特許第6032006号(P6032006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032006
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】振動発電装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   H02N1/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-288169(P2012-288169)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-131418(P2014-131418A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】生田 雅代
【審査官】 服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−100404(JP,A)
【文献】 特開2011−097807(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0266915(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部振動によって、複数のエレクトレットからなるエレクトレット群と複数の電極からなる電極群が、相対移動方向に変位することで振動発電を行う振動発電装置であって、
前記エレクトレット群と前記電極群を収容する筐体部と、
前記筐体部の底面側に固定される固定部材であって、前記エレクトレット群と前記電極群のうち一方が、固定部材側発電要素として設けられた固定部材と、
前記筐体部の側面の内壁面との間に配置された複数の支持用鋼球によって、前記固定部材に対して対向した状態を保ったまま、外部振動により相対移動が可能となるように前記筐体部内に収容される可動部材であって、前記エレクトレット群と前記電極群のうち他方が、可動部材側発電要素として設けられた可動部材と、
前記固定部材上を摺動可能となるように配置され、且つ前記固定部材側発電要素と前記可動部材側発電要素との間の間隙を規定するように、前記固定部材と前記可動部材との間に直接介在し、該固定部材に対して該可動部材を相対移動可能に支持する、複数の支持部材と、を備え、
前記固定部材は、
前記固定部材側発電要素を含む発電基板と、
前記固定部材と前記可動部材の対向方向において前記発電基板の該可動部材とは反対側に積層され、且つ前記複数の支持部材が摺動する摺動面が、共通する基板表面上に形成される摺動基板と、
を有し、
前記複数の支持部材は、前記可動部材側では、前記可動部材側発電要素を含む基板の共通する表面上で摺動する、
振動発電装置。
【請求項2】
前記複数の支持部材の摺動面は、前記発電基板を挟んだ前記摺動基板の両側の基板表面に、前記可動部材の前記固定部材に対する相対移動方向に延在するように形成される、
請求項1に記載の振動発電装置。
【請求項3】
前記固定部材は、前記筐体部に設けられた筐体部側接触面に接触した状態で固定され、
前記筐体部側接触面に接触する該固定部材側の接触面である固定部材側接触面は、前記複数の支持部材の摺動面とは重ならない前記摺動基板の基板表面の一部に形成される、
請求項1又は請求項2に記載の振動発電装置。
【請求項4】
前記発電基板と、前記摺動基板は、ガラス材料からなる基板である、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の振動発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部振動により発電を行う振動発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の省エネルギーの流れから、化石燃料等に依存しない日常的に存在する環境エネルギーが注目されている。環境エネルギーとして太陽光や風力等による発電エネルギーは広く知られているが、これらに劣らないエネルギー密度を有する環境エネルギーとして、日常周囲に存在する振動エネルギーを挙げることができる。
【0003】
そして、この振動エネルギーを利用して発電を行う振動発電装置が開発されており、その発電装置には電荷を半永久的に保持できるエレクトレットが広く利用されている。このようにエレクトレットを利用して振動発電を行う場合、そのエレクトレットと電極とのギャップを、発電効率が良好となる所定距離に維持することが求められる。そこで、特許文献1に示すように、エレクトレットが設けられた基板と電極が設けられた基板を対向させる構造において、一方の基板を支持する支持部材と他方の基板を支持する支持部材との間にギャップを調整するための調整部材を配置する技術が開示されている。
【0004】
また、エレクトレットと電極とのギャップを維持する構成として、特許文献2に示すように、可動部材と固定部材の相対移動により発電を行う振動発電装置の筐体に、固定部材を装着するための第一基準面と、可動部材を支持するための摺動可能な鋼球を位置決めする第二基準面とを設け、第一基準面を介した固定部材の固定と、第二基準面および鋼球を介した可動部材の配置により、可動部材を構成する基板の厚み誤差に影響されにくいギャップ形成技術が開示されている。また、電荷による斥力を利用して、可動部材と固定部材とのギャップが狭まるのを抑制する技術が、特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−148124号公報
【特許文献2】国際公開第2011/086830号パンフレット
【特許文献3】特開2008−278607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エレクトレットを使用した振動発電装置においては、上記の通り、そのエレクトレットと電極とのギャップの大きさが、発電効率に大きく影響してくる。そのため、振動発電装置の組み立てにあたり、当該ギャップを発電効率が良好な状態となる距離に調整するとともに、その距離を維持することが重要と考えられる。ここで、上述した特許文献1に係る従来技術では、調整部材を介して調整を行う必要があるため、当該ギャップを適切な大きさに調整するのは容易ではない。
【0007】
また、上述した特許文献2に係る従来技術は、発電振動素子の筐体に、ギャップ形成のための二つの基準面を設置するものである。しかし、可動部材を支持する鋼球の摺動面、すなわち当該二つの基準面のうちの一つである第二基準面については、筐体の一部が該第二基準面として機能し、且つ筐体の構成によって鋼球が摺動する溝部が形成されている。そのため、筐体の歪みや寸法精度が、第二基準面に影響しやすく、以て、エレクトレットと電極とのギャップを好適に形成するのが難しい場合がある。一般に振動発電装置の筐体としては、製造のし易さ等の観点から樹脂材料が利用される場合がある。樹脂材料は加工
や周囲温度の影響を受けて変形しやすいため、上記のような第二基準面への影響が出やすい。また、特許文献3に係る従来技術は、電荷による斥力を利用して可動部材と固定部材とのギャップが狭まるのを抑制しようとするものであって、ギャップそのものをどのように好適に形成するかについて有用な示唆を与えるものではない。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、エレクトレットと電極とを対向させた状態で相対的に移動させることで発電を行う振動発電装置において、エレクトレットと電極とのギャップを好適に形成する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の構成を採用することとした。すなわち、本発明は、外部振動によって、複数のエレクトレットからなるエレクトレット群と複数の電極からなる電極群が、相対移動方向に変位することで振動発電を行う振動発電装置であって、前記エレクトレット群と前記電極群を収容する筐体部と、前記筐体部の底面側に固定される固定部材であって、前記エレクトレット群と前記電極群のうち一方が、固定部材側発電要素として設けられた固定部材と、前記固定部材に対して対向した状態を保ったまま、外部振動により相対移動が可能となるように前記筐体部内に収容される可動部材であって、前記エレクトレット群と前記電極群のうち他方が、可動部材側発電要素として設けられた可動部材と、前記固定部材上を摺動可能となるように配置され、且つ前記固定部材側発電要素と前記可動部材側発電要素との間の間隙を規定するように、前記固定部材と前記可動部材との間に直接介在し、該固定部材に対して該可動部材を相対移動可能に支持する、複数の支持部材と、を備える。そして、前記固定部材は、前記固定部材側発電要素を含む発電基板と、前記固定部材と前記可動部材の対向方向において前記発電基板の該可動部材とは反対側に積層され、且つ前記複数の支持部材が摺動する摺動面が、共通する基板表面上に形成される摺動基板と、を有する。
【0010】
本発明に係る振動発電装置では、エレクトレット群と電極群とが相対移動方向に外部振動によって変位することで、振動発電が行われる。ここで、エレクトレット群と電極群のうち何れかが固定部材に固定部材側発電要素として配置され、他方が可動部材に可動部材側発電要素として配置される。これらの両部材は、筐体部の内部に収容されるが、固定部材が、筐体部に対して固定される一方で、可動部材は、固定部材に対して相対移動可能となるように配置されることで、上記のエレクトレット群と電極群の振動発電のための相対移動が実現される。
【0011】
ここで、可動部材と固定部材との間に複数の支持部材が直接介在して、可動部材を相対移動可能に支持している。そして、この支持部材の摺動面は、固定部材側では、該固定部材に含まれる積層された二つの基板である発電基板と摺動基板のうち、該摺動基板上に形成される。また、可動部材側の摺動面は、該可動部材の表面上に形成されることになる。したがって、可動部材に設けられている可動部材側発電要素と固定部材に設けられている固定部材側発電要素との間のギャップであって、振動発電装置の発電効率に大きな影響を及ぼすギャップ(以下、「発電ギャップ」と称する)の精度には、実用的にはばらつきを抑制しやすい、摺動基板に隣接して積層される発電基板の厚さ方向(すなわち、固定部材と可動部材の対向方向(以下、単に「対向方向」と称する)のばらつきと、摺動部材の高さ方向(すなわち、対向方向)のばらつきに加えて、対向方向において固定部材に対する可動部材の高さを決定するための基準面であって、支持部材が固定部材に接触、摺動する面(摺動面)の高さ方向の位置のばらつきが反映されることになる。
【0012】
従来技術では、上記の通り、この摺動面が筐体の一部によって形成されていたため、筐体の歪みや寸法精度の影響を受けて、基準面がばらつきやすかった。しかし、本発明に係る振動発電装置においては、上記の通り、複数の支持部材の摺動面は、共通する摺動基板
の基板表面上に形成されている。このことは、対向方向において該固定部材に対して該可動部材を位置決めするための基準面を、複数の支持部材において共通化することを意味し、これにより支持部材間の対向方向における基準面位置のばらつきを可及的に排除することが可能となる。この結果、発電ギャップの調整が容易となり、また、安定的に発電ギャップを好適な大きさに維持することが可能となる。
【0013】
なお、実用的には、上記基準面の共通化が行われても、摺動基板の基板表面自体の歪み(平たん度のばらつき)が、基準面のばらつきとして存在することになる。そこで、摺動基板の基板表面の平たん度を可及的に向上した上で、複数の支持部材のための摺動面を、当該基板表面上に形成するのが好ましい。そして、摺動基板の材料の観点に立てば、その平たん度を向上させるためにガラス部材により当該摺動基板を製造するのが好ましい。
【0014】
更に、実用的には、発電基板と摺動基板との間には、両基板を積層、固定するために接着剤等で固定される場合がある。このような場合、発電ギャップの精度には、接着剤層の厚さのばらつきも反映されることになる。そして、接着剤によって両基板が固定される場合には、発電基板と摺動基板の材料が異なると熱応力による歪みが顕著になる可能性があるため、発電基板と摺動基板の材料は、同質の材料である方が好ましく、例えば、ガラス材料やセラミック材料等が採用できる。
【0015】
ここで、上記の振動発電装置において、前記複数の支持部材の摺動面は、前記発電基板を挟んだ前記摺動基板の両側の基板表面に、前記可動部材の前記固定部材に対する相対移動方向に延在するように形成されてもよい。摺動面をこのように構成することで、複数の支持部材によって、可動部材を安定して支持することが可能となる。
【0016】
また、上述までの振動発電装置において、前記固定部材は、前記筐体部に設けられた筐体部側接触面に接触した状態で固定され、前記筐体部側接触面に接触する該固定部材側の接触面である固定部材側接触面は、前記複数の支持部材の摺動面とは重ならない前記摺動基板の基板表面の一部に形成されてもよい。すなわち、固定部材は、筐体部側接触面に接触することで、筐体に対する固定部材が位置決めされることになる。ただし、このとき筐体部は、発電基板ではなく摺動基板上の部位だって摺動面とは重ならない部位(固定部材側接触面)に接触するため、固定部材の固定時に固定部材側発電要素にいたずらな外力が掛かってしまうことを回避でき、発電ギャップの好適な形成、維持が保たれることになる。
【0017】
なお、上述までの振動発電装置において、支持部材は、回転することで可動部材を相対移動可能に支持する鋼球であってもよく、この場合、支持部材による摩擦力を軽減でき、より効率的な振動発電が期待できる。また、当該鋼球に代えて、支持部材として、摺動面上をスライドするように移動することで可動部材を相対移動可能に支持するスライド部材を採用することもできる。
【発明の効果】
【0018】
エレクトレットと電極とを対向させた状態で相対的に移動させることで発電を行う振動発電装置において、エレクトレットと電極とのギャップを好適に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る振動発電装置のエレクトレット群、および電極群の概略構成を示す図である。
図2A】本発明に係る振動発電装置の上面図である。
図2B図2Aに示す振動発電装置の断面図である。
図3】本発明に係る振動発電装置の原理を説明する図である。
図4】本発明に係る振動発電装置において、エレクトレット群と電極群との間のギャップ距離と、振動発電に関する発電量比との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態に係る振動発電装置について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明に係る振動発電装置10の概略構成、特に、外部振動による振動発電を行う可動部材1と固定部材5のそれぞれに設けられたエレクトレット群1aおよび電極群5aの構成を示す。なお、図1においては、エレクトレットおよび電極が並べられる方向であって、固定部材5に対する可動部材1の相対移動方向をX方向、可動部材1と固定部材が対向する方向をZ方向、X方向およびZ方向に直交する方向をY方向とする。そして、図1は振動発電装置10をZX平面で切断したときの断面図である。
【0022】
振動発電装置10において、可動部材1及び固定部材5は、後述する図2A等に示す筐体11の内部に収納される。可動部材1と、固定部材5は、互いに対向した状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されており、当該相対移動を可能とする可動部材1の支持構造については後述する。また、固定部材5は筐体11に固定されており、この点についても後述する。これに対して、可動部材1は、その両端がそれぞれバネ14によって筺体11につながれているため(図2等を参照)、可動部材1そのものは、外部振動によって筐体11に固定された固定部材5に対して相対的に往復運動(振動)するように構成されている。
【0023】
なお、可動部材1と固定部材5は、互いに対向した状態で、かつ互いに平行な状態を保ったまま、つまり対向する面の間隔が一定の状態を保ったまま、相対的に移動可能に構成されている。これにより、可動部材1側のエレクトレット2の作用によって固定部材5側の一対の電極6、7に電気信号を生成することが可能となる。この電気信号の生成原理については従来技術であることから、本明細書ではその詳細な説明は割愛する。また、可動部材1と固定部材5との間の間隔を保持する構成についても後述する。
【0024】
ここで、可動部材1側の構造について説明する。可動部材1は、エレクトレット基板1b上に、エレクトレット群1aが形成されている。このエレクトレット群1aは、可動部材1における固定部材5との対向面側に設けられ、それぞれ導電体上に形成された複数のエレクトレット2と、いずれも接地されていない複数のガード電極4を含む。そして、固定部材5に対する可動部材1の相対移動方向(X方向)に沿って、エレクトレット2とガード電極4が交互に並ぶように配置されている。この複数のエレクトレット2と複数のガード電極4はそれぞれ櫛状に形成され、それぞれのエレクトレット2と、それぞれのガード電極4が入れ子状に配置されているが、上記のとおり、図1はZX断面図であるため、エレクトレット2とガード電極4が交互に配置されているように図示される。本実施形態においては、エレクトレット2はマイナスの電荷を半永久的に保持するように構成されている。
【0025】
なお、ガード電極4については、本実施形態では上記の通り接地させない構成を採用しているが、それに代えて接地させる構成を採用してもよい。ガード電極4を接地させることで、後述する第一電極6と第二電極7によって外部振動に応じた電気信号を0Vを中心とした安定した信号として取り出せることから、安定した外部振動の検出のためには有用である。
【0026】
次に、固定部材5側の構造について説明する。固定部材5は、電極基板5b上に、電極群5aが形成されている。この電極群5aは、固定部材5おける可動部材1との対向面側に設けられ、一対の電極(第一電極6と第二電極7)を一組とする小電極群を複数組み含む。
【0027】
このように構成される振動発電装置10では、外部振動による複数のエレクトレット2を有する可動部材1の固定部材5に対する相対的な位置変動に起因して、電極6、7間に当該相対的位置変動(振動)に応じた起電力が生じ、発電が行われる。そして、発電された電力は整流器11によって整流され、振動発電装置10の出力となる。
【実施例1】
【0028】
図2A図2Bに本実施例に係る振動発電装置10の概略構成を示す。図2Aは、振動発電装置10の上面図(XY平面における上面図)であり、図2Bは、図2AにおけるA−A断面図(ZY平面における断面図)である。ただし、図2Aは、筐体11の上面11cが外され、その内部が上方より可視化された状態を表している。これらの図からも分かるように、電極群5aおよび電極基板5bを含む固定部材5と、エレクトレット群1aおよびエレクトレット基板1bを含む可動部材1は、振動発電装置10の筐体11に収容されている。当該筐体11は、略直方体の形状を有し、上面11、可動部材1の相対移動方向であるX方向に延在する一組の側面11aと、当該相対移動方向に直交する側面であってY方向に延在する一組の側面11dを有する。なお、筐体11の底面は、後述するように、固定部材5が筐体11に組付けられることで、該固定部材5の一面(ベース9の背面)が筐体11の底面を兼ねることになる。
【0029】
そして、図2Bに示すように、固定部材5は、上記電極群5a、電極基板5bに加え、摺動基板5cを更に含み、これらが順に積層されて形成される。さらに、このように各層が積層されて形成される固定部材5は、ベース9に取り付けられた状態で筐体11の底部に取り付けられる。したがって、図2Bに示すように、取り付け後において、ベース9の底面が筐体11の外側に露出するとともに、電極群5aが上方(筐体11の内側)を向いた状態となる。一方で、このように筐体11に固定された固定部材5に対して、可動部材1は支持用鋼球12を介して該固定部材5に対して相対移動が可能となるように支持されており、当該支持が、本発明に係る支持部材による可動部材1の支持に相当する。具体的には、図2Bに示すように、エレクトレット群1aと干渉しないエレクトレット基板1b上の部分と、摺動基板5cとの間に、可動部材1を支持可能な複数の支持用鋼球12が配置される。すなわち、摺動基板5c上に配置された複数の支持用鋼球12の上に、更に可動部材1が配置される構成となっている。このように可動部材1が支持用鋼球12で支持された状態で、可動部材1側のエレクトレット群1aと、固定部材5の電極群5aとの間の発電ギャップ距離が、振動発電に適した所定の距離に規定される。
【0030】
また、可動部材1については、固定部材5に対する相対移動において、固定部材5側に設けられた電極6、7の並びと、可動部材1側に設けられたエレクトレット2の並びとが可及的に一致するように、可動部材1と側面11aの内壁面との間に更なる支持用鋼球13が配置されている。なお、この支持用鋼球13は、下方に落下しないように可動部材1側の構成により支持されているが、その詳細な構成については後述する。ここで、可動部材1においては、エレクトレット基板1bに対して、エレクトレット群1aとは反対方向にウェイト部材1cが取り付けられている。このウェイト部材1cは、可動部材1の慣性力を大きくし、外部振動による発電を効率的に行うために取り付けられるものである。したがって、ウェイト部材1cの大きさ、質量は、振動発電装置10が想定する外部振動の大きさ等に基づいて適宜設定される。
【0031】
そして、可動部材1においては、筐体11の側面11aの内壁面と対向する、エレクト
レット基板1bの両端上に端部側突起1dと、当該エレクトレット基板1bの中央部分に中央突起1fが設置され、端部側突起1dと中央突起1fとの間に、支持用鋼球13が配置可能な支持用溝1eが形成される。したがって、図2Aに示すように、可動部材1の左右それぞれに2つずつ、支持用溝1eが形成され、それぞれに支持用鋼球13が配置される。このように可動部材1の側方において、筐体11の内壁面との間に支持用鋼球13を配置させることで、固定部材5に対する可動部材1の相対移動方向に沿った移動を円滑に行わせることが可能となる。
【0032】
更に、可動部材1のXY平面における概ね中央部分に設けられた接続部15を介して、可動部材1と筐体11の2つの側面11dのそれぞれとの間にバネ14が配置されている。図2Aに示す状態では、バネ14は側面11dの概ね中央部分に接続され、各バネ14による弾性力は、相対移動方向(X方向)に作用するように配置されている。バネ14の弾性力により、外部振動を受けた可動部材1は筐体11内で往復運動を行い、効率的な振動発電が実現される。
【0033】
このように、本実施例に係る振動発電装置10では、可動部材1については、Z方向支持用鋼球12(以下、単に「支持用鋼球12」という)による摺動基板5cに対する支持と、Y方向支持用鋼球13(以下、単に「支持用鋼球13」という)による側面11aに対する支持が独立して行われていることになる。この両支持が存在することで、幾何学的条件により相対移動方向が一義的に決定されることになり、固定部材5に対する可動部材1の相対移動を安定して行うことができる。
【0034】
ここで、本実施例に係る振動発電装置10における、支持用鋼球12による可動部材1の支持構造について、図3に基づいて詳細に説明する。図3は、図2Bで示した振動発電装置10の構造のうち、支持用鋼球12による可動部材1の支持構造に関する部分を抜粋したものである。したがって、図3においては、可動部材1についてはエレクトレット基板1bだけが記載され、固定部材5については電極基板5bおよび摺動基板5cだけが記載されており、エレクトレット群1aおよび電極群5a等の記載は省略されている。
【0035】
また、図4に振動発電装置10における、エレクトレット群1aおよび電極群5aとの間のギャップ(発電ギャップ)の距離と、振動発電装置10での発電量比との相関を示す。発電量比は、発電ギャップ距離が65μmのときの発電量を1としたときの、該発電量に関する比である。
【0036】
ここで、振動発電装置10の最大発電出力Pmaxは、理論的には以下の式1に従って算出できる。
Pmax=σ2nA・2πf/[(εeε0/d)×((εeg/d)+1)]・・・(式1)
なお、σはエレクトレットの表面電荷密度、nは[一対の基板の振幅÷エレクトレットのピッチ]、Aはエレクトレットと電極が重なり合う最大面積、εはエレクトレットの比誘電率、dはエレクトレットの厚み、εは真空の誘電率、gは発電ギャップ距離、fは振動発電装置10に外部から入力される振動の周波数である。
【0037】
そして、図4からも理解できるように、発電ギャップ距離を、例えば、発電量比が最も高くなる70μmに設定しようとした場合、振動発電装置10の支持構造に起因して発電ギャップ距離が図4中のYで示す範囲でばらつくと、発電量比が大きくばらつくため、発電振動素子10の製造上の歩留まりが極めて低下してしまう。一方で、発電ギャップ距離のばらつきが図4中のXで示す範囲で収まれば、発電量比の変動は小さく、発電振動素子10の製造上の歩留まりを高い状態に維持することができる。
【0038】
そこで、本発明に係る振動発電装置10を見てみると、図3の上段に示すように、電極群5aが配置される電極基板5bではなく、固定部材5を構成する摺動基板5cの基板表面上に直接、支持用鋼球12が配置される。この構成については、振動発電装置10で使用される全ての支持用鋼球12(本実施例においては、4個の支持用鋼球12)に適用されている。その結果、全ての支持用鋼球12の摺動面(可動部材1が相対移動を行う際に、支持用鋼球12が転がりながら摺動する面)が、摺動基板5cの共通する基板表面上に形成されることになる。また、可動部材1に対しては、全ての支持用鋼球12はエレクトレット基板1bに接触するため、可動部材1側の摺動面は、全てエレクトレット基板1bの基板表面上に形成されることになる。
【0039】
そして、摺動基板5cについては、全ての支持用鋼球12の摺動面が形成される基板表面の平たん度が極めて高くなるように(すなわち、当該基板表面の平たん度のばらつきが小さくなるように)、摺動基板5cは製造されている。具体的には、平たん度を高めるために、摺動基板5cはガラス部材で製造されている。なお、摺動基板5cにおける平たん度は、摺動基板5cの表面の高さを複数点(4点以上)で計測するとともに、その計測点のうち3点で画定される基準面に対して、他の計測点の表面高さがどの程度変位しているかについて計測された数値である。また、エレクトレット基板1bについても、同じようにその平たん度が極めて高くなるようにガラス部材で製造されている。
【0040】
ここで、発電ギャップ距離が振動発電装置10の発電効率に大きく影響を及ぼすのは図4に示す通りだが、図3に示すような可動部材1と固定部材5との間の支持構造を有する振動発電装置10においては、発電ギャップ距離のばらつきには、振動発電装置10の構造的観点からは、電極基板5bの厚さ方向(Z方向)のばらつき(以下、「第一ばらつき」と称する)と、支持用鋼球12の高さ方向(Z方向)のばらつき(以下、「第二ばらつき」と称する)と、支持用鋼球12が摺動し接触する摺動面であって、複数の支持用鋼球12の摺動面間の、該摺動面の高さ方向(Z方向)の位置のばらつき(以下、「第三ばらつき」と称する)が反映されることになる。
【0041】
第一ばらつきと第二ばらつきは、部材そのものの寸法のばらつきである。電極基板5bに関係する第一ばらつきについては、摺動基板5cと同じようにガラス部材で製造することで、その平たん度を高めることができ、その結果、第一ばらつきの値は、比較的小さくすることが可能である。また、支持用鋼球12に関係する第二ばらつきについても、支持用鋼球12の加工精度を挙げることで、第二ばらつきの値も比較的小さくすることができる。したがって、これらのばらつきは制御がし易い。
【0042】
ここで、第三ばらつきについては、上記の通り、振動発電装置10に使用される全ての支持用鋼球12の摺動面が、共通する摺動基板5cの基板表面上に形成され、且つ当該摺動基板5cの平たん度は極めて高い状態に形成されている。したがって、第三ばらつきも比較的小さくすることができる。また、振動発電装置10の製造にあたって、支持用鋼球12を挟んで可動部材1と固定部材5とを対向させた状態(図3の上段に示す状態)に、筐体11を嵌め込むことで、振動発電装置10の完成体が形成される(図3の下段に示す状態)。このときに、筐体11は、可動部材1と固定部材5との間の発電ギャップ距離には、何ら影響を及ぼすことはない。そのため、振動発電装置10は、製造過程において第三ばらつきが変動する可能性を可及的に抑制し得る支持構造を有している。更に、ガラス部材で製造された摺動基板5cは、継続的な支持用鋼球12の摺動や、外部の温度変化による熱応力等に対して、非常に高い耐性を有している。そのため、振動発電装置10においては、第三ばらつきは変動しにくく、その結果、好適な発電効率を長期間にわたって維持することができる。
【0043】
このように振動発電装置10は、その構造的観点から考慮すべき、発電ギャップ距離に
影響を及ぼす様々なばらつきを低減することができ、結果として、振動発電装置10の製造を容易にし、また、その歩留まりを向上させることができる。なお、発電ギャップ距離に影響を及ぼす要因として、上記の構造的観点によるばらつきの他に、実用的には製造工法に起因するばらつきも存在している。例えば、電極基板5bと摺動基板5cとを接着剤で固定する工法を採用している場合は、その接着剤の高さ方向(Z方向)のばらつきが、発電ギャップ距離に影響してくる。しかし、この点を考慮しても、上記構造的観点によるばらつきを抑制するための構成、すなわち図3に示す支持構造の有用性は特筆すべきものである。
【符号の説明】
【0044】
1・・・・可動部材
1a・・・・エレクトレット群
1b・・・・エレクトレット基板
1c・・・・ウェイト部材
2・・・・エレクトレット
5・・・・固定部材
5a・・・・電極群
5b・・・・電極基板
5c・・・・摺動基板
6、7・・・・電極
10・・・・振動発電装置
11・・・・筐体
11a・・・・側面
11d・・・・側面
12・・・・支持用鋼球(Z方向支持用鋼球)
13・・・・支持用鋼球(Y方向支持用鋼球)
14・・・・バネ
15・・・・連結部
図1
図2A
図2B
図3
図4