(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「変速比」は、チェーン式無段変速機(以下、無段変速機と言う。)の入力回転速度を出力回転速度で割って得られる値である。無段変速機は変速比が小さいほどHigh側となる。
図1は第1実施形態における無段変速機の概略構成図である。
【0011】
無段変速機5はロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ2、前後進切り替え機構4を介してエンジン1に連結される。無段変速機5は、エンジン1から駆動力が伝達されるプライマリプーリ10と、出力軸13に連結されたセカンダリプーリ11と、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11とに掛け回された無終端チェーンリンク(以下、チェーンと言う。)12とを備える。出力軸13はアイドラギア14を介してディファレンシャル6に連結される。
【0012】
チェーン12は、多数のリンクをリンクピンで連結し、環状に形成される帯体である。チェーン12の内周面には、
図4に示すように後述する可動歯40の歯部53が噛合可能な噛合溝12aが形成される。噛合とは、噛合溝12aと歯部53とが出力軸13の径方向において重なり、噛合溝12aと歯部53との間で動力伝達される状態を言う。噛合溝12aが可動歯40に噛合することで、チェーン12とセカンダリプーリ11との間で滑りが発生することを抑制することができる。
【0013】
プライマリプーリ10は、入力軸と一体となって回転する固定円錐板10bと、固定円錐板10bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成する可動円錐板10aとを備える。可動円錐板10aは、プライマリプーリシリンダ室10cにプライマリプーリ圧が給排されることで入力軸の軸方向へ変位する。
【0014】
セカンダリプーリ11は、出力軸13と一体となって回転する固定円錐板11bと、固定円錐板11bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成する可動円錐板11aと、出力軸13の軸方向に沿って形成される可動歯40と、可動歯40を出力軸13の径方向外側に付勢するバネ41とを備える。セカンダリプーリ11について
図2〜
図4を用いて詳しく説明する。
図2は、チェーン12を外したセカンダリプーリ11の概略図である。
図3は、セカンダリプーリ11の出力軸13部分の概略斜視図である。
図4は、セカンダリプーリ11を出力軸13の軸方向に沿って切断した概略断面図である。
【0015】
可動歯40は、出力軸13の外周面にその周方向に等間隔で且つ軸方向に沿って設けられた複数の可動歯ガイド溝42の各々に、出力軸13の径方向へ移動可能となるように設けられる。可動歯40は出力軸13と一体となって回転する。
【0016】
可動歯40は、出力軸13の軸方向に延びる基部50と、基部50における固定円錐板11b側の端部から出力軸13の径方向外側に突出する第1ストッパー51と、基部50における可動円錐板11a側の端部から出力軸13の径方向外側に突出する第2ストッパー52と、第1ストッパー51と第2ストッパー52との間の基部50から出力軸13の径方向外側に突出する歯部53とを備える。
【0017】
可動歯40は、基部50と出力軸13との間に設けたバネ41によって、出力軸13の径方向外側に押されている。可動歯40は、バネ41による弾性力と、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合する場合に発生する押力とに応じて出力軸13の径方向に移動する。押力がない場合、または弾性力が押力よりも大きい場合には、第1ストッパー51が固定円錐板11bの内周面11dに当接し、第2ストッパー52が可動円錐板11aの内周面11eに当接する。このように、第1ストッパー51が固定円錐板11bの内周面11dに当接し、第2ストッパー52が可動円錐板11aの内周面11eに当接することで、可動歯40は、出力軸13の径方向外側への移動が規制されている。押力が弾性力よりも大きい場合には、可動歯40は出力軸13側に移動し、弾性力と押力とが釣り合う位置に保持される。
【0018】
歯部53は、出力軸13の軸方向に沿って形成され、チェーン12の噛合溝12aの形状に合わせて形成される。歯部53の歯先は、前記内周面11d、11eよりも出力軸13の径方向外側へ突出しないように形成されている。そのため、可動円錐板11aは、
図5に示すように、歯部53に干渉することなく、出力軸13の軸方向へ移動可能となる。
図5は、
図4において可動円錐板11aが固定円錐板11b側に移動する状態を示す図である。
【0019】
バネ41は、
図6に示すように、線状のU字形エレメント60と、線状の連結エレメント61とを交互に同一円周上に配置して構成される。
図6は、バネ41の概略構成図である。本実施形態では、
図4に示すように3本のバネ41を出力軸13の軸方向に並べて配置する。
【0020】
連結エレメント61は、出力軸13の周方向へ設けた溝13aに係合し、溝底13bによって出力軸13の径方向内側への移動が規制されている。
【0021】
U字形エレメント60は、連結エレメント61に対してU字の底部60aが出力軸13の径方向外側に位置するように設けられており、底部60aが可動歯40に当接する。バネ41の弾性力は、可動歯40が出力軸13の径方向内側に押されるほど大きくなる。U字形エレメント60は、可動歯40と同数設けられており、各可動歯40がU字形エレメント60から受ける弾性力は各可動歯40とチェーン12との接触状態に応じて異なる。
【0022】
可動円錐板11aは、セカンダリプーリシリンダ室11cにセカンダリプーリ圧が給排されることで出力軸13の軸方向へ変位する。
【0023】
無段変速機5は、プライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧とのバランスを変更することによって変速する。
【0024】
無段変速機5の変速比やプーリ10、11の推力は、CVTコントロールユニット20からの指令に応動する油圧コントロールユニット100によって制御される。CVTコントロールユニット20は、エンジン1を制御するエンジンコントロールユニット21から出力されるエンジン出力トルク情報や後述するセンサ等から出力される信号に基づいて目標変速比や推力を決定し、制御する。
【0025】
エンジン1で生じた駆動トルクは、トルクコンバータ2、前後進切り替え機構4を介して無段変速機5のプライマリプーリ10へ入力され、プライマリプーリ10からチェーン12を介してセカンダリプーリ11へ伝達される。プライマリプーリ10の可動円錐板10a及びセカンダリプーリ11の可動円錐板11aを軸方向へ変位させて、プライマリプーリ10とチェーン12、セカンダリプーリ11とチェーン12における接触半径を変更することにより、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11とにおける変速比は連続的に変更される。
【0026】
油圧コントロールユニット100は、
図7に示すように、ライン圧を制御するレギュレータバルブ32と、プライマリプーリ圧を制御する減圧弁30と、セカンダリプーリ圧を制御する減圧弁34とを備える。
図7は第1実施形態における油圧コントロールユニット100及びCVTコントロールユニット20の概念図である。
【0027】
レギュレータバルブ32は、エンジン1で生じた駆動トルクの一部が伝達されて駆動するオイルポンプ36から吐出された油の圧力を調圧するソレノイド33を備える。レギュレータバルブ32は、オイルポンプ36から吐出された油の圧力をCVTコントロールユニット20からの指令(例えば、デューティ信号など)に応じて運転状態に応じた所定のライン圧に調圧する。
【0028】
減圧弁30は、ライン圧を調圧するソレノイド31を備える。減圧弁30は、ライン圧をCVTコントロールユニット20からの指令(例えば、デューティ信号など)に応じて所定のプライマリプーリ圧に調圧する。プライマリプーリ圧は、プライマリプーリシリンダ室10cに給排される。
【0029】
減圧弁34は、ライン圧を調圧するソレノイド35を備える。減圧弁34は、ライン圧をCVTコントロールユニット20からの指令(例えば、デューティ信号など)に応じて所定のセカンダリプーリ圧に調圧する。セカンダリプーリ圧は、セカンダリプーリシリンダ室11cに給排される。
【0030】
CVTコントロールユニット20は、インヒビタスイッチ22からの信号、アクセルペダルセンサ23からの信号、プライマリプーリ回転速度センサ24からの信号、セカンダリプーリ回転速度センサ25からの信号、ブレーキペダルセンサ26からの信号、エンジンコントロールユニット21からの信号などに基づいて、変速比などを制御する。エンジンコントロールユニット21からは、エンジン回転速度センサ29からの信号に基づき、エンジン回転速度やエンジンの出力トルクの情報などが送られる。
【0031】
無段変速機5において、変速比をHigh側、例えば最Highへ変更する場合には、変速比が最Highとなる前にチェーン12の噛合溝12aの一部が可動歯40に噛合を開始し、可動歯40の一部はチェーン12によって出力軸13の径方向内側に押された状態となる。なお、チェーン12の噛合溝12aの一部が可動歯40に噛合している場合でも、チェーン12の噛合溝12aの他の一部は可動歯40に噛合せずに、チェーン12が可動歯40を出力軸13の径方向内側に押し込んでいる状態となる。そのため、変速比が、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40と噛合を開始する変速比となった後は、チェーン12にはバネ41による弾性力が作用し、バネ41による弾性力を考慮して変速させなければならない。
【0032】
本実施形態の変速制御は、上記状況においてセカンダリプーリ圧を調整することで、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合する変速比への変更を容易にする。
【0033】
次に、本実施形態における変速制御について
図8〜10のフローチャートを用いて説明する。
【0034】
ステップS100では、CVTコントロールユニット20は、詳しくは後述する故障判定フラグが「1」であるかどうか判定する。処理は、故障判定フラグが「1」の場合にはステップS138に進み、故障判定フラグが「0」の場合にはステップS101に進む。
【0035】
ステップS101では、CVTコントロールユニット20は、入力トルク、スロットル開度、車速、セレクトレバーの位置に基づいて、変速線マップから目標変速比を算出する(ステップS101が目標変速比算出手段を構成する。)。スロットル開度は、アクセルペダルセンサ23からの信号に基づいて検出される。車速は、図示しない車輪速センサからの信号に基づいて検出される。セレクレバーの位置は、インヒビタスイッチ22からの信号に基づいて検出される。
【0036】
ステップS102では、CVTコントロールユニット20は、目標変速比に基づいて基礎プライマリプーリ推力と基礎セカンダリプーリ推力とを算出する。基礎プライマリプーリ推力、及び基礎セカンダリプーリ推力は、目標変速比を実現するために最低限必要な最小推力制限値に安全代を加算した推力である。
【0037】
ステップS103では、CVTコントロールユニット20は、基礎プライマリプーリ推力が最小プライマリプーリ推力以上であるかどうか判定する。処理は、基礎プライマリプーリ推力が最小プライマリプーリ推力以上である場合にはステップS105に進み、基礎プライマリプーリ推力が最小プライマリプーリ推力よりも小さい場合にはステップS104に進む。
【0038】
ステップS104では、CVTコントロールユニット20は、最小プライマリプーリ推力を基礎プライマリプーリ推力に設定する。
【0039】
ステップS105では、CVTコントロールユニット20は、基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力以上であるかどうか判定する。処理は、基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力以上である場合にはステップS107に進み、基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力よりも小さい場合にはステップS106に進む。
【0040】
ステップS106では、CVTコントロールユニット20は、最小セカンダリプーリ推力を基礎セカンダリプーリ推力に設定する。
【0041】
ステップS107では、CVTコントロールユニット20は、基礎プライマリプーリ推力と基礎セカンダリプーリ推力とに基づいて変速差推力を算出する。
【0042】
ステップS108では、CVTコントロールユニット20は、変速差推力に基づいて、
図11に示す変速差推力マップから目標ライン圧を算出する。
【0043】
ステップS109では、CVTコントロールユニット20は、目標ライン圧に基づいて、
図12に示すマップからライン圧ソレノイド指令値を算出する。
【0044】
ステップS110では、CVTコントロールユニット20は、ライン圧ソレノイド指令値に基づいてレギュレータバルブ32のソレノイド33を制御し、ライン圧を調圧する。
【0045】
ステップS111では、CVTコントロールユニット20は、基礎プライマリプーリ推力に基づいて目標プライマリプーリ圧を算出する。
【0046】
ステップS112では、CVTコントロールユニット20は、目標プライマリプーリ圧に基づいて、
図13に示すマップからプライマリプーリ圧ソレノイド指令値を算出する。
【0047】
ステップS113では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ圧ソレノイド指令値に基づいて減圧弁30のソレノイド31を制御し、プライマリプーリ圧を調圧する。
【0048】
ステップS114では、CVTコントロールユニット20は、基礎セカンダリプーリ推力に基づいて目標セカンダリプーリ圧を算出する。
【0049】
ステップS115では、CVTコントロールユニット20は、目標セカンダリプーリ圧に基づいて、
図14に示すマップからセカンダリプーリ圧ソレノイド指令値を算出する。
【0050】
ステップS116では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ圧ソレノイド指令値に基づいて減圧弁34のソレノイド35を制御し、セカンダリプーリ圧を調圧する。
【0051】
ステップS117では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ回転速度センサ24からの信号に基づいてプライマリプーリ回転速度を検出する。
【0052】
ステップS118では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ回転速度センサ25からの信号に基づいてセカンダリプーリ回転速度を検出する。
【0053】
ステップS119では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ回転速度をセカンダリプーリ回転速度で除算することで、実変速比を算出する(ステップS119が変速比算出手段を構成する。)。
【0054】
ステップS120では、CVTコントロールユニット20は、実変速比とセカンダリプーリ回転速度とに基づいてセカンダリプーリ11とチェーン12との接触半径を算出する。
【0055】
ステップS121では、CVTコントロールユニット20は、可動歯40のストローク量を算出する。具体的には、CVTコントロールユニット20は、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合する第1変速比(所定変速比)となった場合のセカンダリプーリ11とチェーン12との接触半径である所定半径と、ステップS120によって算出したセカンダリプーリ11とチェーン12との接触半径との偏差を算出する。ストローク量は、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合している場合にはゼロ以上となり、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合していない場合にはゼロよりも小さくなる。
【0056】
ステップS122では、CVTコントロールユニット20は、ストローク量がゼロ以上であるかどうか判定する(ステップS122が噛合判定手段を構成する。)。処理は、ストローク量がゼロよりも小さい場合には本制御を終了し、ストローク量がゼロ以上である場合にはステップS123に進む。ストローク量がゼロ以上である場合は、セカンダリプーリ11側のチェーン12には、セカンダリプーリシリンダ室11cに供給される油圧による挟持力に加えて、バネ41の弾性力が作用している。バネ41による弾性力は、High側への変速を妨げる力となる。バネ41による弾性力はストローク量が大きくなるほど大きくなる。
【0057】
ステップS123では、CVTコントロールユニット20は、ストローク量に基づいて
図15に示すマップからセカンダリプーリ推力低減量を算出する。セカンダリプーリ推力低減量は、ストローク量が大きくなると大きくなり、バネ41による弾性力によってセカンダリプーリ11側で増加するチェーン12の張力を減少させるように算出される。これにより、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合する場合でも、プライマリプーリ圧を高くせずに変速を行うことができるようになり、変速をスムーズに行えようになる。
【0058】
ステップS124では、CVTコントロールユニット20は、基礎セカンダリプーリ推力からセカンダリプーリ推力低減量を減算し、低減後基礎セカンダリプーリ推力を算出する。
【0059】
ステップS125では、CVTコントロールユニット20は、低減後基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力以上であるかどうか判定する。処理は、低減後基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力以上の場合にはステップS127に進み、低減後基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力よりも小さい場合にはステップS126に進む。
【0060】
ステップS126では、CVTコントロールユニット20は、最小セカンダリプーリ推力を低減後基礎セカンダリプーリ推力として設定する。
【0061】
ステップS127では、CVTコントロールユニット20は、低減後基礎セカンダリプーリ推力を基礎セカンダリプーリ推力として設定する。ここでは、現在の基礎セカンダリプーリ推力が低減後基礎セカンダリプーリ推力に上書きされる。
【0062】
ステップS128では、CVTコントロールユニット20は、ステップS127によって設定した基礎セカンダリプーリ推力に基づいて目標セカンダリプーリ圧を算出する。
【0063】
ステップS129では、CVTコントロールユニット20は、目標セカンダリプーリ圧に基づいて
図14に示すマップからセカンダリプーリ圧ソレノイド指令値を算出する。
【0064】
ステップS130では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ圧ソレノイド指令値に基づいて減圧弁34のソレノイド35を制御し、セカンダリプーリ圧を調圧する(ステップS130が油圧制御手段を構成する。)。ステップS128によって基礎セカンダリプーリ推力が上書きされると、その値に応じてセカンダリプーリ圧が再度調圧される。
【0065】
ステップS131では、CVTコントロールユニット20は、実変速比と目標変速比とに基づいてスリップ率を算出する(ステップS131が偏差算出手段を構成する。)。スリップ率は実変速比と目標変速比との偏差である。セカンダリプーリ11で滑りが発生した場合には、セカンダリプーリ11の回転速度に対して、プライマリプーリ10の回転速度が高くなるので、目標変速比に対して実変速比が大きくなる。
【0066】
ステップS132では、CVTコントロールユニット20は、スリップ率が所定値以下かどうか判定する。所定値は、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合しているかどうかを判定する値であり、予め実験などによって設定される。例えば、ステップS122によってストローク量がゼロ以上であり、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合していると判定されたにもかかわらず、スリップ率が所定値よりも大きい場合には、可動歯40、バネ41、チェーン12の少なくとも1つで異常が発生し、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合していないおそれがある。ステップS132では、CVTコントロールユニット20は、スリップ率が所定値よりも大きい場合には、可動歯40、バネ41、チェーン12の少なくとも1つで異常が発生していると判定する(ステップS132が異常判定手段を構成する。)。処理は、スリップ率が所定値以下である場合には本制御を終了し、スリップ率が所定値よりも大きい場合にはステップS133に進む。
【0067】
ステップS133では、CVTコントロールユニット20は、可動歯40、バネ41、チェーン12の少なくとも1つで異常が発生し、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合していない場合に適用する異常時基礎セカンダリプーリ推力を基礎セカンダリプーリ推力として設定する。ここでは、ステップS127によって設定された基礎セカンダリプーリ推力がさらに上書きされる。
【0068】
ステップS134では、CVTコントロールユニット20は、基礎セカンダリプーリ推力に基づいて目標セカンダリプーリ圧を算出する。
【0069】
ステップS135では、CVTコントロールユニット20は、目標セカンダリプーリ圧に基づいて
図14に示すマップからセカンダリプーリ圧ソレノイド指令値を算出する。
【0070】
ステップS136では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ圧ソレノイド指令値に基づいて減圧弁34のソレノイド35を制御し、セカンダリプーリ圧を調圧する。ここでは、ステップS133によって基礎セカンダリプーリ推力が上書きされると、その値に応じてセカンダリプーリ圧が再度調圧される。
【0071】
ステップS137では、CVTコントロールユニット20は、故障判定フラグを「1」に設定する。なお、故障判定フラグが初期値として「0」に設定されている。
【0072】
ステップS100において故障判定フラグが「1」であると判定された場合には、ステップS138では、CVTコントロールユニット20は、その他の異常判定フラグ、例えば変速比がチェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合する第1変速比よりもLow側の変速比で滑りが発生したことを示すフラグに基づいて無段変速機5で異常が発生しているかどうか判定する。処理は、無段変速機5で他の異常が発生している場合にはステップS139に進み、無段変速機5で他の異常は発生していない場合にはステップS140に進む。
【0073】
ステップS139では、CVTコントロールユニット20は、セーフモードを実行する。セーフモードでは、例えば車両が走行している場合には、変速比が現在の変速比に維持され、車両停車後には変速比は最Lowに限定される。
【0074】
ステップS140では、CVTコントロールユニット20は、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合しないように変速比を制限する(ステップS140が制限手段を構成する。)。さらに、CVTコントロールユニット20は、可動歯40、バネ41、チェーン12のいずれか1つに異常が発生していることを示す警告灯を点灯させて、運転者に告知する(ステップS140が告知手段を構成する。)。
【0075】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0076】
実変速比がチェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合する第1変速比となった後に、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合していないと判定されると、可動歯40、バネ41、チェーン12の少なくとも1つに異常が発生していると判定する。これにより、可動歯40、バネ41、チェーン12の異常発生を検知することができ、噛合溝12aと可動歯40とが正常に噛合しない状態を検知することができる(請求項1、7に対応する効果)。
【0077】
実変速比がチェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合する第1変速比となり、ストローク量がゼロ以上となった後に、実変速比と目標変速比とのスリップ率が所定値よりも大きくなり、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合していないと判定されると、可動歯40、バネ41、チェーン12の少なくとも1つに異常が発生していると判定する。これにより、油圧センサを用いずに可動歯40、バネ41、チェーン12の異常発生を検知することができる(請求項3に対応する効果)。
【0078】
可動歯40、バネ41、チェーン12の少なくとも1つに異常が発生していると判定された場合に、変速比をチェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合しない変速比に制限する。これにより、異常が発生した可動歯40、バネ41、チェーン12の状態が更に悪化することを抑制することができる(請求項4に対応する効果)。
【0079】
可動歯40、バネ41、チェーン12の少なくとも1つに異常が発生していると判定された場合に、警告灯を点灯する。これにより、運転者に異常が発生していることを告知することができる(請求項6に対応する効果)。
【0080】
次に本発明の第2実施形態について説明する。
【0081】
第2実施形態は、油圧コントロールユニット100及びCVTコントロールユニット20が第1実施形態と異なっている。ここでは、
図16を用いて油圧コントロールユニット100及びCVTコントロールユニット20を中心に説明する。
図16は油圧コントロールユニット100及びCVTコントロールユニット20の概念図である。第1実施形態と同じ構成については、第1実施形態の符号と同じ符号を付し、ここでの説明は省略する。
【0082】
油圧コントロールユニット100は、レギュレータバルブ32と、変速制御弁37と、減圧弁30、減圧弁34とを備える。
【0083】
変速制御弁37は、プライマリプーリシリンダ室10cのプライマリプーリ圧を所望の目標圧となるよう制御する制御弁である。変速制御弁37は、メカニカルフィードバック機構を構成するサーボリンク70に連結され、サーボリンク70の一端に連結されたステップモータ71によって駆動されるとともに、サーボリンク70の他端に連結したプライマリプーリ10の可動円錐板10aから溝幅、つまり実変速比のフィードバックを受ける。変速制御弁37は、スプール37aの変位によってプライマリプーリシリンダ室10cへの油圧の吸排を行って、ステップモータ71の駆動位置で指令された目標変速比となるようにプライマリプーリ圧を調整し、実際に変速が終了するとサーボリンク70からの変位を受けてスプール37aを閉弁位置に保持する。
【0084】
CVTコントロールユニット20は、インヒビタスイッチ22からの信号、アクセルペダルセンサ23からの信号、プライマリプーリ回転速度センサ24からの信号、セカンダリプーリ回転速度センサ25からの信号、ブレーキペダルセンサ26からの信号、プライマリプーリ圧センサ27からの信号、セカンダリプーリ圧センサ28からの信号などに基づいて、変速比などを制御する。
【0085】
次に、本実施形態における変速制御について
図17〜19のフローチャートを用いて説明する。
【0086】
ステップS200では、CVTコントロールユニット20は、故障判定フラグが「1」であるかどうか判定する。処理は、故障判定フラグが「1」の場合にはステップS230に進み、故障判定フラグが「0」の場合にはステップS201に進む。
【0087】
ステップS201では、CVTコントロールユニット20は、車速、エンジン回転速度、スロットル開度、セレクトレバーの位置から目標変速比を算出する。エンジン回転速度は、エンジン回転速度センサ29からの信号に基づいて検出される(ステップS201が目標変速比算出手段を構成する。)。
【0088】
ステップS202では、CVTコントロールユニット20は、目標変速比に基づいて
図20に示すマップからステップモータ位置を算出する。
【0089】
ステップS203では、CVTコントロールユニット20は、算出したステップモータ位置に基づいてステップモータ71を駆動する。これにより、変速制御弁37が制御される。
【0090】
ステップS204ではCVTコントロールユニット20は、エンジンコントロールユニット21から入力トルクの情報が送信される。
【0091】
ステップS205では、CVTコントロールユニット20は、目標変速比と入力トルクとに基づいて最小推力制限値、基礎プライマリプーリ推力、基礎セカンダリプーリ推力を算出する。
【0092】
ステップS206では、CVTコントロールユニット20は、基礎プライマリプーリ推力と基礎セカンダリプーリ推力とに基づいて目標ライン圧を算出する。
【0093】
ステップS207では、CVTコントロールユニット20は、目標ライン圧に基づいて、
図12に示すマップからライン圧ソレノイド指令値を算出する。
【0094】
ステップS208では、CVTコントロールユニット20は、ライン圧ソレノイド指令値に基づいてレギュレータバルブ32のソレノイド33を制御し、ライン圧を調圧する。
【0095】
ステップS209では、CVTコントロールユニット20は、基礎セカンダリプーリ推力と最小推力制限値とに基づいて推力分配制御により目標プライマリプーリ圧、及び目標セカンダリプーリ圧を算出する。
【0096】
ステップS210では、CVTコントロールユニット20は、目標プライマリプーリ圧に基づいて
図13に示すマップからプライマリプーリ圧ソレノイド指令値を算出する。
【0097】
ステップS211では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ圧ソレノイド指令値に基づいて減圧弁30のソレノイド31を制御し、変速制御弁37に供給されるプライマリプーリ圧を調圧する。
【0098】
ステップS212では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ回転速度センサ24からの信号に基づいてプライマリプーリ回転速度を検出する。
【0099】
ステップS213では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ回転速度センサ25からの信号に基づいてセカンダリプーリ回転速度を検出する。
【0100】
ステップS214では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ回転速度をセカンダリプーリ回転速度で除算することで、実変速比を算出する(ステップS214が変速比算出手段を構成する。)。
【0101】
ステップS215では、CVTコントロールユニット20は、実変速比とセカンダリプーリ回転速度とに基づいてセカンダリプーリ11とチェーン12との接触半径を算出する。
【0102】
ステップS216では、CVTコントロールユニット20は、可動歯40のストローク量を算出する。ストローク量の算出方法は、第1実施形態のステップS121と同じ方法である。
【0103】
ステップS217では、CVTコントロールユニット20は、ストローク量がゼロ以上であるかどうか判定する(ステップS217が噛合判定手段を構成する。)。処理は、ストローク量がゼロよりも小さい場合にはステップS227に進み、ストローク量がゼロ以上である場合にはステップS218に進む。
【0104】
ステップS218では、CVTコントロールユニット20は、ストローク量に基づいて
図15に示すマップからセカンダリプーリ推力低減量を算出する。
【0105】
ステップS219では、CVTコントロールユニット20は、基礎セカンダリプーリ推力からセカンダリプーリ推力低減量を減算し、低減後基礎セカンダリプーリ推力を算出する。
【0106】
ステップS220では、CVTコントロールユニット20は、低減後基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力以上であるかどうか判定する。処理は、低減後基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力以上の場合にはステップS222に進み、低減後基礎セカンダリプーリ推力が最小セカンダリプーリ推力よりも小さい場合にはステップS221に進む。
【0107】
ステップS221では、CVTコントロールユニット20は、最小セカンダリプーリ推力を低減後基礎セカンダリプーリ推力として設定する。
【0108】
ステップS222では、CVTコントロールユニット20は、低減後基礎セカンダリプーリ推力を基礎セカンダリプーリ推力として設定する。ここでは、ステップS205によって算出した基礎セカンダリプーリ推力が上書きされる。
【0109】
ステップS223では、CVTコントロールユニット20は、実変速比と目標変速比とに基づいてスリップ率を算出する(ステップS223が偏差算出手段を構成する。)。スリップ率の算出方法は、第1実施形態のステップS131と同じ方法である。
【0110】
ステップS224では、CVTコントロールユニット20は、スリップ率が所定値以下かどうか判定する(ステップS224が異常判定手段を構成する。)。処理は、スリップ率が所定値以下である場合にはステップS227に進み、スリップ率が所定値よりも大きい場合にはステップS225に進む。
【0111】
ステップS225では、CVTコントロールユニット20は、故障判定フラグを「1」に設定する。
【0112】
ステップS226では、CVTコントロールユニット20は、可動歯40、バネ41、チェーン12の少なくとも1つで異常が発生し、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合していない場合に適用する異常時基礎セカンダリプーリ推力を基礎セカンダリプーリ推力として設定する。ここでは、ステップS222によって設定された基礎セカンダリプーリ推力がさらに上書きされる。
【0113】
ステップS227では、CVTコントロールユニット20は、目標セカンダリプーリ圧を算出する。具体的には、CVTコントロールユニット20は、ステップS217においてストローク量がゼロよりも小さい場合には、ステップS209によって算出された目標セカンダリプーリ圧をそのまま目標セカンダリプーリ圧として設定する。CVTコントロールユニット20は、ステップS224においてスリップ率が所定値以下であると判定された場合には、ステップS222によって設定した基礎セカンダリプーリ推力に基づいて目標セカンダリプーリ圧を算出する。さらに、CVTコントロールユニット20は、ステップS224によってスリップ率が所定値よりも大きいと判定された場合には、ステップS226によって設定した基礎セカンダリプーリ推力に基づいて目標セカンダリプーリ圧を算出する。
【0114】
ステップS228では、CVTコントロールユニット20は、目標セカンダリプーリ圧に基づいて
図14に示すマップからセカンダリプーリ圧ソレノイド指令値を算出する。
【0115】
ステップS229では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ圧ソレノイド指令値に基づいて減圧弁34のソレノイド35を制御し、セカンダリプーリ圧を調圧する(ステップS229が油圧制御手段を構成する。)。
【0116】
ステップS200において故障判定フラグが「1」であると判定された後の制御であるステップS230〜ステップS232の制御は、第1実施形態のステップS138〜ステップS140の制御と同じなので、ここでの説明は省略する。
【0117】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0118】
ステップモータ71、及び変速制御弁37を有する無段変速機5においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0119】
次に本発明の第3実施形態について説明する。
【0120】
第3実施形態は変速制御が第2実施形態と異なっている。本実施形態における変速制御について
図21〜23を用いて説明する。
【0121】
ステップS300〜ステップS311の制御は、第2実施形態のステップS200〜ステップS211の制御と同じなので、ここでの説明は省略する。
【0122】
ステップS312では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ圧センサ27からの信号に基づいて実プライマリプーリ圧を検出する。
【0123】
ステップS313では、CVTコントロールユニット20は、実プライマリプーリ圧と目標プライマリプーリ圧とが等しいかどうか判定する。処理は、実プライマリプーリ圧と目標プライマリプーリ圧とが等しい場合にはステップS323に進み、実プライマリプーリ圧と目標プライマリプーリ圧とが等しくない場合にはステップS314に進む。
【0124】
ステップS314では、CVTコントロールユニット20は、実プライマリプーリ圧が目標プライマリプーリ圧よりも低いかどうか判定する。処理は、実プライマリプーリ圧が目標プライマリプーリ圧よりも高い場合にはステップS315に進み、実プライマリプーリ圧が目標プライマリプーリ圧よりも低い場合にはステップS323に進む。
【0125】
ステップS315では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ回転速度センサ24からの信号に基づいてプライマリプーリ回転速度を検出する。
【0126】
ステップS316では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ回転速度センサ25からの信号に基づいてセカンダリプーリ回転速度を検出する。
【0127】
ステップS317では、CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ回転速度をセカンダリプーリ回転速度で除算することで、実変速比を算出する(ステップS317が変速比算出手段を構成する。)。
【0128】
ステップS318では、CVTコントロールユニット20は、実変速比が第2変速比(所定変速比)以下となっているかどうか判定する。第2変速比は、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合し、実プライマリプーリ圧が所定油圧以上となると判断可能な変速比である。所定油圧は、バネ41による弾性力によってチェーン12が出力軸13の径方向外側に付勢されていると判定できる圧であり、センサなどの誤差などを考慮して設定され、入力トルクが大きくなるほど大きくなる。所定油圧は、目標プライマリプーリ圧に対して110%高くなる圧である。処理は、実変速比が第2変速比以下となっている場合にはステップS319に進み、実変速比が第2変速比よりも大きい場合にはステップS323に進む。
【0129】
ステップS319では、CVTコントロールユニット20は、実プライマリプーリ圧が所定油圧以上であるかどうか判定する(ステップS319が噛合判定手段を構成する。)。所定油圧は、ステップS318における所定油圧と同じ値である。ここでは、実際に実プライマリプーリ圧が所定油圧以上となっているかどうか判定する。可動歯40、バネ41、チェーン12のいずれにも異常が発生していなければ、チェーン12に可動歯40の付勢力が働き、それに応じて実プライマリプーリ圧も上昇し所定値以上の値となっている。処理は、実プライマリプーリ圧が所定油圧以上である場合には、ステップS320に進み、実プライマリプーリ圧が所定油圧よりも低い場合には、ステップS321に進む。
【0130】
ステップS320では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ低減指示フラグを「1」に設定する。セカンダリプーリ低減指示フラグは初期値として「0」に設定されている。
【0131】
ステップS321では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ低減指示フラグが「1」であるかどうか判定する。処理は、セカンダリプーリ低減指示フラグが「1」の場合にはステップS324に進み、セカンダリプーリ低減指示フラグが「0」の場合にはステップS323に進む。
【0132】
ステップS322では、CVTコントロールユニット20は、故障判定フラグを「1」に設定する。なお、故障判定フラグは初期値として「0」に設定されている。
【0133】
ステップS323では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ低減指示フラグが「1」であるかどうか判定する。処理は、セカンダリプーリ低減指示フラグが「1」である場合にはステップS324に進み、セカンダリプーリ低減指示フラグが「0」の場合にはステップS336に進む。
【0134】
ステップS324では、CVTコントロールユニット20は、詳しくは後述する推定入力トルクに対するセカンダリプーリ圧低減学習フラグが「1」であるかどうか判定する。処理はセカンダリプーリ圧低減学習フラグが「1」の場合にはステップS325に進み、セカンダリプーリ圧低減学習フラグが「0」の場合にはステップS326に進む。
【0135】
ステップS325では、CVTコントロールユニット20は、実変速比に基づいて、詳しくは後述する学習値を目標セカンダリプーリ圧として設定する。ここでは、現在の目標セカンダリプーリ圧が学習値によって上書きされる。
【0136】
ステップS326では、CVTコントロールユニット20は、実プライマリプーリ圧と目標プライマリプーリ圧との偏差を算出する。
【0137】
ステップS327では、CVTコントロールユニット20は、偏差に基づいて
図24に示すマップからセカンダリプーリ圧低減量を算出する。セカンダリプーリ圧低減量は、偏差が大きくなるほど大きくなる。セカンダリプーリ圧低減量は、バネ41による弾性力によってセカンダリプーリ11側で増加するチェーン12の張力を減少させるように算出される。これにより、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合する場合でも、プライマリプーリ圧を高くせずに変速を行うことができるようになる。
【0138】
ステップS328では、CVTコントロールユニット20は、目標セカンダリプーリ圧力からセカンダリプーリ圧低減量を減算し、低減後セカンダリプーリ圧を算出する。
【0139】
ステップS329では、CVTコントロールユニット20は、基礎セカンダリプーリ推力と最小推力制限値とに基づいて最小セカンダリプーリ圧を算出する。
【0140】
ステップS330では、CVTコントロールユニット20は、低減後セカンダリプーリ圧が最小セカンダリプーリ圧以上であるかどうか判定する。処理は、低減後セカンダリプーリ圧が最小セカンダリプーリ圧以上である場合にはステップS331に進み、低減後セカンダリプーリ圧が最小セカンダリプーリ圧よりも低い場合にはステップS332に進む。
【0141】
ステップS331では、CVTコントロールユニット20は、低減後セカンダリプーリ圧を目標セカンダリプーリ圧として設定する。ここでは、現在の目標セカンダリプーリ圧が低減後セカンダリプーリ圧によって上書きされる。
【0142】
ステップS332では、CVTコントロールユニット20は、最小セカンダリプーリ圧指令値を目標セカンダリプーリ圧として設定する。ここでは、現在の目標セカンダリプーリ圧が最小セカンダリプーリ圧指令値によって上書きされる。
【0143】
なお、ステップS331及びステップS332によって上書きされた目標セカンダリプーリ圧は、各実変速比に応じて一時的にCVTコントロールユニット20に記憶される。
【0144】
ステップS333では、CVTコントロールユニット20は、実変速比が最Highとなったかどうか判定する。処理は、実変速比が最Highとなった場合にはステップS334に進み、実変速比が最Highとなっていない場合にはステップS336に進む。
【0145】
ステップS334では、CVTコントロールユニット20は、実変速比に対して記憶している目標セカンダリプーリ圧を学習値として記憶する。なお、一時的に記憶されていた目標セカンダリプーリ圧は消去される。また、実変速比が前回の制御からLow側の変速比に変更された場合にも一時的に記憶されていた目標セカンダリプーリ圧は消去される。
【0146】
ステップS335では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ圧学習フラグを「1」に設定する。セカンダリプーリ圧学習フラグは初期値として「0」に設定されている。なお、セカンダリプーリ圧学習フラグは、入力トルク毎に設定される。
【0147】
ステップS336では、CVTコントロールユニット20は、目標セカンダリプーリ圧に基づいてセカンダリプーリ圧ソレノイド指令値を
図14に示すマップから算出する。
【0148】
ステップS337では、CVTコントロールユニット20は、セカンダリプーリ圧ソレノイド指令値に基づいて減圧弁34のソレノイド35を制御し、セカンダリプーリ圧を調圧する(ステップS337が油圧制御手段を構成する。)。
【0149】
ステップS300において故障判定フラグが「1」であると判定された後の制御であるステップS338〜ステップS340の制御は、第1実施形態のステップS138〜ステップS140の制御と同じなので、ここでの説明は省略する。
【0150】
本発明の第3実施形態の効果について説明する。
【0151】
実変速比がチェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合する第2変速比となっても、実プライマリプーリ圧がチェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合するときの所定油圧よりも低い場合に、チェーン12の噛合溝12aが可動歯40に噛合していないと判定する。チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合する際に高くなる実プライマリプーリ圧に基づいて可動歯40、バネ41、チェーン12の異常発生を判定することで、可動歯40、バネ41、チェーン12の異常発生を検知することができる(請求項2に対応する効果)。
【0152】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0153】
上記実施形態では、ストローク量、またはプライマリプーリ圧に基づいてチェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合しているかどうか判定したが、セカンダリプーリ11の可動円錐板11aの位置、チェーン12と可動歯40とが当たる時に発生する音、振動などに基づいて判定してもよい。
【0154】
第1、第2実施形態では、ストローク量がゼロ以上となると、セカンダリプーリ推力低減量を算出して、セカンダリプーリ圧を低くしたが、ゼロでなく所定のストローク量(正の値)以上で、セカンダリプーリ推力低減量を算出して、セカンダリプーリ圧を低くしてもよい。
【0155】
上記実施形態では、スリップ率またはプライマリプーリ圧に基づいて可動歯40、バネ41、またはチェーン12の少なくとも1つに異常が発生し、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合していないと判定したが、油圧、油振、音などに基づいて判定してもよい。
【0156】
上記実施形態では、エンジン1を動力源として用いているが、動力源としてモータ、またはエンジン及びモータを用いてもよい。
【0157】
上記実施形態では、無段変速機5の動力伝達部(帯体)としてチェーン12を用いたが、引っ張り側で動力を伝達する動力伝達部、例えば可動歯40に噛合可能なゴムベルトを用いてもよい。
【0158】
上記実施形態では、セカンダリプーリ11に可動歯40を設けたが、プライマリプーリ10に可動歯40を設けてもよい。
【0159】
上記実施形態では、可動歯40、バネ41、チェーン12のいずれか一つに異常発生した場合に、変速比を制限したが、チェーン12の噛合溝12aと可動歯40とが噛合する場合にセカンダリプーリ圧が低下しないようにしてもよい。これにより、チェーン12とセカンダリプーリ11との間で滑りが発生することを抑制することができる(請求項5に対応する効果)。