(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水平方向に沿って走査するように検出波を出射し、該検出波の反射状態に基づいて該検出波を反射した物体との距離に関する距離情報を経時的に取得する距離情報取得手段と、
前記距離情報取得手段で取得された前記距離情報に少なくとも基づいて、被験者の脚部位置を経時的に特定する脚部位置特定手段と、を備え、
前記脚部位置特定手段は、
前記距離情報に少なくとも基づき前記脚部位置の観測値である脚部観測位置を検出する観測位置検出部と、
過去の時刻の前記脚部位置に少なくとも基づき前記脚部位置の予測値である脚部予測位置を算出する予測位置算出部と、
前記脚部観測位置及び前記脚部予測位置の相関処理を行って前記脚部位置を特定する相関処理部と、を有し、
前記相関処理部は、
前記脚部予測位置を基準に所定範囲に拡がるゲートを設定するゲート設定部と、
前記脚部観測位置が前記ゲート内に存在するとき、該脚部観測位置を前記脚部位置として対応付ける対応付け部と、を含んでおり、
前記ゲート設定部は、前記ゲートの範囲を前記被験者の脚部の状態に応じて変化させる、ことを特徴とする歩行計測システム。
前記ゲート設定部は、前記ゲートの範囲を、前記被験者の脚部の速度が大きくなるに連れて大きくなるように変化させる、ことを特徴とする請求項1又は2記載の歩行計測システム。
前記ゲート設定部は、前記検出波の出射方向から見て前記被験者の一方の脚部が隠れた状態である場合、前記一方の脚部に係る前記ゲートの範囲を、当該隠れた状態が継続するに連れて大きくなるように変化させる、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記の歩行計測システム。
前記脚部位置特定手段で特定された前記脚部位置に少なくとも基づいて、前記被験者における一方及び他方の脚部が互いに交差した状態であるクロスステップを検出するクロスステップ検出手段をさらに備え、
前記クロスステップ検出手段は、
複数の前記脚部位置の中から複数の着床位置を特定し、
前記一方の脚部における複数の前記着床位置のうち互いに最も近い一対の着床位置を通る着床ラインを設定し、
前記着床ラインに平行で、且つ前記着床ラインから前記一方の脚部の内側に第1所定距離離れる第1基準ラインを設定すると共に、
前記着床ラインに平行で、且つ前記着床ラインから前記一方の脚部の外側に第2所定距離離れる第2基準ラインを設定し、
前記他方の脚部における前記着床位置が、前記第1基準ラインよりも前記一方の脚部の外側に位置したときにおいて、前記一方の脚部についての前記一対の着床位置間における前記脚部位置の軌跡の一部が、前記第2基準ラインよりも前記一方の脚部の外側に位置している場合、前記クロスステップを検出する、ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の歩行計測システム。
前記距離情報取得手段は、前記被験者の脛部の高さに対応する高さ位置において前記検出波が出射されるように設置されている、ことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項記載の歩行計測システム。
前記距離情報取得手段は、前記被験者の前方側から前記検出波が出射されるように設置されている、ことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項記載の歩行計測システム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0019】
図1は一実施形態に係る歩行計測システムの構成を示すブロック図であり、
図2は
図1の歩行計測システムが適用されたMTSTを示す概略図である。
図1及び
図2に示すように、歩行計測システム100は、歩行する被験者1の脚部位置及び脚部の動きを検知して特定することによって被験者1の歩行特性を取得するものであり、レーザレンジセンサ(Laser Range Sensor,距離情報取得手段)10と、電子制御装置(脚部位置特定手段)20と、モニタ30と、を含んで構成されている。
【0020】
ここでの歩行計測システム100は、例えば高齢者や足腰の不自由な者等の被験者1の歩行訓練の一つであるMulti-Target Stepping Test (MTST)に適用することができ、歩行訓練の転倒予防への効果を評価し、定量的な歩行計測や歩行能力評価することができる。
【0021】
MTSTとは、運動機能及び認知機能を同時に強化するための歩行訓練であって、三色のターゲット2がランダムに複数配置されたマット等の歩行路3を用意し、この歩行路3上の指定された一色のターゲット2のみを踏むように被験者1が進行方向4に沿って歩くという歩行訓練である。なお、MTSTでは、図示するように、被験者1の転倒等を避けるため、歩行訓練士等の介添人5が被験者1の隣あるいは後方に連れ添って行われる。また、
図2中においては、紙面奥側がスタート側であり、紙面手前側がゴール側とされている。
【0022】
図3は、
図1の歩行計測システムのレーザレンジセンサを説明する平面図である。レーザレンジセンサ10は、ある高さの二次元平面におけるセンサ周辺の物体までの距離である二次元平面距離情報(距離情報)を取得するものである。
図3に示すように、このレーザレンジセンサ10は、水平方向に沿って走査するようにレーザ光(検出波)Lを出射すると共に、このレーザ光Lの反射状態に基づいて、レーザ光Lを反射した物体との距離に関する二次元平面距離情報を経時的に取得する。
【0023】
具体的には、
図2及び
図3に示すように、レーザレンジセンサ10では、レーザ光Lを出射すると共に、このレーザ光Lを回転ミラーで反射させることにより、歩行路3を含む測定領域においてレーザ光Lを扇状に水平方向に走査する。そして、例えば被験者1の脚部Fで反射されたレーザ光Lの反射光を受光し、反射光の検出角度(走査角度)、及びレーザ光Lの出射から受光までの時間(伝播時間)を計測し、該脚部Fとの角度及び距離に係る情報を含む二次元平面距離情報を検出する。
【0024】
このレーザレンジセンサ10は、レーザ光Lを出射する光窓部の高さが調整可能に構成されており、被験者1の脛部の高さ(つまり、足首から膝下までの高さ)に対応する高さ位置でレーザ光Lが出射されるように設置されている。また、このレーザレンジセンサ10の光窓部の高さは、脚部Fが遊脚期(脚部Fが遊脚状態の時期))で離床すること及び被験者1がレーザレンジセンサ10から離れている場合にも脚部Fを検出可能にすることを考慮し、脚部Fの幅が最大となる平均高さに基づき設定され、例えば床面から0.27mとされている。
【0025】
また、このレーザレンジセンサ10は、歩行路3の進行方向4の先にてレーザ光Lの出射方向が歩行路3に向くように配置されており、被験者1の前方側から被験者1に向けてレーザ光Lが出射されるようになっている。また、レーザレンジセンサ10は、そのレーザ光Lの出射方向が床面に対して水平になるように設置されている。
【0026】
なお、レーザレンジセンサ10としては、測距範囲が0.1〜30m、測域角度が270deg、測距精度が±30mm、角度分解能が0.25deg、及びサンプリング周期が25ms/scanのものが用いられている。ちなみに、レーザレンジセンサ10は、そのタイプや仕様(スペック)について限定されるものではなく、例えば測定環境に応じて種々のものを用いることができる。
【0027】
電子制御装置20は、レーザレンジセンサ10で取得した二次元平面距離情報に基づく演算を行って被験者1の脚部Fの位置である脚部位置を経時的に特定し、被験者1の歩行特性を取得するものである。電子制御装置20としては、例えば、パーソナルコンピュータや専用制御用コンピュータが用いられ、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read OnlyMemory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。
【0028】
この電子制御装置20は、機能的要素として、被験者1の脚部位置の観測値である脚部観測位置を検出する観測位置検出部21と、被験者1の脚部位置の予測値である脚部予測位置を算出する予測位置算出部22と、脚部観測位置及び脚部予測位置の相関処理を行い脚部位置の特定(割当て)を行う相関処理部23と、特定した脚部位置の事後処理を行う事後処理部24と、脚部Fが立脚状態又は遊脚状態の何れであるかを判定する立脚遊脚判定部25と、を有している。
【0029】
観測位置検出部21は、二次元平面距離情報に基づいて脚部観測位置を検出するものである。具体的には、観測位置検出部21は、脚部Fの二次元平面距離情報が特徴的な形状となることに鑑み、二次元平面距離情報からエッジ検出処理して脚部Fのエッジ位置を検出し、複数の観測パターンを用いたパターン認識によって、エッジ位置から脚部Fの候補点として脚部観測位置を検出する。このとき、本実施形態では、被験者1の脚部Fの太さに関する脚部情報を用い、脚部Fの太さを既知としている。
【0030】
予測位置算出部22は、過去の時刻の脚部位置に基づいて脚部予測位置を算出するものであり、具体的には、過去の脚部位置と該脚部Fの速度から脚部予測位置を算出する。相関処理部23は、脚部観測位置及び脚部予測位置の相対的な位置関係から脚部位置を特定するものであり、ゲート設定部23a及び対応付け部23bを含んでいる。
【0031】
ゲート設定部23aは、混雑環境下において目標に相関し得る脚部観測位置を限定するためのものとして、脚部予測位置を中心に所定範囲に拡がる判定範囲であるゲートを設定する。また、このゲート設定部23aは、脚部Fの状態である脚部の状態(立脚、遊脚、速さ及び隠れ)に応じて、ゲートの範囲を変化させる(詳しくは後述)。
【0032】
対応付け部23bは、脚部観測位置がゲート内に存在するときに、このゲート内の脚部観測位置のみを目標に対応付けし、例えば脚部観測位置を脚部位置として特定する。また、対応付け部23bは、脚部観測位置がゲート内に存在しないとき、脚部予測位置を目標に対応付けし、例えば脚部予測位置を脚部位置として特定する。
【0033】
事後処理部24は、特定した脚部位置から観測ノイズの影響を除去するものであり、例えば、脚部位置に対して人間行動モデルに基づく演算を行うことにより、該脚部位置からレーザレンジセンサ10のノイズの影響を除去する。立脚遊脚判定部25は、脚部Fの速度に基づいて、脚部Fが立脚状態又は遊脚状態の何れであるかの立脚遊脚判定を行うものである。
【0034】
なお、遊脚状態とは、身体の重みのかからない脚部の状態を意味し、床面(地面)から脚部Fが離れている状態を含んでいる。立脚状態とは、身体の重みがかかっている脚部の状態を意味し、床面に脚部Fが接地している状態を含んでおり、支持脚状態とも称する。
【0035】
また、電子制御装置20は、機能的要素として、脚部Fが床面に着床した位置である着床位置を取得する着床位置取得部26と、指定されたターゲット2(
図2参照)を被験者1が正しく踏んだか否かを判定するステップ判定部27と、脚部Fの一方及び他方が互いに交差した状態であるクロスステップを検出するクロスステップ検出部28と、歩行特性に係る各情報が記憶される記憶部29と、をさらに有している。
【0036】
着床位置取得部26は、脚部Fの速度に基づき着床位置を取得する。ここでは、立脚期(脚部Fが立脚状態の時期)の際に脚部Fの速さが最も小さくなった時刻を着床時刻とし、その時刻における脚部位置を着床位置としている。ステップ判定部27は、ターゲット2に対応する位置にステップ判定領域を設定し、このステップ判定領域内に着床位置が含まれる場合に、該ターゲット2を正しく踏んだと判定する。
【0037】
クロスステップ検出部28は、一方の脚部Fにおける複数の着床位置のうち互いに最も近い一対の着床位置から着床ラインL0、第1基準ラインL1及び第2基準ラインL2を設定し、これらラインL0〜L3を基準にしてクロスステップを検出する(詳しくは後述)。
【0038】
記憶部29は、脚部位置、脚部Fの速度、立脚遊脚判定部25の立脚遊脚判定結果、ステップ判定部27の判定結果、及びクロスステップ検出部28の検出結果に関する情報を、時刻(サンプリング時刻)に関連付けて少なくとも格納する。また、記憶部29は、被験者1の脚部Fの太さ(脛部の直径に対応する長さ)に関する脚部情報を格納する。この脚部Fの太さは、例えば被験者1に歩行前若しくは歩行後に、レーザレンジセンサ10を用いて検出することによって取得できる。
【0039】
モニタ30は、電子制御装置20による演算結果を表示するためのものである。ここでのモニタ30は、記憶部29に記憶された各情報を例えば被験者1の歩行特性や正しく移動できたか否かの移動結果等として表示し、被験者1にフィードバックする。なお、モニタ30は、表示に代えて又は加えて音声等を出力する構成としてもよい。また、モニタ30に代えて若しくは加えて、演算結果等を紙媒体にプリント出力する出力部をさらに備えていてもよい。
【0040】
次に、本実施形態の歩行計測システム100を用いてMTSTおける歩行特性を計測する場合について、
図4に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0041】
まず、歩行計測システム100では、レーザレンジセンサ10による二次元平面距離情報の取得、及び取得した二次元平面距離情報に基づく処理を逐次行い、被験者1の両脚部F
R,F
Lの脚部位置及び速度をカルマンフィルタにより推定し、追跡する。以下、サンプリング時刻kにおける処理を例示して説明する。
【0042】
[脚部観測位置の検出]
図5は、
図1の歩行計測システムによる脚部位置の特定を説明するための図である。
図5(a)に示すように、レーザレンジセンサ10で取得した二次元平面距離情報から、観測位置検出部21により被験者1の脚部観測位置y
kを検出する(S1)。具体的には、二次元平面距離情報から脚部Fのエッジ位置Eを検出し、検出したエッジ位置の位置関係に基づいて、複数の観測パターンO1〜O5(
図6及び
図7参照)を用いたパターン検出によって脚部観測位置y
kを検出する。
【0043】
図6及び
図7は、脚部観測位置の検出に用いられる観測パターンの例を説明する図である。
図6(a)はSL(Single Leg)パターンを用いた例、
図6(b)はLT(two LegsTogether)パターンを用いた例、
図6(c)はFSO(Forward StraddleObservable)パターンを用いた例である。
図7(a)はFSU(Forward StraddleUnobservable)パターンを用いた例、
図7(b)はUO(Unobservable)パターンを用いた例である。
【0044】
図6及び
図7に示すように、SLパターンとしての観測パターンO1は、脚部Fが単独でレーザレンジセンサ10から完全に観測できている状態である。LTパターンとしての観測パターンO2は、脚部Fがそろってレーザレンジセンサ10から完全に観測できている状態である。FSOパターンとしての観測パターンO3は、片方の脚部Fや杖等の影響によってパターンが壇状になり、エッジ位置E間の幅が被験者1の脚部Fの幅の1/2以上あり、脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から観測できている状態である。
【0045】
FSUパターンとしての観測パターンO4は、FSOパターンと同様にパターンが壇状になるが、エッジ位置E間の幅が被験者1の脚部Fの幅の1/2未満で脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から直接観測できない状態である。UOパターンとしての観測パターンO5は、片方の脚部Fや杖等の影響によって観測できない状態である。
【0046】
なお、脚部観測位置y
kの検出において、観測パターンO1〜O4を満たさないエッジ位置Eは脚部Fではないと判定する。また、MTSTでは測定領域が予め分かっていることから、不要な相関処理を避けるために、歩行路3の領域に対して所定長広い領域を測定領域とし、測定領域外の脚部観測位置y
kとそれに対応するエッジ位置Eは除外する。
【0047】
ここで、脚部観測位置y
kの検出では、脚部Fの太さ(脛部の直径に対応する長さ)wを用いており、例えば、
図7(a)に示すFSUパターンの観測パターンO4では、右脚部F
Rについて、エッジ位置E間の中央が脚部観測位置y
kとして検出されるのではなく、例えばエッジ位置Eから太さwの1/2だけ内側に入った位置が脚部観測位置y
kとして検出される。以上のように複数の観測パターンO1〜O5に応じて脚部Fの脚部観測位置を検出することにより、レーザレンジセンサ10から見て脚部Fが重なって隠れた場合にも、脚部Fを好適に検出することが可能となる。
【0048】
[脚部予測位置の算出]
続いて、
図5(b)に示すように、過去の時刻の脚部位置に基づいて、予測位置算出部22により脚部予測位置y^
k(図中の×印を参照)を算出する(S2)。具体的には、下式(1),(2)に示す線形離散時間方程式で記述される移動モデルにカルマンフィルタを用いて推定を行うとし、前サンプリング時刻k−1で得た各状態推定値を基に、下式(1)から事前状態推定値及び事前誤差共分散行列を下式(3),(4)によりそれぞれ求める。
【数1】
【0049】
ここで、Mは追跡する目標数、v
kは平均ベクトル0で共分散行列Qのシステム雑音ベクトル、w
kは平均ベクトル0で共分散行列Rの観測雑音ベクトルであり、互いに独立な正規性白色雑音と仮定している。そして、下式(5)に基づき,脚部予測位置y^
kを算出する。
【数2】
【0050】
[相関処理]
続いて、
図5(c)に示すように、相関処理部23により脚部観測位置y
k及び脚部予測位置y^
kの相関処理を行って、脚部位置P
kを特定する(S3)。具体的には、脚部予測位置y^
kを中心とする円形のゲートGを設定し、この中に入った脚部観測位置y
kのみを脚部位置P
kとするメモリトラッキングを行う。ここでは、Χ
2検定に基づいて、脚部観測位置y
kが次式(6)を満たす場合に該脚部観測位置y
kがゲートG内に存在すると判定する。
【数3】
【0051】
なお,S
kはレーザレンジセンサ10の観測雑音共分散行列Rとカルマンフィルタの予測誤差共分散行列P
k/k-1により算出される残差共分散行列であり、次式(7)で得られる。また、Gは、検定の有意水準に基づき設定されるパラメータである。
【数4】
【0052】
ゲートG内に脚部観測位置y
kが得られなかった場合には、カルマンフィルタによる前サンプリング時刻k−1からの脚部予測位置y^
kを現時刻kにおける脚部位置P
kとするメモリトラッキングを行う。ゲートG内に複数の脚部観測位置y
kが得られた場合には,NN(Nearest Neighbor)法等を使った対応付けを行ってもよいし、また、ゲートGが重なった場合には,GNN(Global Nearest Neighbor)法を用いてもよい。
【0053】
[事後処理]
続いて、事後処理部24により、脚部位置P
kに対して人間行動モデルに基づく演算を行うことにより、該脚部位置P
kからレーザレンジセンサ10のノイズの影響を除去する(S4)。
【0054】
[立脚遊脚判定]
続いて、立脚遊脚判定部25により、脚部Fの速度に基づいて、脚部Fが立脚状態又は遊脚状態の何れであるかの立脚遊脚判定を行う(S5)。人間の歩行においては、脚部Fの速度を指標とすることで各脚部Fの状態を識別することが可能であることが見出される。そこで、上記S5では、時刻kにおける右脚部F
Rの速度v
Rkと左脚部F
Lの速度v
Lkとを、カルマンフィルタによる推定値を用いて求める。そして、これら速度v
Rk,v
Lkの大小関係から、遊脚状態又は立脚状態を判定する。
【0055】
図8は、立脚遊脚判定を説明するための脚部の速度を示すグラフである。
図8中において、小さい黒丸印は遊脚状態の脚部Fに係る値を示し、二重の丸印(大きい黒丸印を含む)は立脚状態の脚部Fに係る値を示している(
図5,11〜13において同様)。
図8に示すように、ここでの立脚遊脚判定では、被験者1に躓くような動きがあった際には両脚部F
R,F
Lが離床する場合もあることを考慮し、立脚期の最大速度v
st_maxと遊脚期の最小速度v
sw_minを定義し,脚部Fの速度vが最大速度v
st_maxを超えた場合は遊脚状態とし、最小速度v
sw_minよりも遅い場合は立脚状態としている。
【0056】
好ましいとして、最大速度v
st_maxについては人の平均歩行速度1.1m/sの1/3に設定することができ、最小速度v
sw_minについては最大速度v
st_maxの1/2に設定することができる。なお、上記の立脚遊脚判定では、例えば速度v
Lk,v
Rkのうち大きい方に係る脚部Fを遊脚状態とし、小さい方に係る脚部Fを立脚状態として判定してもよい。
【0057】
続いて、二次元平面距離情報の取得が終了するまで上記S1〜S5が繰り返し実施され、被験者1の両脚部F
R,F
Lの脚部位置P
kがトレースされることとなる(S6)。
【0058】
ここで、本実施形態においては、上記相関処理(上記S3)にて設定するゲートGの範囲を、被験者1の脚部の状態に応じて変化させている。すなわち、前サンプリング時刻k−1における脚部Fの状態を考慮し、被験者1の脚部Fの太さw、時刻k−1における脚部Fの速度v(k−1)、及び、レーザレンジセンサ10で観測できなかった時間を用いて下表1に示すようにゲートGの範囲を設定する。ここで、H(k)は、時刻kにおいて連続して脚部Fが観測できなかった回数である。また、解析結果及び人間の平均移動速度を考慮し、a=0.75,b=1.0,v
st=1.1,v
sw=v
st/2としている。
【表1】
【0059】
具体的には、
図5(c)に示すように、脚部Fが遊脚期のゲートG1の範囲を大きく設定する一方で、脚部Fが立脚期のゲートG2の範囲を、遊脚期のゲートG1に対し、観測精度は高いために小さく設定する。つまり、脚部Fが遊脚状態と判定されたときのゲートG1の範囲を、脚部Fが立脚状態と判定されたときのゲートG2の範囲に比べて大きくなるように変化させる。
【0060】
ここでは、立脚期のゲートG2の基本サイズa・wと、遊脚期のゲートG1の基本サイズb・wとについて、a・w<b・wとなるように設定する。なお、立脚期のゲートG2の基本サイズa・wは、レーザレンジセンサ10の性能誤差に基づき定まる最小値を用いることができる。
【0061】
また、脚部観測位置y
kの信頼度は脚部Fの速度vに応じて異なり、速度vが大きいほど観測精度は低下する。よって、ゲートGの範囲について、サンプリング時刻k−1における速度v(k−1)とサンプリング周期Δtとの積(Δt間の移動量)を加え、速度vが大きいほど範囲が大きくなるように設定する。
【0062】
さらに、クロスステップ等によってレーザレンジセンサ10に対し脚部Fが隠れて検出できない場合には,該脚部Fが隠れていた間に移動した場合も考慮し、隠れていた時間H(k)とその間の速度vとに応じてゲートGの範囲を大きくする。つまり、レーザ光Lの出射方向から見て一方の脚部Fが隠れた状態である場合、この一方の脚部Fに係るゲートGの範囲を、当該隠れた状態が継続するに連れて大きくなるように変化させる。
【0063】
ここでは、例えば、上記脚部観測位置の検出におけるパターン検出の結果、UOパターン(
図7(b)参照)とされたとき、隠れる直前の脚部Fが立脚状態であった場合には速度v
stで移動しているものとする一方、遊脚状態であった場合にはv
sw(但し、v
sw>v
st)で移動しているものとし、ゲートGの範囲を拡大する。
【0064】
以上の処理より,追跡する脚部FをゲートG内に含有した上で、脚部F以外の脚部観測位置y
kが含有されることを極力防ぎ、これにより、左右の脚部F
R,F
Lや介添人5の脚部を誤識別することが低減される。つまり、ゲートGの範囲を変化させることにより、杖や介添人5等による誤検出を軽減することが可能となる。例えば
図5(c)に示す例では、被験者1が使用する杖の位置が脚部観測位置y’
kとして検出された場合でも、この脚部観測位置y’
kが脚部位置P
kとして特定されてしまうのを回避できる。また、脚部Fが一時的に観測不能な場合にも,刻々とゲートGの範囲を拡大することにより、脚部Fが観測可能な状態に復帰したときに該脚部Fを好適にトレースできる。
【0065】
次に、上記S1〜S6の後、着床位置取得部26により、立脚期の際に最も早さが小さくなった時刻を着床時刻(
図8中の大きい黒丸印を参照)として求め、着床時刻における脚部位置P
kを着床位置として取得する(S7)。続いて、取得した複数の着床位置の全てについて、ステップ判定部27により、被験者1が指定されたターゲット2(
図2参照)を正しく踏んだか否かを判定する(S8)。
【0066】
図9(a)は、ステップ判定により用いられる脚部モデルを示す図であり、
図9(b)はステップ判定におけるステップ判定領域を示す図である。上記S8では、
図9に示すように、高齢者の身体データの平均値に基づく脚部モデル40を作成し、取得した着床位置に該脚部モデル40を設定すると共に、指定された色のターゲット2に対しステップ判定領域41を設定する。そして、脚部モデル40が設定された着床位置がステップ判定領域41内に含まれる場合、ターゲット2を正しく踏んだと判定する。
【0067】
続いて、取得した複数の着床位置の全てについて、クロスステップ検出部28により被験者1のクロスステップを検出する(S9)。具体的には、以下に説明するように、遊脚状態の脚部Fが弧を描くように立脚状態の脚部Fを回避しながら移動した場合、クロスステップの検出を行う。
【0068】
図10は、クロスステップ検出の一例を説明するための図である。
図10中においては、上側が進行方向とされ、脚部位置P
kが黒丸印で表され、脚部位置P
kのうち着床位置が大きい黒丸印で表されている。
図10に示すように、右脚部F
Rが着床位置51に着床した場合、一時刻前の右脚部F
Rの着床位置50を原点とし、着床位置51をx軸にとるxy座標系を定義し、着床位置50,51を通るように延びる着床ライン52を設定する。
【0069】
また、着床ライン52に平行で且つ着床ライン52から右脚部F
Rの内側(y軸方向の負側,図示左側)に所定距離w
cだけ離れる第1基準ライン53を設定する。これと共に、着床ライン52に平行で且つ着床ライン52から右脚部F
Rの外側(y軸方向の正側、図示右側)に所定距離w
cだけ離れる第2基準ライン54を設定する。なお、w
cは閾値であって、被験者1の脚部Fの太さwを考慮して、w
c=w/2としている。
【0070】
そして、図示する状態のように、左脚部F
Lにおける着床位置55が、第1基準ライン53よりも右脚部F
Rの外側に位置したときにおいて、右脚部F
Rについての着床位置50,51間における脚部位置P
kの軌跡60の一部が、第2基準ライン54よりも右脚部F
Rの外側に位置している場合、左右の脚部F
R,F
Lが交差したとしてクロスステップを検出する。
【0071】
以上により、電子制御装置20による処理が終了し、その後、被験者1の歩行特性の計測結果、ステップ判定結果及びクロスステップ検出結果がモニタ30に表示され、被験者1にフィードバックされることとなる。
【0072】
ところで、ゲートGの範囲が大きいと、脚部Fの急激な速度変化にも対応可能であるが、この場合、杖や介添人5(
図2参照)の脚部等もゲートG内に含有されてしまい、相関処理が複雑になることがあり、誤検出が生じるおそれが高くなる。一方で,ゲートGの範囲が小さいと、ゲートG内に脚部観測位置y
kが含有され難くなるために誤検出が生じる可能性は低いものの、脚部Fの急激な速度変化に対応できない場合がある。
【0073】
この点、本実施形態の歩行計測システム100では、上述したように、脚部位置P
kを特定する際の相関処理(上記S3)で設定されるゲートGの範囲を、被験者1の脚部Fの状態に応じて変化させることができる。これにより、検出された脚部観測位置y
kの信頼度が脚部Fの状態に応じて異なることを考慮でき、脚部Fの状態の違いに起因して脚部位置P
kを精度よく特定できないことを抑制できる。つまり、歩行における特徴を生かし、クロスステップ等による脚部Fの隠れや、介添人5及び杖等が二次元平面距離情報に含まれることに好適に対応することができ、脚部位置P
kを精度よくトレースすることが可能となる。
【0074】
また、脚部Fが遊脚状態のときには、ゲートGの範囲を脚部Fの急加速に対応させる必要性が高く、脚部観測位置y
kに脚部Fが存在するという信頼度が低くなる。一方、脚部Fが立脚状態のときには、ゲートGの範囲を脚部Fの急加速に対応させる必要性が低く、脚部観測位置の信頼度が高くなる。よって、本実施形態では、上述したように、脚部Fが遊脚状態又は立脚状態の何れであるかを判定し、そして、脚部Fが遊脚状態のゲートG1の範囲を、脚部Fが立脚状態と判定されたときのゲートG2の範囲に比べて大きくなるように変化させている。これにより、立脚期と遊脚期との脚部Fの動きの特徴を生かし、脚部位置P
kを精度よくトレースすることが可能となる。
【0075】
また、検出される脚部観測位置y
kの信頼度は、脚部Fの速度に応じて異なり、脚部Fの速度が大きいほど低下するという知見が見出される。そこで、本実施形態では、上述したように、脚部Fの速度が大きくなるに連れて大きくなるようにゲートGの範囲を変化させており、これにより、脚部Fの速度に係る当該知見を考慮して脚部観測位置y
kを精度よくトレースすることが可能となる。
【0076】
また、レーザレンジセンサ10に対して一方の脚部Fが他方の脚部F等に隠れたとき、この一方の脚部Fは、隠れている間にも移動している可能性があり、その後に現れた時点(レーザレンジセンサ10により観察可能になった時点)で大きい速度を有している場合がある。この点、本実施形態では、上述したように、脚部Fの隠れた状態が継続するに連れて、該脚部FのゲートGの範囲を大きくなるように変化させている。これにより、例えば、隠れた脚部Fが大きい速度を有して現れた場合でも、この脚部Fの脚部位置P
kを精度よく特定することができる。すなわち、脚部Fが隠れた場合を好適に考慮して脚部位置P
kを精度よくトレースすることが可能となる。
【0077】
また、通常、直進の歩行訓練のクロスステップ検出を行う場合、被験者1がゴール方向を向いて移動している場合には、左右の脚部F
R,F
Lの着床位置の座標による判定を行えばよい。しかし、体の向き自体をゴール方向ではなく次のターゲット2の方向に向けて移動する場合、着床位置だけではクロスステップを検出することは困難である。
【0078】
そこで、本実施形態では、上述したように、一方の脚部Fにおける複数の着床位置のうち互いに最も近い一対の着床位置50,51から着床ラインL0、第1及び第2基準ラインL1,L2を設定している。そして、他方の脚部Fにおける着床位置55が、第1基準ラインL1よりも一方の脚部Fの外側に位置したときにおいて、一方の脚部Fについての着床位置50,51間の脚部位置P
kの軌跡の一部が、第2基準ラインL2よりも一方の脚部Fの外側に位置する場合、クロスステップを検出している。
【0079】
これにより、クロスステップの際の特徴的な傾向、すなわち、クロスステップ時には、一方の脚部Fの着床位置が所定位置に位置し、この一方の脚部Fを他方の脚部Fが弧を描くように回避しつつ移動するという傾向を好適に利用することができ、その結果、クロスステップを精度よく検出することが可能となる。
【0080】
また、本実施形態では、上述したように、被験者1の脚部Fの太さwに関する脚部情報を記憶部29に記憶しており、二次元距離情報から検出したエッジ位置E及び脚部Fの太さから脚部観測位置y
kを検出している。これにより、例えば、他方の脚部Fや杖等の影響によって一方の脚部Fの中心位置がレーザレンジセンサ10から直接観測できない状態(上記FSUパターン等の状態)であっても、脚部観測位置y
kを精度よく検出することができる。
【0081】
また、本実施形態では、上述したように、被験者1の脛部の高さに対応する高さ位置においてレーザ光Lが出射されるようにレーザレンジセンサ10が設置されている。これにより、被験者1の脛部を基準に脚部位置P
kを特定することができる。その結果、例えばつま先部に比べ脛部の速度は安定しており速度変動が急峻でないことから、脚部位置P
kを安定して好適にトレースすることができる。
【0082】
また、本実施形態では、上述したように、被験者1の前方側からレーザ光Lが出射されるようにレーザレンジセンサ10が設置されている。これにより、例えばレーザ光Lの出射方向から見て一方の脚部Fが他方の脚部Fに隠れる場合、この一方の脚部Fは立脚状態となり易い。よって、隠れた脚部Fにについて、その急加速に対応させる必要性を低減でき、脚部観測位置y
kの信頼度を高めることができる。
【0083】
図11は歩行計測システムにより計測された脚部位置のトレース結果の例を示す図であり、
図12は
図11中の丸枠内の拡大図である。
図12(a)は一の時刻における状態を示し、
図12(b)は
図12(a)で示す状態より所定時間経過後における状態を示している。
【0084】
図11及び
図12(a)に示すように、右脚部F
Rの脚部観測位置y
kが右脚部F
RのゲートG1から外れているが、左脚部F
Lは立脚期であるため、ゲートG2の範囲は小さく、ゲートG2には右脚部F
Rの脚部観測位置y
kは含まれない。よって,左脚部F
LはゲートG2内において左脚部F
Lの脚部観測位置y
kと対応付けることができ、右脚部F
Rについては、脚部予測位置y^
kを用いてメモリトラッキングによる移動を行いながらゲートG1の範囲を拡大し、
図12(b)に示すように、所定時間経過後には、ゲートG1内に脚部観測位置y
kを検出できる。これにより、精度よいトレースを実現することが可能となっている。
【0085】
図13は、歩行計測システムにより計測された脚部位置のトレース結果の他の例を示す図である。
図13に示す結果において、ターゲット2のステップ判定をビデオカメラにより判定した場合には、ターゲット2が正しく踏まれた回数が414回であったところ、本実施形態の上記ステップ判定により判定した場合には、410回であった。これにより、99%(410/414)という高い精度でステップ判定が可能となることを確認することができた。
【0086】
また、
図13に示す結果において、クロスステップ検出をビデオカメラによる解析で行った場合には、19回のクロスステップが検出されたところ、本実施形態の上記クロスステップ検出では、15回のクロスステップを検出することができた。また、本実施形態では、誤ってクロスステップを検出することはなかった。
【0087】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
【0088】
例えば、上記実施形態では、歩行計測システム100をMTSTおける歩行特性の計測に適応したが、これに限定されず、その他の種々の歩行訓練等における歩行特性の計測に適応することができる。また、上記実施形態では、ゲートGを脚部予測位置y^
kを中心とする円形に設定したが、ゲートGは脚部予測位置y^
kを基準に設定されていればよく、また、円形以外のその他の形状に設定されていてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、脚部Fの立脚、遊脚、速さ及び隠れに応じてゲートGの範囲を可変したが、これら少なくとも1つに応じてゲートGの範囲を可変してもよいし、その他の脚部Fの状態に応じてゲートGの範囲を可変してもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、クロスステップ検出において、第1及び第2基準ライン53,54を着床ライン52から共に所定距離w
cだけ離れるように設定したが、これに限定されるものではない。第1基準ライン53が着床ライン52から離れる第1所定距離と、第2基準ライン54が着床ライン52から離れる第2所定距離とは、互いに等しくなくてもよいし、その他の閾値であってもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、歩行計測システム100を用いて歩行特性を計測する場合、上記S1〜上記S6をリアルタイム処理で実施した後、上記S7〜上記S9を非リアルタイム処理で実施しているが、これに限定されるものではない。上記S1〜上記S6を非リアルタイム処理で実施してもよいし、また、上記S7〜上記S9をリアルタイム処理で実施してもよい。
【0092】
なお、上記実施形態では、遊脚状態の脚部FのゲートG1の範囲を、立脚状態の脚部FのゲートG2の範囲に比べて大きくなるように変化させたが、場合によっては、立脚状態の脚部FのゲートG2の範囲を、遊脚状態の脚部FのゲートG1の範囲に比べて小さくなるように変化させてもよい。上記において、着床位置取得部26及びクロスステップ検出部28が、特許請求の範囲のクロスステップ検出手段を構成する。