(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項6に記載の方法において、前記車両(1)の前記位置(P)を、3つの座標(X,Y,Z)により規定し、前記車両(1)の前記軌道(T)を、緯度及び経度に対応する2つの座標(X,Y)により画定された平面において求める方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1において、参照符号1は、4つのタイヤ2を備えた車両を全体として示す。
【0009】
車両1は、タイヤ2に作用する力を続いて推定するために必要な物理量を測定する測定ユニット3を有する設備である。測定ユニット3が記録した情報により、屋内台上耐久試験時にタイヤに加えるべき応力(力)を求めて、車両交通に開放された道路で行う同様の屋外耐久試験を高精度でシミュレートすることが可能である。換言すれば、さらに説明するように測定ユニット3が記録した情報を処理することにより、屋内台上耐久試験時にタイヤに加えるべき応力(力)の経時的推移を求めて、車両交通に開放された道路で行う同様の屋外耐久試験で起こるのと同じ摩耗をタイヤに与えることが可能である。
【0010】
測定ユニット3は、車両1の前進の前後速度V
x及び車両1の位置PをリアルタイムでGPS基準を用いて測定する衛星測位装置4を備える。車両1の位置Pは、3つの相互に垂直な軸を有する3次元基準系の3つの座標X、Y、Zによって規定される。X座標及びY座標は緯度及び経度に対応して平面を画定し、Z座標は基準面(通常は海水面)に対する高度を提供する。
【0011】
さらに、測定ユニット3は、車両内に配置されて車両1の前方の道路を撮像するカメラ5を備える(例えば、カメラ5は、車両1の風防に面して配置することができる)。
【0012】
最後に、測定ユニット3は、衛星測位装置4及びカメラ5によって供給されたデータを記憶することが可能な大容量記憶装置4(ハードディスク及び/又はRAMメモリからなる)と、通常はパーソナルコンピュータによって構成される処理装置7とを備え、処理装置7は、記憶装置6を内部に組み込むことができる。
【0013】
屋内台上耐久試験時にタイヤに加えるべき応力(力)を求めて、車両交通に開放された道路で行われる同様の屋外耐久試験を高精度で模倣する方法を、次に説明する。
【0014】
測定ユニット3を備えた車両1は、屋内でのシミュレートが望まれる屋外試験を行うために用いられ、その結果として、車両交通に開放された道路での屋外試験が行われるサンプル道路経路に沿って運転される。
【0015】
車両1の質量Mを事前に、すなわち路上試験の開始前に求める。可能な一実施形態によれば、燃料消費による減少(電子式エンジン制御ユニットが提供した情報から容易に推定される)を考慮して車両1の質量Mを徐々に更新する(すなわち、減少させる)ことができる。
【0016】
車両1の運転中、衛星測位装置4は、リアルタイムで比較的高いサンプリング周波数(通常は少なくとも数Hz)で、XYZ座標組によって構成されたサンプル道路経路に沿った車両1の位置Pと、車両1の前進の前後速度V
xとを提供する。このデータは、衛星測位装置4のサンプリング周波数に通常は等しく衛星測位装置4のサンプリング周波数と同期した記憶周波数で、記憶装置6に周期的に記憶される。
【0017】
さらに、車両1の運転中、カメラ5は、車両1の前方の道路の画像をリアルタイムで提供する。これらの画像の少なくとも一部が、衛星測位装置4のサンプリング周波数に通常は等しく衛星測位装置4のサンプリング周波数と同期した記憶周波数で、記憶装置6に周期的に記憶される(このようにして、各記憶画像は、撮像時の車両1の対応の位置Pと関連付けられる)。
【0018】
屋外試験が終了すると(より正確には、サンプル道路経路に沿った行程が完了すると)、サンプル道路経路に沿った走行中に測定ユニット3が記憶した情報が処理されて、屋内台上耐久試験時にタイヤに加えるべき応力(力)が求められて屋外耐久試験が高精度でシミュレートされる。
【0019】
好適な実施形態によれば、移動平均フィルタを衛星測位装置4が供給した測定値に(特に、車両1の前進の前後速度V
xに)適用して、高周波雑音(特に時間微分において非常に煩わしい)を除去する。
【0020】
車両1の前進の前後速度V
xを用いて、処理装置7は、車両1の前進の前後速度V
xの変化率(1次時間微分)を求めることによって車両1の前後加速度A
xを計算する。
【0021】
さらに、記憶装置6に記憶した車両1の位置Pデータを用いて、処理装置7は、2つの座標X及びY(緯度及び経度に対応する)によって画定された平面における車両1の軌道Tを求める。換言すれば、車両1の軌道Tは、X座標及びY座標によって画定された平面における車両1の位置Pの発展である。続いて、処理装置7は、単純な幾何学的計算によって車両1の軌道Tの曲率半径(R)を計算し、次に次式で表される単純な数学演算によって、(前述のように補正した)前進の前後速度V
x及び軌道Tの曲率半径(R)に基づいて車両1の横加速度A
yを計算する。
A
y=V
x2/R
【0022】
処理装置7は、次式で表されるように、車両1の質量Mに車両1の前後加速度A
xを乗じることにより、車両1に作用する前後慣性力FI
xを計算し、車両1の質量に車両1の前後加速度A
xを乗じることにより、車両1に作用する横慣性力FI
yを計算する。
FI
x=M×A
x
FI
y=M×A
y
【0023】
好適な実施形態によれば、処理装置7は、第3座標Zに基づいて車両1の高度を求め、単純な幾何学的計算によって車両1の高度の発展に基づいて、車両1が走行する道路の勾配を求め、最後に、単純な幾何学的計算によって車両1が走行する道路の勾配に基づいて、車両1に作用する重力FGを求める。換言すれば、車両1に作用する重力FGは、車両1に作用する全体的な重錘力(質量Mに重力加速度Gを乗じたものに等しい)に車両1が走行する道路の勾配角度の正弦を乗じることにより計算される。
【0024】
好適な実施形態によれば、処理デバイス7は、車両1の前進の前後速度V
xの関数として車両1に作用する空気力FAも求める。空気力FAは、実験的に求めたパラメータを有する理論的に求めた式を用いて計算することができるか、又は実験的に求めた表を用いて(通常は表の点間の補間を用いて)計算することができる。
【0025】
最後に、処理装置7は、次式で表されるように、前後慣性力FI
x(減速又は加速に対応して正又は負の符号を有する)、重力FG(下降又は上昇に対応して正又は負の符号を有する)、及び空気力FA(常に負の符号を有する)を代数的に加算することによって、車両1に作用する全前後力F
xを求める。
F
x=FI
x+FG+FA
【0026】
その代わりに、車両1に作用する全横力F
yを横慣性力FI
yに等しいと仮定し、すなわち横慣性力FI
y以外の寄与を考慮しない。
【0027】
車両1に作用する全体的な力F
x及びF
yは、タイヤ2間で分割される。すなわち、車両1に作用する全体的な力F
x及びF
yの割り当て量(partial quota)を、車両1の幾何学的特性(すなわち、車両1における質量の分布)及び車両1のサスペンションタイプに基づいて、タイヤ2毎に求める。
【0028】
上述の演算の最後に、前後速度V
xの時間発展、前後力F
xの時間発展、及び横力F
yの時間発展を計算した。これらの時間発展を直接用いて、屋外耐久試験を高精度でシミュレートするよう試験台のアクチュエータを操作することができる。
【0029】
本発明によれば、前後速度V
xの時間発展、前後力F
xの時間発展、及び横力F
yの時間発展に最適化処理を施して、屋内台上試験の全体的効率を高めるようにすると同時に、屋外耐久試験に関して高いシミュレーション精度を維持する。
【0030】
最適化プロセスは、前後速度V
x並びに力F
x及びF
yを時間領域t(すなわち、時間tの関数)から空間領域(すなわち、空間sの関数)に変換し、その結果として前後速度V
x並びに力F
x及びF
yを得る。前後速度V
xが既知であることから、空間sと時間との間に存在する関係(すなわち、ds=dv×dt)が即座に求められるのでこの変換は単純且つ迅速である。
【数1】
【0031】
換言すれば、前後速度V
x(s)並びに力F
x(s)及びF
y(s)が、前後速度V
x(t)並びに力F
x(t)及びF
y(t)から得られる。
【0032】
前後速度V
x並びに力F
x及びF
yが時間領域tから空間領域sに変換されると(すなわち、V
x(t)、F
x(t)、及びF
y(t)からV
x(s)、F
x(s)、及びF
y(s)へ移った後)、前後速度V
xは、乗算係数(multiplication factor)k(1よりも大きい)の
適用によって拡大され(dilated)、空間sは、乗算係数kよりも明らかに大きな乗算係数k
2(1よりも大きい)の適用によって拡大される。
【0033】
換言すれば、前後速度V
x及び空間sの両方が、対応の乗算係数k及びk
2によって拡大(増加)され、空間sは、前後速度V
xよりも拡大される。概して、乗算係数kは1.2〜2.5なので、乗算係数k
2は1.44〜6.25(1.2
2及び2.5
2にそれぞれ対応する)である。空間領域sにおける(乗算係数kによって)拡大した前後速度V
x並びに力F
x及びF
yは、(乗算係数k
2によって)拡大した空間sに関してリサンプリングされる。
【0034】
拡大した空間sに関して拡大した前後速度V
x並びに力F
x及びF
yのリサンプリングが行われると、リサンプリングした前後速度V
x並びにリサンプリングした力F
x及びF
yが空間領域s(すなわち、空間sの関数)から時間領域t(すなわち、時間tの関数)に再変換される。時間領域tへ戻すためのこの後続の変換が必要な理由は、試験台のアクチュエータを時間tに従って操作しなければならないからである。前述のように、空間sと時間tとの間の関係が前後速度V
xによって直接与えられるので、このさらなる変換は単純且つ迅速である。
【0035】
要約すると、以下の演算が行われる。
1.V
x(t)、F
x(t)、F
y(t)→V
x(s)、F
x(s)、F
y(s)
2.V
x(s)、F
x(s)、F
y(s)→V
x(s×k
2)×k、F
x(s×k
2)、F
y(s×k
2)
3.V
x(s×k
2)×k、F
x(s×k
2)、F
y(s×k
2)→V
x(t)、F
x(t)、F
y(t)
【0036】
より一般的な実施形態によれば、前後速度V
x並びに力F
x及びF
yが時間領域tから空間領域sに変換されると、前後速度V
xが乗算係数k
v(1よりも大きい)の適用によって拡大され、空間sが乗算係数k
vよりも大きいが必ずしも乗算係数k
sの二乗ではない乗算係数k
s(1よりも大きい)の適用によって拡大される。換言すれば、前後速度V
x及び空間sは、対応の乗算係数k
v及びk
sによって拡大(増加)され、空間sは、前後速度V
xよりも拡大される(いずれにせよ、乗算係数k
sは乗算係数k
vの二乗以上である)。可能な実施形態によれば、乗算係数k
sは乗算係数k
vに応じて変わり、特に、乗算係数k
sは乗算係数k
vの累乗n(nは2以上)である。他の実施形態によれば、条件k
s>k
v2である限り、2つの乗算係数k
vとk
sとの間には異なる数学的関連があり得るか、又は2つの乗算係数k
vとk
sとの間には数学的関連が一切ないかもしれない。
【0037】
図4は、最適化プロセス中に行われる数学的変換のいくつかを概略的に示す。左側の2つのグラフは、空間sの関数としての(すなわち、空間領域における)前後速度V
x及び前後力F
xの発展を示すが、右側の2つのグラフは、時間tの関数としての(すなわち、時間領域における)前後速度V
x及び前後力F
xの発展を示す。
【0038】
最適化プロセスをよりよく理解するために、単純な数値例を以下に挙げる。車両を長さ10kmの直線経路に沿って40km/時で運転し、運転者が左右に交互に(実質上、直線軌道をスラローム又はジグザグで)100回(したがって、100メートル毎又は9秒毎に)ハンドルを切り、各タイヤ2に10,000Nkmに等しい摩耗エネルギー及び1,000N(10,000Nkm/10Km)の摩耗エネルギー密度を与えると考える。これらの条件では、
・試験の持続時間は15分間(10km/40km/時)であり、
・効率は0.66km/分(10km/15分)であり、
・各タイヤ2が受ける全摩耗エネルギーは10,000NKmであり、
・摩耗エネルギー密度は1,000Nである。
【0039】
速度を1.5に等しい乗算係数k
vによって拡大し、空間を2.25(すなわち、1.5
2)に等しい乗算係数k
sによって拡大した場合、
・運転者は、225メートル毎(100×2.25)又は13.5秒毎に左右に交互にハンドルを切らなければならず、
・全長は22.5Kmとなり、
・試験の持続時間は22.5分間(22.5km/60km/時)となり、
・効率は1km/分(22.5km/22.5分)となり、
・各タイヤ2が受ける全摩耗エネルギーは22,500NKm(1000N×22.5Km)となり、
・摩耗エネルギー密度は1,000Nで不変のままである。
【0040】
2つの状況を比較すると、第2の状況の方が、9秒毎ではなく13.5秒毎にハンドルを切らなければならないので、運転者が(より正確には、試験台のアクチュエータが)与える応力レベルが低いが効率的である(0.66km/分に対して1km/分)ことが明らかであると思われる。
【0041】
上記最適化プロセスは、試験効率を大幅に向上させることができる。特に、試験効率の評価に用いる主要量は、累乗k
vに等しい量だけ増加させた平均速度(すなわち、空間対速度比の平均値)である。
【0042】
さらに、上記最適化プロセスは、被検タイヤに加える応力を変える速さに好影響を与える(試験台の限界を超えることで試験を実行不可能にすることのないように、被検タイヤに加える応力を変える速さが速すぎないことが重要である)。被検タイヤに加える応力を変える速さを評価するのに用いる1つの量は、前後加速度に等しい「速度率(speed rate)」である(すなわち、前後速度V
xの1次時間微分)。この速度率は、乗算係数k
vの二乗(k
v2)と乗算係数k
sとの比に等しい量だけ(すなわち、k
s=k
vnの場合はk
v2−nに等しい量だけ、したがってk
s=k
v2の場合は1に等しい量だけ)変わる。被検タイヤに加わる応力の速度を評価するのに用いるさらに別の量は、力F
x及びF
yの1次時間微分に等しい「入力率(input rate)」である。この入力率は、乗算係数k
vと乗算係数k
sとの比に等しい量だけ(すなわち、k
s=k
vnの場合はk
v1−nに等しい量だけ、したがってk
s=k
v2の場合はk
v−1に等しい量だけ)変わる。
【0043】
上記最適化プロセスは、タイヤ摩耗がタイヤ回転速度とは無関係に(より正確には、ほぼ無関係に)タイヤが行う回転数に応じて変わるという(前後速度V
xが高くなり過ぎない限り、十分に検証された)仮定に基づく。現実には、速度は摩耗に最小限の影響を及ぼすが、第1近似として速度変化に起因した摩耗効果を(少なくとも前後速度V
xが高くなり過ぎない限り)無視できることが観察された。
【0044】
屋内台上耐久試験時にタイヤに加えるべき応力を求める上記方法には、多くの利点がある。
【0045】
まず第1に、上記方法は、比較的安価で設置し易く事前設定を一切必要としない単一の測定機器(衛星測位装置4)の使用が考えられるので、単純且つ安価に実施できる。
【0046】
上記方法は、極めて精密であり、特に、時間ドリフトによる影響を一切受けない。その理由は、衛星測位装置4が、加速度計とは異なり、測定の実施に物理的に関与する敏感な素子を有さないので、雑音レベルが低く、高精度を提供し、且つ時間ドリフト(コンポーネント老化又は熱影響による)の影響を受けないからである。
【0047】
衛星測位装置4は、車両1の本体の運動の影響を一切受けないので、衛星測位装置4が行う測定は、サスペンション上の車両1の本体の運動による影響を受けない。
【0048】
車両1の高度に関して衛星測位装置4が提供する情報により、車両1が走行している道路の勾配に基づいて、車両1に作用する重力FGを正確に求めることも可能である。
【0049】
最後に、上記最適化プロセスにより、被検タイヤに応力が加わる速さに悪影響を及ぼすことなく、屋内台上試験の効率を大幅に向上させることが可能である。