特許第6032012号(P6032012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6032012-2,3−ブタンジオールの製造方法 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032012
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】2,3−ブタンジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/18 20060101AFI20161114BHJP
   C07C 29/80 20060101ALI20161114BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C12P7/18
   C07C29/80
   C07C31/20
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-554118(P2012-554118)
(86)(22)【出願日】2012年10月12日
(86)【国際出願番号】JP2012076421
(87)【国際公開番号】WO2013054874
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-226391(P2011-226391)
(32)【優先日】2011年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/化学品原料の転換・多様化を可能とする革新グリーン技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河村 健司
(72)【発明者】
【氏名】守田 いずみ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
(72)【発明者】
【氏名】磯部 匡平
(72)【発明者】
【氏名】坂見 敏
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】 長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許第101586126(CN,B)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0003355(US,A1)
【文献】 特表平11−500437(JP,A)
【文献】 特開昭60−078928(JP,A)
【文献】 特開2001−213828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/18
C07C 29/80
C07C 31/20
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPI
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の発酵により生産された2,3−ブタンジオール培養液をナノ濾過膜処理およびイオン交換処理する工程(工程A)の後にアルカリ性物質を添加して蒸留する(工程B)、2,3−ブタンジオールの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ性物質の添加量が、2,3−ブタンジオール量(モル数)に対して10mol%以下である、請求項1に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ性物質が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩およびアルカリ土類金属炭酸塩からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1から3のいずれかに記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
【請求項5】
前記蒸留における加熱温度が60℃以上150℃以下である、請求項1から4のいずれかに記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
【請求項6】
前記工程Aで得られる2,3−ブタンジオール溶液を前記工程Bの前に濃縮する(工程C)、請求項1からのいずれかに記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
【請求項7】
前記工程Cが2,3−ブタンジオール溶液を逆浸透膜に通じて濾過する工程である、請求項に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3−ブタンジオール発酵液から簡易な方法により着色のない高純度な2,3−ブタンジオールを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,3−ブタンジオール(BDO)は医薬品や化粧品の中間体原料、インク、香水、液晶、殺虫剤、軟化試薬、爆薬、可塑剤などの原料として用いられる有用な化合物であり、三種の光学異性体が存在する。工業的には、2−ブテンオキシドを過塩素酸水溶液中で加水分解する方法で製造されている。一方、近年では石油資源の枯渇や温暖化問題への対応として、持続可能な循環型社会への転換が迫られており、化学産業においても、石油原料からバイオマス由来原料へのシフトが盛んに研究されている。その中で、2,3−ブタンジオールの微生物発酵法が注目されつつある。2,3−ブタンジオールは化学変換により汎用な溶剤であるメチルエチルケトンに変換されること(非特許文献1)や、アセチル化した後に酢酸を脱離する方法により1,3−ブタジエンへと変換されること(非特許文献2)が報告されている。中でも、1,3−ブタジエンはヘキサメチレンジアミンやアジピン酸、1,4−ブタンジオール等といった多種類の化合物を合成可能な出発物質であり、これら技術の確立は石油由来の既存合成樹脂をバイオマス由来に置き換えられる可能性があるため、その製造技術は非常に重要である。
【0003】
一般に、2,3−ブタンジオールを生産する微生物には、Klebsiella Pneumoniae、Klebsiella axytoca、Paenibacillus polymyxaなどが知られており、これら微生物により2,3−ブタンジオールが発酵生産される。しかしながら、発酵液中には2,3−ブタンジオールの他、残存した培地成分や微生物の代謝副産物など、多様な不純物が含まれており、中でも、微生物の栄養源である糖類や代謝産物である有機酸、タンパク質などは、加熱により着色性不純物を生じることが報告されている(非特許文献3)。そのため、上記用途に適用するためには、高度な2,3−ブタンジオールの精製が必要である。
【0004】
2,3−ブタンジオールの精製方法としては、特許文献1には2,3−ブタンジオールなどのジオールをナノ濾過膜処理と蒸留を組み合わせて精製する方法が開示されている。その他のジオールの精製方法としては、特許文献2には1,3−プロパンジオール発酵液において、発酵液をpH7以上に調節した後に分離工程に供することで、1,3−プロパンジオールの着色を低減させる手法が開示されており、特許文献3には、高純度のジオールを製造する方法としては、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過およびイオン交換、蒸留の後に水素化還元処理を用いる1,3−プロパンジオールの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−150248号公報
【特許文献2】米国特許第6,361,983号公報
【特許文献3】特表2007−502325号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.N.Bourns,The Catalytic Action Of Aluminium Silicates,Canadian J.Res.(1947年)
【非特許文献2】Nathan Shlechter,Pyrolysis of 2,3−butylene Glycol Diacetate to Butadiene,Indu.Eng.Chem.905(1945年)
【非特許文献3】松尾義之、酸によるグルコースの過分解の様相:醗酵工学雑誌、39、5、256−262(1961年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の2,3−ブタンジオールの精製方法、すなわち、2,3−ブタンジオール発酵液をナノ濾過膜処理後に蒸留する精製では、高純度な2,3−ブタンジオールが得られるものの、依然、蒸留工程によって2,3−ブタンジオールが著しく着色するという課題が存在する。そこで本発明は、2,3−ブタンジオール発酵液を蒸留して精製する場合において、2,3−ブタンジオールの着色を防ぎながら分離・回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、2,3−ブタンジオール発酵液をナノ濾過膜処理およびイオン交換処理した後に、アルカリ性物質を添加して蒸留することで、高純度かつ着色度が著しく低い2,3−ブタンジオールが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)から構成される。
(1)微生物の発酵により生産された2,3−ブタンジオール培養液をナノ濾過膜処理およびイオン交換処理する工程(工程A)の後にアルカリ性物質を添加して蒸留する(工程B)、2,3−ブタンジオールの製造方法。
(2)前記アルカリ性物質の添加量が、2,3−ブタンジオール量(モル数)に対して10mol%以下である、(1)に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
(3)前記アルカリ性物質が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩およびアルカリ土類金属炭酸塩からなる群から選択される1種または2種以上である、(1)または(2)に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
(4)前記アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウムからなる群から選択される1種または2種以上である、(1)から(3)のいずれかに記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
(5)前記工程Aで得られる2,3−ブタンジオール溶液を前記工程Bの前に濃縮する(工程C)、(1)から(4)のいずれかに記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
(6)前記工程Cが2,3−ブタンジオール溶液を逆浸透膜に通じて濾過する工程である、(5)に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、微生物発酵にて2,3−ブタンジオールを製造する方法において、従来技術に比べ極めて簡便な手法により、高純度・無着色の2,3−ブタンジオールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明で用いられる膜分離装置の一つの実施の形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(2,3−ブタンジオール培養液)
本発明では2,3−ブタンジオールを微生物の発酵によって製造することを特徴としている。糖類を炭素源として発酵する微生物では、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxymora、Paenibacillus polymyxaは天然に存在し、(2R、3R)−トレオ体や、(2S,3R)−メソ体を生産することができる。また、WO2007/094178に示されるようなOchribactrum属では、(2S,3S,)−トレオ体が選択的に生産されることが知られている。その他、WO2009/151342に記載されるように一酸化炭素を炭素源として発酵する微生物としてClostridium autoethanogenumも知られており、このような微生物から生産される2,3−ブタンジオールも本発明の対象となりうる。
【0013】
これらの他、遺伝子組み換えにより、2,3−ブタンジオール生産能を付与した微生物を用いる方法であってもよく、具体例として、Applied Microbiolgy and Biotechnology,Volume 87,Number 6,2001−2009(2010)に記載の方法が挙げられる。
【0014】
前述のとおり、微生物の発酵によって製造される2,3−ブタンジオールには3種の光学異性体が存在する。本発明の製造対象物としては異性体のいずれでもよく、または、複数の異性体の混合物であってもよいが、異性体は用途によっては副生物の発生を引き起こすため、好ましくは光学活性の高い2,3−ブタンジオールである。光学活性の高い2,3−ブタンジオールは、前述のとおり光学活性の高い2,3−ブタンジオールを製造するような微生物を利用することによって得ることができる。
【0015】
本発明において培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。培養液に追加する発酵原料の組成は、目的とする2,3−ブタンジオールの生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
【0016】
発酵原料の炭素源としては例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノースおよびスターチなどの糖類が挙げられる。さらに上記糖類は市販精製品であってもよいが、再生資源や草木由来のバイオマスなどの分解物であってもよく、セルロースやヘミセルロース、リグニン原料を化学的または生物学的処理によって分解したものも用いることができる。その場合、微生物の発酵生産を阻害する不純物は精製により低減されていることが好ましい。また、前述したClostridium autoethanogenumの場合には、一酸化炭素が炭素源である。一酸化炭素は、石炭や石油、バイオマス資源の不完全燃焼から得られる他、製鉄所におけるコークス炉などで発生するガスから回収することもでき、また、バイオマス資源のガス化によって製造することもできる。
【0017】
発酵原料の窒素源としては安価な無機窒素源であるアンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩などの他、有機窒素源である油粕類や大豆加水分解物、カゼイン分解物、肉エキス、酵母エキス、ペプトン、アミノ酸類、ビタミン類などを用いるのがよい。
【0018】
その他、発酵原料として用いられる無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。本発明に使用する微生物が生育のために特定の栄養素(例えば、アミノ酸など)を必要とする場合には、その栄養物をそれ自体もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤も必要に応じて使用してもよい。
【0019】
2,3−ブタンジオールの培養条件としては、微生物によって最適条件を選択することができる。例えば、培養時の通気条件については、好気培養であっても、嫌気培養であってもよいが、2,3−ブタンジオールの生産能が高くなる微好気培養が好ましい。また、培養時のpHはpH4〜8の範囲であることが好ましい。培養液のpHはアルカリ性物質および酸性物質によって上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節する。塩基性物質としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアガス、アンモニア水などが好ましく用いられる。また、酸性物質としては、硫酸、塩酸、酢酸、炭酸ガス、炭酸水などが好ましく用いられる。また、培養温度は20−40℃の範囲であることが好ましい。
【0020】
微生物の培養方法は当該業者が公知の方法であれば特に制限はなく、バッチ培養であっても連続培養であってもよいが、生産性の観点から発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養が好ましい。連続培養の方法としては、例えば、培養初期はバッチ培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に、連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体を植菌し、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から原料培養液の供給及び培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。原料培養液には上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で高い状態で維持することが、効率のよい生産性を得るのに好ましく、一例として、乾燥重量として5g/L以上に維持することで良好な生産効率が得られる。また、連続培養操作は、通常、単一の発酵槽で行うのが、培養管理上好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵槽の数は問わない。発酵槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
【0021】
後段のナノ濾過膜処理およびイオン交換処理の工程(工程A)に供される2,3−ブタンジオール培養液の組成は特に制限はなく、発酵原料として用いた糖類や無機塩を含んでいてもよい。また、発酵副生物である有機酸やアミノ酸類、フルフラールなどのフラン系化合物を含む場合であっても本発明の精製方法により、高度に精製することができるため、好ましく用いることができる。
【0022】
(ナノ濾過膜処理およびイオン交換処理工程(工程A))
本発明では、後段の2,3−ブタンジオール蒸留工程(工程B)の前に2,3−ブタンジオール培養液をナノ濾過膜処理およびイオン交換処理工程(工程A)に供することを特徴とする。2,3−ブタンジオール培養液を工程Aを行わずに蒸留に供した場合、蒸留残さが大量に発生し、蒸留収率の著しい低下を引き起こしてしまうからである。
【0023】
特開2010−150248号公報にも開示されているように、2,3−ブタンジオール含有溶液をナノ濾過膜に通じて濾過することによって、効率的に透過液側に2,3−ブタンジオール、非透過液側に無機塩、糖類および着色成分を効率的に分離することができる。すなわち、ナノ濾過膜処理とは、2,3−ブタンジオール含有溶液をナノ濾過膜に通じて、透過液側からナノ濾過膜を回収することである。
【0024】
ナノ濾過膜の素材としては、ピペラジンポリアミドやポリアミド、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエステルなどのポリマー系素材のほか、セラミックスなどの無機材料が用いられている。また、ナノ濾過膜は一般にスパイラル型の膜エレメントの他、平膜や中空糸膜として使用されるが、本発明で用いるナノ濾過膜は、スパイラル型の膜エレメントが好ましく使用される。
【0025】
本発明で用いられるナノ濾過膜エレメントの好ましい具体例としては、例えば、酢酸セルロース系のナノ濾過膜であるGE Osmonics社製ナノ濾過膜の“GEsepa”、ポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノ濾過膜のNF99またはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノ濾過膜のNF−45、NF−90、NF−200またはNF−400、あるいは東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜エレメントSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610が挙げられ、中でも好ましくはポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノ濾過膜のNF99またはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノ濾過膜のNF−45、NF−90、NF−200またはNF−400、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜モジュールSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610であり、さらに好ましくは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とする、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜エレメントSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610である。
【0026】
ナノ濾過膜による濾過は、圧力をかけてもよく、その濾過圧は、0.1MPa以上8MPa以下の範囲で好ましく用いられる。濾過圧が0.1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるおそれがある。また、濾過圧が0.5MPa以上7MPa以下で用いれば、膜透過流束が高いことから、2,3−ブタンジオール発酵液を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、1MPa以上6MPa以下で用いることが特に好ましい。
【0027】
上記のナノ濾過膜に通じて濾過する2,3−ブタンジオールの濃度は、特に限定されないが、高濃度であれば、透過液中に含まれる2,3−ブタンジオール濃度も高いため、濃縮する際のエネルギー削減ができ、コスト削減にも好適である。
【0028】
イオン交換処理とは、イオン交換体を用いて2,3−ブタンジオール溶液中のイオン成分を除去する方法である。イオン交換体としては、イオン交換樹脂イオン交換膜、イオン交換繊維、イオン交換紙、ゲルイオン交換体、液状イオン交換体、ゼオライト、炭質イオン交換体、モンモリロン石が用いられる。なお、本発明ではイオン交換樹脂を用いた処理も好ましく採用される。
【0029】
イオン交換樹脂にはその官能基の違いにより、強アニオン交換樹脂、弱アニオン交換樹脂、強カチオン交換樹脂、弱カチオン交換樹脂、キレート交換樹脂などがある。例えば、強アニオン交換樹脂は、オルガノ株式会社製の“アンバーライト”IRA410J、IRA411、IRA910CTや三菱化学株式会社製の“ダイヤイオン”SA10A、SA12A、SA11A、NSA100、SA20A、SA21A、UBK510L、UBK530、UBK550、UBK535、UBK555などから選定される。また、弱アニオン交換樹脂は、オルガノ株式会社製の“アンバーライト”IRA478RF、IRA67、IRA96SB、IRA98、XE583や三菱化学株式会社製の“ダイヤイオン”WA10、WA20、WA21J、WA30などがある。一方、強カチオン交換樹脂は、オルガノ株式会社製の“アンバーライト”IR120B、IR124、200CT、252の他、三菱化学株式会社製の“ダイヤイオン”SK104、SK1B、SK110、SK112、PK208、PK212、PK216、PK218,PK220、PK228などがあり、弱カチオン交換樹脂としては、オルガノ株式会社製の“アンバーライト”FPC3500、IRC76や三菱化学株式会社製の“ダイヤイオン”WK10、WK11、WK100、WK40Lなどから選定することができる。
【0030】
本発明においては、アニオン交換樹脂およびカチオン交換樹脂の両方を用いて脱塩する方法が好ましく、中でも、多様イオンを除去することができる強アニオン樹脂および強カチオン樹脂を用いる方法がより好ましい。また、アニオン交換樹脂は水酸化ナトリウムなどの希アルカリ性水溶液により再生し、OH型として用いる。カチオン交換樹脂の場合は、塩酸などの希酸性水溶液により再生し、H型として用いるのがよい。イオン交換樹脂による脱塩方法はバッチ法でもカラム法でもよく、効率的に脱塩できる方法であれば特に制限はないが、繰り返し利用が容易なカラム法が好ましく採用される。イオン交換樹脂への通液速度は通常、SV(空間速度)で制御され、SV=2〜50が好ましく、より高度に精製できるSV=2〜10で通液することがより好ましい。イオン交換樹脂はゲル型でもポーラス型、ハイポーラス型、MR型などの種類が市販されており、これらイオン交換樹脂の形状はいずれでもよく、溶液の品質に合わせて最適な形状を選択すればよい。
【0031】
工程Aにおけるナノ濾過膜処理とイオン交換処理の順序に特に制限はないが、2,3−ブタンジオール培養液をナノ濾過膜処理して透過液側から得られる無機塩が低減した2,3−ブタンジオール溶液をイオン交換処理することが好ましい。これにより、ナノ濾過膜を一部通過する無機塩や有機酸をイオン交換樹脂で除去することで、無機塩類の除去率を上げることができる。
【0032】
(蒸留工程(工程B))
本発明は、上記工程Aの後に、アルカリ性物質を添加して蒸留すること(工程B)を特徴としている。工程Bにより高純度・無着色な2,3−ブタンジオールを得ることができる。
【0033】
アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物や水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩のほか、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩がよい。中でも好ましいものは、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩およびアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩であり、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムが安価で処理効率が良く、好ましい。これらアルカリ性物質は固体のまま添加してもよいし、添加量の調節が容易な水溶液で添加してもよい。また、これらアルカリ性物質は1種類で用いても複数で用いてもよい。
【0034】
アルカリ性物質の添加量に特に制限はないが、アルカリ性物質の添加量が多すぎると蒸留時に蒸留収率を低下させる要因となるため、好ましくは2,3−ブタンジオール量(モル数)に対し、10モル%以下であり、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下である。添加量は回分蒸留の場合には2,3−ブタンジオールの濃度からモル数を算出して決定すればよい。なお、アルカリ性物質の添加量の下限量は本発明の効果が奏する範囲においては特に制限はないが、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.1モル%以上である。
【0035】
また、連続蒸留の場合には、単位時間当たりの2,3−ブタンジオールモル流量[モル/h]からアルカリ性添加流量[モル/h]を算出して添加すればよい。連続的なアルカリ性物質の添加は2,3−ブタンジオール流路に対して行っても良いが、添加・混合槽を設ける方が均一に添加できるため好ましい。なお、米国特許6,361,983号公報や特開2004−352713号公報には、1,3−ブタンジオール溶液のpHがpH7以上になるようにアルカリ性物質を添加することで着色が抑制される技術が開示されているが、本発明においては、着色抑制にpHが寄与しているのではないことが見出されており、pH7以下であっても効果が得られる。
【0036】
アルカリ性物質の添加に際し、2,3−ブタンジオール溶液を十分攪拌することが好ましい。アルカリ性物質の作用は未だ解明されてはいないが、2,3−ブタンジオール溶液は粘性が高いため、反応が十分進行するように攪拌する方が良い。その際、粘性を下げる効果や反応を促進する効果があるため、熱をかけてもよいが、高温では不純物の発生が起こる場合もあるため、150℃以下が好ましい。
【0037】
なお、アルカリ性物質を添加する場合、その効果が高くなるようあらかじめ2,3−ブタンジオール溶液を濃縮しておくことが好ましい(工程C)。濃縮後の2,3−ブタンジオールの濃度は限定されないが、蒸留の負荷が小さくなるよう50重量%以上が好ましい。また、アルカリ性物質の溶解性が良くなるように少量の水を含んでいた方がよいため、99重量%未満が好ましい。
【0038】
2,3−ブタンジオール溶液の濃縮方法としては当該業者が公知の一般的な方法でよく、例えば、逆浸透膜を用いる方法や、エバポレーターによる加熱濃縮、蒸発法などが挙げられるが、逆浸透膜を用いる方法が好ましく適用される。
【0039】
逆浸透膜を用いる方法は、2,3−ブタンジオール溶液を逆浸透膜に通じて濾過することで透過液側に水を透過させ、2,3−ブタンジオールを膜の非透過液側に保持することで濃縮する方法である。本発明で好ましく使用される逆浸透膜としては、酢酸セルロール系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいう)が挙げられる。ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。膜形態としては、平膜型、スパイラル型、中空糸型など適宜の形態のものが使用できる。
【0040】
本発明で使用される逆浸透膜の具体例としては、例えば、東レ株式会社製ポリアミド系逆浸透膜モジュールである低圧タイプのSU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710P、SU−720Pの他、高圧タイプのSU−810、SU−820、SU−820L、SU−820FA、同社酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100、SC−8200、日東電工株式会社製NTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製RO98pHt、RO99、HR98PP、CE4040C−30D、GE製“GESepa”、Filmtec製BW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040などが挙げられる。
【0041】
本発明において、逆浸透膜による濃縮は、圧力をかけて行うが、その濾過圧は、1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるため、1MPa以上8MPa以下の範囲であることが好ましい。また、濾過圧が1MPa以上7MPa以下の範囲であれば、膜透過流束が高いことから、2,3−ブタンジオール溶液を効率的に濃縮することができる。膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことから最も好ましくは、2MPa以上6MPa以下の範囲である。低濃度の2,3−ブタンジオール溶液においては、逆浸透膜を用いる方法が低コストであるため好ましい。
【0042】
蒸留法は特に限定されないが、一般的に適応される単蒸留や精密蒸留、常圧蒸留や減圧蒸留のいずれでもよく、薄膜蒸留装置や棚段式蒸留装置、充填式蒸留装置などから選択することができる。また、回分式であっても連続式であっても本発明に適用できる。中でも好ましくは、減圧蒸留であり、沸点を下げることができるため、不純物の発生を抑制することができる。具体的には、加熱温度が60℃以上150℃以下で行うのが好ましい。60℃未満の場合は減圧度を著しく下げる必要があるため、工業レベルでは装置の維持が非常に困難となる。また、150℃より高くなる場合には、2,3−ブタンジオール溶液中に残存する微量の糖などが分解し、着色性物質の副生が起こるため好ましくない。そのため、上記加熱温度範囲で2,3−ブタンジオールが留出するよう、減圧度を調節するのがよい。
【0043】
また、蒸留設備の負荷を下げるために、アルカリ性物質を添加する前に粗蒸留を行ってもよい。粗蒸留とは、上記本蒸留前に行うことであり、その手法は問わないが、一般的には単蒸留が低コストで好ましい。これを行うことにより本蒸留設備の負荷削減および2,3−ブタンジオールの高純度化につながる。そのため、粗蒸留を行った後に、アルカリ性物質を添加して上記本蒸留を行ってもよい。
【0044】
本発明によって製造される2,3−ブタンジオールの純度はいくつかの指標によって評価される。まず、2,3−ブタンジオールの着色度の指標としては、未知の着色原因物質を高感度に評価できるハーゼン色数(APHA)が挙げられる。APHA10以下であれば、目視検査ではほぼ着色が認められないが、APHA5以下であればより高純度であり、加熱による着色の恐れも少ない。APHAの測定方法は市販されるJISK0071−1に規定される方法や市販される測定装置で測定すればよく、本発明においては着色のないAPHA5以下の2,3−ブタンジオールを得ることができる。
【0045】
また、着色以外の不純物を測定する方法としては、ガスクロマトグラフィー(GC)による純度測定や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたUV検出による純度測定などを併用して評価することができ、これらは全検出ピーク面積中の2,3−ブタンジオール面積の比率で評価するため、比率が高いほど2,3−ブタンジオールが高純度であることを意味する。また、電気伝導率測定による純度測定では、純粋な2,3−ブタンジオールは電気を通さないため、電気伝導率が小さいほど2,3−ブタンジオールが高純度であることを意味する。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1〜3および比較例1:ナノ濾過膜処理およびイオン交換処理後にアルカリ添加蒸留)
<2,3−ブタンジオール発酵液の調製>
2,3−ブタンジオール発酵微生物として、Paenibacillus palymyxa ATCC12321を使用した。表1に示す培地5mLに植菌し、30℃で24時間振とう培養を行った。これを同様に表1の培地50mLに植菌し、同様の条件で前培養を行った。該前培養液を表2に示す培地4Lに植菌し、本培養を行った。尚、培養温度は30℃、通気量0.5vvm、攪拌速度200rpmで培養を行い、pH6.5となるよう水酸化ナトリウムと硫酸を用いて中和した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
発酵の進行は2,3−ブタンジオール濃度とグルコース濃度の変化から判断した。以下にHPLCによるそれぞれの濃度測定条件を示す。
【0051】
(2,3−ブタンジオール濃度測定)
カラム:Shodex Sugar SH1011(昭和電工株式会社製)
カラム温度:65℃
移動相:0.05M 硫酸水溶液、0.6mL/min
検出:RI。
【0052】
(グルコース濃度測定)
カラム:Asahipak NH2P50 4E(昭和電工株式会社製)
カラム温度:30℃
移動相:水:アセトニトリル=1:3、0.6mL/min
検出:RI。
【0053】
本検討における2,3−ブタンジオール発酵は培養開始から3日後に飽和した。その時点での2,3−ブタンジオール濃度は16g/L、グルコース濃度は0.9g/Lであった。得られた2,3−ブタンジオール培養液を精密濾過膜(東レ株式会社製)にて濾過し、菌体を除去した。この発酵を4回繰り返して行い、2,3−ブタンジオール培養液を16L(2,3−ブタンジオール256g)得た。
【0054】
<2,3−ブタンジオール培養液のナノ濾過膜精製>
上述の発酵により得られた培養液を図1に示す膜分離装置によって精製した。ナノ濾過膜にはスパイラル型膜エレメントのSU−610(東レ株式会社製)を用い、供給タンクに上述の2,3−ブタンジオール発酵液を注入し、供給流量25L/min、供給水圧3MPa、供給水温20℃に設定して運転し、ナノ濾過膜精製を行った。得られた透過液は着色成分が除去され、清澄な2,3−ブタンジオール溶液であり、無機塩成分の大部分を除去することができたが、カリウムイオンなど一部除去しきれないものがあった。以下にイオンクロマトグラフィーによるイオン濃度測定条件を示す。また、その分析結果を表3に示す。
【0055】
(陰イオン濃度測定)
カラム:AS4A−SC(DIONEX製)
カラム温度:35℃
溶離液:1.8mM 炭酸ナトリウム/1.7mM 炭酸水素ナトリウム
検出:電気伝導度。
【0056】
(陽イオン濃度測定)
カラム:CS12A(DIONEX製)
カラム温度:35℃
溶離液:20mM メタンスルホン酸
検出:電気伝導度。
【0057】
【表3】
【0058】
<2,3−ブタンジオール発酵液のイオン交換精製>
ナノ濾過膜処理により得られた透過液について、イオン交換処理による残留イオンの除去を行った。強アニオン交換樹脂IRA120J(株式会社オルガノ製)および強カチオン交換樹脂IR410(株式会社オルガノ製)を用い、それぞれ1M 水酸化ナトリウムおよび1M 塩酸によってOH型およびH型に再生して使用した。樹脂量は各種無機塩と有機酸との総量とイオン交換樹脂の交換容量が等量になるように算出した。前述のイオン交換樹脂をカラムに充填し、アニオン交換、カチオン交換の順に通液速度SV=5で通液した。
【0059】
<アルカリ性物質添加による蒸留精製>
イオン交換処理した2,3−ブタンジオール溶液は、薄膜濃縮装置 MF−10(東京理化器械株式会社製)によって水を除去した。この時、減圧度は30hPa、加熱温度は60℃で水を蒸発させた。濃縮した2,3−ブタンジオール溶液50gに水酸化ナトリウム0.3g(2,3−ブタンジオール量(モル数)に対して1.5mol%、実施例1)、0.7g(2,3−ブタンジオール量(モル数)に対して3mol%、実施例2)、2.2g(2,3−ブタンジオール量(モル数)に対して10mol%、実施例3)、4.4g(2,3−ブタンジオール量(モル数)に対して20mol%、実施例4)を添加し、水酸化ナトリウムが溶解するまで、十分に攪拌を行った。これを減圧蒸留(5mmHg)し、精製2,3−ブタンジオールを得た。蒸留後の2,3−ブタンジオールの着色度(APHA)、GC純度、蒸留収率、電気伝導率は以下の測定方法によって求めた。
【0060】
(着色度(APHA))
蒸留後の2,3−ブタンジオールを6倍希釈して16.67重量%水溶液とし、比色計(日本電色工業株式会社製)を用いてAPHA単位色数として分析した。
【0061】
(GC純度)
蒸留後の2,3−ブタンジオールをガスクロマトグラフィー(GC、株式会社島津製作所製)を用いて分析し、全検出ピーク面積中の2,3−ブタンジオールピーク面積の比率から、式1によって算出した。
【0062】
GC純度(%)=100×(2,3−BDOピーク面積)/(全検出ピーク面積)・・・(式1)。
【0063】
ガスクロマトグラフィーの分析条件を以下に示す。
カラム:RT−BDEXM(0.25mm×30m、Restek社製)
カラム温度:75℃
気化室、検出器温度:230℃
キャリアガス:He
線速度:35cm/sec
検出:水素炎イオン化検出器(FID)。
【0064】
(蒸留収率)
上述のHPLC分析で測定した2,3−ブタンジオール濃度と仕込み液量から算出した蒸留前の2,3−ブタンジオール仕込み量と、蒸留後の留出液量と上述のGC純度から算出した2,3−ブタンジオール回収量から、式2で計算した。
【0065】
蒸留収率(%)=100×{(蒸留後の留出液量)×(GC純度)}/{(蒸留前2,3−BDO濃度)×(蒸留前の仕込み液量)}・・・(式2)。
【0066】
(電気伝導率)
マルチ水質計(MM−60R、東亜ディーケーケー株式会社製)に低電気伝導率用電気伝導率セル(CT−57101C、東亜ディーケーケー株式会社製)を取り付け、23℃にて16.67重量%2,3−ブタンジオール組成物水溶液を浸漬し、電気伝導率の測定を行った。検出された測定値を6倍し、2,3−ブタンジオールの電気伝導率を算出した。
【0067】
結果を表4に示す。また、比較例1として水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った結果も併せて示す。
【0068】
【表4】
【0069】
表4に示したように、ナノ濾過膜処理とイオン交換処理した場合には、アルカリ性物質を添加することによって、着色不純物が除去されることを見出した。さらに、GC純度の向上や電気伝導率の低下といったその他の不純物の除去にも効果があることを見出した。
【0070】
(比較例2:ナノ濾過膜処理後にアルカリ添加蒸留)
実施例1と同様に上述の方法で2,3−ブタンジオール培養液を調製した。同様に精密濾過による菌体除去を行った後に、図1の膜精製装置を用いてナノ濾過膜SU−610(東レ株式会社製)によるナノ濾過膜処理を行った。これを実施例1に記した方法により薄膜濃縮を行った後、2,3−ブタンジオール50gに対して3mol%に相当する水酸化ナトリウム0.7gを添加して攪拌した後、減圧蒸留(5mmHg)を行い、精製2,3−ブタンジオールを得た。この精製2,3−ブタンジオールの分析結果を表5に示す。
【0071】
(比較例3:イオン交換処理にアルカリ添加蒸留)
実施例1と同様に上述の方法で2,3−ブタンジオール培養液を調製した。同様に精密濾過による菌体除去を行った後に、さらに前述の方法でイオン交換を行った。この際、イオン交換樹脂の量は実施例1に比べ10倍量になり、非経済的であることが示唆された。これを実施例1に記した方法により薄膜濃縮を行った後、2,3−ブタンジオール50gに対して3mol%に相当する水酸化ナトリウム0.7gを添加して攪拌した後、減圧蒸留(5mmHg)を行い、精製2,3−ブタンジオールを得た。この精製2,3−ブタンジオールの分析結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示した結果のように、ナノ濾過膜処理またはイオン交換処理単独ではアルカリ性物質を添加して蒸留を行っても、着色成分などの不純物が除去できないこと、および蒸留収率が低下することが示された。
【0074】
(実施例5、6:水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム添加による蒸留効果)
実施例1と同様に2,3−ブタンジオール培養液を調製し、精密濾過膜処理およびナノ濾過膜処理に次いでイオン交換処理、薄膜濃縮を行い、2,3−ブタンジオール溶液を精製した。この2,3−ブタンジオール50gに対して水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムが3mol%となるように添加し、十分に攪拌した。この時、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムは水への溶解度が小さいため溶解しなかった粉末が残存したが、そのまま蒸留に供した。実施例1と同様に蒸留を行った結果得られた精製2,3−ブタンジオールの結果を表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
この結果より、アルカリ性物質は水酸化ナトリウムであっても水酸化カルシウムや炭酸カルシウムであっても同様の効果が得られることが示された。
【0077】
(参考例1〜4:2,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールモデル発酵液の精製)
<2,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールモデル発酵液の調製>
以下に記載のエタノール発酵液に2,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールを添加することでモデル発酵液を調製した。エタノール発酵微生物として、Escherichia coli KO11株(ATCC(American Type Culture Collection)より購入)を使用した。表7に示す培地5mLに植菌し、30℃で24時間振とう培養を行った。これを同様に表7の培地50mLに植菌し、同様の条件で前培養を行った。該前培養液を表8に示す培地4Lに植菌し、本培養を行った。尚、培養温度は30℃、通気量0.01vvm、攪拌速度400rpmで培養を行い、pH6となるよう水酸化カリウムと硫酸を用いて中和した。
【0078】
【表7】
【0079】
【表8】
【0080】
発酵の進行はエタノール濃度とグルコース濃度の変化から判断した。以下にHPLCによるエタノールの濃度測定条件を示す。グルコース濃度測定は実施例1と同様の条件で行った。
【0081】
(エタノール濃度測定)
カラム:Shodex Sugar SH1011(昭和電工株式会社製)
カラム温度:65℃
移動相:0.05M 硫酸水溶液、0.6mL/min
検出:RI。
【0082】
本検討におけるエタノール発酵は培養開始から3日後に飽和した。その時点でのエタノール濃度は16g/L、グルコース濃度は0.9g/Lであった。得られたエタノール培養液を精密濾過膜(東レ株式会社製)にて濾過し、菌体を除去した。この発酵を8回繰り返して行い、エタノール培養液を32L得た。エタノール培養液を16Lずつに分け、それぞれに2,3−ブタンジオール480g、1,3−プロパンジオール480gを添加し、2,3−ブタンジオールモデル発酵液、1,3−プロパンジオールモデル発酵液とした。
【0083】
<モデル発酵液のナノ濾過膜、イオン交換、アルカリ性物質添加による蒸留精製>
上記2,3−ブタンジオールモデル発酵液、1,3−プロパンジオール(1,3−PDO)モデル発酵液を、実施例1と同様の操作でナノ濾過膜処理、イオン交換処理に次いで薄膜濃縮を行った。濃縮した2,3−ブタンジオール溶液50gに水酸化ナトリウム0.7g(2,3−ブタンジオール量(モル数)に対して3mol%、参考例2)、1,3−プロパンジオール溶液50gに水酸化ナトリウム0.5g(1,3−プロパンジオール量(モル数)に対して3mol%、参考例4)を添加し、水酸化ナトリウムが溶解するまで十分に攪拌を行った。これを減圧蒸留(5mmHg)し、精製2,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールを得た。蒸留後の2,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールの着色度(APHA)測定は実施例1と同様の手順で行った。その結果を表9に示す。また、2,3−ブタンジオール溶液(参考例1)、1,3−プロパンジオール(参考例3)それぞれについて、水酸化ナトリウムを添加せずに蒸留を行った結果も併せて示す。
【0084】
【表9】
【0085】
表9に示したように、参考例1と参考例2を比較すると、ナノ濾過膜処理およびイオン交換処理した2,3−ブタンジオールではアルカリ性物質添加蒸留によって着色度が大きく改善することが確認された。一方、参考例3と参考例4を比較すると、ナノ濾過膜およびイオン交換処理した1,3−プロパンジオールではアルカリ性物質を添加せずに蒸留を実施しても2,3−ブタンジオールで見られるほど着色度は増大せず、また、アルカリ性物質添加蒸留を実施しても着色度の改善効果は見られなかった。以上の結果より、1,3−プロパンジオールと2,3−ブタンジオールでは蒸留工程における着色のメカニズムが異なるため、着色度の改善のためにはそれぞれの物質に適した精製方法を検討する必要があること、さらにはアルカリ性物質添加蒸留することによる着色度の改善は2,3−ブタンジオールに特有の効果であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によって得られる2,3−ブタンジオールは、医薬品や化粧品の中間体原料、インク、香水、液晶、殺虫剤、軟化試薬、爆薬、可塑剤などの原料の他、合成樹脂の原料として、石油由来のものと同等に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 供給タンク
2 ナノ濾過膜エレメント
3 高圧ポンプ
4 ナノ濾過膜透過液の流れ
5 ナノ濾過膜非透過液の流れ
6 ナノ濾過膜供給水の流れ
図1