを、50倍過剰なモル濃度でストレプトアビジン−カップリングPEG/PAMAMに添加し、4℃で一晩インキュベートし、その後、300K MWCO CEメンブレン(Spectrum Laboratories)により透析した。
【0134】
PEG/PAMAM構築物のドキソルビシン負荷:ドキソルビシンを、2.5mg/mlの終濃度で水に溶解させ、100nMの終濃度でpH7.4のPBS中のPEG/PAMAM構築物に添加した。この溶液を、37℃で2時間、続いて4℃で24時間、穏やかに混合し、その後、7000 MWCOメンブレン(Pierce Chemical)により透析を行った。カプセル化効率を、488nmの励起による570nmでの蛍光放出により評価した。負荷したドキソルビシンの量を、ドキソルビシン較正標準から推定した。PEG/PAMAM構築物の存在下でのドキソルビシンの蛍光の増大の強さを評価するために、水中で2.5mg/mlのドキソルビシンを、PEG/PAMAM構築物存在下または非存在下で、蛍光計キュベット中0.1μL体積で滴定した。488nmでの励起による差スペクトルを、500nm〜600nmの範囲で集めた。
【0135】
インビトロ増殖アッセイ:細胞を、完全培地中で1×10
7細胞/mlの濃度に調整した。確立されたプロトコールにしたがって、プレートを種々の濃度の抗CD3ε抗体によりコーティングした。1ウェルあたり2×10
5細胞をプレートした。細胞を、ドキソルビシンを負荷した複合体20nMまたはドキソルビシンを負荷させない複合体20nMのいずれかで処理し、37℃、5%CO
2でインキュベートした。IL−2産生の速度論を分析するために、示される時点での上清を集め、製造者(BD Biosciences、San Diego、CA)の説明書にしたがって、IL−2についてのELISAにより分析した。3日目、T細胞の増殖を、製造者(Roche Diagnostics
GmbH、Pennsburg、Germany)の説明書にしたがって、細胞増殖および生存度の定量化についての比色アッセイ(WST−1)により分析した。
【0136】
T細胞結合アッセイ:1×10
5細胞を、種々の濃度の試薬(上で検討した構築物)とともに、平衡結合が達成されるまでインキュベートした(2時間、4℃)。細胞を、1%ウシ胎仔血清と0.1%アジ化ナトリウムを含むPBSで3回洗浄し、そしてフローサイトメトリーにより分析した。平均チャネル蛍光(MCF)は、結合した試薬の量の尺度であった。特異的な結合を、最大平均チャネル蛍光に対して正規化した。
【0137】
FRET測定:5mg/mlのPEG/PAMAM構築物を、pH8.3の炭酸塩緩衝液中で、2.5μMの終濃度のAlex Fluor(登録商標)色素546(ドナー)またはAlex Fluor(登録商標)568(アクセプター)(Molecular
Probes、Eugene、OR)あるいは両方のフルオロフォアの等モルの混合物により標識した。過剰な色素の透析による除去後、複合体を540nmで励起し、放出スペクトルを、範囲(550nm〜650nm)で集めた。エネルギー移動効率(E)を、(F
da)の存在下およびアクセプター(F
d)
43、44の非存在下での相対蛍光収量から計算し、これを以下の式からエネルギー移動距離Rを計算するために使用した。
【0138】
【化1】
(結果)
分枝した生体適合性(24〜30アーム(arm))人工抗原提示ポリマーを、Luo、Macromolecules 35、3456〜3462(2002)により報告される方法により、ポリエチレングリコールおよびgeneration 6(G6)ポリアミドアミンデンドリマー(PEG−PAMAM)から構築した。PAMAMスターバースト(Starburst)デンドリマーは、分枝した樹様構造を有する特有な合成高分子である(Tomaliaら、Angewandte Chemie−International Edition in English 29、138〜175(1990);Naylorら、Journal of the American Chemical Society 111、2339〜2341(1989))。G6 PAMAMのつるは、中心の疎水性コアから放射状に延び、表面に128個の官能性アミン基を有する明確な球状構造を生成する。保護アミン末端(HOOC−PEG3400−NH−tBoc)を有するヘテロ二重官能性(heterobifunctional)PEG M
w3400を、PAMAMのつる(tendril)に共有結合させ、そして結合後に、このアミン末端を脱保護した。作業用構築物は、疎水性コア(6.7nm)に結合させた放射状アミン末端のPEG鎖(4.2nm)を有するポリマーであった。構築物の検出を促進するために、フルオレセイン末端のPEG鎖を、アミン末端のPEG鎖に対して1:5のモル比でデンドリマーのコアに共有結合させた。構築物のPAMAMコアは、以下のためのビヒクルとして理想的に適合された薬物レザバとして機能し得る:小さな(small)薬物(Liuら、Abstracts of Papers of the American Chemical Society 216,U875−U875(1998);Konoら、Abstracts of Papers of the American Chemical Society 221、U377−U377(2001);Jansenら、Journal of the American Chemical Society 117、4417−4418(1995);Jansenら、Science 266、1226−1229(1994))、磁気共鳴画像法でのコントラスト増強ための常磁性分子(Kobayashiら、Mol Imaging 2、1−10(2003))、オリゴヌクレオチド(Yooら、Pharm Res 16、1799−804(1999))、導入遺伝子(Kobayashi,H.ら、Bioconjug Chem 10、103−11(1999))および放射性核種(Kobayashi、Bioconjug Chem 10、103−11(1999))。構築物上のPEG鎖の空間的柔軟性の強度は、PEGのアミン末端に結合したタンパク質の立体的な制限の程度を決定するので、分枝PEGの空間的柔軟性を共鳴エネルギー移動により評価した。アミン反応性ドナー色素(Alexa fluor 546(登録商標)(Molecular Probes))およびアクセプター色素(Alexa Fluor 568(登録商標))を、未標識の構築物のアミン末端へ結合体化し、その後透析により、この構築物を精製した。ドナー色素からアクセプター色素への蛍光エネルギー移動が50%である距離R
0は、7.0nmである(Molecular Probes)。構築物に結合体化された1:1モル比の両方の色素の飽和濃度は、ドナー蛍光の明らかな減少およびアクセプターの蛍光の増感をもたらした。アクセプターの存在下および非存在下でのドナーの相対蛍光収量から計算した移動効率は、50%〜57%であった。この効率を使用して、6±1nmの色素間の近接距離を推定した。これは、ストレプトアビジンのサイズ(3nm〜4nm)の範囲内のタンパク質のカップリングのために十分な距離である。ストレプトアビジンカップリングは、広範な種類のビオチン化リガンドの結合を促進する。さらに、本研究で使用されたT細胞リガンドを、2.2nm ビオチンスペーサアーム(NHS−LC−ビオチン(登録商標))(Pierce Chemicals)によりビオチン化したので、ストレプトアビジンカップリングしたT細胞リガンドとT細胞上のその標的レセプターとの間に十分に柔軟な空間的相互作用が存在することを推定した。構築物の分析は、この推定と一致する:カップリング効率は、5〜10個のフルオレセイン末端のペンダント鎖を含む1個の構築物あたり、約13個のストレプトアビジン分子であった。
【0139】
構築物の均質性を、逆相HPLCにより確かめ、PEG/PAMAMの分布は狭く、そしてストレプトアビジン−PEG/PAMAM(SA−PEG/PAMAM)構築物の分布はわずかに広いことを明らかにした。ストレプトアビジン結合体化により生じた疎水性の低下および構築物の分子サイズの増加におそらく起因して、SA−PEG/PAMAMは、C18カラム上でより早く溶出した。構築物のサイズもまた、動的光散乱により測定し、PEG/PAMAMは17.1nm、SA−PEG/PAMAMは26.4nmであると推定した。
【0140】
抗原提示構築物は、特異性および高アビディティで、その標的に結合する:T細胞リガンドに対する多価の足場としてのSA−PEG/PAMAMの特異性を評価するために、SA−PEG/PAMAMを、T細胞CD3複合体を認識するビオチン化抗体およびB細胞上のCD45R抗原を認識する抗B220(ネガティブコントロール)にカップリングした。精製多価複合体を、飽和用量で、Balb/Cマウス由来の脾細胞のT細胞を富化させた(B細胞を欠乏させた)集団と共に4℃で2時間インキュベートした。次に、T細胞を洗浄し、結合した複合体を、フローサイトメトリーにより分析した。本研究で使用した飽和用量で、コントロールの抗B220複合体の結合は実質的に観察されなかったが、同じ用量で、特異的な抗CD3複合体は、強力に結合した。抗CD3複合体を、種々の濃度でT細胞とインキュベートした場合、ネイティブの蛍光標識した抗CD3抗体と比較して、構築物の結合アビディティに著しい増大が存在した。アビディティは、結合の価数の増加とともに増加し、PEG/PAMAM構築物は、抗体よりも高い価数(>13)を有するので、一定のリガンド濃度で、ネイティブの抗体と比べると、より多くの抗CD3複合体が結合した。したがって、これらの多価構築物は、試薬のより低い濃度において、T細胞の検出のより高い感度を提供する。
【0141】
ペプチド/MHC−T細胞の相互作用の親和性は、抗原−抗体の相互作用よりも低いので、クローン性の抗原特異的T細胞の検出の感度の増大におけるSA−PEG/PAMAM複合体の効力を、類似の結合アッセイにより評価した。ビオチン化MHCクラスIを構築物にカップリングし、そしてその精製マウスCD8+ T細胞集団に対する結合を、ダイマーのMHC構築物のものと比較した。使用したモデル系は、CD8+ 2C T細胞系に限られたマウス同種反応性クラスIであって、これは、同種抗原クラスIMHC H−2L
d、(
Q19L
d)(Sykulev,Y.ら、Proc Natl Acad Sci USA 91、11487−91(1994))との関連で提示される自己由来のミトコンドリアペプチド(QLSPFPFDL(QL9))を認識し、ネガティブコントロールペプチド(YPHFMPNTL(MCMV)、(
MCMVL
d))で負荷させた同一のMHCに対して親和性をほとんど有さないか、または全く有さない。モノマーのH−2L
dを、そのアミノ末端でビオチン化し、そしてFahmy、Immunity 14、135〜43(2001)で検討された方法を使用して、外因的にペプチドQL9およびペプチドMCMVで負荷した。本明細書で検討されるものと類似するMHCへの改変は、インビトロバイオセンサーアッセイによるMHC−T細胞レセプター相互作用に対してほとんど影響しないか、または全く影響しないことが示されている(Fahmyら、Immunity 14、135〜43(2001))。抗CD3構築物により観察された結合プロフィールと同様に、
QL9L
d構築物は、増大したアビディティで2C T細胞に結合した。アビディティの増大は、MHC(
QL9L
d−Ig)のダイマー形態と比較すると、最大量の半分の用量で2桁大きい強さであった(Schneck、Immunol Invest 29、163〜9(2000))。
【0142】
薬物を保有するための、PAMAMの潜在的な容量と組み合わせた場合、これらの複合体のアビディティの増大は、特定のT細胞集団への薬物送達の強力な手段となることを仮定した。この仮定を試験するために、構築物が抗有糸分裂薬物(ドキソルビシン)をカプセル化する能力を、まず評価した。
【0143】
抗原提示構築物のPAMAM樹状コアによるドキソルビシンの高密度のカプセル化。以前の研究は、ドキソルビシン(Dox)(DNAに介入するアントラサイクリン)が抗増殖効果を示し得、そして増殖中のT細胞において増殖停止およびアポトーシスを誘導し得ることを示している。Doxは、本質的に蛍光性であり、したがってこの薬物の検出は、水溶液中での488nmでの励起および570nmでのピーク放出による蛍光検出によって容易にされる。Doxは、水性環境で溶解性が限られた弱い塩基性(pKa=7.6)の薬物である。薬物キャリアとしての疎水性デンドリマーコアの潜在的な有用性および疎水性の微小環境とのDoxの優先的な結合(Doxオクタノール/水の分配係数は2である)に動機付けられて、ドキソルビシンの受動的な負荷のための構築物の容量を調べた。構築物を、4℃で24時間、10倍過剰なモル濃度のDoxとインキュベートし、次に7000 MWCOによる広範な透析を行い、その後複合体の蛍光測定を行った。ドキソルビシンの蛍光較正標準を使用して、構築物1モルあたり、約55±10モルのDoxが結合することを推定した。結合したDoxがデンドリマーコア内にカプセル化されることを確かめるために、PEG/PAMAM構築物の微小環境を擬態する有機性水性溶液中のDoxが蛍光の増大を示したことに留意した。この蛍光の増大を使用して、SA−PEG/PAMAMとのDoxの結合の強さを評価した。構築物の存在下でのリン酸緩衝化生理食塩水中のDoxの蛍光と比較した場合、類似の増大を観察した。PAMAMは、複合体の中で最も大きい疎水性画分を構成するので、このデータは、有機性水性媒体での結合と類似する、SA−PEG/PAMAMとのDoxの結合を示した。蛍光増大アッセイに基づくこの結合の強さを使用して、構築物1モルあたりの結合した薬物のモル数を推定した。データは、より初期の平衡測定から推定された量よりも低い値で最大になった。このことは、透析チャンバー中でのドキソルビシン凝集体の形成(構築物に結合する量の過大評価に寄与する)に起因し得た。
【0144】
データは、Doxが抗原提示構築物の樹状コア中に効率的にカプセル化されることを示す。ドキソルビシンは、低いpHで効率的に樹状コアから放出される。薬物負荷した構築物は小さい(<100nm)ので、これらは、その標的により効率的に内在化される。エンドサイトーシス小胞の酸性微小環境における構築物とのDoxの結合のレベルを調べるために、pH5での薬物−構築物相互作用をモニタリングした。Dox負荷したアビジンカップリング構築物を、ビオチン化アガロースカラム上に固定化し、pH7.4のリン酸緩衝化生理食塩水で洗浄し、その後リソソームのpHを擬態する低緩衝環境に曝した。カラムのpHを低下させると、薬物の赤色蛍光によりモニタリングされる、溶離液中のDox濃度の顕著な増加を観察した。質量収支は、移動相のpHの低下に際して、90%を超えるDoxが効率的に構築物から放出されたことを明らかにした。このデータは、疎水性特徴を有する弱い塩基(例えば、ドキソルビシン)がより低いpHで荷電が強まり、そして酸性区画に優先的に分配される「イオン捕捉仮説」として公知な現象と一致する。引き続く研究における全ての実験を、構築物1molあたり推定32mol量のDoxでドキソルビシンで飽和させた構築物を使用して行った。
【0145】
培養物中のT細胞の増殖性応答をダウンレギュレートすることにおける、Dox負荷させた抗CD3構築物の効力を試験するために、マウスBalb/C脾細胞を、Dox負荷させた抗CD3構築物およびDox負荷させた抗B220構築物(ネガティブコントロール)の存在下および非存在下で、プレートに結合した抗CD3の種々の容量により刺激し、そして3日後にT細胞の増殖を測定した。抗B220−dox構築物(増殖中のT細胞にほとんど影響しないか、または全く影響しないことが示された)とは対照的に、抗CD3Dox構築物は、増殖の強力なインヒビターであった。これらの実験において、増殖は、以下の2つの競合する機構により影響された:抗CD3構築物の提示により提供されたさらなる刺激に起因する増殖の増大、および標的T細胞への特異的な薬物送達に起因する増殖の阻害。
【0146】
同種反応性抗原特異的T細胞の部分集合の応答および増殖を調節することにおける、薬物負荷した抗原提示構築物の有用性を調べるために、Doxで負荷した
QL9L
d−構築物(
Ql9L
dDox)および
MCMVL
dDox(ネガティブコントロール)を、2Cマウス脾細胞由来の細胞障害性T細胞、CD8+ T細胞の精製したナイーブな集団とともにインキュベートした。T細胞を、構築物の存在下または非存在下で、抗CD3コーティングしたプレートでの培養物中で、3日間刺激した。抗原特異的T細胞の培養物の応答をモニタリングするために、培養の最初の3日間の間に産生されたIL−2の量および3日後の全てのT細胞の増殖を測定した。IL−2は、T細胞の増殖刺激および増殖に必要とされるオートクラインサイトカインであり、したがって、これはT細胞刺激の進行の重要な指標である。1日後の、
MCMVL
dDoxと
Ql9L
dDoxとの間のIL−2産生における相対的な差は小さく、未処理細胞により産生されたIL−2の量と匹敵した。このことは予期された知見である。なぜなら、ナイーブなT細胞は、活発な増殖応答を実行するのに少なくとも20時間の持続的なシグナル伝達を必要とするからである。本発明者らは、2日後におけるIL−2の特異的な阻害とIL−2の非特異的な阻害との間の識別可能な変化に注目した。3日目に、本発明者らは、未処理細胞または
MCMVL
dDoxで処理した細胞と比べて、
Ql9L
dDoxで処理した細胞からのIL−2放出において顕著な阻害を観察した。未処理細胞と比較して
MCMVL
dDoxが阻害効果を示したことの知見は、T細胞機能のインビトロアッセイで、H−2l
dに関連してMCMVペプチドが精製2C T細胞に全く非特異的であるわけではないという事実と一致する。
【0147】
低濃度のプレートに結合した抗CD3、およびDox負荷させた構築物の非存在下において、T細胞は、IL−2の明らかな放出および同時の増殖(より強いレベルの刺激により迅速に低下する)を示した。
MCMVL
dDoxのIL−2放出および増殖プロフィールは、おそらくT細胞との非特異的な相互作用に起因して未処理細胞のものより低いが、
Ql9L
dDoxが、抗原特異的T細胞のIL−2の産生および増殖能力を大幅(60%より多く)に阻害したことを、比較により見出した。さらに、IL−2放出の
Ql9L
dDox阻害は、調べた全用量範囲にわたって有効だった。これらの結果を合わせて、T細胞のポリクローナル集団および抗原特異的な集団の増殖を選択的に阻害する能力を実証する。
【0148】
(考察)
この目的は、高アビディティ相互作用によりT細胞の特定の集団を追跡することおよびT細胞の特定の集団に薬物を送達することを促進し得る多官能性システムを設計することである。薬物送達における無毒性かつナノスケールのポリマーとしてのPAMAMデンドリマーの官能性および実証された有用性に起因して、これらのポリマーを、多官能性抗原提示構築物の設計のための起点およびコアとして選択した。以下の二つの理由のために、ポリエチレングリコール(PEG)を、デンドリマーコアに係留した:第一に、PEGは直鎖状ポリマーであり、それは構築物に結合したタンパク質に柔軟性を与え、そして結合したタンパク質が、細胞表面レセプターへの結合のために数ナノメートルの表面領域を走査することを可能にする。平面状の膜に固定化したMHCによる研究は、個々のMHC分子が20nm未満で離れている場合に、最も効率的に、T細胞が結合し、そして応答したことを実証した。第二に、PEGに結合したタンパク質は、独特な特性(例えば、溶解性の増大、生体適合性、より低い免疫抗原性および望ましい薬物速度論)を帯びるが、主要な生物学的機能(例えば、レセプター認識)は、しばしば維持され得る。これらは、この技術の長期間の使用および臨床設定における最終的な有用性のために、重要な特性である。
【0149】
調製するのが高価かつ困難な広範な種類のリガンドの結合を提供するために、中間カップリングタンパク質として、ストレプトアビジンをPEG鎖に結合させた。ストレプトアビジンは、より少量のビオチン化試薬のカップリングを促進し、そして広い範囲の標的への足場の適用を拡大する。全T細胞集団または抗原特異的T細胞集団を標的化するビオチン化試薬を用いるこの使用の範囲を実証した。この報告における抗原特異的T細胞研究を、同種反応性の設定でクラスI MHCタンパク質により実行したが、記載される系は、他のモデル系に適用可能なあらゆるビオチン化MHCと組み合わせて使用され得る。
【0150】
デノボで調製されなければならず、かつ薬物を保有するための容量が制限されるタンパク質ベースの送達系とは違って、本明細書に記載のPEG/PAMAM複合体は、構築物1molあたり32molまでのドキソルビシンを保有する容量を有する。したがって、この系は、用量−密度フリーの(dose−dense free)薬物治療に匹敵する治療上の可能性を、より低い濃度で提供する。構築物のサイズ、結合体化に利用可能な部位の数および種々の部位の反応性を全て制御することは、ペプチド/MHCと補助的なリガンドとの混合物の提示を制御することを可能にする。検討される技術は、この汎用性ゆえに独特である。この特徴は、提示されたリガンドの性質および密度に依存する特定の問題(例えば、提示された抗原の密度および同時刺激により影響されるT細胞寛容)に取り組むために重要である。
【0151】
(実施例4:心臓血管組織工学における薬物送達のための区画をなくした足場へのポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)微粒子の結合)
心臓血管組織工学における区画をなくした足場の使用は、生来の組織と類似するその生体力学的特性に起因して一般的である。不都合なことに、これらのマトリクスは、加速されたカルシウム沈着を受ける。リンタンパク質であるオステオポンチンはカルシウム沈着を阻害し、そして微粒子送達による鉱化作用を減少させるために使用され得る。さらに、心臓血管組織は公知の幾何学で石灰化するので、オステオポンチンがマトリクスの特定の場所に送達され得る場合に、このことは顕著に有用であり得る。
【0152】
(方法)
オステオポンチン微粒子(125μg OPN/g PLGA)を、自発的な乳化により生成し、遠心分離により洗浄し、そして24時間凍結乾燥させた。ブタ心臓弁の切片を集め、化学的に区画をなくし、そしてマウス(n=3)に皮下移植した。一切片を、オステオポンチン微粒子とともに同時移植する一方で、別の切片をコントロールとして、単体で移植した。7日後、組織を切除し、原子吸光分析によりカルシウム沈着について評価した。別々の実験において、微粒子の結合を実証するために、区画をなくしたウシ中足動脈をビオチン化し、続いてアビジンコーティングされたPLGA微粒子とともにインキュベートした。
【0153】
(結果)
オステオポンチン微粒子により処理した組織は、未処理組織と比較すると、カルシウム沈着において45.1%の減少を示した。PLGA微粒子は、区画をなくしたウシ足場の線維に首尾よく結合した。
【0154】
(結論)
これらの結果は、オステオポンチン微粒子が、外科的な置換手順の間/後に心臓血管構造のカルシウム沈着を阻害するのに役立ち得、そしてマトリクス送達のために局所的に結合し得ることを実証する。その上、これらの粒子は、他の型の生物学的な血管移植片(すなわち、心臓弁置換のための異種移植片)に奏功し得る。
【0155】
(実施例5:再狭窄を予防するためにラパマイシンを送達するナノ粒子)
ラパマイシンは、ステントの一部としてのポリマーレザバまたはコーティングにおける適用によって再狭窄を予防するために、現在使用されている。これらのデバイスの制限は、手順(例えば、血管形成術、血管移植術、人工血管インプラント、人工関節インプラントまたは他の医療用インプラント)と同時か、もしくはその直後またはバイパス手術時でのナノ粒子の別々の適用により回避される。移植時のラパマイシンの短期間の適用が、再狭窄に対して有意に長期間の効果を有し得ることが実証されている。ナノ粒子の利点は、全身送達が存在せず、有効な抗増殖性の量の放出が、数週間の期間を越え、処置に最も重要な時間の間達成され得ることである。
【0156】
バイパス手術の一般的な形態は、冠状動脈への自家移植のために、肢から伏在静脈を切除する工程を伴う。この症例の50%において、これらの移植片は、大半は再狭窄に起因して5年以内に脱落する。ナノ粒子は、自己移植片へのラパマイシンまたは他の抗増殖剤の局所的かつ持続的な送達のために使用され得る。伏在静脈の切除後、組織は、懸濁されてもよく、そしてしばしば1時間以上、生理食塩水中で懸濁される時に、患者の胸が移植片の移植のために開胸される。この時点で、ナノ粒子が投与され得る。生理食塩水中での粒子結合時間は、1時間で十分であり得る。
【0157】
(アビジンコーティングされたラパマイシンナノスフェアの調製)
10mg/mlのアビジンを、2%デオキシコール酸塩緩衝液を含むPBS中で、10倍過剰なNHS−パルミチン酸と反応させた。混合物を軽く超音波処理し、37℃で12時間、穏やかに混合した。過剰な脂肪酸と加水分解されたエステルとを除去するために、反応物を、0.15%デオキシコール酸塩を含むPBSに対して透析した。
【0158】
改変二重エマルジョン方法を、脂肪酸PLGA粒子の調製のために使用した。この手順において、100μLのPBS中の1mgのローダミンBを、ボルテックス中のPLGA溶液(2mlのMeCl
2中100mgのPLGA)に滴下した。次に、この混合物を氷上で3回、10秒の間隔で超音波処理した。この時点で、4mlのアビジン−パルミチン酸塩/PVA混合物(2mlの5%PVA中2mlのアビジン−パルミチン酸塩)をゆっくりとPLGA溶液に添加した。その後、これを氷上で3回、10秒の間隔で超音波処理した。超音波処理後、この物質を、攪拌中の100mlの0.3%PVAに滴下した。これを、一定の室温で4時間、激しく攪拌し、塩化メチレンをエバポレートさせた。次に、生じたエマルジョンを、12,000gで15分間、遠心分離により精製し、続いてDI水で3回洗浄した。粒子を凍結乾燥させ、それから−20℃で保存した。サンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)により性質決定した。サンプルを、アルゴン雰囲気中、陰圧下で40mAのスパッタ電流を使用して、金でスパッタコーティングした(Dynavac
Mini Coater、Dynavac USA)。SEM分析を、5〜10kVの加速電圧によるLaB電子銃を使用するPhilips XL30 SEMによって実行した。
【0159】
(ヒツジ頚動脈へのナノ粒子の付着)
ヒツジ由来の頚動脈の3つの1×1cm小片を、上記のように調製した、(ラパマイシンのカプセル化および放出を予測するマーカーとして)ローダミンで負荷したPLGAアビジン標識ナノスフェア中でインキュベートした。インキュベーションを、25℃のハイブリダイゼーションオーブンで行い、これらをバイアル中に置き、垂直に回転する回転台(carousel)にこのバイアルを吊るすことによる攪拌によって、ナノスフェアの付着を促進させた。
【0160】
未処理(アビジン微粒子中でインキュベートしなかった)ヒツジ頚動脈の10倍の倍率での蛍光顕微鏡写真を、処理した(アビジン微粒子中でインキュベートした)ヒツジ頚動脈の10倍の倍率での蛍光顕微鏡写真と比較した。顕微鏡写真により明確に見えるように、未処理組織と比較して処理した組織において、(ローダミンナノスフェアの付着を示す)高い程度の蛍光が存在する。
【0161】
(剪断ストレス環境中での付着の安定性)
ヒツジ動脈の管状部分を、ナノスフェアコーティングした。ナノスフェアの付着後に、この管を、1時間、リン酸緩衝化生理食塩水(「PBS」)流を支持するバイオリアクターに接続した。この時間の後、組織をバイオリアクターから取り外し、エッペンドルフチューブに入れ、そして新しいPBS中でインキュベートして、この導管から放出されたローダミンの量を測定した。1時間後、この導管を、新しいPBSが入った新しいチューブに入れ、古いPBSを、蛍光について測定した。4つの画分を、この様式で測定した。これは、ナノスフェアコーティングされた導管が、剪断ストレスの後に粒子が全て流失することなく、制御された様式で薬物を送達し得たことを実証した。
【0162】
(粒子サイズの選択)
ナノ粒子(50nm〜500nm)を、カップリング系に使用した。粒子の単位質量に対する表面積を最大化することは、血管組織への粒子の結合を改善するはずである。また、粒子の流失がより小さな脈管(毛細管は、5ミクロンの小ささであり得る)の下流の閉塞を生じる点に関して、ナノ粒子はより良い。
【0163】
(ラパマイシンのカプセル化)
ラパマイシンを、PLGAナノ粒子中にカプセル化し、そしてPBMCアッセイを使用して、生物活性を確認した。簡潔に述べると、PBMC細胞を、IL 12およびIL 18により刺激した。ラパマイシンの存在下で、インターフェロンの分泌は阻害され、ラパマイシン濃度とインターフェロンレベルとの間に逆相関をもたらす。この特定の実験において、10mgのラパマイシン粒子を、10mlのPBS中に懸濁した。種々の時点において、100μlのPBSを、引き続くPBMCの処理のために、この10mlから採取した。このデータは、ナノ粒子から放出されたラパマイシンが生物的に活性であることを示す。
【0164】
(ラパマイシン投薬)
ステントのデータに基づく、自家移植片へのラパマイシンの望ましい投薬は、1mm
2移植片あたり1μg〜500μg、より好ましくは1mm
2移植片あたり200μg〜2mgの標的コーティング量のラパマイシンとして計算され、28日目に約75%のラパマイシンが溶出した。放出は、移植時から移植後3日〜6ヶ月までの投薬量の範囲にわたって発生し得る。
【0165】
(実施例6:組織工学マトリクスであるINTEGRA
TMにおける抗生物質の送達のための微粒子)
(材料および方法)
Integra
TM(合成皮膚として熱傷を処置するために使用される組織工学製品)を、組織様マトリクスに接着するよう設計したナノ粒子により処理した。3つの1×1cmのINTEGRA
TM小片を、実施例5に上記されるように調製した、(ラパマイシンのカプセル化および放出を予測するマーカーとして)ローダミンで負荷したPLGAアビジン標識ナノスフェア中でインキュベートした。インキュベーションを、25℃のハイブリダイゼーションオーブンで行い、これらをバイアル中に置き、垂直に回転する回転台にこのバイアルを吊るすことによる攪拌によって、ナノスフェアの付着を促進させた。
【0166】
(結果)
未処理(アビジン微粒子中でインキュベートしなかった)INTEGRA
TMの10倍の倍率での蛍光顕微鏡写真を、処理した(アビジン微粒子中でインキュベートした)INTEGRA
TMの10倍の倍率での蛍光顕微鏡写真と比較した。顕微鏡写真により明確に見えるように、未処理組織と比較して、処理した組織において(ローダミンナノスフェアの付着を示す)高い程度の蛍光が存在する。
【0167】
INTEGRA
TMは、熱傷被害者のための皮膚移植片として使用される。代表的にII度またはIII度の熱傷を有する患者は、2、3週間INTEGRA
TMにより処置され、その後、自己皮膚移植片が適用される。不都合なことに、感染が、この型の処置に伴う主要な問題である。この研究は、これらのナノ粒子が、外傷への適用前2、3週間の間、INTEGRA
TMに付着し、そしてINTEGRA
TMに薬剤を送達するように、この粒子がINTEGRA
TMを「浸漬コーティングする(dip−coat)」ために使用され得ることを実証する。