特許第6031435号(P6031435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6031435コラーゲン材料、及びコラーゲン材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031435
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】コラーゲン材料、及びコラーゲン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   A61L27/00 V
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-500880(P2013-500880)
(86)(22)【出願日】2012年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2012001098
(87)【国際公開番号】WO2012114707
(87)【国際公開日】20120830
【審査請求日】2014年1月20日
【審判番号】不服2014-23741(P2014-23741/J1)
【審判請求日】2014年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2011-35239(P2011-35239)
(32)【優先日】2011年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399072222
【氏名又は名称】株式会社アトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】佐久 太郎
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
(72)【発明者】
【氏名】礒部 峻興
【合議体】
【審判長】 内藤 伸一
【審判官】 小久保 勝伊
【審判官】 関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−504122(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/084507(WO,A1)
【文献】 特開2010−148691(JP,A)
【文献】 特開平11−319068(JP,A)
【文献】 特開2010−167274(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/101639(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/019625(WO,A2)
【文献】 特開2003−301362(JP,A)
【文献】 特開2009−112569(JP,A)
【文献】 特開2000−271207(JP,A)
【文献】 Biomaterials,2007年,Vol.28,No.29,p4268−4276
【文献】 Chemistry Letters,2008年,Vol.37,No.12,p1254−1255
【文献】 高分子学会医用高分子シンポジウム講演要旨集,2008年,Vol.37,p65−66
【文献】 角膜全層の再生医療技術の開発および臨床応用に関する研究 平成19年度総括・分担研究報告書,2008年,p9−12
【文献】 日本バイオマテリアル学会シンポジウム予稿集,2008年,Vol.2008,p138,SYP−12
【文献】 日本バイオマテリアル学会シンポジウム予稿集,2008年,Vol.2008,p139,SYP−13
【文献】 宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告,2003年,No.48,p13−16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/00
CA(STN),Medline,JSTplus,JMEDplus,JST7580
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向性を有し、かつ、ストリング形状のコラーゲンゲル断片から構成されるコラーゲン材料の製造方法であって、コラーゲン溶液をノズルを介して燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った容器に押し出しながら、前記ノズルをスライドさせて、前記コラーゲン溶液に一定方向の流れを与えることによって、前記ストリング形状のコラーゲンゲル長軸方向へ前記配向性を付与し、前記配向性が制御された複数のコラーゲンゲル断片を得る工程と、前記複数のコラーゲンゲル断片を、所望の形状に配列させて、自由乾燥又はフリーズドライにより乾燥させて固化することにより前記複数のコラーゲンゲル断片同士を結合させる工程と、からなる複数の前記コラーゲンゲル断片から構成されるコラーゲン材料の製造方法。
【請求項2】
前記ストリング形状のコラーゲンゲル長軸方向へ配向性を付与されたコラーゲンゲル断片の前記配向性が、一軸配向であり、前記配向性コラーゲンゲル断片を、平面上にシート形状に配列させて、前記断片同士を結合させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記シート形状に配列した複数のコラーゲンゲル断片を、心棒に巻き付ける工程と、前記心棒を取り除いた後、チューブ状のコラーゲン材料を得る工程とを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記コラーゲンゲル断片が、細胞成長促進剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞成長促進剤が、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin-like growth factor:IGF)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor:TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor:VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage-colony stimulating factor:GM-CSF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor:PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin:TPO)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGFまたはFGF2)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF)である請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記材料の配向性は、正常な生体組織の各部位の配向性と等しくなるように設計されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記材料が、酸素を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
さらに、前記シート形状に配列した複数のコラーゲンゲル断片を、ドーム型に仕上げる工程を含む、請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記所望の形状が、平面形状及び/又は立体形状である請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記所望の形状が、リボン、スポンジ、グレイン(粒)、ロッド、リング、スパイラル、スプリング(バネ)、ディスク、又はブロックである請求項1記載の方法。
【請求項11】
さらに、加圧減圧法、気液せん断法、及び/又は孔を有する膜からの導入法のいずれか1つの方法によって、前記コラーゲンゲル断片にバブルを導入する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン材料、及びコラーゲン材料の製造方法に関し、特に、コラーゲン断片を利用したコラーゲン材料、及びコラーゲン材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無配向のコラーゲンはこれまで細胞培養の基板材料として長く利用されてきた。一方、人の体内においてその部位に応じて配向性を有したコラーゲンが多数見られ、再生医療等の分野においては、コラーゲン材料の形状と配向性の方向を自由に設計、製造できることが極めて重要となる。
【0003】
配向性を有したコラーゲン材料を製造する方法として、コラーゲン繊維が形成される過程において強力な磁場を印加することが一般的に知られている(特許文献1)。また、コラーゲンゲルをスピンコートする方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-280222号
【特許文献2】特開2010-148691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1及び2に記載のコラーゲン材料の製造方法では、リボン、シート、チューブ、ブロック形状といった自由な平面形状、立体形状と、材料内における自由な配向性の方向を実現することはできなかった。
【0006】
また、コラーゲンの配向化技術はこれまで存在したが、コラーゲン材料の形状と、材料内における配向性の方向を自由に設計する技術はなく、その結果、限られた形状と配向性の方向を有した、無配向性、及び配向性コラーゲン材料しか存在しなかった。
【0007】
そこで、本発明は、形状と配向性の方向を自由に設計できる配向性コラーゲン材料の製造方法と、該方法により得られる配向性材料を提供できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明者らは、配向性を有するコラーゲンと無配向性コラーゲンとを用いたコラーゲン材料について鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。
【0009】
すなわち、本発明のコラーゲン材料の製造方法は、配向性を有し、かつ、ストリング形状のコラーゲンゲル断片から構成されるコラーゲン材料の製造方法であって、コラーゲン溶液をノズルを介して燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った容器に押し出しながら、前記ノズルをスライドさせて、前記コラーゲン溶液に一定方向の流れを与えることによって、前記ストリング形状のコラーゲンゲル長軸方向へ前記配向性を付与し、前記配向性が制御された複数のコラーゲンゲル断片を得る工程と、前記複数のコラーゲンゲル断片を、所望の形状に配列させて、自由乾燥又はフリーズドライにより乾燥させて固化することにより前記複数のコラーゲンゲル断片同士を結合させる工程と、からなる複数の前記コラーゲンゲル断片から構成されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のコラーゲン材料の製造方法の好ましい実施態様において、前記ストリング形状のコラーゲンゲル長軸方向へ配向性を付与されたコラーゲンゲル断片の前記配向性が、一軸配向であり、前記配向性コラーゲンゲル断片を、平面上にシート形状に配列させて、前記断片同士を結合させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記コラーゲンゲル断片の一部又は全部が、金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料からなる基板にコートされている請求項1〜6項のいずれか1項に記載の材料。
【0016】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記コラーゲンゲル断片が、細胞成長促進剤を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記細胞成長促進剤が、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin-like growth factor:IGF)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor:TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor:VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage-colony stimulating factor:GM-CSF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor:PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin:TPO)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGFまたはFGF2)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF)であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のコラーゲン材料の製造方法の好ましい実施態様において、前記材料の配向性は、正常な生体組織の各部位の配向性と等しくなるように設計されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記材料が、酸素を含有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明のコラーゲン材料の製造方法の好ましい実施態様において、さらに、前記シート形状に配列した複数のコラーゲンゲル断片を、心棒に巻き付ける工程と、前記心棒を取り除いた後、チューブ状のコラーゲン材料を得る工程とを含む、ことを特徴とする。
【0023】
また、本発明のコラーゲン材料の製造方法の好ましい実施態様において、前記所望の形状が、平面形状及び/又は立体形状であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明のコラーゲン材料の製造方法の好ましい実施態様において、前記所望の形状が、リボン、スポンジ、グレイン(粒)、ロッド、リング、スパイラル、スプリング(バネ)、ディスク、又はブロックであることを特徴とする。
【0026】
また、本発明のコラーゲン材料の製造方法の好ましい実施態様において、さらに、加圧減圧法、気液せん断法、及び/又は孔を有する膜からの導入法のいずれか1つの方法によって、前記コラーゲンゲル断片にバブルを導入する工程を含むことを特徴とする。
【0027】
また、本発明のコラーゲン材料は、上記本発明のコラーゲン材料の製造方法により得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、配向性コラーゲン材料の形状と配向性の方向を自由に設計できるという有利な効果を奏する。また、生体組織において部位に応じてコラーゲンが配向性を持つ材料を提供することが可能であることから、本発明により正常な生体組織の各部位の配向性に等しくなるように配向性が制御された生体適合性材料を提供することができ、正常な生体組織の再生を実現することができるという有利な効果を奏する。
【0029】
また、本発明では、ミリメーターオーダー以上のマクロサイズのコラーゲン材料を提供し得るという有利な効果を奏する。また、本発明のコラーゲン材料の製造方法においては、製造が簡便で、しかも、形状を自由に設計できるコラーゲン材料を提供し得るという有利な効果を奏する。また、本発明において、ストリング形状の配向性コラーゲンを平面、立体形状内において希望する方向に配列すれば、コラーゲン材料内での配向性の方向を自由に設計できるという有利な効果を奏する。
【0030】
また、本発明によれば、乾燥させた配向性又は無配向コラーゲン材料はPBS、細胞培養液等に浸漬したり、生体内に移植したりしても、必要な期間において形状を保ち、最初のコラーゲンゲル断片の形状、例えばストリング形状に分解しないという有利な効果を奏する。必要な時間形状が安定し、容易に分解しないのは、コラーゲン分子の特徴である三重螺旋構造により、疎水性残基が外側に張り出していて、それらが会合、固着することによるものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、PBS中で作製された直後のストリング形状の配向性コラーゲンゲルを示す写真である。
図2図2は、ストリング形状の配向性コラーゲンゲルをリボン形状に配列した後に(図(a))、乾燥させることにより得られるリボン形状の乾燥配向性コラーゲン材料(図(b))を示す写真である。リボン形状の試料内における配向性は、ストリング形状の配向性コラーゲンの走行方向である。
図3図3は、ストリング形状の配向性コラーゲンゲルを2層に配列したもので(図3(a))、第1層と第2層はストリング形状の配向性コラーゲンの走行方向が垂直とした場合の写真である。ストリング形状の配向性コラーゲンゲルを配列した後に乾燥したものが図3(b)、端部をカットしたものが図3(c)である。
図4図4は、ストリング形状の配向性コラーゲンゲルを用いてシート形状とした後に、シートを心棒に巻きつけ、心棒を取り除いた後のチューブ形状の乾燥配向性コラーゲン試料を示す写真である。
図5図5は、配向性コラーゲンのラマンスペクトルを示し、(i)はレーザー偏光方向とコラーゲン走行方向が平行である場合、(ii)は垂直である場合のスペクトルを、それぞれ示す図である。
図6図6は、ドーム型のコラーゲン材料の一例を示す図である。
図7図7は、配向性シート及び無配向シートの配向性の確認結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のコラーゲン材料は、コラーゲンゲル断片から構成される。すなわち、1又はそれ以上のコラーゲンゲル断片から構成されるコラーゲン材料である。従来では、コラーゲン材料を準備しようとする場合、粉末状のコラーゲンを溶液に溶解して、コラーゲン溶液を準備して、前記コラーゲン溶液を出発として、ゲル化剤等によりゲル化させて所望のシート等にして利用している。一方、本発明においては、コラーゲンゲル断片を出発材料として、当該コラーゲンゲル断片同士を結合させてコラーゲン材料を得ることができる。コラーゲンゲル断片同士の結合は、例えばゲル化剤等用いて結合させてもよい。また、本発明の特徴の一つとして、本発明においては、コラーゲンゲル断片同士の結合を特にゲル化剤を用いることなしに行うことができる。すなわち、コラーゲンゲル断片同士を所望の形に配列させて、乾燥させて固化することによりコラーゲンゲル断片同士を結合させることができる。
【0033】
コラーゲンは、皮膚、筋肉、内蔵、骨など体内のあらゆる組織に含まれており、コラーゲンは他のタンパク質とは異なり、細胞と細胞の隙間、つまり細胞の外側に繊維や膜などの構造体を作り、そのほとんどが水に溶けずに存在している。すなわち、生体内において、コラーゲンは、細胞と細胞をくっつけるのりのような役割を果たすと同時に、細胞を正しい位置に配列させる仕切りのような役割を果たしていると考えられる。すなわち、体全体、臓器等を形つくり、支え、結合したり、細胞間の境界をつくっている。コラーゲンは、細胞マトリックスとも呼ばれている。
【0034】
コラーゲンの分子は、長さが約300ナノメートル、直径が約1.5ナノメートルの棒状の形をしていて、この分子は3本の鎖が絡み合った3重らせん構造(へリックス構造)をしている。コラーゲン分子同士は、架橋を出して結びつき、結合強度を高くしている。コラーゲン分子の特徴として、熱を加えることによって溶ける性質をもち、これは通常のタンパク質が熱を加えると固まる性質を有するのと相反する性質となる。3本の鎖がほどけて1本1本の鎖に分かれていくことをゼラチン化と通常呼ぶ。この変化が生じた温度を一般に変性温度と呼び、陸上動物のコラーゲンでは約40度強であり、魚等の変温動物にておいては、約0〜約25度である。
【0035】
本発明において、コラーゲンゲル断片同士が結合してコラーゲン材料を得ることができ、そのメカニズムの詳細は不明であるが、所望の形にセットして乾燥させることで固化するので、コラーゲンゲル断片同士が再結合することにより、ゲル化剤等を用いることなしに、結合して安定化することができると考えられる。なお、乾燥させる工程は通常の自然乾燥でもフリーズドライでも良い。
【0036】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記コラーゲンゲル断片が、配向性を有する。ここで配向性について説明すると以下のようである。
【0037】
まず、配向性を有するコラーゲンについて説明すると、以下のようである。配向性を有するコラーゲンとは、単体のコラーゲンゲル、乾燥コラーゲンゲルなどの繊維状コラーゲンの走行方向がある方位に揃っているコラーゲンを意味する。配向性を有するコラーゲンが、金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料からなる基板にコートされている場合(コラーゲン基板ともいう。)には、配向性を有するコラーゲンとは、各種形状に加工された金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料等の基板にコートされたコラーゲンゲル、乾燥コラーゲンゲルなどにおける繊維状コラーゲンの走行方向がある方位に揃っているコラーゲンを意味する。
【0038】
出発材料として、配向性を有するコラーゲンゲルを用いることの利点は、以下の通りである。すなわち、例えば出発材料のコラーゲンゲル内で、曲線を描いているコラーゲンゲルの配向性があれば、骨芽細胞にも曲線を描いた配向性をもたせることが可能になることである。また、本発明においては、基本的にはコラーゲンゲル(基板)の「表面」で、骨芽細胞を配向性をもたせて成長させることが可能となり、配向性を有したコラーゲンゲル(基板)の内部に骨芽細胞が入り込む場合も想定されるが、このような場合も含むことが可能である。さらに、本発明によれば、最終製品である配向性材料のニーズに応じて、出発材料である配向性コラーゲンゲルの形状、配向性の方向を準備すれば、形状、配向性の方向を自由に制御しつつ、ミリメーター以上の大きなサイズのコラーゲン配向性材料を製造することが可能である。
【0039】
配向性を有するコラーゲンゲルを準備する方法は、常法により特に限定されない。例えば、ミリメーターオーダー以上のコラーゲンゲルに配向性を与えるには、コラーゲン溶液をゲル化する過程でコラーゲン溶液に一定方向の流れを与える方法が提案されているが、他の方法としてもよい。他の方法としては、コラーゲン繊維が形成される過程において強力な磁場を印加する方法、コラーゲンゲルをスピンコートする方法、コラーゲンゲルを一定方向にメカニカルに(物理的に)延伸する方法などを挙げることができる。
【0040】
コラーゲン繊維が形成される過程において強力な磁場を印加する方法により、配向性を有するコラーゲンゲル断片を準備する場合、磁場に対してコラーゲン線維は垂直に配列するので、磁場を同じ方向からかけ続けると2次元の配列になり、回転磁場を与えると1軸配向となる。このような配向を有するコラーゲンゲルを、出発材料として用いたい場合に磁場を用いた方法を使用可能である。但し、磁場であれば、基本的には均一な配列をもったもののみ作製が可能で、マクロ形状も限定される傾向にある。これに対して、コラーゲン溶液をゲル化する過程でコラーゲン溶液に一定方向の流れを与える方法によって、配向性を有するコラーゲンゲルを準備する場合には、液体の流れを利用するためシート状の形状を含む様々な形状やそれを積層させることで、3次元的に配向性の異なるコラーゲンを作製可能である。
【0041】
このような方法においては、配向性コラーゲン(コラーゲン単体)は、コラーゲン溶液の流れを利用してコラーゲンゲルとして固めるプロセスで配向性を与えることによって得ることができる。後述する実施例の写真ではストリング形状のコラーゲンゲル断片であるが、幅の広いリボン形状等、各種形状(線、面、立体)の配向性コラーゲンゲル又はコラーゲンゲル断片の作製が可能である。また、その際に、流れの速度を制御することで、配向性の程度を制御することも可能である。そのため、同一コラーゲンゲル内においても、配向性の方向、配向性の程度を制御して分布をもたせることは可能であるので、本発明でそのようなコラーゲンゲル又はコラーゲンゲル基板を用いることで、ひいては、配向性の方向、配向性の程度の制御(即ち、配向性の分布の制御)が可能となる。なお、配向性の制御には主として2つの意味がある。まず、(1)コラーゲン材料そのものに配向性を自由に持たせることが可能となること、そして(2)その配向性を有したコラーゲン材料を用いて細胞を培養する場合、或いは生体組織を再生する場合、コラーゲン材料の配向性に沿った細胞、組織の成長を制御することが可能となることである。本発明においては、この2つの配向性の制御が可能となる。
【0042】
例えば、コラーゲン溶液をゲル化する過程でコラーゲン溶液に一定方向の流れを与える方法において説明すると、コラーゲン溶液の濃度は、得られるコラーゲン又はコラーゲン基板が十分な機械的強度を有するためには10mg/ml以上が好ましいが、3mg/ml程度以上のものであってもよい。コラーゲンの由来は問わない。また、由来する動物の種、組織部位、年齢等は特に限定されない。例えば、ラット尾、豚皮、牛皮、ダチョウ、魚などの動物等から抽出したものを使用できる。すなわち、哺乳動物(例えばウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ネズミ等)や鳥類(例えばニワトリ等)の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器等から得られるコラーゲンを使用できる。また魚類(例えばタラ、ヒラメ、カレイ、サケ、マス、マグロ、サバ、タイ、イワシ、サメ等)の皮、骨、軟骨、ひれ、うろこ、臓器等から得られるコラーゲン様蛋白を使用してもよい。なおコラーゲンの抽出方法は特に限定されず、一般的な抽出方法を使用することができる。また動物組織からの抽出ではなく、遺伝子組み替え技術によって得られたコラーゲンを使用してもよい。また、抗原性を抑えるために酵素処理したアテロコラーゲンを用いることができる。また、コラーゲンとしては酸可溶性コラーゲン、塩可溶性コラーゲン、酵素可溶化コラーゲン(アテロコラーゲン)等の未修飾可溶性コラーゲン、サクシニル化、フタル化等のアシル化、メチル化等のエステル化、アルカリ可溶化の脱アミド化等の化学修飾コラーゲン、さらにテンドンコラーゲン等不溶性のコラーゲンを用いることが出来る。さらにコラーゲン溶液に化学架橋剤、薬剤、酸素等の気泡を導入することもできる。導入方法は常法により特に限定されない。
【0043】
得られたコラーゲンの配向性の方位、配向性の程度は、例えば、ラマン分光顕微鏡によって定量的に評価が可能である。ラマン分光とは、分子に当たって散乱される光が分子の振動によって周波数変調を受けた成分を含むことを分光器によって調べることであり、分析対象の組成や結晶構造の情報を得ることができ、コラーゲンの配向性についても分析が可能となる。
【0044】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記コラーゲンゲル断片が、無配向である。無配向のコラーゲンゲル断片を出発材料として用いたとしても、コラーゲンゲル断片を所望の形状に配列させて乾燥固化することによりコラーゲン材料を得ることができるからである。また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記コラーゲンゲル断片が、配向性を有するコラーゲンゲル断片及び無配向のコラーゲンゲル断片からなることを特徴とする。無配向コラーゲンゲル断片の作成方法については、常法により特に限定されるものではない。上述の配向性コラーゲンゲル断片を生産する方法において、配向性を付与する工程を省略すれば、無配向のコラーゲンゲル断片を得ることができる。
【0045】
また、上述においては、ストリング形状のコラーゲンゲル断片を主として説明しているが、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記コラーゲンゲル断片の形状が、ストリング、リボン、シート、スポンジ、グレイン(粒)、ロッド、リング、スパイラル、スプリング(バネ)、ディスク、ドーム又はブロックからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0046】
また、配向性の制御という観点で説明すると、コラーゲンゲル又はコラーゲンゲル断片の配向性の方位、配向性の程度を制御することによって、コラーゲン材料の配向性の方位と程度を制御することが可能である。
【0047】
また、好ましい実施態様において、前記配向性が、一軸配向、らせん配向、二軸配向、二次元配向、三軸配向又は三次元配向であることを特徴とする。
【0048】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記コラーゲンゲル断片の一部又は全部が、金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料からなる基板にコートされている。なお、コートの方法は、特に限定されず、常法による。また、本発明において、前記コラーゲン材料が、ミリメーターオーダー以上のマクロサイズであることも特徴の一つである。
【0049】
好ましい実施態様において、細胞を短時間で成長させ、組織再生を促進するという観点から、前記コラーゲンゲル断片が、細胞成長促進剤を含む。前記細胞成長促進剤としては、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin-like growth factor:IGF)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor:TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor:VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage-colony stimulating factor:GM-CSF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor:PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin:TPO)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGFまたはFGF2)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF)のいずれか1つ又はそれ以上の組合せを挙げることができる。
【0050】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記材料の形状が、リボン、シート、チューブ、スポンジ、グレイン(粒)、ロッド、リング、スパイラル、スプリング(バネ)、ディスク、ドーム又はブロックである。これらの加工は、上記コラーゲンゲル断片の配列の仕方、配列させ乾燥固化した後の加工等によって実現可能である。本発明のコラーゲンゲル断片から構成されるコラーゲン材料は、2次加工も行うことが可能である。すなわち、図1に示すようなまずストリング形状のものからシート状のコラーゲン材料(断片)を作成し、当該コラーゲン材料をさらに加工して種々の最終形状の3次元コラーゲン材料を作成することができる。
【0051】
また、好ましい実施態様において、前記材料が、正常な生体組織の各部位の配向性と略等しくなるように設計されていることを特徴とする。正常な生体組織の各部位の配向性と略等しくなるように設計したコラーゲン材料は、そのまま再生医療用材料として用いることが可能である。
【0052】
本発明においては、コラーゲン材料は、乾燥状態での提供を基本とするが、乾燥状態にあるコラーゲン材料をPBS等に浸漬することによりゲル状の状態でも提供可能である。通常、乾燥するとコラーゲン材料の組織が一部破壊去される可能性はあるが、保存性(形状維持が容易、またゲルのままでは水分を含んでいるので腐敗しやすい)、輸送性(ゲルだと水分を含んでいるので壊れやすい、容器にひっついて剥がす時に変形する等)の観点から乾燥材料のほうが扱いやすいといえる。
【0053】
本発明において、乾燥状態のコラーゲン材料は、実際に使用する時にPBS、培養液でゲルに戻して使用することが可能である。本発明において、乾燥状態コラーゲン材料は、乾燥させることにより、ゲルの水分が抜けて(90%以上が水。)、コラーゲン繊維組織が緻密になり、再度PBS、培養液でゲルに戻しても、元の体積よりも小さく、結果として組織の緻密さが残され、強度において、そして配向性において、製作時のゲルより優れることが多いといえる。

【0054】
このように本発明においては、特徴として、乾燥状態でコラーゲン材料を提供することも可能である一方、PBS、培養液でゲルに戻してから提供することも可能である。
【0055】
また、本発明のコラーゲン材料の好ましい実施態様において、前記材料が、酸素を含有することを特徴とする。コラーゲン材料において、酸素を含有する利点は以下の通りである。すなわち、コラーゲン材料において、酸素を含有していると、(a) コラーゲンマテリアル内部に細胞が成長した場合に、細胞への空気(酸素)の供給源となること、また、(b) コラーゲンマテリアル内部に細胞が成長するための、空間を提供すること、等の利点が考えられる。
【0056】
酸素を含有とは、バブルを含有という表現でもよいのであるが、概ね以下のような態様が考えられる。すなわち、酸素を含有するとは、形態はバブル(気泡)ということができ、その成分としては、(1)空気(酸素、窒素、二酸化炭素を含むいわゆるごく一般的な空気)を含有する場合、(2)空気の中でも低濃度、高濃度の酸素を含む場合(酸素濃度の増減によって、他の成分である窒素、二酸化炭素が変動する場合をも含む。)、(3)文字通り酸素のみを含む場合等、一言で、酸素を含有するといっても、少なくとも上記3つの態様が考えられる。
【0057】
コラーゲンゲル断片のままでは、複数のコラーゲンゲル断片が接着ず、安定した複雑形状のコラーゲンマテリアルにならず、断片が分離してしまう可能性があるため、敢えて、一旦乾燥するのが一般的使用方法とすることができる。
【0058】
乾燥した場合には、コラーゲンは繊維ではあるが、例えばコラーゲンシートは簡単には水を漏らさない性質を有する。そのため、乾燥したマテリアルの内部から、導入したバブルがすべて気体として抜けてしまうことなく、すくなくとも酸素、バブルの一部は、乾燥後であってもコラーゲン材料の内部において閉じ込められたままになっている。
【0059】
コラーゲン溶液にバブルを導入して、コラーゲン溶液の体積が100から110に増加したとすれば、バブルの割合である10が残る。しかしながら、コラーゲン材料を乾燥する際に、ある部分は抜けてしまう可能性が考えられる。乾燥させなければ、コラーゲンゲル内にはコラーゲン溶液内に導入されたバブルのほぼ全量が固定されるのであるが、乾燥時にどれほど抜けて、どの程度残るかはケースバイケースということになろう。コラーゲン溶液100としても、コラーゲン濃度が1%であれば、99%は水で、乾燥するとこの99%の水といっしょにバブルがある程度抜けると想定される。
【0060】
次に、本発明のコラーゲン材料の製造方法について説明する。本発明のコラーゲン材料の製造方法は、コラーゲンゲル断片を準備する工程と、前記コラーゲンゲル断片を所望の形状に配列させる工程と、所望の形状に配列した前記コラーゲンゲル断片を乾燥させる工程とからなる。乾燥させる工程は通常の自然乾燥でもフリーズドライでも良い。コラーゲンゲル断片については、上述の本発明のコラーゲン材料の説明におけるコラーゲンゲル断片の説明をそのまま参照して、適用することができる。コラーゲンゲル断片を最終製品となるコラーゲン材料の形状等に合わせて、配列させて当該コラーゲンゲル断片を乾燥させることによって、コラーゲンゲル断片同士が結合し、最終的にコラーゲンゲル断片で構成されるコラーゲン材料を得ることができる。なお、コラーゲンゲル断片同士を乾燥、結合した後は、互いの境界は目視では識別が困難である。
【0061】
また、好ましい実施態様において、前記コラーゲンゲル断片を乾燥させる工程が、フリーズドライにより乾燥させてもよい。自然乾燥であれば上述のメリットがあるが、逆を言えば、元の体積より小さくなって、細胞がコラーゲン材料内部に成長する空間的余裕がなくなるということも考えられる。フリーズドライによれば、このような不具合を防止することが可能である。すなわち、フリーズドライであれば、コラーゲンゲル断片を形したのちに、断片どうしを固着させると共に、断片内部、結果として、形された断片全体の内部がスカスカになった状態を維持することができる。そうすれば、細胞がコラーゲン材料内部に成長することが容易となる。



【0062】
また、好ましい実施態様において、さらに、前記コラーゲンゲル断片に配向性を付与する工程を含む。配向性を有するコラーゲンゲル断片を準備する方法は、常法により特に限定されない。例えば、コラーゲンゲル断片に配向性を付与するには、上述の配向性コラーゲンゲル断片の製造方法を適用することができる。すなわち、上述のコラーゲン溶液を用いる方法、磁場を利用する方法、スピンコートする方法等を挙げることができ特に限定されない。
【0063】
また、好ましい実施態様において、前記所望の形状が、平面形状及び/又は立体形状であることを特徴とする。具体的には、例えば、所望の形状として、リボン、シート、チューブ、スポンジ、グレイン(粒)、ロッド、リング、スパイラル、スプリング(バネ)、ディスク、ドーム又はブロックを挙げることができる。これらの形状はコラーゲンゲル断片の二次加工、三次加工等により得ることができる場合もある。
【0064】
また、本発明のコラーゲン材料の製造方法の好ましい実施態様において、さらに、加圧減圧法、気液せん断法、及び/又は孔を有する膜からの導入法のいずれか1つの方法によって、前記コラーゲンゲル断片にバブルを導入する工程を含むことを特徴とする。ここで、バブルを導入としているが、目的は酸素を導入するためである。すなわち、酸素を含有するコラーゲン材料を得るためである。酸素を含有する利点は、上述の酸素を含有するコラーゲン材料の説明を参照することができる。
【0065】
酸素を含有とは、バブルを含有という表現でもよいのであるが、概ね以下のような態様が考えられる。すなわち、酸素を含有するとは、形態はバブル(気泡)ということができ、その成分としては、(1)空気(酸素、窒素、二酸化炭素を含むいわゆるごく一般的な空気)を含有する場合、(2)空気の中でも低濃度、高濃度の酸素を含む場合(酸素濃度の増減によって、他の成分である窒素、二酸化炭素が変動する場合をも含む。)、(3)文字通り酸素のみを含む場合等、一言で、酸素を含有するといっても、少なくとも上記3つの態様が考えられる。
【0066】
「細胞成長促進剤」 の添加の場合と同じように、コラーゲンゲル断片に「バブル(前記の空気、酸素等)」が含まれている状態を狙ったものである。さらに具体的には、コラーゲンゲル断片を作成する段階で、バブルを充填することが好ましく、その方法としては、以下の例を挙げることができる。
【0067】
例えばコラーゲン溶液が入った蓋付の容器に空気をある割合導入して、蓋をしてから機械的に振動を加えて、バブルが含まれたコラーゲン溶液をゲル化する。単純に振動を加えて空気をコラーゲン溶液に混入させるだけでは、十分に小さなバブルにならない可能性があり、また実際はいわゆるナノバブルのような小さなバブルを含めたい場合には、以下の方法も使用可能である。
【0068】
例えば、空気をコラーゲン溶液に加えてから、超音波で加振するなどすれば、手で振るとか、機械的に振るよりは細かなバブルを含めることができる。
【0069】
また、本発明の好ましい態様において、加圧減圧法、気液せん断法、及び/又は孔を有する膜からの導入法のいずれか1つの方法によって、前記コラーゲンゲル断片にバブルを導入する工程を含むが、まず、マイクロバブルを導入した場合について説明する。マイクロバブルを導入した場合には、加圧減圧法や、気液せん断法を用いてバブルをコラーゲン材料に導入することができる。まず、加圧減圧法について説明すると、加圧減圧法とは、高圧下で気体を大量に溶解させ、減圧により再気泡化する方法である。また、気液せん断法とは、渦流(毎秒400〜600回転)を作って、この中に気体を巻き込み、ファン等により切断・粉砕させ発生させる方法である。これらの方法を本発明に適用することができる。
【0070】
また、マイクロバブルより小さなサイズのナノバブルをコラーゲン材料に導入したい場合には、孔を有する膜からの導入法を用いることができる。この方法は、ガスを加圧して、ナノレベルの無数の穴が開いた膜から放出することによってナノバブルを生成する技術である。膜としてシラスポーラスガラス(SPG)膜が利用されている。これら常法により所望により、バブル、マイクロバブル、ナノバブル等をコラーゲン材料に導入することができる。
【0071】
以上簡単に製造工程をまとめると以下のようになる。すなわち、準備したストリング形状の配向性コラーゲンゲルを、希望する形状に配列する。配列は面形状であっても、積層させることにより立体形状であってもよい。また面形状、立体形状内にあって、ストリング形状の方向が配向性の方向となるため、直線的配向性が必要な場合はストリング形状の配向性コラーゲンゲルを直線的に配列し、曲線的配向性が必要な場合はストリング形状の配向性コラーゲンゲルを曲線的に配列すれば良い。
【0072】
ストリング形状の配向性コラーゲンゲルを乾燥させることにより、コラーゲンゲル間が固定される。このようにして、本発明のコラーゲン材料は、上記本発明のコラーゲン材料の製造方法により得られることが可能である。すなわち、ストリング形状の配向性コラーゲンゲルを用いて、リボン、シート、チューブ、ブロック形状等の平面形状、立体形状に配列し、その後乾燥させることにより得られる、形状と配向性の方向を自由に設計できる配向性コラーゲン材料を得ることができる。
【0073】
本発明の製造方法によれば、ストリング形状のコラーゲンゲルに配向性がない場合であっても、リボン、シート、チューブ、ブロック形状等の平面形状、立体形状に配列し、その後乾燥させることにより、形状を自由に設計できるコラーゲン材料をも得ることができる。
【実施例】
【0074】
ここで、本発明の実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0075】
本発明の製造方法においてはまず、ミリメーターオーダー以上の配向性コラーゲン(基板)としてのコラーゲンゲルを準備した。コラーゲンゲルは濃度9.3mg/mlのラット尾由来I型コラーゲン溶液(BD社)を、内径0.38mmのノズルを介して38℃、pH7.4の燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った皿容器に押し出しながら、ノズルをスライドすることにより、直径1mm程度、長さ20mm程度の糸状のコラーゲンゲルを得た。
【0076】
得られたコラーゲンゲルの配向性については、ラマン分光顕微鏡(フォトンデザイン社)により解析した。その際、連続発振アルゴンイオンレーザー Stabilite 2017(スペクトラフィジックス社)により励起波長を514.5nm とし、分光器はHR-320(Jovin Yvon社)、検出器はLN/CCD-1100-PB/UV AR/1 (Roper scientific社)を用いた。コラーゲン走行方向に対してレーザー光の偏光方向が平行方向と垂直方向についてamide I 及びmide IIIの強度で評価した結果が図5である。amide Iのピークはコラーゲン繊維に垂直に位置するC=O結合の振動によるもので、amide IIIのピークはコラーゲン繊維に平行と垂直に位置するC−N結合の振動によるものである。図5より、コラーゲン走行方向に対してレーザー光の偏光方向が平行方向のスペクトルは、1450cm-1付近のCH3変角振動によるピーク強度と比較すると、amideI(1670 cm-1)ピーク強度は垂直方向の方が平行方向よりも高かった。また、コラーゲン走行方向に対してレーザー光の偏光方向が垂直方向のスペクトルには、コラーゲン繊維に垂直に位置するC−N結合の振動のピークがラマンシフト1270-1300cm-1付近に現れた。即ち、コラーゲンゲル長軸方向にコラーゲン繊維が配向していることがわかった。
【実施例2】
【0077】
次に、よりサイズが大きいコラーゲン材料を得ることを試みた。まず、ストリング形状の配向性コラーゲンゲルを準備した。コラーゲンゲルは濃度9.3mg/mlのラット尾由来I型コラーゲン溶液(BD社)を、内径0.38mmのノズルを介して38℃度、pH7.4の燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った皿容器に押し出しながら、ノズルをスライドすることにより、直径1mm程度、長さ200mm程度のストリング形状のコラーゲンゲルを得た。図1にPBS中で作製された直後のストリング形状の配向性コラーゲンゲルの写真を示す。
【0078】
作製したストリング形状の配向性コラーゲンゲルを、図2のように平面上に配列させ、その後乾燥させることによってシート形状の乾燥配向性コラーゲン材料を得た。
【実施例3】
【0079】
前述のストリング形状の配向性コラーゲンゲルを、平面上にシート形状に配列する。その後、ストリング形状の配向性コラーゲンゲルの方向を第1層の配向性コラーゲンゲルの方向に対して垂直にして第2層を配列した(図3(a))。その後、乾燥させた試料が図3(b)、乾燥後に長方形にカットしたものが図3(c)である。このようにシート形状の配向性コラーゲンシートは単層のみならず、複数層とすることが可能で、さらに各層の配向性の方向を自由に設計することが可能である。
【実施例4】
【0080】
前述のストリング形状の配向性コラーゲンゲルを、平面上にシート形状とした後に、乾燥させた。その後、得られたシートを心棒に巻きつけ、心棒を取り除いた後のチューブ形状の乾燥配向性コラーゲン材料を得た(図4)。シート形状のコラーゲン材料の配向性の方向はストリング形状の配向性コラーゲンの走行方向に一致するため、チューブ形状のコラーゲン材料の配向性の方向は配向性をもったシートを心棒に対して、どの方向に巻きつけるかによって自由に設計することが可能である。即ち、チューブ軸方向にもチューブ円周方向にも、或いはチューブ軸方向から自由な角度に設計することが可能である。
【0081】
また心棒の大きさによってチューブ径を自由に設計することが可能であり、さらにチューブ形状のコラーゲン材料を複数層とすることも、その複数層の各層において配向性の方向を自由に設計することが可能である。
【実施例5】
【0082】
次に、ドーム型のコラーゲン材料の製造を試みた。図6にドーム型コラーゲン材料の写真の一例を示す。寸法はメジャーではなく、スケール表示となっている。図6は、乾燥時の写真であるが、透明性を強調するために、シート試料4枚の内1枚の背景に黒地に白文字Cを配置している。4枚のシートは20層のシートで配向性の向きは1層ごとに垂直に交差している。また、図中黄色の矢印は、配向性の方向を記す。図中、円形に見えるドームの外側に反射している様子が読み取れるが、これは、円形でありつつも、ドーム型になっているため反射光が見えることを示している。即ち、前記の20層だけでも「3次元構造」のコラーゲンシートであるが、さらにそれら20層をフラットなディスクとして仕上げる(乾燥させる)だけではなく、ドーム型にして仕上げることができるということによって、より「複雑な3次元構造」が可能であることが分かる。このドーム型試料は角膜再生を狙ったものであり、眼球の曲率に合わせている。
【0083】
このように本発明のコラーゲン材料は、種々多用な形状にも製造可能であり、再生医療に大きな貢献が期待できることが分かる。
【0084】
また、シート形状のコラーゲン材料の配向性を別の測定方法により評価した。図7は、配向性シート及び無配向シートの配向性の確認結果を示す図である。すなわち、上述のコラーゲン材料の製造方法に沿って作成した乾燥配向性コラーゲンシートと乾燥無配向シートの配向性を定量評価した図である。シート厚みはどちらも約10ミクロンであった。この図は、平行ニコル回転法を用いた偏光解析装置で試料内の「位相差」を評価するものである。図中のRetardation は位相差で、長方形のシート内の位相差をコンターマップとしている。この位相差が、配向性シートの場合、無配向シートと比較してはるかに高く(図では判別しにくいが、187.8〜207.9nmを示す赤っぽい部分まで配向性シートでは数カ所において観察されるのに対して、無配向シートではこの領域においてほとんど観察されない。また、127.5〜147.6nmを示す黄色も、配向性シートではかなりの領域(全体の10〜20%位の領域)で認められるのに対して、無配向シートでは数カ所のごく微量の領域でしか見られない等。無配向シートにおいては、ほとんどが、0〜3.93nmを示す青から深緑の領域となっている。)、またコンターマップの方向が図の左右に伸びているのが分かる。図の左右が配向性コラーゲンの配向方向、即ち、配向性のあるストリングを並べた方向となる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、疾患の治療や、再生医歯学分野(特に、整形外科学、脳外科学、歯学)や基礎医学の分野への貢献が期待できる。また、人の体内においてその部位に応じて存在する配向性を有したコラーゲン材料を自由に設計することができ、再生医療分野や基礎医学の分野への貢献が期待できる。
図5
図1
図2
図3
図4
図6
図7