特許第6031662号(P6031662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6031662-認知機能低下改善用組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031662
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】認知機能低下改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/268 20060101AFI20161114BHJP
   A61K 36/9066 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 36/815 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 36/888 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 36/9062 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 36/258 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 36/254 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 36/355 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20161114BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   A61K36/268
   A61K36/9066
   A61K36/815
   A61K36/888
   A61K36/9062
   A61K36/258
   A61K36/254
   A61K36/355
   A61K36/725
   A61K36/185
   A61K9/14
   A61K9/16
   A61K9/20
   A61K9/48
   A61K9/08
   A61P25/28
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-119404(P2012-119404)
(22)【出願日】2012年5月25日
(65)【公開番号】特開2013-209354(P2013-209354A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-43309(P2012-43309)
(32)【優先日】2012年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300065822
【氏名又は名称】株式会社漢方医科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】孫 樹建
(72)【発明者】
【氏名】大城日出男
(72)【発明者】
【氏名】中島 宏
(72)【発明者】
【氏名】松本 明
(72)【発明者】
【氏名】植村康一
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−037722(JP,A)
【文献】 特開2007−230938(JP,A)
【文献】 特開平09−087187(JP,A)
【文献】 特開2003−212790(JP,A)
【文献】 特表2011−506512(JP,A)
【文献】 特開2010−126529(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/076614(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/018656(WO,A1)
【文献】 成人病と生活習慣病,2010年,Vol.40, No.7,p.749-753
【文献】 薬学雑誌,1995年,Vol.115, No.10,p.852-862
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 9/00−9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅花、莪朮、枸杞子、石菖蒲、益智仁、欝金、人参、田七人参、忍冬藤、大棗、甘草、仙茅及び蓮子芯の混合物を、製薬上又は食品衛生上許容される極性溶媒により抽出して抽出物を得ることを特徴とする、
該抽出物を含有し認知機能低下を予防及び/又は改善するための組成物を製造する方法。
【請求項2】
混合物が、紅花30mg〜9g重量部、莪朮30mg〜9g重量部、枸杞子30mg〜18g重量部、石菖蒲10mg〜9g重量部、益智仁30mg〜9g重量部、欝金30mg〜9g重量部、人参10mg〜9g重量部、田七人参10mg〜6g重量部、忍冬藤60mg〜15g重量部、大棗30mg〜9g重量部、甘草30mg〜6g重量部、仙茅30mg〜9g重量部及び蓮子芯10mg〜6g重量部の割合で混合されるものである、請求項1記載の組成物を製造する方法
【請求項3】
抽出物が、紅花、莪朮、枸杞子、石菖蒲、益智仁、欝金、人参、田七人参、忍冬藤、大棗、甘草、仙茅及び蓮子芯の混合物に対し、極性溶媒10〜100倍量で抽出されるものである、請求項1又は2記載の組成物を製造する方法
【請求項4】
極性溶媒が、水又はエタノール、酢酸あるいはそれらの混合物である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物を製造する方法
【請求項5】
抽出温度が、常温から常圧又は加圧下で溶媒の沸点までの範囲である、請求項1から4のいずれかに記載の組成物を製造する方法。
【請求項6】
組成物が、粉末製剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、又は液状製剤の形態である、請求項1から5のいずれかに記載の組成物を製造する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能低下を予防又は改善する組成物に関する。さらに詳しくは、紅花、莪朮、欝金、枸杞子、石菖蒲、益智仁、人参、田七人参、忍冬藤、大棗、甘草、仙茅及び蓮子芯の混合物からの抽出物を含む認知機能低下を予防又は改善する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は、40代〜50代に発症する若年性型があるものの、60代以降の老年期に多く発症するものである。この60代以上の所謂シルバー世代の人口に占める割合は、30.5%(総務省統計局『人口推計月報』)にも達しており、日本の総人口の1/3弱が60歳以上の人達である。認知症の治療薬としては、現在1種のみが我国で認可されており、塩酸ドネペジルと呼ばれる成分であり、商品名はアリセプトと呼ばれている。この薬剤は、アルツハイマーなど認知症への対症療法薬として位置づけられ、アルツハイマー型認知症の認知症症状の進行抑制に用いられる。アルツハイマー型認知症の早期に使用することによって認知機能の一時的な改善をもたらすが、アルツハイマー型認知症の病態を治療したり、最終的に認知症が悪化したりすることを防ぐ薬剤ではない。
【0003】
認知症の随伴症状を緩和する生薬としては、抑肝散が小胞体ストレスによる神経細胞死を予防することからアルツハイマー病などの神経細胞死関連疾患を効果的に、しかも安全に予防又は治療することができると報告されている(特許文献1)。また、帰脾湯に代表されるオウギ(黄耆)、ニンジン(人参)、ビャクジュツ(白朮)、ブクリョウ(茯苓)、オンジ(遠志)、タイソウ(大棗)、トウキ(当帰)、カンゾウ(甘草)、ショウキョウ(生姜)、モッコウ(木香)、サンソウニン(酸棗仁)、リュウガンニク(龍眼肉)の混合物は、培養神経細胞において、神経細胞の神経突起を正常状態に戻し、記憶障害改善作用を示すことから、アルツハイマー型記憶障害の予防・改善剤として有用であることが報告されている(特許文献2)。さらに、当帰、芍薬、沢瀉、茯苓、蒼朮及びセンキュウを含む当帰芍薬散は、アポトーシス抑制作用を有しアルツハイマー症を含む老人性神経症に用いることができると報告されている(特許文献3)。またヤマブシダケ、イチョウ葉などの植物や生薬も知られている(例えば、特許文献4、5)。
【0004】
紅花は、古くから、紅色染料や食用油として広く一般に知られている。その根は、浄血薬として、とくに婦人薬として繁用され、例えば生理不順、冷え性、更年期障害などにも効き目があり、また、血行障害によるお血の改善にも効き目がある。乾燥させた花は、紅花(コウカ)と呼ばれ、血行促進作用がある生薬として日本薬局方にも収載されており、種々の漢方処方に用いられている。また、近年では、認知・記憶機能低下を軽減するとの報告もある(例えば、特許文献6)。
【0005】
莪朮(ガジュツ)は、日本薬局方に収録される芳香健胃作用を有する生薬である。また、ガジュツから抽出される成分が神経成長因子産生増強作用を有することが知られている(特許文献7)。
【0006】
枸杞子は、クコの実で、日本薬局方に収載されている生薬で、抗疲労抗老化作用、免疫賦活作用、肝細胞保護作用、抗脂肪肝作用、血中脂肪降下作用、血糖降下作用、血圧降下作用などが知られている。また、脳神経細胞死の予防又は改善作用も報告されている(特許文献8)。
【0007】
石菖蒲は、中国医学では芳香開竅、寧心安神の効能が認められており、他の安神薬草類を配合して用いられ、癲狂、痴呆の治療、あるいは健忘、耳鳴、難聴などにも使用されている。
【0008】
益智仁は、日本薬局方に収載されている生薬であり、健胃、抗利尿、唾液分泌抑制作用が知られている。
【0009】
欝金(ウコン)は、ショウガ科の多年草で、香料、着色料、生薬として用いられ、英語名のターメリックでよく知られ、インド料理のカレーの材料としても使われている。生薬としての薬効には、胆汁の分泌促進や健胃作用などが知られている。
【0010】
仙茅は、生薬として「温腎壮陽、去寒除湿」の効果があり強壮を目的に使用されてきた。また、老人の夜間尿、婦人の更年期による諸症状にも応用されている。また、免疫力賦活や興奮性機能も知られている。
【0011】
人参は、日本薬局方に収載されている生薬で種々の漢方処方に配合されている。その効能としては、抗糖尿作用、抗癌作用、心臓強化及び血圧調整、肝機能強化、胃腸機能強化、ストレス解消及び強壮効果、体力(精力)増進、脳機能強化、老化抑制、放射線照射防御作用、貧血回復効果及び造血作用、免疫機能増進、消炎作用及び虚弱体質改善効果などが知られている。
【0012】
田七人参は、ウコギ科の薬用植物であり、中国南部原産で、雲南省や広西チワン族自治区の高地で栽培されている。田七人参の効能としては、止血作用と活血(血液循環の改善)作用を併せ持つことが知られている。また、抗ウイルス作用、抗コレステロール作用、抗腫瘍作用なども知られている。
【0013】
忍冬は、広く使われてきた無毒な漢方生薬で日本薬局方にも収載されている。漢方では、昔から忍冬を癰疽(体内外の炎症)に有効であるとして関節炎、気管支炎などの治療に使用されてきた。また、流行性風邪、各種化膿性感染症、湿熱による関節の発赤、腫脹、肝毒性保護及び細胞免疫能力低下に有効であることも知られている。
【0014】
大棗は、クロウメモドキ科のナツメの果実で糖、粘液質、リンゴ酸、酒石酸などを含み、強壮作用・鎮静作用などが知られている。また、甘味があり、また副作用の緩和などを目的に種々の漢方薬に配合されている。
【0015】
甘草は、日本薬局方に収載されている生薬で、グリチルリチンや配糖体などを含有し、鎮痛、抗炎症、胃痛、鎮咳去痰、解毒、十二指腸潰瘍などの効果が知られている。
【0016】
蓮子芯は、通常お茶として飲まれ、心臓や肝臓に有効で精神安定にも効果があるといわれている。本発明者らはこの蓮の胚芽成分に、動物実験のレベルで明確な向精神作用を認め報告してきた(非特許文献1、2)。
しかしながら、アルツハイマー病などの認知機能低下を予防又は改善するといわれる漢方薬や生薬について、ヒトでの効果は明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2011−037722
【特許文献2】特開2007−230938
【特許文献3】特開平09−087187
【特許文献4】特開2003−212790
【特許文献5】特表2011−506512
【特許文献6】特開2010−126529
【特許文献7】特開2009−269927
【特許文献8】再表2005/018656
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】フィトメディシン(Phytomedicine)、第15巻、1117頁、2008年
【非特許文献2】ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European J. Pharmacology)、第634巻、62頁、2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、ヒトにおける認知機能の低下に対して優れた抑制効果を示し、かつ安全性の高い認知機能低下改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者等は、このような事情に鑑み、上記課題を解決すべく、中医薬学的見地から、鋭意研究を行った結果、血液の質的状態を改善し、組織の鬱血や血行障害など血流を改善する活血化お作用を有する生薬、腎を強め、水分代謝を良くし老化を抑制する補腎作用のある生薬、及び意識をはっきりさせる醒脳作用のある生薬を組み合わせた抽出物を種々検討したところ、特定の生薬を組み合わせた混合物の抽出物に認知機能低下改善効果があることを見出し、さらに研究を重ね、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明は、
[1]紅花、莪朮、枸杞子、石菖蒲、益智仁、欝金、人参、田七人参、忍冬藤、大棗、甘草、仙茅及び蓮子芯の混合物を、製薬上又は食品衛生上許容される極性溶媒により抽出して得られる抽出物を含有することを特徴とする、認知機能低下を予防及び/又は改善するための組成物、
[2]混合物が、紅花30mg〜9g重量部、莪朮30mg〜9g重量部、枸杞子30mg〜18g重量部、石菖蒲10mg〜9g重量部、益智仁30mg〜9g重量部、欝金30mg〜9g重量部、人参10mg〜9g重量部、田七人参10mg〜6g重量部、忍冬藤60mg〜15g重量部、大棗30mg〜9g重量部、甘草30mg〜6g重量部、仙茅30mg〜9g重量部及び蓮子芯10mg〜6g重量部の割合で混合されるものである、上記[1]記載の組成物、
[3]抽出物が、紅花、莪朮、枸杞子、石菖蒲、益智仁、欝金、人参、田七人参、忍冬藤、大棗、甘草、仙茅及び蓮子芯の混合物に対し、極性溶媒10〜100倍量で抽出されるものである、上記[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]極性溶媒が、水又はエタノール、酢酸あるいはそれらの混合物である、上記[1]から[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]抽出温度が、常温から常圧又は加圧下で溶媒の沸点までの範囲である、上記[1]から[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]組成物が、粉末製剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、又は液状製剤の形態である、上記[1]から[5]のいずれかに記載の組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の組成物は、認知機能の低下を効果的に予防し、抑制し、又は改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の組成物投与前及び投与1か月後の改訂長谷川式簡易知能評価スケールの結果を示す図である(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の組成物は、血液の状態を改善し、組織の鬱血や血行障害など血流を改善する活血化お作用を有する生薬;腎を強め、水分代謝を良くし老化を抑制する補腎作用のある生薬;意識をはっきりさせる醒脳作用のある生薬;及び諸薬の薬性を調和する甘草を含むことを特徴とする。活血化お作用を有する生薬としては紅花、莪朮、欝金及び田七人参が挙げられる。補腎作用のある生薬としては枸杞子及び仙茅が挙げられる。醒脳作用のある生薬としては石菖蒲、益智仁、欝金、人参、大棗、蓮子芯及び忍冬藤が挙げられる。なお、本明細書において日本薬局方は、第一六改正日本薬局方をいう。
【0025】
紅花(コウカ)は、キク科ベニバナ属の一年草又は越年草のベニバナ(Carthamas tinctorius L)で、その葉、茎、花、根などの各部位及び全草をそのまま又は乾燥したものを用いることができるが、花もしくは地上部位全草が好ましく、管状花をそのまま又は黄色色素の大部分を除いた日本薬局方に記載の紅花を用いることがより好ましい。紅花は、ときに圧搾して板状としたものも好ましく用いることができる。
【0026】
莪朮(ガジュツ)は、ショウガ科ウコン属の1種である多年草のガジュツ(Curcuma zedoaria)の根茎もしくは湯通ししたものをそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができ、日本薬局方に記載の莪朮がより好ましい。
【0027】
枸杞子(クコシ)は、中国原産のナス科の落葉低木であるクコ(Lycium
chinense Miller又はLyciumbarbatum L.)の果実をそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができ、日本薬局方に記載の枸杞子がより好ましい。
【0028】
石菖蒲は、日本の各地の清流に自生しているサトイモ科のセキショウ(Acorus gramineus)の根又は茎、葉をそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができる。
【0029】
益智仁(ヤクチニン)は、ショウガ科に属する益智(ヤクチ;Alpinia oxyphylla Miquel)の果実をそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができ、日本薬局方に記載の益智(仁)がより好ましい。
【0030】
欝金は、ショウガ科の多年草ウコンの根又は茎をそのまま乾燥したものを好ましく用いることができる。また、ウコンには春に赤色の花をつける春ウコン(学名;Curcuma aromtica S)と秋に白色の花をつける秋ウコン(学名;Curcuma longa L)とがあり、主な薬効成分であるクルクミンを多く含む秋ウコンがより好ましい。
【0031】
仙茅は、ヒガンバナ科のキンバイザサ(Curculigo
orchioides GAERIN.)の根茎をそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができる。
【0032】
人参は、ウコギ科の多年草オタネニンジン(Panax ginseng C.A. Meyer)の細根を除いた根又は軽く湯通ししたものを用いることができ、日本薬局方に記載の人参がより好ましい。また人参の皮を剥ぎ、自然乾燥又は60℃以下で熱風乾燥させて水分を15%以下とした白参、蒸気を当てて蒸したものを乾燥した紅参も好ましく用いることができる。
【0033】
田七人参(デンシチニンジン)は、三七人参(サンシチニンジン)とも呼ばれ、ウコギ科の多年草(Panax notoginseng)の根又は茎をそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができる。
【0034】
忍冬藤は、単に忍冬ともいわれ、スイカズラ(Loniceraj aponica Thunberg (Caprifoliaceae))の葉及び茎をそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができ、日本薬局方に記載の忍冬がより好ましい。
【0035】
大棗(タイソウ)は、クロウメモドキ科のナツメ(Zizyphus jujube Mill. var. inermis Rehder (Rhamnaceae))又はその品種の果実をそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができ、日本薬局方に記載の大棗がより好ましい。
【0036】
甘草は、マメ科のウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fisch)又はナンキンカンゾウ(Glycyrrhiza glabra Linne (Leguminosae))の根及びストロン、又はそれらの周皮を除いたもの(皮去リカンゾウ)をそのままあるいは乾燥したものを好ましく用いることができ、日本薬局方に記載の甘草がより好ましい。
【0037】
蓮子芯は、スイレン科の植物である蓮(Nelumbo nucifera)の成熟した種子の胚芽部分をそのまま又は乾燥したものを好ましく用いることができる。
【0038】
本発明における「認知」は、記憶、学習、注意、集中、思考(例えば問題解決能力)、言語(例えば、理解、単語検索)又は視空間認知を含み、「認知機能低下」は、前記認知の機能が低下することをいうが、後天的に発症した脳機能障害によって生じた知能低下を含む。知能低下は、例えば、生来有していた能力(本能)や生まれた後に学習した経験の記憶を元に自らの判断で何とか解決していく能力が低下することが含まれ、例えば記憶障害(記憶機能低下)、判断力低下、認知障害及び行動障害が含まれる。認知機能低下には、脳老化やアルツハイマー病などの脳機能障害や、新しく体験したことを記憶に留めておく記銘力の障害を含む。また、本発明における認知機能低下には、認知機能が正常域を超えていて記憶力は低下しているが、認知機能障害は未だ現われては無く、日常生活にも支障をきたしていない状態である軽度認知機能障害(MCI)も含む。
【0039】
認知機能低下の評価は、認知症のいずれの評価法も好ましく用いることができる。具体的な評価方法としては、例えば、被験者への口頭による質問により、短期記憶や見当識(時・場所・時間の感覚など)、記名力などを比較的容易に点数化して評価できる長谷川式簡易知能スケール(HDS−R)やMMSE(Mini-Mental State Examination)などが好ましく挙げられる。
【0040】
本発明で用いられる抽出物は、上記した生薬(好ましくは、乾燥生薬)をそのまま又は裁断、細切、破砕(好ましくは、数mm〜1cm前後に裁断、細切、破砕)、もしくは粉砕したもの、あるいは粉末にしたものを混合した混合物を抽出溶媒にて抽出することによって得ることができる。
【0041】
前記混合物における各生薬の配合量は乾燥重量として、紅花30mg〜9g重量部、莪朮30mg〜9g重量部、枸杞子30mg〜18g重量部、石菖蒲10mg〜9g重量部、益智仁30mg〜9g重量部、欝金30mg〜9g重量部、人参10mg〜9g重量部、田七人参10mg〜6g重量部、忍冬藤60mg〜15g重量部、大棗30mg〜9g重量部、甘草30mg〜6g重量部、仙茅30mg〜9g重量部及び蓮子芯10mg〜6g重量部が好ましく;紅花1g〜5g重量部(1、2、3、4、5g重量部)、莪朮2g〜6g重量部(2、3、4、5、6g重量部)、枸杞子8g〜12g重量部(8、9、10、11、12g重量部)、石菖蒲2g〜6g重量部(2、3、4、5、6g重量部)、益智仁1g〜5g重量部(1、2、3、4、5g重量部)、欝金2g〜6g重量部(2、3、4、5、6g重量部)、人参1g〜5g重量部(1、2、3、4、5g重量部)、田七人参1g〜5g重量部(1、2、3、4、5g重量部)、忍冬藤6g〜10g重量部(6、7、8、9、10g重量部)、大棗1g〜5g重量部(1、2、3、4、5g重量部)、甘草1g〜5g重量部(1、2、3、4、5g重量部)、仙茅2g〜6g重量部(2、3、4、5、6g重量部)及び蓮子芯1g〜5g重量部(1、2、3、4、5g重量部)がさらに好ましい。
【0042】
抽出溶媒は、製薬上又は食品衛生上許容される極性溶媒が好ましい。前記極性溶媒としては、例えば、水(例えば、精製水、蒸留水、水道水など);エタノール、又は水とエタノールの混合溶媒(含水エタノール);又は、酢酸もしくは酢酸と水の混合溶媒、あるいは、水とエタノールと酢酸との混合溶媒等が挙げられる。好ましくは水、又は含水エタノールである。含水エタノールにおける含水率は1〜99容量%である。水又は含水エタノールには、酸を添加してもよい。酸としては、例えば、塩酸などの無機酸;リンゴ酸またはクエン酸などの有機酸などが好ましく挙げられる。
【0043】
抽出方法は特に限定されず、浸漬法や向流抽出法を採用することができる。また、常温抽出又は常圧下で溶媒の沸点までの範囲で加熱抽出でき、必要により、減圧又は加圧下で抽出してもよい。加圧は、1気圧を超える圧力であればよく、約2〜3気圧が好ましい。例えば、紅花、莪朮、枸杞子、石菖蒲、益智仁、欝金、人参、田七人参、忍冬藤、大棗、甘草、仙茅及び蓮子芯の混合物に、抽出溶媒(極性溶媒)を生薬の混合物に対し10〜100倍量、好ましくは10〜40倍量を加え、通常、常温から常圧下又は加圧下で溶媒の沸点までの範囲で30分〜5時間、好ましくは1〜3時間(1、2、3時間)浸漬し、公知の方法でろ過することにより抽出液を得ることができる。抽出液は、そのまま抽出物として使用することができる。また、前記抽出液を濃縮したもの又は、濃縮乾燥もしくは凍結乾燥したものを抽出物として使用することもできる。
【0044】
本発明の組成物は、抽出物と所望により配合される医薬上又は食品衛生上許容される担体とを、公知の方法により混合などして製剤化することにより、経口的に服用できる製剤又は食品として容易に調製できる。前記食品は、健康食品、機能性食品及びサプリメントを含む。
【0045】
本発明の組成物の製剤としては、例えば固形製剤又は液状製剤が挙げられる。固形製剤としては、例えば粉末製剤、顆粒剤、錠剤、丸剤もしくはカプセル剤などが挙げられる。顆粒剤及び錠剤は、糖衣やフィルムコーティング剤などでコーティングされていてもよい。液状製剤は、液体状の内服剤であれば限定されず、例えば、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、振とう合剤、リモナーゼ剤、エリキシル剤などが含まれる。
【0046】
本発明における医薬上又は食品衛生上許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機又は無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤(乳化剤、増粘剤)などが挙げられる。また必要に応じて、保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、香料などの製剤添加物を用いることもできる。
【0047】
賦形剤の好適な例としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、マルトース、マンニトールなどの糖又は糖アルコール;トウモロコシデンプン、デキストリン、α化デンプンなどのデンプン又はデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースやセルロース誘導体;軽質無水ケイ酸などが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
【0048】
結合剤の好適な例としては、例えば結晶セルロース、白糖、マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
崩壊剤の好適な例としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。
【0049】
溶剤の好適な例としては、例えば水(水道水、精製水、蒸留水など)、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などが挙げられる。
溶解補助剤の好適な例としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0050】
懸濁化剤の好適な例としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、ショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子;キサンタンガム、大豆サポニン、デキストラン、ペクチンなどが挙げられる。
【0051】
保存剤の好適な例としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類(例えば、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピルなど)、亜硫酸〔水素〕ナトリウム、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0052】
抗酸化剤の好適な例としては、例えば亜硫酸塩(例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなど)、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム塩、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸、酵素処理ルチン、次亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0053】
着色剤の好適な例としては、例えば青色1号、赤色2号、赤色40号、赤色102号、赤キャベツ、アントシアニン、カラメル色素、クチナシ色素などが挙げられる。
甘味剤の好適な例としては、例えばショ糖、甘草エキス、キシリトール、サッカリン、ステビアなどが挙げられる。
香料の好適な例としては、例えばケイ皮酸、サルチル酸メチル、メントールなどが挙げられる。
【0054】
本発明の組成物を食品として調製する場合、上記した製剤と同様の形態に同様の方法で調製することができる。
【0055】
本発明の組成物又は食品における抽出物の含有量は、例えば固形製剤であれば、抽出乾燥物として、通常製剤の約1〜99重量%であり、好ましくは約5〜90重量%であり、より好ましくは、約10〜80重量%である。液状製剤であれば、抽出乾燥物として通常製剤の約0.0001〜80重量%であり、好ましくは約10〜50重量%であり、より好ましくは、約20〜35重量%である。また液状製剤は、生薬の抽出液をそのまま又は濃縮した濃縮物をそのまま使用することもできる。好ましくは、生薬の混合物に対し、10〜40倍の極性溶媒(好ましくは、水)を用い、1〜3時間(1、2、3時間)抽出した場合の抽出率(エキスの取れ高)が25%〜33%である抽出液をそのまま液状製剤とすることができる。
【0056】
本発明の組成物又は食品の服用方法は、経口的に服用されることが好ましい。また、本発明の組成物は、食後、食前又は食間に服用することがより好ましい。本発明の組成物の服用量及び服用回数は、年齢、体重、投与形態などにより異なるが、通常成人一日あたり乾燥抽出物として、体重1kgあたり約1mg〜500mg、好ましくは約5mg〜300mgとなるように服用できる。この量を、通常1〜数回、好ましくは1〜3回に分けて服用することが好ましい。液状製剤の場合、例えば、紅花30mg〜9g(好ましくは、1g〜5g)、莪朮30mg〜9g(好ましくは、2g〜6g)、枸杞子30mg〜18g(好ましくは、8g〜12g)、石菖蒲10mg〜9g(好ましくは、2g〜6g)、益智仁30mg〜9g(好ましくは、1g〜5g)、欝金30mg〜9g(好ましくは、2g〜6g)、人参10mg〜9g(好ましくは、1g〜5g)、田七人参10mg〜6g(好ましくは、1g〜5g)、忍冬藤60mg〜15g(好ましくは、6g〜10g)、大棗30mg〜9g(好ましくは、1g〜5g)、甘草30mg〜6g(好ましくは、1g〜5g)、仙茅30mg〜9g(好ましくは、2g〜6g)及び蓮子芯10mg〜6g(好ましくは、1g〜5g)の混合物を極性溶媒(好ましくは、水)で抽出して得られる抽出液を1日あたりの服用量とすることが好ましく、この抽出液を、通常1〜数回、好ましくは1〜3回に分けて服用することが好ましい。
【0057】
本発明の組成物は、認知機能の低下を予防又は改善できるため、脳老化やアルツハイマー病、軽度認知機能障害(MCI)などを予防又は改善できる。したがって、前記老化や障害などに伴って現れる日常生活にも支障をきたす症状、例えば記銘力障害、記憶障害(記憶機能低下)、判断力低下、認知障害及び行動障害などを予防し、その症状を効果的に改善、又は症状の進行を効果的に防ぐことができる。さらに、本発明の組成物は、受験生や一般正常人の健康と記憶力増進のためにも効果的に服用することができる。この場合の服用量は、認知機能が低下した対象に比べて約30〜70%程度の少ない量であっても、服用効果が期待できる。
【0058】
本発明の組成物の投与(又は摂取)対象としては、ヒトが好ましいが、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、サル、ブタなどの哺乳動物に投与(又は摂取)させてもよい。
【0059】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
〔組成物の調製〕
紅花3g、莪朮4g、枸杞子10g、石菖蒲4g、益智仁3g、欝金2g、人参2g、田七人参2g、忍冬藤8g、大棗2g、甘草2g、仙茅4g及び蓮子芯2gを混合物(全48g/4日分の量に相当)に水を1600cc加え、加圧抽出機にて、2〜3気圧で2時間煮沸抽出後、ろ過した。得られたろ液(組成物;1000〜1200mL)を八分してアルミパックに分包した。
上記各生薬は、乾燥生薬を数ミリ〜1cm前後に裁断加工されたものを使用した。
【実施例2】
【0061】
〔認知機能低下改善作用〕
1.被験物質
実施例1で得られたアルミパックに分包された組成物を、被験物質として用いた。
2.被験者
自らの意思で被験者ボランティアとして参加したいと思った健常人51名(年齢:48〜89歳、男性15名、女性36名)に対して、認知度の判定方法として医療福祉現場などで幅広く使用されている改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R;表1)を行った。HDS−Rの合計得点が30点満点中20点以下を認知症の疑い、21点から25点をMCI、26点から28点を又はMCIの予備軍とした。HDS−Rの結果、合計得点14〜28点であった24名(年齢:62〜85歳、男性5名、女性19名)を被験者ボランティアとした。
【0062】
【表1】
【0063】
3.試験方法
被験者ボランティアに、被験物質を、1日2回〔朝夕食前(125〜150mL/1包/1回)〕、1か月間、服用させた。服用1か月後に、再度HDS−Rを行った。また、「物忘れがましになった」か、について自覚症状のアンケート調査を同時に行った。
【0064】
4.結果
被験物質投与前及び投与1か月後の各被験者ボランティアのHDS−Rの合計得点を図1及び表2に示した。被験物質投与により、被験者24人中17人にHDS−R値の改善が認められた。改善が認められた被験者のうちHDS−R値が3点以上改善した被験者は24人中10人であった。HDS−R値に変化が認められない被験者は4名であった。そのうち自覚症状のアンケートで物忘れがましになったと回答した被験者は4名中2名あり、物忘れがましになったかといわれればそう思うと回答した被験者は1名あり、自覚症状の改善が認められた。HDS−R値が低下した被験者は3名であったが、HDS−R値が低下(−1)した被験者(W17)は、忘れることがあっても直ぐに気づくようになったと自覚症状の改善が認められた。本結果から、本願組成物は、認知機能低下の改善に有用であることが明らかとなった。
【0065】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の組成物は、認知機能の低下を予防又は改善できる医薬、食品分野において、認知機能低下の予防又は改善用組成物として、特に健康食品、機能食品又はサプリメントとして有利に利用できる。
図1