(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態であるキャンドモータポンプ10の構成を示す断面図である。また、
図2は、当該キャンドモータポンプ10で用いられるステータコア42の斜視図である。
【0017】
キャンドモータポンプ10は、インペラ16を回転させて取り扱い流体を送り出すポンプ12と、インペラ16を回転駆動するモータ14と、に大別される。インペラ16は、モータ14の回転軸28に取り付けられた状態でケーシング18内に設けられており、モータ14の駆動に伴い回転する。インペラ16が回転することにより、取り扱い流体が、インペラ16の正面に位置する吸込口20から吸い込まれ、インペラ16の外周より吐出口22に向かって送り出される。
【0018】
モータ14のロータ24は、略円筒形のキャン30に収容されている。キャン30の内部には、ロータ24および回転軸28が設置されている。回転軸28は、ベアリング26を介して回転可能に支持されている。この回転軸28には、モータ14のロータ24が固着されており、回転軸28とロータ24は、連動して回転する。略円筒形のキャン30の後端は、後端壁32により閉鎖されており、キャン30の内部は、外部に対して密閉されている。一方、キャン30の前端は、ケーシング18に接続されており、ケーシング18内の取り扱い流体がキャン30内に流入出できるようになっている。また、回転軸28の内部には、軸方向に延びる流路28aが形成されており、ケーシング18内の取り扱い流体は、当該流路28aを介しても、キャン30の内部に流入出できるようになっている。キャン30の内部は、取り扱い流体で満たされている。
【0019】
キャン30の外周囲には、ステータ40が設置されている。ステータ40は、ステータコア42および当該ステータコア42に巻回されたステータコイル44から構成されている。ステータコア42は、電磁鋼板を軸方向に積層することで構成される略円筒形部材で、その内周面には複数のティースが形成されている。かかるステータ40は、略円筒形のモータケース50内に収容されている。モータケース50は、
図1に示す通り、その一部は完全に外部に露出しており、キャンドモータポンプ10の外表面を構成する。
【0020】
ここで、キャンドモータポンプ10を駆動した際には、モータ14において熱が発生する。一般のモータ14の発熱の対象はロータ24であるが、キャンドモータポンプ10の場合は、ロータ24の周りには、取り扱い流体である液体が満たされているため、ロータ24は迅速に冷却される。そのため、キャンドモータポンプ10では、発熱の対象はステータ40側となり、コイルエンド部46が一番高温になる。従来は、モータ14の性能を十分に生かすために、コイルエンド部46の温度が、ステータコイル44(コイルに用いられる絶縁材料)の許容温度を超えない範囲で、極力高い出力が得られるように通電量を制御していた。例えば、ステータコイル44の許容温度が220℃である場合には、コイルエンド部46の温度が220℃以下になるように、モータ14の出力が制御されていた。また、従来は、コイルエンド部46の温度上昇を抑制するために、ステータ40で生じた熱を、積極的に、モータケース50に伝達し、外部に放出する構成が多用されていた。
【0021】
しかし、近年では、表面温度をより低減したいというユーザの希望が強くなっている。従来の構成では、こうした表面温度に対するユーザの要望に応えられない場合がでてきた。
【0022】
例えば、IEC79では、電気機械機器の表面温度に関して、最高表面温度450℃以下を温度等級「T1」、最高表面温度300℃以下を温度等級「T2」、最高表面温度200℃以下を温度等級「T3」、最高表面温度135℃以下を温度等級「T4」、最高表面温度100℃以下を温度等級「T5」、最高表面温度85℃以下を温度等級「T6」と、規定している。従来は、温度等級T3(表面温度200℃以下)程度であれば、ユーザの要望を充足できる場合が多かったが、近年では、表面温度に対する要望がより厳しくなり、温度等級T4(表面温度135℃以下)、あるいは、温度等級T5(表面温度100℃以下)にして欲しいという要望が増えてきた。つまり、近年では、ステータコイル44の許容温度に比べて、電気機械器具の表面温度に対する制限のほうが厳しくなってきた。
【0023】
かかる状況において、従来と同様に、コイルエンド部46がコイル許容温度に到達するまでモータ14を駆動し、かつ、ステータ40で生じた熱をモータケース50に伝達すると、モータケース50の表面温度(電気機械器具の表面温度)が、求められる温度等級を超えてしまい、表面温度に関する要望を満たすことが出来ない。
【0024】
モータケース50を介して放熱を行っていた従来技術において、表面温度に関する要望を満たすためには、モータ14への通電量を大幅に制限してステータ40の温度上昇を抑える必要があった。しかし、モータ14への通電量を制限した場合には、十分な出力が得られない恐れがあった。かかる問題は、比較的、小さい通電量でも大きな出力が得られる大型モータを用いれば解決できるが、大型モータを用いた場合には、キャンドモータポンプ10全体の大型化、重量化、コスト増加などの新たな問題が生じる。
【0025】
そこで、本実施形態では、こうした問題を解決するために、ステータコア42の内部からモータケース50の外表面への熱の伝達を減少させる熱抵抗構造を設けた。熱抵抗構造としては、種々の構造が考えられるが、本実施形態では、ステータコア42の外表面と、モータケース50の内表面との間に空間60(以下「熱抵抗空間60」という)を設けている。より具体的には、本実施形態では、ステータコア42の外表面に凹部62を形成した。この凹部62は、
図2に示すように、ステータコア42の外表面において、周方向に延びる複数の溝64で構成される。かかる溝64を設けることにより、ステータコア42の外表面とモータケース50の内表面との間に空気層(熱抵抗空間60)が形成される。
【0026】
この空気層は、ステータコア42からモータケース50への熱伝達を減少させる熱抵抗として機能する。そのため、本実施形態によれば、ステータコア42からモータケース50に伝達される熱量を大幅に低減でき、ひいては、モータケース50外表面の温度の上昇を大幅に制限できる。そして、これにより、コイルエンド部46が許容温度に到達するまでモータ14出力を高めた(通電量を増加させた)としても、モータケース50外表面の温度は比較的、低い温度のまま保つことができる。つまり、本実施形態によれば、モータ14の出力を低下させることなく、表面温度を低く保てる。また、所望の出力を得るために、大型のモータ14を使用する必要がないため、キャンドモータポンプ10全体の大型化・重量化を避けることができ、コストも低く抑えることができる。
【0027】
なお、本実施形態では、ステータコア42の外表面のうち、50%以上が、この凹部62(溝64)になるようにしている。これは、ステータコア42・モータケース50間の熱抵抗を、ステータコア42・モータケース50が互いに全面密着していた従来構造の二倍程度にすることを想定しているためである。
【0028】
ただし、凹部62の面積は、モータ14の駆動に伴いコイルエンド部46がステータコイル44の許容温度に到達したときのモータケース50の外表面温度が、製品仕様で定められた規定温度以下になるように設定されるのであれば、特に限定されない。
【0029】
ここで、ステータコア42の外表面のうちモータケース50の内表面に接触する面積と、モータケース50の外表面温度との関係について、
図3を参照して説明する。
図3は、キャンドモータポンプ10を模式的に表した熱抵抗回路である。
図3に示すように、キャンドモータポンプ10は、ステータコア42の内部が、熱抵抗R1を介してコイルエンド部46に、熱抵抗R2を介してモータケース50の外表面に、熱抵抗R3を介してキャン30内の液体に、それぞれ接続されている熱抵抗回路をみなすことができる。
【0030】
モータ14の性能を十分に生かすためには、モータ14の出力を、ステータコイル44が許容温度に到達しない範囲で、高くすることが望まれる。したがって、モータ14の性能を十分に生かし、かつ、表面温度を製品仕様で規定された規定温度以下に保つためには、コイルエンド部46の温度Taが、ステータコイル44の許容温度に到達したときに、モータケース50の外表面の温度Tcを、規定温度以下に保つ必要がある。
【0031】
ここで、コイルエンド部46の温度Taがコイル許容温度に到達したときのコア内部の温度Tbは、モータ14およびキャン30等の構成によりほぼ決まり、凹部62の面積に応じて変化することは殆どない。
【0032】
一方、コア内部−ケース外表面間の熱抵抗R2、ひいては、ケース外表面の温度Tcは、凹部62の面積によって大きく変化する。具体的には、凹部62の面積が大きいほど熱抵抗R2は大きくなり、ケース外表面の温度Tcは低くなる。そこで、本実施形態では、ケース外表面の温度Tcが、製品仕様で定められた温度以下となるべく、凹部62の面積を調整している。
【0033】
この凹部62の面積(換言すればステータコア42とモータケース50との接触面積)と、外表面温度との関係について、より詳細に説明すると次のようになる。
【0034】
熱伝導はフーリエの法則に従い定常状態に於いて、単位時間に単位面積を通過する熱量qは温度勾配に比例する。したがって、λを熱伝導度、Aを断面積、(dt/dx)を温度勾配とすると、熱量qは、q=−λA(dt/dx)と表すことができる。
【0035】
ここで、ステータコア42を、内半径r1、外半径r2、長さLの円管と仮定し、その内面および外面の温度をそれぞれt1,t2とする。この場合において、円管壁内の半径rの位置にある、厚さdrの薄い同心円管を考えると、この部分での定常伝熱速度qは、次の式1のようになる。
q=−λ(2πrL)(dt/dr)
q(dr/r)=−λ(2πL)dt (式1)
これを円管内面から外面まで積分し整理すると、次の式2が得られる。
q=λ(2πL)(t1−t2)/ln(r2/r1)
=λ(2πL)Δt/ln(r2/r1) (式2)
【0036】
ここで、円管の内表面積A1、外表面積A2、円管壁の厚さxとすれば、A1=2πr1L、A2=2πr2L、x=r2−r1であるから、
q=λ(A2−A1)/ln(A2/A1)*Δt/x (式3)
となる。Aav=(A2−A1)/ln(A2/A1)とおけば、式3は、次の式4のように書くことができる。
q=(λ・Aav・Δt)/x (式4)
ここで、熱抵抗Rは、単位時間当たりの発熱量あたりの温度上昇量であるから、式5が得られる。
R=Δt/q=x/(λ・Aav) (式5)
つまり、Δt=(q・R)=(q・x)/(λ・Aav)であり、温度差Δtは、Aavに反比例、熱抵抗Rに比例することが分かる。
【0037】
一例として、既存の7.5kWのモータ14のステータコア42を考える。既存のステータコア42は、外径が200mm(直径)、内径(スロットの外側径)が120mm(直径)、コア長さ250mmである。かかるステータコア42の場合、外表面積A2=0.1571m2、内表面積A1=0.0942m2、円環壁厚さx=0.04m、Aav=0.1230m2となる。そして、かかるステータコア42を有するモータ14を規定の出力で駆動した場合、内面と表面との温度差ΔtはΔt=50℃であった。
【0038】
ここで、本実施形態に示すように、ステータコア42の表面に凹部62を設け、モータケース50との接触面積を既存のステータコア42の50%とした場合を考える。この場合において、外表面積A2´は50%減となるので、A2′≒0.5*0.1571=0.0786m2となり、Aav′=0.0862m2となる。したがって、この場合の温度差Δt´は、Δt´=Aav′/Aav*Δt=0.7*Δt=0.7*50℃=35℃となる。
【0039】
ステータコア42の内表面の温度Tbが60℃と観測された時、既存のステータコア42ではモータケース50の表面温度Tcは、Tc=Tb+Δt=60℃+50℃=110℃であり、温度等級は「T4」になる。一方、本実施形態では、Tc=Tb+Δt´=60℃+35℃=95℃となり、温度等級を一段階低い「T5」にすることができる。
【0040】
つまり、ステータコア42の表面に凹部62を設けることにより、モータケース50の表面温度を低減できることがわかる。なお、ステータコア42に生じた熱が、モータケース50の一部に集中して伝達されることを防止するために、凹部62は、ステータコア42の外表面全体に分散して形成されることが望ましい。ただし、ステータコア42の内部の温度は、軸方向中央に近づくにつれ、高くなることが知られている。そのため、モータケース50の外表面温度を、より均等にするためには、ステータコア42の軸方向中央に近づくにつれ熱抵抗が高くなるように凹部62の配置を決定することが望ましい。すなわち、ステータコア42の軸方向中央に近づくにつれ、凹部62の分布密度を高くすることが望ましい。例えば、
図4に示すように、このステータコア42の軸方向中央に近づくにつれ、一つの溝64(凹部62)の幅を広げたり、あるいは、単位面積当たりの溝64の本数を増やしたりすることが望ましい。
【0041】
また、本実施形態では、凹部62として、周方向に延びる溝64を形成したが、ステータコア42の外表面に形成された凹部62であるなら、他の形状であってもよい。例えば、
図5に示すように、ステータコア42の外表面において軸方向に延びる複数の溝64を、周方向に均等に形成してもよい。なお、
図5では、各溝64の幅を軸方向一定としているが、各溝64の幅は、軸方向中央に近づくにつれ幅広になるように変化してもよい。
【0042】
また、ステータコア42の外表面とモータケース50の内表面との間に空間を形成できるのであれば、溝64に限らず、他の形態の凹部62でもよい。例えば、ステータコア42の表面において、複数の略矩形の凹が、周方向および軸方向に間隔を開けて市松状に並ぶようにしてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、ステータコア42の外表面に凹部62を形成したが、ステータコア42の外表面とモータケース50の内表面の間に熱抵抗空間60を形成できるのであれば、他の構成であってもよい。例えば、ステータコア42とモータケース50との間に、両者に部分的に接触する中間部材を介在させて、熱抵抗空間60を形成してもよい。
図6は、ステータコア42とモータケース50の間に中間部材66を介在させた場合の概略横断面図である。また、
図7は、
図6で用いられる中間部材66の斜視図である。この中間部材66としては、いわゆる「トレランスリング」を用いることができる。トレランスリングは、同心状に配された二つの管体の相対位置関係を保持するために、当該二つの管体の間に配される部材で、例えば、特開2012−52638号公報等に開示されている。かかるトレランスリング(中間部材66)は、例えば、
図7に示すように、プレス成型などにより、一枚の金属板を断面略C字状に成形した部材である。このトレランスリングの軸方向端部近傍には、外側に向かって突出する複数の凸部66aが形成されている。この凸部66aは、外側に配された管体の内径に応じて弾性変形するバネとして機能する。
【0044】
かかるトレランスリングをステータコア42とモータケース50の間に配すると、
図6に示すように、凸部66aのバネ力により、ステータコア42が、モータケース50との間に一定の間隔を開けた状態で保持される。そして、これにより、ステータコア42とモータケース50の間に空間(熱抵抗空間60)が形成され、両者間の熱抵抗が高くなる。その結果、上述した実施形態と同様に、ステータコア42からモータケース50に伝達される熱量を大幅に低減でき、ひいては、モータケース50外表面の温度の上昇を大幅に制限できる。
【0045】
なお、ここで説明した中間部材66の構成は一例であり、中間部材66は、モータケース50およびステータコア42に部分的に接触するものであれば、当然ながら、他の構成でもよい。例えば、ステータコア42の外周囲に固着されるリング状部材や、ステータコア42の外表面からモータケース50の内表面に向かって立脚する複数の柱部材などであってもよい。
【0046】
また、さらに別の形態として、ステータコア42とモータケース50との間に、中空の円筒部材を配置して、熱抵抗空間60を形成してもよい。この場合、円筒部材の内径は、ステータコア42の外径とほぼ同じであり、外径は、モータケース50の内径とほぼ同じである。また、この場合、円筒部材は、その内部が真空に保たれた真空チャンバであることが望ましい。また、さらに別の形態として、円筒部材を配置するのではなく、モータケース50そのものを、ステータコア42に接触する内管と、外部に露出する外管とを有した二重管構造としてもよい。この場合、内管と外管との間の空間を真空にし、モータケース50を、いわゆる魔法瓶のような構造にすることが望ましい。
【0047】
また、上述したいずれの形態においても、コイルエンド部46に、当該コイルエンド部46の温度を測定する温度センサ、または、許容温度を超えた場合に信号を出力する温度スイッチを設けておくことが望ましい。かかる温度センサまたは温度スイッチを設けることで、コイルエンド部46の過熱を防止でき、絶縁の安全を確保できる。また、本実施形態によれば、コイルエンド部46が、許容温度に到達した時点でも、モータケース50の表面温度が規定温度以下になるように設定されている。したがって、コイルエンド部46に、温度スイッチまたは温度センサを設けることで、モータケース50の表面温度を規定温度以下に保たれる。つまり、本実施形態によれば、コイルエンド部46に、温度スイッチまたは温度センサを設けておけば、絶縁の安全と防爆(温度等級)の安全を確保できる。
【0048】
次に、第二実施形態について説明する。
図8は、第二実施形態で用いられるステータコア42の正面図である。
図8に示すように、第二実施形態では、ステータコア42の外周縁近傍に、周方向に並ぶ、複数の抵抗用穴70を形成している。かかる抵抗用穴70を形成することにより、ステータコア42の内部とモータケース50の内表面との間に熱抵抗として機能する空気層が形成される。換言すれば、本実施形態では、この抵抗用穴70が熱抵抗構造として機能する。
【0049】
この抵抗用穴70は、
図8に示すように、周方向に均等に配置されており、各抵抗用穴70は、軸方向において貫通している。本実施形態において、抵抗用穴70の面積は、当該抵抗用穴70が形成されている半径位置における面積の50%以上であることが望ましい。すなわち、抵抗用穴70が形成される半径位置における円周をAとした場合、複数の抵抗用穴70の周方向距離の積算値は、A/2以上とすることが望ましい。
【0050】
ただし、抵抗用穴70の大きさは、第一実施形態と同様に、コイルエンド部46がステータコイル44の許容温度に到達したときのモータケース50の外表面温度が、製品仕様で定められた規定温度以下になるように設定されるのであれば、特に限定されない。
【0051】
いずれにしても、ステータコア42の内部に、穴を形成し、空気層を形成することで、当該空気層が熱抵抗として作用し、モータケース50に伝達される熱量が大幅に低減される。そして、結果として、モータ14の出力を低下させることなく、表面温度を低く保つことができる。なお、本実施形態においても、コイルエンド部46に温度スイッチまたは温度センサを設けることが望ましい。この場合、抵抗用穴70を、温度スイッチまたは温度センサのリード線の引き回しに利用してもよい。
【0052】
なお、
図8では、抵抗用穴70を、軸方向視において、径方向に長尺な形状とし、外周縁近傍に配置しているが、その形状や位置は適宜、変更されてもよい。例えば、抵抗穴は、
図9に示すように、軸方向視、略円形であってもよい。
【0053】
また、
図10に示すように、抵抗用穴70を、内径側に近い位置、具体的には、外周縁とスロットの背との中間位置、換言すれば、ステータコア42のコアバック部の径方向中間位置に配置してもよい。このように抵抗用穴70を、コアバック部(ヨーク部)の径方向略中間位置に配置することで、磁束の流れが抵抗用穴70によって阻害されることが低減され、磁束の流れを円滑に保つことができる。すなわち、モータ14を駆動した際、磁束は、ステータコア42のコアバック部を周方向に進む。この周方向に進む磁束の流れを妨げないように、抵抗用穴70は、コアバック部の径方向略中央に設けることが望ましい。
【0054】
また、磁束の流れを阻害しないためには、各抵抗用穴70は、磁束の流れに平行な方向に長尺な形状であることが望ましい。したがって、各抵抗用穴70は、
図11に示すように、周方向に長尺な略長方形や楕円などであることが望ましい。また、磁束の流れを阻害しないためには、
図11に示すように、複数の抵抗用穴70を、その径方向位置が交互にずれる千鳥状に配置することが、より望ましい。
【0055】
また、抵抗用穴70の形状は、一定である必要ななく、軸方向位置に応じて変化してもよい。例えば、上述した通り、ステータコア42の内部温度は、軸方向中央に近いほど高温となる。そのため、モータケース50の表面温度を均等に保つためには、軸方向中央に近づくほど、熱抵抗を大きくすることが望ましい。そこで、抵抗用穴70の面積を、軸方向中央に近づくほど大きくしてもよい。また、これまでの説明では、抵抗用穴70を、軸方向に貫通した貫通孔としているが、貫通孔でなくてもよい。例えば、軸方向中央部分にのみ、抵抗穴を形成してもよい。
【0056】
次に、第三実施形態について説明する。
図12は、第三実施形態のキャンドモータポンプ10の構成を示す断面図である。この第三実施形態は、第一実施形態と比べると、熱抵抗構造の構成のみが相違している。具体的には、第三実施形態では、ステータコア42の内部からモータケース50の外部への熱伝達を妨げる熱抵抗構造として、低伝熱部材80を設けている。低伝熱部材80は、伝熱性の低い材料、例えば、セラミックやグラスファイバなどからなる部材で、ステータコア42の外表面とモータケース50の内表面との間に配置される。かかる低伝熱部材80が、ステータコア42とモータケース50の間に介在することで、ステータコア42の内部からモータケース50の外表面に伝達される熱が大幅に低減され、ケース外表面の温度が大幅に低減される。そして、結果として、コイルエンド部46が許容温度に達するまで通電しても、モータケース50の表面温度を低く保つことができるため、モータ14の出力を低下させることなく、表面温度を低く保てる。
【0057】
なお、この低伝熱部材80は、ステータコア42とモータケース50との間に介在するのであれば、その形状等は特に限定されないが、熱抵抗をより向上させるためには、ステータコア42およびモータケース50のうち少なくとも一方との接触面積が小さくなる形状とすることが望ましい。例えば、
図13aに示すように、低伝熱部材80は、モータケース50との接触面積を低減するために、その外表面に凹凸が形成されてもよい。あるいは、逆に、ステータコア42との接触面積を低減するために、その内表面に凹凸が形成されてもよい。また、
図13bに示すように、モータケース50およびステータコア42との接触面積を低減するために、その外表面および内表面の両方に凹凸が形成されてもよい。
【0058】
いずれにしても、低伝熱部材80が介在することで、ステータコア42からモータケース50に伝達される熱量を大幅に低減でき、ひいては、モータケース50外表面の温度の上昇を大幅に制限できる。そして、これにより、コイルエンド部46が許容温度に到達するまでモータ出力を高めた(通電量を増加させた)としても、モータケース50の外表面の温度は比較的、低い温度のまま保つことができる。つまり、本実施形態によれば、モータ14の出力を低下させることなく、表面温度を低く保てる。
【0059】
なお、本願明細書で説明した熱抵抗構造は、いずれも、一例であり、ステータコイル44の許容温度に応じた出力でモータ14を駆動した際のモータケース50の外表面温度を規定の温度以下に保つべく、ステータコア42コアの内部からモータケース50の外表面への熱の伝達を減少できるのであれば、他の構成であってもよい。また、これまで説明した熱抵抗構造は、適宜、組み合わされてもよい。例えば、ステータコア42の外表面に凹部62を設けるとともに、ステータ40の内部に抵抗用穴70を設けたり、ステータコア42とモータケース50との間に中間部材66や低伝熱部材80を設けたりしてもよい。
【0060】
また、これまでの説明したような、ステータコア42とモータケース50の間の熱抵抗を高めることで、モータケース50の表面温度を低下させる構成に加えて、ステータコア42内部の温度を低下させる構成を追加してもよい。具体的には、
図14に示すように、コイルエンド部46とキャン30の間に、伝熱部材82を充填させてもよい。かかる構成とすることで、コイルエンド部46の熱が効率的に、当該伝熱部材82を介して、キャン30、ひいては、キャン30内の液体に伝達される。その結果、コイルエンド部46の温度上昇が抑えられ、ひいては、ステータコア42の内部の温度上昇も抑えられる。そのため、ステータコア42とモータケース50の間の熱抵抗の値が同じであっても、モータケース50の表面温度を低くすることができる。
【0061】
なお、コイルエンド部46とキャン30の間に充填される伝熱部材82としては、例えば、エポキシ樹脂やシリコン樹脂などの耐熱性に優れた樹脂に、伝熱性材料からなる粉体を混入させた部材を用いることができる。