(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光ファイバ母材を回転させながら線引きする場合、まず、光ファイバ母材の下端側を加熱し、加熱により溶融したガラスの塊が自重で下方へ引き延ばされる部分(以下、落とし種とも称する)を引き落とす工程を行う。その後、その落とし種により引き伸ばされた溶融ガラスをキャプスタンローラまで線掛けし、定常線速まで上昇させつつ光ファイバ用のガラス母材を一定の回転速度で回転させ、光ファイバの線引きを開始する。
【0007】
しかしながら、回転させながら線引きを行っても、コアあるいはクラッドの断面形状が楕円や歪んだ円の形状になってしまったりコアが偏芯してしまったりする構造外れの光ファイバが製造される場合があった。
【0008】
本発明は、高品質な光ファイバを安定して製造することが可能な光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の光ファイバの製造方法は、光ファイバ母材を加熱炉に配置して加熱し、加熱により溶融した前記光ファイバ母材の先端部の溶融部分の塊を下方へ引き落とす溶融部落下工程と、前記溶融部落下工程の後、前記溶融部分の溶融ガラスを引取部により張力をかけて引き伸ばすことで前記光ファイバ母材を細径化する細径化工程と、を含み、
前記溶融部落下工程において、前記光ファイバ母材を軸回りに回転させることを特徴とするものである。
【0010】
前記細径化工程において、前記光ファイバ母材を軸回りに回転させるとともに、前記溶融部落下工程における前記光ファイバ母材の回転速度は、前記細径化工程における前記光ファイバ母材の回転速度よりも速いことが好ましい。
【0011】
前記溶融部落下工程における前記光ファイバ母材の回転速度は、0.2rpm以上であることが好ましい。
【0012】
前記光ファイバ母材の上端近傍を細径化する際の前記光ファイバ母材の回転速度は、前記光ファイバ母材の中央部分を細径化する際の前記光ファイバ母材の回転速度よりも速いことが好ましい。
【0013】
前記光ファイバ母材の上端近傍を細径化する際の前記光ファイバ母材の回転速度は、0.2rpm以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の光ファイバの製造方法は、光ファイバ母材を加熱炉で加熱し、加熱により溶融した溶融部分の溶融ガラスを、引取部により張力をかけて下方に引き伸ばすことで前記光ファイバ母材を細径化する細径化工程を含む光ファイバの製造方法であって、前記光ファイバ母材の上端近傍を細径化する際、前記光ファイバの母材を軸回りに回転させることを特徴とするものである。
【0015】
前記光ファイバ母材の中央部分を細径化する際にも前記光ファイバ母材を軸回りに回転させるとともに、前記光ファイバ母材の上端近傍を細径化する際の前記光ファイバ母材の回転速度は、前記光ファイバ母材の中央部分を細径化する際の前記光ファイバ母材の回転速度よりも速いことが好ましい。
【0016】
前記光ファイバ母材の上端近傍を細径化する際の前記光ファイバ母材の回転速度は、0.2rpm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記の光ファイバの製造方法によれば、溶融部落下工程の際に光ファイバ母材を軸回りに回転させながら加熱炉で加熱したり、または、光ファイバ母材の上端近傍を細径化する際、光ファイバ母材を軸回りに回転させながら、溶融部分に張力をかけて下方に引き伸ばすことで、光ファイバ母材の溶融状態を周方向および長さ方向で常に均一に保ち、構造外れの光ファイバが製造されるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る光ファイバの製造方法の実施の形態の一例について説明する。
まず、本発明に係る光ファイバの製造方法が適用される光ファイバの製造装置について説明する。
図1に示すように、光ファイバの製造装置1は、その最も上流側に、光ファイバ用のガラス母材(光ファイバ母材)Gを加熱する加熱炉21を備えている。加熱炉21は、内側にガラス母材Gが供給される円筒状の炉心管3と、この炉心管3を囲む発熱体4とを備え、発熱体4によりガラス母材Gを軟化させる加熱領域が形成される。また、加熱炉21には、加熱領域にパージガスを供給するガス供給部5が設けられている。
【0020】
ガラス母材Gは、その上部のダミー棒Dが把持機構6によって把持されることで支持されて、炉心管3の内側の加熱領域にその下端部分が位置するように加熱炉21内に送られ、下方に引き伸ばされて細径化され、樹脂被覆前の光ファイバ(以下、ガラスファイバという)G1が形成される。
【0021】
把持機構6は、ダミー棒Dを把持してガラス母材Gを軸回りに回転させる回転機構22と、把持したガラス母材Gを回転機構22とともに軸方向(Z方向)に対して直交する水平方向(XY方向)に移動させる水平移動機構23と、把持したガラス母材Gを線引きの進行にともなって下降等をさせるフィーダ24とを備えている。
【0022】
加熱炉21の下流側には、ファイバ位置測定器25が設けられており、このファイバ位置測定器25によって、ガラス母材Gから線引きされたガラスファイバG1の水平方向の位置が検出される。
【0023】
このファイバ位置測定器25の下流側には、ヘリウムガス等の冷却ガスを用いた冷却装置7が設けられており、これにより、ガラスファイバG1は冷却される。冷却装置7は、一対の冷却装置本体7aを有する開閉可能な半割り構造とされており、冷却装置本体7aを互いに近接させて突き合わせた閉状態でガラスファイバG1を冷却する。
【0024】
冷却装置7を出たガラスファイバG1は、例えばレーザ光式のクラッド外径測定器8によりその外径が測定される。ガラスファイバG1の外径は、例えば125μmである。
【0025】
クラッド外径測定器8の下流側には、ガラスファイバG1に紫外線硬化型樹脂を塗布するダイス9及び塗布された紫外線硬化型樹脂を硬化させるための紫外線照射装置10が順に設けられている。このダイス9及び紫外線照射装置10を通過したガラスファイバG1は、その外周に紫外線硬化型樹脂の被覆層が形成され、光ファイバG2とされる。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート樹脂が用いられる。光ファイバG2の外径は、例えば250μmである。
【0026】
光ファイバG2は、紫外線照射装置10を通過した後、加熱炉21の直下に設けられたガイドローラである直下ローラ12に掛けられ、この直下ローラ12によって走行方向が変更される。そして、この直下ローラ12によって走行方向が変更された光ファイバG2は、検査装置11によって、その被覆層が監視される。この検査装置11は、気泡検出器、外径測定器あるいはコブ(凹凸)検出器等の検出器であって、光ファイバG2の被覆層における気泡の有無、被覆層の外径あるいは被覆層におけるコブ(凹凸)の有無を光学的(例えばレーザ光式)に検出し、不良の発生を監視する光学機器である。
【0027】
この検査装置11の下流側には、ガイドローラ13が設けられており、検査装置11によって検査される光ファイバG2の走行は、直下ローラ12とガイドローラ13によってガイドされる。
【0028】
ガイドローラ13を通過した光ファイバG2は、その後、キャプスタンローラ14(引取部の一例)により引き取られ、スクリーニング装置15及びダンサローラ16,17を介して巻き取りボビン18に送られて巻き取られる。
【0029】
また、光ファイバの製造装置1は、制御部27を備えている。この制御部27には、回転機構22、水平移動機構23、フィーダ24、ファイバ位置測定器25、クラッド外径測定器8、検査装置11、キャプスタンローラ14等が通信可能に接続されており、制御部27は、ファイバ位置測定器25、クラッド外径測定器8等からの検出信号に基づいて、回転機構22、水平移動機構23及びフィーダ24等を制御する。
【0030】
次に、上記の光ファイバの製造装置1によって光ファイバを製造する方法の例について説明する。
まず、加熱炉21にガラス母材Gを導入し、発熱体4によってガラス母材Gの下端部分(線引き開始端の一例)を加熱する。加熱する際、回転機構22によって、ガラス母材Gを軸回りに、周方向の一方へ一定の回転速度(例えば約5分で1周の割合)で回転させる。
【0031】
ガラス母材Gを回転させながら加熱し続けると、ガラス母材Gの下端部分が溶融し、その溶融部分の塊(落とし種)が自重で下方へ落下する。ここまでの工程が本発明の溶融部落下工程の一例である。
【0032】
溶融部分の塊が落下した後、その溶融部分の溶融ガラスをキャプスタンローラ14まで線掛けし、定常線速まで上昇させつつ、ガラス母材Gを、溶融部落下工程のときよりも遅い一定の回転速度(例えば約10分で1周の割合)で回転させ、光ファイバG2の線引きを開始する。この工程以降が本発明の細径化工程の一例である。
【0033】
制御部27は、線引き開始後の適当な線速まで線速が上昇したら、冷却装置7を閉じてガラスファイバG1の冷却を開始する。また、線引きしたガラスファイバG1の外周に、ダイス9によって紫外線硬化型樹脂を塗布し、紫外線照射装置10によって紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射して硬化させ、樹脂が被覆された光ファイバG2とする。
【0034】
その後、水平移動機構23でガラスファイバG1の位置を調整しながら、定常製造時の製造線速VでガラスファイバG1を線引きする。なお、製造線速Vは、例えば、1600m/分である。
【0035】
樹脂を被覆した光ファイバG2の走行方向を、直下ローラ12によって変更して検査装置11へ案内する。そして、光ファイバG2を検査装置11へ通過させることにより、この検査装置11で被覆層における気泡の有無、被覆層の外径あるいは被覆層におけるコブの有無等の形状を光学的に検査する。
【0036】
形状検査を行った光ファイバG2を、ガイドローラ13によってキャプスタンローラ14へ案内し、キャプスタンローラ14によって引き取らせて所定の張力を付与し、スクリーニング装置15及びダンサローラ16,17を介して巻き取りボビン18で巻き取る。
【0037】
本実施の形態では、線引き開始から一定の時間が経過し、ガラス母材Gの中央部分からの線引きが終了した後、再びガラス母材Gを軸回りの回転速度を上げて(例えば約5分で1周の割合)、ガラス母材Gの上端近傍の部分(線引き終了端)からの線引きを続ける。なお、ガラス母材Gの中央部分とは、いわゆる線引きの有効部分となる箇所であり、製品となる光ファイバを安定して線引きできる部分を意味する。ガラス母材Gの下端部分は、加熱炉21内に導入されたガラス母材Gが最初に加熱される部分であり、ガラス母材Gの上端近傍の部分は下端部分の反対側の端近傍の部分である。
【0038】
上記のように、本実施形態では、加熱炉21にガラス母材Gを導入して加熱し、溶融させる時点から、換言すると、細径化工程が開始される前の落とし種を落下させる時点から、回転機構22によって、ガラス母材Gを軸回りに、例えば約0.2rpmの回転速度で回転させる。その後、ガラス母材Gの中央部分からの線引きが始まる前に、ガラス母材の回転速度を半分程度の例えば約0.1rpmまで落として、線引きを開始する。ガラス母材Gの中央部分からの線引きが終了する前に、再びガラス母材Gを例えば約0.2rpmまで回転速度を上げて、ガラス母材Gの上端近傍の線引きを行う。
【0039】
一般に、ガラス母材Gの上端部等に生じる未焼結部分は非対称な形状になりやすく、その非対称な部分は、加熱時のガラス母材G上の熱分布の偏りの原因となる。また下端部も、形状が非対称になりやすい。ガラス母材G上の熱分布に偏りがあると、ガラス母材Gの下端部分から落とし種が引き落とされる際、落とし種が落下した後のガラス母材Gの下端の略円錐形状の部分(以下、ネックダウン部と称する場合もある)の周方向および長さ方向の形状に偏りが生じてしまう。このように、ネックダウン部に熱分布の偏りが生じると、その後ガラス母材を回転させてもしばらく偏りが残った状態で線引きされることになるため、ガラス母材の中央部分でも、構造外れが生じてしまう場合がある。
【0040】
ネックダウン部の形状に偏りがあると、そこから線引きされる光ファイバG2の外径が非円になったりコアが偏心してしまったりして、構造外れの原因となり得る。
【0041】
そこで、本実施形態では、上述のように、加熱炉21にガラス母材Gを導入して加熱して溶融させる時点から、換言すると、細径化工程が開始される前の落とし種を落下させる時点から、ガラス母材Gを回転させることで、非対称形状の部分を含むガラス母材Gの下端部分を均一に加熱して、ガラス母材Gの溶融部分の熱分布の偏りを抑制する。熱分布の偏りを抑えることで、ネックダウン部の周方向および長さ方向の形状の偏りを抑え、構造外れの少ない光ファイバG2を安定的に生産することができる。
【0042】
また、本実施形態では、落とし種を落下させる際のガラス母材Gの回転速度を、ガラス母材Gの中央部分を線引きしている際のガラス母材Gの回転速度の約2倍に設定している。具体的には、落とし種を落下させる際のガラス母材Gの回転速度を例えば約0.2rpmとし、ガラス母材Gの中央部分を線引きしている際のガラス母材Gの回転速度を例えば約0.1rpmと設定している。このように回転速度を設定することで、ネックダウン部の周方向および長さ方向の形状の偏りを効果的に抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、ガラス母材Gの上端近傍を線引きしている際のガラス母材Gの回転速度を、ガラス母材Gの中央部分を線引きしている際のガラス母材Gの回転速度の例えば約2倍に設定している。具体的には、ガラス母材Gの上端近傍を線引きしている際のガラス母材Gの回転速度を例えば約0.2rpmとし、ガラス母材Gの中央部分を線引きしている際のガラス母材Gの回転速度を例えば約0.1rpmと設定している。ガラス母材Gは、下端部分だけでなく、上端近傍の部分にも未焼結部分や非対称形状の部分を有するため、上記のように回転速度を設定することで、ガラス母材Gの上端近傍を均一に加熱して、ガラス母材Gの溶融部分の熱分布の偏りを抑制する。熱分布の偏りを抑えることでネックダウン部の周方向および長さ方向の形状の偏りを抑え、構造外れの少ない光ファイバG2を安定的に生産することができる。
【0044】
また、落とし種を落下させる際の回転速度と、ガラス母材Gの上端近傍を線引きしている際のガラス母材Gの回転速度を、上記のように設定することで、未焼結部分や非対称形状の部分を含む傾向にあるガラス母材Gの上端近傍の部分や下端近傍の部分からも、構造外れの少ない光ファイバを線引きすることができる。
【0045】
なお、上記の実施形態では、落とし種を落下させる際から、ガラス母材Gの上端近傍の線引きが終了するまで、回転速度を変えつつガラス母材Gを回転させて線引きする例を説明したが、この例に限られない。例えば、落とし種を落下させる溶融部落下工程でのみガラス母材Gを回転させても良い。このような構成であっても、ガラス母材Gの下端部分に含まれる非対称形状の部分を均一に加熱して、ガラス母材Gの溶融部分の熱分布の偏りを抑制することができる。従って、ネックダウン部の周方向および長さ方向の形状の偏りを抑え、構造外れの少ない光ファイバG2を安定的に生産することができる。
【0046】
また、ガラス母材Gの上端近傍を線引きするときのみ、ガラス母材Gを回転させる構成としてもよい。このような構成であっても、ガラス母材Gの上端近傍の部分に含まれる未焼結部分や非対称形状の部分を均一に加熱して、ガラス母材Gの溶融部分の熱分布の偏りを抑制することができる。従って、ネックダウン部の周方向・長さ方向の形状の偏りを抑え、構造外れの少ない光ファイバG2を安定的に生産することができる。
【0047】
本発明者は、本発明の効果を確認するため実験を行った。以下、
図2〜
図7を参照して、実験結果について説明する。
【0048】
図2は、ガラス母材から落とし種を落下させる際から、所定の回転速度でガラス母材を軸回りに回転させ、落とし種が落下した後、回転速度0.1rpmで回転させながら、ガラス母材の下端部分を線引きして得られた光ファイバのコア偏芯量を示している。ここでいうコア偏芯量は、コアの中心位置とクラッドの中心位置との間の最短距離であり、値が小さいほど同心円に近いと評価できる。また、
図3は、ガラス母材から落とし種を落下させる際から、所定の回転速度でガラス母材を軸回りに回転させ、落とし種が落下した後、回転速度0.1rpmで回転させながら、ガラス母材の下端部分を線引きして得られた光ファイバの断面形状のクラッド非円率を示している。クラッド非円率は、光ファイバの断面形状の長径と短径の差分を、長径と短径の平均値で割った値の百分率であり、その数値が小さいほど真円に近いと評価できる。
【0049】
図2,
図3に示されるように、回転速度が0.00rpmの場合、すなわち、ガラス母材を回転させなかった場合は、そのガラス母材の下端部分から線引きされた光ファイバのコア偏芯量は0.19μmであり、クラッド非円率が0.15%であった。一方、落とし種の落下前からガラス母材を0.1rpmの回転速度で回転させ、そのガラス母材から線引きされた光ファイバの断面形状を検証したところ、コア偏芯量は0.13μmであり、クラッド非円率は0.09%であって、コア偏芯量とクラッド非円率ともに小さくなった。
【0050】
また、落とし種を落下させる際からガラス母材を0.2rpmの回転速度で回転させ、そのガラス母材から線引きされた光ファイバの断面形状を検証したところ、コア偏芯量は0.10μmであって、さらに、コア偏芯量が小さくなった。なお、回転速度を0.2rpm以上速くしても、
図2,
図3に示されるように、コア偏芯量やクラッド非円率に大きな変化は見られなかった。したがって、少なくとも回転速度を0.2rpm以上とすることで、コア偏芯量とクラッド非円率を構造外れに該当しない程度まで小さく抑えられるといえる。
【0051】
次に、
図4,
図5に示される実験結果について説明する。
図4は、所定の回転速度でガラス母材を軸回りに回転させつつ、ガラス母材の上端部分を線引きして得られた光ファイバのコア偏芯量を示している。
図5は、所定の回転速度でガラス母材を軸回りに回転させつつ、ガラス母材の上端部分を線引きして得られた光ファイバの断面形状のクラッド非円率を示している。
【0052】
図4,
図5に示されるように、回転速度が0.00rpmの場合、すなわち、ガラス母材を回転させなかった場合は、そのガラス母材の上端部分から線引きされた光ファイバのコア偏芯量は0.18μmであり、クラッド非円率が0.2%であった。一方、ガラス母材を0.05rpmの回転速度で回転させ、そのガラス母材から線引きされた光ファイバの断面形状を検証したところ、コア偏芯量は0.15μmであり、クラッド非円率は0.08%であって、コア偏芯量とクラッド非円率は両方とも小さくなった。
【0053】
また、ガラス母材を0.10rpmの回転速度で回転させ、そのガラス母材から線引きされた光ファイバの断面形状を検証したところ、コア偏芯量は0.11μmであって、さらに、コア偏芯量が小さくなった。また、ガラス母材を0.2rpmの回転速度で回転させ、そのガラス母材から線引きされた光ファイバの断面形状を検証したところ、コア偏芯量は0.09μmであり、クラッド非円率は0.09%であって、さらに、コア偏芯量が小さくなった。なお、回転速度を0.2rpm以上速くしても、
図4,
図5に示されるように、コア偏芯量やクラッド非円率に大きな変化は見られなかった。したがって、少なくとも回転速度を0.2rpm以上とすることで、コア偏芯量とクラッド非円率を構造外れに該当しない程度まで小さく抑えられるといえる。
【0054】
次に、
図6,
図7に示される実験結果について説明する。
図6は、所定の回転速度でガラス母材を軸回りに回転させつつ、ガラス母材の中央部分を線引きして得られた光ファイバのコア偏芯量を示している。
図7は、所定の回転速度でガラス母材を軸回りに回転させつつ、ガラス母材の中央部分を線引きして得られた光ファイバの断面形状のクラッド非円率を示している。なお、この場合、落とし種を落下させる際には、ガラス母材を0.2rpmで回転させて線引きを開始し、その後、中央部分の線引き時に
図6,
図7に示すような回転速度に変化させている。
【0055】
図6,
図7に示されるように、回転速度が0.00rpmの場合、すなわち、ガラス母材を回転させなかった場合は、そのガラス母材の中央部分から線引きされた光ファイバのコア偏芯量は0.09μmであり、クラッド非円率が0.12%であった。中央部分を線引きする場合は、ガラス母材の回転速度を0.05rpm、0.1rpm、0.3rpmと変化させても、回転させない場合よりは若干良くはなるものの、コア偏芯量とクラッド非円率には大きな変化は見られなかった。これは、下端部分線引時にガラス母材を回転させているため、熱の偏りが生じることなく安定に線引きできているためと考えられる。
【0056】
以上の実験結果から、落とし種を落下させる際のガラス母材の回転速度を0.2rpmとし、ガラス母材の中央部分から線引きを行っている際のガラス母材の回転速度を0.1rpmと設定し、さらに、ガラス母材の上端近傍から線引きを行っている際のガラス母材の回転速度を0.2rpmと設定することで、コア偏芯量とクラッド非円率を構造外れに該当しない程度まで小さく抑えつつ、ガラス母材の全体から高品質な光ファイバ母材を安定して得られることを見出した。なお、回転速度は上記の回転速度よりも大きくしても、コア偏芯量やクラッド非円率の面では問題ないが、あまり速くし過ぎると、クラッド外径測定器の測定範囲を外れたり、クラッド外径や被覆外径の変動が生じたりといった別の問題が生じるため、あまり速くし過ぎない方が好ましい。このような点も含めて総合的に考えると、コア偏芯量とクラッド非円率を小さくすることができる最低限の回転速度として、中央部分では0.1rpm程度とし、下端近傍と上端近傍では中央部分よりも回転速度を上げて0.2rpm程度とするのが好ましい。
【0057】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。