【実施例】
【0026】
以下、実施例を交えてさらに詳しく本発明を説明する。なお、これらは例示であって本発明を限定するものではない。
【0027】
図3に、実施例において使用した装置の構成を示す。
赤泥内に安定な酸化物の形態で存在する金属成分を抽出するため、強酸と超音波を利用して恒温水槽内で加熱しながら抽出を行った。赤泥は、乾燥された粉末状態のものを(株)KCから研究目的で購入し、乾燥状態の赤泥をスラッジとしたものを用いた。この抽出処理前の乾燥状態での赤泥をXRF測定したところ、後述の表3上段に示すように、Fe
2O
3(35.5%)、Al
2O
3 (23.7%)、SiO
2(14.3%)、 TiO
2 (8.8%)、 Na
2O(8.6%)、CaO(7.8%)、その他(1.3%)という組成比率となっており、安定な酸化物の形態で、鉄が最も多く含まれ、次にアルミニウム、ケイ素、チタン、ナトリウム、カルシウムの順で含まれていることを確認した。赤泥のスラッジの液性は強い塩基性(pH=12〜13)を示した。
【0028】
強酸は、塩酸と硝酸の混合酸、塩酸、硝酸、硫酸を用いた。まず乾燥された赤泥をガラス容器に入れ、ここに強酸と水の比率を1:1〜1:3で混合して入れた。この時、赤泥と強酸の比率は1:1〜1:10とした。
【0029】
超音波の発生装置は 恒温水槽の底部に接するように配置し、一定の温度条件下で超音波を照射できるように構成した。
【0030】
まず、超音波を照射せずに強酸だけを使って高温で処理を行った場合、金属成分はほとんど抽出されなかった。特に、主な構成成分である鉄、アルミニウム、チタンは抽出されなかった。また、マイクロ波を照射しても金属成分は抽出されなかった。このことから、本発明において、超音波の照射が難溶性の金属成分を抽出するのに重要であることを確認できた。そこで、以下の実施例では、超音波の照射を必須の構成とした。
【0031】
超音波の照射条件は、ここでは、処理時間が長くなりすぎず、反応容器が破損しない範囲であることを考慮して、周波数36.7kHz、出力を280Wとした。
【0032】
強酸の種類及び量の組み合わせを変更した実施例を、実施例1〜4に示す。
【0033】
[実施例1]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、塩酸225mlと硝酸75mlの混合酸を加え、周波数36.7kHz 、280Wの出力の超音波を照射しながら恒温水槽の温度を75℃に保ち、6時間反応させた後、ろ過を行った。金属成分の抽出後、抽出液のICP測定を行い、抽出残渣は水分を除去するため60℃で乾燥させた。
【0034】
[実施例2]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、塩酸300mlを加え、周波数36.7kHz 、280Wの出力の超音波を照射しながら恒温水槽の温度を75℃に保ち、6時間反応させた後、ろ過を行った。金属成分の抽出後、抽出液のICP測定を行い、抽出残渣は水分を除去するため60℃で乾燥させた。
【0035】
[実施例3]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、硫酸300mlを加え、周波数36.7kHz 、280Wの出力の超音波を照射しながら恒温水槽の温度を75℃に保ち、6時間反応させた後、ろ過を行った。金属成分の抽出後、抽出液のICP測定を行い、抽出残渣は水分を除去するため60℃で乾燥させた。
【0036】
[実施例4]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、硝酸300mlを加え、周波数36.7kHz 、280Wの出力の超音波を照射しながら恒温水槽の温度を75℃に保ち、6時間反応させた後、ろ過を行った。金属成分の抽出後、抽出液のICP測定を行い、抽出残渣は水分を除去するため60℃で乾燥させた。
【0037】
実施例1〜4において、超音波を照射することにより金属成分が抽出され始めた。3〜4時間後から金属成分が徐々に溶出し、5〜8時間内にほとんどの金属成分が溶出した。赤泥から金属成分が抽出される程度はスラッジの色からも分かるが、最初赤色から金属成分が抽出されるに伴って黄土色に変わり、最終的には薄い黄土色になることから、目視によっても抽出されたことが確認出来た。
【0038】
実施例1〜4による抽出成分をICP分析(ICP-MS, PerkinElmer, OPTIMA
2100DV, アメリカ)したものを表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、超音波を使用して抽出処理を行った場合、前記の4種類の全ての強酸で抽出反応が起こることが確認できた。抽出量については、実施例4の硫酸の場合に最も多くの金属イオンが抽出できたことが確認でき、次に実施例2の塩酸の場合、その次に実施例1の塩酸+硝酸の混合酸の場合、次いで硝酸の順に金属成分が抽出されたことを確認できた。
実施例4の硝酸では鉄分の抽出効果が最も低かった。硫酸、塩酸、塩酸+硝酸の混合酸が金属成分の抽出について良好な効果を示すが、抽出された金属イオンを用いて化合物を合成する時、塩素イオンの影響を考慮すると硫酸を用いることが好ましいといえる。また、抽出された金属イオンを再利用するため、酸溶液を塩基で中和させる工程が必要とする場合、塩酸を抽出剤に使うと溶液に含まれている塩素イオンが沈殿物を生成する場合もあるし塩素イオンを除去するのに難点がある。したがって、汎用性の観点からは、抽出後の再利用あるいは後処理が比較的単純である硫酸を抽出剤にするのが好ましい。
【0041】
また、表1に示すように、赤泥の場合、抽出された金属成分としては、鉄イオンが最も多く、次いで、アルミニウム、チタン、カルシウムなどの金属イオンの抽出が確認された。鉄は酸化鉄、陶器と磁器の材料に使え、アルミニウムとチタンは触媒で使えることを実験で確認した。
【0042】
次に、酸の種類と量、超音波の周波数を実施例3と同じ条件として、
恒温水槽の温度条件を変え、それぞれ温度を一定に保ちながら実験を行った。なお、強酸は、表1に示したように、主な金属成分である鉄、アルミニウム、チタンの抽出量について、硫酸が他の強酸に比べ高かったため、硫酸を用いることとした。
【0043】
恒温水槽の温度が50℃以下では金属成分はほとんど抽出されなかった。そこで、温度条件を55℃、65℃、75℃、85℃と設定し、実験を行った。
【0044】
以下、温度条件を変更した実施例を、実施例5〜7に示す。
【0045】
[実施例5]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、硫酸300mlを加え、36.7kHz 、280Wの出力の超音波を当てながら恒温水槽で温度を55℃で保ち6時間反応させた後、ろ過を行った。抽出後、金属イオンが含まれている溶液はICP(ICP-MS, PerkinElmer, OPTIMA 2100DV, アメリカ)測定を行い、残渣は60℃で乾燥させた。
【0046】
[実施例6]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、硫酸300mlを加え、36.7kHz 、280Wの出力の超音波を当てながら恒温水槽で温度を65℃で保ち6時間反応させた後、ろ過を行った。抽出後、金属イオンが含まれている溶液はICP測定を行い、残渣は60℃で乾燥させた。
【0047】
[実施例7]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後硫酸300mlを加え、36.7kHz 、280Wの出力の超音波を当てながら恒温水槽で温度を85℃で保ち6時間反応させた後、ろ過を行った。抽出後、金属イオンが含まれている溶液はICP測定を行い、残渣は60℃で乾燥させた。
【0048】
実施例5〜7による抽出成分をICP分析(ICP-MS, PerkinElmer, OPTIMA
2100DV, アメリカ)したものを表2に示す。
【0049】
表2に示すように、反応温度が高いほど、金属成分の抽出量が多くなることが確認できた。
【0050】
【表2】
【0051】
また、実施例3、5、6,7によって金属成分を抽出した後に、さらに900℃で6時間加熱し、含まれる金属成分をすべて酸化物にするために焼成処理を行った後の抽出残渣をそれぞれXRF(Shimadzu, XRF-1700, 日本)で分析した。その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、主にSiO
2、TiO
2、Al
2O
3、CaOの成分、それから少量の Fe
2O
3が検出されたことが確認できた。
【0054】
以上の結果から、抽出反応の条件を変えることによって、抽出液と抽出残渣における金属成分の含有量、特に鉄成分の含有量を調節出来ることが確認できた。
【0055】
抽出残渣について、赤泥から鉄イオンの抽出が少ないとオレンジ色になり、鉄イオンの抽出が多くなると薄い黄土色に変わることが確認できた。すなわち、再利用する用途によって、金属イオンの抽出量を変えることができる。これは、例えば、鉄イオンの抽出量を調節して、鉄とケイ素の成分比を用途に合わせて変えることができる。
【0056】
オレンジ色から黄土色の酸化物は、いずれも熱的に安定しておりカラーコンクリートブロック、顔料、吸着剤等の材料に使えるところ、鉄イオンを多めに抽出した場合の、残った抽出残渣の方には、相対的にSiO
2とTiO
2が多めに含まれている。これは高強度のコンクリートブロック、吸着剤、充填材、触媒、セメント、グラウトなどの建築材に使える。すなわち、赤泥に含まれるほとんどの鉄を抽出した場合、抽出残渣に含まれる金属成分の相対的な量はケイ素が主成分となり、化学的組成が完全に変わることになるので、元の赤泥に比べて耐火性が改良された性質を持つ。
【0057】
さらに、処理前の赤泥をXRD (Rigaku, D/Max 2500, 日本)で測定したものを
図4に、実施例3で得られた抽出残渣を60℃で乾燥させた後XRD測定したものを
図5に、実施例3で得られた抽出残渣を60℃で乾燥させた後、さらに900℃で焼成した後XRD測定したものを
図6に示す。
【0058】
図4と
図5との比較によれば、抽出処理を行う前の
図4の状態と比べて、
図5ではTiO
2、SiO
2、Al
2O
3、CaO、 Fe
2O
3が酸化物の状態で残っているが、Fe
2O
3 は抽出によって急激に減少し、金属成分の相対的量はTiO
2、Al
2O
3 、SiO
2が多く残っていることが確認できた。これは、上述のXRFの測定結果とも一致する。また、
図5と
図6との比較によれば、実施例3で得られた抽出残渣の成分は、900℃で6時間加熱する焼成処理を行ってもほとんど変わらないことが確認できた。