(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の電離真空計において、前記収集電極を流れる収集電極電流を一定に維持するように前記放出電流が制御され、かつ、前記放出電流が圧力を表す、電離真空計。
請求項12に記載の圧力測定方法において、前記収集電極を流れる前記収集電極電流を一定に維持するように前記放出電流が調節され、かつ、前記放出電流が圧力を表す、圧力測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
典型的な電離真空計の動作寿命は、害のない気体雰囲気で動作させた場合、約10年に達する。しかしながら、過度に高い圧力下で、または電子源である陰極の電子放出特性を劣化させる種類の気体内で動作させた場合、そのような電離真空計は数分または数時間で故障する。真空計が置かれる気体雰囲気によっては、そのような気体雰囲気と陰極との相互作用によって動作寿命が低下ある場合がある。また、陰極の酸化物コーティングは、水蒸気に曝されることで劣化する可能性がある。酸化物コーティングが劣化すると、陰極によって生成される電子の数が急激に減少する。タングステン陰極は、水蒸気によって完全に焼き切れてしまう場合がある。
【0007】
電離真空計を高圧下で動作させた場合、例えば、アルゴンで10
−4Torr超の圧力下で動作させた場合にはスパッタリングが問題となる。スパッタリングが高圧下で問題となるのは、大量の気体がイオン化するからである。スパッタリングは、イオンと電離真空計の構成品との衝突エネルギーによって引き起こされる。例えば、高エネルギーのイオンは、電離真空計のコレクター柱体を形成するタングステン材に衝突する。このとき、コレクター柱体の表面やコレクター外囲体の表面から原子が放出される。このように放出された原子は、真空計の陰極フィラメントや真空計の他の構成品を被覆してしまう可能性があり、極めて望ましくない。
【0008】
単位時間あたりのスパッタリング率は、特定の圧力下で陰極フィラメントに供給される特定の放出電流の関数であることが判明している。低いスパッタリング率が望ましいが、正確に圧力を測定するためにフィラメントからの放出電流を十分に確保することが望ましい。電離真空計の動作時に十分な信号を得るために、十分な量の放出電流が必要であり、さらに、複数の圧力測定範囲にわたって高感度な電離真空計を提供する必要がある。
【0009】
古くなったり汚染されたりした陰極フィラメントから所望のレベルの放出電流を生成するには、今まで以上の高温に陰極フィラメントを加熱しなければならない。このような過剰な加熱は、陰極フィラメントにさらなる歪力をかけるため、陰極フィラメントの故障を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、圧力を測定する電離真空計であって、電子源(例えば、陰極フィラメント)と、陽極と、収集電極(コレクター電極)とを備える電離真空計を提供する。なお、陰極フィラメントの歪力を軽減しながら、所定の圧力レベルでの動作において真空計またはその構成品がスパッタリングによって損傷することのないように、電子源からの放出電流を動的に変化させてよい。
【0011】
本発明にかかる圧力を測定する電離真空計は、電子を放出する電子源と、イオン化空間を形成する陽極と、前記電子と前記イオン化空間における気体との衝突によって生成されるイオンを収集する収集電極とを備える。コントローラにより、動作時に、前記電子源からの放出電流を、動作時に検出される圧力以外の、検出パラメータに応答して能動的に制御する。変形例として、または、この構成に加えて、コントローラは、バイアス電圧を含む、エンドユーザによって選択可能な動作プロファイルを形成してもよい。また、コントローラは、動作時に処理工程で起こる圧力変化を予測した制御信号に応答して前記電子源からの放出電流を制御してもよい。
【0012】
前記コントローラは、前記放出電流を、圧力の関数として制御してもよい。制御は、連続可変の制御であっても、ステップ関数制御であってもよい。前記圧力の関数は、ユーザによって選択可能であってもよい。
【0013】
前記圧力以外のパラメータは、測定される気体雰囲気中の気体の化学種であってもよい。
【0014】
前記圧力以外のパラメータは、陰極の形態の電子源の温度であってもよい。前記放出電流は、動作開始時に徐々に増加するように制御されてもよい。前記陰極の温度は、前記陰極の電気抵抗、赤外線センサ、陰極の光学パラメータによって表示されるものであってもよい。
【0015】
前記圧力以外のパラメータは、前記収集電極を流れる収集電極電流であってもよい。前記放出電流は、前記収集電極電流を一定に維持するように制御されてもよく、この場合、前記放出電流が圧力を表す。前記収集電極電流は、第1の圧力範囲では一定のレベルに保持され、第2の圧力範囲では可変とされてもよい。また、前記第2の範囲において、前記放出電流は、一定であっても可変であってもよい。
【0016】
複数の放出電流プロファイルが、メモリに記憶されてユーザによって選択されてもよい。
【0017】
本発明にかかる電離真空計は、装置内で基板に処理を行うために当該装置を真空引きする過程において使用されてもよい。本発明にかかる電離真空計は、分析装置を用いてプロセスパラメータを測定する過程において使用されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の前述のおよびその他の目的、特徴および利点は、添付の図面に示された本発明の好ましい実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになる。図面における同一の符号は、異なる図においても、同一の部分(構成要素)を指している。図面は必ずしも縮尺どおりではなく、むしろ、本発明の原理を示すことに重点を置いている。
【0020】
本発明の好ましい実施形態についての説明を以下に示す。
【0021】
図1に示すように、本発明にかかる電離真空計100は、一般的に、少なくとも1つの電子源105、および少なくとも1つの収集電極(コレクター電極)110を備える。電子源105と少なくとも1つの収集電極110とは、任意で、測定チャンバ117内の気体の分子や原子(例えば、陽イオン)が電子源105を劣化させるのを防止する分離材料115によって互いに隔てられてもよい。電離真空計100は、さらに、イオン化体積空間(イオン化空間)を有しており、特には、柱体112,114によって支持された陽極120内にそのようなイオン化体積空間を有する。陽極120の構成品および収集電極110の構成品には他にも様々な構成が考えられ、本発明にかかる電離真空計100は、
図1に限定されない。一実施形態において、電離真空計100は、ベアード−アルパート(BA)型の電離真空計、または熱陰極フィラメントの形態の電子源105を用いて陽極120のグリッド(陽極グリッド)に電子を放出する電離真空計100である。ただし、電離真空計100は、特定の電離真空計の構成に限定されず、本発明は、様々な種類の電離真空計を包含する。
【0022】
ベアード−アルパート(BA)型の電離真空計100は、一定の電子125の流れによって気体分子をイオン化させるコンセプトに基づいた真空計である。負電荷を有する図示の電子125は、熱陰極105から、良好な制御下の選択可能な生成量で生成され、正帯電した陽極120に向かって放出または加速される。電子125は、陽極120に移動し、陽極120内で往来ないし循環し、その結果、電子125は、陽極120のイオン化体積空間内に保持される。電子125は、この空間内で気体分子と衝突し、正に帯電したイオン(陽イオン)を形成する。これらのイオンは、少なくとも1つの収集電極110によって収集される。収集電極110は、ほぼ接地電位に設定されているため、正に帯電した陽極120に対して負の電位を有する。しかしながら、収集電極110は、必ずしもこの構成に限定されず、陽極120に対して様々な電位差を有し得る。陽極−陰極の電位差を一定とし、電子の放出電流も一定とした場合、形成される陽イオンの量は、電離真空計100内の気体密度と直接相関する。収集電極110からの信号は電流計135によって検出される。電流計135は、全ての圧力読取値について、圧力単位に換算される。
【0023】
陰極105の形状は、線状リボン、線状ワイヤ、直線リボン、曲線リボン、ヘアピンワイヤ、または当該技術分野において許容可能な陰極のその他の形状とされる。一実施形態において、陰極105は、陰極の加熱用の電源113からの電流で抵抗加熱されて、白熱する。熱電子放出により生成された電子125は、陽極120に向かうように、測定チャンバ117に放出、加速、または方向付けされてもよい。電子125は、陽極120のイオン化体積空間130に到達して陽極120に進入するための十分なエネルギーを有する。
【0024】
コントローラ105aは、陰極バイアス用の電源105bに接続されており、陰極のバイアス電圧を約30ボルトに維持する。通常動作時では、電源113からの加熱用電圧も、コントローラ105aによって制御される。陰極105が十分に加熱されると、コントローラ105aは、当該陰極の加熱を制御して適切な電子電流を維持する。陰極のバイアス電圧電源105bと、陽極バイアス電圧電源130aとにより、陽極120と陰極105との間に、電子125を陽極120のグリッドに加速させるための十分な電位差が形成される。イオン化は、定格設計エネルギーを上回るエネルギー幅およびこれを下回るエネルギー幅の両方で生じる。1962年のSaul Dushman著の「Scientific Foundations of Vacuum Technique」の、電離真空計に関するSection 5.7を参照されたい。
【0025】
ユーザインターフェース215は、少なくとも1つのボタン、少なくとも1つのノブ、またはタッチスクリーンインターフェースを有するものであってもよい。ユーザインターフェース215は、パーソナルコンピュータであってもよい。本発明の電離真空計100は、半導体の処理作業やフラットパネルディスプレイの製造のための、クラスター装置(クラスターツール)の気体雰囲気やスパッタリング蒸着の気体雰囲気などで使用可能である。このような気体雰囲気で用いられる気体の化学種および具体的な動作パラメータ(圧力、温度、気体の化学種、製造工程のその他の用途特化パラメータを含む)は、極秘とされている。電離真空計の用途や用途の実行方法は、個々の製造者の利益のために企業秘密である。製造者は、これら極秘のパラメータによって競争上の優位を得ている場合があるので、第三者に明らかにすることに消極的である。そのため、本発明にかかる電離真空計100では、ユーザインターフェース215により、企業秘密を第三者に明らかにすることなく製造者はそれぞれのユーザごとに定めた電離真空計の複数の動作パラメータを設定・変更できるようにしている。
【0026】
一実施形態において、ユーザは、電離真空計のパラメータ、例えば、放出電流やイオン化ポテンシャルなどを選択することができる。ユーザは、単一の放出電流値または放出電流値の範囲や、単一のイオン化ポテンシャル値またはイオン化ポテンシャル値の範囲を選択することができる。このような選択は、ユーザインターフェース215を有する入力装置によって行われる。
【0027】
他の実施形態において、電離真空計100の用途の種類は、入力装置のユーザインターフェース215を用いて特定することができる。電離真空計100の用途の種類は、クラスター装置の気体雰囲気の気体の種類、気体の混合物や、その時点でクラスター装置内で実行されている工程(例えば、スパッタリング蒸着)などのことを指す。この実施形態において、電離真空計100は、陰極励起電圧用の電源113、陰極励起電流の電流計225、陰極/陽極の電流計230、陽極バイアス電圧電源130a、および電流計135を備える。この場合、特定の高圧下の(固有の動作パラメータを有する)スパッタリング処理用途において、陰極励起電圧用の電源113、陰極励起電流の電流計225を流れる電流、陰極/陽極の電流計230を流れる電流、および陽極バイアス電圧電源130aのうちの少なくとも1つを、メモリ107に記憶された設定に基づいて、コントローラ105aによって互いに独立して操作してもよい。この入力に応答して、コントローラ105aは、メモリ107に記憶された参照テーブルにアクセスして、気体の化学種またはクラスター装置用途に対して最適な、予めプログラムされた電離真空計の各種構成品の設定値を読み出す。その後、コントローラ105aは、メモリ107に記憶された最適のパラメータ、またはユーザがプログラムしたパラメータにしたがい、前述した電離真空計の各種構成品の少なくとも1つを制御する。
【0028】
他の可変パラメータには、陰極の温度、圧力範囲の上限、収集電極電流、信号対ノイズ比、気体イオン化のピークレベル、放出電流の下限、気体の種類、工程、用途などが含まれる。
【0029】
電離真空計100のコントローラ105aは、さらに、フィードバック機能を有するものであってもよい。コントローラは、電離真空計の各種構成品の少なくとも1つのパラメータを監視し、所望のパラメータがメモリ107に記憶されたトリガ値に達し、トリガ値を超えたり、トリガ値と一致したりした場合、コントローラ105aは電離真空計100の少なくとも1つの設定を変更してもよい。例えば、コントローラ105aは、陰極105の温度を監視するように構成してもよい。コントローラ105aは、当該陰極の温度とメモリ107に記憶された所定の温度トリガ値とを比較してもよい。陰極の温度がその所定のトリガ値を上回った場合、コントローラ105aは、陰極の温度が低下するように放出電流を制御し、かつ、信号対ノイズ比を許容可能な範囲に維持しながらスパッタリングを軽減するためにその他のパラメータを変化させる。このような陰極温度の上限に対応するトリガ値は、アルゴンガスとその他の種類の気体とで異なってもよく、また、気体の化学種の混合物の種類、またはクラスター装置もしくはチャンバで検出される圧力によって変化させてもよい。これらのさらなるパラメータは、不揮発性メモリ107にプロファイルとして記憶されていてもよい。好ましくは、複数の異なるプロファイルがメモリ107に記憶されており、コントローラ105aによってアクセスされるか、あるいは、ユーザによってユーザインターフェース215を介して選択可能である。
【0030】
好ましくは、コントローラ105aは、加熱用の電圧の電源113に接続されており、電離真空計のスパッタリングを軽減し、その寿命が向上するように、陰極105からの放出電流を、検出される圧力レベルに基づいて動的に制御する。例えば、
図2に示すような少なくとも1つのプロファイルが、ユーザによって選択可能にメモリ107に記憶されていてもよい。検出される圧力は、電流計135(電離真空計100そのもの)から読み取ってもよいし、別の真空計から読み出してもよい。コントローラ105aは、
図2に示すように、放出電流を圧力に基づいて調節してもよい。
【0031】
図2は、数10桁にわたる動作圧力に対する、陰極105からの放出電流を示すグラフであり、各プロットには200,205,210,215の参照符号が付されている。放出電流の第1のプロット200は、前に述べた、既存の先行技術に基づく、陰極からの二段階の放出電流を示したものである。この場合、10
−9Torrから約10
−6Torrの圧力範囲における放出電流は約4.0mAに設定され、10
−5Torrから約10
−1Torrの圧力範囲における陰極からの放出電流は約0.1mAに設定されている。このような先行技術に基づく放出電流は、電離真空計100の気体圧力の程度によっては、許容できないレベルのスパッタリングを引き起こす可能性がある。
【0032】
本発明の電離真空計100は、当該電離真空計100の寿命が向上するように、陰極からの放出電流を圧力の関数(圧力を変数とする関数)として変化させる。このように圧力に基づいて放出電流を動的に変化させることにより、高圧下での動作による電離真空計100の自己スパッタリング現象を軽減または最小限に抑えることができる。例えば、第2のプロット205のように、放出電流プロットを、無段階に変化する「式をベースにした」プロットとしてもよい。この場合、10
−9Torrの圧力での放出電流は約10.0mAであり、約10
−8Torrの圧力での放出電流は約0.1mA超であり、約10
−5Torrから約10
−1Torrの圧力範囲における陰極からの放出電流は約0.01mAに設定される。このプロットは、高圧下での動作による許容できないレベルのスパッタリングを防ぎながら、放出電流を、圧力を検出するための比較的強い信号が得られる許容可能なレベルに設定することができるので、有利である。
【0033】
例えば、第3のプロット210のように、放出電流プロットを、多段階のプロットとしてもよい。この場合、10
−9Torrから約10
−7Torrの圧力範囲での放出電流は約10.0mAであり、約10
−7Torrから約10
−5Torrの圧力範囲での放出電流は約1.0mAに設定される。さらに、第3の段階である約10
−5Torrから約10
−3Torrの圧力範囲での放出電流は約0.03mAであり、約10
−3Torrから10
−2Torrの圧力範囲での
図1の電子源105(例えば、陰極)からの放出電流は約0.01mAに設定される。次の段階である10
−2Torrから約10
−1Torrの圧力範囲での放出電流は約0.003mAに設定される。比較的に高圧な範囲では、この多段階のプロット210における陰極からの放出電流は、先行技術に基づく二段階のプロット200の陰極からの放出電流に比べてごく僅かに過ぎない。この構成は極めて有利である。これにより、電離真空計100は、高圧下での動作による許容できないレベルのスパッタリングを防ぎながら、放出電流を、圧力を検出するための十分に強い信号が得られる適切なレベルに設定することができる。
【0034】
例えば、第4のプロット215のように、放出電流プロットを、無段階にかつ動的に変化する直線状のプロットとしてもよい。この場合、10
−9Torrから約10
−7Torrの圧力範囲において放出電流は約10.0mAから約1.0mAに変化する。約10
−7Torrから約10
−5Torrの圧力範囲において陰極105からの放出電流は約1.0mAから約0.1mAに変化する。約10
−5Torrから約10
−3Torrの圧力範囲において放出電流は約0.1〜0.01mAである。約10
−3Torrから10
−1Torrの圧力範囲において陰極105からの放出電流は約0.01mAから0.001mAに設定される。
【0035】
一般的に、陰極フィラメントは、イリジウムでコーティングされたタングステンまたは非コーティングのタングステンで構成される。コーティングされたタングステンは600℃から1000℃の温度範囲で動作して赤色またはオレンジ色に発光する。一方、非コーティングのタングステン製の陰極は、1500℃から2000℃の温度範囲で動作して黄色に発光する。古くなったり汚染されたりすると、陰極の電子放出効率が低下する。所望の放出電流を維持するには、電源113を介して陰極に印加される励起電圧を増加させ、陰極の温度を上昇させて電子放出量を増やす方法が考えられる。しかしながら、陰極を加熱し過ぎると、故障に陥る可能性がある。
【0036】
ある実施形態では、陰極の温度が検出され、その温度が高過ぎると、励起電圧が減らされて放出電流が低下される。この場合、放出電流は、選択された放出電流プロファイルで定まる最適な放出電流を下回るので、感度が低下する。しかしながら、このような感度の低下は、陰極フィラメントの破壊のコストを回避できることを考慮すると、十分に許容可能である。
【0037】
陰極フィラメントの温度は、その電気抵抗に直接関係している。つまり、陰極フィラメントの温度は、電源113の励起電圧に対する電流計225を流れる陰極電流の比によって検出することができる。
図3に、温度検出手段の他の例を示す。センサ240は、例えば、温度読取可能な赤外線センサであってもよい。あるいは、センサ240は、カラーセンサであってもよい。イリジウムでコーティングされたタングステンは、高温になり過ぎると黄色に発光する。非コーティングのタングステン製の陰極は、高温になり過ぎると白色に発光する。これらの発光色が検出されると、システムは電源113を介した励起電圧を減少させることにより、放出電流を減少させて陰極の温度を低下させる。
【0038】
動作時、陰極105は、現在の放出レベル(エミッションレベル)から、目標の放出レベルに切り換えられたり、目標の放出レベルにまで増加されたりするときがある。一般的に、現在の放出レベル値と目標の放出レベル値とが比較的に近接していれば問題はない。しかしながら、現在の放出レベルと目標の放出レベルとの間が所定量の差で離れており、陰極105の単位時間あたりの温度変化が急激になると、陰極に歪力がかかり(そのような温度変化が原因)、陰極105が損傷してしまう可能性がある。
【0039】
この実施形態において、好ましくは、陰極105の温度変化がコントローラ105aによって検出され、当該陰極の所定の温度差または歪力が検出されると、コントローラ105aは、陰極が損傷しないように当該陰極からの放出電流を正確に制御する。第1の実施形態において、コントローラ105aは、放出電流を、現在のレベルから目標のレベルにまで、前述したような一連の段階的に、線形的に、もしくは非線形的に、または電離真空計の変数を用いた所定の式によって動的に制御する。
【0040】
他の実施形態では、陰極105の電圧または電流の変化がコントローラ105aによって検出され、現在のレベルと目標のレベルとの間で検出される電流差が所定に達すると、コントローラ105aは、陰極からの放出電流を、電源113の励起電圧を用いて動的に制御する。コントローラ105aは、放出電流を、現在のレベルから目標のレベルにまで、前述したような一連の段階的に、線形的に、または非線形的に増加させるものとされてもよい。
【0041】
他の実施形態において、陰極105は、陰極の温度、陰極に供給される電圧、陰極に供給される電流、および放出電流(電流計230によって検出される陰極/陽極の電流)のうちの少なくとも1つが、特定のパーセンテージ変化または所定の変化率を超えないものとされる。陰極に供給される特定の電圧値もしくは特定の電流量、または陰極からの電流値が、コントローラ105aによって検出される。特定のパーセンテージ変化または所定の変化率の目標設定値を超えると、コントローラ105aは陰極に供給される加熱用の電流を調節するように加熱用の電源113を動的に制御し、これにより、放出電流の量を、目標設定値を超えないように減少させる。コントローラ105aは、所定のレベルの放出電流を上限とし、それ以上放出電流が増加しないようにしてもよい。放出電流は、陰極の歪力による陰極フィラメントの損傷を防いだり、あるいは、スパッタリングを防いだりするために、所望の設定値を超えないようにされる。
【0042】
本発明の教示内容は、高真空下において陽極電圧および放出電流を上昇させて真空計の内壁や内表面を清浄するために多くの電子を生成する、電離真空計100の脱ガスモード時の動作も包含する。この場合、陰極105からの脱ガス用の放出電流を、前述したように動的に制御してもよい。
【0043】
図4に、本発明の一方法を示す。この方法はフィードバック信号を受けることにより、陰極105の加熱用の電源113から当該陰極に電流が供給され、陰極への電流量が増加する(ステップ402)。陰極が古くなったり汚染されたりしている場合、所望の放出電流を得るために、当該陰極を高温に加熱することがある。しかしながら、加熱によって高温になり過ぎると、陰極は故障してしまう可能性がある。したがって、陰極の故障を防ぐために、コントローラにより、感度の低下を犠牲にして、所望のプロファイルが示すレベルよりも低いレベルに放出電流を減らしてもよい。
【0044】
例示的な一実施形態では、陰極の加熱用の電流は、例えば、
図2のプロファイルのうちの1つに示されたように放出電流を増加させるように制御される(ステップ402)。陰極に対する電圧および電流の印加が検出されて(ステップ405)、コントローラ105aに信号が送信される。次に、電圧の読出し値および電流の読出し値を用いて、コントローラ105aは陰極の抵抗値および陰極の温度を求める(ステップ410)。この温度は、メモリ107に記憶された、陰極の目標の温度値と比較される(ステップ415)。動作時、陰極が調節されて、陰極の現在の温度値と目標の温度値との差が閾値を超えると、放出電流は、所望量に調節される代わりに、陰極の損傷を招かないように、かつ、スパッタリングを軽減するように、所望量と異なるレベルに動的に調節される(ステップ420)。このような動的な調節は、特定の式にしたがって行なわれてもよいし、または線形的に、複数の段階的に、もしくは非線形的に行われてもよい。好ましくは、このようなデータは、
図1に示すような不揮発性の形態のメモリ107に記憶される。メモリ107には、比較のステップ415で使用する、各種用途に対応した複数の動的な放出電流プロファイルが記憶されてもよい。
【0045】
なお、電離真空計100の陰極には、様々な材料、様々な陰極の型式、様々な種類(ブランド)が使用されてもよい。陰極の型式や種類を検出し、コントローラ105aに信号を送信するように構成してもよい。センサ240は、陰極からの発光量、赤外線波長、白熱状態の陰極からの光の光学パラメータなどを検出してもよい。型式や種類をセンサによって検出するものとしてもよいし、ユーザが種類を入力するものとしてもよい。
【0046】
コントローラ105aは、信号に基づいて、陰極の歪力を防いだりスパッタリングを軽減したりするために、参照レベルの電流値を用いて、陰極に供給する適切な電流を決定する。動作時、陰極の種類や型式が検出されると、陰極に供給される電流は、その特定の陰極材料および/または種類に歪力がかからない許容可能なレベルに基づき、陰極の損傷を生じないように動的に調整される。このような動的な調節は、特定の式にしたがって行なわれてもよいし、または線形的に、複数の段階的に、もしくは非線形的に行われてもよい。
【0047】
図5に示す本発明の他の例示的な実施形態では、電離真空計内の気体の化学種が検出され、その気体の化学種を示す信号がコントローラ105aに送信される。この気体の化学種がセンサ119によって検出され、特定の化学種または化学種の組合せを示す信号がコントローラ105aに送信される構成であってもよい。センサ119は、例えば、光学センサであっても残留気体分析装置であってもよい。コントローラ105aは、信号に基づいて、陰極の加熱用の電源113から陰極に供給される適切な電力を決定する。コントローラ105aは、検出された気体の化学種に応じて、メモリ107に記憶された参照レベルや複数の所定の放出電流目標値を特定し、適切な陰極の加熱用の電流を当該陰極に供給する。このような目標のレベルは、コントローラ105aによってアクセス可能な、不揮発性メモリ107に書き込まれてもよい。
【0048】
陰極105の動作時間を監視し、陰極の動作時間を示す信号がコントローラ105aに送信されてもよい。動作時間は記録されてもよいし、連続的に監視されてもよい。他の実施形態において、動作時間は手動で監視され、ユーザによって許容可能なデジタルフォーマットで手入力されてコントローラに送信される。コントローラ105aは、このような時間情報に基づいて、陰極に供給する許容可能な電流レベルを決定する。動作時、陰極105に供給される電流が調節され、現在以上の電流の上昇が陰極に歪力をかけたり陰極を損傷さたりする可能性を表す所定の閾値を、動作時間のパラメータが超えると、陰極に供給される電流は、陰極の損傷を生じないように動的に調整される。このような動的な調節は、前述したように、特定の式にしたがって行なわれてもよいし、または線形的に、複数の段階的に、もしくは非線形的に行われてもよい。
【0049】
一実施形態において、収集電極電流(収集電極を流れる電流)は、ある圧力範囲において一定の最小値に維持される。陰極フィラメント105からの放出電流は、収集電極電流がそのような一定のレベルに維持されるように、コントローラ105aによって閉ループフィードバック制御システムを介して連続的に調節される。圧力の変化は、収集電極電流の変化を引き起こす傾向がある。そのような収集電極電流の変化をコントローラが検出し、コントローラは、そのような変化を相殺するように陰極からの放出電流を調節する。このようにして、収集電極電流は、一定のレベルに維持される。
【0050】
さらなる実施形態において、収集電極110を流れる電流の一定値は、複数の異なる目標電流値から択一的に選択可能である。好ましくは、そのような目標値は、圧力範囲に応じて選択される。これは、調節された放出電流を、前もって特定された圧力範囲に対して最小限に抑えながら、高い信号対ノイズ比を得るためである。
【0051】
好ましくは、電離真空計100は、放出電流の変化量が圧力に対して容易に追随かつ変化するように、比較的小さい電子放出時定数を有する。
【0052】
さらなる実施形態において、電離真空計100は、ある圧力範囲では一定の収集電極電流で動作し、他の異なる圧力範囲では可変の収集電極電流で動作するように構成される。収集電極電流が十分な信号対ノイズ比を有する高圧下では、収集電極電流を一定にした状態で、コントローラ105aが圧力に応じて放出電流を連続的に変化させるための、十分に強い信号が得られる。この場合、圧力の変化は放出電流の変化で表わされる。低圧下では、信号対ノイズ比が低過ぎるために収集電極110が強い信号を形成できない場合がある。よって、低圧下では、電離真空計100は収集電極電流を一定制御から可変制御に切り換えるように構成され、放出電流が、収集電極電流を最適な強度にするように選択される。これにより、低圧下での圧力の測定がより正確になる。よって、低圧下では、圧力の測定には収集電極110からの電流が用いられる。
【0053】
場合によっては、一定の収集電極電流と可変の放出電流との組合せが適した圧力範囲と、可変の収集電極電流と一定の放出電流との組合せが適した圧力範囲との間に、いずれの組合せによっても圧力の測定を上手く行える重複した圧力範囲が存在する場合がある。この場合、コントローラ105aは、アルゴリズムを用いて電離真空計100の少なくとも1つの変数(因子)を監視し、そのアルゴリズムの結果に基づいて、そのような重複した圧力範囲における動作モードを正確に選択するように構成されてもよい。これは、そのような重複した圧力範囲における、一定の収集電極電流モードと可変の収集電極電流モードとの間の持続的な往来を防止するためである。
【0054】
好ましくは、電離真空計100は、基準圧(高真空)とそれよりも高い処理用圧力(大半はミリトール(mTorr)範囲)の両方の圧力を測定することができる。しかしながら、電離真空計100はこれに限定されず、様々な処理パラメータが本発明の範囲内で測定可能とされる。電離真空計100は、フラットパネルディスプレイの製造、磁気媒体工程、太陽電池、光学コーティング工程、半導体製造工程、およびその他の製造処理工程での圧力測定に使用することができる。このような処理には、物理気相成長法、プラズマ気相成長法(PVD)、化学気相成長法(CVD)、原子層体積法(ALD)、プラズマエッチ工程、注入工程、酸化/拡散、窒化物形成、真空リソグラフィ、ドライ剥離工程、エピタキシ工程(EPI)、急速熱処理(RTP)工程、極紫外線リソグラフィ工程などが含まれる。好ましくは、電離真空計100は、1種以上の分析装置、例えば、顕微鏡や質量分析計などと共に使用可能である。質量分析計には、ガスクロマトグラフ装置(GC)、液体クロマトグラフ装置(LC)、イオントラップ装置、磁気セクター型分析計装置、二重集束型装置、飛行時間型装置(TOF)、回転磁場型装置、イオン移動度型装置、線形四重極型装置およびその他を含んでもよい。
【0055】
電離真空計100およびクラスター装置と共にまたはクラスター装置なしに使用可能な表面分析装置には、走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析装置(EOS/XPS)、走査型オージェ電子顕微鏡装置(Auger/SAM)、グロー放電質量分析装置(GDMS)、電子分光装置(ESCA)、原子間力顕微鏡/走査型プローブ顕微鏡装置(AFM/SPM)、フーリエ変換赤外分光装置(FTIR)、波長分散型X線分光装置(WDS)、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICPMS)、蛍光X線分析装置(XRF)、中性子放射化分析装置(NAA)、計測装置などが含まれる。上記のリストは全てを網羅しておらず、電離真空計100は、上記のリストに挙げられていない他の装置と共に使用することも可能である。
【0056】
本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に図示および説明したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲を逸脱することなく、これらの形態および細部に対して様々な変更を行えることを理解できるであろう。例えば、本発明は、他の形態の電離真空計にも適用可能であり、例えば、
・ ベアード−アルパート(BA)型:陽極の内側にイオン収集手段を備え、陽極の外側に陰極を配置した構造の真空計;
・ 三極管型:陽極の内側に陰極を備え、陽極の外側にイオン収集手段を備えた構造の真空計;
・ シュルツ−フェルプス(Schultz-Phelps)型:一枚の平坦なプレート状の陽極と、これと平行に配置された一枚の平坦なプレート状のイオン収集手段と、これらの間に配置された陰極とを備えた構造の真空計;
・ 高圧用構造:高圧下で陽極の外側で生成されるイオンを収集するための追加のイオン収集手段を陽極の外側に配置した構造の真空計;
などに適用可能である。
【0057】
さらに、冷陰極などの他の種類の電子源も使用可能である。また、コントローラは、真空計と一体化されていてもよいし、あるいは、別体であってもよく、例えば、ホストコンピュータのプログラミング内に含まれるものであってもよい。上記の実施形態はつぎの態様1〜12を含む。
[態様1]
前記電子源が陰極を有しており、前記パラメータが陰極の温度である、電離真空計。
[態様2]
前記放出電流が、動作開始時に徐々に増加するように制御される、電離真空計。
[態様3]
前記陰極の温度が、前記陰極の電気抵抗によって表示される、電離真空計。
[態様4]
前記陰極の温度が、赤外線センサによって表示される、電離真空計。
[態様5]
前記陰極の温度が、前記陰極の光学パラメータによって表示される、電離真空計。
[態様6]
前記パラメータが、前記収集電極を流れる収集電極電流である、電離真空計。
[態様7]
前記電子源が陰極を有しており、前記パラメータが、前記電子源の陰極の温度である、圧力測定方法。
[態様8]
前記放出電流が、動作開始時に徐々に増加するように調節される、圧力測定方法。
[態様9]
前記陰極の温度が、前記陰極の電気抵抗によって表示される、圧力測定方法。
[態様10]
前記陰極の温度が、赤外線センサによって表示される、圧力測定方法。
[態様11]
前記陰極の温度が、前記陰極の光学パラメータによって表示される、圧力測定方法。
[態様12]
前記パラメータが、前記収集電極を流れる収集電極電流である、圧力測定方法。