(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1、4、5の技術では、遮蔽を行うため、ドライバが歩行者を認知しにくくなる、という問題がある。
【0009】
また、上記の特許文献2、3の技術では、遮蔽を行わないため、歩行者が不快な眩しさを感じてしまう、という問題がある。
【0010】
本発明は上記問題点を解決するために成されたもので、遮蔽対象物が不快な眩しさを感じることなく、かつ、ドライバが、遮蔽対象物を認知できる照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の照射装置は、遮蔽対象物を検出する遮蔽対象物検出手段と、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対位置に基づいて、前記遮蔽対象物にとって許容可能なグレアとなる、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限を推定する照明上限推定手段と、前記遮蔽対象物の背景の明るさに基づいて、ドライバにとって前記遮蔽対象物を視認することが可能な、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限を推定する照明下限推定手段と、前記照明上限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限と、前記照明下限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限と
の間となるように、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさを設定する照明設定手段と、自車両の周囲に対して照射パターンの光を照射可能な照射手段と、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対位置と、前記照明設定手段によって設定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとに基づいて、自車両から見たときの前記遮蔽対象物の一部分を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとし、前記遮蔽対象物の他の部分を含む領域を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさより高くした照射パターンの光を照射するように、前記照射手段を制御する照明制御手段と、を含んで構成されている。
【0012】
本発明の照射装置では、遮蔽対象物検出手段によって、遮蔽対象物を検出する。照明上限推定手段によって、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対位置に基づいて、前記遮蔽対象物にとって許容可能なグレアとなる、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限を推定する。照明下限推定手段によって、前記遮蔽対象物の背景の明るさに基づいて、ドライバにとって前記遮蔽対象物を視認することが可能な、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限を推定する。
【0013】
そして、照明設定手段によって、前記照明上限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限と、前記照明下限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限と
の間となるように、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさを設定する。照明制御手段によって、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対位置と、前記照明設定手段によって設定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとに基づいて、自車両から見たときの前記遮蔽対象物の一部分を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとし、前記遮蔽対象物の他の部分を含む領域を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさより高くした照射パターンの光を照射するように、前記照射手段を制御する。
【0014】
このように、推定された遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限と、推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限とに基づいて設定した、遮蔽対象物に照射される照明の明るさを、自車両から見たときの前記遮蔽対象物の一部分の明るさとして、照射パターンの光を照射することにより、遮蔽対象物が不快な眩しさを感じることなく、かつ、ドライバが、遮蔽対象物を認知できる。
【0015】
本発明の照明設定手段は、前記照明上限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限と、前記照明下限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限との間となるように、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさを設定するようにすることができる。
【0016】
本発明の照射装置は、自車両の周囲を表わす可視光の画像を撮像する可視光撮像手段を更に含み、前記照明下限推定手段は、前記可視光撮像手段によって撮像された前記可視光の画像における、前記遮蔽対象物の背景の明るさに基づいて、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限を推定するようにすることができる。
【0017】
また、上記の発明の遮蔽対象物検出手段は、前記可視光撮像手段によって撮像された前記可視光の画像に基づいて、前記遮蔽対象物を検出し、前記照明制御手段は、前記可視光の画像を撮像するタイミングと異なるタイミングで、自車両から見たときの前記遮蔽対象物の一部分を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとし、前記遮蔽対象物の他の部分を含む領域を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさより高くした照射パターンの光を照射し、前記可視光の画像を撮像するタイミングで、前記遮蔽対象物に対して遮蔽せずに光を照射するように、前記照射手段を制御するようにすることができる。これによって、可視光の画像からの遮蔽対象物の検出精度の低下を防ぐことができる。
【0018】
本発明の照射装置は、自車両の周辺に存在する物体の3次元位置を計測する3次元位置計測手段と、前記3次元位置計測手段によって計測された前記物体の3次元位置に基づいて、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対的な3次元位置を推定する位置推定手段と、を更に含み、前記照明上限推定手段は、前記位置推定手段によって推定された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対的な3次元位置に基づいて、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限を推定するようにすることができる。
【0019】
また、上記の発明の照射装置は、自車両に対する相対的な3次元位置の各々に対して予め求められた照明の明るさを記憶した照明データベースと、前記位置推定手段によって推定された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対的な3次元位置と、前記照明データベースに記憶された前記照明の明るさとに基づいて、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物における前記照明の明るさを計算する遮蔽対象物照明計算手段と、前記位置推定手段によって推定された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対的な3次元位置に基づいて、前記遮蔽対象物の向きと前記照射手段による光の照射方向とのなす角を推定するなす角推定手段と、前記遮蔽対象物の順応輝度を推定する順応輝度推定手段と、を更に含み、前記照明上限推定手段は、前記遮蔽対象物照明計算手段によって計算された前記遮蔽対象物における前記照明の明るさ、前記なす角推定手段によって推定された前記なす角、及び前記順応輝度推定手段によって推定された前記遮蔽対象物の順応輝度に基づいて、前記遮蔽対象物にとって許容可能なグレアとなる、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限を推定するようにすることができる。
本発明の照射装置は、遮蔽対象物を検出する遮蔽対象物検出手段と、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対位置に基づいて、前記遮蔽対象物にとって許容可能なグレアとなる、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限を推定する照明上限推定手段と、前記遮蔽対象物の背景の明るさに基づいて、ドライバにとって前記遮蔽対象物を視認することが可能な、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限を推定する照明下限推定手段と、前記照明上限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限と、前記照明下限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限とに基づいて、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさを設定する照明設定手段と、自車両の周囲に対して照射パターンの光を照射可能な照射手段と、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対位置と、前記照明設定手段によって設定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとに基づいて、自車両から見たときの前記遮蔽対象物の一部分を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとし、前記遮蔽対象物の他の部分を含む領域を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさより高くした照射パターンの光を照射するように、前記照射手段を制御する照明制御手段と、自車両の周囲を表わす可視光の画像を撮像する可視光撮像手段と、を含み、前記照明下限推定手段は、前記可視光撮像手段によって撮像された前記可視光の画像における、前記遮蔽対象物の背景の明るさに基づいて、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限を推定し、前記遮蔽対象物検出手段は、前記可視光撮像手段によって撮像された前記可視光の画像に基づいて、前記遮蔽対象物を検出し、前記照明制御手段は、前記可視光の画像を撮像するタイミングと異なるタイミングで、自車両から見たときの前記遮蔽対象物の一部分を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとし、前記遮蔽対象物の他の部分を含む領域を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさより高くした照射パターンの光を照射し、前記可視光の画像を撮像するタイミングで、前記遮蔽対象物に対して遮蔽せずに光を照射するように、前記照射手段を制御する。
本発明の照射装置は、遮蔽対象物を検出する遮蔽対象物検出手段と、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対位置に基づいて、前記遮蔽対象物にとって許容可能なグレアとなる、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限を推定する照明上限推定手段と、前記遮蔽対象物の背景の明るさに基づいて、ドライバにとって前記遮蔽対象物を視認することが可能な、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限を推定する照明下限推定手段と、前記照明上限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限と、前記照明下限推定手段によって推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限とに基づいて、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさを設定する照明設定手段と、自車両の周囲に対して照射パターンの光を照射可能な照射手段と、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対位置と、前記照明設定手段によって設定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとに基づいて、自車両から見たときの前記遮蔽対象物の一部分を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさとし、前記遮蔽対象物の他の部分を含む領域を、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさより高くした照射パターンの光を照射するように、前記照射手段を制御する照明制御手段と、自車両の周辺に存在する物体の3次元位置を計測する3次元位置計測手段と、前記3次元位置計測手段によって計測された前記物体の3次元位置に基づいて、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対的な3次元位置を推定する位置推定手段と、自車両に対する相対的な3次元位置の各々に対して予め求められた照明の明るさを記憶した照明データベースと、前記位置推定手段によって推定された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対的な3次元位置と、前記照明データベースに記憶された前記照明の明るさとに基づいて、前記遮蔽対象物検出手段によって検出された前記遮蔽対象物における前記照明の明るさを計算する遮蔽対象物照明計算手段と、前記位置推定手段によって推定された前記遮蔽対象物の、自車両に対する相対的な3次元位置に基づいて、前記遮蔽対象物の向きと前記照射手段による光の照射方向とのなす角を推定するなす角推定手段と、前記遮蔽対象物の順応輝度を推定する順応輝度推定手段と、を含み、前記照明上限推定手段は、前記遮蔽対象物照明計算手段によって計算された前記遮蔽対象物における前記照明の明るさ、前記なす角推定手段によって推定された前記なす角、及び前記順応輝度推定手段によって推定された前記遮蔽対象物の順応輝度に基づいて、前記遮蔽対象物にとって許容可能なグレアとなる、前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限を推定する。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の照射装置によれば、推定された遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限と、推定された前記遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限とに基づいて設定した、遮蔽対象物に照射される照明の明るさを、自車両から見たときの前記遮蔽対象物の一部分の明るさとして、照射パターンの光を照射することにより、遮蔽対象物が不快な眩しさを感じることなく、かつ、ドライバが、遮蔽対象物を認知できる、という効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の照射装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
図1に示すように、車両に取り付けられた本実施の形態に係る照射装置10には、可視光カメラ12、3次元情報計測部14、及び制御装置16が設けられている。
【0024】
可視光カメラ12は、自車両の前方を撮影し、撮影により得られた可視光の画像を出力する。この可視光カメラ12は、制御装置16と接続されている。
【0025】
3次元情報計測部14は、自車両の前方に存在する物体の、自車両に対する3次元位置情報を計測して出力する。3次元情報計測部14として、レーザレーダ等の3Dセンサや、ステレオカメラ、移動ステレオカメラを用いることができる。なお、3次元情報計測部14は、道路が平面である等の仮定を導入して、単眼カメラで3次元位置を推定ための画像処理アルゴリズムを実行するようにしてもよい。この3次元情報計測部14は、制御装置16と接続されている。
【0026】
制御装置16は、CPU、各種処理ルーチンのプログラムを記憶したROM、データを一時的に記憶するRAMを含んだマイクロコンピュータで構成されている。制御装置16は、以下で説明する制御ルーチンを実行するマイクロコンピュータを機能ブロックで表すと、画像取得部20、最適露光量計算部24、露光量設定部26、設定パラメータ取得部28、遮蔽対象検出部30、遮蔽箇所計算部32、3次元位置推定部34、許容可能照明上限推定部36、照明データベース38、視認可能照明下限推定部40、遮蔽箇所照明設定部42、照明制御値変換部44、及び照明制御部46で表すことができる。画像取得部20及び設定パラメータ取得部28には、可視光カメラ12が接続され、遮蔽対象検出部30には、3次元情報計測部14が接続され、照明制御部46には、ライト駆動装置50が接続されている。ライト駆動装置50及び配光可変ライト52は、照射手段の一例である。
【0027】
画像取得部20は、可視光カメラ12から、撮像された画像を取得する。最適露光量計算部24は、画像取得部20によって取得した画像に基づいて、遮蔽対象物の検出に最適な露光量を計算する。露光量設定部26は、最適露光量計算部24で計算した露光量を、可視光カメラ12で実現するように設定する。具体的には、可視光カメラ12の絞りシャッター開放時間を調節する。
【0028】
設定パラメータ取得部28は、可視光カメラ12から、照明の明るさから画像の画素値を計算するのに必要なパラメータ(例えば、絞り、シャッター開放時間、ゲイン等)を取得する。
【0029】
遮蔽対象検出部30は、画像取得部20によって取得した画像から、遮蔽対象物である歩行者を検出する。なお、歩行者検出の方法としては、パターンマッチングなどの従来既知の手法を用いればよいため、詳細な説明を省略する。
【0030】
遮蔽箇所計算部32は、遮蔽対象検出部30によって検出した歩行者の遮蔽箇所である頭部の画像座標位置を計算する。
【0031】
3次元位置推定部34は、遮蔽対象検出部30による歩行者の検出結果と3次元情報計測部14による計測結果との対応を取ることで、検出された歩行者の、自車両からの相対的な3次元位置を推定する。
【0032】
許容可能照明上限推定部36は、3次元位置推定部34によって推定された、検出された歩行者の、自車両からの相対的な3次元位置と、照明データベース38とに基づいて、歩行者にとって許容可能なグレアになる、遮蔽対象物に対する照明の明るさの上限を推定する。
【0033】
照明データベース38は、自車両を基準とした3次元座標系において、前方の3次元位置の任意の位置の照度を計算可能なデータを記憶している。例えば、前方の空間を任意の形に分割し、それぞれに事前に計算した照度を割り当てたテーブルが、照明データベース38に格納されている。
【0034】
また、照明データベース38は、自車両のライト数と、各ライトの自車両を基準とした3次元座標系位置とを記憶している。照明データベース38は、前方の各3次元位置の照度を画像の画素値に変換するための換算係数を記憶している。
【0035】
視認可能照明下限推定部40は、画像取得部20によって取得した画像と、設定パラメータ取得部28によって取得したパラメータと、照明データベース38とに基づいて、自車両のドライバが遮蔽対象物である歩行者を視認可能な、遮蔽対象物に対する照明の明るさの下限を推定する。具体的には以下のように行う。
【0036】
まず、画像中の歩行者の背景の明るさを計算する。そして、求めた背景の明るさに対して、視認可能なコントラストになる対象の明るさを、参考文献(青木、森田、関根、田中、“対向車へのグレアを考慮した前消灯による歩行者の被視認性”自動車技術会論文集、44−1、pp.131−136、2013.)に記載の方法を用いて求める。そして、求めた対象の明るさの下限を、遮蔽対象物に対する照明の明るさの下限を推定する。
【0037】
ここで、許容可能照明上限推定部36の詳細な構成について、
図2を用いて説明する。許容可能照明上限推定部36は、眼前照度計算部60、なす角度推定部62、順応輝度推定部64、モデル記憶部66、及び許容可能照明上限計算部68を備えている。
【0038】
眼前照度計算部60は、3次元位置推定部34によって推定された遮蔽対象物である歩行者の頭部の3次元位置と、照明データベース38とを照合して、遮蔽対象物である歩行者の眼前照度を計算する。
【0039】
なす角度推定部62は、3次元位置推定部34によって推定された遮蔽対象物である歩行者の頭部の3次元位置と、照明データベース38に記憶された各ライトの自車両を基準とした3次元座標系位置とに基づいて、遮蔽対象物である歩行者が自車両を見たときの視線とランプ方向とのなす角度を計算する。
【0040】
順応輝度推定部64は、遮蔽対象物である歩行者の順応輝度を推定する。歩行者の順応輝度を厳密には計測できないので、本実施の形態では、近似値として、画像取得部20によって取得した画像における遮蔽対象物の周辺の明るさから、順応輝度を推定する。あるいは、状況毎の複数の典型値から、現在の状況に応じた順応値を選択するようにしてもよい。
【0041】
モデル記憶部66は、グレアのモデル式として、計測可能な物理量から遮蔽対象物である歩行者が感じるグレアの度合いを推定する式を記憶している。本実施の形態では、以下の式に示す、代表的なモデル式であるSchmidt−Clausenのモデル式を用いる。
【0043】
ただし、nはランプの数であり、E
Bは、歩行者の眼前照度(lx)であり、L
uは、歩行者の順応輝度(cd/m
2)であり、θは、歩行者の視線とランプ方向のなす角度(min)である。また、C
POO=3.0×10
−3lx min
−0.46、C
pL=4.0×10
−2 cd/m
2である。
【0044】
なお、上記のモデル式は、参考文献(H.−J.Scmidt−Clausen,J.Th.H.Bindels,“Assessment of discomfort glare in motor vehicle lighting,”Lighting Research and Technology, vol.6,no.2,pp.79−88,1974.)に記載されているモデル式であるため、詳細な説明を省略する。
【0045】
許容可能照明上限計算部68は、眼前照度計算部60によって計算された歩行者の眼前照度、なす角度推定部62によって推定された歩行者の視線とランプ方向のなす角度、及び順応輝度推定部64によって推定された順応輝度に基づいて、上記のモデル式に従って、歩行者が許容可能なグレアになる、遮蔽対象物に対する照明の明るさの上限を推定する。
【0046】
遮蔽箇所照明設定部42は、遮蔽箇所計算部32によって計算された遮蔽箇所の3次元位置に基づいて、自車両から見たときの遮蔽箇所である歩行者の頭部を遮蔽した配光パターンを生成する。
【0047】
また、遮蔽箇所照明設定部42は、遮蔽箇所計算部32によって計算された遮蔽箇所の3次元位置と、許容可能照明上限推定部36によって推定された、遮蔽対象物に対する照明の明るさの上限と、視認可能照明下限推定部40によって推定された、遮蔽対象物に対する照明の明るさの下限とに基づいて、遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさを設定する。
【0048】
ここで設定した照明の明るさは、歩行者検出に用いる画像には原理的に影響を及ぼさない。ドライバによる歩行者の視認のためにはできるだけ明るい方がよい。従って、遮蔽箇所照明設定部42は、例えば、許容可能なグレアを実現する、遮蔽対象物に対する照明の明るさの上限Xと、ドライバが遮蔽対象物である歩行者を視認可能な、遮蔽対象物に対する照明の明るさの下限Yとの中間の明るさを、遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさとして設定する(
図3(A)参照)。また、遮蔽対象物に対する照明の明るさの上限Xが、遮蔽対象物に対する照明の明るさの下限Y以下である場合(1をハイビームの明るさとすると、1>Y>X)には、設計上の判断で、遮蔽対象物に対する照明の明るさの上限と遮蔽対象物に対する照明の明るさの下限との間の、遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさを決める(
図3(B)参照)。例えば、ドライバの認知性と歩行者が感じる不快感を減らすことのどちらを優先するかを、設計指針に基づいて判断し、当該設計指針に基づいて、遮蔽対象物に対する照明の明るさの上限と遮蔽対象物に対する照明の明るさの下限との間の、遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさを決める。
【0049】
照明制御値変換部44は、露光量設定部26による設定と、遮蔽箇所照明設定部42によって設定された遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさとに基づいて、設定した遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさになるように、ライト駆動装置50を制御する照明制御部46に対する指令値を作る。実現方法はいくつかあるが、配光可変ライト52が、例えば、
図4に示すように、各画素についてOn/Offしかできない照明デバイスである場合には、各画素に対して高速にOn/Offを切り替えるための指令値により、中間の明るさで、配光パターンにおける、設定した遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさを実現するようにする(
図5参照)。
【0050】
照明制御部46は、照明制御値変換部44で作った指令値に従って、ライト駆動装置50を介して、配光可変ライト52によって配光パターンの光を照射するように制御する。
【0051】
配光可変ライト52は、ヘッドライトの光源として十分な明るさを持ち、PC用プロジェクタの様に縦横に高い空間解像度を持ち、各画素ごとにON/Offが可能な照明である。配光可変ライト52は、例えば、ランプとランプから照射された光の配光を制御する配光制御装置とで構成されている。配光制御装置は、ランプの光を反射することによって配光を制御するDMD(デジタル・マイクロミラー・デバイス)等の反射型空間光変調素子、またはランプの光を透過することによって配光を制御する液晶表示素子等の透過型空間光変調素子で構成することができる。また、LEDを格子状に配列したランプを用いることもできる。
【0052】
この配光可変ライト52では、所定の配光パターンが得られるようにランプを点灯するか、またはランプを点灯した状態で所定の配光パターンが得られるように配光制御装置を駆動することにより所定の配光パターンを得ることができる。
【0053】
ライト駆動装置50は、照明制御部46からの指示に基づいて、配光可変ライト52から照射される光の配光(照射パターン)及び明るさを制御すると共に、遮蔽箇所を含む配光パターンと、全点灯パターンとを切り換えて照射するように配光可変ライト52を駆動させる。遮蔽箇所を含む配光パターンと、全点灯パターンとの切り換えは、例えば、ちらつきを感じない周波数で実施する。ドライバと歩行者が知覚する明るさは、遮蔽箇所の明るさと点灯の明るさとを時間重みで平均したものになる。
【0054】
なお、遮蔽箇所を含む配光パターンと、全点灯パターンとを切り換えて照射することが、自車両から見たときの遮蔽対象物の一部分を、設定した遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさとし、遮蔽対象物の他の部分を含む領域を、上記設定の明るさより高くした照射パターンの光を照射することの一例である。
【0055】
図6は、本実施形態の照射装置10の制御装置16のCPUが行う制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0056】
照射装置10の電源(図示せず)が投入され、ライト駆動装置50によって、上記
図4に示す遮蔽タイミングで、遮蔽箇所を含む配光パターンと、全点灯パターンとを切り換えて照射するように、配光可変ライト52のランプを点灯させる。このとき、
図6に示す処理ルーチンが、繰り返し実行される。
【0057】
まず、ステップ100で、上記
図4に示すシャッター解放タイミング(全点灯パターンの光を照射するタイミング)で、可視光カメラ12のシャッターを解放するように駆動し、自車両の前方の撮影により得られた可視光画像を取り込み、次のステップ102で、3次元情報計測部14によって計測された、自車両の前方に存在する物体の3次元情報を取得する。
【0058】
そして、ステップ104において、可視光カメラ12の設定パラメータを取得する。ステップ106では、上記ステップ100で取得した可視光画像から、遮蔽対象物である歩行者を検出する。ステップ108では、上記ステップ106における歩行者の検出結果に基づいて、検出した歩行者の遮蔽箇所である頭部の画像座標位置を計算する。
【0059】
次のステップ110では、上記ステップ102で取得した3次元情報と、上記ステップ108で計算した遮蔽箇所である頭部の画像座標位置とに基づいて、遮蔽箇所である頭部の3次元位置を推定する。
【0060】
ステップ112では、上記ステップ100で取得した可視光画像、上記ステップ110で推定された、遮蔽箇所である頭部の3次元位置、及び照明データベース38に基づいて、歩行者によって許容可能なグレアとなる、遮蔽対象物への照明の明るさの上限を推定する。
【0061】
次のステップ114では、上記ステップ100で取得した可視光画像、上記ステップ104で取得した設定パラメータ、及び照明データベース38に基づいて、ドライバにとって歩行者を視認可能な、遮蔽対象物への照明の明るさの下限を推定する。
【0062】
そして、ステップ116において、上記ステップ110で推定された遮蔽箇所である頭部の3次元位置に基づいて、自車両から見たときの、遮蔽箇所である歩行者の頭部を遮蔽した配光パターンを設定する。また、上記ステップ112で推定された遮蔽対象物への照明の明るさの上限と、上記ステップ114で推定された遮蔽対象物への照明の明るさの下限とに基づいて、遮蔽箇所への照明の明るさを設定する。
【0063】
次のステップ118では、上記ステップ116で設定された配光パターン及び遮蔽箇所への照明の明るさに基づいて、ライト駆動装置50を制御する照明制御部46に対する指令値を作る。ステップ120において、照明制御値変換部44で作った指令値に従って、ライト駆動装置50を介して、配光可変ライト52を制御する。
【0064】
上記の処理ルーチンにより、配光可変ライト52によって、遮蔽箇所を含まない全点灯パターン、及び遮蔽箇所を含む配光パターンを高速に切り換えながら照射する。これによって、ドライバは、遮蔽箇所である歩行者の頭部において、遮蔽対象物への照明の明るさの上限と、遮蔽対象物への照明の明るさの下限との間の明るさを知覚する。遮蔽対象物である歩行者は、遮蔽対象物への照明の明るさの上限と、遮蔽対象物への照明の明るさの下限との間の明るさを知覚する。
【0065】
また、上記の処理ルーチンで取得した可視光画像に基づいて、遮蔽対象物の検出に最適な露光量を計算し、計算した露光量を、可視光カメラ12で実現するように設定する。
【0066】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る照射装置によれば、推定された遮蔽対象物に照射される照明の明るさの上限と、推定された遮蔽対象物に照射される照明の明るさの下限とに基づいて、遮蔽対象物に照射される照明の明るさを設定し、自車両から見たときの遮蔽箇所である歩行者の頭部の明るさを、設定した遮蔽対象物に照射される照明の明るさとするように、遮蔽箇所を含む配光パターン及び全点灯パターンを切り換えて光を照射することにより、歩行者が不快な眩しさを感じることなく、かつ、ドライバが、歩行者を認知できる。
【0067】
また、全点灯パターンの光を照射するタイミングを、可視光カメラの撮像タイミングとして、画像を取得し、遮蔽対象物を検出することにより、シャッターが開いている時間は歩行者の遮蔽をしないようにできるため、可視光の画像からの遮蔽対象物の検出精度の低下を防ぐことができる。
【0068】
また、歩行者検出の通常の手法では、遮蔽を行った画像を学習データとして用いているか、顔が部分的に隠れても歩行者検出できる手法を適用することになる。いずれの場合でも、遮蔽を行わない場合より検出性能は劣化するので遮蔽は無い方が望ましい。本実施の形態では、シャッターが開いている時間は歩行者の遮蔽をしないようにできるため、遮蔽対象物の検出性能の劣化を防ぐことができる。
【0069】
また、歩行者の頭部を遮蔽するとドライバからは首から下の胴体だけが見えることになる。歩行者を発見する際に顔は重要な手掛かりなので遮蔽は無い方が望ましい。本実施の形態では、歩行者の頭部を、点灯と遮蔽との間の中間的な明るさで照射しているように、ドライバが知覚するため、ドライバが、歩行者を認知できる
【0070】
なお、本実施の形態では、遮蔽箇所を含む配光パターンと、全点灯パターンとを切り換えて照射することにより、設定した遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさを実現する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。遮蔽箇所を含む配光パターンの光により照射される遮蔽箇所の明るさを、設定した遮蔽箇所の3次元位置への照明の明るさとして、配光パターンを照射するようにしてもよい。この場合には、シャッター解放タイミングにおいて、全点灯パターンを照射するように切り換えればよい。例えば、配光可変ライトが、各画素ごとに明るさの多階調設定が可能な照明であり、照明制御部が、配光可変ライトの該当する画素における明るさを設定する。