(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031753
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
F16J15/10 C
F16J15/10 T
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-267157(P2011-267157)
(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公開番号】特開2013-119884(P2013-119884A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】波多野 誠
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−051285(JP,A)
【文献】
実開昭64−024766(JP,U)
【文献】
特開2010−196751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J15/10
F16J 3/00− 3/06
F16D49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2部材のうちの一方に設けられた環状溝に装着されて、これら2部材間の環状隙間を封止する密封装置において、
前記環状溝内に装着されるゴム状弾性体製のシールリングと、
前記環状溝における低圧側の側面に密着可能に設けられる樹脂製のバックアップリングと、
前記シールリングとバックアップリングとの間に設けられ、内周側及び外周側がいずれも前記2部材に対して締め代を持つように設定され、かつ前記シールリングよりも硬度が大きく、前記バックアップリングよりも硬度が小さなゴム製リングと、
を備えることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記ゴム製リングにおける前記シールリングが密着する面は、該シールリングにおける密着面の形状に沿う形状で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
高圧側において圧力が脈動する環境下に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックアップリングを備える密封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環状隙間を封止する高圧用の密封装置として、Oリングなどのゴム状弾性体製のシールリングと、樹脂製のバックアップリングとからなるものが知られている。かかる従来例に係る密封装置について、
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は従来例に係る密封装置の使用状態を示す模式的断面図であり、同図(a)は無負荷時の状態を示し、同図(b)は高圧時の状態を示している。また、
図8は従来例に係る密封装置における経時劣化時の状態を示す模式的断面図である。
【0003】
密封装置500は、軸200に設けられた環状溝210に装着されて、軸200とハウジング300(の軸孔)との間の環状隙間を封止するために設けられる。この密封装置500は、ゴム状弾性体製のシールリング(Oリング)510と、シールリング510の環状溝210の外側の微小隙間へのはみ出しを抑制するための樹脂製のバックアップリング520とから構成される。
【0004】
このように構成された密封装置500においては、シールリング510は、高圧時には低圧側(L)に押されて圧縮した状態となり(
図7(b)参照)、無負荷時には自己の弾性復元力によって軸線方向に伸びた状態となる(同図(a)参照)。これにより、高圧時には、バックアップリング520における高圧側(H)の側面の全面に亘ってシールリング510が密着した状態となり、低圧時には、バックアップリング520に対してシールリング510は殆ど接触しない状態となる。
【0005】
ここで、例えば直噴エンジンにおける燃料配管系において、インジェクター,高圧ポンプまたはセンサーが取り付けられる箇所に密封装置500が取り付けられる場合、高圧側(H)の圧力は脈動する。これにより、密封装置500における低圧側(L)の外周側の部分511及び内周側の部分512が摩耗する現象が生じている(
図8参照)。これは、上記のように無負荷時と高圧時ではシールリング510の状態が異なり、脈動によってシールリング510が繰り返し変形することにあると考えられる。すなわち、この繰り返し変形によって、シールリング510がバックアップリング520に対して接触した状態と離れた状態とを連続的に繰り返すことで、シールリング510の低圧側の外周側及び内周側において摩擦が生じたような状態が発生していると考えられる。なお、バックアップリング520は、ゴム製のシールリング510よりも硬く、表面粗さも大きなことからシールリング510に摩耗が発生し易いと考えられる。
【0006】
このように、シールリング510の低圧側(L)にバックアップリング520を設けることで、シールリング510のはみ出しを抑制することが可能になるものの、脈動が生じる環境下においてはシールリング510に摩耗が生じてしまっている。これにより、シール性に悪影響が出てしまっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−72162号公報
【特許文献2】特開2000−46195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、シールリングの摩耗を低減可能とする密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
すなわち、本発明の密封装置は、
2部材のうちの一方に設けられた環状溝に装着されて、これら2部材間の環状隙間を封止する密封装置において、
前記環状溝内に装着されるゴム状弾性体製のシールリングと、
前記環状溝における低圧側の側面に密着可能に設けられる樹脂製のバックアップリングと、
前記シールリングとバックアップリングとの間に設けられ、内周側及び外周側がいずれも前記2部材に対して締め代を持つように設定され、かつ前記シールリングよりも硬度が大きく、前記バックアップリングよりも硬度が小さなゴム製リングと、
を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ゴム製リングは、内周側及び外周側のいずれも2部材に対して締め代を持つように設定されているので、高圧時におけるシールリングのはみ出しを抑制できる。また、ゴム製リングの低圧側にはバックアップリングが設けられているので、ゴム製リングのはみ出しも抑制できる。そして、高圧側の圧力変動によってシールリングが繰り返し変形して、シールリングとゴム製リングとの間で摩擦が生じたような状態が発生しても、硬度が大きな樹脂製のバックアップリングとの間で摩擦が生じる場合に比してシールリングの摩耗を抑制することができる。また、ゴム製リングはシールリングよりも硬度が大きいため、ゴム製リング自体の摩耗を抑制することができる。
【0012】
前記ゴム製リングにおける前記シールリングが密着する面は、該シールリングにおける密着面の形状に沿う形状で構成されているとよい。
【0013】
これにより、シールリングにおけるゴム製リングに対する密着面の部位の変形を抑制できるため、シールリングの摩耗をより一層抑制することができる。
【0014】
以上のように、密封装置が高圧側において圧力が脈動する環境下に配置された場合であっても、シールリングの摩耗を低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、シールリングの摩耗を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明の実施例1に係る密封装置の一部破断断面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例1に係る密封装置の使用状態(無負荷時の状態)を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例1に係る密封装置の使用状態(高圧時の状態)を示す模式的断面図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例2に係る密封装置の一部破断断面図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例2に係る密封装置の使用状態(無負荷時の状態)を示す模式的断面図である。
【
図6】
図6は本発明の実施例2に係る密封装置の使用状態(高圧時の状態)を示す模式的断面図である。
【
図7】
図7は従来例に係る密封装置の使用状態を示す模式的断面図である。
【
図8】
図8は従来例に係る密封装置における経時劣化時の状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
(実施例1)
図1〜
図3を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置100について説明する。なお、本実施例に係る密封装置100は、例えば直噴エンジンにおける燃料配管系において、インジェクター,高圧ポンプまたはセンサーが取り付けられる箇所において、特にその効果を発揮する。すなわち、本実施例に係る密封装置100は、高圧側(H)の圧力が脈動する場合において、特にその効果を発揮する。しかしながら、本実施例に係る密封装置100は、2部材間の環状隙間を封止する各種の部位に適用可能である。以下、インジェクターの配管部用の密封装置として用いる場合を例にして説明する。
【0019】
<密封装置>
特に、
図1及び
図2を参照して、本実施例に係る密封装置100の構成について説明する。密封装置100は、ゴム状弾性体製のシールリング10と、樹脂製のバックアップリング20と、これらシールリング10とバックアップリング20との間に設けられるゴム製リング30とから構成される。このように構成される密封装置100によって、2部材としての軸(ここでは、インジェクター)200とハウジング(ここでは配管)300(の軸孔(ここでは、配管内周面))との間の環状隙間を封止する。また、密封装置100は、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、この環状溝210の外周面(溝底面)とハウジング300の内周面との間の隙間を封止する。
【0020】
本実施例に係るシールリング10は、いわゆるOリングであり、ショアA硬度が70度以上80度以下のゴム材料により構成される。このシールリング10は、内周側が軸200に対して締め代を持ち、かつ外周側がハウジング300に対して締め代を持つように構成されている。すなわち、シールリング10は、外力が作用していない状態において、その内径が軸200における環状溝210の外周面の外径よりも小さく、その外径がハウジング300の内周面の内径よりも大きくなるように構成されている。
【0021】
また、本実施例に係るバックアップリング20は、環状溝210における低圧側(L)の側面に密着可能に設けられる。バックアップリング20に用いる材料としては、PTFEなどの軟質性樹脂や、ナイロン,PPS(ポリフェニレンサルファイド),POM(ポリアセタール),PA(ポリアミド),PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などの硬質性樹脂を用いることができる。なお、バックアップリング20には、特に図示はしないが、装着性の観点から、周方向の一か所にカット部(合口)が設けられている。また、このバックアップリング20は、内周側も外周側も締め代は設定されていない。すなわち、バックアップリング20は、外力が作用していない状態において、その内径が軸200における環状溝210の外周面の外径とほぼ同じかまたは僅かに大きく、その外径がハウジング300の内周面の内径とほぼ同じか僅かに小さくなるように構成されている。これにより、装着状態に支障を来すことはない。なお、高圧時においては、軸線方向の圧縮に伴って径方向に拡張することで、バックアップリング20は、その内周面が環状溝210の外周面に密着し、その外周面がハウジング300の内周面に密着するためバックアップ
リングとしての機能は十分に発揮される。
【0022】
そして、本実施例に係るゴム製リング30は、いわゆる角リングであり、ショアA硬度が80度以上95度以下の高硬度かつ高強度のゴム材料であって、シールリング10よりも硬度が大きく、バックアップリング20よりも硬度が小さな、好ましくは単一の材料から構成される。なお、ゴム材料は、密封対象流体に対して耐性を有するものを選択するのが望ましい。そして、このゴム製リング30には、カット部(合口)が設けられていない。また、このゴム製リング30は、内周側が軸200に対して締め代を持ち、かつ外周側がハウジング300に対して締め代を持つように構成されている。すなわち、ゴム製リング30は、外力が作用していない状態において、その内径が軸200における環状溝210の外周面の外径よりも小さく、その外径がハウジング300の内周面の内径よりも大きくなるように構成されている。
【0023】
<密封装置の使用状態>
特に、
図2及び
図3を参照して、本実施例に係る密封装置100の使用状態について説明する。
【0024】
上記のように構成された密封装置100においては、シールリング10は、高圧時には低圧側(L)に押されて圧縮した状態となり(
図3参照)、無負荷時には自己の弾性復元力によって軸線方向に伸びた状態となる(
図2参照)。これにより、高圧時には、ゴム製リング30における高圧側(H)の側面の全面に亘ってシールリング10が密着した状態となり、低圧時には、ゴム製リング30に対してシールリング10は殆ど接触しない状態となる。
【0025】
従って、高圧側(H)の圧力が脈動することによって、シールリング10は、
図2に示す状態と
図3に示す状態が繰り返されることになり、繰り返し変形することになる。そのため、シールリング10はゴム製リング30に対して接触した状態と離れた状態とを連続的に繰り返すことで、シールリング10の低圧側の外周側及び内周側において摩擦が生じたような状態が発生すると考えられる。
【0026】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係るゴム製リング30は、内周側が軸200に対して締め代を持ち、かつ外周側がハウジング300に対して締め代を持つように構成されているので、高圧時におけるシールリング10のはみ出しを抑制できる。また、ゴム製リング30の低圧側にはバックアップリング20が設けられているので、ゴム製リング30のはみ出しも抑制できる。
【0027】
そして、高圧側の圧力変動(本実施例においては、周期的に圧力が変動する脈動)によってシールリング10が繰り返し変形して、シールリング10とゴム製リング30との間で摩擦が生じたような状態が発生しても、硬度が大きな樹脂製のバックアップリング20との間で摩擦が生じる場合に比してシールリング10の摩耗を抑制することができる。また、ゴム製リング30はシールリング10よりも硬度が大きいため、ゴム製リング30自体の摩耗も抑制することができる。
【0028】
以上より、密封装置100が高圧側(H)において圧力が脈動する環境下に配置されても、シールリング10の摩耗を低減させることができる。従って、長期に亘り安定したシール性能を実現させることができる。
【0029】
なお、シールリング10が、一般的なゴム材料により構成される場合、そのショアA硬度は上記の通り、70度以上80度以下となる。この場合、ゴム製リング30は、ショアA硬度を、上記の通り、80度以上95度以下に設定するのが望ましい。何故なら、ゴム
製リング30の硬度をこの範囲よりも小さく設定すると、ゴム製リング30自体の摩耗が大きくなってしまい、この範囲よりも大きく設定すると、シールリング10の摩耗を抑制する効果が低減してしまうからである。
【0030】
また、ゴム製リング30にはカット部が設けられていないため、シールリング10におけるゴム製リング30に対する圧力分布が均一的になり、不均一な摩耗の発生を抑制することができる。なお、樹脂製のリングの場合には、一般的に、装着性の観点からカット部を設ける必要が生じる。この場合、樹脂製のリングに対してシールリングが密着すると、カット部付近において圧力分布が乱れるため不均一な摩耗が生じてしまう。
【0031】
(実施例2)
図4〜
図6には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、上記実施例1に係る密封装置において、ゴム製リングの形状の変形例を説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0032】
本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様に、ゴム状弾性体製のシールリング10と、樹脂製のバックアップリング20と、これらシールリング10とバックアップリング20との間に設けられるゴム製リング40とから構成される。シールリング10及びバックアップリング20については、上記実施例1の場合と同一の構成であるので、その説明は省略する。
【0033】
そして、本実施例に係るゴム製リング40は、角リングにおける高圧側(H)の側面に環状の溝41が形成された構成である。また、このゴム製リング40は、実施例1の場合と同様に、ショアA硬度が80度以上95度以下の高硬度かつ高強度のゴム材料であって、シールリング10よりも硬度が大きく、バックアップリング20よりも硬度が小さな、好ましくは単一の材料から構成される。このゴム製リング40には、カット部(合口)が設けられていない。また、このゴム製リング40は、内周側が軸200に対して締め代を持ち、かつ外周側がハウジング300に対して締め代を持つように構成されている。すなわち、ゴム製リング40は、外力が作用していない状態において、その内径が軸200における環状溝210の外周面の外径よりも小さく、その外径がハウジング300の内周面の内径よりも大きくなるように構成されている。
【0034】
ここで、ゴム製リング40に形成された溝41は、装着時かつ無負荷時のシールリング10における低圧側(L)の部位の形状に沿う形状で構成されている。すなわち、この溝41は、断面形状が円弧形状となっている。これにより、ゴム製リング40におけるシールリング10が密着する面は、(装着時かつ無負荷時の)シールリング10における密着面の形状に沿う形状となるように構成されている。
【0035】
以上の構成により、シールリング10における低圧側の部位が、ゴム製リング40における溝41に嵌合可能な状態となり、無負荷時においても、シールリング10とゴム製リング40との間には殆ど隙間が形成されなくなる。そのため、高圧側(H)の脈動によって、シールリング10が繰り返し変形しても、シールリング10における低圧側(ゴム製リング40側)の部位は殆ど変形しない。
【0036】
このように、本実施例に係る密封装置100においては、シールリング10におけるゴム製リング30に対する密着面の部位の変形を抑制できるため、上記実施例1の場合に比べて、シールリング10の摩耗をより一層抑制することができる。
【0037】
(その他)
上記実施例においては、軸200側に環状溝210を設けて、この環状溝210に密封装置100を装着する場合を例にして説明したが、ハウジング300側に環状溝を設けて、当該環状溝に密封装置を装着する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0038】
10 シールリング
20 バックアップリング
30,40 ゴム製リング
41 溝
100 密封装置
200 軸
210 環状溝
300 ハウジング