(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る血圧計測システム1000は、被検者の所定の計測部位の血圧を計測するシステムであり、測定装置25と血圧計測装置26とを備えて構成される。なお、
図1の測定装置25では、
図2の測定装置25と比較して、構成の一部の図示を省略している。測定装置25には、発信コイル1と、平均血圧(P)計測用の受信コイル2と、血圧変化量(ΔP)計測用の受信コイル3とが配置してある。測定装置25の詳細構造は
図2で後述する。なお、本明細書に記載の平均血圧計測用の受信コイル2とは、被験者の平均血圧を正確に計測する手段ではなく、平均血圧に近い値(最高血圧と最低血圧の間の値)を探索的に計測するための受信コイルである。正確な平均血圧は、計算により求める(後述)。
【0013】
血圧計測装置26について説明する。血圧計測装置26は、測定装置25からの情報に基づいて被検者の計測部位の血圧を計測するコンピュータ装置であり、入出力回路27、処理部28、電源部29、通信部30、記憶部31、音声発生部32、表示部33、および、入力部34を備えて構成される。
【0014】
入出力回路27は、測定装置25の受信コイル2と受信コイル3から受信した電圧の情報を処理部28に伝える。
処理部28は、例えばCPU(Central Processing Unit)によって実現される。この処理部28は、受信コイル2と受信コイル3から受信した電圧の情報と、記憶部31に記憶されている対応関係情報(
図6参照)に基づいて、
図2の血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5に加えられている圧力を計算し、それらの計算結果に基づいて平均血圧、最高血圧、最低血圧を計算する(詳細は後記)。
電源部29は、血圧計測装置26における電源供給手段である。
【0015】
記憶部31は、各種情報を記憶する手段であり、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などによって実現される。
音声発生部32は、音声を発生させる手段であり、例えばスピーカによって実現される。音声発生部32は、例えば、測定装置25による測定の開始時や終了時にビープ音を発生させたり、測定者に対し、測定装置25を計測部位に押し付ける力を強めることや弱めることの音声ガイダンスを発生させたりする(詳細は後記)。
【0016】
表示部33は、各種表示を行う手段であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)表示装置によって実現される。表示部33には、血圧変化量(ΔP)、平均血圧(P)、最高血圧、最低血圧の少なくとも1つ以上を視覚化したインジケータなどが表示される。
入力部34は、各種情報入力のためにユーザによって操作される手段であり、例えば、キーボードやマウス等によって実現される。
【0017】
通信部30は、救急車や病院といった外部のコンピュータ1001(または通信デバイス)と通信を行い、血圧計測システム1000の内部のデータをコンピュータ1001に送信したり、コンピュータ1001から血圧計測システム1000に対する制御信号を受信したりする。通信部30からコンピュータ1001に送信するデータは、例えば、測定装置25で測定された平均血圧(P)と血圧変化量(ΔP)の測定データ、血圧計測装置26の内部の処理部28で計算され表示部33に表示される最低血圧、最高血圧、平均血圧(P)、血圧変化量(ΔP)の値などである。血圧計測システム1000に対する制御信号の内容は、例えば、データ送信のタイミングや血圧計測システム1000の設定値(例えば
図11のフローチャートに示した測定装置の押す力の強さの設定値など)などである。
【0018】
図2を用いて、測定装置25の構成について説明する。測定装置25は、発信コイル1(磁場発生手段)と、平均血圧(P)計測用の受信コイル2(磁場検知手段)と、血圧変化量(ΔP)計測用の受信コイル3(磁場検知手段)と、血圧変化量検知部4と、平均血圧検知部5と、平均血圧検知部5に対応するバネ6と、血圧変化量検知部4に対応するバネ7と、発信コイル1の基板上に配置されるコネクタ8と、測定装置25を指で保持するための保持具9(指固定部)および保持ベルト131と、全体の構造を保持する保持部10と、受信コイル3を発信コイル1の基板を介してコネクタ8につなぐためのリード線111と、受信コイル2を発信コイル1の基板を介してコネクタ8につなぐためのリード線121と、を備えて構成される。なお、
図2において、平均血圧検知部5だけハッチングをしているのは、血圧変化量検知部4や保持部10と見分けやすくするためであり、その他の意図はない。
【0019】
測定装置25は、保持具9および保持ベルト131で固定された測定者(医師等)の指の力によって被検者の計測部位(例えば、首の頚動脈のある部分)に加えられた圧力の情報を出力する圧力センサの一種であり、具体的には、圧力の大きさに応じた電圧の情報を出力する(詳細は後記)。なお、
図2では正確に図示されていないが、例えば、発信コイル1は保持具9の内部空間部分の上面に固着され、さらに保持部10と発信コイル1は固着されており、発信コイル1と保持具9と保持部10は固定化された一体構造となっているものとする。
【0020】
受信コイル3は、中をくりぬいた円形状で、平均血圧検知部5の上部に固着されており、バネ6を介して保持部10と連結されている。受信コイル2は、円形状で、血圧変化量検知部4の上部に固着されており、バネ7を介して平均血圧検知部5と連結されている。なお、バネ6とバネ7は、
図2では便宜上2つずつ以上あるような図示になっているが、例えば、それぞれ、血圧変化量検知部4を取り囲む単一のコイルバネ、平均血圧検知部5を取り囲む単一のコイルバネによって実現するのが、コストや動作安定などの観点から好ましい。
【0021】
測定装置25を小型化するため、バネ6とバネ7は、受信コイル2と受信コイル3より下部に配置する構成とした。これにより、距離D1(血圧変化量ΔPに対応する距離)と距離D2(平均血圧Pに対応する距離)を小さくでき(例えば2mm程度)、高感度(高SN)および高精度計測が可能となる。また、バネ6とバネ7とは上記のように実質的に直列の接続とすることにより測定装置25の小型化が可能となる(
図7参照)。バネ6とバネ7が直列接続でも正確に血圧を計測するため、バネ6のバネ定数はバネ7のバネ定数より大きな値(硬いバネ)としている。以上の構造により、小型の測定装置25を用いて、指によって測定装置25を計測部位に対して一定圧力で押さえたときに、平均血圧(P)とともに、微小変動の脈波に追随する血圧変化量(ΔP)の計測を、簡易かつ正確に行うことができる。
【0022】
図3は、測定装置25の下面側から見た、血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5の構成を示している。
図3に示すように、測定装置25の下面側は、血圧変化量検知部4の周囲に平均血圧検知部5が配置される同心円状の構成とした。この構成により、計測部位で血圧変化量検知部4が血管B(
図8参照)に当たるような位置で一定圧力(P)によって測定装置25を押せば、平均血圧検知部5がその前後の血管Bを押さえることができる。
【0023】
つまり、例えば、手首の橈骨動脈で指による触診をする際、一般に、人差し指、中指、薬指の3つを手首の橈骨動脈に沿って当てて押さえる。その際、脈を一番感じるのは中指であり、その理由は、人差し指と薬指が血管を押さえていることで、その間の中指に対応する血管部分が自由壁運動するためであると考えられる。そこで、測定装置25では、平均血圧検知部5(人差し指と薬指に相当)が血管B(
図8参照)を押さえることで、その間の血圧変化量検知部4(中指に相当)に対応する部分が自由壁運動し、血圧変化量(ΔP)の微弱な変化を高精度で測定できると考えられる。したがって、平均血圧検知部5はバネ定数の大きい硬いバネで押さえる構造とし、血圧変化量検知部4はバネ定数の小さい柔らかいバネで押さえる構造とした。
【0024】
さらに、血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5の構成の斜視図(バネ6とバネ7と発信コイル1と受信コイル2と受信コイル3を含む)を
図4に示す。ここでは説明を簡易化するため、発信コイル1と受信コイル2、3との間にそれぞれバネ6とバネ7が配置してある構成として説明する。なお、実際には
図2で示したようにバネ6とバネ7は受信コイル2と受信コイル3の下部に配置し、測定装置25の小型化を図っている。
【0025】
図3で示したように同心円状に血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5を配置するために、発信コイル1と受信コイル2はトグルを巻いた配線パターンのコイルとし、受信コイル3は受信コイル2の外側に配置した。これにより、血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5は、受信コイル2と受信コイル3が接触することなく、上下運動が可能となる。このように2つの受信コイル2、3が互いに接触しない位置に平面内に配置することで、距離D1とD2の両方とも距離を短くでき(例えば2mm程度)、発信コイル1と受信コイル2と受信コイル3とが接近した構成となり高感度化が実現できる。
【0026】
また、発信コイル1と受信コイル2,3として円形のコイルを用いることにより、平均血圧検知部5または血圧変化量検知部4が偏重によって傾いた場合においても、平均的な距離が計測されるため、正確に距離D1と距離D2に対応する電圧を検出することが可能となる。以上の同心円状の構成(ドーナツ状のコイル構成)により、感度が良く、精度の高い計測が可能となる。また、受信コイル2と受信コイル3に対してそれぞれの発信コイルを設けるのではなく、単一の発信コイル1を用いて単一周波数を発信することにより、測定装置25の小型化、入出力回路27(
図1および
図10参照)の簡易化が可能となる。
【0027】
図5に測定装置25と距離計測回路1002との動作原理を示すための模式図を示す。
図4と同様に、
図5でも説明を簡易化するため、発信コイル1と受信コイル2、3との間にそれぞれバネ6とバネ7が配置してある構成として説明する。測定装置25では、発信コイル1と受信コイル2は互いに対向し、また、発信コイル1と受信コイル3も互いに対向するように配置されている。
【0028】
なお、人体Hはバネ的性質とダンパ的性質を有するが、バネ的性質のほうが支配的であるので、近似的に、人体Hを所定のバネ定数を有するバネであると考える。そして、人体Hのバネ定数よりも大きなバネ定数を有するバネ6を予め選択しておく。そうすることで、平均血圧検知部5に力Pが加えられたときに、受信コイル3(または受信コイル2)と発信コイル1が接しないようにでき、距離D1と距離D2の距離に応じた出力電圧を得る役割を維持できる。
【0029】
次に、被検者の血圧の計測時に、被検者の計測部位が凹むように、測定装置25が測定者の指の力によって計測部位に押し付けられたときの測定装置25の動作について説明する。
まず、交流発振源12は、特定の周波数(例えば、20kHz)を持つ交流電圧を生成する。その交流電圧はアンプ11によって特定の周波数を持つ交流電流に変換され、その変換された交流電流が発信コイル1に流れる。発信コイル1を流れる交流電流によって発生した磁場は、受信コイル2と受信コイル3に誘導起電力を発生させる。なお、受信コイル2と発信コイル1との距離D1が小さいほど受信コイル2の誘導起電力は大きく、同様に、受信コイル3と発信コイル1との距離D2が小さいほど受信コイル3の誘導起電力は大きい。
【0030】
誘導起電力によって受信コイル2に発生した交流電流(周波数は交流発振源12によって生成された交流電圧の周波数と同じ)は、プリアンプ13によって増幅され、増幅後の信号が全波整流回路14(または検波回路)に入力される。全波整流回路14では、誘導起電力によって受信コイル2に発生した交流波形を全て正方向の波形として整流する。また、全波整流回路14の代わりに検波回路を使用する場合は、交流発振源12によって生成された特定の周波数又は2倍周波数によって、前記した増幅後の信号の検波を行う。そのため、交流発振源12の出力を、参照信号(
図5には不図示)として検波回路(
図5には不図示)の参照信号入力端子に導入する。全波整流回路14(または検波回路)からの電圧の情報(出力信号)は、ローパスフィルタ15を通過した後、
図10に記載の入出力回路27の差分回路16に導入される。
【0031】
また、同様に誘導起電力によって受信コイル3に発生した交流電流(周波数は交流発振源12によって生成された交流電圧の周波数と同じ)は、プリアンプ19によって増幅され、増幅後の信号が全波整流回路20(または検波回路)に入力される。全波整流回路20では、誘導起電力によって受信コイル2に発生した交流波形を全て正方向の波形として整流する。また、全波整流回路20の代わりに検波回路を使用する場合は、交流発振源12によって生成された特定の周波数又は2倍周波数によって、前記した増幅後の信号の検波を行う。そのため、交流発振源12の出力を、参照信号(
図5には不図示)として検波回路(
図5には不図示)の参照信号入力端子に導入する。全波整流回路20(または検波回路)からの電圧の情報(出力信号)は、ローパスフィルタ21を通過した後、
図10に記載の入出力回路27のオフセット/ゲイン調整回路22に導入される。
【0032】
なお、血圧変化量検知部4または平均血圧検知部5(計測部位)に加えられる圧力(力ΔPまたは力P)と、ローパスフィルタ15またはローパスフィルタ21から得られる出力信号によって表される電圧の大きさとの関係は、
図6に示す通りである。
図6の範囲Wは、人間の血圧として考えられる範囲を示す。距離計測回路1002が出力する電圧の大きさと、血圧変化量検知部4または平均血圧検知部5に加えられている圧力の大きさとの
図6に示す対応関係情報を、力Pおよび力ΔPのそれぞれに対して別々に(つまり、第1対応関係情報、第2対応関係情報として)、血圧計測装置26の記憶部31(
図1参照)に予め記憶しておく。なお、
図6に示す出力電圧と圧力の関係を、所定の関数、最小二乗法などによって関数化しておけば、出力電圧を圧力に変換する際の精度を高めることができる。
【0033】
図7に、測定装置25を小型化する場合(
図2に示した構造)に採用される、バネ6とバネ7の直列接続の場合の測定装置25と距離計測回路1002との動作原理を示すための模式図を示す。
図5と異なる点は、平均血圧検知部5に固着してある受信コイル3と一体構造となっている固定部41と受信コイル2との間にバネ7が接続され、バネ6とバネ7が実質的に直列接続されているところである。バネ6とバネ7が直列接続されていることにより、平均血圧まで押し当てる血圧計測時はバネ6のみが圧縮されるため、バネ7は血圧変化量ΔPの微小変動に追従する程度の変位量を有する短い長さのバネでよく、測定装置25のさらなる小型化が可能となる。また、バネ7をバネ定数の小さいバネにすることができるため、ΔPの精度がより高い計測を実現できる。
【0034】
次に、血圧計測時の測定装置25の動作と血管(動脈)の状態について説明する。
図8に示すように、測定者が指40によって測定装置25を所定の力で人体Hに押し付けた場合に、血管Bの周辺を平均血圧検知部5で平均血圧と同じ圧力(平均血圧に近い圧力も含む。以下同様)(P)で押さえることで、血管B内圧(P)と力がつりあい、血管Bの壁面が自由壁運動する。このつりあう圧力Pを平均血圧検知部5で検知し、距離D2に対応する電圧に基づいて、平均血圧と同じ圧力(P)を検出できる。平均血圧と同じ圧力(P)で押さえられた状態では、血管Bの自由壁運動による上下運動が、皮膚の上下運動として現れる。血圧変化量検知部4がこの皮膚の上下運動に追従することで、距離D1が変化し脈波に対応する電圧を検出できる。
【0035】
次に、
図5または
図7に示した構成で血圧を計測した場合の、コイル間距離と出力電圧との関係を
図9Aに示す。受信コイル2(円形コイル)と受信コイル3(ドーナツ状コイル)の形状が異なるため、距離D1、距離D2と出力電圧(ローパスフィルタ15の出力とローパスフィルタ21の出力)とのそれぞれの関係は、Pの感度曲線35とΔPの感度曲線36とで図示したように異なる。一方、
図8に示した測定装置25による測定時には、測定装置25を一定圧力(平均血圧に近い圧力)まで押し付けるため、血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5は同時に同じ距離DHだけ(
図9Aの矢印参照)縮む。距離DHだけ縮むと、Pの感度曲線35上の点F2からF1まで移動するため、出力電圧はVF2からVF1まで変化する。
【0036】
また、ΔPの感度曲線36上では、点E2からE1まで変化するため、出力電圧はVE2からVE1まで変化する。そのため、E1とF1で計測される電圧変化量(VE1−VE2)と(VF1−VF2)はそれぞれ大きなオフセット電圧が発生するという問題が生じる。この問題を解決する最も簡単な方法は大きなオフセット電圧をキャンセルするために回路的にハイパスフィルタを入れる方法である。しかし、大きなオフセット電圧が生じてしまうと、ハイパスフィルタのカットオフ周波数の逆数となる時定数(例えばカットオフ周波数1Hzの場合は、逆数の1秒が時定数)によって、ベースライン(ゼロボルトライン)までなかなか戻ってこないという新たな課題が生じる。さらには、アナログ/デジタル変換を行う場合の1ビットあたりの電圧が大きくなり詳細な電圧が記録できないという課題も生じる。このオフセット電圧の問題を解決するには、E1とF1で計測される電圧変化量(VE1−VE2)と電圧変化量(VF1−VF2)とを電圧差分することが簡易であるが、
図9Aのままでは、大きな電圧差が生じているために引き算しても大きな残留電圧が残り電圧差分処理が有効ではない。
【0037】
そこで、
図9Bに示すように、Pの感度曲線35をPの感度曲線35Bのように感度曲線36とほぼ同等の傾きの曲線になるように、Pの出力のゲインを調整することによって、点F1Bと点F2Bでの電圧変化量(VF1B−VF2B)は電圧変化量(VE1−VE2)とほぼ等しくなる。さらに、
図9Bに示すように、Pの感度曲線35BとΔPの感度曲線36とのオフセット電圧が等しくなるようにオフセット電圧Voffを調整する。
図9Cに示すようにオフセット電圧Voffの調整により、Pの感度曲線は感度曲線35Cのようになり、2つの出力はF1CとF2Cになることになり、電圧差分処理により、血圧測定時のコイル間距離が個人ごとで異なっていても常にオフセット電圧がゼロ(ほぼゼロも含む。以下同様)となる。
【0038】
以上のようにPの感度曲線を補正するゲイン補正およびオフセット電圧補正を行い、電圧差分処理を行うことによって、血圧測定時のコイル間距離が個人ごとで異なっていてもオフセット電圧を常にゼロにでき、安定に測定精度良く計測が可能となる。なお、
図6に示した圧力と電圧出力の関係をあらかじめ記憶しておくことによって、血圧測定時のコイル間距離が個人ごとで異なっていても、正確に電圧出力から圧力に変換することができる。
【0039】
図10に、
図9A〜9Cで示した感度曲線の補正を含めた処理手法を行う入出力回路27の回路構成図を示す。感度曲線の補正(
図9A→
図9B→
図9C)はオフセット/ゲイン調整回路22によって実現し、電圧差分処理は差分回路16によって実現される。差分回路16からの出力は、出力電圧全体のオフセットを調整するオフセット調整回路17と、周波数帯域を脈波の周波数だけに限定するバンドパスフィルタ18を通って、ΔPの出力23となる。また、Pの出力24は、オフセット/ゲイン調整回路22の出力をそのまま得る構成とする。以上のように、Pの感度曲線を補正するゲイン補正およびオフセット電圧補正と、電圧差分処理を回路上で行うことによって、ΔPの電圧として、オフセット電圧のない出力を得ることができる。このようにオフセット電圧がない状態が得られれば、アナログ/デジタル変換する場合の1ビットあたりの分解能も高く構成でき、安定に測定精度良く計測が可能となる。
【0040】
次に、
図11のフローチャートを参照して(適宜他図参照)、血圧計測装置26の処理について説明する。
ステップS1において、処理部28は、計測を開始したか否かを判断し、Yesの場合はステップS2に進み、Noの場合はステップS1に戻る。この計測を開始したか否かの判断について、具体的には、例えば、血圧計測装置26の入力部34においてユーザによる所定の操作があったときに計測開始と判断してもよいし、あるいは、受信コイル2または受信コイル3からの出力電圧が所定値を超えたときに計測開始と判断してもよいし、さらに、その他の方法によって判断してもよい。
【0041】
ステップS2において、処理部28は、測定装置25を押す力の強さが、強いか、適切か、弱いかを判断する。このステップS2での判断は、例えば、所定の閾値に基づいて判断すればよい。なお、測定装置25を押す力の強さが「適切」であるためには、少なくとも、血圧変化量検知部4または平均血圧検知部5に加えられる圧力が
図6の範囲W内に収まっている必要がある。
【0042】
測定装置25を押す力が弱い場合(ステップS2で「弱い」)、ステップS3において、処理部28は、音声発生部32を用いて、測定者に対し、測定装置25をもっと強く押すことを促す音声ガイダンスを行い(ステップS3)、ステップS2に戻る。測定装置25を押す力が強い場合(ステップS2で「強い」)、ステップS4において、処理部28は、音声発生部32を用いて、測定者に対し、測定装置25をもっと弱く押すことを促す音声ガイダンスを行い(ステップS4)、ステップS2に戻る。測定装置25を押す力が適切な場合(ステップS2で「適切」)、ステップS5に進む。
【0043】
ステップS5において、処理部28は、入出力回路27からの出力24(
図10参照)と、記憶部31に記憶されている受信コイル3に関する対応関係情報(
図6参照)に基づいて平均血圧を計算し、ステップS6に進む。具体的には、例えば、出力24と受信コイル3に関する対応関係情報から得られた圧力の値をそのまま平均血圧としてもよいし、あるいは、さらに所定の補正処理をすることで平均血圧を算出してもよい。平均血圧の補正処理としては、例えば、簡易な方法として出力23の波形振幅(脈波の振幅値)が最大になる出力24の値を平均血圧とする方法がある。そのほかの平均血圧の補正処理としては、指で圧力を0から加え初めて出力23の波形振幅(脈波の振幅値)が出始めた出力24(出力23の最大波形振幅の例えば1/10)の第1の値と、さらに圧力を指で加えていき出力23の波形振幅(脈波の振幅値)が消失していく出力24(出力23の最大波形振幅の例えば1/10)の第2の値を取得し、第1の値と第2の値との中点を平均血圧とする方法がある。
【0044】
ステップS6において、処理部28は、入出力回路27からの出力23(
図10参照)と、記憶部31に記憶されている受信コイル2に関する対応関係情報(
図6参照)に基づいて、血圧変化量(ΔP)を計算し、その血圧変化量(ΔP)とステップS5で計算した平均血圧(P)に基づいて最高血圧と最低血圧を計算し、ステップS7に進む。
【0045】
ステップS7において、処理部28は、平均血圧と最高血圧と最低血圧を表示部33に表示し、処理を終了する。なお、ステップS7では、表示部33に、平均血圧(P)、最高血圧、最低血圧の少なくとも1つ以上を視覚化したインジケータを併せて表示するようにしてもよい。
【0046】
図12に、本実施形態に係る血圧計測システム1000を用いた頚動脈の血圧測定時の出力電圧波形の例を示す。
図12では、
図10で示した出力24のPの出力電圧波形1201と、
図10で示した出力23のΔPの出力電圧波形1202を示している。頚動脈の血圧測定時に、測定装置25を平均血圧近くまで数秒かけて押すため、Pの出力電圧波形1201は、それに対応して数秒かけて値が上昇している。Pの出力電圧波形1201において、約18秒〜約27秒の間の安定した部分が平均血圧に対応した出力電圧であり、約27秒から後の部分は測定装置25を強く押しすぎている場合の出力電圧である。
【0047】
一方、ΔPの出力電圧波形1202は、出力電圧波形1201の数秒かけた値の上昇にもかかわらず、それにともなうオフセットがないことがわかり、本実施形態で説明したオフセット/ゲイン調整回路22(
図10参照)と差分回路16による処理が非常に有効であることがわかる。また、ΔPの出力電圧波形1202では、約18秒〜約27秒の間、明瞭に脈波が計測できており、この波形から最低血圧と最高血圧の算出を、例えば以下のように行うことができる。なお、ΔPの出力電圧波形1202における0〜4秒の間に発生している電圧は、アーチファクト(ノイズ)である。
【0048】
平均血圧(P) =出力電圧波形1201の電圧から計算される圧力 ・・・(1)
血圧変化量(ΔP)=出力電圧波形1202の最大電圧と最小電圧との差分電圧から計算される圧力変化量 ・・・(2)
(1)と(2)で計算された値を用いて、最高血圧と最低血圧は以下のように計算できる。
最高血圧=平均血圧(P)+(ΔP)/2 ・・・(3)
最低血圧=平均血圧(P)−(ΔP)/2 ・・・(4)
【0049】
このように、本実施形態の血圧計測システム1000によれば、測定者(医師等)は、保持具9と保持ベルト131によって指に固定された測定装置25を被検者の計測部位に押し付けることで、平均血圧検知部5によって平均血圧を知り、血圧変化量検知部4によって血圧変化量(脈波の変動)をとらえることができるので、被検者の計測部位の血圧を安定して計測することができる。
【0050】
また、測定装置25を
図2のような発信コイル1と受信コイル2,3より下にバネ6,7を配置する構成としたことで、片手で取り扱えるほどの測定装置25の小型化や、指に対する測定装置25の着脱の容易化を実現することができ、救急車内など、狭い場所でも被検者の計測部位の血圧を容易に計測することができる。また、測定装置25は、保持具9と保持ベルト131によって測定装置25に対して指を固定し、その指で測定装置25に加力するように構成したことで、測定者が脈波を指で感じることができ、適切な計測部位を特定できるなど、高い操作性を実現できる。
【0051】
また、平均血圧検知部5で検出された電圧情報に対してオフセット/ゲイン調整回路22を用いて感度曲線の補正を行い、差分回路16によって電圧差分処理を行うことにより、血圧測定時のコイル間距離が個人ごとに異なっていても、オフセット電圧を常にゼロに保つことができ、安定した精度良い血圧計測が可能となる。
【0052】
また、測定装置25には平均血圧検知部5を配置し、血管B(
図8参照)を平均血圧とほぼ同じ圧力で適度に押さえ付けることで、血圧変化量検知部4に接する計測部位の脈波の変動を大きくさせ、血圧を高精度で測定することができる。
【0053】
なお、血圧計測の方法として、例えば、体表面の変位を空気圧に変換する方法も考えられるが、血管壁、脂肪、皮膚等の組織特性の個人差や、他の音波等のノイズ等のため、高い精度を期待できない。一方、本実施形態では、体表面に生じる圧そのものをバネ6とバネ7によって変位に変換し、その変位を磁気的に計測しているため、前記した組織特性の個人差やノイズの問題もほとんどなく、高い計測精度を期待できる。
【0054】
(変形例)
次に、
図13A〜13Cを参照して、測定装置25の変形例について説明する。なお、
図13A〜13Cでは、血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5の個数や相対的位置のみ示している。
【0055】
図13Aに示すように、この変形例の測定装置25では、血圧変化量検知部4が3つ設けられ、それらを囲むように平均血圧検知部5が配置されている。このように、血圧変化量検知部4を複数にすることで、3つの血圧変化量検知部4からの電圧の平均を使用する、あるいは、3つの血圧変化量検知部4のうちもっとも電圧値の高い電圧の情報だけを使用するなど、より高自由度で高精度な血圧計測を行うことができる。あるいは、3つの血圧変化量検知部4からの電圧をそれぞれ検出し、中国医療で行われている3つの指によって計測される手首の橈骨動脈の脈診への応用も可能である。
【0056】
次に、
図13Bに示すように、この変形例の測定装置25では、血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5が一組になったものが3組設けられている。このように、血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5が一組になったものを複数にすることで、複数部位において同時計測でき、より高自由度で高精度な血圧計測を行うことができる。なお、
図13Aと同様に
図13Bの構成でも中国医療で行われている3つの指によって計測される手首の橈骨動脈の脈診への応用も可能である。
【0057】
次に、
図13Cに示すように、この変形例の測定装置25では、平均血圧検知部5は2つ設けられ、平均血圧検知部5の一方、血圧変化量検知部4、平均血圧検知部5の他方が、この順で一直線上に配置されている。このように配置することで、例えば、手首の橈骨動脈のように近傍に腱等があって細長いエリアでしか押圧できない部位で血圧を計測する場合であっても、血圧計測を行うことができる。
【0058】
図13Aと同様に
図13Cの構成でも、中国医療で行われている3つの指によって計測される手首の橈骨動脈の脈診への応用も可能である。ただし、
図13Cに示す平均血圧検知部5が独立に2つ配置したその内側に血圧変化量検知部4が配置される構成では、測定装置25の向きによって、十分に血管Bを平均血圧検知部5が押さえることができない(平均血圧検知部5が血管Bからずれている)場合が生じやすいという問題がある。したがって、
図3に示した同心円状に血圧変化量検知部4と平均血圧検知部5を配置するのが最適な配置である。
【0059】
以上で本実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。
例えば、保持具9と保持ベルト131の代わりに、例えば、略円筒形の指サック形状の部材によって測定装置25に対して指を固定するようにしてもよい。そうすれば、指が測定装置25から離れる可能性がより低減し、血圧の計測がより安定する。
【0060】
また、測定装置25から血圧計測装置26へのデータ送信時や、血圧計測装置26からコンピュータ1001へのデータ送信時には、データの暗号化を行ってもよい。
また、測定装置25から血圧計測装置26へのデータ送信は、無線によってでもよい。
【0061】
また、
図11のフローチャートのステップS2〜S5の変形例として、ステップS2で平均血圧を暫定的に計算し、その暫定的に計算した平均血圧の値がそれ以上大きくならないようになるまで、音声発生部32を用いて、測定者に対し、測定装置25を計測部位に押し付ける力を強めることと弱めることの音声ガイダンスをくり返し、暫定的に計算した平均血圧の値が最大と判断した場合に、それを平均血圧とするようにしてもよい。
【0062】
また、例えば、
図2では、血圧変化量検知部4や平均血圧検知部5を、それぞれ、一体の部材として図示しているが、バネ6,7などと一緒に組み立てる都合上、2つの部材をネジ止めする構造としてもよい。
【0063】
なお、平均血圧検知部5の下面側を円形にする場合、頚動脈測定用であれば外径の直径を20mm以下、手首の橈骨動脈測定用であれば外径の直径を3mm以下にし、測定装置25等のサイズをそれらに合わせるのが望ましい。
その他、具体的な構成や処理について、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。