特許第6031335号(P6031335)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031335
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】赤泥からの金属成分の抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20161114BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20161114BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20161114BHJP
   B01D 11/02 20060101ALI20161114BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20161114BHJP
   C22B 21/00 20060101ALN20161114BHJP
【FI】
   C22B7/00 101
   C22B3/06ZAB
   C22B1/02
   B01D11/02 A
   C02F11/00 L
   !C22B21/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-250423(P2012-250423)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-98188(P2014-98188A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2014年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】514287775
【氏名又は名称】李 治憲
(73)【特許権者】
【識別番号】514287786
【氏名又は名称】高 美年
(74)【代理人】
【識別番号】100132724
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敏文
(74)【代理人】
【識別番号】100153752
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 裕
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 善煥
(72)【発明者】
【氏名】鄭 友彰
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−286526(JP,A)
【文献】 中国特許第100412212(CN,C)
【文献】 中国特許出願公開第101012503(CN,A)
【文献】 特開2003−036566(JP,A)
【文献】 特開2004−245579(JP,A)
【文献】 特開昭50−104768(JP,A)
【文献】 特開平08−100176(JP,A)
【文献】 SAYAN E et al.,Statistical modeling and optimization of ultrasound-assisted sulfuric acid leaching of TiO2 from red mud,Hydrometallurgy,ELSEVIER,2004年,vol.71,p397-401,ISSN:0304-386X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤泥から少なくとも1種の金属成分を抽出するとともに抽出残渣を再利用可能な資材とする金属成分の抽出方法であって、
前記赤泥と酸濃度を水:強酸=1:1〜3:1の容積比率とした強酸の水溶液とを重量比1:1〜1:10の比率で混ぜ、前記赤泥を分散させて分散液とする第1工程と、
前記分散液を反応容器内で50℃〜100℃で加熱するとともに前記分散液が抽出液と抽出残渣とに分かれる20kHz以上の周波数で、かつ、前記反応容器が破損しない出力の超音波を照射し、前記分散液を抽出液と抽出残渣に分け、前記抽出液と前記抽出残渣において所望の組成比で金属成分を含有するように分配する第2工程と、
を含むことを特徴とする金属成分の抽出方法。
【請求項2】
前記第2工程における超音波の出力は260〜300Wであることを特徴とする請求項1に記載の金属成分の抽出方法。
【請求項3】
前記第2工程における超音波の周波数は36.7kHzであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属成分の抽出方法。
【請求項4】
赤泥と酸濃度を水:強酸=1:1〜3:1の容積比率とした強酸の水溶液とを重量比1:1〜1:10の比率で混ぜ、前記赤泥を分散させて分散液とする第1工程と、
前記分散液を反応容器内で50℃〜100℃で加熱するとともに前記分散液が抽出液と抽出残渣とに分かれる20kHz以上の周波数で、かつ、前記反応容器が破損しない出力の超音波を照射し、前記分散液を抽出液と抽出残渣に分け、前記抽出液と前記抽出残渣において所望の組成比で金属成分を含有するように分配する第2工程と、
を含むことを特徴とする抽出液および抽出残渣の製造方法。
【請求項5】
赤泥と酸濃度を水:強酸=1:1〜3:1の容積比率とした強酸の水溶液とを重量比1:1〜1:10の比率で混ぜ、前記赤泥を分散させて分散液とする第1工程と、
前記分散液を反応容器内で50℃〜100℃で加熱するとともに前記分散液が抽出液と抽出残渣とに分かれる20kHz以上の周波数で、かつ、前記反応容器が破損しない出力の超音波を照射し、前記分散液を抽出液と抽出残渣に分け、前記抽出液と前記抽出残渣において所望の組成比で金属成分を含有するように分配する第2工程と、
前記抽出残渣を焼成する第3工程と、
を含むことを特徴とする資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤泥から少なくとも1種の金属成分を抽出するとともに抽出残渣を再利用可能な資材とする金属成分の抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤泥は、ボーキサイトからアルミナとアルミニウムを生産する過程で発生する産業廃棄物である。赤泥は、それ自体環境リスクとなり、とりわけ毎年増加する赤泥の量とスラッジのpHが問題となる。すなわち、ボーキサイトから抽出されるアルミナの量の2〜3倍程度のスラッジが発生し、ボーキサイトからアルミナを抽出する時に使用する水酸化ナトリウムにより最終的に発生する廃棄物としての赤泥のpHは12〜13の強い塩基性であるから、赤泥の漏出が生じた場合、農作物の被害、地下水の汚染、生態系の破壊、環境・人命への被害をもたらす。現に、例えば、ハンガリーでは、2010年10月4日に赤泥の貯留ダムの堤防が決壊し、有害な赤泥の洪水が街を襲い、大きな環境被害をもたらした。
【0003】
赤泥の再利用については、赤泥を処理する方法が確立されていないため、コンクリートブロックの製造、重金属の除去に用いるなど極めて制限的な利用に限られる。赤泥をそのままコンクリートブロック、コンクリート等の建築材等に使用すると赤泥に含まれている鉄分によって製品の強度が弱くなるし、赤泥が強い塩基性を持っていることが、商業的な応用にあたって大きな制約となる。赤泥を再利用するためには、赤泥に含まれる金属成分である鉄、アルミニウム、チタンなどを取り出す必要があるところ、これらの金属は酸化物の形態で赤泥の中で安定に存在するため、どんな強酸でもほとんど抽出されないという難点がある。それゆえ処理が難しく、これら金属成分の抽出の難しさが赤泥を再利用することを妨げる要因となっていた。かかる処理の難しさから、赤泥の処理方法としては、廃液貯留池に貯蔵したり、我が国では海洋投棄されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】江島辰彦、嶋影和宣、星政義、「赤泥からのナトリウムおよびアルミニウムの回収」、軽金属Vol.27、1977、No.1、p.19 - 26
【非特許文献2】笠井利浩、溝田忠人、「アルミナ製錬赤泥の有効利用」、資源と素材Vol.112、1996、p.131- 139
【0005】
従来技術として、非特許文献1記載の技術のように強酸と高温及び高圧の条件下で含金属無機物である赤泥から金属成分を抽出しようとする試みがある。しかし、これらの方法はナトリウムやアルミニウムなどの極一部の金属だけを抽出するにすぎないため、赤泥全体の再利用というには不十分であり、しかも高温・高圧下で処理を行う必要があることから、商業的な実用性の観点からも課題を有している。また、非特許文献2に記載のように、赤泥中の有価成分を抽出する方法について、有価成分の分離抽出、抽出した成分の建築基礎材としての利用、抽出した成分の吸着剤としての利用等、様々な方法があるが、いずれも抽出率が低いなどの難点があり、赤泥の成分をすべて有効利用することが極めて困難であり、経済的に有効でかつ赤泥を大量処分できる方法の確立が期待される旨記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者の鋭意研究の結果、赤泥の処理という観点のみならず、赤泥に含まれる金属成分を有価物として抽出する一方で、赤泥の化学的組成を変化させ、商業的な再利用を可能とすることを見出した。抽出された金属成分は様々な形態で合成が出来る。赤泥について、従来の技術では、赤泥の一部しか再利用できなかったところ、産業廃棄物としての赤泥の問題点を根本的に解決し、有価物を抽出し赤泥を100%再利用出来れば便宜である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、赤泥に含まれている金属成分を抽出し、抽出した金属成分と、金属成分抽出後の残渣の両方を産業的に再利用可能とし、環境資源の有効利用を図るとともに、赤泥による環境リスクを低減する金属成分の抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属成分の抽出方法は、赤泥から少なくとも1種の金属成分を抽出するとともに抽出残渣を再利用可能な資材とする金属成分の抽出方法であって、前記赤泥酸濃度を水:強酸=1:1〜3:1の容積比率とした強酸の水溶液とを重量比1:1〜1:10の比率で混ぜ、前記赤泥を分散させて分散液とする第1工程と、前記分散液を反応容器内で50℃〜100℃で加熱するとともに前記分散液が抽出液と抽出残渣とに分かれる20kHz以上の周波数で、かつ、前記反応容器が破損しない出力の超音波を照射し、前記分散液を抽出液と抽出残渣に分け、前記抽出液と前記抽出残渣において所望の組成比で金属成分を含有するように分配する第2工程と、を含むことにより上記課題を解決する。
【0010】
本発明の金属成分の抽出方法によると、強酸だけを用いても金属成分が抽出できない赤泥について、超音波を併用することで抽出可能とする。赤泥の中に含まれている金属成分が安定な金属成分になっている場合において、超音波を照射することによって溶液中に発生する気泡によって振動が起こり、赤泥と強酸の強力な撹拌効果によって赤泥内の金属成分と強酸との接触頻度が高まり、金属成分が抽出されやすくなる。この反応は、加熱することで酸と金属成分との反応性が高くなり、金属成分が溶出することで抽出することができる。すなわち、赤泥内の金属成分は、超音波によって発生した気泡が微細気泡の振動効果と加熱された強酸との化学反応がお互いに相互作用することによって効果的に抽出されると考えられる。抽出された金属成分は、金属化合物の製造に用いることが可能で、抽出後の残渣は高温で加熱することで耐火材、触媒、吸着剤、セメント、建築材などに再利用することが出来る。このように、本発明の金属成分の抽出方法によれば、赤泥について、100%再利用することが可能となる。
【0011】
さらに、常圧で40℃〜100℃という比較的低温で処理できるので、温度面において安全であるとともに、高温・高圧に対応できる設備を用いる必要がない為、コストダウンを図ることもでき、商業性にも優れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、赤泥に含まれている金属成分を抽出し、抽出した金属成分と、金属成分抽出後の残渣の両方を産業的に再利用可能とし、環境資源の有効利用を図るとともに、赤泥による環境リスクを低減する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係る金属成分の抽出方法の説明図である。
図2】本実施の形態に係る金属成分の抽出方法の一例を示す図である。
図3】本実施の形態に係る金属成分の抽出装置の一例を示す図である。
図4】乾燥状態の赤泥のXRD測定結果を示す図である。
図5】実施例3で得られた抽出残渣のXRD測定結果を示す図である。
図6】実施例3で得られた残渣を900℃で焼成後のXRD測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の一実施の形態について、図1及び図2に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係る金属成分の抽出方法の説明図である。図1に示すように、含金属無機物である赤泥に強酸水溶液を混ぜ、赤泥を強酸水溶液に分散させて分散液とする工程(S1)と、この分散液を加熱し、超音波を照射する工程(S2)とによっ て、分散液を抽出液と抽出残渣とに分ける。このとき、赤泥に含まれていた金属成分は、抽出液と抽出残渣のそれぞれに存在することになるところ、工程S1における強酸の種類・濃度や工程S2における温度条件・超音波の照射条件を調節することによって、抽出液と抽出残渣のそれぞれにおける金属成分の含有量を所望の組成比に調節できる。
【0016】
図2は、赤泥から金属成分を抽出する方法の概略を示す図である。赤泥に含まれる金属成分は安定な酸化物として存在している。赤泥と強酸を混ぜて加熱するだけでは、赤泥中から金属成分を抽出することは困難であるところ、超音波を用いることで赤泥の内に強酸が浸透し、赤泥に含まれる金属成分の酸化物と接触すれば金属成分は金属イオンとして強酸中に溶け出し、抽出可能となる。
【0017】
赤泥を収容する容器は、反応温度の制御しやすさの観点から、恒温水槽を好ましく用いることができる。反応容器として恒温水槽を用いたり、反応容器を恒温水槽中に設置することが好ましい。また、加熱の際の温度は、50℃以下では強酸と赤泥との接触頻度が小さくなるため、50℃以上に加温することが好ましい。加熱媒体は、水、油等が使用できるが、安全で取扱い易いために水を使用するのが好ましい。
【0018】
強酸は、硫酸、塩酸、硝酸、または塩酸と硝酸の混合液などを挙げることができるが、このうち硫酸が最も金属成分を抽出する効率が高いため好ましく用いることができる。強酸として塩酸を用いた場合、抽出された金属イオンが塩素と反応し、不溶性の塩を生成することがあるため好ましくない。
【0019】
また、強酸は水溶液である。酸濃度は水:強酸=1:1〜3:1の容積比率の水溶液が好ましく用いられる。強酸の濃度が高いほど抽出効果は良くなるが、作業の安全性と、事後必要となる酸の中和処理において使用しなければならない塩基性物の量を考慮すると、上記比率の強酸水溶液を用いるのが好ましい。赤泥と強酸水溶液は、重量比で1:1〜1:10以上の強酸が使用され、強酸の比率が高いほど金属成分の抽出効果が高くなるが、廃液の中和工程で必要とする塩基の量が多くなる。
【0020】
次に超音波について説明する。超音波は20kHz以上の周波数を持つ音波である。超音波は低い周波数ほどエネルギーが大きくなり、動力的に使う超音波は一般に低い周波数が用いられる一方、周波数が高いと減衰が激しくなるが指向性が良くなる。本実施の一形態では、一例として、36.7kHz、260〜300Wの出力の超音波を用いたが、この条件に限定されるものではない。ただし、この周波数では出力がこれより低くなると反応時間が長くなり、出力を上げすぎるとガラス容器が壊れる可能性があるため、これらに留意する。なお、マイクロ波を当てても金属成分は抽出されなかった。 超音波照射により発生した気泡の振動が起こり、赤泥と強酸の強力な撹拌効果によって赤泥内の金属成分と強酸との接触頻度が高められ金属成分が抽出され易くなるものと考えられる。
【0021】
超音波を照射する際に発生する気泡(cavitation bubbles)の強さは40℃より高くなると減少する傾向がある。しかし、本発明は、赤泥中の金属成分と強酸とを反応させるものであり、この反応は活性化段階を通って進むと考えられることから、その反応をさらに活性化させるために40℃より高い温度である50℃以上の温度で行うことが好ましい。
【0022】
加熱は40℃〜100℃(水の沸騰温度)で行う。好ましくは50℃〜100℃である。温度が高いほど強酸による抽出効果は高まるが、水の沸騰温度まで上げて抽出処理を行うのは安全性の面から好ましくない。40℃以下の温度では抽出効果が小さくなり好ましくない。好ましくは50℃以上の温度に加温して処理を行う。この温度は、後述するように超音波照射の効果との関係で定められる。
【0023】
抽出液と抽出残渣とは、フィルターあるいは遠心分離を利用して分離する。抽出液から金属イオンを抽出できる。赤泥から抽出した金属イオンは、酸化鉄、鉄化合物、触媒の製造、顔料、黄土、焼き物、セラミックの原料として用いることができる。また、抽出残渣は、焼成等を行うことによって 、再利用可能な資材とすることができる。焼成の温度条件としては、700℃〜1800℃で行うことができる。これにより、耐火性酸化物、セメント、 グラウト、セラミック、触媒、建築材等を得ることができる。
【0024】
以上、説明したように、本発明によれば、赤泥に含まれている金属成分を抽出し、抽出した金属成分と、金属成分抽出後の抽出残渣の両方を産業的に再利用可能とし、資源の有効利用を図るとともに、赤泥による環境リスクを低減することができる。有害な産業廃棄物である赤泥を本発明に係る方法で処理することにより、無害化し、産業廃棄物のカテゴリーから外すことができ、さらにその100%を商業的に再利用可能な資源に変換することができる。とりわけ、赤泥に含まれる鉄成分のほとんどを有価物として抽出することが可能となる。
【0025】
なお、本発明の一実施の形態に係る金属成分の抽出方法の中間体として得られる抽出液 と抽出残渣は、それら自体を有価物として取引対象とすることができる。よって、上述に おいて、本発明の一実施の形態に係る金属成分の抽出方法として説明したが、他の実施形 態として、赤泥に強酸水溶液を混ぜ、赤泥を強酸水溶液に分散させて分散液とする工程(S1)と、この分散液を加熱し、超音波を照射する工程(S2)とによ って、抽出液および抽出残渣を製造することができるといえる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を交えてさらに詳しく本発明を説明する。なお、これらは例示であって本発明を限定するものではない。
【0027】
図3に、実施例において使用した装置の構成を示す。赤泥内に安定な酸化物の形態で存在する金属成分を抽出するため、強酸と超音波を利用して恒温水槽内で加熱しながら抽出を行った。赤泥は、乾燥された粉末状態のものを(株)KCから研究目的で購入し、乾燥状態の赤泥をスラッジとしたものを用いた。この抽出処理前の乾燥状態での赤泥をXRF測定したところ、後述の表3上段に示すように、Fe2O3(35.5%)、Al2O3 (23.7%)、SiO2(14.3%)、 TiO2 (8.8%)、 Na2O(8.6%)、CaO(7.8%)、その他(1.3%)という組成比率となっており、安定な酸化物の形態で、鉄が最も多く含まれ、次にアルミニウム、ケイ素、チタン、ナトリウム、カルシウムの順で含まれていることを確認した。赤泥のスラッジの液性は強い塩基性(pH=12〜13)を示した。
【0028】
強酸は、塩酸と硝酸の混合酸、塩酸、硝酸、硫酸を用いた。まず乾燥された赤泥をガラス容器に入れ、ここに強酸と水の比率を1:1〜1:3で混合して入れた。この時、赤泥と強酸の比率は1:1〜1:10とした。
【0029】
超音波の発生装置は 恒温水槽の底部に接するように配置し、一定の温度条件下で超音波を照射できるように構成した。
【0030】
まず、超音波を照射せずに強酸だけを使って高温で処理を行った場合、金属成分はほとんど抽出されなかった。特に、主な構成成分である鉄、アルミニウム、チタンは抽出されなかった。また、マイクロ波を照射しても金属成分は抽出されなかった。このことから、本発明において、超音波の照射が難溶性の金属成分を抽出するのに重要であることを確認できた。そこで、以下の実施例では、超音波の照射を必須の構成とした。
【0031】
超音波の照射条件は、ここでは、処理時間が長くなりすぎず、反応容器が破損しない範囲であることを考慮して、周波数36.7kHz、出力を280Wとした。
【0032】
強酸の種類及び量の組み合わせを変更した実施例を、実施例1〜4に示す。
【0033】
[実施例1]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、塩酸225mlと硝酸75mlの混合酸を加え、周波数36.7kHz 、280Wの出力の超音波を照射しながら恒温水槽の温度を75℃に保ち、6時間反応させた後、ろ過を行った。金属成分の抽出後、抽出液のICP測定を行い、抽出残渣は水分を除去するため60℃で乾燥させた。
【0034】
[実施例2]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、塩酸300mlを加え、周波数36.7kHz 、280Wの出力の超音波を照射しながら恒温水槽の温度を75℃に保ち、6時間反応させた後、ろ過を行った。金属成分の抽出後、抽出液のICP測定を行い、抽出残渣は水分を除去するため60℃で乾燥させた。
【0035】
[実施例3]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、硫酸300mlを加え、周波数36.7kHz 、280Wの出力の超音波を照射しながら恒温水槽の温度を75℃に保ち、6時間反応させた後、ろ過を行った。金属成分の抽出後、抽出液のICP測定を行い、抽出残渣は水分を除去するため60℃で乾燥させた。
【0036】
[実施例4]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、硝酸300mlを加え、周波数36.7kHz 、280Wの出力の超音波を照射しながら恒温水槽の温度を75℃に保ち、6時間反応させた後、ろ過を行った。金属成分の抽出後、抽出液のICP測定を行い、抽出残渣は水分を除去するため60℃で乾燥させた。
【0037】
実施例1〜4において、超音波を照射することにより金属成分が抽出され始めた。3〜4時間後から金属成分が徐々に溶出し、5〜8時間内にほとんどの金属成分が溶出した。赤泥から金属成分が抽出される程度はスラッジの色からも分かるが、最初赤色から金属成分が抽出されるに伴って黄土色に変わり、最終的には薄い黄土色になることから、目視によっても抽出されたことが確認出来た。
【0038】
実施例1〜4による抽出成分をICP分析(ICP-MS, PerkinElmer, OPTIMA
2100DV, アメリカ)したものを表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、超音波を使用して抽出処理を行った場合、前記の4種類の全ての強酸で抽出反応が起こることが確認できた。抽出量については、実施例4の硫酸の場合に最も多くの金属イオンが抽出できたことが確認でき、次に実施例2の塩酸の場合、その次に実施例1の塩酸+硝酸の混合酸の場合、次いで硝酸の順に金属成分が抽出されたことを確認できた。
実施例4の硝酸では鉄分の抽出効果が最も低かった。硫酸、塩酸、塩酸+硝酸の混合酸が金属成分の抽出について良好な効果を示すが、抽出された金属イオンを用いて化合物を合成する時、塩素イオンの影響を考慮すると硫酸を用いることが好ましいといえる。また、抽出された金属イオンを再利用するため、酸溶液を塩基で中和させる工程が必要とする場合、塩酸を抽出剤に使うと溶液に含まれている塩素イオンが沈殿物を生成する場合もあるし塩素イオンを除去するのに難点がある。したがって、汎用性の観点からは、抽出後の再利用あるいは後処理が比較的単純である硫酸を抽出剤にするのが好ましい。
【0041】
また、表1に示すように、赤泥の場合、抽出された金属成分としては、鉄イオンが最も多く、次いで、アルミニウム、チタン、カルシウムなどの金属イオンの抽出が確認された。鉄は酸化鉄、陶器と磁器の材料に使え、アルミニウムとチタンは触媒で使えることを実験で確認した。
【0042】
次に、酸の種類と量、超音波の周波数を実施例3と同じ条件として、
恒温水槽の温度条件を変え、それぞれ温度を一定に保ちながら実験を行った。なお、強酸は、表1に示したように、主な金属成分である鉄、アルミニウム、チタンの抽出量について、硫酸が他の強酸に比べ高かったため、硫酸を用いることとした。
【0043】
恒温水槽の温度が50℃以下では金属成分はほとんど抽出されなかった。そこで、温度条件を55℃、65℃、75℃、85℃と設定し、実験を行った。
【0044】
以下、温度条件を変更した実施例を、実施例5〜7に示す。
【0045】
[実施例5]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、硫酸300mlを加え、36.7kHz 、280Wの出力の超音波を当てながら恒温水槽で温度を55℃で保ち6時間反応させた後、ろ過を行った。抽出後、金属イオンが含まれている溶液はICP(ICP-MS, PerkinElmer, OPTIMA 2100DV, アメリカ)測定を行い、残渣は60℃で乾燥させた。
【0046】
[実施例6]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後、硫酸300mlを加え、36.7kHz 、280Wの出力の超音波を当てながら恒温水槽で温度を65℃で保ち6時間反応させた後、ろ過を行った。抽出後、金属イオンが含まれている溶液はICP測定を行い、残渣は60℃で乾燥させた。
【0047】
[実施例7]
赤泥30gに蒸留水900mlを加えた後硫酸300mlを加え、36.7kHz 、280Wの出力の超音波を当てながら恒温水槽で温度を85℃で保ち6時間反応させた後、ろ過を行った。抽出後、金属イオンが含まれている溶液はICP測定を行い、残渣は60℃で乾燥させた。
【0048】
実施例5〜7による抽出成分をICP分析(ICP-MS, PerkinElmer, OPTIMA
2100DV, アメリカ)したものを表2に示す。
【0049】
表2に示すように、反応温度が高いほど、金属成分の抽出量が多くなることが確認できた。
【0050】
【表2】
【0051】
また、実施例3、5、6,7によって金属成分を抽出した後に、さらに900℃で6時間加熱し、含まれる金属成分をすべて酸化物にするために焼成処理を行った後の抽出残渣をそれぞれXRF(Shimadzu, XRF-1700, 日本)で分析した。その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示すように、主にSiO2、TiO2、Al2O3、CaOの成分、それから少量の Fe2O3が検出されたことが確認できた。
【0054】
以上の結果から、抽出反応の条件を変えることによって、抽出液と抽出残渣における金属成分の含有量、特に鉄成分の含有量を調節出来ることが確認できた。
【0055】
抽出残渣について、赤泥から鉄イオンの抽出が少ないとオレンジ色になり、鉄イオンの抽出が多くなると薄い黄土色に変わることが確認できた。すなわち、再利用する用途によって、金属イオンの抽出量を変えることができる。これは、例えば、鉄イオンの抽出量を調節して、鉄とケイ素の成分比を用途に合わせて変えることができる。
【0056】
オレンジ色から黄土色の酸化物は、いずれも熱的に安定しておりカラーコンクリートブロック、顔料、吸着剤等の材料に使えるところ、鉄イオンを多めに抽出した場合の、残った抽出残渣の方には、相対的にSiO2とTiO2が多めに含まれている。これは高強度のコンクリートブロック、吸着剤、充填材、触媒、セメント、グラウトなどの建築材に使える。すなわち、赤泥に含まれるほとんどの鉄を抽出した場合、抽出残渣に含まれる金属成分の相対的な量はケイ素が主成分となり、化学的組成が完全に変わることになるので、元の赤泥に比べて耐火性が改良された性質を持つ。
【0057】
さらに、処理前の赤泥をXRD (Rigaku, D/Max 2500, 日本)で測定したものを図4に、実施例3で得られた抽出残渣を60℃で乾燥させた後XRD測定したものを図5に、実施例3で得られた抽出残渣を60℃で乾燥させた後、さらに900℃で焼成した後XRD測定したものを図6に示す。
【0058】
図4図5との比較によれば、抽出処理を行う前の図4の状態と比べて、図5ではTiO2、SiO2、Al2O、CaO、 Fe2O3が酸化物の状態で残っているが、Fe2O3 は抽出によって急激に減少し、金属成分の相対的量はTiO2、Al2O3 、SiO2が多く残っていることが確認できた。これは、上述のXRFの測定結果とも一致する。また、図5図6との比較によれば、実施例3で得られた抽出残渣の成分は、900℃で6時間加熱する焼成処理を行ってもほとんど変わらないことが確認できた。
【符号の説明】
【0059】
1 容器
2 恒温水槽
3 超音波発信機
4 超音波コントローラ
5 水
11 処理対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6