【実施例1】
【0028】
図2A、
図2Bに本実施例に係る振動発電装置10の概略構成を示す。
図2Aは、振動発電装置10の上面図(XY平面における上面図)であり、
図2Bは、
図2AにおけるA−A断面図(ZY平面における断面図)である。ただし、
図2Aは、筐体11の上面11cが外され、その内部が上方より可視化された状態を表している。これらの図からも分かるように、電極群5aおよび電極基板5bを含む固定部材5と、エレクトレット群1aおよびエレクトレット基板1bを含む可動部材1は、振動発電装置10の筐体11に収容されている。当該筐体11は、略直方体の形状を有し、上面11、可動部材1の相対移動方向であるX方向に延在する一組の側面11aと、当該相対移動方向に直交する側面であってY方向に延在する一組の側面11dを有する。なお、筐体11の底面は、後述するように、固定部材5が筐体11に組付けられることで、該固定部材5の一面(ベース9の背面)が筐体11の底面を兼ねることになる。
【0029】
そして、
図2Bに示すように、固定部材5は、上記電極群5a、電極基板5bに加え、摺動基板5cを更に含み、これらが順に積層されて形成される。さらに、このように各層が積層されて形成される固定部材5は、ベース9に取り付けられた状態で筐体11の底部に取り付けられる。したがって、
図2Bに示すように、取り付け後において、ベース9の底面が筐体11の外側に露出するとともに、電極群5aが上方(筐体11の内側)を向いた状態となる。一方で、このように筐体11に固定された固定部材5に対して、可動部材1は支持用鋼球12を介して該固定部材5に対して相対移動が可能となるように支持されており、当該支持が、本発明に係る支持部材による可動部材1の支持に相当する。具体的には、
図2Bに示すように、エレクトレット群1aと干渉しないエレクトレット基板1b上の部分と、摺動基板5cとの間に、可動部材1を支持可能な複数の支持用鋼球12が配置される。すなわち、摺動基板5c上に配置された複数の支持用鋼球12の上に、更に可動部材1が配置される構成となっている。このように可動部材1が支持用鋼球12で支持された状態で、可動部材1側のエレクトレット群1aと、固定部材5の電極群5aとの間の発電ギャップ距離が、振動発電に適した所定の距離に規定される。
【0030】
また、可動部材1については、固定部材5に対する相対移動において、固定部材5側に設けられた電極6、7の並びと、可動部材1側に設けられたエレクトレット2の並びとが可及的に一致するように、可動部材1と側面11aの内壁面との間に更なる支持用鋼球13が配置されている。なお、この支持用鋼球13は、下方に落下しないように可動部材1側の構成により支持されているが、その詳細な構成については後述する。ここで、可動部材1においては、エレクトレット基板1bに対して、エレクトレット群1aとは反対方向にウェイト部材1cが取り付けられている。このウェイト部材1cは、可動部材1の慣性力を大きくし、外部振動による発電を効率的に行うために取り付けられるものである。したがって、ウェイト部材1cの大きさ、質量は、振動発電装置10が想定する外部振動の大きさ等に基づいて適宜設定される。
【0031】
そして、可動部材1においては、筐体11の側面11aの内壁面と対向する、エレクト
レット基板1bの両端上に端部側突起1dと、当該エレクトレット基板1bの中央部分に中央突起1fが設置され、端部側突起1dと中央突起1fとの間に、支持用鋼球13が配置可能な支持用溝1eが形成される。したがって、
図2Aに示すように、可動部材1の左右それぞれに2つずつ、支持用溝1eが形成され、それぞれに支持用鋼球13が配置される。このように可動部材1の側方において、筐体11の内壁面との間に支持用鋼球13を配置させることで、固定部材5に対する可動部材1の相対移動方向に沿った移動を円滑に行わせることが可能となる。
【0032】
更に、可動部材1のXY平面における概ね中央部分に設けられた接続部15を介して、可動部材1と筐体11の2つの側面11dのそれぞれとの間にバネ14が配置されている。
図2Aに示す状態では、バネ14は側面11dの概ね中央部分に接続され、各バネ14による弾性力は、相対移動方向(X方向)に作用するように配置されている。バネ14の弾性力により、外部振動を受けた可動部材1は筐体11内で往復運動を行い、効率的な振動発電が実現される。
【0033】
このように、本実施例に係る振動発電装置10では、可動部材1については、Z方向支持用鋼球12(以下、単に「支持用鋼球12」という)による摺動基板5cに対する支持と、Y方向支持用鋼球13(以下、単に「支持用鋼球13」という)による側面11aに対する支持が独立して行われていることになる。この両支持が存在することで、幾何学的条件により相対移動方向が一義的に決定されることになり、固定部材5に対する可動部材1の相対移動を安定して行うことができる。
【0034】
ここで、本実施例に係る振動発電装置10における、支持用鋼球12による可動部材1の支持構造について、
図3に基づいて詳細に説明する。
図3は、
図2Bで示した振動発電装置10の構造のうち、支持用鋼球12による可動部材1の支持構造に関する部分を抜粋したものである。したがって、
図3においては、可動部材1についてはエレクトレット基板1bだけが記載され、固定部材5については電極基板5bおよび摺動基板5cだけが記載されており、エレクトレット群1aおよび電極群5a等の記載は省略されている。
【0035】
また、
図4に振動発電装置10における、エレクトレット群1aおよび電極群5aとの間のギャップ(発電ギャップ)の距離と、振動発電装置10での発電量比との相関を示す。発電量比は、発電ギャップ距離が65μmのときの発電量を1としたときの、該発電量に関する比である。
【0036】
ここで、振動発電装置10の最大発電出力Pmaxは、理論的には以下の式1に従って算出できる。
Pmax=σ
2nA・2πf/[(ε
eε
0/d)×((ε
eg/d)+1)]・・・(式1)
なお、σはエレクトレットの表面電荷密度、nは[一対の基板の振幅÷エレクトレットのピッチ]、Aはエレクトレットと電極が重なり合う最大面積、ε
eはエレクトレットの比誘電率、dはエレクトレットの厚み、ε
0は真空の誘電率、gは発電ギャップ距離、fは振動発電装置10に外部から入力される振動の周波数である。
【0037】
そして、
図4からも理解できるように、発電ギャップ距離を、例えば、発電量比が最も高くなる70μmに設定しようとした場合、振動発電装置10の支持構造に起因して発電ギャップ距離が
図4中のYで示す範囲でばらつくと、発電量比が大きくばらつくため、発電振動素子10の製造上の歩留まりが極めて低下してしまう。一方で、発電ギャップ距離のばらつきが
図4中のXで示す範囲で収まれば、発電量比の変動は小さく、発電振動素子10の製造上の歩留まりを高い状態に維持することができる。
【0038】
そこで、本発明に係る振動発電装置10を見てみると、
図3の上段に示すように、電極群5aが配置される電極基板5bではなく、固定部材5を構成する摺動基板5cの基板表面上に直接、支持用鋼球12が配置される。この構成については、振動発電装置10で使用される全ての支持用鋼球12(本実施例においては、4個の支持用鋼球12)に適用されている。その結果、全ての支持用鋼球12の摺動面(可動部材1が相対移動を行う際に、支持用鋼球12が転がりながら摺動する面)が、摺動基板5cの共通する基板表面上に形成されることになる。また、可動部材1に対しては、全ての支持用鋼球12はエレクトレット基板1bに接触するため、可動部材1側の摺動面は、全てエレクトレット基板1bの基板表面上に形成されることになる。
【0039】
そして、摺動基板5cについては、全ての支持用鋼球12の摺動面が形成される基板表面の平たん度が極めて高くなるように(すなわち、当該基板表面の平たん度のばらつきが小さくなるように)、摺動基板5cは製造されている。具体的には、平たん度を高めるために、摺動基板5cはガラス部材で製造されている。なお、摺動基板5cにおける平たん度は、摺動基板5cの表面の高さを複数点(4点以上)で計測するとともに、その計測点のうち3点で画定される基準面に対して、他の計測点の表面高さがどの程度変位しているかについて計測された数値である。また、エレクトレット基板1bについても、同じようにその平たん度が極めて高くなるようにガラス部材で製造されている。
【0040】
ここで、発電ギャップ距離が振動発電装置10の発電効率に大きく影響を及ぼすのは
図4に示す通りだが、
図3に示すような可動部材1と固定部材5との間の支持構造を有する振動発電装置10においては、発電ギャップ距離のばらつきには、振動発電装置10の構造的観点からは、電極基板5bの厚さ方向(Z方向)のばらつき(以下、「第一ばらつき」と称する)と、支持用鋼球12の高さ方向(Z方向)のばらつき(以下、「第二ばらつき」と称する)と、支持用鋼球12が摺動し接触する摺動面であって、複数の支持用鋼球12の摺動面間の、該摺動面の高さ方向(Z方向)の位置のばらつき(以下、「第三ばらつき」と称する)が反映されることになる。
【0041】
第一ばらつきと第二ばらつきは、部材そのものの寸法のばらつきである。電極基板5bに関係する第一ばらつきについては、摺動基板5cと同じようにガラス部材で製造することで、その平たん度を高めることができ、その結果、第一ばらつきの値は、比較的小さくすることが可能である。また、支持用鋼球12に関係する第二ばらつきについても、支持用鋼球12の加工精度を挙げることで、第二ばらつきの値も比較的小さくすることができる。したがって、これらのばらつきは制御がし易い。
【0042】
ここで、第三ばらつきについては、上記の通り、振動発電装置10に使用される全ての支持用鋼球12の摺動面が、共通する摺動基板5cの基板表面上に形成され、且つ当該摺動基板5cの平たん度は極めて高い状態に形成されている。したがって、第三ばらつきも比較的小さくすることができる。また、振動発電装置10の製造にあたって、支持用鋼球12を挟んで可動部材1と固定部材5とを対向させた状態(
図3の上段に示す状態)に、筐体11を嵌め込むことで、振動発電装置10の完成体が形成される(
図3の下段に示す状態)。このときに、筐体11は、可動部材1と固定部材5との間の発電ギャップ距離には、何ら影響を及ぼすことはない。そのため、振動発電装置10は、製造過程において第三ばらつきが変動する可能性を可及的に抑制し得る支持構造を有している。更に、ガラス部材で製造された摺動基板5cは、継続的な支持用鋼球12の摺動や、外部の温度変化による熱応力等に対して、非常に高い耐性を有している。そのため、振動発電装置10においては、第三ばらつきは変動しにくく、その結果、好適な発電効率を長期間にわたって維持することができる。
【0043】
このように振動発電装置10は、その構造的観点から考慮すべき、発電ギャップ距離に
影響を及ぼす様々なばらつきを低減することができ、結果として、振動発電装置10の製造を容易にし、また、その歩留まりを向上させることができる。なお、発電ギャップ距離に影響を及ぼす要因として、上記の構造的観点によるばらつきの他に、実用的には製造工法に起因するばらつきも存在している。例えば、電極基板5bと摺動基板5cとを接着剤で固定する工法を採用している場合は、その接着剤の高さ方向(Z方向)のばらつきが、発電ギャップ距離に影響してくる。しかし、この点を考慮しても、上記構造的観点によるばらつきを抑制するための構成、すなわち
図3に示す支持構造の有用性は特筆すべきものである。