特許第6031308号(P6031308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6031308固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セル、並びに、それに用いられる電解質シート及びそれを備えた固体酸化物形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031308
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セル、並びに、それに用いられる電解質シート及びそれを備えた固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20161114BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20161114BHJP
【FI】
   H01M8/02 E
   H01M8/02 K
   H01M8/12
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-214323(P2012-214323)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-71935(P2014-71935A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】秦 和男
(72)【発明者】
【氏名】相川 規一
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−010866(JP,A)
【文献】 特開2000−037717(JP,A)
【文献】 特開平10−067009(JP,A)
【文献】 実開平05−007409(JP,U)
【文献】 特開平07−096512(JP,A)
【文献】 特開昭50−094004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
B28B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質シートと、
前記電解質シートの一方の主面上であって、前記電解質シートの周縁部以外の領域に配置された燃料極と、
前記電解質シートの他方の主面上であって、前記電解質シートの周縁部以外の領域に配置された空気極と、
を備え、
レーザー光学式三次元形状測定装置を使用し、前記電解質シートの前記周縁部表面にレーザー光を照射してその反射光を三次元解析することにより求められる、前記電解質シートの前記燃料極又は前記空気極が形成されている領域のシート面を基準とする前記電解質シートの周縁部高さにおいて、前記電解質シート周縁端の高さ(h1)と、当該周縁端から3mm内側の位置における高さ(h2)との差(Δh)の最大値が50μm以下である、
固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セル。
【請求項2】
前記電解質シートの断面形状において、前記電解質シートの周縁端の少なくとも一部が、円弧状の曲面を有する、
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セル。
【請求項3】
前記円弧状の曲面が、2μm〜100μmの曲率半径を有する、
請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セル。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セルを備えた固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セルを製造する方法であって、
電解質シート用のグリーンシートを作製し、前記グリーンシートに対して端面処理を施し、端面処理が施された前記グリーンシートを焼成して電解質シートを作製する工程と、
前記電解質シートの一方の主面上であって、前記電解質シートの周縁部以外の領域に、燃料極を形成する工程と、
前記電解質シートの他方の主面上であって、前記電解質シートの周縁部以外の領域に、空気極を形成する工程と、
を含む、固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電解質支持型セルと、当該セルに用いられる電解質シートと、当該セルを備えた固体酸化物形燃料電池とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、クリーンエネルギー源として注目されている。燃料電池のうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」と記載する。)は、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力を得ることができる等の長所を有しており、家庭用電源から大規模発電まで幅広い分野での活用が期待されている。
【0003】
SOFC用のセルは、基本構造として、空気極と燃料極との間にセラミックからなる電解質層が配置された構造を有する。例えば平型のSOFCは、空気極、電解質シート及び燃料極を重ね合わせたものを単セルとする。平型のSOFCには、通常、高出力を得るために、この単セルがインターコネクタを挟んで複数積み重ねられたセルスタックが基本構造として用いられる。したがって、SOFCに用いられる電解質シートには、セルスタックが形成されるプロセスにおいてクラックや割れが生じないように、高い寸法精度及び高い平坦性等が要求される。
【0004】
例えば、特許文献1には、シート周縁部に生じるバリ高さを低減することによって、大きな積載荷重や熱ストレスを受けたときでもクラックや割れの発生が抑制できる、SOFC用の電解質シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4653135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のSOFC用の電解質シートでは、1枚のシートとしてのクラック及び割れの発生は大幅に低減されたものの、シート両面に電極を形成した電解質支持型セルを複数枚スタックにしたときに電解質シートの周縁部に発生するクラックについては、さらなる改善が要求されていた。
【0007】
電解質シート上に電極を形成する際、通常は、電解質シートに電極形成用ペーストを印刷し、それを乾燥させて焼成する。電極形成用ペーストの焼成時に、電解質シートの材料と電極材料との熱膨張差及び熱収縮差に起因する残留応力が電解質シート内部に発生して、その残留応力の影響でセル形成後の電解質シートの周縁部にバリが発生すると考えられる。したがって、たとえ電解質シート自体でシート周縁部のバリ高さが低減されていたとしても、セル形成後にシート周縁にバリが発生し、そのバリによってセルをスタックしたときに電解質シートの周縁部にクラックが発生することがある。
【0008】
そこで、本発明は、複数スタックしても電解質シートの周縁部にクラック等の不具合が生じにくいSOFC用電解質支持型セルを提供することを目的とする。さらに、そのような電解質支持型セルに用いることができるSOFC用電解質シートと、そのような電解質支持型セルを備えたSOFCを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
電解質シートと、
前記電解質シートの一方の主面上であって、前記電解質シートの周縁部以外の領域に配置された燃料極と、
前記電解質シートの他方の主面上であって、前記電解質シートの周縁部以外の領域に配置された空気極と、
を備え、
レーザー光学式三次元形状測定装置を使用し、前記電解質シートの前記周縁部表面にレーザー光を照射してその反射光を三次元解析することにより求められる、前記電解質シートの前記燃料極又は前記空気極が形成されている領域のシート面を基準とする前記電解質シートの周縁部高さにおいて、前記電解質シート周縁端の高さ(h1)と、当該周縁端から3mm内側の位置における高さ(h2)との差(Δh)の最大値が50μm以下である、
SOFC用電解質支持型セルを提供する。
【0010】
本発明は、また、上記本発明のSOFC用電解質支持型セルに用いられる電解質シートであって、前記電解質シートの周縁端の少なくとも一部が円弧状の曲面を有する、電解質シートを提供する。
【0011】
本発明は、また、上記本発明のSOFC用セルを備えたSOFCを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数スタックしても電解質シートの周縁部にクラック等の不具合が生じにくいSOFC用電解質支持型セルを提供できる。
【0013】
本発明の電解質シートでは、その周縁端の少なくとも一部が円弧状の曲面を有している。このような形状を有する電解質シートは、電解質シート上に電極が形成される際に発生する電解質シート内部の残留応力を低減できる。したがって、本発明の電解質シートによれば、セル形成後の電解質シートの周縁部に発生するバリ高さが低く抑えられるので、セルとして複数スタックされた場合でも電解質シートの周縁部にクラック等の不具合が生じにくい。
【0014】
本発明のSOFC用電解質支持型セルは、上記のとおり、複数スタックされても電解質シートの周縁部にクラック等の不具合が生じにくいという効果を奏する。したがって、このようなSOFC用電解質支持型セルを備えた本発明のSOFCは、高い信頼性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のSOFC用電解質支持型セルの一実施形態を示す断面図である。
図2】SOFC用電解質支持型セルを構成している電解質シートであって、トルエンによる端面処理が施された電解質シートの一例について、その周縁端のレーザー顕微鏡断面写真を示す。
図3】端面処理が施されない電解質シートの一例について、その周縁端のレーザー顕微鏡断面写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態1)
本発明のSOFC用電解質支持型セルの実施形態について、具体的に説明する。
【0017】
図1に、本実施形態のSOFC用電解質支持型セルの一例を示す。本実施形態の電解質支持型セル1は、電解質シート11と、燃料極12と、空気極13とを備える。燃料極12は、電解質シート11の一方の主面上であって、電解質シート11の周縁部以外の領域に配置されている。空気極13は、電解質シート11の他方の主面上であって、電解質シート11の周縁部以外の領域に配置されている。ここで、前記周縁部とは、電解質シート11の周縁端11aから例えば3〜10mmまで内側の幅の領域とできる。
【0018】
電解質シート11は、電解質シート周縁端の高さ(h1)と、当該周縁端から3mm内側の位置における高さ(h2)との差(Δh)の最大値が50μm以下を満たすものである。ここで、電解質シート周縁端の高さ(h1)及び当該周縁端から3mm内側の位置における高さ(h2)は、レーザー光学式三次元形状測定装置を使用し、電解質シート11の前記周縁部表面にレーザー光を照射してその反射光を三次元解析することにより求められる高さであり、電解質シート11の燃料極12又は空気極13が形成されている領域のシート面を基準とする高さである。以下、Δhの値を、電解質シート11のバリ高さと記載することがある。
【0019】
電解質支持型セル1における電解質シート11が、バリ高さの最大値が50μm以下を満たすことにより、当該セル1を複数スタックした場合でも電解質シート11の周縁部にクラック等の不具合が生じにくくなるので、信頼性の高いSOFCを実現できる。
【0020】
セル1においてバリ高さの最大値が上記範囲を満たす電解質シート11は、例えば、周縁端11aの少なくとも一部が円弧状の曲面(R面)を有する電解質シートを用いることによって実現できる。また、周縁端11aの少なくとも一部において、周縁端11aの一方の面側の角部(電解質シートの一方の主面と、電解質シートの厚さ方向の面(シート端面)とが交わる角部)が直線的に面取りされた面(C面)となっている電解質シートを用いても、上記バリ高さの条件を満たす電解質シート11を実現できる。
【0021】
上記のような形状を有する電解質シートは、電解質シート上に電極が形成される際に発生する電解質シート内部の残留応力を低減できる。したがって、このような形状を有する電解質シートによれば、セル形成後の電解質シートの周縁部に発生するバリ高さが低く抑えられるので、セルとして複数スタックされた場合でも電解質シートの周縁部にクラック等の不具合が生じにくい。
【0022】
なお、電解質シート11の周縁端11aの少なくとも一部がR面又はC面を有していれば、電解質シート11上に電極が形成される際に発生する電解質シート内部の残留応力を低減できるが、より効率良く残留応力を低減してバリ高さを低く抑えるためには、電解質シート11の周縁端11aのうち互いに対向する2つの部分がR面又はC面を有することが望ましい。例えば電解質シート11が四角形の場合は、互いに対向する2つの辺上において対向する部分が、R面又はC面を有していることが望ましい。また、例えば電解質シート11が円形の場合は、電解質シート11の周縁端11aのうち、円の中心に対して互いに対向する部分がR面又はC面を有していることが望ましい。また、特に望ましいのは、電解質シート11の周縁端11aの全体がR面又はC面を有していることである。
【0023】
電解質シート11の周縁端11aは、R面を有していることが望ましい。電解質シート11がその周縁端11aにR面を有していることにより、電解質シート11上に電極が形成される際に発生する電解質シート内部の残留応力をより効果的に低減できるので、バリ高さをより低く抑えることができる。また、R面の曲率半径は、2μm〜100μmであることがより望ましい。R面の曲率半径をこの範囲内とすることにより、電解質シート11上に電極が形成される際に発生する電解質シート内部の残留応力を、より効果的に低減できる。
【0024】
電解質シート11の周縁端11aの少なくとも一部がC面を有している場合、そのC面は、周縁端11aの角部の先端から2〜100μm入り込んだ部分が切り取られることによって形成されていることが望ましい。
【0025】
なお、バリ高さの最大値が50μm以下を満たす限り、電解質シート11の形態は特に制限されない。電解質シート11の厚さは、例えば、10μm以上400μm以下とできる。電解質シート11は電解質支持型セルに適用されるので、電解質シート11の厚さは、例えば100μm以上400μm以下が好ましく、120μm以上300μm以下がより好ましい。
【0026】
電解質シート11の大きさは、特に制限されないが、例えば50cm2以上900cm2以下、好ましくは70cm2以上500cm2以下の平面面積を有する電解質シートが、好適に用いられる。
【0027】
上記電解質シートの場合、シートの形状としては、円形、楕円形およびR(アール)を持った角形など何れでもよい。これらのシート内に、同様の円形、楕円形、R(アール)を持った角形などの穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。なお、上記平面面積とは、シートが穴を有する場合は、当該穴の面積を含んだシート表面の面積(シート外形によって決定される面積)を意味する。なお、シート周縁端及びシート周縁部は、一般には、それぞれ電解質シートの外周端及び外周部のことを指すが、穴が形成されている電解質シートの場合はその穴の周縁端及び周縁部もさらに含まれる。
【0028】
電解質シート11は、一般的なSOFC用電解質シートの製造方法を利用できる。すなわち、電解質シート用のグリーンシートを準備し、このグリーンシートを焼成することによって、電解質シート11を得ることができる。電解質シート11はその周縁端11aの少なくとも一部にR面又はC面を有するので、上記プロセスに加えて、準備されたグリーンシートに対する端面処理のプロセスが実施される。
【0029】
まず、電解質シート11の電解質成分の原料粉末が準備される。電解質成分は、SOFC用電解質シートの電解質成分として用いられる公知の材料の中から適宜選択できる。例えば、イットリア、セリア、スカンジア、イッテルビア等で安定化されたジルコニア;イットリア、サマリア、ガドリニア等でドープされたセリア;ランタンガレート、及びランタンガレートのランタン又はガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅等で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物、等を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、イットリア、スカンジア、イッテルビア等で安定化されたジルコニアが好適である。
【0030】
次に、準備された原料粉末を用いて、電解質シート11用のグリーンシートを作製する。電解質シート11用のグリーンシートの作製には、テープ成形法が好適に用いられ、特にドクタープレート法及びカレンダー法が好適に用いられる。具体的には、まず、原料粉末に、バインダー及び添加剤を添加し、さらに必要に応じて分散媒等を添加して、スラリーを調製する。このスラリーを、支持板又はキャリヤフィルム上に敷き延べてシート状に成形し、これを乾燥させて分散媒を揮発させて、グリーンシートを得る。このグリーンシートを切断及び/又はパンチング等により適切なサイズに揃えて、電解質シート11用のグリーンシートを作製する。なお、スラリーの作製に用いられるバインダー、溶剤及び分散剤等には、SOFC用電解質シートの製造に用いられる公知のバインダー、溶剤及び分散剤等が使用できる。
【0031】
次に、準備されたグリーンシートに対して端面処理を施す。端面処理は、例えば、グリーンシートを溶解可能な溶媒を、グリーンシートの端面に接触させる方法、又は、グリーンシートの端面をブラッシング等によって研磨する方法等によって実施できる。
【0032】
グリーンシートを溶解可能な溶媒を、グリーンシートの端面に接触させる方法は、例えば、グリーンシートを支持板上に載置して、グリーンシートの周縁端のうち端面処理を施す部分に、グリーンシートを溶解可能な溶媒を浸み込ませた紙タオルを擦りつけることによって実施できる。グリーンシートを溶解可能な溶媒は、グリーンシートの材質等に応じて適宜選択することができるが、例えばトルエンが使用できる。溶媒を浸み込ませた紙タオルを擦り付ける回数は、特に限定されず、目的とする形状に応じて適宜調整すればよい。実際にトルエンを用いて端面処理が施されたグリーンシートを用いて作製された電解質シートの一例について、その周縁端のレーザー顕微鏡断面写真を図2に示す。比較のために、図3には、端面処理が施されないグリーンシートを用いて作製された電解質シートの周縁端のレーザー顕微鏡断面写真を示す。なお、図2及び図3に示された電解質シートは、具体的には、寸法が約100mm角で厚さが約170μmである、6モル%のスカンジアで安定化されたジルコニア(6ScSZ)電解質シートである。
【0033】
グリーンシートの端面をブラッシングによって研磨する方法は、グリーンシートを支持板上に載置して、グリーンシートの周縁端のうち端面処理を施す部分に、回転するブラシを擦りつけてブラッシングすることによって実施できる。ブラシの回転数及びブラシの材質等は、グリーンシートの材質等に応じて適宜選択することができる。ブラッシングの回数は、特に限定されず、目的とする形状に応じて適宜調整すればよい。
【0034】
次に、電解質シート11用のグリーンシートを焼成する。上記のとおり得られた電解質シート11用のグリーンシートを、棚板上の多孔質セッター上に載置する。例えば、棚板上に、多孔質セッターと、上記のように作製された電解質シート11用のグリーンシートとを、最下層及び最上層に多孔質セッターが配置されるように交互に積み重ねて、多孔質セッターとグリーンシートとからなる積層体を配置してもよい。このように配置されたグリーンシートを、例えば1200〜1500℃、好ましくは1250〜1425℃程度の温度で、1〜5時間程度加熱焼成する。焼成時の温度が1500℃を超えると、焼結体中に菱面体晶や単斜晶が生成しやすくなるためか、電解質シート11の常温での強度(常温強度)と高温耐久性とが共に悪くなる場合がある。一方、焼成温度が1200℃未満では、焼結不足となって緻密質のシートが得られ難くなり、電解質シート11が強度不足になるだけでなく、ガスを透過してしまう場合もある。しかし、上記温度範囲で焼成を行うと、単斜晶や菱面体の生成が抑制されると共に、得られるシートの相対密度を97%以上、好ましくは99%以上とすることができるので、常温強度と高温耐久性とに優れた焼結体シートが得られる。なお、相対密度とは、理論密度に対するアルキメデス法で測定した密度の相対値(アルキメデス法で測定した密度/理論密度)である。なお、グリーンシートの焼成に用いられる多孔質セッターには、SOFC用電解質シートの製造に用いられる公知の多孔質セッターが使用できる。
【0035】
以上の方法により、その周縁端の少なくとも一部にR面又はC面を有する電解質シート11が得られる。
【0036】
以上のように作製された電解質シート11の一方の主面上に燃料極12が形成され、他方の主面上に空気極13を形成される。燃料極11及び空気極12には、公知のSOFC用電解質支持型セルに用いられる燃料極及び空気極が、それぞれ適用できる。具体的には、まず、燃料極12又は空気極13を構成する材料の粉体に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤等を添加してスラリーを調製する。このスラリーを、電解質シート11の一方又は他方の主面上に所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによって、燃料極12用又は空気極13用のグリーン層が形成される。そのグリーン層を焼成することによって、燃料極12又は空気極13が得られる。焼成温度等の焼成条件は、燃料極12及び空気極13に用いられるそれぞれの材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。燃料極12及び空気極13を構成する材料には、公知のSOFC用電解質支持型セルの燃料極及び空気極に用いられる材料を、それぞれ用いることができる。また、燃料極12及び空気極13用のスラリーの作製に用いられるバインダー及び溶媒等の種類には特に制限がなく、SOFCの燃料極及び空気極の製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。
【0037】
上記のとおり、電解質シート11はバリ高さが低く抑えられている。したがって、例えばスクリーン印刷で電解質シート11上に電極形成用のグリーン層を形成する際に、高いバリが存在することによって電解質シートが破損してしまう、という問題の発生も低減できる。
【0038】
(実施の形態2)
本発明のSOFCの実施形態について説明する。本実施形態のSOFCは、実施の形態1で説明したSOFC用電解質支持型セル1を備えている。本実施形態のSOFCは、例えば、積層されて互いに直列接続(スタック化)された複数のSOFC用セルを備えている。このとき、隣接するSOFC用セルを互いに電気的に接続すると同時に、マニホールドを介して燃料極と空気極とにそれぞれ燃料ガスと酸化剤ガスとを適正に分配する目的で、セル間に金属またはセラミックスからなるセパレータが配置される。なお、セパレータは、インターコネクタとも呼ばれる。
【0039】
本実施形態のSOFCに用いられるSOFC用セルは、実施の形態1で説明したとおり、複数スタックしても電解質シートの周縁部にクラック等の不具合が生じにくい。したがって、本実施形態のSOFCは、高い信頼性を有する。
【実施例】
【0040】
次に、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0041】
<グリーンシートの作製>
6モル%スカンジア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素社製、商品名「6ScSZ」、比表面積:11m2/g、平均粒子径:0.5μm、以下「6ScSZ」と記す。)100質量部に対して、メタアクリレート系共重合体(数平均分子量:100,000、ガラス転位温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)からなるバインダーを固形分換算で17質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部を、トルエン/イソプロパノール(質量比:3/2)の混合溶剤と共にナイロンポットに投入し、60rpmで20時間ミリングして原料スラリーを調製した。このスラリーを減圧脱泡容器へ移し、3.99kPa〜21.3kPaに減圧して濃縮・脱泡し、粘度が2.5Pa・sの塗工用スラリーとした。
【0042】
得られた塗工用スラリーを塗工装置のスラリーダムに移して、塗工部のドクターブレードによってポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に連続的に塗工し、塗工部に続く110℃の乾燥炉に0.15m/分の速度で通過させて溶剤を蒸発させ、乾燥させることにより、厚さ約200μmの長尺6ScSZグリーンテープを成形した。得られたグリーンテープは、23℃における引張試験による引張破壊伸び率が15%であり、且つ、引張降伏強さが13.9MPaであった。当該グリーンテープを直刃で切断して、約125mm角の6ScSZグリーンシート90枚を得た。そのうち30枚は、以下のグリーンシート端面処理を実施せず、無処理の6ScSZグリーンシート(6ScSZ−CG)とした。
【0043】
<グリーンシート端面処理>
(1)トルエンによる端面処理
得られた上記6ScSZグリーンシートを、PETフィルムを貼り付けた支持板上に載置した。グリーンシートの4辺の端面のうちの1辺の端面と支持板の端面とが同一面になるように、グリーンシートの位置を調整した。次いで、グリーンシートの周縁端の上面側の全角部(グリーンシート上面と、グリーンシートの厚さ方向の面(グリーンシート端面)とが交わるコーナー部)を、トルエンを浸み込ませた市販の紙タオルでグリーンシートの一方の頂点から他方の頂点に同じ方向で2回擦りつけて、トルエンによる端面処理を行った。この操作を、グリーンシートの他の3辺の端面についても同様に行った後、支持板上のグリーンシートを裏返して、グリーンシートの周縁端の下面側の4辺についても同様にトルエン処理を行った。このようにして、トルエンで端面処理された6ScSZグリーンシート(6ScSZ−TG)を30枚得た。
【0044】
(2)ブラシによる端面処理
得られた上記6ScSZグリーンシートを、PETフィルムを貼り付けた支持板上に載置した。グリーンシートの4辺の端面のうちの1辺の端面と支持板の端面が同一面になるように、グリーンシートの位置を調整した。次いでグリーンシートの周縁端の上面側の全角部を、800rpmで回転する静電処理されたナイロンブラシ(繊維径:約0.03mm、繊維長:約10mm)を用いて、上記と同様にグリーンシートの一方の頂点から他方の頂点に同じ方向で2回擦りつけて、ブラシによる端面処理を行った。この操作を他の3辺の端面についても同様に行った後、支持板上のグリーンシートを裏返してグリーンシートの周縁端の下面側の4辺についても同様にブラシ処理を行った。このようにして、ブラシで端面処理された6ScSZグリーンシート(6ScSZ−BG)を30枚得た。
【0045】
<アルミナスペーサーの作製>
平均粒径55μmの不定形アルミナ粒子(昭和電工社製、商品名「Al−15」)100質量部に対して、上記グリーンシートの作製で用いた溶媒と同様の溶媒40質量部、分散剤2.5質量部を添加して、粉砕しつつ混合した。さらに同様のバインダー15質量部、可塑剤2質量部を混合してスラリーを作製し、当該スラリーを用いて、グリーンシートの作製と同様にして厚さ280μmの長尺アルミナグリーンテープを得た。さらに当該グリーンテープを直刃で切断して約160mm角のアルミナ系グリーンシートを得た。このグリーンシートを1580℃で3時間焼成することにより、気孔率が35%で、約130mm角、厚さ260μmの多孔質アルミナスペーサーを得た。
【0046】
<電解質シートの作製>
前記の端面無処理のグリーンシート(6ScSZ−CG)と上記多孔質アルミナスペーサーと用いて、スペーサーを下にして交互に5枚重ね、さらにその上部にスペーサーを載置して積層体とした。得られた6組の積層体をそれぞれアルミナ/シリカ系の棚板の上に載置し、バッチ式焼成炉へ挿入して1420℃で3時間焼成し、約100mm角で厚さが約170μmの電解質シート(6ScSZ−CS)を計30枚作製した。同様に、端面処理されたグリーンシート(6ScSZ−TG及び6ScSZ−BG)と、上記多孔質アルミナスペーサーと用いて、約100mm角で厚さが約170μmの、6ScSZ−TGを用いた電解質シート(6ScSZ−TS)30枚と、同じく約100mm角で厚さが約170μmの、6ScSZ−BGを用いた電解質シート(6ScSZ−BS)30枚とを作製した。
【0047】
<単セルの作製>
電解質シート(6ScSZ−CS、6ScSZ−TS及び6ScSZ−BS)を用い、各電解質シートの一方の面に燃料極、他方の面に空気極を形成して、SOFC用電解質支持型セルをそれぞれ10枚作製した。
【0048】
詳しくは、各電解質シートの一方の主面に、塩基性炭酸ニッケルを熱分解して得た平均粒子径0.9μmの酸化ニッケル粉末60質量部と市販の8YSZ系粉末(第一稀元素社製)40質量部とからなる燃料極ペーストを、スクリーン印刷で各電解質シートの周縁端から5mm幅の周縁部を除いて塗布し、乾燥させた。また、電解質シートの他方の主面に、市販のストロンチウムドープドランタンマンガネート(La0.6Sr0.4MnO3)粉末80質量部と市販の20モル%ガドリニアドープセリア粉末20質量部とからなる空気極ペーストを、燃料極ペーストの場合と同様にスクリーン印刷で塗布し、乾燥させた。次いで、両面に電極が塗布された電解質シートを、1300℃で3時間焼成して、厚さが40μmの燃料極層と厚さが30μmの空気極層とが形成された、3層構造の単セル(6ScSZ−CC(6ScSZ−CSを用いた単セル)、6ScSZ−TC(6ScSZ−TSを用いた単セル)及び6ScSZ−BC(6ScSZ−BSを用いた単セル))を作製した。
【0049】
<単セルの電解質シート周縁部のバリ高さ測定>
前記3種の単セル(6ScSZ−CC、6ScSZ−TC及び6ScSZ−BC)について、それぞれ5枚のセルの4辺について、1辺あたり任意の10箇所の周縁端と当該周縁端から3mm内側の位置の位置との表面形状を、レーザー光学式非接触三次元形状測定装置(UBM社製商品名「UBC−14型」マイクロフォーカス エキスパート)を用いて測定した。この装置の主な仕様は、光源は半導体レーザー(780nm)、スポット系1μm、垂直分離能0.01μmであった。ここでは、0.1mmのピッチで表面形状を測定して、燃料極又は空気極が形成されている領域のシート面を基準とする電解質シートの各周縁端の高さ(h1)と、当該周縁端から3mm内側の位置における高さ(h2)を求めて、それらの差(Δh)の最大の値をバリ高さとした。それぞれの単セル5枚のバリ高さを表1に示す。
【0050】
また、バリ高さ測定後の単セルについて、それぞれ5枚を中央部で2つに割り、超深度カラー3D形状測定レーザー光顕微鏡(キーエンス製、商品名「VK−9500」)を用いて単セル断面の粒子画像を取り込み、これを印刷して、印刷された単セル中の電解質シートの周縁端部の断面状態を観察するとともに、定規で曲率半径を計測した。それぞれの単セル5枚の曲率半径平均値を表1に示す。
【0051】
<模擬スタック耐荷重負荷試験>
前記3種の単セル(6ScSZ−CC、6ScSZ−TC及び6ScSZ−BC)それぞれ5枚と、疑似インターコネクタとして100mm角で3mm厚さの表面が平滑で平行度を保ったステンレス板(SUS304)6枚とを用いて、ステンレス板が最上部と最下部になるように交互に積み重ねてそれぞれ3組の積層体(6ScSZ−5CS、6ScSZ−5TS及び6ScSZ−5BS)とした。各積層体を、万能材料試験機(インストロン社製、4301型)の試料台に置き、0.02MPaの荷重をクロスヘッド速度0.05mm/分で付加し、10分保持後の各セルの割れ状況を目視で観察した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
セルにおける電解質シートのバリ高さの最大値、すなわち電解質シート周縁端の高さ(h1)と当該周縁端から3mm内側の位置における高さ(h2)との差(Δh)の最大値が、50μm以下を満たす6ScSZ−TC及び6ScSZ−BCのセルは、複数のセルをスタックさせた場合にクラックが発生しなかった。これに対し、セルにおける電解質シートのバリ高さの最大値が50μmを超えていた6ScSZ−CCのセルは、複数のセルをスタックさせた場合に電解質シートのクラックが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のSOFC用電解質支持型セル、電解質シート及びSOFCは、信頼性の高い強度特性を備えているので、SOFCの信頼性向上に寄与できるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 SOFC用電解質支持型セル
11 電解質シート
11a 電解質シートの周縁端
12 燃料極
13 空気極
図1
図2
図3