(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
温熱環境の変更要求が発生した被制御エリアである要求エリアに対応する第1の制御出力量を、フィードフォワード制御により前記変更要求に応じた増減方向に変更する第1の変更ステップと、
前記第1の制御出力量が変更されたときに、前記要求エリアと同じ空調機の系統に属する別の被制御エリアである周囲エリアに対応する第2の制御出力量を、フィードフォワード制御により前記周囲エリアの温熱環境の快適性維持の方向に変更する第2の変更ステップと、
被制御エリアの室内温度計測値と被制御エリアの室内温度設定値との偏差に基づいて、前記空調機から供給される給気の風量を被制御エリア毎に制御する風量制御ステップと、
前記第2の制御出力量を変更した後に所定の条件が成立した時点で前記第2の制御出力量を変更前の元の値に戻す復帰ステップとを含み、
前記第1の制御出力量は、前記空調機の給気温度設定値であり、
前記第2の制御出力量は、前記周囲エリアの室内温度設定値であることを特徴とする空調制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発明の原理]
VAVでは、給気温度は空調機から室内に向けて上流側で制御され、要求エリアと周囲エリアに共通の物埋量になるのに対し、給気風量は下流側で制御され、要求エリアと周囲エリアで個別に制御可能な物埋量になる。発明者は、周囲エリアに対しては給気風量によるFF動作を与えることで、周囲エリアの温熱環境悪化の影響を低減できることに想到した。
【0013】
周囲エリアに人が不在のときは、温熱環境の快適性維持のためのFF動作は不要であるが、省エネルギー側に作用するFF動作ならば有用である。発明者は、周囲エリアに人が不在の場合は省エネルギーの観点でFF動作の実行判断をするのが好ましいことに想到した。
【0014】
さらに、発明者は、要求エリアに対して給気温度FF制御が実行される前後で、給気温度や給気風量から求められる周囲エリアの熱収支を一定にすることで、室温を維持できることに想到した。これにより、合埋的に給気風量のFF量を自動決定できるので、事前に試行錯誤する手間を削減することができる。
【0015】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係るVAVシステムの構成を示すブロック図である。
本実施の形態のVAVシステムは、空調機1と、空調機1への冷水の量を制御する冷水弁2と、空調機1への温水の量を制御する温水弁3と、空調機1からの給気を被制御エリア9−1,9−2へ供給する給気ダクト7と、被制御エリア9−1,9−2へ供給する給気の量を被制御エリア毎に制御するVAVユニット8−1,8−2と、VAVユニット8−1,8−2を制御する制御装置であるVAVコントロールユニット11−1,11−2と、冷水弁2および温水弁3を制御する空調制御装置12と、被制御エリア9−1,9−2の室内温度を計測する温度センサ13−1,13−2と、還気ダクト14と、外部に排出される空気の量を調整する排気調整用ダンパ15と、空調機1に戻る還気の量を調整する還気調整用ダンパ16と、空調機1に取り入れる外気の量を調整する外気調整用ダンパ17と、給気の温度を計測する温度センサ18と、還気の温度を計測する温度センサ19とを備えている。
【0016】
空調機1は、冷却コイル4と、加熱コイル5と、ファン6とから構成される。VAVユニット8−1,8−2とVAVコントロールユニット11−1,11−2とは、被制御エリア毎に設けられる。VAVユニット8−1,8−2内には図示しないダンパが設けられており、VAVユニット8−1,8−2を通過する給気の量を調整できるようになっている。
図1において、10−1,10−2は空調機1からの給気の吹出口、20は外気の取入口である。
【0017】
空調機1におけるファン6の回転数と、冷水弁2および温水弁3の開度は空調制御装置12により制御される。冷房運転の場合、空調機1の冷却コイル4に供給される冷水の量が冷水弁2によって制御される。一方、暖房運転の場合、空調機1の加熱コイル5に供給される温水の量が温水弁3によって制御される。冷却コイル4によって冷却された空気または加熱コイル5によって加熱された空気は、ファン6によって送り出される。ファン6によって送り出された空気(給気)は、給気ダクト7を介して各被制御エリア9−1,9−2のVAVユニット8−1,8−2へ供給され、VAVユニット8−1,8−2を通過して各被制御エリア9−1,9−2へ供給されるようになっている。
【0018】
VAVコントロールユニット11−1,11−2は、被制御エリア9−1,9−2の温度センサ13−1,13−2によって計測された室内温度計測値T
PVと室内温度設定値T
SPとの偏差に基づいて被制御エリア9−1,9−2の要求風量を演算して要求風量値を空調制御装置12へ送る一方、その要求風量を確保するように、VAVユニット8−1,8−2内のダンパ(不図示)の開度を制御する。
【0019】
空調制御装置12は、各VAVコントロールユニット11−1,11−2から送られてくる要求風量値からシステム全体の総要求風量値を演算し、この総要求風量値に応じたファン回転数を求め、この求めたファン回転数となるように空調機1を制御する。
【0020】
VAVユニット8−1,8−2を通過し、吹出口10−1,10−2を介して被制御エリア9−1,9−2へ吹き出される給気は、被制御エリア9−1,9−2における空調制御に貢献した後、還気ダクト14を経て排気調整用ダンパ15を介して排出されるが、その一部は還気調整用ダンパ16を介し還気として空調機1へ戻される。そして、この空調機1へ戻される還気に対し、外気が外気調整用ダンパ17を介して所定の割合で取り込まれる。排気調整用ダンパ15、還気調整用ダンパ16、および外気調整用ダンパ17のそれぞれの開度は空調制御装置12からの指令によって調整される。
【0021】
空調制御装置12は、空調機1が冷却動作時の場合、温水弁3の開度を0%にし、温度センサ18によって計測された給気温度計測値が給気温度設定値と一致するように冷水弁2の開度を制御する。また、空調制御装置12は、空調機1が加熱動作時の場合、冷水弁2の開度を0%にし、温度センサ18によって計測された給気温度計測値が給気温度設定値と一致するように温水弁3の開度を制御する。以上の動作は、従来のVAVシステムと同様である。
【0022】
次に、本実施の形態の特徴について説明する。
図2は空調制御装置12の構成を示すブロック図、
図3はVAVコントロールユニット11−1の構成を示すブロック図、
図4は空調制御装置12の動作を示すフローチャート、
図5はVAVコントロールユニット11−1,11−2の動作を示すフローチャートである。
空調制御装置12は、各VAVコントロールユニット11−1,11−2を介して各被制御エリア9−1,9−2の室内温度計測値T
PVを取得する室内温度計測値取得部120と、各VAVコントロールユニット11−1,11−2を介して各被制御エリア9−1,9−2の室内温度設定値T
SPを取得する室内温度設定値取得部121と、温度センサ18によって計測された給気温度計測値T
SAPVを取得する給気温度計測値取得部122と、居住者の要求に応じて給気温度設定値T
SASPを一時的に変更する給気温度変更部123と、VAVコントロールユニット11−1,11−2に対して要求風量の変更を要求する風量変更要求部124と、VAVコントロールユニット11−1,11−2に対して室内温度設定値T
SPの変更を要求する室内温度設定値変更要求部125と、冷水弁2および温水弁3の開度を示す操作量を算出する操作量演算部126と、操作量を冷水弁2および温水弁3に出力する操作量出力部127と、被制御エリア9−1,9−2に人がいるかどうかを判定する判定部128とを有する。
【0023】
VAVコントロールユニット11−1は、対応する被制御エリア9−1の温度センサ13−1によって計測された室内温度計測値T
PVを取得する室内温度計測値取得部110と、対応する被制御エリア9−1の室内温度設定値T
SPを取得する室内温度設定値取得部111と、室内温度計測値T
PVと室内温度設定値T
SPとの偏差に基づいて対応する被制御エリア9−1の要求風量を演算する風量演算部112と、空調制御装置12からの要求に応じて要求風量を一時的に変更する風量変更部113と、被制御エリア9−1の要求風量値を空調制御装置12に通知する要求風量値通知部114と、空調制御装置12からの要求に応じて室内温度設定値T
SPを一時的に変更する室内温度設定値変更部115と、要求風量を確保するようにVAVユニット8−1内のダンパの開度を制御する制御部116とを有する。なお、VAVコントロールユニット11−2も、VAVコントロールユニット11−1と同様の構成を有している。
【0024】
空調制御装置12の室内温度計測値取得部120は、各VAVコントロールユニット11−1,11−2を介して各被制御エリア9−1,9−2の室内温度計測値T
PVを取得する(
図4ステップS100)。
空調制御装置12の室内温度設定値取得部121は、各VAVコントロールユニット11−1,11−2を介して各被制御エリア9−1,9−2の室内温度設定値T
SPを取得する(
図4ステップS101)。
空調制御装置12の給気温度計測値取得部122は、温度センサ18によって計測された給気温度計測値T
SAPVを取得する(
図4ステップS102)。
【0025】
空調制御装置12の給気温度変更部123は、各VAVコントロールユニット11−1,11−2を介して被制御エリア9−1,9−2の居住者から温熱環境の変更要求を受け取った場合(
図4ステップS103においてYES)、この変更要求に応じた増減方向に給気温度設定値T
SASPを一時的に変更する。
【0026】
具体的には、給気温度変更部123は、居住者からの要求が涼しくして欲しいという要求の場合(
図4ステップS104においてYES)、予め規定された給気温度下限値を下回らない範囲で給気温度設定値T
SASPを所定の変更幅だけ下降させる(
図4ステップS105)。また、給気温度変更部123は、居住者からの要求が暖かくして欲しいという要求の場合(
図4ステップS106においてYES)、予め規定された給気温度上限値を上回らない範囲で給気温度設定値T
SASPを所定の変更幅だけ上昇させる(
図4ステップS107)。なお、給気温度変更部123は、給気温度設定値の変更から所定時間が経過したときに、給気温度設定値を変更前の値に戻してもよい。
【0027】
次に、空調制御装置12の室内温度設定値変更要求部125は、温熱環境の変更要求が発生した被制御エリア(要求エリア)の室内温度設定値T
SPを変更要求に応じた方向に所定幅だけ変更するよう、要求エリアに対応するVAVコントロールユニット11−1,11−2に対して要求を出す(
図4ステップS108)。室内温度設定値変更要求部125は、居住者からの変更要求が涼しくして欲しいという要求の場合、室内温度設定値T
1SPを所定の変更幅だけ下げるよう要求し、居住者からの変更要求が暖かくして欲しいという要求の場合、室内温度設定値T
1SPを所定の変更幅だけ上げるよう要求する。ここでは、温熱環境の変更要求を発した居住者がいる要求エリアを被制御エリア9−1とし、この要求エリア9−1の室内温度設定値をT
1SPとする。したがって、VAVコントロールユニット11−1に対して室内温度設定値T
1SPの変更要求が出されることになる。
【0028】
VAVコントロールユニット11−1,11−2の室内温度設定値変更部115は、空調制御装置12から室内温度設定値T
SPの変更要求があった場合(
図5ステップS200においてYES)、この変更要求に応じて室内温度設定値T
SPを変更する(
図5ステップS201)。ここでは、VAVコントロールユニット11−1の室内温度設定値変更部115が、空調制御装置12からの要求に応じて要求エリア9−1の室内温度設定値T
1SPを変更する。
【0029】
次に、空調制御装置12の判定部128は、要求エリアと同じ空調機系統から給気を受ける別の被制御エリア(周囲エリア)に人がいるかどうかを、図示しない人検知システムから出力される在否信号に基づいて判定する(
図4ステップS109)。在否信号を発生する人検知システムとしては、人の入退室を管理する入退室管理システムや人検知センサなどがある。入退室管理システムや人検知センサは周知の技術であるので、詳細な説明は省略する。ここでは、要求エリア9−1と同じ空調機系統から給気を受ける別の被制御エリア9−2が周囲エリアとなる。
【0030】
空調制御装置12の室内温度設定値変更要求部125は、周囲エリア9−2に人がいる場合(
図4ステップS109においてYES)、周囲エリア9−2の室内温度設定値T
SPを温熱環境の快適性維持の方向に所定幅だけ変更するよう、周囲エリア9−2に対応するVAVコントロールユニット11−2に対して要求を出す(
図4ステップS110)。ここでは、周囲エリア9−2の室内温度設定値をT
2SPとする。
【0031】
室内温度設定値変更要求部125は、冷房時にステップS105の処理で給気温度設定値T
SASPを下げた場合、周囲エリア9−2の温熱環境の快適性を維持するために、室内温度設定値T
2SPを所定幅だけ上げるよう要求し、冷房時にステップS107の処理で給気温度設定値T
SASPを上げた場合、周囲エリア9−2の温熱環境の快適性を維持するために、室内温度設定値T
2SPを所定幅だけ下げるよう要求する。同様に、室内温度設定値変更要求部125は、暖房時にステップS105の処理で給気温度設定値T
SASPを下げた場合、室内温度設定値T
2SPを所定幅だけ上げるよう要求し、暖房時にステップS107の処理で給気温度設定値T
SASPを上げた場合、室内温度設定値T
2SPを所定幅だけ下げるよう要求する。
【0032】
また、室内温度設定値変更要求部125は、周囲エリア9−2に人がいない場合(
図4ステップS109においてNO)、周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを省エネルギー側に設定する(
図4ステップS111)。
【0033】
冷房時に周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを上げると、周囲エリア9−2の要求風量が減ることになるので、省エネルギーを実現できる。室内温度設定値変更要求部125は、冷房時に給気温度設定値T
SASPを下げた場合、ステップS110と同様に室内温度設定値T
2SPを所定幅だけ上げるようVAVコントロールユニット11−2に対して要求する(
図4ステップS111)。
【0034】
冷房時に周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを下げると、周囲エリア9−2の要求風量が増えることになるので、省エネルギーに逆行する。そこで、室内温度設定値変更要求部125は、冷房時に給気温度設定値T
SASPを上げた場合、室内温度設定値T
2SPの変更要求を出さない(
図4ステップS111)。
【0035】
暖房時に周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを上げると、周囲エリア9−2の要求風量が増えることになるので、省エネルギーに逆行する。そこで、室内温度設定値変更要求部125は、暖房時に給気温度設定値T
SASPを下げた場合、室内温度設定値T
2SPの変更要求を出さない(
図4ステップS111)。
【0036】
暖房時に周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを下げると、周囲エリア9−2の要求風量が減ることになるので、省エネルギーを実現できる。室内温度設定値変更要求部125は、暖房時に給気温度設定値T
SASPを上げた場合、ステップS110と同様に室内温度設定値T
2SPを所定幅だけ下げるようVAVコントロールユニット11−2に対して要求する(
図4ステップS111)。
【0037】
VAVコントロールユニット11−2の室内温度設定値変更部115は、空調制御装置12から室内温度設定値T
2SPの変更要求があった場合(
図5ステップS200においてYES)、この変更要求に応じて室内温度設定値T
2SPを変更する(
図5ステップS201)。
【0038】
次に、空調制御装置12の室内温度設定値変更要求部125は、ステップS110またはステップS111の処理により周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを変更した場合(
図4ステップS112においてYES)、所定の条件が成立するか否かを判定する(
図4ステップS113)。ここでの所定の条件とは、周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを変更した時点からの経過時間が予め設定された時間を超えること、周囲エリア9−2の室内温度計測値T
2PVが変更前の室内温度設定値T
2SPから予め設定された温度だけ乖離すること、要求エリア9−1の室内温度計測値T
1PVの変化の割合が予め設定された割合よりも小さくなること、周囲エリア9−2から室内温度設定値T
2SPの復帰要求が発生すること、のいずれかである。
【0039】
室内温度設定値変更要求部125は、上記の条件のうち少なくとも1つが成立する場合(
図4ステップS113においてYES)、周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを変更前の値に戻すよう、周囲エリア9−2に対応するVAVコントロールユニット11−2に対して復帰要求を出す(
図4ステップS114)。
【0040】
VAVコントロールユニット11−2の室内温度設定値変更部115は、空調制御装置12から室内温度設定値T
2SPの復帰要求があった場合(
図5ステップS202においてYES)、この復帰要求に応じて室内温度設定値T
2SPを変更前の値に戻す(
図5ステップS203)。
【0041】
次に、空調制御装置12の操作量演算部126は、所定の制御演算アルゴリズムに従って、給気温度計測値T
SAPVと給気温度設定値T
SASPとが一致するように操作量を算出し、操作量出力部127は、操作量演算部126が算出した操作量を冷水弁2および温水弁3に出力する(
図4ステップS115)。こうして、冷水弁2および温水弁3の開度が制御され、空調機1に供給される熱媒(冷水または温水)の量が制御される。なお、前述のとおり、空調機1が冷却動作時の場合には温水弁3の開度は0%に固定され、空調機1が加熱動作時の場合には冷水弁2の開度は0%に固定される。制御演算アルゴリズムとしては、例えばPIDがある。
空調制御装置12は、以上のようなステップS100〜S115の処理を空調制御が停止するまで(
図4ステップS116においてYES)、一定時間毎に行う。
【0042】
一方、VAVコントロールユニット11−1,11−2の室内温度計測値取得部110は、それぞれ対応する被制御エリア9−1,9−2の室内温度計測値T
PVを取得する(
図5ステップS204)。ここでは、被制御エリア9−1の室内温度計測値をT
1PV、被制御エリア9−2の室内温度計測値をT
2PVとする。
【0043】
VAVコントロールユニット11−1,11−2の室内温度設定値取得部111は、それぞれ対応する被制御エリア9−1,9−2の室内温度設定値T
1SP,T
2SPを取得する(
図5ステップS205)。
【0044】
VAVコントロールユニット11−1の風量演算部112は、室内温度計測値T
1PVと室内温度設定値T
1SPとの偏差に基づいて、対応する被制御エリア9−1の要求風量を算出する。同様に、VAVコントロールユニット11−2の風量演算部112は、室内温度計測値T
2PVと室内温度設定値T
2SPとの偏差に基づいて、対応する被制御エリア9−2の要求風量を算出する(
図5ステップS206)。
【0045】
VAVコントロールユニット11−1,11−2の要求風量値通知部114は、それぞれの要求風量値を空調制御装置12に通知する(
図5ステップS207)。上記のとおり、空調制御装置12は、各VAVコントロールユニット11−1,11−2から送られてくる要求風量値からシステム全体の総要求風量値を演算し、この総要求風量値に応じたファン回転数を求め、この求めたファン回転数となるように空調機1を制御する。
【0046】
VAVコントロールユニット11−1の制御部116は、VAVコントロールユニット11−1の風量演算部112が算出した要求風量を確保するように、VAVユニット8−1内のダンパ(不図示)の開度を制御する。同様に、VAVコントロールユニット11−2の制御部116は、VAVコントロールユニット11−2の風量演算部112が算出した要求風量を確保するように、VAVユニット8−2内のダンパ(不図示)の開度を制御する(
図5ステップS208)。
【0047】
VAVコントロールユニット11−1,11−2は、以上のようなステップS200〜S208の処理を空調制御が停止するまで(
図5ステップS209においてYES)、一定時間毎に行う。VAVコントロールユニット11−1,11−2は被制御エリア9−1,9−2毎に設けられているので、各VAVコントロールユニット11−1,11−2において
図5に示した処理が実行されることになる。
【0048】
以上のように、本実施の形態では、要求エリアの居住者からの温熱環境の変更要求に応じて給気温度のFF制御を実行するときに、周囲エリアにおける給気温度変化の影響を相殺する方向に周囲エリアの室内温度設定値を変化させるので、その結果として周囲エリアにおける温熱環境の快適性維持のための給気風量のFF制御を実現することができ、周囲エリアの温熱環境悪化の影響を低減することができる。
【0049】
また、室内温度設定値の変更で周囲エリアの給気風量のFF制御を実現する場合、変更した状態を継続すると周囲エリアにおける温熱環境の快適牲が悪化するため、所定の条件が成立した時点で室内温度設定値を元に戻すようにしている。
また、本実施の形態では、周囲エリアに人がいないと判断したときには、周囲エリアの室内温度設定値を省エネルギー側に設定するようにしたので、省エネルギー側に作用するFF制御を実現することができる。
【0050】
なお、以上の動作では、周囲エリアの風量のFF制御を実現するために周囲エリアの室内温度設定値を変更しているが、周囲エリアの風量を直接変更することも可能である。この場合、空調制御装置12の室内温度設定値変更要求部125が
図4のステップS110の処理を行う代わりに、空調制御装置12の風量変更要求部124が周囲エリアの要求風量を算出すればよい(
図4ステップS117)。
【0051】
周囲エリアの要求風量を算出するためには、以下の熱収支式を用いる。
ρC
p(T
r−T
SA)V=α ・・・(1)
式(1)において、ρは既知の空気密度[kg/m
3]、C
pは既知の空気比熱[kJ/kg℃]、T
rは周囲エリアの室内温度[℃]、T
SAは給気温度[℃]、Vは周囲エリアの要求風量[m
3/h]、αは既知の一定値である。給気温度T
SAを下げた場合にはT
r−T
SAに反比例して要求風量Vを小さくすることで、給気温度T
SAの影響を要求風量Vによりほぼ相殺することができる。
【0052】
風量変更要求部124は、室内温度計測値取得部120が周囲エリア9−2に対応するVAVコントロールユニット11−2から取得した室内温度計測値T
2PVを式(1)の室内温度T
rに代入し、給気温度設定値T
SASPを式(1)の給気温度T
SAに代入することで、周囲エリアの要求風量Vを算出し、この算出した値に要求風量Vを変更するよう、周囲エリア9−2に対応するVAVコントロールユニット11−2に対して要求を出す(
図4ステップS117)。給気温度T
SAを上げた場合についても、同様にして算出することができる。
【0053】
VAVコントロールユニット11−2の風量変更部113は、空調制御装置12から要求風量の変更要求があった場合(
図5ステップS210においてYES)、風量演算部112が算出した要求風量を、空調制御装置12から指示された値に変更する(
図5ステップS211)。
【0054】
周囲エリアの風量を直接変更する場合、空調制御装置12の室内温度設定値変更要求部125が
図4のステップS111の処理を行う代わりに、空調制御装置12の風量変更要求部124が以下のような処理を実行すればよい。
すなわち、風量変更要求部124は、周囲エリア9−2に人がいない場合(
図4ステップS109においてNO)、周囲エリア9−2の要求風量を省エネルギー側に設定する(
図4ステップS111)。
【0055】
冷房時に給気温度設定値T
SASPを下げると、周囲エリア9−2の要求風量が減ることになるので、省エネルギーを実現できる。風量変更要求部124は、冷房時に給気温度設定値T
SASPを下げた場合、ステップS117と同様に要求風量を変更するようVAVコントロールユニット11−2に対して要求する(
図4ステップS111)。
【0056】
冷房時に給気温度設定値T
SASPを上げると、周囲エリア9−2の要求風量が増えることになるので、省エネルギーに逆行する。そこで、風量変更要求部124は、冷房時に給気温度設定値T
SASPを上げた場合、要求風量の変更要求を出さない(
図4ステップS111)。
【0057】
暖房時に給気温度設定値T
SASPを下げると、周囲エリア9−2の要求風量が増えることになるので、省エネルギーに逆行する。そこで、風量変更要求部124は、暖房時に給気温度設定値T
SASPを下げた場合、要求風量の変更要求を出さない(
図4ステップS111)。
【0058】
暖房時に給気温度設定値T
SASPを上げると、周囲エリア9−2の要求風量が減ることになるので、省エネルギーを実現できる。風量変更要求部124は、暖房時に給気温度設定値T
SASPを上げた場合、ステップS117と同様に要求風量を変更するようVAVコントロールユニット11−2に対して要求する(
図4ステップS111)。
【0059】
以上のように、給気温度や室内温度から求められる周囲エリアの熱収支を一定にすることで、周囲エリアの室内温度を維持することができる。本実施の形態のように周囲エリアの要求風量を変更する方法によれば、風量のFF量を合埋的に自動決定できるので、周囲エリアの風量や室内温度設定値のFF量を事前に試行錯誤して決定する手間を削減することができる。
【0060】
図6(A)〜
図6(G)は本実施の形態のVAVシステムの動作を説明する図である。ここでは、冷房時に要求エリア9−1の居住者から涼しくして欲しいという要求が生じた場合の動作を示している。
要求エリア9−1の居住者からの要求に応じて、
図6(A)に示すように時刻t1において給気温度設定値T
SASPを下げている。また、
図6(C)に示すように時刻t1において要求エリア9−1の室内温度設定値T
1SPを下げている。給気温度設定値T
SASPと室内温度設定値T
1SPの変更により、要求エリア9−1の室内温度計測値T
1PVが低下する。このとき、
図6(B)に示す要求エリア9−1の要求風量V
1はVAVコントロールユニット11−1によって自動制御される。
【0061】
また、周囲エリア9−2の温熱環境の快適性を維持するために、
図6(E)に示すように時刻t1において周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを上げている。この室内温度設定値T
2SPの変更により、給気温度設定値T
SASPの変更による影響が軽減され、周囲エリア9−2の室内温度計測値T
2PVが維持される。このとき、
図6(D)に示す周囲エリア9−2の要求風量V
2はVAVコントロールユニット11−2によって自動制御される。室内温度設定値T
2SPは、所定の条件が成立した時刻t2において変更前の値に復帰する。
【0062】
一方、
図6(F)は、空調制御装置12の風量変更要求部124からの要求によって変更された場合の周囲エリア9−2の要求風量V
2を示している。この場合、時刻t1において強制的に変更された後は、要求風量V
2は、VAVコントロールユニット11−2によって自動制御される。この要求風量V
2の変更により、給気温度設定値T
SASPの変更による影響が軽減され、
図6(G)に示すように周囲エリア9−2の室内温度計測値T
2PVが維持される。
【0063】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態においても、VAVシステムの構成は第1の実施の形態と同様であるので、
図1〜
図3の符号を用いて説明する。
図7、
図8は本実施の形態の空調制御装置12の動作を示すフローチャートである。
図7のA,Bは、それぞれ
図8のA,Bと接続されていることは言うまでもない。VAVコントロールユニット11−1,11−2の動作は第1の実施の形態と同様であるので、
図5の符号を用いて説明する。
【0064】
図7のステップS300,S301,S302の処理は、それぞれ
図4のステップS100,S101,S102と同じである。
空調制御装置12の給気温度変更部123は、例えばVAVコントロールユニット11−1を介して被制御エリア(要求エリア)9−1の居住者から温熱環境の変更要求を受け取った場合(
図7ステップS303においてYES)、この変更要求に応じた増減方向に給気温度設定値T
SASPを一時的に変更する。ここでは、要求エリア9−1が会議室などで、急激に在席者が増えて急速に冷房または暖房しなければならない場合について説明する。
【0065】
給気温度変更部123は、居住者からの要求が急速に涼しくして欲しいという要求の場合(
図7ステップS304においてYES)、給気温度設定値T
SASPを予め規定された給気温度下限値または給気温度下限値近傍の所定値まで下降させる(
図7ステップS305)。また、給気温度変更部123は、居住者からの要求が急速に暖かくして欲しいという要求の場合(
図7ステップS306においてYES)、給気温度設定値T
SASPを予め規定された給気温度上限値または給気温度上限値近傍の所定値まで上昇させる(
図7ステップS307)。
【0066】
次に、空調制御装置12の室内温度設定値変更要求部125は、要求エリア9−1の室内温度設定値T
1SPを変更要求に応じた方向に所定の変更幅だけ変更するよう、要求エリア9−1に対応するVAVコントロールユニット11−1に対して要求を出す(
図7ステップS308)。室内温度設定値変更要求部125は、居住者からの変更要求が急速に涼しくして欲しいという要求の場合、室内温度設定値T
1SPを急速冷房用の変更幅だけ下げるよう要求し、居住者からの変更要求が急速に暖かくして欲しいという要求の場合、室内温度設定値T
1SPを急速暖房用の変更幅だけ上げるよう要求する。急速冷房用または急速暖房用の変更幅は、
図4のステップS108で説明した通常時の変更幅よりも大きく設定されている。
【0067】
VAVコントロールユニット11−1の室内温度設定値変更部115の動作は、
図5のステップS200,S201で説明したとおりである。
図7、
図8のステップS309,S310,S311,S312,S313,S314,S315の処理は、それぞれ
図4のステップS109,S110,S111,S112,S113,S114,S115の処理と同じであるので、説明は省略する。
【0068】
周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを変更する代わりに、周囲エリア9−2の風量を直接変更する場合、空調制御装置12の風量変更要求部124は、周囲エリア9−2の要求風量を一時的に0または0に近い値に変更するよう、周囲エリア9−2に対応するVAVコントロールユニット11−2に対して要求を出す(
図7ステップS317)。
VAVコントロールユニット11−2の風量変更部113の動作は、
図5ステップS210,S211で説明したとおりである。要求風量を急速且つ大幅に減らした結果、周囲エリア9−2の換気量が0になるが、一時的な現象であり、要求風量および換気量はVAVコントロールユニット11−2による自動制御によって徐々に上昇していくので、問題はない。
【0069】
また、要求エリア9−1についても、室内温度設定値T
1SPを変更する代わりに、風量を直接変更するようにしてもよい。この場合、空調制御装置12の室内温度設定値変更要求部125が
図7のステップS308の処理を行う代わりに、空調制御装置12の風量変更要求部124が、要求エリア9−1の要求風量を予め規定された要求風量上限値に変更するよう、要求エリア9−1に対応するVAVコントロールユニット11−1に対して要求を出す(
図7ステップS318)。
VAVコントロールユニット11−1の風量変更部113の動作は、
図5ステップS210,S211で説明したとおりである。
【0070】
次に、空調制御装置12の給気温度変更部123は、ステップS303〜S307の処理により急速冷房または急速暖房の要求に応じて給気温度設定値T
SASPを変更した場合(
図8ステップS319においてYES)、所定の条件が成立するか否かを判定する(
図8ステップS320)。ここでの所定の条件とは、例えば給気温度設定値T
SASPを変更した時点からの経過時間が予め設定された時間を超えることである。
【0071】
給気温度変更部123は、所定の条件が成立する場合(
図8ステップS320においてYES)、給気温度設定値T
SASPを、要求エリア9−1の居住者からの温熱環境の変更要求に応じた変更方向と逆の方向に予め設定された量だけ戻すようにする(
図8ステップS321)。給気温度変更部123は、例えば
図7のステップS305の処理により給気温度設定値T
SASPを給気温度下限値または給気温度下限値近傍の所定値まで下降させた場合、給気温度設定値T
SASPを予め設定された量だけ上げる。また、給気温度変更部123は、
図7のステップS307の処理により給気温度設定値T
SASPを給気温度上限値または給気温度上限値近傍の所定値まで上昇させた場合、給気温度設定値T
SASPを予め設定された量だけ下げる。
【0072】
なお、本実施の形態では、要求エリア9−1の室内温度設定値T
1SPを急速且つ大幅に変更しているので、これらについても元に戻した方がよい。例えば空調制御装置12の室内温度設定値変更要求部125は、要求エリア9−1の室内温度設定値T
1SPを変更した後に(
図7ステップS308)、給気温度変更部123と同様の所定の条件が成立した時点で、室内温度設定値T
1SPを変更方向と逆の方向に予め設定された量だけ戻すようにすればよい。また、空調制御装置12の風量変更要求部124は、要求エリア9−1の要求風量を変更した後に(
図7ステップS318)、給気温度変更部123と同様の所定の条件が成立した時点で、要求エリア9−1の要求風量を要求風量上限値に固定する制御を止めて、自動制御に戻すようにすればよい。
【0073】
以上のように、本実施の形態では、要求エリアの居住者からの急速冷房または急速暖房の要求に応じて給気温度のFF制御を実行するときに、周囲エリアにおける給気温度変化の影響を相殺する方向に周囲エリアの室内温度設定値を大きく変化させるか、または周囲エリアの要求風量を要求風量上限値に設定することにより、周囲エリアにおける温熱環境の快適性維持のための風量のFF制御を実現することができ、要求エリアを急速冷房または急速暖房する場合でも、周囲エリアの温熱環境悪化の影響を低減することができる。
【0074】
図9(A)〜
図9(G)は本実施の形態のVAVシステムの動作を説明する図である。ここでは、冷房時に要求エリア9−1の居住者から急速に涼しくして欲しいという要求が生じた場合の動作を示している。
要求エリア9−1の居住者からの要求に応じて、
図9(A)に示すように時刻t1において給気温度設定値T
SASPを給気温度下限値まで下げている。また、
図9(C)に示すように時刻t1において要求エリア9−1の室内温度設定値T
1SPを下げている。給気温度設定値T
SASPと室内温度設定値T
1SPの変更により、要求エリア9−1の室内温度計測値T
1PVが低下する。このとき、
図9(B)に示す要求エリア9−1の要求風量V
1はVAVコントロールユニット11−1によって自動制御される。給気温度設定値T
SASPは、所定の条件が成立した時刻t2において予め設定された量だけ上昇する。
【0075】
また、周囲エリア9−2の温熱環境の快適性を維持するために、
図9(E)に示すように時刻t1において周囲エリア9−2の室内温度設定値T
2SPを上げている。この室内温度設定値T
2SPの変更により、給気温度設定値T
SASPの変更による影響が軽減され、周囲エリア9−2の室内温度計測値T
2PVが維持される。このとき、
図9(D)に示す周囲エリア9−2の要求風量V
2はVAVコントロールユニット11−2によって自動制御される。室内温度設定値T
2SPは、所定の条件が成立した時刻t2において変更前の値に復帰する。
【0076】
一方、
図9(F)は、空調制御装置12の風量変更要求部124からの要求によって要求風量上限値に変更された場合の要求エリア9−1の要求風量V
1を示している。この要求風量V
1の変更により、
図9(G)に示すように要求エリア9−1の室内温度計測値T
1PVが低下する。要求風量V
1は、所定の条件が成立した時刻t2において要求風量上限値に固定する制御が解除された後は、VAVコントロールユニット11−2によって自動制御される。
【0077】
また、
図9(H)は、空調制御装置12の風量変更要求部124からの要求によって変更された場合の周囲エリア9−2の要求風量V
2を示している。この場合、時刻t1において強制的に変更された後は、要求風量V
2は、VAVコントロールユニット11−2によって自動制御される。この要求風量V
2の変更により、給気温度設定値T
SASPの変更による影響が軽減され、
図9(G)に示すように周囲エリア9−2の室内温度計測値T
2PVが維持される。
【0078】
なお、第1、第2の実施の形態のVAVコントロールユニット11−1,11−2と空調制御装置12の各々は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。各装置のCPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施の形態で説明した処理を実行する。