【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、迂回経路が確保されていた場合でも、近年のより一層の伝送速度の高速化に伴い、信号の波長が短くなってきており、リターン電流の迂回分の長さ自体が信号品質へ与える影響を無視できなくなってきている。
【0009】
具体的には、近年の信号伝送速度の高速化に伴い、従来、高速伝送専用として開発された部品でさえ、そのミクロな実装構造によるリターン電流の迂回が、伝送信号の品質に影響を与える場合がある。以下、高速信号伝送用の面付けコネクタを従来技術で基板に実装した場合に生じるリターン電流の迂回と、それによる影響を図面を用いて説明する。
【0010】
高速信号伝送用の面付けコネクタとしては、例えば、SASコネクタなどが挙げられる。また、高速信号伝送用の面付けコネクタを用いた伝送系で代表的なものは、SAS、PCI Express、DDR SDRAMなどにおける、デバイスとコントローラとを結ぶ伝送系などが挙げられる。
【0011】
図6は、ANSIにて規格制定されているSASコネクタのピン配置の一部を示すピン配置構成図である。
図6において、SASコネクタの高速信号に関係するピンは、信号ピン(ピン番号S2、S3、S5、S6、S9、S10、S12、S13)が8ピン、グランドピン(ピン番号S1、S4、S7、S8、S11、S14)が6ピンの計14ピンが存在する。
【0012】
図7は、PCI−SIGにて規格制定されているPCI Expressコネクタのピン配置の一部を示すピン配置構成図である。
図7において、高速信号に関係するピンはレーン数によって異なるが、ピン数が最も少ない1レーンコネクタの場合、例えば、信号ピン(ピン番号14Side B、15Side B、16Side A、17Side A)が4ピン、グランドピン(ピン番号13Side B、16Side B、15Side A、18Side A)が4ピンの計8ピンが存在する。
【0013】
図8は、JEDECにて規格制定されているDDR3コネクタのピン配置の一部を示すピン配置構成図である。
図8において、DDRコネクタにおける一部のピンは、信号ピン(ピン番号3、4、6、7、9、10、12、13、15、16)が10ピン、グランドピン(ピン番号2、5、8、11、14)が5ピン存在する。なお、DDR3コネクタの全ピン数は240ピンであり、DDR4コネクタの全ピン数は288ピンである。
【0014】
コントローラとデバイス間の接続の一例として,
図9に、HDD(Hard Disk Drive)とコントローラ間の伝送系の概略図を示す。
図9において、プリント基板100上には、メス側コネクタ150とコントローラ400が搭載されている。メス側コネクタ150はオス側コネクタ160に接続されており、オス側コネクタ160には、HDD基板200が接続されている。HDD基板200には、入出力チップ300と出力回路301が搭載されている。コントローラ400には、入力回路401が搭載されていると共に、信号処理回路および出力回路(いずれも図示せず)等が搭載されている。
【0015】
ここで、コントローラ400とデバイス(HDD)との間でデータの授受が行われる場合、例えば、デバイス(HDD)からコントローラ400に信号が伝送される場合、入出力チップ300内部の出力回路301から出力される信号は、HDD200上の配線、オス側コネクタ160およびメス側コネクタ150を経由し、基板100上のスルーホール、内層信号層配線を通過した後、コントローラ400内部の入力回路401に到達する。
【0016】
図10は、
図9に示す伝送系のうち点線Cで囲った箇所を拡大した斜視図である。なお、
図10では、簡略化の為、コネクタピンとして、信号ピンが2ピン、グランドピンが2ピンの計4ピンのみのものが示されている。実際のコネクタとしては、
図6から
図8に示すものが用いられる。
【0017】
図10において、オス側コネクタ160は、グランドピン1p、1Pと、差動信号ピン2p、2Pを有しており、オス側コネクタ160の一部が、メス側コネクタ150内に着脱自在に挿入されている。メス側コネクタ150は、プリント基板100上に搭載されている。プリント基板100上には、部品接合パターン(以下、パッドと称する。)のうち、グランド用部品接合パターン(以下、グランドパッドと称する。)1a、1Aと、信号用部品接合パターン(以下、信号パッドと称する。)2a、2Aが配置され、グランドパッド1a、1A上には、グランドピン1q、1Qが半田付けされ、信号パッド2a、2A上には、差動信号ピン2q、2Qが半田付けされ、メス側コネクタ150が面付けコネクタとして構成される。
【0018】
グランドパッド1a、1Aは、プリント基板100に配置された配線1b、1B、グランドスルーホール1c、1Cを介してグランド層(図示せず)に接続される。信号パッド2a、2Aは、プリント基板100に配置された配線2b、2B、信号スルーホール2c、2Cを介して内層信号層配線20、21に接続される。また、グランドピン1q、1Qは、オス側コネクタ160とメス側コネクタ150とが結合された際に、オス側コネクタ160のグランドピン1p、1Pに接続される。差動信号ピン2q、2Qは、オス側コネクタ160とメス側コネクタ150とが結合された際に、オス側コネクタ160の差動信号ピン2p、2Pに接続される。
【0019】
ここで、HDD基板200上の出力回路301から出力された差動信号が、オス側コネクタ160を介してプリント基板100に伝送するときに、その電流が理想的な経路で流れた場合、信号電流は、信号電流経路6j、6Jに沿って流れ、リターン電流は、リターン電流経路5j、5Jに沿って流れる。
【0020】
このように、信号電流経路6j、6Jに対して、リターン電流が流れるリターン電流経路5j、5Jを用意し、適切な特性インピーダンスを得られるよう、信号電流経路6j、6Jとリターン電流経路5j、5Jとの間の電磁的結合を制御することで、信号伝送品質を確保することができる。
【0021】
しかしながら、信号伝送速度の高速化に伴い、従来は問題とならなかったリターン電流の迂回路が顕在化し、信号品質に影響を与える場合がある。その現象を以下で説明する。
【0022】
図11は、従来構造の面付けパッドが配置されたプリント基板の要部平面図である。
図11Aは、
図11の直線Aに沿ったxz平面方向の垂直断面図である。
図11Bは、
図11の直線Bに沿ったxz平面方向の垂直断面図である。
【0023】
図11において、メス側コネクタ150の差動信号ピン2q、2Qに接続される信号パッド2a、2Aは、配線2b、2Bを介して信号スルーホール2c、2Cに接続される。信号スルーホール2c、2Cは、
図11Aに示すように、内層信号層配線20に接続される。同様に、メス側コネクタ150のグランドピン1q、1Qに接続されるグランドパッド1a、1Aは、配線1b、1Bを介してグランドスルーホール1c、1Cに接続される。グランドスルーホール1c、1Cは、
図11Bに示すように、グランド層10、11に接続される。
【0024】
図11と
図11A及び
図11Bに示される各部品の寸法は、一般的な例として以下の値に設定されている。グランドパッド1a、1Aと信号パッド2a、2Aの大きさは、x方向が3mmで、y方向が0.65mmであり、各パッドのy方向におけるピッチは、1.27mmである。グランドパッド1a、1Aと信号パッド2a、2Aから引き出される配線1b、1B、2b、2Bは、配線幅が、0.5mmで、配線長さが、0.85mmである。内層信号層配線20は、配線幅が、0.1mmで、配線長さが、0.23mmである。グランドパッド1a、1Aと、その直下でグランドパッド1a、1Aに隣接したグランド層10間の絶縁層厚は、0.175mmであり、内層信号層配線20と、その直下で内層信号層配線20に隣接したグランド層11間の絶縁層厚は、0.107mmである。プリント基板100の板厚は、4.6mmであり、グランドスルーホール1c、1Cと信号スルーホール2c、2Cの仕上がり径は、0.3mmである。
【0025】
図11Aにおいて、信号が信号ピン2qから内層信号層配線20に向かって伝送する場合、信号ピン2qと内層信号層配線20とを結ぶ信号電流経路6kが形成される。この信号電流経路6kに対する理想的なリターン電流経路は、
図11Bに示す、グランド層11とグランドパッド1aを結ぶ経路となる。
【0026】
しかし、信号パッド2a、2Aとグランドパッド1a、1Aとの距離よりも、信号パッド2a、2Aとグランド層10との距離の方が短いので、信号パッド2a、2Aとグランドとの電磁的結合は、信号パッド2a、2Aとグランドパッド1a、1Aとの電磁的結合よりも、信号パッド2a、2Aとグランド層10との電磁的結合の方が強くなる。このため、
図11Aに示すように、信号パッド2aに信号電流が流れた場合、リターン電流が、信号パッド2aの直下で隣接するグランド層10内を、リターン電流経路5sに沿って流れようとする。
【0027】
しかし、グランド層10内を、リターン電流経路5sに沿って流れるリターン電流は、最終的にはグランドピン1qまで到達しなければならないため、
図11Bに示すように、グランドパッド1a端部直下のグランド層10内で折り返し、グランドスルーホール1c直下のグランド層10内まで戻るリターン電流経路5tを流れ、その後、グランドスルーホール1c、配線1b、グランドパッド1a、グランドピン1qを結ぶリターン電流経路5kを流れる。即ち、リターン電流は、リターン電流経路5u、5s、5t、5kに沿って流れ、リターン電流経路5s、5tがリターン電流の迂回経路となる。
【0028】
なお、グランド層10におけるリターン電流経路5sは、
図11Aに示すように、信号パッド2a直下を流れるのが実際であるが、リターン電流の迂回経路を分かりやすくするために、
図11Bでは、リターン電流経路5sを、便宜的に一点鎖線で示してある。
【0029】
ここで、リターン電流が、リターン電流の迂回経路となるリターン電流経路5s、5t(合計長さ=約7.5mm)を通過した時間は、50ps程度であり、50psを1/2波長とする10GHz付近に共振が発生することが推定できる。
【0030】
上記の現象を確認するために、
図11と
図11A及び
図11Bの実装条件が適用された面付けパッドと、
図11と
図11A及び
図11Bに示す基板の全ての領域を含むものを従来モデルとして、この従来モデルにおける信号パッド2a、2Aから内層信号層配線20、21までの差動信号透過特性(以下、Sdd21と称する。)を3次元電磁界シミュレータ(Ansys社HFSS)にて計算した。この従来モデルの各寸法は、
図11に示される面付けパッドの値である。
【0031】
従来モデルのシミュレーション結果を、
図2の特性カーブ500(破線)で示す。
図2に示されるシミュレーション結果から、差動信号には、10GHz付近に共振点が存在していることが分かる。この際、上記の推定の通り、リターン電流の迂回経路となるリターン電流経路5s、5tが、差動信号の10GHz付近で共振点が生じる主要因となっていることが確認できる。信号の伝送速度が高速化するに伴い、この共振が、信号の伝送品質に与える影響が大きくなる。
【0032】
以上のように、高速信号用面付けコネクタの信号パッド2a、2Aに差動信号が流れ、グランドパッド1a、1Aにリターン電流が流れる際に、リターン電流経路がグランドに形成される過程で、リターン電流経路の中にリターン電流の迂回経路が形成され、この迂回経路の長さが長くなると、信号伝送速度の高速化に伴って信号の伝送品質へ与える影響が大きくなるという課題がある。
【0033】
本発明の目的は、リターン電流の迂回経路の長さを短くすることによって、信号の伝送特性を改善することができる信号伝送回路及びプリント基板を提供することである。