(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エジェクタから吐出された前記冷媒混合物の圧力は、前記エジェクタに吸い込まれる前記冷媒蒸気の圧力より高く、前記エジェクタに供給される前記冷媒液の圧力より低い、請求項16に記載のヒートポンプ装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
駆動流が気体又は大きいボイド率を有する二相流であり、吸引流が気体である場合、駆動流と吸引流とを混合させるだけで駆動流と吸引流との間で運動量が効率的に輸送されうる。しかし、駆動流が液体であり、吸引流が気体である場合、速度の緩和時間(駆動流の速度と吸引流の速度とが概ね等しくなるまでの時間)が大きいため、駆動流から吸引流への運動量の輸送が進行しにくい。その結果、エジェクタの高効率な駆動を期待できない。
【0011】
駆動流が液体であり、吸引流が気体である場合、エジェクタの混合室は二相流で満たされる。駆動流から吸引流への運動量の輸送の主要因は、粘性抵抗などに起因する抗力である。気体で満たされた混合室に液体を噴射すると、分散相が液滴、連続相が気体の気液二相の噴霧流が形成される。分散相と連続相とが相対速度を有する二相流において、運動量の輸送は、液滴の運動方程式に支配される。液滴の運動方程式によれば、液滴と気体との間の接触面積が大きければ大きいほど、運動量の輸送が短時間で進行しうる。すなわち、エジェクタの内壁面への液滴の付着、二相流の圧力損失などを考慮すると、液滴の合計の表面積が大きければ大きいほど(個々の液滴の直径が小さければ小さいほど)、運動量の輸送が効率的に進行しうる。
【0012】
上記の知見に基づき、本発明者らは、駆動流を積極的に霧化させることによって、混合室に微細噴霧流を供給することに着目した。
すなわち、本開示の第1態様にかかるエジェクタは、
液相の作動流体が供給される第1ノズルと、
気相の作動流体が吸い込まれる第2ノズルと、
前記第1ノズルの先端部に配置され、前記液相の作動流体を液相状態のまま霧化させる霧化機構と、
前記霧化機構で生成された霧状の作動流体と前記第2ノズルに吸い込まれた前記気相の作動流体とを混合して流体混合物を生成する混合部と、
を備えた、ものである。
【0013】
第1態様によれば、液相の作動流体が霧化機構によって霧化され、混合部に供給される。混合部において、霧状の作動流体が気相の作動流体に混合され、流体混合物が生成される。この流体混合物は、微細噴霧流の形態を有する。液相の作動流体を霧化することによって、液相の作動流体と気相の作動流体との間の接触面積が増加する。従って、第1態様のエジェクタでは、液相の作動流体(駆動流)の運動量が効率的に気相の作動流体(吸引流)に輸送され、圧力が上昇しうる。すなわち、本開示によれば、優れた性能を有するエジェクタを提供できる。
【0014】
第2態様において、例えば、第1態様にかかるエジェクタの前記霧化機構は、(a)前記液相の作動流体の噴流を生成する噴射部と、(b)前記噴射部からの前記噴流を衝突させる衝突面とを含み、前記噴流の進行方向に対して前記衝突面が傾斜していてもよい。第2態様によれば、噴流の進行方向に対して衝突面が傾斜しているので、衝突面は傾斜角度に応じた抗力を噴流から受ける。つまり、衝突面を傾斜させることによって、液相の作動流体の運動量の損失の発生を抑制することができる。
【0015】
第3態様において、例えば、第2態様にかかるエジェクタの前記噴射部により生成された前記噴流は、前記衝突面と全体的に衝突してもよい。換言すると、第2態様にかかるエジェクタの前記噴流が全体的に前記衝突面に衝突するように、前記噴射部と前記衝突面との位置関係が定められていてもよい。換言すると、第2態様にかかるエジェクタの前記衝突面は、前記衝突面に前記噴射部の径を投影した場合の投影領域全体と重畳する大きさを有していてもよい。第3態様によれば、噴流を効率的に微細化することができるので、エジェクタの能力を最大限に引き出せる。
【0016】
第4態様において、例えば、第2又は第3態様にかかるエジェクタの前記噴射部は、複数のオリフィスを含んでいてもよい。オリフィスから作動流体を噴射させることによって、十分な運動量を持った噴流を衝突面に衝突させることができる。
【0017】
第5態様において、例えば、第4態様にかかるエジェクタの前記複数のオリフィスは、前記第1ノズルの中心軸の周囲に設けられ、且つ、それぞれ、前記中心軸と平行な方向に延びていてもよい。第5態様によれば、霧化した作動流体を混合部に均一に供給できる。また、オリフィスから作動流体を噴射させることによって、十分な運動量を持った噴流を衝突面に衝突させることができる。複数のオリフィスを使用することによって、作動流体の流量を十分に確保できる。
【0018】
第6態様において、例えば、第4態様にかかるエジェクタの前記複数のオリフィスは、前記第1ノズルの中心軸の周囲に設けられ、且つ、それぞれ、前記第1ノズルの前記中心軸に対して傾いた方向に延びており、前記衝突面は、前記複数のオリフィスが設けられた位置よりも前記第1ノズルの前記中心軸から離れた位置で前記第1ノズルの前記中心軸を包囲している円筒面であってもよい。
【0019】
第7態様において、例えば、第4態様〜第6態様にかかるエジェクタの前記複数のオリフィスは、前記第1ノズルの中心軸をそれぞれ仮想的に包囲する二重の円環に沿って形成されていてもよい。第7態様によれば、作動流体の流量を十分に確保できる。また、第1ノズルの中心軸の近くの位置にあるオリフィスで生成された噴流と、第1ノズルの中心軸から離れた位置にあるオリフィスで生成された噴流との衝突によって作動流体の微細化を促進できる可能性がある
【0020】
第8態様において、例えば、第4態様〜第7態様にかかるエジェクタの前記複数のオリフィスは、それぞれの断面積が前記作動流体の流れ方向において一定であってもよい。第8態様によれば、オリフィスを通過する際に作動流体が液相から気液二相に変化しにくい。
【0021】
第9態様において、例えば、第2又は第3態様にかかるエジェクタの前記噴射部は、スリットを含んでいてもよい。スリットから作動流体を噴射させることによって、十分な運動量を持った噴流を衝突面に衝突させることができる。
【0022】
第10態様において、例えば、第9態様にかかるエジェクタの前記スリットは、前記第1ノズルの中心軸の周囲に設けられ、且つ、前記第1ノズルの前記中心軸と平行な方向に延びていてもよい。第10態様によれば、霧化した作動流体を混合部に均一に供給できる。また、スリットから作動流体を噴射させることによって、十分な運動量を持った噴流を衝突面に衝突させることができる。
【0023】
第11態様において、例えば、第9態様にかかるエジェクタの前記スリットは、前記第1ノズルの中心軸の周囲に設けられ、且つ、前記第1ノズルの前記中心軸に対して傾いた方向に延びており、前記衝突面は、前記スリットが設けられた位置よりも前記第1ノズルの前記中心軸から離れた位置で前記第1ノズルの前記中心軸を包囲している円筒面であってもよい。第11態様によれば、霧化した作動流体を混合部に均一に供給できる。また、スリットから作動流体を噴射させることによって、十分な運動量を持った噴流を衝突面に衝突させることができる。
【0024】
第12態様において、例えば、第9態様〜第11態様のいずれか1つにかかるエジェクタの前記スリットは、前記第1ノズルの中心軸をそれぞれ仮想的に包囲する二重の円環に沿って形成されていてもよい。第12態様によれば、作動流体の流量を十分に確保できる。また、第1ノズルの中心軸の近くの位置にあるスリットで生成された噴流と、第1ノズルの中心軸から離れた位置にあるスリットで生成された噴流との衝突によって作動流体の微細化を促進できる可能性がある。
【0025】
第13態様において、例えば、第9態様〜第12態様のいずれか1つにかかるエジェクタの前記スリットは、断面積が前記作動流体の流れ方向において一定であってもよい。第13態様によれば、スリットを通過する際に作動流体が液相から気液二相に変化しにくい。
【0026】
第14態様において、例えば、第2態様〜第13態様のいずれか1つにかかるエジェクタの前記衝突面は前記噴射部と前記混合部の内壁面との間に設けられ、前記噴射部から噴射され前記衝突面に衝突した噴流を前記内壁面に向けてもよい。第14態様によれば、噴流が混合部の内壁面に直接衝突することに基づく噴流の運動量の損失が発生することを回避できる。
【0027】
第15態様において、例えば、第1態様〜第14態様のいずれか1つにかかるエジェクタの前記霧化機構は、1流体方式の霧化機構であってもよい。1流体方式の霧化機構の構造は簡潔である。そのため、1流体方式の霧化機構は、2流体方式の霧化機構よりも低コストである。
【0028】
第16態様において、例えば、第1態様〜第15態様のいずれか1つにかかるエジェクタの前記流体混合物を外部に吐出させる吐出部をさらに備え、前記吐出部は、前記流体混合物を減速することによって静圧を回復させるディフューザ部を有していてもよい。ディフューザ部において、流体混合物の速度が減らされ、これにより、流体混合物の静圧が回復する。
【0029】
本開示の第17態様にかかるヒートポンプ装置は、
冷媒蒸気を圧縮する圧縮機と、
冷媒液が流れる熱交換器と、
前記圧縮機で圧縮された前記冷媒蒸気と、前記熱交換器から流出した前記冷媒液とを用いて冷媒混合物を生成する、第1態様〜第16態様のいずれか1つに記載のエジェクタと、
前記エジェクタから前記冷媒混合物を受け取り、前記冷媒混合物から前記冷媒液を抽出する抽出器と、
前記抽出器から前記熱交換器を経由して前記エジェクタに至る液経路と、
前記冷媒液を貯留し、前記冷媒液を蒸発させることによって前記圧縮機で圧縮されるべき前記冷媒蒸気を生成する蒸発器と、
を備えた、ものである。
【0030】
第17態様によれば、エジェクタに供給された冷媒液を駆動流として利用し、圧縮機からの冷媒蒸気をエジェクタに吸入させる。エジェクタは、冷媒液と冷媒蒸気とを用いて冷媒混合物を生成する。圧縮機が担うべき仕事を減らせるので、圧縮機での圧縮比を大幅に削減しつつ、従来と比較して同等又はそれ以上のヒートポンプ装置の効率を達成できる。また、ヒートポンプ装置を小型化することも可能となる。
【0031】
第18態様において、例えば、第17態様にかかるヒートポンプ装置の前記エジェクタから吐出された前記冷媒混合物の圧力は、前記エジェクタに吸い込まれる前記冷媒蒸気の圧力より高く、前記エジェクタに供給される前記冷媒液の圧力より低くてもよい。第18態様によれば、冷媒の圧力を効率的に上げることができる。
【0032】
第19態様において、例えば、第17又は第18態様にかかるヒートポンプ装置の前記冷媒は、常温での飽和蒸気圧が負圧の冷媒であってもよい。上記第1態様〜第16態様のいずれか1のエジェクタを用いることで、前記エジェクタの中で液相の作動流体を霧化することによって、液相の作動流体と気相の作動流体との間の接触面積を増加させる。これにより、液相の作動流体(駆動流)の運動量が効率的に気相の作動流体(吸引流)に輸送され、前記エジェクタの中の圧力が上昇しうる。そのため、常温での飽和蒸気圧が負圧の冷媒、例えば、水を主成分とする冷媒を用いる場合であっても、ヒートポンプ装置の効率を上げることができる。
【0033】
第20態様において、例えば、第17態様〜第19態様のいずれか1つにかかるヒートポンプ装置の前記冷媒は、主成分として水を含んでいてもよい。本開示の第20態様は、第17〜第19態様のいずれか1つに加え、例えば、前記冷媒は、主成分として水を含む。主成分が水の冷媒は、環境に対する負荷が小さい。
【0034】
本開示の第21態様にかかるエジェクタは、
液相の作動流体が供給される第1ノズルと、
気相の作動流体が吸い込まれる第2ノズルと、
前記第1ノズルに供給された前記液相の作動流体と前記第2ノズルに吸い込まれた前記気相の作動流体とを混合して流体混合物を生成する混合部と、
(i)前記第1ノズルと前記混合部とを連通しているオリフィス又はスリットを有する噴射部と、
(ii)前記液相の作動流体が霧化されて前記混合部に供給されるように前記噴射部で生成された噴流を衝突させるべき衝突面とを有し、前記噴流の進行方向に対して前記衝突面が傾斜している、前記第1ノズルの先端部に配置された霧化機構と、
を備えた、ものである。
【0035】
第21態様によれば、第1態様及び第2態様と同じ効果が得られる。
【0036】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本開示は以下の実施形態に限定されない。
【0037】
図1に示すように、本実施形態のヒートポンプ装置200(冷凍サイクル装置)は、第1熱交換ユニット10、第2熱交換ユニット20、圧縮機31及び蒸気経路32を備えている。第1熱交換ユニット10及び第2熱交換ユニット20は、それぞれ、放熱側回路及び吸熱側回路を形成している。第2熱交換ユニット20で生成された冷媒蒸気が圧縮機31及び蒸気経路32を経由して第1熱交換ユニット10に供給される。
【0038】
ヒートポンプ装置200には、常温(日本工業規格:20℃±15℃/JIS Z8703)での飽和蒸気圧が負圧(絶対圧で大気圧よりも低い圧力)の冷媒が充填されている。そのような冷媒としては、水、アルコール又はエーテルを主成分として含む冷媒が挙げられる。ヒートポンプ装置200の運転時において、ヒートポンプ装置200の内部の圧力は大気圧よりも低い。圧縮機31の入口の圧力は、例えば、0.5〜5kPaAの範囲にある。圧縮機31の出口の圧力は、例えば、5〜15kPaAの範囲にある。冷媒として、凍結防止などの理由から、水を主成分として含み、エチレングリコール、ナイブライン、無機塩類などが質量%に換算して10〜40%混合された冷媒を用いることもできる。「主成分」とは、質量比で最も多く含まれた成分を意味する。
【0039】
第1熱交換ユニット10は、エジェクタ11、第1抽出器12、第1ポンプ13及び第1熱交換器14を備えている。エジェクタ11、第1抽出器12、第1ポンプ13及び第1熱交換器14が配管15a〜15dによってこの順番で環状に接続されている。
【0040】
エジェクタ11は、配管15dによって第1熱交換器14に接続され、蒸気経路32によって圧縮機31に接続されている。エジェクタ11には、第1熱交換器14から流出した冷媒液が駆動流として供給され、圧縮機31で圧縮された冷媒蒸気が吸引流として供給される。エジェクタ11は、クオリティ(乾き度)の小さい冷媒混合物を生成し、第1抽出器12に供給する。冷媒混合物は、液相状態又はクオリティの非常に小さい気液二相状態の冷媒である。
【0041】
第1抽出器12は、エジェクタ11から冷媒混合物を受け取り、冷媒混合物から冷媒液を抽出する。つまり、第1抽出器12は、冷媒液と冷媒蒸気とを分離する気液分離器としての役割を担っている。第1抽出器12からは基本的に冷媒液のみが取り出される。第1抽出器12は、例えば、断熱性を有する耐圧容器によって形成されている。ただし、冷媒液を抽出できる限り、第1抽出器12の構造は特に限定されない。配管15b〜15dは、第1抽出器12から第1熱交換器14を経由してエジェクタ11に至る液経路15を形成している。第1ポンプ13は、第1抽出器12の液出口と第1熱交換器14の入口との間において液経路15に設けられている。第1ポンプ13によって、第1抽出器12に貯留された冷媒液が第1熱交換器14に圧送される。第1ポンプ13の吐出圧力は大気圧よりも低い。第1ポンプ13は、当該第1ポンプ13の吸入口から第1抽出器12の中の冷媒液の液面までの高さを考慮に入れた有効吸込ヘッドが必要吸込ヘッド(required NPSH)よりも大きくなるような位置に配置されている。第1ポンプ13は、第1熱交換器14の出口とエジェクタ11の液入口との間に配置されていてもよい。
【0042】
第1熱交換器14は、フィンチューブ熱交換器、シェルチューブ熱交換器などの公知の熱交換器によって形成されている。ヒートポンプ装置200が室内の冷房を行う空気調和装置である場合、第1熱交換器14は室外に配置され、室外の空気を冷媒液によって加熱する。
【0043】
第2熱交換ユニット20は、蒸発器21、ポンプ22(第3ポンプ)及び第2熱交換器23を有する。蒸発器21は、冷媒液を貯留し、冷媒液を蒸発させることによって圧縮機31で圧縮されるべき冷媒蒸気を生成する。蒸発器21、ポンプ22及び第2熱交換器23が配管24a〜24cによって環状に接続されている。蒸発器21は、例えば、断熱性を有する耐圧容器によって形成されている。配管24a〜24cは、蒸発器21に貯留された冷媒液を第2熱交換器23を経由して循環させる循環路24を形成している。ポンプ22は、蒸発器21の液出口と第2熱交換器23の入口との間において循環路24に設けられている。ポンプ22によって、蒸発器21に貯留された冷媒液が第2熱交換器23に圧送される。ポンプ22の吐出圧力は大気圧よりも低い。ポンプ22は、当該ポンプ22の吸入口から蒸発器21の中の冷媒液の液面までの高さが必要吸込ヘッド(required NPSH)よりも大きくなるような位置に配置されている。
【0044】
第2熱交換器23は、フィンチューブ熱交換器、シェルチューブ熱交換器などの公知の熱交換器によって形成されている。ヒートポンプ装置200が室内の冷房を行う空気調和装置である場合、第2熱交換器23は室内に配置され、室内の空気を冷媒液によって冷却する。
【0045】
本実施形態において、蒸発器21は、循環路24を循環することによって加熱された冷媒液を内部で直接的に蒸発させる熱交換器である。蒸発器21に貯留された冷媒液は、循環路24を循環する冷媒液に直接接触する。つまり、蒸発器21の中の冷媒液の一部が第2熱交換器23で加熱されて、飽和状態の冷媒液を加熱する熱源として使用される。配管24aの上流端は、蒸発器21の下部に接続されていることが望ましい。配管24cの下流端は、蒸発器21の中間部に接続されていることが望ましい。なお、第2熱交換ユニット20は、蒸発器21に貯留された冷媒液が循環路24を循環する他の冷媒液と混ざらないように構成されていてもよい。例えば、蒸発器21がシェルチューブ熱交換器のような熱交換構造を有している場合、循環路24を循環する熱媒体によって蒸発器21に貯留された冷媒液を加熱し、蒸発させることができる。第2熱交換器23には、蒸発器21に貯留された冷媒液を加熱するための熱媒体が流れる。
【0046】
蒸気経路32は、上流部分32a及び下流部分32bを有する。蒸気経路32には、圧縮機32が配置されている。蒸気経路32の上流部分32aによって蒸発器21の上部が圧縮機32の吸入口に接続されている。蒸気経路32の下流部分32bによって圧縮機32の吐出口がエジェクタ11の第2ノズル41に接続されている。圧縮機32は、遠心式圧縮機又は容積式圧縮機である。蒸気経路32には、複数の圧縮機が設けられていてもよい。圧縮機32は、上流部分32aを通じて第2熱交換ユニット20の蒸発器21から冷媒蒸気を吸い込み、圧縮する。圧縮された冷媒蒸気は、下流部分32bを通じてエジェクタ11に供給される。
【0047】
本実施形態によれば、エジェクタ11において冷媒の温度及び圧力が上げられる。圧縮機31が担うべき仕事を減らせるので、圧縮機31での圧縮比を大幅に削減しつつ、従来と比較して同等又はそれ以上のヒートポンプ装置200の効率を達成できる。また、ヒートポンプ装置200を小型化することも可能となる。
【0048】
ヒートポンプ装置200は、冷房専用の空気調和装置に限定されない。第1熱交換器14が吸熱用熱交換器として機能し、第2熱交換器23が放熱用熱交換器として機能するように、四方弁、三方弁などの流路切替部が設けられていてもよい。このようにすれば、冷房運転と暖房運転とを切り替え可能な空気調和装置が得られる。また、ヒートポンプ装置200は、空気調和装置に限定されず、チラー、蓄熱装置などの他の装置であってもよい。第1熱交換器14の加熱対象及び第2熱交換器23の冷却対象は、空気以外の気体又は液体であってもよい。
【0049】
また、第1熱交換ユニット10から第2熱交換ユニット20に冷媒を戻すための戻し経路33が設けられていてもよい。戻し経路33には、キャピラリ、膨張弁などの膨張機構34が設けられている。本実施形態では、第1抽出器12に貯留された冷媒を蒸発器21に転送できるように、戻し経路33によって第1抽出器12と蒸発器21とが接続されている。典型的には、第1抽出器12の下部と蒸発器21の下部とが戻し経路33によって接続される。冷媒液は、膨張機構34において減圧されながら、戻し経路33を通って第1抽出器12から蒸発器21に戻される。
【0050】
なお、戻し経路33は、第1熱交換ユニット10のどの位置から分岐していてもよい。例えば、戻し経路33は、エジェクタ11と第1抽出器12とを接続している配管15aから分岐していてもよいし、第1抽出器12の上部から分岐していてもよい。さらに、第1熱交換ユニット10から第2熱交換ユニット20に冷媒を戻すことは必須ではない。例えば、第1熱交換ユニット10は、余分な冷媒を適宜排出できるように構成されていてもよく、第2熱交換ユニット20は、冷媒を適宜補充できるように構成されていてもよい。
【0051】
次に、ヒートポンプ装置200の運転について説明する。
【0052】
図12及び
図13は、それぞれ、エジェクタを有さない従来の冷凍サイクル装置100及びその冷凍サイクル装置100におけるモリエル線図である。
図12に示すように、冷凍サイクル装置100は、蒸発器110、凝縮器120、第1循環路150及び第2循環路160を備えている。蒸発器110の上部は、第1連通路130によって凝縮器120の上部に接続されている。第1連通路130には、圧縮機131及び132が設けられている。蒸発器110の下部は、第2連通路140によって凝縮器120の下部に接続されている。
図13に示すように、蒸発器110に貯留された冷媒液は、蒸発器110の内部で蒸発して冷媒蒸気に変化する(点a→点b)。冷媒蒸気は、圧縮機131及び132において圧縮される(点b→点c)。簡略のため、圧縮機131と圧縮機132との間に設けられた中間冷却器を無視する。圧縮された冷媒蒸気は、凝縮器120において冷却されて凝縮する(点c→点d)。凝縮器120に貯留された冷媒液は、ポンプによって熱交換器に圧送される(点d→点e)。冷媒液は、熱交換器において冷却される(点e→点f)。冷却された冷媒液は、凝縮器120に戻される(点f→点d)。冷媒液の一部は、第2連通路140を通じて蒸発器110に戻される(点d→点a)。
【0053】
図2は、本実施形態のヒートポンプ装置200におけるモリエル線図である。破線は、
図13で説明したサイクルの一部を表している。蒸発器21に貯留された冷媒液は、蒸発器21の内部で蒸発して冷媒蒸気に変化する(点A→点B)。冷媒蒸気は、圧縮機31において圧縮される(点B→点C)。圧縮された冷媒蒸気は、エジェクタ11に吸い込まれ、第1熱交換器14から流出した冷媒液と混合される(点C→点D)。冷媒蒸気と冷媒液との冷媒混合物は、エジェクタ11において昇温及び昇圧される(点D→点E)。詳細には、エジェクタ11において冷媒蒸気が熱を放出しながら凝縮する。従って、冷媒混合物の温度も上昇する。冷媒混合物は、液相状態又は気液二相状態の冷媒である。エジェクタ11の出口の冷媒の状態は、ヒートポンプ装置200の運転条件に応じて変化する。エジェクタ11の出口で冷媒が完全に液相状態であること、言い換えれば、冷媒のクオリティがゼロであることが理想的である。冷媒混合物は、エジェクタ11から第1抽出器12に送られ、冷媒液と冷媒蒸気とに分離される。第1抽出器12に貯留された冷媒液は、第1ポンプ13によって第1熱交換器14に圧送される(点E→点F)。冷媒液は、第1熱交換器14において冷却される(点F→点G)。第1熱交換器14は、第1ポンプ13によって昇圧された冷媒液を過冷却域まで冷却する。冷却された冷媒液は、エジェクタ11に駆動流として供給される(点G→点D)。冷媒液の一部は、第1抽出器12又は配管15aから蒸発器21へと戻されてもよい(点E→点A)。
【0054】
また、点D、点E及び点Gから理解できるように、エジェクタ11から吐出された冷媒混合物の圧力は、エジェクタ11に吸い込まれる冷媒蒸気の圧力より高く、エジェクタ11に供給される冷媒液の圧力より低い。言い換えれば、エジェクタ11の出口における圧力は、エジェクタ11の第2ノズル41への入口における圧力よりも高く、エジェクタ11の第1ノズル40への入口における圧力よりも低い。このような圧力関係により、冷媒の圧力を効率的に上げることができる。本実施形態によれば、エジェクタ11を凝縮器として機能させることができる。
【0055】
エジェクタ11の出口における圧力は、例えば、6〜1000kPaAの範囲にある。エジェクタ11の第2ノズル41への入口における圧力は、例えば、5〜15kPaAの範囲にある。エジェクタ11の第1ノズル40への入口における圧力は、例えば、300〜1500kPaAの範囲にある。
【0056】
図2と
図13とを比較すると理解できるように、
図2のサイクルにおいて圧縮機31が担うべき仕事は、
図13のサイクルにおいて圧縮機131及び132が担うべき仕事よりも小さい。つまり、本実施形態によれば、圧縮機31での圧縮比を減らせる。例えば、冷媒として水を使用した場合、エジェクタ11に数百kPa〜数MPaの範囲の圧力を有する冷媒液を駆動流として供給することによって、圧縮機31での圧力比を約30%減らせる。
【0057】
図2のサイクルでは、第1熱交換器14での放熱量が増加しているように見える。しかし、冷媒液の循環量が減少しているので、
図2のサイクルと
図13のサイクルとの間で放熱量に大きな差は無い。また、
図2のサイクルでは、第1ポンプ13の仕事が増加しているが、圧縮機31の仕事の減少を考慮すれば、ヒートポンプ装置200の効率(COP:coefficient of performance)は、従来の冷凍サイクル装置100の効率と同等かそれを上回る。
【0058】
また、本実施形態のヒートポンプ装置200によれば、より高温の冷媒液を容易に生成することができる。つまり、気候が比較的温暖な地域から、砂漠地域、熱帯地域など外気温の非常に高い地域まで、幅広い地域でヒートポンプ装置200を冷房用途で使用できる。また、ヒートポンプ装置200を暖房用途で使用する場合にも次のような効果が得られる。すなわち、圧縮機31のモータに使用された永久磁石の減磁を防止するために、圧縮機31の吐出冷媒の温度は制限される可能性がある。しかし、本実施形態によれば、エジェクタ11によってより高温の冷媒液を生成できるので、圧縮機31の吐出冷媒の温度を抑制しつつ、高温暖房が可能となる。また、暖房用途だけでなく、ヒートポンプ装置200を給湯用途に使用する場合においても、より高温の給湯に対応することが可能となる。
【0059】
なお、蒸発器21に貯留された冷媒液は、ポンプ22によって第2熱交換器23に圧送され、第2熱交換器23において室内空気などの熱媒体から吸熱した後、蒸発器21に戻る。蒸発器21の冷媒液は、減圧下での沸騰により蒸発し、蒸発した冷媒蒸気が圧縮機31に吸入される。
【0060】
本実施形態のヒートポンプ装置200では、常温での飽和蒸気圧が負圧の冷媒が使用されている。水を主成分として含む冷媒を例に挙げると、冷媒蒸気の体積が冷媒液の体積の約10万倍と大きい。そのため、液経路15に冷媒蒸気が入ると、非常に大きいポンプ動力が必要となる。
【0061】
本実施形態によれば、エジェクタ11で生成された冷媒混合物が第1抽出部12に送られ、第1抽出部12において冷媒混合物から冷媒液が抽出される。第1抽出器12の液出口と第1熱交換器14の入口との間において液経路15に第1ポンプ13が設けられている。第1抽出器12で抽出された冷媒液が第1ポンプ13によって第1熱交換器14に送られる。このような構成によれば、第1抽出器12から第1熱交換器14を経てエジェクタ11に至る液経路15の中を冷媒液で満たし、第1ポンプ13によって冷媒液を第1熱交換器14及びエジェクタ11に圧送し続けることができる。言い換えれば、液経路15に冷媒蒸気が入ることを防止できる。
【0062】
次に、エジェクタ11の構造を詳細に説明する。
図2のモリエル線図から理解できるように、エジェクタ11は、冷媒の圧力を上昇させる機能だけでなく、冷媒を凝縮させる機能を有していることが望ましい。以下に説明するエジェクタ11の詳細な構造は、冷媒液と冷媒蒸気との間の運動量の輸送を効率的に進行させ、これにより、エジェクタ11の上記の機能の向上に寄与するものである。
【0063】
図3Aに示すように、エジェクタ11は、第1ノズル40、第2ノズル41、混合部42、ディフューザ部43及び霧化機構44を有する。第1ノズル40は、エジェクタ11の中心部に配置された筒状の部分である。第1ノズル40には、駆動流としての冷媒液(液相の作動流体)が供給される。第2ノズル41は、第1ノズル40の周りに環状の空間を形成している部分である。第2ノズル41に冷媒蒸気(気相の作動流体)が吸い込まれる。混合部42は、第1ノズル40及び第2ノズル41の両方に連通している筒状の部分である。霧化機構44は、混合部42に面するように第1ノズル40の先端部に配置されている。霧化機構44は、冷媒液を液相状態のまま霧化させる機能を有する。霧化機構44で生成された霧状の冷媒と第2ノズル41に吸い込まれた冷媒蒸気とが混合部42で混合され、冷媒混合物(流体混合物)が生成される。ディフューザ部43は、混合部42に連通している筒状の部分であって、冷媒混合物をエジェクタ11の外部に吐出させる開口部を有する。ディフューザ部43の内径は、上流側から下流側に向かって徐々に拡大している。ディフューザ部43において、冷媒混合物の速度が減らされ、これにより、冷媒混合物の静圧が回復する。第1ノズル40、第2ノズル41、混合部42、ディフューザ部43及び霧化機構44は、共通の中心軸Oを持っている。
【0064】
図3Bに示すように、霧化機構44は、噴射部51及び衝突面形成部53を有する。噴射部51は、第1ノズル40の先端部に取り付けられた部分である。噴射部51には、複数のオリフィス51hが形成されている。複数のオリフィス51hは、第1ノズル40と混合部42とを連通するように、筒状の噴射部51の底部を貫通している。これらのオリフィス51hを通じて、冷媒液が第1ノズル40から衝突面形成部53に向けて噴射される。すなわち、噴射部51は、冷媒液の噴流を生成することができる。衝突面形成部53は、噴射部51からの噴流を衝突させるべき衝突面56pを有する部分である。本実施形態において、衝突面形成部53は、軸部54及び裾部56によって構成されている。軸部54は、噴射部51に一体に形成された部分であり、円柱の形状を有している。裾部56は、軸部54の先端部に設けられた末広の部分である。裾部56によって衝突面56pが形成されている。このような構成によれば、冷媒蒸気の通り道を遮ることなく、混合部42の内部に衝突面56pを配置することができる。衝突面56pは、噴流の進行方向に対して傾斜している。衝突面56pに衝突した噴流は、衝突の衝撃によって微細化されるとともに、衝突面56pの傾斜方向に向きを変える。微細化された冷媒液と冷媒蒸気とが混合部42において混合される。噴流の進行方向に対して衝突面56pが傾斜しているので、衝突面56pは傾斜角度に応じた抗力を噴流から受ける。つまり、衝突面56pを傾斜させることによって、冷媒液の運動量の損失の発生を抑制することができる。本実施形態では、衝突面56pは、円錐の形状を有している。
【0065】
図3B及び
図3Cに示すように、本実施形態において、複数のオリフィス51hは、第1ノズル40の中心軸Oを包囲するように、中心軸Oの周囲に等間隔で設けられている。複数のオリフィス51hは、それぞれ、中心軸Oと平行な方向に延びている。このような構成によれば、霧化した冷媒液を混合部42に均一に供給できる。また、オリフィス51hから冷媒液を噴射させることによって、十分な運動量を持った噴流を衝突面56pに衝突させることができる。複数のオリフィス51hを使用することによって、冷媒液の流量を十分に確保できる。
【0066】
図3Dに示すように、霧化機構44の噴射部51には、オリフィス51hに代えて、少なくとも1つのスリット51sが形成されていてもよい。
図3Dに示す例では、複数のスリット51s(詳細には、2つのスリット51s)が噴射部51に形成されている。複数のスリット51sは、第1ノズル40の中心軸Oを包囲するように、中心軸Oの周囲に等間隔で設けられている。スリット51sは、平面視で円弧の形状を有している。複数のスリット51sは、それぞれ、中心軸Oと平行な方向に延びている。スリット51sもオリフィス51hと同じ働きをする。
【0067】
上記のように、オリフィス51hをスリット51sで置き換えることが可能である。さらに、オリフィス51hとスリット51sとが混在していてもよい。以下、本明細書において、オリフィスに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、スリットにも適用される。同様に、スリットに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、オリフィスにも適用される。
【0068】
オリフィス51hの断面形状、大きさ、数などは特に限定されない。十分な流量の冷媒液を通過させることができるように、オリフィス51hの断面形状、大きさ、数が定められている。本実施形態では、長手方向に垂直なオリフィス51hの断面形状は円形である。また、オリフィス51hの断面積は、中心軸Oに平行な方向(冷媒液の流れ方向)において一定である。言い換えると、中心軸Oに平行な方向の上流側におけるオリフィス51hの開口面積は、下流側におけるオリフィス51hの開口面積に等しい。また、オリフィス51hの断面形状も中心軸Oに平行な方向において一定である。従って、オリフィス51hを通過する際に冷媒液が液相から気液二相に変化しにくい。オリフィス51hの内径(スリット51sの幅)は、例えば、50〜500μmである。
【0069】
ただし、オリフィス51hの内径が上流側から下流側に向かって僅かに拡大又は縮小していてもよい。オリフィス51hを通過するときに冷媒が気液二相に変化することを十分に抑制できる限り、オリフィス51hの内径は一定であるものと見なすことができる。
【0070】
図3Cに示す例では、複数のオリフィス51hは、中心軸Oを仮想的に包囲する一重の円環に沿って形成されている。
図3Dに示すように、スリット51sも中心軸Oを仮想的に包囲する一重の円環に沿って円弧状に形成されている。
図3Eに示すように、複数のオリフィス51h(又はスリット51s)は、中心軸Oをそれぞれ仮想的に包囲する二重の円環に沿って形成されていてもよい。このような構成によれば、冷媒液の流量を十分に確保できる。また、中心軸Oの近くの位置にあるオリフィス51hで生成された噴流(内側の噴流)と中心軸Oから離れた位置にあるオリフィス51hで生成された噴流(外側の噴流)との衝突によって冷媒液の微細化を促進できる可能性がある。内側の噴流のための衝突面56pは、外側の噴流のための衝突面56pに共用されていてもよい。また、内側の噴流及び外側の噴流のそれぞれに専用の衝突面が設けられていてもよい。
【0071】
中心軸Oの近くの位置にある複数のオリフィス51hと中心軸Oから離れた位置にある複数のオリフィス51hとが同心円状に配列していることは必須ではない。これらが同心円から外れた位置に形成されていてもよい。
【0072】
本実施形態において、霧化機構44は、1流体方式の霧化機構である。「1流体方式」とは、当業者に知られているように、ポンプによって高められた冷媒液自身の圧力によって霧状の冷媒液を生成する方式を意味する。1流体方式の霧化機構の構造は簡潔である。そのため、1流体方式の霧化機構は、2流体方式の霧化機構よりも低コストである。
【0073】
霧化機構44は、噴射部51で生成された噴流が混合部42の内壁面に直接衝突しないように構成されている。具体的に、本実施形態では、オリフィス51hの中心軸が第1ノズル40の中心軸Oに平行である。そのため、噴射部51からの噴流は、混合部42の内壁面に直接衝突し得ない。これにより、噴流が混合部42の内壁面に直接衝突することに基づく噴流の運動量の損失が発生することを回避できる。もちろん、オリフィス51hの中心軸が第1ノズル40の中心軸Oに対して傾いていてもよい。衝突面56pの位置、広さなどを適切に調整すれば、噴流が混合部42の内壁面に直接衝突することを回避できる。
【0074】
図4に示すように、本実施形態では、噴射部51からの噴流J1が全体的に衝突面56pに衝突するように、噴射部51と衝突面56pとの位置関係が定められている。つまり、中心軸Oに垂直な方向(混合部42の半径方向)において、噴流J1は、衝突面56pの外縁56eよりも内側(中心軸Oの近く)に位置している。このような位置関係によれば、噴流J1を効率的に微細化することができるので、エジェクタ11の能力を最大限に引き出せる。その結果、サイクルの効率を最大限に高めることができる。噴流J1の一部が衝突面56pから逸れている場合、その噴流J1の一部は微細化されずに混合部42に放出される。その結果、冷媒液と冷媒蒸気との間の運動量の輸送の効率は低下する。
【0075】
噴射部51から噴射された液柱状の冷媒液(噴流J1)は、レイリー・テイラー不安定性に起因する不安定状態となる。噴流J1が衝突面56pに衝突することによって微細噴霧流が生成される。
【0076】
噴流J1の進行方向は、第1ノズル40の中心軸Oに概ね平行である。噴流J1の進行方向と衝突面56pとのなす角度θ1は、例えば、0°<θ1<90°の関係を満たす。角度θ1がこのような範囲に調整されていると、衝突によって生成された噴霧流が狭角にて混合部42に放出される。この場合、噴霧流が混合部42の内壁面に衝突しにくいので、運動量の損失も発生しにくい。角度θ1は、言い換えると、中心軸Oに対する衝突面56pの傾斜角度である。
【0077】
次に、
図1に示すヒートポンプ装置200におけるエジェクタ11の働きを詳細に説明する。
【0078】
図1に示すように、第1ノズル40は配管15dによって第1熱交換器14に接続されている。配管15dを通じて、第1熱交換器14から流出した過冷却状態の冷媒液が駆動流として第1ノズル40に供給される。第2ノズル41には蒸気経路32が接続されている。第1ノズル40及び霧化機構44を通じて混合部42に噴霧される冷媒液の温度は、第1熱交換器14によって下げられている。そのため、霧化機構44から冷媒液が噴霧されることによって、混合部42の圧力が蒸気経路32の圧力より低くなる。詳細には、混合部42の圧力は、第1ノズル40に供給される冷媒液の温度に対応した飽和圧力となる。その結果、蒸気経路32を通じて、大気圧以下の圧力を有する冷媒蒸気が膨張及び加速しながら第2ノズル41に連続的に吸い込まれる。霧化機構44から加速しながら噴霧された冷媒液と、第2ノズル41から膨張及び加速しながら噴射された冷媒蒸気は、混合部42で混合される。そして、冷媒液と冷媒蒸気との間の温度差に起因する第1の凝縮と、冷媒液と冷媒蒸気との間のエネルギーの輸送及び冷媒液と冷媒蒸気との間の運動量の輸送に基づく昇圧効果に起因する第2の凝縮とによって、クオリティ(乾き度)の小さい冷媒混合物が生成される。この冷媒混合物のクオリティがゼロでない場合、冷媒混合物の流速が二相流の音速を超えることで急激な圧力上昇が起こり、さらに凝縮が促進される。生成した冷媒混合物は、液相状態又はクオリティの非常に小さい気液二相状態の冷媒である。その後、ディフューザ部43は、冷媒混合物を減速することによって静圧を回復させる。このような構造のエジェクタ11において、冷媒の温度及び圧力が上昇する。
【0079】
以下、エジェクタのいくつかの変形例について説明する。
図3A〜
図3Bを参照して説明したエジェクタ11に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、以下の変形例にも適用されうる。また、以下の変形例に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、エジェクタ11に適用されうるだけでなく、相互に適用されうる。
【0080】
(変形例1)
図5Aに示すように、変形例1に係るエジェクタ61は、先に説明したエジェクタ11の霧化機構44と異なる構造の霧化機構64を備えている。ただし、冷媒液を霧化させるための原理は、霧化機構44と霧化機構64とで共通している。本変形例のエジェクタ61の働きは、先に説明したエジェクタ11の働きと同じである。霧化機構64の構造を除き、エジェクタ61の構造は、エジェクタ11の構造と同じである。エジェクタ61は、エジェクタ11と同様に、ヒートポンプ装置200(
図1)に好適に使用されうる。
【0081】
図5A及び
図5Bに示すように、エジェクタ61において、霧化機構64は、混合部42に面するように第1ノズル40の先端部に配置されている。霧化機構64は、噴射部71及び衝突面形成部73を有する。噴射部71は、第1ノズル40の先端部に取り付けられた部分である。噴射部71には、複数のオリフィス71hが形成されている。複数のオリフィス71hは、第1ノズル40と混合部42とを連通するように、筒状の噴射部71の底部を貫通している。これらのオリフィス71hを通じて、冷媒液が第1ノズル40から衝突面形成部73に向けて噴射される。すなわち、噴射部71は、冷媒液の噴流を生成することができる。衝突面形成部73は、噴射部71からの噴流を衝突させるべき衝突面73pを有する部分である。衝突面形成部73は、噴射部71に一体に形成された筒状の部分である。筒状の衝突面形成部73の内周面によって衝突面73pが形成されている。衝突面73pは、噴流の進行方向に対して傾斜している。衝突面73pに衝突した噴流は、衝突の衝撃によって微細化されるとともに、衝突面73pの傾斜方向に向きを変える。微細化された冷媒液と冷媒蒸気とが混合部42において混合される。
【0082】
図5B及び
図5Cに示すように、複数のオリフィス71hは、第1ノズル40の中心軸Oを包囲するように、中心軸Oの周囲に等間隔で設けられている。複数のオリフィス71hは、それぞれ、中心軸Oに対して傾いた方向に延びている。衝突面73pは、複数のオリフィス71hが設けられた位置よりも中心軸Oから離れた位置で中心軸Oを包囲している円筒面である。衝突面形成部73の中心軸は、第1ノズル40の中心軸Oに一致している。このような構成によれば、霧化した冷媒液を混合部42に均一に供給できる。また、複数のオリフィス71hから冷媒液を噴射させることによって、十分な運動量を持った噴流を衝突面73pに衝突させることができる。複数のオリフィス71hを使用することによって、冷媒液の流量を十分に確保できる。なお、
図5B及び
図5Cにおいては、衝突面形成部73は、衝突面73pが中心軸Oに対して平行な方向に延びているが、中心軸Oに対して傾いた方向に延びていてもよい。
【0083】
図5Dに示すように、霧化機構64の噴射部71には、オリフィス71hに代えて、少なくとも1つのスリット71sが形成されていてもよい。
図5Dに示す変形例では、複数のスリット71s(詳細には、2つのスリット71s)が噴射部71に形成されている。複数のスリット71sは、第1ノズル40の中心軸Oを包囲するように、中心軸Oの周囲に等間隔で設けられている。スリット71sは、平面視で円弧の形状を有している。複数のスリット71sは、それぞれ、中心軸Oに対して傾いた方向に延びている。スリット71sもオリフィス71hと同じ働きをする。
【0084】
オリフィス71h及びスリット71sが中心軸Oに対して傾いた方向に延びていることを除き、オリフィス71h及びスリット71sの詳細な構造は、先に説明したオリフィス51h及びスリット51sと同じである。
【0085】
本変形例においても、霧化機構64は、噴射部71で生成された噴流が混合部42の内壁面に直接衝突しないように構成されている。具体的には、
図6に示すように、噴射部71からの噴流J2が全体的に衝突面73pに衝突するように、噴射部71と衝突面73pとの位置関係が定められている。つまり、中心軸Oに平行な方向において、噴流J2は、衝突面73pの下流端73eよりも上流側に位置している。このような位置関係によれば、噴流J2を効率的に微細化することができるので、エジェクタ61の能力を最大限に引き出せる。その結果、サイクルの効率を最大限に高めることができる。
【0086】
噴射部71から噴射された液柱状の冷媒液(噴流J2)は、レイリー・テイラー不安定性に起因する不安定状態となる。噴流J2が衝突面73pに衝突することによって微細噴霧流が生成される。
【0087】
噴流J2の進行方向は、第1ノズル40の中心軸Oに対して傾斜している。噴流J2の進行方向と衝突面73pとのなす角度θ2は、例えば、0°<θ2<90°の関係を満たす。角度θ2がこのような範囲に調整されていると、噴霧流が狭角にて混合部42に放出される。この場合、噴霧流が混合部42の内壁面に衝突しにくいので、運動量の損失も発生しにくい。
【0088】
特に、本変形例によれば、衝突面73pが第1ノズル40の中心軸Oに平行である。この場合、衝突面73pで生成された噴霧流が中心軸Oに概ね平行な方向に放出される。その結果、上記の効果を十分に得ることができる。なお、衝突面73pと中心軸Oとのなす角度は0度に限定されない。衝突面73pと中心軸Oとのなす角度は、例えば、0°よりも大きく90°よりも小さい。つまり、衝突面形成部73の内径は、下流側に向かって連続的に拡大していてもよい。
【0089】
(変形例2)
図7A〜
図7Cに示すように、変形例2に係る霧化機構84は、噴射部71及び衝突面形成部73を有する。これらの構造は、変形例1で説明した通りである。噴射部71には、スリット72sが形成されている。第1ノズル40の側から平面視したとき、スリット72sは、複数の部分(円弧状の2つの部分)に分かれている(
図7B)。混合部42の側から平面視したとき、スリット72sは、円環の形状を有する(
図7C)。すなわち、スリット72sの断面形状は、中心軸Oに平行な方向において変化している。このように、噴射部71のスリット(又はオリフィス)の断面形状は、中心軸Oに平行な方向において変化していてもよい。また、噴射部71のスリット(又はオリフィス)の断面積は、中心軸Oに平行な方向において変化していてもよい。このような構造は、
図3A〜
図3Dを参照して説明したエジェクタ11にも適用されうる。さらに、
図5Dを参照して説明したように、中心軸Oに対して傾いた方向に延びている複数のスリット71sが噴射部71に形成されている場合、複数のスリット71sのそれぞれの断面形状が、本変形例のように、中心軸Oに平行な方向において変化していてもよい。
【0090】
(変形例3)
図8A及び
図8Bに示すように、変形例3に係る霧化機構94は、噴射部91、衝突面形成部92及び衝突面形成部93を有する。噴射部91は、第1ノズル40の先端部に取り付けられた部分である。噴射部91には、複数のオリフィス91h(第1オリフィス)及び複数のオリフィス93h(第2オリフィス)が形成されている。オリフィス91h及び93hは、第1ノズル40と混合部42とを連通するように、筒状の噴射部91の底部を貫通している。これらのオリフィス91h及び93hを通じて、冷媒液が第1ノズル40から衝突面形成部92及び93に向けて噴射される。すなわち、噴射部91は、冷媒液の噴流を生成することができる。
【0091】
複数のオリフィス91hは、第1ノズル40の中心軸Oから相対的に遠い位置に形成されている。他の複数のオリフィス93hは、中心軸Oから相対的に近い位置に形成されている。詳細には、オリフィス91h及び93hは、中心軸Oをそれぞれ仮想的に包囲する二重の円環に沿って形成されている。このような構成によれば、冷媒液の流量を十分に確保できる。このような構成は、先に説明した霧化機構44,64及び84にも採用されうる。
【0092】
本変形例の霧化機構94には、複数の衝突面形成部92及び93が設けられている。衝突面形成部92及び93は、それぞれ、中心軸Oから相対的に遠い位置と中心軸Oから相対的に近い位置とに設けられている。衝突面形成部92及び93は、ともに、噴射部91に一体に形成された筒状の部分である。衝突面形成部92は、中心軸Oから遠い位置に形成された複数のオリフィス91hに対応している。すなわち、衝突面形成部92は、複数のオリフィス91hからの噴流を衝突させるべき衝突面92pを有する外側の部分である。筒状の衝突面形成部92の内周面によって衝突面92pが形成されている。他方、衝突面形成部93は、中心軸Oから近い位置に形成された複数のオリフィス93hに対応している。すなわち、衝突面形成部93は、複数のオリフィス93hからの噴流を衝突させるべき衝突面93pを有する内側の部分である。筒状の衝突面形成部93の内周面によって衝突面93pが形成されている。衝突面92p及び93pは、それぞれ、噴流の進行方向に対して傾斜している。衝突面92pに衝突した噴流は、衝突の衝撃によって微細化されるとともに、衝突面92pの傾斜方向に向きを変える。同様に、衝突面93pに衝突した噴流は、衝突の衝撃によって微細化されるとともに、衝突面93pの傾斜方向に向きを変える。微細化された冷媒液と冷媒蒸気とが混合部42において混合される。なお、衝突面形成部93の外周面にオリフィス91hからの噴流が衝突するように、オリフィス91hの傾斜方向が定められていてもよい。この場合、外側の衝突面形成部92を省略することができる。
【0093】
オリフィス91h及び93hは、それぞれ、中心軸Oに対して傾いた方向に延びている。衝突面92p及び93pは、それぞれ、第1ノズル40の中心軸Oに平行である。すなわち、衝突面形成部93及び複数のオリフィス93hが追加されていることを除き、本変形例の構成は、変形例1の構成と同じである。従って、本変形例においても、変形例1と同じ効果が得られる。
【0094】
本変形例においても、霧化機構94は、噴射部71で生成された噴流が混合部42の内壁面に直接衝突しないように構成されている。具体的には、
図6を参照して説明したように、噴射部91からの噴流が全体的に衝突面92p又は93pに衝突するように、噴射部91と衝突面92pとの位置関係又は噴射部91と衝突面93pとの位置関係が定められている。
【0095】
図8Cに示すように、本変形例においても、オリフィス91hに代えて、スリット91sを採用できる。オリフィス93hに代えて、スリット93sを採用できる。スリット93sは、平面視で円弧の形状を有していてもよい。
【0096】
(別の実施形態)
本明細書で説明したエジェクタは、R410Aなどのフッ素冷媒又は二酸化炭素などの自然冷媒を用いたヒートポンプ装置にも使用できる。
図9に示すように、本実施形態のヒートポンプ装置300は、圧縮機302、放熱器303(凝縮器)、エジェクタ11(又は61)、気液分離器305、膨張弁306及び蒸発器307を備えている。これらの構成要素は、冷媒回路30を形成するように、流路30a〜30fによって互いに接続されている。流路30a〜30fは、典型的には、冷媒配管で構成されている。冷媒回路30には、作動流体として、ハイドロフルオロカーボン、二酸化炭素等の冷媒が充填されている。流路30a〜30fにアキュームレータ等の他の構成要素が設けられていてもよい。膨張弁306は、省略されていてもよい。
【0097】
流路30aは、圧縮機302で圧縮された冷媒が放熱器303に供給されるように、圧縮機2と放熱器303とを接続している。流路30bは、放熱器303から流出した冷媒がエジェクタ11に供給されるように、放熱器303とエジェクタ11とを接続している。流路30cは、エジェクタ11から吐出された冷媒が気液分離器305に供給されるように、エジェクタ11と気液分離器305とを接続している。流路30dは、気液分離器305で分離された冷媒蒸気が圧縮機302に供給されるように、気液分離器305と圧縮機302とを接続している。流路30eは、気液分離器305で分離された冷媒液が蒸発器307に供給されるように、気液分離器305と蒸発器307とを接続している。流路30fは、蒸発器307から流出した冷媒蒸気がエジェクタ11に供給されるように、蒸発器307とエジェクタ11とを接続している。
【0098】
エジェクタ11を使用すれば、圧縮機302の吸入圧力を中間圧まで上昇させることができる。その結果、圧縮機302の負荷が減り、ヒートポンプ装置300のCOPが改善する。