特許第6031812号(P6031812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031812
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】多列組合せ玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20161114BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   F16C33/58
   F16C19/18
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-100026(P2012-100026)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-228034(P2013-228034A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晋
(72)【発明者】
【氏名】勝野 美昭
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−285367(JP,A)
【文献】 特表2003−510530(JP,A)
【文献】 特開2007−247901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/58
F16C 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列組合せの玉軸受を少なくとも2列備える、多列組合せ玉軸受において、
前記並列組合せの各玉軸受の外輪と内輪は、該玉軸受の軸方向中心に対して接触角の延長線が通過する側の溝肩が、該軸方向中心に対して反対側の溝肩よりも高く形成されており、
前記並列組合せの各玉軸受は、前記外輪と内輪の少なくとも一方において、前記接触角の延長線が通過する側の溝肩の幅寸法を長くすることで、ISO規格の標準軸受に対して幅寸法を長くし、
前記並列組合せの玉軸受のうち、いずれか一方の前記玉軸受の玉中心から外輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線が、該一方の玉軸受の外輪の外周面と前記一方の玉軸受と隣接する他方の前記玉軸受の外輪の軸方向端部平面とを通過し、前記他方の玉軸受の玉中心から内輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線が、該他方の玉軸受の内輪の内周面と前記一方の玉軸受の内輪の軸方向端部平面とを通過することを特徴とする多列組合せ玉軸受。
【請求項2】
前記並列組合せの各玉軸受は、前記外輪と内輪の少なくとも一方において、前記軸方向中心に対して反対側の溝肩の幅寸法を短くすることで、前記各玉軸受の幅寸法の合計が、ISO規格の標準軸受の合計に相当することを特徴とする請求項1に記載の多列組合せ玉軸受。
【請求項3】
少なくとも3列の前記玉軸受が並列組合せで配置され、
該並列組み合わせの玉軸受のうち、軸方向中間に位置する前記玉軸受は、前記外輪及び内輪の両方において、前記接触角の延長線が通過する側の溝肩の幅寸法を長くすることで、ISO規格の標準軸受に対して幅寸法を長くし、
前記軸方向中間に位置する玉軸受の玉中心から外輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線は、該玉軸受の外輪の外周面と該玉軸受と軸方向一方側で隣接する玉軸受の外輪の軸方向端部平面を通過するとともに、前記軸方向中間に位置する玉軸受の玉中心から内輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線は、該玉軸受の内輪の内周面と該玉軸受と軸方向他方側で隣接する玉軸受の内輪の軸方向端部平面とを通過することを特徴とする請求項1または2に記載の多列組合せ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多列組合せ玉軸受に関し、特に、ラジアル荷重に比べて大きなスラスト荷重を負荷する用途、例えば、電動射出成形機用ボールねじサポート転がり軸受、あるいはダイカストマシン用ボールねじサポート転がり軸受、電動サーボプレス機用ボールねじサポート転がり軸受など、軸方向に大きな荷重を受けて回転する用途に適用される多列組合せ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品を製造する方法としては、射出成形による方法が一般的である。射出成形では成形材料がポリアミド(PA)・ポリフェニレンサルファイド(PPS)・ポリ
エーテルエーテルケトン(PEEK)などの熱可塑性樹脂の場合、軟化する温度に加熱したプラスチック(通常180〜450℃)に対し、射出圧を加えて金型に充填し成形する。この成形過程においては、型に充填されたプラスチックが固化するまで、型の内部圧力を保持する必要があり、「型締め」と称される。
【0003】
従来の射出成形機の型締めは、非常に大きな型締め力を与える方法として、油圧制御によるシリンダ駆動方式が主であった。しかし、最近では大量の油を用いず、環境にやさしく省エネ性に優れる高トルクモータを用いた電動サーボ制御によるボールねじ駆動方式が開発・実用化され始めている。
【0004】
図6及び図7は、電動式の射出成形機101を示し、型締めユニット102と射出ユニット103を備える。型締めユニット102は、リアプラテン104、可動プラテン105および固定プラテン106を有し、可動プラテン105と固定プラテン106間に配置した金型107をリアプラテン104と可動プラテン105の間に配置した型締め機構108により、型開閉および型締めする。
【0005】
型締め機構108は、トグル構造を有し、型締め用モータ109によってリアプラテン104に軸支された型締め用ボールねじ110が駆動回転されると、クロスヘッド111が前後移動して伸縮される。これによって、可動プラテン105が前後に移動される。型締め用ボールねじ110はサポート軸受112によってリアプラテン104に軸支されている。
【0006】
また、可動プラテン105には、型成形後の製品を金型107から突き出すためのイジェクタピン140を作動させる駆動機構141が配置されている。この駆動機構141は、モータとボールねじとを備え、ボールねじのねじ軸をなすイジェクタ軸142を回転することでイジェクタピン140を移動させる。このイジェクタ軸用ボールねじはサポート軸受(図示せず)によって可動プラテン105に軸支されている。
【0007】
射出ユニット103はリアプレート113、可動プレート114およびフロントプレート115を有し、フロントプレート115のシリンダアセンブリ116中に配置された計量・射出用スクリュー117の基部が可動プレート114の前面(型締めユニット側)にサポート軸受118(スクリュースリーブ)を介して軸支されている。計量・射出用スクリュー117は、成形用の樹脂を計量し、溶融・混練するときに、可動プレート114に取付けられた図示しない計量用モータで駆動回転される。
【0008】
図7にも示すように、可動プレート114には、また、後面にボールナット120が固定されており、これに螺合された射出用ボールねじ121がリアプレート113に軸支され、射出機構122を構成している。射出用ボールねじ121は、サポート軸受123でリアプレート113に軸支され、また、リアプレート113に取付けられた射出用モータ124で駆動される。
【0009】
射出用モータ124が正方向に駆動されると射出用ボールねじ121が正回転され、可動プレート114が前進してシリンダアセンブリ116内部の溶融樹脂が射出・計量用スクリュー117によって金型107内に射出される。射出後は計量用モータが駆動されて射出・計量用スクリュー117が回転され、新たに樹脂が計量・混練される。このとき射出・計量スクリュー117は、送り込む樹脂の圧力に押されて後退するが射出用モータ124によって背圧が掛けられ、混練と溶融が十分におこなわれるようになっている。計量が終わった段階ではノズル先端からの漏れを防止するために、射出用モータ124が逆転されて射出・計量スクリュー117がわずかに後退され、サックバックが行われる。
【0010】
また、射出ユニット103には、駆動用モータ150によりボールねじ151を正回転あるいは逆回転させ、シリンダアセンブリ116を固定プラテン106に前後進させるノズルタッチ機構153が設けられている。ノズルタッチ機構153は、シリンダ116に取り付けられている先端のノズル116aを所定の力で、固定プラテン106に取り付けられている金型107に押し付ける。このノズルタッチ用ボールねじ151は、サポート軸受(図示せず)で軸支されている。
【0011】
ここで、電動サーボ制御による射出成形機において、上述した型締め用ボールねじサポート軸受112、イジェクタ軸用ボールねじサポート軸受、射出用ボールねじサポート軸受123、ノズルタッチ用ボールねじサポート軸受では、ボールねじの回転支持と型締め時等における大きな軸方向荷重を負荷するため、図8に示すような大径玉を用いた特殊な専用ボールねじサポート軸受が使用され始めている。
【0012】
また、特許文献1に記載のボールねじ装置では、電動射出成形機に適用されるボールねじのねじ軸を支持する多列組合せ玉軸受において、接触角を40度以上65度以下として、スラスト荷重の負荷容量を大きく確保することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−101711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、射出成形機の各軸に適用されるボールねじサポート部には、工作機械の主軸台や加工物を装着するベッドの送り機構に主に使用されている、図8に示すような標準的なボールねじサポート用アンギュラ玉軸受200が用いられている。このようなアンギュラ玉軸受200では、加工中の切削荷重によって発生するボールねじの軸方向荷重を負荷した場合でも軸受の転がり寿命を満足できるように、接触角をできるだけ荷重方向に合致させた仕様となっており、通常、接触角が60度に設定される。このような軸受では、接触角の向きが同じ軸受を隣り同士に並べて使用する並列組合せの場合、玉中心から各軌道溝における接触楕円Cの径方向端点a,bを結ぶ線の延長線La,Lbが隣の軸受200の軸方向端部平面内201に含まれないのが普通であった。このため、大きなスラスト荷重が作用すると、軌道輪の溝部に過大な荷重が負荷され、軌道輪割れなどの不具合が生じる可能性がある。
【0015】
つまり、従来、油圧であった射出成形機などが電動化されるに伴い、従来から使用されてきたボールねじサポート用アンギュラ玉軸受では想定していなかった大きなスラスト荷重を負荷する用途が出現してきた。そのため大きなスラスト荷重による軌道輪割れの可能性が顕在化してきた。
【0016】
また、射出成形機の用途では、大きな荷重に対する軸受の疲れ寿命を満足するために、一方向の荷重を負荷できるように、従来ではほとんど採用されなかった4〜5列の多列組合せを適用することも多く、不具合の発生が想定される箇所も多くなる。
【0017】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、非常に大きなスラスト荷重を負荷した場合であっても、軌道輪の破損・割れ等の不具合を防止することができる多列組合せ玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 並列組合せの玉軸受を少なくとも2列備える、多列組合せ玉軸受において、
前記並列組合せの各玉軸受の外輪と内輪は、該玉軸受の軸方向中心に対して接触角の延長線が通過する側の溝肩が、該軸方向中心に対して反対側の溝肩よりも高く形成されており、
前記並列組合せの各玉軸受は、前記外輪と内輪の少なくとも一方において、前記接触角の延長線が通過する側の溝肩の幅寸法を長くすることで、ISO規格の標準軸受に対して幅寸法を長くし、
前記並列組合せの玉軸受のうち、いずれか一方の前記玉軸受の玉中心から外輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線が、該一方の玉軸受の外輪の外周面と前記一方の玉軸受と隣接する他方の前記玉軸受の外輪の軸方向端部平面とを通過し、前記他方の玉軸受の玉中心から内輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線が、該他方の玉軸受の内輪の内周面と前記一方の玉軸受の内輪の軸方向端部平面とを通過することを特徴とする多列組合せ玉軸受。
(2) 前記並列組合せの各玉軸受は、前記外輪と内輪の少なくとも一方において、前記軸方向中心に対して反対側の溝肩の幅寸法を短くすることで、前記各玉軸受の幅寸法の合計が、ISO規格の標準軸受の合計に相当することを特徴とする(1)に記載の多列組合せ玉軸受。
(3) 少なくとも3列の前記玉軸受が並列組合せで配置され、
該並列組み合わせの玉軸受のうち、軸方向中間に位置する前記玉軸受は、前記外輪及び内輪の両方において、前記接触角の延長線が通過する側の溝肩の幅寸法を長くすることで、ISO規格の標準軸受に対して幅寸法を長くし、
前記軸方向中間に位置する玉軸受の玉中心から外輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線は、該玉軸受の外輪の外周面と該玉軸受と軸方向一方側で隣接する玉軸受の外輪の軸方向端部平面とを通過するとともに、前記軸方向中間に位置する玉軸受の玉中心から内輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線は、該玉軸受の内輪の内周面と該玉軸受と軸方向他方側で隣接する玉軸受の内輪の軸方向端部平面とを通過することを特徴とする(1)または(2)に記載の多列組合せ玉軸受。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多列組合せ玉軸受によれば、並列組合せの各玉軸受は、外輪と内輪の少なくとも一方において、接触角の延長線が通過する側の溝肩の幅寸法を長くすることで、ISO規格の標準軸受に対して幅寸法を長くし、並列組合せの玉軸受のうち、いずれか一方の玉軸受の玉中心から外輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線が、該一方の玉軸受の外輪の外周面と一方の玉軸受と隣接する他方の玉軸受の外輪の軸方向端部平面とを通過し、他方の玉軸受の玉中心から内輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線が、他方の玉軸受の内輪の内周面と一方の玉軸受の内輪の軸方向端部平面とを通過する。このような構成により、非常に大きなスラスト荷重が軸受に負荷された場合、転動体と内外輪の軌道溝との接触部間で発生する接触角方向の荷重は、当該軸受の内外輪のみで負荷せずに、隣り合う軸受の内外輪で該荷重をバックアップすることができる。その結果、当該軸受の内外輪に作用する曲げ応力が大幅に軽減され、軌道輪の破損・割れ等の不具合を防止することが可能となる。その結果、多列組合せ玉軸受としての荷重負荷限界値も大きくできる。また、該延長線が、上述の一方の玉軸受の外輪の外周面、あるいは他方の玉軸受の内輪の内周面を通過する場合は、それぞれハウジング及び軸によって荷重をバックアップすることができる。
【0020】
仮に、図8に示すような従来の玉軸受においても、接触角を60度以上ではなく、例えば、50度程度以下とすれば、玉軸受の玉中心から外輪軌道溝内又は内輪軌道溝内における接触楕円の径方向両端点を結ぶ各線の延長線が、該玉軸受の外輪の外周面又は内輪の内周面と、隣り合う玉軸受の外輪又は内輪の軸方向端部平面とを通過するが、この場合、玉軸受の軸方向の負荷荷重が低下してしまい、転がり疲れ寿命が低下する。一方、本発明の多列組合せ玉軸受とすることで、転がり疲れ寿命の延長と軌道輪の破損防止の両方を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係る多列組合せ玉軸受の断面図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る多列組合せ玉軸受の断面図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る多列組合せ玉軸受の断面図である。
図4】本発明の第4実施形態に係る多列組合せ玉軸受の断面図である。
図5】本発明の多列組合せ玉軸受の変形例を示す断面図である。
図6】一般的な電動式の射出成形機の正面図である。
図7】一般的な電動式の射出成形機の要部拡大図である。
図8】従来の多列組合せ玉軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の各実施形態に係る多列組合せ玉軸受について図面を参照して詳細に説明する。なお、各実施形態に係る多列組合せ玉軸受は、図6及び図7で説明した型締め用ボールねじサポート軸受、イジェクタ軸用ボールねじサポート軸受、射出用ボールねじサポート軸受、ノズルタッチ用ボールねじサポート軸受として組みつけられるものであるが、ここでは多列組合せ玉軸受のみ図示して説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の多列組合せ玉軸受10では、3列のアンギュラ玉軸受11A,11B,11Cが組み合わせて配置されており、そのうち、2列のアンギュラ玉軸受11A,11Bが並列組合せで配置され、また、2列のアンギュラ玉軸受11B,11Cが背面組合せで配置されている。
【0024】
各アンギュラ玉軸受11A,11B,11Cは、内周面に外輪軌道溝12aを有する外輪12と、外周面に内輪軌道溝13aを有する内輪13と、外輪軌道溝12aと内輪軌道溝13aとの間に接触角α1、α2を持って転動自在に配置される玉14と、該玉14を保持する保持器15(図5参照。図1図4では、図示省略。)と、を備える。
【0025】
外輪12の軸方向一方側(図中、右側)の溝肩12bは、玉軸受の軸方向中心、即ち、玉14の中心に対して接触角α1、α2の延長線Lが通過する側の外輪軌道溝12aが長くなるように形成され、また、玉14の中心に対して反対側である、軸方向他方側(図中、左側)の溝肩12cよりも高く形成されている。また、玉14の中心に対して接触角α1、α2の延長線Lが通過する側と反対側の外輪12の溝肩12cには、軸方向他方側に向かって拡径するように傾斜するカウンターボア12dが内周面に形成されている。このカウンターボア12dは、軸受の組立時、玉を挿入する際に必要な形状である。
【0026】
一方、内輪13の溝肩13b、13cにおいては、軸方向一方側の溝肩13bが、断面が傾斜形の保持器15を内外輪12,13間に挿入するために低く形成される。また、内輪13の軸方向他方側の溝肩13cは、玉14の中心に対して接触角α1、α2の延長線Lが通過する側の内輪軌道溝13aが長くなるように形成され、また、玉14の中心に対して反対側である、軸方向一方側の溝肩13bよりも高く形成されている。
【0027】
ここで、並列組合せの2列のアンギュラ玉軸受11A,11Bにおいて、左側の玉軸受11Aの玉中心Oから外輪軌道溝12a内における接触楕円Cの径方向両端点a,bを結ぶ各線の延長線La,Lbが、玉軸受11Aの外輪12の外周面と、玉軸受11Aに軸方向一方側で隣接する右側の玉軸受11Bの外輪12の軸方向端部平面12eとを通過する。また、右側の玉軸受11Bの玉中心から内輪軌道溝13a内における接触楕円Cの径方向両端点a,bを結ぶ各線の延長線La,Lbが、右側の玉軸受11Bの内輪13の内周面と、左側の玉軸受11Aの内輪13の軸方向端部平面13eとを通過する。
【0028】
なお、本発明においては、左側の玉軸受11Aの玉中心Oから外輪軌道溝12a内における接触楕円Cの径方向玉中心寄り(内径側)端点bを結ぶ線の延長線Lbが、右側の玉軸受11Bの外輪12の軸方向端部平面12eを通過し、右側の玉軸受11Bの玉中心から内輪軌道溝13a内における接触楕円Cの径方向玉中心寄り(外径側)端点bを結ぶ線の延長線Lbが、左側の玉軸受11Aの内輪13の軸方向端部平面13eを通過する構成であればよい。
【0029】
即ち、左側の玉軸受11Aの玉中心Oから外輪軌道溝12a内における接触楕円Cの溝底寄り(外径側)端点aを結ぶ線の延長線Laは、玉軸受11Aの外輪12の外周面を通過しているが、右側の玉軸受11Bの外輪12の軸方向端部平面12eを通過してもよい。また、右側の玉軸受11Bの玉中心から内輪軌道溝13a内における接触楕円Cの溝底寄り(内径側)端点aを結ぶ線の延長線Laが、玉軸受11Bの内輪13の内周面を通過しているが、左側の玉軸受11Aの内輪13の軸方向端部平面13eを通過してもよい。
【0030】
そして、本実施形態では、これらの要件を満たすように、アンギュラ玉軸受11Aは、外輪12の軸方向一方側の溝肩12bの幅寸法をΔだけ長くし、ISO規格の標準軸受の幅寸法Bに対してΔだけ幅寸法を長くしている。また、アンギュラ玉軸受11Bも、内輪13の軸方向他方側の溝肩13cの幅寸法をΔだけ長くし、ISO規格の標準軸受の幅寸法Bに対してΔだけ幅寸法を長くしている。
【0031】
また、アンギュラ玉軸受11Aは、内輪13の軸方向一方側の溝肩13bの幅寸法をΔだけ短くし、アンギュラ玉軸受11Bは、外輪12の軸方向他方側の溝肩12cの幅寸法をΔだけ短くしている。従って、アンギュラ玉軸受11A、11Bを並列組合せすると、各玉軸受11A、11Bの幅寸法の合計は、ISO規格の標準軸受の合計の幅寸法2Bとなり、全体としての軸方向幅を変えることなく、上記要件を満たすことができる。
【0032】
具体的に、本実施形態では、軸受内径dが25mm〜120mmの玉軸受11A,11Bにおいて、接触角α1が40°〜60°、好ましくは、45°〜60°、カウンターボア12dの傾斜角度βが0°〜20°、玉径Daが8.7mm〜39mmに設定される。また、玉径Daと径方向肉厚H(=(軸受外径−軸受内径)/2)の比Da/Hは、0.5〜0.7(好ましくは、0.60〜0.70)に設定される。
【0033】
例えば、図1に示すように、アンギュラ玉軸受11Cは、内径dが50mm、外径Dが110mm、幅Bが27mm、接触角α2が60°、玉径Daが20.638mmである、呼び番号7310の玉軸受をそのまま使用する一方、アンギュラ玉軸受11A、11Bでは、呼び番号7310の玉軸受に対して、外輪12及び内輪13の幅寸法を上述したように変更している。これにより、左側の玉軸受11Aの玉中心Oから外輪軌道溝12a内における接触楕円Cの径方向両端点a,bを結ぶ各線の延長線La,Lbが、玉軸受11Aの外輪12の外周面と、玉軸受11Aに軸方向一方側で隣接する右側の玉軸受11Bの外輪12の軸方向端部平面12eとを通過する。また、同様に、内輪13の軸方向一方側の溝肩13bも、右側の玉軸受11Bの玉中心から内輪軌道溝13a内における接触楕円Cの径方向両端点a,bを結ぶ各線の延長線La,Lbが、右側の玉軸受11Bの内輪13の内周面と、左側の玉軸受11Aの内輪13の軸方向端部平面13eとを通過する。
【0034】
このように上記要件を満たすことで、非常に大きなスラスト荷重が多列組合せ玉軸受10に負荷された場合、玉14と内外輪12,13の軌道溝12a,13aとの接触部間で発生する接触角方向の荷重は、玉軸受11A,11Bの内外輪12,13のみで負荷せずに、隣接する玉軸受11A,11Bの内外輪12,13で該荷重をバックアップすることができる。その結果、当該玉軸受11A,11Bの内外輪に作用する曲げ応力が大幅に軽減され、軌道輪の破損・割れ等の不具合を防止することが可能となる。その結果、多列組合せ玉軸受としての荷重負荷限界値も大きくできる。
【0035】
また、外輪12及び内輪13の玉中心から外輪軌道溝12a内又は内輪軌道溝13a内における接触楕円Cの径方向両端点a,bを結ぶ各線の延長線La,Lbが通過する側の溝肩12b、13cの幅寸法、即ち、転動体荷重を負荷する側の外輪12及び内輪13の肉厚を厚くするので、外輪12及び内輪13の荷重に対する軸方向曲げ強度を大きくすることができる。
なお、本実施形態では、外輪側にカウンターボアを設けているが、内輪側にカウンターボアを設けてもよい。
【0036】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態に係る、3列のアンギュラ玉軸受11A、11B、11Cを示している。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明を省略或は簡略化する。
【0037】
第1実施形態では、各玉軸受11A、11B、11Cの幅寸法の合計は3Bとなり、ISO規格の標準軸受を3つ組合せた場合の幅寸法と変わらないが、3つの玉軸受11A、11B、11Cの各構成はすべて異なっている。一方、本実施形態では、背面組合せされる玉軸受11B、11Cの各内輪13,13間に、幅寸法Δの内輪間座16を配置して、並列組合せされる玉軸受11A、11Bの共通化を図っている。この場合、各玉軸受11A、11B、11Cの幅寸法の合計は3B+3Δとなる。また、各玉軸受11A、11B、11Cの予圧すきまは、内輪間座16の幅を調整することで、容易に調整することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0038】
(第3実施形態)
図3は、本発明の第3実施形態に係る、3列のアンギュラ玉軸受11A、11B、11Cを示している。なお、第2実施形態と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明を省略或は簡略化する。
【0039】
本実施形態では、玉軸受11Cも、第2実施形態の玉軸受11A、11Bと同様の構成としており、この場合、背面組合せされる玉軸受11B、11Cの各内輪13,13間に、幅寸法2Δの内輪間座16aを配置している。この場合、各玉軸受11A、11B、11Cの幅寸法の合計は3B+5Δとなる。また、各玉軸受11A、11B、11Cの予圧すきまは、内輪間座16aの幅を調整することで、容易に調整することができる。
その他の構成及び作用については、第2実施形態のものと同様である。
【0040】
(第4実施形態)
図4は、本発明の第4実施形態に係る、3列のアンギュラ玉軸受11A、11B、11Cを示している。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明を省略或は簡略化する。
【0041】
本実施形態では、アンギュラ玉軸受11Cを、第1実施形態の玉軸受11Cに対して、玉径及び幅寸法を小さくすることで、第1実施形態と同様の効果を奏すると共に、多列組み合わせ玉軸受の幅寸法を小さくすることができる。即ち、本実施形態では、アンギュラ玉軸受11Cの玉径を、他のアンギュラ玉軸受11A、11Bの玉径φDa1より小さい、φDa2に、幅寸法を、ISO規格の標準軸受の幅寸法BよりΔ2だけ小さくしている。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0042】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
例えば、本発明の多列組合せ玉軸受10は、一方向の大きな荷重を負荷できるように、図5に示すような、4〜5列の玉軸受11A〜11Eの多列組合せにも適用することができる。なお、図5では、第2実施形態の共通化された並列組合せの玉軸受を4列配置しているが、他の実施形態の玉軸受を配置して構成されてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 多列組合せ玉軸受
11A,11B 玉軸受
12 外輪
12b,12c 溝肩
12d カウンターボア
12e 軸方向端部平面
13 内輪
13b,13c 溝肩
13e 軸方向端部平面
14 玉
15 保持器
α1,α2 接触角
L,La,Lb 延長線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8