(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定子と前記固定子上に配置された移動子とを備え、前記固定子及び前記移動子の互いの対向面に平行な方向に前記移動子を移動させる移動信号を前記固定子に設けられた複数の電極に供給する静電アクチュエータの制御方法であって、
前記移動信号を前記複数の電極に供給しないときに、前記移動信号を供給する電極である前記複数の電極の各々に、前記固定子及び前記移動子に生じる帯電の帯電量を減少させる交流の除電信号を供給する静電アクチュエータの制御方法。
前記除電信号は、正の電圧を印加する時間及び負の電圧を印加する時間である電圧正負時間が、時間と共に減少する信号である、請求項1に記載の静電アクチュエータの制御方法。
前記除電信号は、正の電圧を印加する時間及び負の電圧を印加する時間である電圧正負時間における電圧の絶対値の最大値が、時間と共に減衰する信号である、請求項1に記載の静電アクチュエータの制御方法。
【背景技術】
【0002】
従来、固定子と移動子とを備え、固定子に設けた複数の電極に移動信号を与えることで、移動子に電荷を誘起させて、この電荷によって固定子と移動子間に作用する静電気力により、固定子に対して移動子を移動させる静電アクチュエータが知られている。
ただ、
図8の部分拡大断面図で模式的に示すように、従来の静電アクチュエータ200は、固定子1と移動子2とが擦れて摩擦帯電による静電気が固定子1及び移動子2に発生すると、移動子2が固定子1に張り付いて停止したり、動きが鈍ったりし、移動子2の円滑な移動が妨げられてしまう。静電気の帯電は、環境の電位が偏っていたり、乾燥したり
しているときに生じ易い。同図では、固定子1に負の静電気が帯電し、移動子2に正の静電気が帯電した例を示し、固定子1の静電気を、固定子1の移動子2との対向面側に描き、移動子2の静電気を、移動子2の固定子1との対向面とは反対側に描いてある。
そこで、移動子の円滑な移動動作ができるように、帯電を防止した静電アクチュエータが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1の静電アクチュエータでは、電荷を誘起させるための電極を、固定子のみならず移動子にも設けた形態の静電アクチュエータにおいて、移動子の移動動作時に、固定子及び移動子の電極に与える信号を、前半期と後半期に分けて、前半期は移動信号を与え、後半期は移動信号の電圧の正負の偏りを打ち消す波形の信号を与えることで、移動信号で生じる電圧の正負の偏りによる電荷の発生を防ぐ技術を提案している。また、特許文献1では、移動子の停止時に、固定子と移動子の互いに対向する電極に極性が異なる電圧で正負が交互に切り替わる信号を与えることで、帯電を除電する技術も提案している。
【0004】
特許文献2の静電アクチュエータでは、固定子と移動子とが対向する部分、例えば、移動子に対向する固定子の対向面など移動子が対向する固定子の部分に、移動時に移動子に接触するように除電ブラシを設けた静電アクチュエータが提案されている。
【0005】
特許文献3では、静電アクチュエータではないが、各種部材に対する帯電防止策として、部材の構成材料にカーボンファィバを混練りした樹脂などの導電性材料を用いたり、表面に導電性ポリマーを塗布するなど帯電防止処理を施した材料を用いたりして、部材そのものに或る程度の導電性を与え帯電しにくい様にする技術を提案している。
特許文献4では、静電気帯電の除電ではないが、移動動作させるため駆動用の正負の電荷を移動子に与える手段として、イオン風を用いた静電アクチュエータを提案している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面は概念図であり、構成要素の縮尺関係、縦横比等は誇張されていることがある。
【0014】
〔要旨〕
図1は、本発明の静電アクチュエータの制御方法の一実施形態を適用可能な静電アクチュエータの一例を示し、
図1(a)は側面図、
図1(b)は部分拡大断面図である。
同図に示す静電アクチュエータ100は、固定子1と移動子2とを備え、前記固定子1に設けられた複数の電極3に移動信号Smが供給されることによって、前記移動子2に電荷を誘起させて、この電荷によって前記固定子1と前記移動子2間に作用する静電気力により、前記移動子2を、前記固定子1と前記移動子2との互いの対向面に平行な方向に移動させることができる。
なお、
図1に示す静電アクチュエータ100では、移動子2は固定子1上に配置されているように描いてあり、図面下方向が地面、言い換えると図面下方向が重力方向であるときは、文字どおり、移動子2は固定子1の上方に配置されることになる。しかし、本発明において、「固定子上に配置された移動子」の意味は、移動子2と固定子1との位置関係として、固定子1に対して重力方向から遠い方に移動子2が配置される位置関係に限定されず、固定子1及び移動子2の互いの対向面が接触する位置関係であれば良く、例えば、固定子1及び移動子2の互いの対向面が、重力方向に対して垂直面となる位置関係でも良い。
【0015】
固定子1に対向する移動子2の対向面の大きさは、固定子1が移動子2に対向可能とする対向面の大きさに対して、小さい。この結果、移動子2は固定子1が移動子2に対向可能とする対向面に平行な方向に移動動作することができる。例えば、固定子1の前記大きさは、縦1000mm、横600mmの長方形であり、移動子2の前記大きさは、縦500mm、横500mmの正方形である。
【0016】
複数の電極3の各々は、基板上又は基板内部に形成された導電性を有するものであり、公知の材料、形状、及び配置を採用することができる。複数の電極3の各々は、導電性を有していれば特に制限はなく、銅、銀、金等の金属やそれらの合金を用いても良く、ITO(錫ドープ酸化インジウム)等の透明材料を用いても良い。また、例えば、直線状の形状で、互いに平行で紙面に対して垂直な方向に延びていても良い。また、例えば、複数の電極3の各々は、例えば、0.3mmピッチなど、等しい間隔で配列されていても良い。
【0017】
固定子1及び移動子2には、公知のものを用いることができる。固定子1は、基板と、基板上又は基板内部に形成された複数の電極2と、を有していれば良く、特開2011−205786号公報に記載されているような、電極を保護するカバーフィルム又は移動子2との摩擦を低減する摺動構造膜を有していてもよい。例えば、固定子1は、複数の電極3を形成した厚さ25μmのポリイミド製フレキシブルプリント基板に対して、その移動子2側と接する対向面に厚さ12μmの絶縁性塗膜を紫外線硬化型アクリル系樹脂塗料で塗工形成した摺動構造膜を用いることができる。複数の電極3には、ITO(錫ドープ酸化インジウム)などの透明なものを用いることもできる。
複数の電極3に対しては、後述
図2で説明するように、バスライン4、接続端子5を介して、移動信号Sm及び除電信号Seが供給される。接続端子5には、後述する電源部6が、静電アクチュエータ100の少なくとも駆動時には接続されることによって、移動信号Sm及び除電信号Seが、複数の電極3に供給される。接続端子5を介して電源部6を接続することで、電源部6は異なる固定子1に共通して使い回しが出来るようになっている。
【0018】
移動子2は、誘電体を有していれば良く、抵抗体層を有していても良い。例えば、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる絶縁性基材の片面に、ATO(アンチモンドープ酸化錫)粒子を含有する紫外線硬化型アクリル系樹脂塗料で塗布形成した抵抗体層を有するものを用いることができる。抵抗体層の表面抵抗率は、例えば、10
9〜10
14Ω/sq(Ω/□とも記す。)、好ましくは、1×10
12〜9×10
12Ω/sqである。この範囲より小さくても、逆に大きくても、移動子2の円滑な移動動作が損なわれることがある。電荷の円滑な誘起と誘起された電荷が次の電荷が誘起されるまでの間の適度な保持を実現するためである。
抵抗体層は、例えば、移動子2の固定子1との対向面の反対側の面に設けることができる。
【0019】
さらに、本静電アクチュエータの制御方法の実施形態では、前記静電アクチュエータ100に、移動信号Smを複数の電極3に供給しないときに、この複数の電極3の各々に対して、同一波形で電圧が交互に正負に切り替わり、固定子1及び移動子2に生じる帯電の帯電量を減少させる交流の除電信号Seを供給することで、前記帯電が減じるようにすることができる。
【0020】
〔移動信号Sm〕
固定子1が備える複数の電極3に供給される移動信号Smには、従来公知の各種方式のものを採用することができる。例えば、2相式、3相式、4相式など、複数相の移動信号Smを供給する方式を採用することができる。
【0021】
図2の部分拡大断面図で示す、静電アクチュエータの制御方法の一実施形態を適用可能な静電アクチュエータ100では、4相の移動信号Smにより動作することができる。このため、同図に示す静電アクチュエータ100は、4相の移動信号Smに対応可能なように、固定子1が備える複数の電極3は、各相に対応した、複数の電極3a、複数の電極3b、複数の電極3c、複数の電極3dから構成されている。これらの電極3は、順番に、電極3a、電極3b、電極3c、電極3d、電極3a、電極3b、電極3c、電極3d、・・・・の順に等間隔に配置されている。そして、複数の電極3a、複数の電極3b、複数の電極3c、及び複数の電極3dの各々には、移動信号Smとして、互いに異なる相の4相の信号、移動信号Sm1、移動信号Sm2、移動信号Sm3、及び、移動信号Sm4が供給される。このため、複数の電極3aは移動信号Sm1が供給されるバスライン4aに接続され、複数の電極3bは移動信号Sm2が供給されるバスライン4bに接続され、複数の電極3cは移動信号Sm3が供給されるバスライン4cに接続され、複数の電極3dは移動信号Sm4が供給されるバスライン4dに接続されている。
【0022】
バスライン4aには接続端子5aから移動信号Sm1が供給され、バスライン4bには接続端子5bから移動信号Sm2が供給され、バスライン4cには接続端子5cから移動信号Sm3が供給され、バスライン4dには接続端子5dから移動信号Sm4が供給される。
なお、本明細書において、異なる相の相毎の電極3a、電極3b、電極3c、及び、電極3dを纏めて言うときは、単に「電極3」と言うこともある。
同様に、バスライン4a、バスライン4b、バスライン4c、及び、バスライン4dを纏めて言うときは、単に「バスライン4」と言うこともある。
同様に、接続端子5a、接続端子5b、接続端子5c、及び、接続端子5d、を纏めて言うときは、単に「接続端子5」と言うこともある。
【0023】
図3は、4相の移動信号Smとしての、移動信号Sm1、移動信号Sm2、移動信号Sm3、及び、移動信号Sm4の一例である。移動信号Sm1、移動信号Sm2、移動信号Sm3、及び、移動信号Sm4の各々は、互いに同一電圧で矩形波であり、正負の絶対値の最大値が等しい。前記電圧は、例えば、ピーク・ツー・ピークで800Vppである。移動信号Sm1、移動信号Sm2、移動信号Sm3、及び、移動信号Sm4の各々は、この順に4分の1周期ずつ、位相がずれている。また、移動信号Sm1、移動信号Sm2、移動信号Sm3、及び、移動信号Sm4の各々は、共に、デューティ比が50%である。
なお、本発明においては、移動信号Smのデューティ比は必ずしも50%に限定されるものではない。
【0024】
〔除電信号Se〕
除電信号Seは、移動信号Smが複数の電極3に供給されないときに、複数の電極3の各々に、固定子1及び移動子2のに生じる帯電の帯電量を減少させる交流の信号である。この除電信号Seによって、前記帯電を減らすことができる。
除電信号Seは、強制的に、正の帯電と負の帯電を交互に生じさせつつ、正の帯電量と負の帯電量を、時間と共に減衰させるような信号である。正の帯電と負の帯電を交互に生じさせても、それらの帯電量を減衰させないで一定のまま信号を加えたのでは、最後に加えた信号波形によって、帯電が残ってしまうので、帯電量が時間とともに強制的に減衰するような信号となっている。
【0025】
除電信号Seは、移動信号Smが供給されないときは、常に供給されてもよく、或いは、移動信号Smが供給されないときの除電が必要なときのみなど一部の期間だけ供給されてもよく、いずれでもよい。
なお、「固定子及び移動子に生じる」の「生じる」とは、静電気の帯電が生じる可能性があるもののまだ静電気の帯電が生じていない状態、静電気の帯電が生じている状態の両方の状態を含む。
【0026】
除電信号Seが供給される時間は、特に制限はないが、例えば1sで充分である。1sの間に周波数50Hzの除電信号Seが供給されれば、正負に切り替わる帯電は50回繰り返され、繰り返される毎に帯電量が減少していくことになる。
【0027】
除電信号Seは、供給される複数の電極3が
図2のように4相に対応して、複数の電極3a、複数の電極3b、複数の電極3c、及び複数の電極3dから構成されるものであっても、これらには全て同一波形の信号として供給される(
図2参照)。このため、除電信号Seによって、移動子2が移動することはない。このとき、各相毎の、複数の電極3a、複数の電極3b、複数の電極3c、及び複数の電極3dに、同一波形であっても相がずれた信号を供給してもよい。相がずれた信号が供給されたからと言って、移動子2は必ず移動するものでもない。
【0028】
除電信号Seの一例を
図4及び
図5に示す。
図4に例示する除電信号Sefは、正の電圧の時間と、負の電圧の時間とが共に減少していく、電圧正負時間が減少する信号の一例である。したがって、
図4に例示する除電信号Sefは、正の電圧を印加する時間及び負の電圧を印加する時間である電圧正負時間が、時間と共に減少する信号でもある。
図5に例示する除電信号Sevは、電圧が減衰する信号の一例である。したがって、
図5に例示する除電信号Sevは、正の電圧を印加する時間及び負の電圧を印加する時間である電圧正負時間における電圧の絶対値の最大値が、時間と共に減衰する信号でもある。
図4に例示する除電信号Sef、及び
図5に例示する除電信号Sevは、共に、正負の電圧の絶対値の最大値が互いに等しい矩形波の交流で、デューティ比が50%の信号である。
図4に例示する除電信号Sefは、デューティ比50%であるために、周波数が漸増する信号でもある。
電圧が正負に交互に、好ましくは等しい時間で、切り替わる交流の除電信号Seが供給されることで、正負の帯電を交互に強制的に生じさせつつ帯電量を減少させていくことができる。
本発明においては、除電信号Seは矩形波に限定されない。ただ、除電信号Seとして矩形波は、後述する電源部6をデジタル処理回路で構成することができる利点がある。
【0029】
移動子2をポリエステル系樹脂フィルム製とするなど、樹脂フィルムのものを用いた場合、フィルムは一般に負の静電気帯電を帯び易いために、固定子1側の複数の電極3に供給する除電信号Seとしては、電圧が負になっている時間を長めの信号、或いは電圧が負になっているときの電圧の絶対値を大きめの信号、或いは、これら両方を有する信号としても良い。
なお、本発明の除電信号Seには該当しないが、移動信号Smの周波数に比べて、帯電誘起が追いつかず移動不可能な程度に高い周波数、例えば1kHzなどの信号で、周波数一定且つ電圧一定且つデューティ比一定の交流信号を供給すると、固定子1と移動子2に発生した静電気の正負が偏った帯電の偏りは解消させることができるが、帯電そのものは、移動子2の円滑な移動動作を回復できる程度までには減らすことができず、本発明による除電信号Seに比べて劣る。
【0030】
電圧正負時間の減少の仕方、及び電圧の減衰の仕方は、例えば、等差級数的、等比級数的、階段的などでよく、特に制限はない。
なお、本明細書において、電圧正負時間が減少する除電信号Sef、及び、電圧が減衰する除電信号Sevを纏めて言うときは、単に「除電信号Se」と言うこともある。
【0031】
(除電信号Sef)
図4に一例を示した電圧正負時間が減少する除電信号Sefは、電圧は一定でよく、例えば、電圧は800Vpp一定として、周波数を10Hzから初めて1kHzまで上げた後、複数の電極3の各々への供給を一斉に停止する。これにより、帯電を減らすことができる。
また、電圧正負時間が減少する
図4の除電信号Sefは、周波数も一定でもよく、例えば周波数は50Hz一定として、電圧を順に1周期で、有限時間の正、有限時間のゼロ、有限時間の負、有限時間のゼロと変位させて、正の電圧の時間と、負の電圧の時間が共に減少するようにしてもよい。矩形波においては、1周期において、電圧が正の時間のパルス幅、及び、電圧が負の時間のパルス幅が、共に減少するとともに、ゼロボルトの時間が次第に増えていく信号である。
【0032】
除電信号Sefによって帯電が減少する理由は、次のように考えられる。すなわち、除電信号Sefは、電圧が正負に交互に切り替わる信号であり、複数の電極3の全てに供給する為に、固定子1と移動子2とは、前記複数の電極3の対向面が、正の帯電と負の帯電とを交互に繰り返すことになる。しかし、帯電するためには時定数がある為に、除電信号Sefの矩形波の波形の立ち上がりに応じて瞬時に正又は負に帯電することはない。このため、除電信号Sefの1周期における正の電圧の時間と負の電圧の時間が減少するほど、正又は負に帯電させるための充分な時間が確保できなくなり、帯電量は減少していくことになる。この結果、電圧正負時間が減少する除電信号Sefを供給することによって、正の帯電と、負の帯電とを、交互に繰り返しながら、正に帯電したときの帯電量と、負に帯電したときの帯電量が、減少していくことになる。その結果、帯電は移動子2の移動の妨げになるような帯電量未満の、ほぼニュートラルな状態に収束すると考えられる。
【0033】
除電信号Sefの電圧は、正の電圧、及び負の電圧のそれぞれが、帯電を生じ得る電圧以上であれば良く、特に制限はない。すなわち、除電信号Sefは、帯電を生じ得る正の電圧の時間と、帯電を生じ得る負の電圧の時間とが共に減少していく、電圧正負時間が減少する信号である。帯電を生じ得る電圧は絶対値で、例えば100V以上が好ましい。これ未満であると、電荷が充分に生じないことがあるからである。
複数の電極3に移動信号Smを供給する後述電源部6に、容易に除電信号Seも供給可能なように出来る点では、大きい電圧でも移動信号Smと大差のない電圧であることが好ましい。例えば、除電信号Seとしての電圧正負時間が減少する除電信号Sefにおいて、1000Vppで効果が得られている。
【0034】
電圧正負時間が減少する除電信号Sefの電圧正負時間減少前の開始時点の1周期内における電圧正の時間或いは電圧負の時間(電圧正の時間と電圧負の時間の合計が1周期に相当し、デューティ比50%の信号の場合は周波数の逆数の1/2に対応する。)は、特に制限はないが、例えば周波数が1Hzのときでは最初の1周期に1s必要になるために、その分、除電に要する時間が長くなる。時間的余裕があればこれでもよい。ただ、除電を例えば1sで終わらせる必要がある場合などでは、周波数で見れば10Hz〜50Hzの範囲から始めるのが好ましい。すなわち、デューティ比50%のとき周波数10Hzでは、電圧正の時間或いは電圧負の時間は、(1s/10)×0.5=50msであり、周波数100Hzでは5msである。
電圧正負時間が減少する除電信号Sefの電圧正負時間減少後の終了時点の1周期内における電圧正の時間或いは電圧負の時間は、デューティ比50%の信号でみた周波数で言えば、移動信号Smの周波数が通常、1〜10Hz、最大でも100Hz程度であることから、電圧の変化に帯電が追従できない早さとして、移動信号Smの最大周波数に対して10倍以上の周波数、例えば、1kHz以上とすることが好ましい。すなわち、デューティ比50%のとき周波数1kHzでは、電圧正の時間或いは電圧負の時間は、(1s/1000)×0.5=0.5msである。
ただ、周波数を高くし過ぎても帯電に対しては無意味となる上、電力消費の上でも無駄となる点を考慮して、終了時点の電圧正の時間或いは電圧負の時間を決めると良い。
なお、電圧正負時間が減少する除電信号Sefは、電圧は一定でよいが、電圧が一定であることは必須ではない。ただし、電圧を漸増させるのは逆に帯電を増やす方向となるので、電圧変化はあっても減衰する変化が好ましい。また、周波数は一定でも良いが、周波数を減衰させるのは逆に帯電を増やす方向となるので、周波数変化はあっても漸増する変化が好ましい。
【0035】
(除電信号Sev)
図5に一例を示した電圧が減衰する除電信号Sevは、周波数は一定でよく、例えば、周波数は50Hz一定として、電圧を1000Vppから開始して10Vppまで下げた後、複数の電極3の各々への供給を一斉に停止する。正負の絶対値が等しい矩形波の除電信号Sevを供給しているので、開始時の正の最大電圧は500V、負の絶対値の最大電圧も500Vである。これにより、帯電を減らすことができる。
【0036】
除電信号Sevによって帯電が減少する理由は、次のように考えられる。すなわち、除電信号Sevは、電圧が正負に交互に切り替わる信号であり、複数の電極3の全てに供給する為に、固定子1と移動子2とは、前記複数の電極3の対向面が、正の帯電と負の帯電とを交互に繰り返すことになる。しかも、電圧が減衰する為に、除電信号Sevを供給することによって、正の帯電と、負の帯電とを、交互に繰り返しながら、正に帯電したときの帯電量と、負に帯電したときの帯電量が、減少していくことになる。その結果、帯電は移動子2の移動の妨げになるような帯電量未満の、ほぼニュートラルな状態に収束すると考えられる。
【0037】
電圧が減衰する除電信号Sevの電圧減衰前の開始時点の電圧は、特に制限はないが、移動信号Smの電圧と同程度でもよい。移動信号Smの電圧と同程度であれば、移動信号Smを供給するための後述する電源部6に、ことさら耐電圧の高い部品を用いる必要がないからである。したがって、除電信号Sevの電圧減衰前の開始時点の電圧は、例えば1000Vppとすることができる。つまり、 正の電圧500Vと、負の電圧−500Vである。
【0038】
電圧が減衰する除電信号Sevの電圧減衰後の終了時点の電圧は、0Vppである必要はない。電圧があまりに低いときは静電気帯電が生じないためである。したがって、除電信号Sevの電圧減衰後の終了時点の電圧は50Vpp、好ましくは20Vpp、より好ましくは10Vpp以下である。
電圧が減衰する除電信号Sevの周波数は、前記したように時定数が存在するので正又は負の帯電が生じ得る時間を確保できる周波数以下とするのが好ましい。例えば、除電信号Sevの周波数は、移動信号Smの周波数と同程度でよい。したがって、除電信号Sevの周波数は、例えば、1〜100Hzとすることが好ましい。
デューティ比は50%以外でもよい。交互に繰り返す正の帯電と、負の帯電の各々の帯電量を、なるべく等しくて減じる波形であれば良い。
なお、電圧が減衰する除電信号Sevは、周波数は一定でよいが、周波数が一定であることは必須ではない。ただし、周波数を減少させるのは逆に帯電を増やす方向となるので、周波数変化はあっても漸増する変化が好ましい。
【0039】
〔電源部6〕
前記した移動信号Sm及び除電信号Seを固定子1の複数の電極3に供給させるための電源部6としては、その構成は特に制限はない。電源部6は、前記した移動信号Sm及び除電信号Seを固定子1の複数の電極3に供給することができるものであればよい。電源部6は、移動信号Sm及び除電信号Seを出力する駆動信号出力部と言うこともできる。
以下、電源部6の構成について、その一例を説明する。ここで説明する電源部6は、除電信号Seにおける電圧正負時間減少の除電信号Sefとして、デューティ比50%一定で周波数を漸増する形式のもので説明する。
【0040】
図6は、電源部6の構成を示すブロック図である。移動信号Smとして、同図に示す電源部6は、互いに相が異なる4相の移動信号Smを供給可能な例である。さらに、同図に示す電源部6は、4相の移動信号Smを、固定子1の3領域のそれぞれの複数の電極3に独立に供給可能なように、3系統有する例でもある。
【0041】
前記固定子1の3領域とは、例えば、
図7で例示する固定子1で言えば、移動子2を固定子1に対してY方向(図面上下方向)に相対移動可能な、複数の電極3が形成された領域Yと、この領域Yに対して図面で左側と右側であって、移動子2を固定子1に対してX方向(図面左右方向)に相対移動可能な領域A及び領域B、の3領域である。
図7のような3領域に分けた複数の電極3の配置は、領域Aで移動子2を固定子1に対してY方向に相対移動させたときに、X方向への蛇行や偏った移動によって、移動子2が領域Yから外れそうになって、領域A或いは領域Bに進入したときに、領域Yに戻すことができる、配置である。
【0042】
図6のブロック図の説明に戻って、同図において、6は電源部、61は本体、62はコントロールボックス、63はACアダプターまたは電池である。本体61中、64は自動切換え回路/電圧変換回路、65はI/F(インターフェイス)、66〜68は高圧4線SW(switching)回路である。
電源部6は、本体61、コントロールボックス62、ACアダプターまたは電池63を含む。本体61は、ACアダプターまたは電池63からの電力の供給を受けて、コントロールボックス62からの指令信号に従って動作し、移動信号Smと除電信号Seを生成し、複数の電極3に供給する。
電源部6は、本体61の高圧4線SW回路66,67,68の各々から、固定子1の領域Y、領域A及び領域Bのそれぞれの複数の電極3に、移動信号Sm或いは除電信号Seを供給することができる。
【0043】
(本体61とACアダプターまたは電池63)
本体61は、ACアダプターまたは電池63から電力の供給を受けて動作する。ACアダプターまたは電池63からの電力の供給は、本体61の自動切換え回路/電圧変換回路64において行なわれる。自動切換え回路/電圧変換回路64は、ACアダプターと電池との両方からの電力の供給が可能なときには、電池を回路から切り離して電池からの電力の供給を遮断するとともにACアダプターだけから電力の供給が行なわれるようにする。
【0044】
(コントロールボックス62)
コントロールボックス62は、静電アクチュエータ100における移動子2の移動動作と、除電を制御するコントローラである。コントロールボックス62には操作者による操作が可能なように押ボタンスイッチ、切替スイッチ、十字スイッチ、ジョイスティック、等のうちの1以上の操作手段が設けられている。操作者がそれらの1以上を操作すると、コントロールボックス62は指令信号を、本体61のI/F65に出力する。
【0045】
上記指令信号は、例えば、開始、終了、前進、後退、移動速度、除電等を含む。開始は+高圧発生回路及び−高圧発生回路からの高電圧出力を開始する指令信号であり、終了は+高圧発生回路及び−高圧発生回路からの高電圧出力を停止する指令信号である。前進は移動子2を前進移動させる指令信号であり、後退は移動子2を後退移動させる指令信号である。移動速度は、移動子2の移動速度を決定する指令信号であり、移動信号Smの周波数を決定する指令信号でもある。移動速度を早くするときは、より高い周波数とする指令信号となり、移動速度を遅くするときはより低い周波数とする指令信号となる。
【0046】
(本体61の動作)
本体61の動作は、コントロールボックス62を操作者が操作することによって、制御することができる。例えば、コントロールボックス62の操作によって、移動子2の移動速度、移動方向、除電などを制御することができる。コントロールボックス62を操作者が操作すると、コントロールボックス62から指令信号が出力される。この指令信号は本体61のI/F65を通じて本体61のデータ処理部であるCPU(central processor unit)に入力される。入力された指令信号に基づいて本体61のCPUが本体61の各部分(
図6参照)の動作を決める信号を各部に出力する。その信号にしたがって各部分が動作することによって、本体61は、移動信号Sm或いは除電信号Seを出力する。
本体部61の各部は、自動切換え回路/電圧変換回路64からの電力供給を受けて動作する。例えば、CPUには、定電圧化されて一定電圧の電力が供給される。
【0047】
移動信号Sm及び除電信号Seの正及び負の電圧は、+高圧発生回路及び−高圧発生回路から出力される電圧によって決定される。+高圧発生回路は正の電圧を発生して高圧4線SW回路66,67,68に出力し、−高圧発生回路は負の電圧を発生して高圧4線SW回路66,67,68に出力する。
ここでの+高圧発生回路は+900Vまでの正の電圧を発生でき、−高圧発生回路は−900Vまでの負の電圧を発生できるようになっている。
本体61のCPUは、コントロールボックス62からの指令信号に基づいて、必要なデータ処理を行い、+高圧発生回路及び−高圧発生回路に出力させる電圧値を、電圧デコーダを経由して、+高圧発生回路及び−高圧発生回路に出力する。前記電圧値は、移動信号Smのときは時間で一定であるが、除電信号Seとして電圧が減衰する除電信号Sevのときは時間経過と共に減衰し、除電信号Seとして電圧正負時間が減少する除電信号Sefのときは時間で一定である。
また、本体61のCPUは、コントロールボックス62からの指令信号に基づいて、必要なデータ処理を行い、デコーダを経て、正・逆/停止パターン回路に、移動信号Sm或いは除電信号Seに応じたスイッチ操作信号を出力させる。スイッチ操作信号は、高圧4線SW回路66,67,68に主力され、高圧4線SW回路66,67,68は、スイッチ操作信号に基づいて、+高圧発生回路及び−高圧発生回路から出力された高電圧をスイッチ操作して移動信号Sm或いは除電信号Seを生成する。
例えば、移動子2の移動速度を遅くするときは、スイッチ速度が遅くなり周波数の低い移動信号Smが生成され、周波数が漸増する形式の電圧正負時間減少の除電信号Sefを出力させるときは、スイッチ速度が次第に早くなり周波数が漸増する形式の除電信号Sefが生成される。
【0048】
本実施形態では、移動信号Smは
図3に示す4相式の信号であるので、本体61は移動信号Smとして、移動信号Sm1、移動信号Sm2、移動信号Sm3、及び移動信号Sm4の4相の信号を出力する。移動信号Sm1、移動信号Sm2、移動信号Sm3、及び移動信号Sm4のそれぞれは、互いに独立している3つの高圧4線SW回路66,67,68の各々から出力される。すなわち、高圧4線SW回路66、高圧4線SW回路67、及び高圧4線SW回路68の各々は独立しており、各々が各々の移動信号Sm1、移動信号Sm2、移動信号Sm3、及び移動信号Sm4からなる移動信号Smを発生し出力する。このため、高圧4線SW回路66、高圧4線SW回路67、及び高圧4線SW回路68の各々は、各々の移動信号Smが互いに異なる信号として、且つ互いに同期し例えば互いに1/4周期だけ位相がずれた信号として発生し出力することができる。
【0049】
このように、電源部6は3系統の独立した高圧4線SW回路66,67,68を備えた構成となっているが、1つのCPUによって制御されており、指令信号に基づいて前記3系統の独立した高圧4線SW回路66,67,68は、互いに協調して動作する。
図6のブロック図で例示する構成の電源部6では、高圧4線SW回路66は領域YにおいてY方向に移動させるY駆動用の4相の移動信号Smとして移動信号Sm1,Sm2,Sm3,及びSm4を出力する。同様に、高圧4線SW回路67は領域AにおいてX方向に移動させるX駆動A用の4相の移動信号Smとして移動信号Sm1,Sm2,Sm3,及びSm4を出力する。同様に、高圧4線SW回路67は領域BにおいてX方向に移動させるX駆動B用の4相の移動信号Smとして移動信号Sm1,Sm2,Sm3,及びSm4を出力する。
【0050】
前記Y駆動用の4相の移動信号Smは、
図7の固定子1の領域Yの複数の電極3に供給し、前記X駆動A用の4相の移動信号Smは、
図7の固定子1のA領域の複数の電極3に供給し、前記X駆動B用の4相の移動信号Smは、
図7の固定子1のA領域の複数の電極3に供給する。
【0051】
次に、除電するときは、電源部6は、固定子1の複数の電極3の全てに同一の除電信号Seを供給する。この除電信号Seは、
図4で例示した電圧正負時間が減少する除電信号Sef、或いは、
図5に例示した電圧が減衰する除電信号Sevである。例えば、除電信号Seとして、電圧正負時間が減少する除電信号Sefを採用した電源部6である場合は、本体61は、コントロールボックス62から除電の指令信号が入力されると、高圧4線SW回路66、高圧4線SW回路67、及び高圧4線SW回路68は、全て同一の除電信号Sefを出力する。この電圧正負時間が減少する除電信号Sefは、
前記移動速度を早くするときは周波数をより早くする指令信号をCPUが出力し、移動速度を遅くするときは周波数をより低くする指令信号をCPUが出力したのと同じように、CPUが周波数を次第に早くする指令信号すると共に、4線の出力を移動信号Smのように互いに異なる4相の信号とはせずに、全て位相の揃った同一の信号とする指令信号を出力する。
また、除電信号Seとして、電圧が減衰する除電信号Sevを採用した電源部6である場合は、CPUが周波数を増加させる指令信号の代わりに、電圧を次第に低くする指令信号を出力する。
【0052】
以上のように、帯電を減らすための除電信号Seは、除電を自動処理せずにマニュアル操作によって行う場合は、移動信号Smを供給する電源6が備えるコントロールボックス62に除電指令用のスイッチの追加が必要にはなるが、CPUが実行するデータ処理内容をソフトウェア的に変更して、電源6の動作に変更を加えるのみで実現でき、装置を大型化せずに実現できる。
なお、除電信号Seの供給は、操作者の操作によるコントロールボックス62からの強制的な指令信号によらずに、或いはこれと併用して、CPUが実行するデータ処理内容をソフトウェア的に変更することで、CPUに、移動子2の移動停止時に自動的に供給できるような指令を出力させて、自動処理してもよい。