(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031843
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール用束着管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 63/00 20060101AFI20161114BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20161114BHJP
C08J 7/14 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
B01D63/00
B01D63/02
C08J7/14CEZ
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2012-138559(P2012-138559)
(22)【出願日】2012年6月20日
(65)【公開番号】特開2014-544(P2014-544A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年5月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「省エネルギー革新技術開発事業/先導研究/次世代分離プロセス用カーボン膜モジュールの研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】井川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】幸田 穣
【審査官】
関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−057154(JP,A)
【文献】
特表2003−512490(JP,A)
【文献】
特開2011−156538(JP,A)
【文献】
特開平03−165818(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/101961(WO,A1)
【文献】
特開平06−277460(JP,A)
【文献】
特開平06−057136(JP,A)
【文献】
特開平01−254209(JP,A)
【文献】
米国特許第4835016(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 63/00
B01D 63/02
C08J 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族、脂環式または芳香族アミン硬化系エポキシ樹脂封止剤を用いるポリエーテルエーテルケトン樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂製束着管を、濃度4〜10モル/Lの硫酸に50〜80℃の温度条件下で8〜36時間浸せき処理した後、純水で洗浄することを特徴とする中空糸膜モジュール用束着管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュール用束着管
の製造方法に関する。さらに詳しくは、アミン硬化系エポキシ樹脂封止剤との接着性を向上せしめた中空糸膜モジュール用束着管
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分離膜として各種有機中空糸膜および無機中空糸膜が研究されてきており、これらの膜を用いた分離膜モジュールとして
、ガス分離あるいは液体分離に有効に適用されている。一般的に、浄水等の水分野については有機中空糸膜を用い、また封止剤(ポッティング剤)、束着管とも中空糸膜材料と同様に有機材料を採用しており、一方耐熱性、耐薬品性が求められる有機物質の分離精製分野にあっては無機中空糸膜を用い、無機材料からなる封止剤、束着管を採用した中空糸膜モジュールが用いられている。例えば特許文献1では、中空糸膜、封止剤、束着管などすべての部材が
、無機材料によって構成された分離膜モジュールが提案されている。
【0003】
しかしながら、すべての部材について無機材料を用いた中空糸膜モジュールは作製可能ではあるものの、成形性に改良の余地が残り、作業性も良いとは言い難く、またコスト面からみて量産には向かないものである。
【0004】
ここで、400℃以上といった高い耐熱性が求められる分野では、やはりすべての部材に無機材料を用いる必要があるものの、100〜200℃程度といった温度領域では、封止剤あるいは束着管は、耐熱性および耐薬品性にすぐれた有機材料も有効に用いることができる。かかる有機材料としては、例えば封止剤材料としてはアミン硬化系エポキシ樹脂封止剤が、また束着管材料としてはポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドなどが挙げられるが、これらの束着管材料とアミン硬化系エポキシ樹脂封止剤とは接着性が悪く、長期間高密封性を要求される分離精製に適用することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4,013,794号公報
【特許文献2】特開2005−69875号公報
【特許文献3】特開昭62−45303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アミン硬化系エポキシ樹脂封止剤との接着性を改善せしめた中空糸膜モジュール用束着管
の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、
脂肪族、脂環式または芳香族アミン硬化系エポキシ樹脂封止剤を用いるポリエーテルエーテルケトン樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂製束着管を、濃度4〜10モル/Lの硫酸に50〜80℃の温度条件下で
8〜36時間浸せき処理した後、純水で洗浄
して製造する方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明
方法によって製造された中空糸膜モジュール用束着管は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂製束着管の表面に酸処理を施してスルホン基を導入することにより、アミン硬化系エポキシ樹脂封止剤に対する接着性の向上を図ることができるといったすぐれた効果を奏するので、例えば100〜200℃程度といった温度領域で用いられる中空糸膜モジュール用の束着管材料として有効に用いられる。
【0009】
なお、特許文献2には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を酸表面処理した、温度変化により光学的特性が変化する被膜を形成した温度表示体が開示されているが、かかる発明と本発明とは技術分野の点で全く異なっており、さらに酸処理によってエポキシ樹脂系封止剤との接着性が向上することについても全く言及されていない。
【0010】
また特許文献3には、ポリサルホンの膜状体をスルホン化剤、例えば2〜18N硫酸中に浸せきし、膜表面部分をスルホン化した限外ロ過膜が開示されているが、この発明が目的としているのは、膜への耐汚染性といった性質の付与であり、そこには特許文献2と同様に、酸処理によってエポキシ樹脂系封止剤との接着性が向上することについては全く言及されてはいない。そして、アミン硬化系エポキシ樹脂封止剤を用いて多孔質中空糸膜を固定するといった態様も示されてはいない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
中空糸膜モジュール用束着管材料としては、成形性、耐薬品性といった観点から、ポリエーテルエーテルケトン樹脂
またはポリフェニレンサルファイド樹脂が用いられる。
【0012】
かかるポリエーテルエーテルケトン樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂製束着管の表面へのスルホン基の導入は、酸処理を施すことにより行われる。酸処理に用いられる酸としては、スルホン基を有するものであれば特に制限されず、硫酸、クロロ硫酸、チオ硫酸などが挙げられ、好ましくは硫酸が用いられる。具体的には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂またはポリフェニレンサルファイド系樹脂を濃度4〜10モル/L、好ましくは6〜9モル/Lの硫酸に、50〜80℃、好ましくは60〜70℃の温度条件下で8〜36時間、好ましくは16〜28時間浸せき処理することによって行われる。ここで、硫酸の濃度がこれより低いものが用いられると接着性の向上を図ることが難しくなり、一方これ以上の濃度のものが用いられると樹脂が溶解するようになる。また
、処理中の温度がこれより低い場合には接着性の向上を図ることが難しくなり、一方これより高い温度条件下で処理されると樹脂が溶解してしまうようになる。
【0013】
以上の工程によって酸処理が施されたポリエーテルエーテルケトン樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂製束着管は
、アミン硬化系エポキシ樹脂封止剤との接着性が著しく向上している。封止剤用のアミン硬化系エポキシ樹脂としては、1級アミン、2級アミン等である脂肪族、脂環式または芳香族アミンによって硬化するエポキシ樹脂であって、アミン硬化剤と反応してヒドロキシル化し得る任意のエポキシ樹脂を用いることができるが、好ましくはノボラック型エポキシ樹脂が用いられる。
【実施例】
【0014】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0015】
実施例1
ポリエーテルエーテルケトン樹脂製円筒型束着管を、濃硫酸25mlを水75mlに溶解させた4.5モル/L(9N)硫酸水溶液に、80℃で24時間浸せき処理した後、純水での洗浄および乾燥が行われた。酸処理した束着管の内壁に
、アミン硬化系エポキシ樹脂封止剤(セメダイン製品スーパー)をポッティング厚み5mmとなるように充填し、80℃、2時間の一次硬化および120℃、4時間の二次硬化が行われた。得られた束着管のポッティング部に剥離は確認されなかった。
【0016】
実施例2
実施例1において、束着管の4.5モル/L硫酸水溶液への浸せきが60℃で24時間に変更されて
、束着管の表面への酸処理が行われた。得られた束着管のポッティング部に剥離は確認されなかった。
【0017】
実施例3
実施例1において、束着管の4.5モル/L硫酸水溶液への浸せきが60℃で8時間に変更されて
、束着管の表面への酸処理が行われた。得られた束着管のポッティング部に剥離は確認されなかった。
【0018】
実施例4
実施例1において、4.5モル/L硫酸水溶液の代わりに、濃硫酸50mlを水50mlに溶解させた
9モル/L(18N)N硫酸水溶液が用いられて
、束着管の表面への酸処理が行われた。得られた束着管のポッティング部に剥離は確認されなかった。また、得られた束着管をイソプロパノールで2000時間浸せきした後においても、接着強度の低下は確認されなかった。
【0019】
実施例5
実施例1において、ポリエーテルエーテルケトン樹脂製円筒型束着管の代わりに
、ポリフェニレンサルファイド樹脂製円筒型束着管が用いられた。得られた束着管のポッティング部に剥離は確認されなかった。
【0020】
比較例
実施例1において、束着管の4.5モル/L硫酸水溶液への浸せき処理が行われなかったところ、束着管のポッティング部には剥離が確認された。