(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端の閉じられた筒状のバルブボディと、前記バルブボディの内部を軸方向に移動可能に挿通されたニードルバルブとを備え、前記バルブボディの先端の前記バルブボディに一体の先端壁部に複数の噴口を備え、前記ニードルバルブの先端部を前記バルブボディの前記先端壁部の内表面の外周部にある弁座から離間動させることにより、燃料を前記噴口から噴霧するエンジンの燃料噴射弁において、
前記先端壁部の前記複数の噴口が形成された外表面は、前記バルブボディの内部側へ凹んだドーム形状とされると共に、前記ドーム形状とされた部位近傍で、前記先端壁部の外周面に小径段部が形成されており、
前記先端壁部の外周面に予め圧縮力を加えるための予圧縮生成リングを備え、
該予圧縮生成リングは、前記小径段部に圧入により嵌合されている
ことを特徴とするエンジンの燃料噴射弁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、一般的に燃料噴射弁は、
図8に示すように、円筒状で先端に先端壁部112aを備えたバルブボディ112と、このバルブボディ112の内部を軸方向に移動可能に挿通されたニードルバルブ114とを備えている。このバルブボディ112の内部は先細り形状をしており、その先端壁部112aの断面形状は、外部側へ盛り上がったドーム形状をしている。また、先端壁部112aには、複数の噴口116が形成されている。さらに、ニードルバルブ114の先端部114aをバルブボディ112の先端壁部112aの内表面の外周部にある弁座112a
3から離間動させることにより、燃料を噴口116から噴霧する構造となっている。
【0009】
このような構造において、上述の理由により、燃料噴射時間を短縮するため高負荷時の燃圧を高くするには、例えばバルブボディの先端壁部の肉厚を厚くして(以下、「厚肉化」という。)、この燃圧による引張応力にも耐えうるようにする(剛性を上げる)必要があるが、先端壁部の厚肉化により噴口の肉厚方向の長さ(以下、「噴口長」という。)が必然的に長くなる。
【0010】
ここで一般的に、噴口長が長くなると、燃料が噴口通過中に、燃料の微粒化に効果がある乱流が弱まるため、燃料の微粒化が悪化する傾向がある。また、燃圧が低くなると、噴口から噴射された燃料と空気との衝突が弱くなるため、燃料の微粒化が悪くなる傾向がある。そして、燃料の微粒化が悪化すると良好な混合気が形成され難くなる。
【0011】
一方で、燃料噴射量が少ない低負荷時は、燃料ポンプの駆動損失による燃費の悪化が顕著となるため、この低負荷時(圧縮着火時)は、燃圧を下げたいという要望がある。この要望により、一般に高負荷時には高燃圧、低負荷時には低燃圧となるように燃料ポンプが駆動させる。したがって、先端壁部の厚肉化により噴口長が長くなると、特に低燃圧となる低負荷時に最も燃料の微粒化が悪くなる。
【0012】
以上から、低負荷時の微粒化を改善するためには、燃圧により先端壁部に発生する引張応力を軽減することによって先端壁部を薄肉化しなくてはならない。
【0013】
そこで、本発明は、エンジンの燃料噴射弁において、燃圧によりバルブボディの先端壁部に発生する引張応力を軽減することによって、高負荷時の高燃圧に耐えうる先端壁部の強度を確保しながら、燃料の微粒化の悪化を抑制して、低負荷時における燃焼性をさらに向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するため、本発明に係るエンジンの燃料噴射弁は、次のように構成したことを特徴とする。
【0015】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
先端の閉じられた筒状のバルブボディと、前記バルブボディの内部を軸方向に移動可能に挿通されたニードルバルブとを備え、前記バルブボディの先端の前記バルブボディに一体の先端壁部に複数の噴口を備え、前記ニードルバルブの先端部を前記バルブボディの前記先端壁部の内表面の外周部に設けられた弁座から離間動させることにより、燃料を前記噴口から噴霧するエンジンの燃料噴射弁において、
前記先端壁部
の前記複数の噴口が形成された外表面
は、前記バルブボディの内部側へ凹んだドーム形状とされると共に、
前記ドーム形状とされた部位近傍で、前記先端壁部の外周面に小径段部が形成されており、
前記先端壁部の外周面に予め圧縮力を加えるための予圧縮生成リングを備え、
該予圧縮生成リングは、前記小径段部に圧入により嵌合されている
ことを特徴とする。
【0016】
また、本願の請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記噴口はそれぞれ、前記燃料を噴霧する方向が前記バルブボディの中心線から外向きに傾斜して配置され、
前記先端壁部は、その内表面の中央部底面が平坦形状とされている
ことを特徴とする。
【0017】
さらに、本願の請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記噴口はそれぞれ、前記燃料を噴霧する方向が前記バルブボディの中心線から外向きに傾斜して配置され、
前記先端壁部は、その内表面の中央部底面が前記バルブボディの内部側へ盛り上がったドーム形状とされている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
まず、請求項1に記載の発明によれば、バルブボディにおける先端壁部の内表面に高燃圧が作用したときに、先端壁部に大きな引張応力が働くところ、先端壁部の外表面を内部側へ凹んだドーム形状にすること、及び、予圧縮生成リングで先端壁部の外周に圧縮力を付与することにより、噴口近傍に発生する引張応力を効率的に抑制することが可能となる。したがって、噴口近傍の肉厚をむやみに厚くすることがなく、噴口長を短くでき、噴霧の微粒化を確保することができる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明によれば、バルブボディにおける先端壁部の内表面の中央部底面が平坦形状であるため、高燃圧の燃料がニードルバルブの先端部とバルブボディ弁座との隙間から噴口に流入する際の縮流の生成を抑制して、燃料流量のばらつきを抑制ができると共に、先端壁部の内表面、特に中央部底面の外縁の隅部における応力集中を低減できる。
【0020】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、バルブボディにおける先端壁部の内表面の中央部底面がバルブボディの内部側へ盛り上がったドーム形状であるため、低燃圧の燃料がニードルバルブの先端部とバルブボディの弁座との隙間から噴口に流入する際の乱流の発生を促進して、噴霧される燃料の微粒化を促進できると共に、先端壁部の外表面、特に噴口の出口近傍における応力集中を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、これら添付図面を参照しながら、本発明に係る燃料噴射弁の実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るエンジンの燃料噴射弁の全体構造に示す断面図であり、
図2は、
図1の燃料噴射弁を構成するバルブボディの主要部、すなわち先端部分の拡大断面図及び底面図を示す。
【0024】
燃料噴射弁10の本体は、大径筒状のハウジング11と、該ハウジング11の一端から延び、先端が閉じられた小径筒状のバルブボディ12とを結合部材13で連結した構成とされている。
【0025】
そして、ハウジング11とバルブボディ12の内に、その中心線に沿ってハウジング11の中間部からバルブボディ12の先端部まで延びるニードルバルブ14が挿入されており、バルブボディ12の先端壁部12aとニードルバルブ14の先端部14aとで燃料噴射部15が構成されている。
【0026】
また、ハウジング11内には電磁コイル20が収納されていると共に、電磁コイル20の内側には筒状の固定鉄心30が配設されている。
【0027】
さらに、固定鉄心30とその先端側に配設されたスペーサ40との間に、軸方向の空隙Xを設けて、リング状の可動鉄心50が配設されている。
【0028】
そして、ニードルバルブ14のハウジング11内に位置する部分が、先端部14a側から、可動鉄心50、固定鉄心30を貫通し、かつ、ニードルバルブ14の後端部側に、ニードル14を先端部14a側へ、即ち、閉弁方向に付勢するコイルスプリング60が備えられている。
【0029】
また、ニードルバルブ14の可動鉄心50を貫通する部位の固定鉄心30側に、段付部14bが設けられている。
【0030】
これにより、電磁コイル20の通電によって発生する吸引力により可動鉄心50が固定鉄心30側へ吸引されると共に、段付部14bを介して、ニードルバルブ14がコイルスプリング60の付勢力等に抗して空隙Xに相当する距離だけ開弁方向へストロークするようになっている。
【0031】
一方、バルブボディ12の先端壁部12aとニードルバルブ14の先端部14aとで構
成される燃料噴射部15は、先端壁部12aの
内表面の外周部に設けられた円錐状の弁座12a3に、同じく円錐状とされた先端部14aが、ニードル14の移動に応じて対接、離間することにより、閉弁、開弁するように構成されている。
【0032】
そして、開弁時には、ハウジング11の後端のコネクタ70に接続されたパイプ(図示せず)からハウジング11内の燃料通路(図示せず)を経由して、バルブボディ12とニードル14との間の燃料溜り部12cまで圧送されている高圧の燃料が、先端壁部12aに設けられた複数の噴口16から外部(燃焼室内)へ霧状とされて噴射されるようになっている。なお、
図1は燃料噴射弁の閉弁時の状態を示している。
【0033】
なお、電磁コイル20の励磁および消磁の切り替えは、図示しない燃料制御部によって制御される。燃料制御部は、エンジンコントロールユニット内に設けられ、エンジンの運転状態を示す各種信号を入力し、これらの信号が示す運転状態に応じて要求される噴射量となるように、燃料噴射弁10の電磁コイル20にパルス状の制御電流を出力する。
【0034】
次に、
図2を参照しながら、燃料噴射弁10を構成するバルブボディ12の構造について詳細に説明する。
【0035】
図2(a)は、
図1に示すバルブボディ12の主要部、すなわち先端部分の構造を示す拡大断面図であり、
図2(b)は、同じくバルブボディ12の先端部分の底面図である。なお、
図2(a)は、
図2(b)のA−A線矢視断面図である。
【0036】
図2(a)に示すように、円筒状のバルブボディ12の内部はおおよそ先細り形状となっており、バルブボディ12の先端にある先端壁部12aは、その内表面の外周部に円錐状の弁座12a
3を備えると共に、その中央部に平坦形状の中央部底面12a
2を備えており、この中央部底面12a
2は、弁座12a
3の先端部よりも所定の距離だけバルブボディ12の先端側に凹んだ位置に配置されている。なお、この凹んだ位置に配置された中央部底面12a
2の外縁の隅部には、図に示すように、丸み(R部)を付けるのが望ましい。また、先端壁部12aは、その外表面12a
1が内部側へ凹んだドーム形状(以下、「逆ドーム構造」と言う。)に形成されている。さらに、先端壁部12aには、中央部底面12a
2から外表面12a
1へ貫通するように、複数の噴口16が形成されている。
【0037】
このような逆ドーム構造によれば、燃圧によってに生じる先端壁部12aの噴口16近傍の引張応力を緩和し、噴口16近傍の肉厚をむやみに厚くすることがなく、噴口長を短くでき、噴霧の微粒化を確保することができる。なお、当該効果については後に詳細に説明する。
【0038】
また、
図2(b)に示すように、複数の噴口16は合計10個設けられており、バルブボディ12の中心線周りの同一半径の円周上に等間隔で配置されている。また、
図2(a)に示すように、各噴口16の中心軸が向けられた向き、すなわち、燃料を噴霧する方向は、バルブボディ12の中心線から外向きに広がるように傾斜して配置されている。さらに、各噴口16は、外部側に座ぐり8aが形成されている。
【0039】
このように噴口の向きを傾斜して配置することによって、低燃圧の燃料がニードルバルブ14の先端部14aとバルブボディ12の弁座12a
3との隙間から噴口16に流入する際の乱流の発生を促進し、噴霧される燃料の微粒化を促進できる。なお、当該効果については後に詳細に説明する。
【0040】
なお、噴口16の数、大きさ及び向きは、所望の噴射量や噴霧の到達距離、燃焼室の形状、燃料ポンプの供給能力等に応じて決められる。一般に、燃料噴射弁による噴射量は、主に噴口の大きさと燃料ポンプによる燃圧によって決まり、噴口が大きくなる程、同じ燃圧でもより多くの燃料が噴射できる。逆に、噴口が同じ大きさであっても燃圧が異なる場合には、燃圧が高い程より多くの燃料を噴射できる。また、一般に、噴口が小さい程、燃料の油粒が細かくなり霧化が向上するが、貫通力が小さくなるため噴口が詰まりやすくなる傾向がある。
【0041】
また、
図2(a)に示すように、バルブボディ12は、その先端壁部12aの周囲に予圧縮生成リング18を備えている。ただし、予圧縮生成リング18をバルブボディ2の先端壁部12aの周囲に単に設けるのではなく、予圧縮生成リング18がバルブボディ12の少なくとも先端壁部12aの外周面に常に圧縮力を付与する構造(以下、「予荷重リング構造」と言う。)となるように設ける。
【0042】
上述のような予荷重リング構造を作製するには、冷間圧入や熱間圧入等の公知の圧入方法を用いることができる。なお、予圧縮生成リング18及びバルブボディ12の材質としてSCR430等の焼入れ鋼を用いて、圧入代を10μm、圧入部の高さを2mmとした場合、圧入による面圧(圧縮力)は100MPaであった。
【0043】
このような予荷重リング構造によれば、高燃圧化されたときも、予圧縮生成リング18の圧縮力により先端壁部12aにおける噴口16近傍の引張応力を所望の範囲内に抑制することができる。
【0044】
なお、本実施形態(先端壁部12aの中央部底面12a
2が平坦形状の場合)によれば、後述の変形例(先端壁部12aの中央部底面12a
2が内部側に盛り上がったドーム形状の場合)と比較して、高燃圧の燃料がニードルバルブ14の先端部14aとバルブボディ12の弁座12a
3との隙間から噴口16に流入する際の縮流の生成を抑制し、燃料流量のばらつきを抑制ができると共に、先端壁部12aの中央部底面12a
2における応力集中を低減できるという効果も実現できる。当該効果については後に詳細に説明する。
【0045】
次に、
図3を参照しながら、上述の実施形態の変形例について説明する。
図3は、バルブボディ12の先端部の構造を示す断面拡大図である。
【0046】
図2(a)と
図3とを見比べれば明らかなように、変形例と先の実施形態とは、その先端壁部12aの中央部底面12a
2の形状が異なる。具体的には、先端壁部12aの中央部底面12a
2が、先の実施形態は平坦形状であったのに対して、先の実施形態の変形例はバルブボディ12の内部側へ盛り上がったドーム形状である点で両者は異なる。なお、その余の構造、例えば、各噴口の燃料を噴霧する方向が、バルブボディの中心線から外向きに傾斜して配置されている点については両者に共通である。
【0047】
本変形例の場合も先の実施形態と同様に、ドーム形状により噴口16近傍の引張応力を緩和し、噴口16近傍の肉厚をむやみに厚くすることがなく、噴口長を短くでき、噴霧の微粒化を確保することができる。
【0048】
なお、本変形例によれば、先の実施形態と比較して、低燃圧の燃料がニードルバルブ14の先端部14aとバルブボディ12の弁座12a
3との隙間から噴口16に流入する際の乱流の発生を促進し、噴霧される燃料の微粒化を促進できると共に、先端壁部12aの外表面12a
1、特に噴口16の出口近傍における応力集中を低減できるという効果も実現できる。当該効果については後に詳細に説明する。
【0049】
なお、図面には、当該変形例の底面図が記載されていないが、変形例の底面図は、先の実施形態の底面図である
図2(b)と同じであるため省略した。
【0050】
次に、
図4〜
図7を参照しながら、上述の実施形態とその変形例、すなわち、先端壁部12aの中央部底面12a
2が平坦形状の場合とバルブボディ12の内部側へ盛り上がったドーム形状の場合について、従来技術と比較した共通の効果、及び、本願実施形態及びその変形例が有する個別の効果について、以下に詳細に説明する。
【0051】
まず、
図4を参照しながら、バルブボディ12における先端壁部12aの内表面の中央部底面12a
2の形状の違いによる本実施形態とその変形例が有する、噴霧形成に関する個別の効果について説明する。
【0052】
変形例についての燃料の流れに関する図面は記載していないが、
図2(a)と
図3を見比べれば明らかなように、先端壁部12aの中央部底面12a
2が平坦な実施形態よりも、中央部底面12a
2が内部側へ盛り上がったドーム形状の変形例の方が、中央部底面12a
2に沿って流れてきた燃料が噴口16に流入する際の噴流の折れ曲がりの角度がより急である。
【0053】
ここで、折れ曲がりの角度が急な方が、この折れ曲がり部で噴流内部の乱流がより強く発生し、微粒化が促進される傾向にある。しかし、折れ曲がりの角度が急だと、この折れ曲がり部でキャビテーションが発生し易くなるため、噴射毎の噴霧形態(ペネトレーション、微粒化等)がばらつき易くなる傾向にある。なお、噴口16の向きがバルブボディ12の中心線から外向きに傾斜して配置されていると、折れ曲がりの角度がより急になるため、これらの傾向はより強くなる。
【0054】
したがって、
図2(a)及び
図4に示すように、先端壁部12aの中央部底面12a
2を平坦形状にすると、中央部底面12a
2をバルブボディ12の内部側へ盛り上がったドーム形状にした場合に比べて、折れ曲がりの角度がより緩やかになるので、キャビテーションが弱くなり、噴射ごとのばらつきを抑制できるようになる。
【0055】
逆に、
図3に示すように、中央部底面12a
2をバルブボディ12の内部側へ盛り上がったドーム形状にすると、中央部底面12a
2を平坦にした場合に比べて、折れ曲がりの角度がより急になるので、乱流が強く発生して、微粒化がより促進される。
【0056】
以上から、中央部底面12a
2の形状の違いによって各実施形態の燃料噴射弁は、噴霧形成に関して個別の効果を備えており、エンジンにいずれの形態の燃料噴射弁を使用するかは、燃料噴射弁に求められる具体的な特性、性能に応じて当業者が選択可能である。
【0057】
次に、本願実施形態及びその変形例は、従来技術と比べて、先端壁部の外表面の形状が異なると共に、先端壁部の周囲に予圧縮生成リングが設けられているため、以下のような共通した効果を有する。
【0058】
図2(a)及び
図3でも説明したように、本願発明の実施形態及びその変形例はいずれもバルブボディ12の先端壁部12aは、その外表面12a
1がバルブボディ12の内部側へ凹んだドーム形状をした逆ドーム構造であると共に、先端壁部12aの外周に常に圧縮力をかける予圧縮生成リング18が設けられた予荷重リング構造である。このとき、逆ドーム構造かつ予荷重リング構造の本願発明は、先端壁部112aの断面が外部側へ盛り上がったドーム形状(以下、単に「ドーム構造」と言う。)である従来技術と比べると、先端壁部の中央部底面に対する燃圧に対して、いわゆるアーチ効果によって、構造力学上明らかに剛性が増している。したがって、同じ燃圧に耐える強度を備えた先端壁部の必要最小限の板厚は、本願発明の方が従来技術より薄くなる。
【0059】
これを強度から必要な板厚を縦軸に、燃圧を横軸にとってグラフに表すと、
図5のようになる。先端壁部の形状を従来技術のドーム構造から本発明の逆ドーム構造かつ予荷重リング構造にすることで、同じ燃圧に対して必要な本願発明の先端壁部12aの板厚dは、従来技術の先端壁部112aの板厚Dよりもさらに薄くすることができる。そして、いずれの場合も燃圧に対して強度から必要な先端壁部の板厚がほぼ比例関係にあるため、燃圧が大きくなるほど、本発明と従来技術との必要な板厚の差(D−d)が顕著になる。
【0060】
次に、
図6及び
図7を参照しながら、バルブボディ12の先端壁部12aにおける中央部底面12a
2の形状の違いによる本願実施形態及びその変形例が有する、燃圧によって生じる応力集中に関する個別の効果について説明する。
【0061】
本願実施形態及びその変形例のバルブボディ12の形状の詳細については、
図2及び
図3を参照しながら既に説明を行ったが、いずれのバルブボディ12の形状においても、断面が急激に変化する部位に応力が集中するため、内部から燃圧が作用して特に応力が集中する部位は、
図6が示すように、先端壁部12aにおける外表面12a
1側の座ぐり16aの底縁近傍(以下、「A部」という。)と、内表面の中央部底面12a
2の外縁の隅部近傍(以下、「B部」という。)である。もっとも、本願実施形態及びその変形例で中央部底面12a
2の形状が異なるため、これらA部及びB部に生じる応力集中にも相対的な違いが出る。この違いについて以下に詳細に検討する。
【0062】
図7(a)から
図7(c)を参照しながら、燃圧によって生じる引張応力について説明する。
図7(a)は先端壁部が平坦形状の中央部底面を備えた逆ドーム構造であり、かつ、予圧縮リング構造である本願実施形態を示し、
図7(b)は先端壁部が内部側へ盛り上がった中央部底面を備えた逆ドーム構造であり、かつ、予圧縮リング構造である本願実施形態の変形例を示し、
図7(c)は先端壁部がドーム構造である従来技術を示している。
【0063】
図7(a)から(c)に示すように、本願発明及び従来技術に共通して、バルブボディの円筒側壁部の内表面及び先端壁部の内表面の中央部底面に対して垂直方向に燃圧が作用する(白抜き矢印を参照)。
【0064】
まず、従来技術の場合、
図7(c)に示すように、先端壁部112aの内表面の中央部底面112a
2への燃圧によって、先端壁部112aに曲げモーメントが発生する(曲線状の矢印を参照)。この曲げモーメントにより、先端壁部112aの外表面112a
1には引張応力が発生する(黒塗り矢印を参照)。さらに、円筒側壁部112bへの燃圧によっても、先端壁部112aに引張応力が発生する。すなわち、先端壁部112a及び円筒側壁部112bに作用した燃圧は、いずれも先端壁部112aに引張応力を発生させる。
【0065】
これに対して、本願実施形態の場合、
図7(a)に示すように、先端壁部12aの外表面12a
1がバルブボディ12の内部側へ凹んだ逆ドーム構造であるため、従来技術に比べて、先端壁部12aの中央部底面12a
2への燃圧による、先端壁部12aに発生する曲げモーメントが緩和され、この曲げモーメントによって先端壁部12aの外表面12a
1に生じる引張応力(黒塗り矢印を参照)も緩和される。さらに、先端壁部12aの周囲に設けられた予圧縮付与リング18によって、少なくとも先端壁部12aの外周に圧縮応力が加えられるため、先端壁部112a及び円筒側壁部112bに作用した燃圧によって先端壁部12aに生じる引張応力は、従来技術よりもさらに小さくなる。なお、予圧縮付与リング18による圧縮応力よりも、円筒側壁部12bへの燃圧の影響による引張応力の方が非常に強いため、先端壁部12aの外表面12a
1に生じる応力は、トータルとして圧縮応力ではなく、引張応力となる。
【0066】
さらに、本願実施形態の変形例の場合、
図7(b)に示すように、
図7(a)の実施形態に比べて、先端壁部12aの内表面の中央部底面12a
2がバルブボディ12の内部側へ盛り上がった逆ドーム構造であり、いわゆるアーチ効果がさらに効きやすいため、先端壁部12aの中央部底面12a
2への燃圧による先端壁部12aに発生する曲げモーメントはより緩和される。したがって、この曲げモーメントによって生じる先端壁部12aの外表面12a
1に生じる引張応力(黒塗り矢印を参照)もより緩和される。
【0067】
以上から、中央部底面12a
2が平坦形状のもの(
図7(a)を参照)よりも、中央部底面12a
2が逆ドーム構造のもの(
図7(b)を参照)の方が、先端壁部12aの外表面12a
1における引張応力が小さいため、特に、先端壁部12aにおける外表面12a
1側の座ぐり16aの底縁近傍(
図6のA部)への応力集中が相対的に小さい。
【0068】
また、
図2(a)及び
図3から明らかなように、中央部底面12a
2が平坦形状のもの(
図7(a)を参照)の方が、中央部底面12a
2が逆ドーム構造のもの(
図7(b)を参照)よりも、中央部底面12a
2の外縁の隅部近傍(
図6のB部)での断面の変化が緩やかであるため、この中央部底面12a
2の外縁の隅部近傍への応力集中が相対的に小さい。
【0069】
したがって、先端壁部の内表面における中央部底面の形状の違いによって各実施形態の燃料噴射弁は、応力集中に関して個別の効果を備えており、エンジンにいずれの形態の燃料噴射弁を使用するかは、燃料噴射弁に求められる具体的な特性、性能に応じて当業者が選択可能である。
【0070】
以上、上述の実施形態とその変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【0071】
例えば、上述の実施形態では、ニードルバルブの駆動手段として鉄心と電磁コイルを用いた電磁式の場合について説明したが、例えば、カム、燃料圧、ピエゾ素子等をそれぞれ用いた機械式、流体圧式、電気式等の駆動手段を用いてもよく、これによっても同様の効果を得ることができる。また、上述の実施形態では、バルブボディの形状として円筒状のものを説明したが、本発明は円筒状のバルブボディに限定されるものではなく、例えば、外形が円錐状や角柱状のものを用いても良い。