特許第6031828号(P6031828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6031828テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031828
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6571 20060101AFI20161114BHJP
   H01M 10/00 20060101ALN20161114BHJP
【FI】
   C07F9/6571
   !H01M10/00
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-122853(P2012-122853)
(22)【出願日】2012年5月30日
(65)【公開番号】特開2013-249261(P2013-249261A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】久保 誠
(72)【発明者】
【氏名】森中 孝敬
(72)【発明者】
【氏名】中原 啓太
(72)【発明者】
【氏名】村本 敏志
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−137890(JP,A)
【文献】 特開2010−143835(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/109802(WO,A1)
【文献】 特開2003−212879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/00
H01M 10/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒中でヘキサフルオロリン酸塩とシュウ酸を混合した後、該混合液に四塩化ケイ素を添加して反応させることにより、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を製造する方法であって、
前記のヘキサフルオロリン酸塩、シュウ酸、及び四塩化ケイ素の添加比が、四塩化ケイ素1モル量に対して、ヘキサフルオロリン酸塩が1.90モル量以上であり、シュウ酸が1.90〜2.10モル量であり、
反応後に得られる溶液中の前記ヘキサフルオロリン酸塩の濃度が35質量%以下であることを特徴とする、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法。
【請求項2】
四塩化ケイ素を添加して反応させる際の温度が、−10〜50℃の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法。
【請求項3】
四塩化ケイ素を添加して反応させた後の反応液を脱気濃縮することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法。
【請求項4】
非水溶媒が、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、鎖状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ニトリル類からなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法。
【請求項5】
ヘキサフルオロリン酸塩の対カチオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一つの対カチオンであることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法によって、
テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩1質量%あたりの塩素イオン濃度が5質量ppm以下で、遊離酸濃度がフッ酸換算で250質量ppm以下であるテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を得ることを特徴とする、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の製造方法によってテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を製造し、そのテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液に、さらに溶質としてヘキサフルオロリン酸塩を含有させることを特徴とする、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池用添加剤に使用されるテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩は非水電解液電池用の添加剤として用いられる。例えば、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムはリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ等の非水電解液電池用添加剤として、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸ナトリウムはナトリウムイオン電池用添加剤として用いられる。その中の一種であるテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムの製造方法として、ヘキサフルオロリン酸リチウムを有機溶媒中において四塩化ケイ素を含む反応助剤の存在下でシュウ酸と反応させる方法が知られている(特許文献1)。この方法では、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム溶液を晶析により精製することが難しいため、非水電解液電池の電池特性に悪影響を与える塩素化合物や遊離酸が少ない、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムを得ることは極めて困難である。
【0003】
他のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムの製造方法として、有機溶媒中においてシュウ酸リチウムの懸濁液に五フッ化リンを反応させる方法が知られている(非特許文献1)。この方法では毒性が強く高圧ガスである五フッ化リンを用いるため、危険を伴い実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3907446号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Electrochemical and Solid-State Letters, 10, A241 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行文献1で開示されたイオン性金属錯体の合成法では、塩素化合物や遊離酸が少ないものを作製することについては何ら考慮されておらず、該方法で得られたイオン性金属錯体は、溶媒との親和性が極めて強く、蒸留乾固により析出させることが難しいことから、後から晶析精製することが難しいため、そのような後工程での精製を必要としないほどに、塩素化合物や遊離酸が少ないイオン性金属錯体を得るためには製法上の改善の余地があった。そこで本発明では、上記のような後工程での晶析精製を必要としないほどに、塩素化合物や遊離酸が少ない、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を安全に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる従来技術の問題点に鑑み鋭意検討の結果、前記のような後工程での精製を必要としないほどに、塩素化合物や遊離酸が少ない、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を安全に製造できる方法を見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、非水溶媒中でヘキサフルオロリン酸塩とシュウ酸を混合した後、該混合液に四塩化ケイ素を添加して反応させることにより、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を製造する方法であって、前記のヘキサフルオロリン酸塩、シュウ酸、及び四塩化ケイ素の添加比が、四塩化ケイ素1モル量に対して、ヘキサフルオロリン酸塩が1.90モル量以上であり、シュウ酸が1.90〜2.10モル量であることを特徴とする、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法である。
【0009】
前記の四塩化ケイ素を添加して反応させる際の温度は、−10〜50℃の範囲であることが好ましい。
【0010】
また、四塩化ケイ素を添加して反応させた後の反応液を脱気濃縮することが好ましい。なお、脱気濃縮とは、前記反応液からの揮発成分を含む気相部を、減圧すること、または、窒素、アルゴン等の不活性ガスやドライ空気等の水分を実質的に含まないキャリアガスを流通することにより、揮発成分を系外に排出し、これにより反応液中の溶質の濃度を上げる方法である。脱気濃縮時の温度は、下限が−20℃、好ましくは10℃で、上限は90℃、好ましくは60℃である。脱気濃縮時の温度が−20℃未満では、濃縮効率が低くなるばかりでなく、反応液が凝固してしまう可能性があるため好ましくない。また、90℃よりも高い場合、反応液が着色したり分解したりし易くなるため好ましくない。
【0011】
また、前記の非水溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、鎖状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ニトリル類からなる群から選ばれる少なくとも一種類以上の溶媒であることが好ましい。
【0012】
また、ヘキサフルオロリン酸塩の対カチオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一つの対カチオンであることが好ましい。
【0013】
また本発明は、上記のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液の製造方法によって得られる、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液であって、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩1質量%あたりの塩素イオン濃度が5質量ppm以下で、遊離酸濃度がフッ酸換算で250質量ppm以下であることを特徴とする、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液である。
【0014】
また、前記テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液は、さらに溶質としてヘキサフルオロリン酸塩を有することが好ましい。
【0015】
また本発明は、上記のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を添加した非水電解液電池用電解液である。
【0016】
また本発明は、上記の非水電解液電池用電解液を用いた非水電解液電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、後工程での晶析精製を必要としないほどに、塩素化合物や遊離酸が少ない、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩を含む溶液を安全に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩の製造に用いるシュウ酸は吸湿性を持ち、湿気を含んだ空気中に放置すると二水和物となるので、市販されている二水和物は、結晶水を離脱させるために乾燥したものを用いることが好ましい。乾燥の方法は特に限定するものではなく、加熱、真空乾燥等の方法を用いることができる。乾燥させたシュウ酸中の水分が1000質量ppm以下のものが好ましく、300質量ppm以下のものがより好ましい。水分濃度が1000質量ppmを上回ると、ヘキサフルオロリン酸塩及びテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩が加水分解され易くなるため、好ましくない。
【0019】
本発明のテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩の製造に用いる非水溶媒は環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、鎖状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ニトリル類からなる群から選ばれた少なくとも一種類以上の溶媒であることが好ましく、具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類を挙げることができる。これらの溶媒は脱水されたものを用いることが好ましい。脱水の方法は特に限定されず、例えば、合成ゼオライト等により水を吸着させる方法などを用いることができる。本発明に使用する非水溶媒中の水分濃度は、好ましくは100質量ppm以下である。水分濃度が100質量ppmを上回ると、ヘキサフルオロリン酸塩及びテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩が加水分解され易くなるため、好ましくない。また、本発明に用いる非水溶媒は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を用途に合わせて任意の組み合わせ、任意の比率で混合して用いてもよい。
【0020】
本発明に使用する非水溶媒中のヘキサフルオロリン酸塩の濃度は、特に限定されず任意の濃度とすることができるが、下限は、好ましくは1質量%、より好ましくは5質量%であり、また、上限は、好ましくは35質量%、より好ましくは30質量%の範囲である。1質量%を下回ると、得られるテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液は、希薄なため、非水電解液電池の電解液として使用するには長時間の濃縮を要するため経済的ではない。一方、35質量%を超えると溶液の粘度が上昇することにより、反応がスムーズに進行し難いため、好ましくない。
【0021】
ヘキサフルオロリン酸塩の添加比は、四塩化ケイ素1モル量に対して、1.90モル量以上であり、1.95モル量以上であることがより好ましい。前記添加比が、1.90モル量より少ないと、副生成物としてジフルオロビス(オキサラト)リン酸塩が多く生成する。ジフルオロビス(オキサラト)リン酸塩は、非水電解液電池の電解液に多く含まれると、充放電時のガス発生量が多くなってしまう。前記添加比が、2.00モル量以上である場合、過剰のヘキサフルオロリン酸塩は反応せずにそのまま溶液に残存するが、ヘキサフルオロリン酸塩は非水電解液電池の電解液の主電解質として用いられているため、予めヘキサフルオロリン酸塩を任意の量で過剰に加えることで、得られた溶液を非水電解液電池の電解液として用いることも可能である。その際、反応せずにそのまま溶液に残存するヘキサフルオロリン酸塩の該溶液中の濃度が高くなりすぎると、該溶液の粘度が高くなりすぎてしまい、反応がスムーズに進行し難くなる恐れがある。そのため、前記ヘキサフルオロリン酸塩の添加比の上限は、前記反応後に得られる溶液中のヘキサフルオロリン酸塩の濃度が35質量%以下となるように設定されることが好ましい。
【0022】
シュウ酸の添加比は、四塩化ケイ素1モル量に対して、1.90〜2.10モル量の範囲であり、1.95〜2.05モル量の範囲であることがより好ましい。前記添加比が、1.90モル量よりも少ないと、副生成物として不揮発性の塩素化合物が多く生成し、得られる溶液中の塩素イオン濃度が高くなるため、非水電解液電池の添加剤として用いることが困難となる。前記添加比が、2.10モル量よりも多いと、得られる溶液中の遊離酸濃度が高くなるため、非水電解液電池の添加剤として用いることが困難となる。
【0023】
四塩化ケイ素を添加して反応させる際の温度は−10℃〜50℃の範囲が好ましい。より好ましくは、5℃〜35℃の範囲である。反応させる際の温度が50℃を超えると、四塩化ケイ素の揮発量が多く、目的量の反応が進行し難くなり、その結果、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩の収率が低くなったり、得られる溶液中の遊離酸濃度が高くなったりする傾向があるため、好ましくない。このとき、四塩化ケイ素をさらに加えて目的量まで反応を進行させることができるが、不揮発性の塩素化合物も生成する可能性があり、また、経済的でない。反応させる際の温度が−10℃より低いと、溶液の粘度が高く反応性が低くなるため反応時間を長くする必要があり、経済的でない。
【0024】
四塩化ケイ素の添加方法は特に限定するものではなく、状況に合わせた任意の条件で実施すればよいが、例えば、不活性ガスを用いて圧送する方法、定量ポンプを用いて導入する方法が挙げられる。
【0025】
四塩化ケイ素の添加時間は特に限定するものではなく、任意の時間とすることができるが、1〜10時間かけて添加することが好ましい。添加時間が1時間を下回ると、未反応のまま揮発する四塩化ケイ素量が多く、目的量の反応が進行し難いため、好ましくない。導入時間が10時間を上回ると、長時間を要するため経済的ではない。四塩化ケイ素の添加後、さらに1〜3時間程度保持して反応させることが好ましい。
【0026】
上記の反応で生成するテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩は、水分により加水分解され易いので、水分を含まない雰囲気で反応を実施することが好ましい。例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気中で反応を行うことが好ましい。
【0027】
上記の反応で得られたテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液に含まれている塩化水素、四フッ化ケイ素、または四塩化ケイ素は反応器を減圧することで取り除くことができる。また、減圧処理の後でろ過することで、不溶解物を取り除くことができる。
【0028】
上記の減圧処理や、さらにろ過を行った後に得られるテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液には、減圧処理やろ過で除去されない塩素化合物、遊離酸、またはヘキサフルオロリン酸塩が含まれる。例えば、塩素化合物についてはテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩1質量%あたりの塩素イオン濃度で5質量ppm以下、且つ、遊離酸についてはフッ酸換算した酸濃度で250質量ppm以下である、塩素化合物(塩素イオン)及び遊離酸が少ないテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を得ることができる。塩素イオン濃度が5質量ppmより高い場合や、遊離酸濃度が250質量ppmより高い場合、非水電解液電池の添加剤として用いると、該添加剤を用いた非水電解液電池の特性に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。
【0029】
本発明で得られるテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液を非水電解液電池用電解液として用いるために調製する方法については、特に限定するものではなく、本発明の製造方法により得られるテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩溶液に、所定の濃度になるように、前記非水溶媒、主電解質、またはその他の添加剤を添加することで、所望の非水電解液電池用電解液を得ることができる。添加する主電解質としては、例としてリチウムイオン電池においては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiPF(C、LiB(CF、LiBF(C)等に代表される電解質リチウム塩が挙げられる。また、添加するその他の添加剤としては、例としてリチウムイオン電池においては、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、t−ブチルベンゼン、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジフルオロアニソール、フルオロエチレンカーボネート、プロパンサルトン、ジメチルビニレンカーボネート等の過充電防止効果、負極皮膜形成効果、正極保護効果を有する化合物が挙げられる。また、本発明により得られたテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩とヘキサフルオロリン酸塩の混合溶液を非水電解液電池用電解液として用いてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
露点−50℃のグローブボックス中で1000ml三口フラスコに水分10質量ppmに脱水したジエチルカーボネート(DEC)460gを加え、攪拌しながら、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)76.0gを加えて溶解した。次いで、水分150質量ppmに乾燥させたシュウ酸45.0gを加えた。前記三口フラスコをグローブボックスの外に出し、25℃に設定したウォーターバスに漬け、十分に攪拌した。次に、四塩化ケイ素42.5gをコック付きフラスコに入れ、口にはセプタムを付けた。セプタムにキャニューラーを刺し、コックを開き窒素ガスを入れることで、ヘキサフルオロリン酸リチウム・シュウ酸・ジエチルカーボネートの混合液にキャニューラーを用いて四塩化ケイ素を圧送し、1時間かけて滴下した。滴下開始と同時に四フッ化ケイ素及び塩化水素ガスが発生した。発生したガスはソーダ石灰を充填した缶に流して、吸収させた。未溶解のシュウ酸が溶解し、反応が進行した。添加終了後、1時間攪拌を続け反応終了とした。なお、本実施例において、四塩化ケイ素1モル量に対する、ヘキサフルオロリン酸リチウムの添加比(表1中で「ヘキサフルオロリン酸塩の添加比」と表記する)は2.00モル量であり、四塩化ケイ素1モル量に対する、シュウ酸の添加比(表1中で「シュウ酸の添加比」と表記する)は2.00モル量である。得られた反応液から50℃、133Paの減圧条件でジエチルカーボネートを留去した。この後、三口フラスコをグローブボックスに入れ、ジエチルカーボネート溶液をメンブレンフィルターでろ過した。ろ液をNMR管に数滴取り、内部標準を添加して、アセトニトリル−d3を加えて溶解させた後、NMR測定した。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが30質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが0.2質量%含まれていた。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムの収率はヘキサフルオロリン酸リチウムの仕込み量基準で99%であった。
【0032】
含まれる塩素イオン濃度を測定するため、蛍光X線測定を行った。ろ液中の塩素イオン濃度を求め、該濃度をテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、0.4質量ppmとなった。前記濃度を表1において「塩素イオン濃度」として示す。
【0033】
滴定法で含まれる遊離酸の濃度を測定した。ろ液中の遊離酸の濃度をテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウム濃度で割り、1質量%あたりに換算したところ、フッ酸換算で20質量ppmであることが分かった。前記濃度を表1において「遊離酸濃度」として示す。
【0034】
【表1】
【0035】
[実施例2]
シュウ酸46.8gを用い、四塩化ケイ素に対しシュウ酸をモル比で1:2.08とした他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが31質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが0.2質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0036】
[実施例3]
シュウ酸43.2gを用い、四塩化ケイ素に対しシュウ酸をモル比で1:1.92としたことと、非水溶媒にエチルメチルカーボネート(EMC)を用いたこと以外は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが29質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが1.4質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0037】
[実施例4]
ヘキサフルオロリン酸リチウム73.0gを用い、四塩化ケイ素に対しヘキサフルオロリン酸リチウムをモル比で1:1.92としたことと、非水溶媒に酢酸エチル(AcOEt)を用いたこと以外は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが30質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが0.1質量%、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが0.1質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0038】
[実施例5]
ヘキサフルオロリン酸リチウム190.0gを用い、四塩化ケイ素に対しヘキサフルオロリン酸リチウムをモル比で1:5.00とした他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが9質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが23質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0039】
[実施例6]
実施例1のジエチルカーボネート(DEC)に代えて、ジメチルカーボネート(DMC)460gを、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)に代えて、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)84.0gを加え、ウォーターバスの温度を45℃に設定した他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸ナトリウムが31質量%、ヘキサフルオロリン酸ナトリウムが0.6質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0040】
[実施例7]
実施例1のヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)に代えて、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)92.0gを加え、ウォーターバスの温度を0℃に設定した他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸カリウムが29質量%、ヘキサフルオロリン酸カリウムが1.2質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0041】
[実施例8]
実施例1のジエチルカーボネート(DEC)に代えて、水分30質量ppmに脱水したテトラヒドロフラン(THF)450gを、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)に代えて、ヘキサフルオロリン酸テトラエチルアンモニウム((Et)NPF)137.6gを加え、ウォーターバスの温度を20℃に設定した他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸テトラエチルアンモニウムが33質量%、ヘキサフルオロリン酸テトラエチルアンモニウムが0.3質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0042】
[実施例9]
実施例1のジエチルカーボネート(DEC)に代えて、水分30質量ppmに脱水した酢酸メチル(AcOMe)450gを、ヘキサフルオロリン酸リチウム114.1gを、シュウ酸67.6gを、四塩化ケイ素63.8gを加えた他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが32質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが0.2質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0043】
[実施例10]
非水溶媒として水分30質量ppmに脱水したアセトニトリル(MeCN)を用いたこと以外は実施例9と同様に合成し、実施例9と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが31質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが0.2質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0044】
[実施例11]
反応温度を−15℃とした他は実施例1と同様に合成したが、反応性が低いため、四塩化ケイ素を添加した後、96時間反応させた。実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが30質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが3質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0045】
[実施例12]
反応温度を60℃とした他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが30質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが2質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
シュウ酸56.3gを用い、四塩化ケイ素1モル量に対する、シュウ酸の添加比を2.50モル量とした他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが32質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが0.2質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。このように、四塩化ケイ素1モル量に対するシュウ酸の添加比が2.10モル量を超えるほど、シュウ酸を過剰に加えた場合、得られる溶液中の遊離酸濃度が高くなり過ぎて非水電解液電池の添加剤として用いることが困難となる。
【0047】
[比較例2]
シュウ酸40.5gを用い、四塩化ケイ素1モル量に対する、シュウ酸の添加比を1.80モル量とした他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが31質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが3.1質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。このように、四塩化ケイ素1モル量に対するシュウ酸の添加比が1.90モル量未満となるようにした場合、四塩化ケイ素が過剰になり副生成物として不揮発性の塩素化合物が多く生成することにより、得られる溶液中の塩素イオン濃度が高くなり過ぎて非水電解液電池の添加剤として用いることが困難となる。
【0048】
[比較例3]
ヘキサフルオロリン酸リチウム70.3gを用い、四塩化ケイ素1モル量に対する、ヘキサフルオロリン酸リチウムの添加比を1.85モル量とした他は実施例1と同様に合成し、実施例1と同様にNMR測定、塩素イオン濃度測定、遊離酸濃度測定をした。NMRの積分比から、ろ液に含まれる化合物の含有率を計算した。テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムが30質量%、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムが2.8質量%、ヘキサフルオロリン酸リチウムが0.1質量%含まれていた。収率、塩素イオン濃度、遊離酸濃度の測定結果を表1に示す。このように、四塩化ケイ素1モル量に対するヘキサフルオロリン酸塩の添加比が1.90モル量未満となるようにした場合、シュウ酸及び四塩化ケイ素が過剰になり、得られる溶液中に副生成物としてジフルオロビス(オキサラト)リン酸塩が多く含まれてしまう。