(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1における旋回半径ρは、車輪速センサの検知結果に基づく車速をヨーレート(ヨー角)で除することで導出される。
通常、車両が旋回運動する場合に車輪速センサの検知結果が正確であれば、特許文献1に記載された技術において、車両が走行する予定の走行予定路の軌跡に沿った適切な旋回半径ρを算出することができる。この場合、特許文献1に記載された技術で導出されるSF目標値は、
図6(A)に示すように、車両の挙動に沿った適切な値となる。
【0009】
しかしながら、車輪速センサの検知結果に基づく車速は、外乱によって正確に検知できないことがある。
例えば、車両が左旋回している状況を想定した場合、通常、右の操舵輪の車輪速は、左の操舵輪の車輪速よりも速い。このような状況下において、さらに、左の操舵輪が積雪した路面上に存在し、かつ、右の操舵輪が積雪していない路面上に存在することを想定に加える。すると、左の操舵輪が空転し、車輪速センサで検知した結果に基づく車輪速から算
出した旋回半径は、実旋回半径との間の誤差を有し、実旋回半径よりも大きくなる。
【0010】
この場合、
図6(B)に示すように、特許文献1に記載された技術において導出される旋回半径ρは、走行予定路の軌跡に比べて大きなものとなる。すると、特許文献1に記載された技術では、本来実現すべき駆動力に比べて駆動力を大きくする(即ち、アンダーステア特性となる)SF目標値を導出してしまうという課題が生じる。
【0011】
つまり、特許文献1に記載された技術では、車両の挙動を適切に制御するSF目標値を導出することが困難であるという課題がある。
そこで、本発明は、車載制御装置において、車両の挙動を適切に制御するSF目標値を導出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためになされた本発明の車載制御装置は、基本要求取得手段と、荷重取得手段と、目標半径取得手段と、目標値導出手段と、実半径取得手段と、判定値導出手段と、目標抑制手段とを備えている。
【0013】
本発明における基本要求取得手段は、車両が有する駆動輪に対して要求される駆動力を表す物理量である基本要求量を取得する。荷重取得手段は、車両の前輪に加わる荷重である前輪荷重、および後輪に加わる荷重である後輪荷重を取得する。
【0014】
目標半径取得手段は、車両が旋回運動する場合の旋回半径を推定するための各種指標を旋回推定指標とし、旋回推定指標のうちの一種類である第一推定指標に基づいて、車両が旋回運動する場合に目標とする旋回半径である目標旋回半径を取得する。そして、目標値導出手段は、荷重取得手段にて取得した前輪荷重、後輪荷重、および目標半径取得手段にて取得した目標旋回半径に基づいて、自車両のスタビリティファクタの目標値を導出する。さらに、補正制御手段は、目標値導出手段にて導出されたスタビリティファクタの目標値に追従するように、基本要求取得手段で取得した基本要求量
から前記スタビリティファクタの目標値を減算した結果を、新たな基本要求量として算出する。
【0015】
また、本発明において、実半径取得手段は、旋回推定指標のうちの第一推定指標とは異なるものである第二推定指標に基づいて、車両が旋回運動する場合の実際の旋回半径である実旋回半径を取得する。そして、判定値導出手段は、目標半径取得手段で取得した目標旋回半径と実半径取得手段で取得した実旋回半径とを比較した結果、一致度が高いほど小さな値となる信頼性判定値を導出する。この信頼性判定値が、予め規定された規定閾値以上であれば、目標抑制手段は、目標値導出手段で導出されるスタビリティファクタの目標値を抑制する抑制制御を実行する。
【0016】
このような車載制御装置は、互いに異なる推定指標を用いて目標旋回半径と実旋回半径とのそれぞれを導出し、それらの目標旋回半径と実旋回半径とを比較した結果、一致度が低ければ、旋回半径の導出精度に対する信頼性が低いものとして、スタビリティファクタの目標値を抑制している。
【0017】
この結果、本願の車載制御装置にて導出されたスタビリティファクタの目標値を用いて車両を制御すれば、車両の挙動を適切なものとすることができる。
換言すれば、本発明の車載制御装置によれば、車両の挙動を適切に制御するSF目標値を導出することができる。
【0018】
本発明における目標抑制手段は、信頼性判定値が規定閾値以上であれば、目標値導出手段で導出されたスタビリティファクタの目標値を低減させることを抑制制御として実行しても良い。
【0019】
本発明の車載制御装置によれば、信頼性判定値が規定閾値以上である場合に、スタビリティファクタの目標値を低減させることを抑制制御として実行することができる。
この結果、本発明の車載制御装置によれば、車両の挙動が極端に乱れることを防止でき、当該車両の乗り心地が悪化することを低減できる。
【0020】
さらに、本発明における目標抑制手段は、信頼性判定値が規定閾値以上であれば、目標値導出手段で導出されたスタビリティファクタの目標値を、時間の経過に沿って低減させることを抑制制御として実行しても良い。
【0021】
本発明の車載制御装置によれば、スタビリティファクタの目標値を時間の経過に沿って順次低減できる。
このため、本発明の車載制御装置によれば、車両の挙動が急激に変化することを低減でき、当該車両の乗り心地が悪化することを防止できる。
【0022】
なお、ここでいう「時間の経過に沿って低減」とは、スタビリティファクタの目標値が時間の進行に従って低減させる際に、直線的に低減させても良いし、階段状に段階を経て低減させても良い。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
〈車両制御システム〉
図1に示す車両制御システム1は、車両に備えられたエンジン80にて発生するトルクを調整することで、前後輪加重の移動に基づくスタビリティファクタの変動を低減させ、旋回運動の際の車両挙動や車両特性を安定させるシステムである。
【0025】
これを実現するために、車両制御システム1は、アクセルストロークセンサ3と、車輪速センサ4と、操舵角センサ5と、吸入空気量センサ6と、エンジン回転センサ7と、ナビゲーションシステム8と、エンジンECU20とを備えている。
【0026】
アクセルストロークセンサ3は、アクセルペダル82の操作量に応じた検出信号を出力する周知のセンサである。
車輪速センサ4は、車輪の回転速度に応じた検出信号を出力する周知のセンサである。本実施形態においては、左右の前輪14A,14B、および左右の後輪15A,15Bの回転速度を検出するように、前輪14A,14B、および後輪15A,15Bに、車輪速センサ4A〜4Dが設けられている。
【0027】
操舵角センサ5は、自車両の操舵角に応じた検出信号を出力する周知のセンサである。本実施形態における操舵角センサ5は、ステアリングホイール84の回動量を検出することにより、操舵角に応じた検出信号を出力する。
【0028】
吸入空気量センサ6は、エンジン80内に流入する吸入空気量に応じた検出信号を出力する周知のセンサである。エンジン回転センサ7は、エンジン80の回転速度に応じた検出信号を出力する周知のセンサである。
【0029】
ナビゲーションシステム8は、自車両の現在位置および進行方向の方位に基づいて、外部からの入力に従って設定された目的地までの経路案内を行う周知の装置である。本実施形態のナビゲーションシステム8は、位置検出器と、ヨーレートセンサ9と、操作スイッチ群と、表示装置と、音声出力部と、補助記憶装置と、ナビゲーション電子制御装置(以下、「ナビECU」と称す)10とを備えている。
【0030】
位置検出器は、自車両の現在位置を検出するものであり、GPS受信機や、ジャイロセンサ、地磁気センサを少なくとも備えている。ヨーレートセンサ9は、自車両に加わるヨーレートγを検出する周知のセンサである。さらに、表示装置は、情報を表示する周知の装置(例えば、液晶ディスプレイ)であり、音声出力部は、音声を出力する周知の装置(例えば、スピーカシステム)である。操作スイッチ群は、乗員からの各種指示を受け付ける周知の機構である。
【0031】
また、補助記憶装置は、書き換え可能な不揮発性の記憶装置(例えば、ハードディスクドライブや、フラッシュメモリ等)として構成されている。この補助記憶装置には、地図データ(ノードデータ、リンクデータ、コストデータ、道路データ、地形データ、マークデータ、交差点データ、施設のデータ等)、案内用の音声データ、音声認識データ等が予め記憶されている。地図データは、周知のデータであり、少なくとも道路の勾配や曲率などの道路情報を含むものである。
【0032】
ナビECU10は、ROM、RAM、およびCPUを少なくとも備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成されている。本実施形態のナビECU10は、補助記憶装置に記憶されている道路情報、およびヨーレートセンサ9にて検出したヨーレートγを、エンジンECU20へと出力する。
〈エンジンECU〉
次に、本発明の主要部を構成するエンジンECU20は、ROM、RAM、およびCPUを少なくとも備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、エンジン80の吸入空気量や燃料噴射量を制御する周知の電子制御装置である。
【0033】
エンジンECU20は、ROMに格納された処理プログラムを実行することにより、エンジン80にて発生するトルクを調整し、前輪に加わる前輪荷重と後輪に加わる後輪荷重の移動に基づくスタビリティファクタの変動を安定させることで、車体の姿勢を安定させるスタビリティコントロールを実現する。
【0034】
このスタビリティコントロールを実現するために、エンジンECU20は、
図2に示すように、基本要求トルク算出部22と、推定車軸トルク算出部24と、車輪速算出部26と、道路勾配算出部28と、操舵角算出部30と、走行抵抗外乱推定部32と、前後輪静的荷重算出部34と、目標旋回半径算出部36と、SF目標算出部38と、制振補正制御部40と、評価判定部60とを備えている。なお、これらの各部22,24,26,28,30,32,34,36,38,40,60は、処理プログラムを実行することで実現される。
【0035】
基本要求トルク算出部22は、アクセルストロークセンサ3から出力される検出信号に基づいてアクセルペダル82の操作量(以下、「アクセル操作量」と称す)を算出すると共に、そのアクセル操作量に応じた基本要求駆動力を算出する。この基本要求トルク算出
部22にて算出する基本要求駆動力とは、自車両の駆動輪15A,15Bに対して要求される駆動力を表す物理量(即ち、基本要求量)であり、自車両の運転者が要求する車軸トルクである。ここでいう車軸トルクとは、自動車の加減速を実現するトルクであり、エンジン80から駆動輪15A,15Bに伝達されるトルクである。
【0036】
なお、アクセル操作量の算出方法、および基本要求駆動力(車軸トルク)の算出方法は、周知であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
推定車軸トルク算出部24は、吸入空気量センサ6およびエンジン回転センサ7からの検出信号に基づく周知の手法により、現時点での車軸トルクである推定車軸トルクを算出する。
【0037】
車輪速算出部26は、車輪速センサ4A,4B,4C,4Dそれぞれからの検出信号に基づいて、各車輪14A,14B,15A,15Bの車輪速を算出する。各車輪速の算出手法は、周知であるため、ここでの詳しい説明は省略する。さらに、車輪速算出部26では、車輪14A、および車輪14Bの車輪速の平均を前輪車輪速として算出し、車輪14A、車輪14B、車輪15A、および車輪15Bの車輪速の平均を車速V[m/s]として導出(算出)する。
【0038】
道路勾配算出部28は、ナビECU10からの道路情報に含まれている勾配を、自車両が現時点で走行している道路の道路勾配として抽出する。
操舵角算出部30は、操舵角センサ5からの検出信号に基づく周知の手法により、操舵角δを算出する。
【0039】
走行抵抗外乱推定部32は、車輪速算出部26にて算出した前輪車輪速に基づいて、車輪速度に応じて前輪14A,14Bが受けた走行抵抗を表す走行抵抗外乱を推定する。具体的に、走行抵抗外乱推定部32では、車輪速の微分値に対して車両質量M[kg]を乗じることで導出(算出)した並進方向の力[N/m]に、転動輪の半径を乗じることで導出(算出)した転動輪に働くモーメント[N]を走行抵抗外乱として推定する。
【0040】
すなわち、走行抵抗外乱推定部32にて推定される走行抵抗外乱は、運転者の操舵によって発生したコーナリングドラッグや路面の凹凸などに起因した車輪速の変化に基づいて推定され、走行抵抗の発生要因に関わらず、転動輪が受けた走行抵抗を表すものとなる。
【0041】
前後輪静的荷重算出部34は、前輪が路面に押しつけられる荷重を表す前輪静荷重Wf_s、および後輪が路面に押しつけられる荷重を表す後輪静荷重Wr_sを算出する。前後輪静的荷重算出部34による前輪静荷重Wf_s、および後輪静荷重Wr_sの算出方法としては、例えば、特許第4161923号公報に記載された、推定車軸トルク算出部24にて算出された推定車軸トルク、および道路勾配算出部28にて算出された道路勾配に基づく周知の手法を用いればよい。
【0042】
目標旋回半径算出部36は、車輪速算出部26で算出された車輪14Aの車輪速v
frおよび車輪14Bの車輪速v
flと、車輪速算出部26で算出された車速Vとに基づいて、自車両の旋回運動において目標とする旋回半径を表す目標旋回半径ρ
tgtを算出する。本実施形態における目標旋回半径ρ
tgtの算出は、車輪速v
frから車輪速v
flを減算した結果を自車両のトレッド長で除すことで導出(算出)したヨーレートの絶対値を、さらに、車速Vで除すことで実施する。すなわち、目標旋回半径算出部36は、車両が旋回運動する場合の旋回半径を推定するための第一推定指標として、車輪速v
fr、車輪速v
fl、および車速Vを用いる。
【0043】
SF目標算出部38は、スタビリティファクタの目標値(以下、「SF目標値」と称す
)Dを算出するものであり、基準算出部72と、目標補正部74とを有している。ここでいうSF目標値Dとは、スタビリティファクタを決定する指標であり、車両のステアリング特性が、アンダーステアであるかニュートラルステアであるかオーバーステアであるかを表す指標である。
【0044】
基準算出部72は、下記(2)式に従って、目標基準値Δを算出する。目標基準値Δは、具体的には、車輪速算出部26からの車速Vと、目標旋回半径算出部36からの目標旋回半径ρと、前後輪静的荷重算出部34からの前輪静荷重Wf_s、および後輪静荷重Wr_sそれぞれに基づいて導出(算出)したKcfs、およびKcrsを、下記(2)式に代入することで算出される。
【0045】
ただし、Kcfsは、前輪静荷重Wf_sに基づく静的な前輪のコーナリングパワー[N/rad]であり、Kcrsは、後輪静荷重Wr_sに基づく静的な後輪のコーナリングパワー[N/rad]である。前輪静荷重Wf_s、および後輪静荷重Wr_sに基づくKcfs、およびKcrsの導出(算出)方法は、周知であるためここでの詳しい説明は省略する。
【0047】
なお、(2)式におけるLは、自車両のホイールベース[m]であり、Mは、自車両の車両質量[kg]である。
〈評価判定部〉
評価判定部60は、目標旋回半径算出部36にて算出された目標旋回半径ρ
tgtの信頼性を判定し、その判定の結果、予め規定された規定閾値よりも信頼性が低い場合には、目標基準値Δを抑制する抑制制御を実行する。
【0048】
これを実現するために、評価判定部60は、
図3に示すように、実旋回半径算出部64と、信頼性評価部66と、抑制制御部68とを備えている。
実旋回半径算出部64は、目標旋回半径算出部36にて用いた第一推定指標とは異なる推定指標である第二推定指標に基づいて、車両の現時点での旋回半径を表す実旋回半径ρ
truを算出する。具体的に、本実施形態の実旋回半径算出部64は、第二推定指標として、車輪速算出部26からの車速V、および操舵角算出部30からの操舵角δの絶対値を用いる。なお、車速Vおよび操舵角δの絶対値に基づく旋回半径の導出(算出)方法は、周知であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0049】
信頼性評価部66は、目標旋回半径ρ
tgtの信頼性を判定し、その判定の結果を表す評価信号Svを出力する。
具体的には、信頼性評価部66は、目標旋回半径算出部36からの目標旋回半径ρ
tgtから、実旋回半径算出部64からの実旋回半径ρ
truを減算した結果を、信頼性判定値として導出(算出)する。すなわち、信頼性評価部66にて導出(算出)される信頼性判定値は、目標旋回半径ρ
tgtと実旋回半径ρ
truとの一致度が高いほど小さな値となる。
【0050】
これと共に、信頼性評価部66は、その導出(算出)した差分値(即ち、信頼性判定値)が予め規定された規定閾値未満であれば、目標旋回半径ρ
tgtの信頼性が高いことを表す評価信号Svを出力し、差分値が規定閾値以上であれば、目標旋回半径ρ
tgtの信頼性が低いことを表す評価信号Svを出力する。なお、ここでいう規定閾値は、車両の挙動が乱れたと乗員が感じるSF目標値を外乱感知目標値とした場合、その外乱感知目標値が現
実となる目標旋回半径ρ
tgtと実旋回半径ρ
truとの差分値であり、実験などによって予め求められたものである。
【0051】
抑制制御部68は、信頼性評価部66からの評価信号Svに基づいて、目標基準値Δを抑制する抑制制御を実行する。具体的には、抑制制御部68は、信頼性評価部66からの評価信号Svが目標旋回半径ρ
tgtの信頼性が低いことを表している場合、目標基準値Δを補正した結果をSF目標値Dとして、SF目標算出部38から出力させるように制限信号S
limを出力する。一方、信頼性評価部66からの評価信号Svが目標旋回半径ρ
tgtの信頼性が高いことを表している場合、目標基準値Δを補正することなくSF目標値Dとして、SF目標算出部38から出力させる。
【0052】
ところで、SF目標算出部38の目標補正部74は、抑制制御部68からの制限信号S
limに基づいて、基準算出部72にて算出された目標基準値Δを補正することでSF目標値Dを導出(算出)する。具体的に、目標補正部74では、
図4に示すように、目標旋回半径ρ
tgtの信頼性が低いことを表す制限信号S
limが入力されたことを契機として、時間の経過に沿って、基準算出部72からの目標基準値Δを低減させる。この抑制制御は、制限信号S
limの入力が停止するまで継続する。
【0053】
なお、補正の方法としては、例えば、基準算出部72からの目標基準値Δを、時間の経過に沿って、予め規定された規定値ずつ順次減算することで実行しても良いし、時間の経過に沿って規定比率を、基準算出部72からの目標基準値Δに乗算することで実行しても良い。
【0054】
図2に示す制振補正制御部40は、SF目標算出部38にて算出されたSF目標値Dに追従するように、基本要求トルク算出部22にて算出された基本要求トルクを補正する。
本実施形態における制振補正制御部40は、加算算出部42と、積分系算出部44と、加算算出部46と、補正トルク算出部48と、補正後要求トルク算出部50とを備えている。
【0055】
加算算出部42は、予め規定されたピッチング振動モデルVMにおける出力方程式から求めた出力YをSF目標値Dから減算する。
ここでいうピッチング振動モデルVMとは、車両の加減速および旋回運動によって、車両重心を中心に車両の左右方向の軸周りに発生する振動を模擬したモデルである。
【0056】
なお、本実施形態におけるピッチング振動モデルVMでは、車体を、水平方向と平行な任意の基準平面からなる平板であると仮定すると共に、その平板に、タイヤが、バネダンパとして模擬可能なサスペンションに支持され、エンジン80やトランスミッションが、バネダンパとして模擬可能なマウントに支持されているものと仮定する。
【0057】
このように仮定した場合、車体のピッチ中心の運動方程式は、下記(3)式にて表される。
【0059】
ただし、(3)式におけるKf,Krは、それぞれ、前輪14および後輪15を支持するサスペンションのバネ定数であり、Cf,Crは、それぞれ、前輪14および後輪15を支持するサスペンションの減衰係数であり、mは、エンジン80およびトランスミッションの質量である。Keは、マウントのバネ定数であり、Ceは、マウントの減衰係数である。rは、タイヤ半径であり、Lfは、車両重心と前輪軸との間の距離であり、Lrは、車両重心と後輪軸との間の距離である。Leは、車両重心とエンジンおよびトランスミッションの重心との間の距離であり、hcは、車体基準線(基準平面の高さ)と車両重心との間の距離である。Ipは、車体のピッチング慣性モーメントであり、gは、重力加速度である。
【0060】
符号xは、車体の垂直方向変位[m]であり、xeは、エンジンおよびトランスミッションの垂直方向変位[m]であり、θpは、仮想ピッチング中心周りのピッチ角である。
また、車体上下運動の運動方程式と、エンジン80およびトランスミッションの上下運動の運動方程式とは、それぞれ、下記(4)式、および下記(5)式によって表される。
【0063】
これらの運動方程式を変形して、状態空間表現とすると、下記(6)式にて表される。ただし、(6)式では、ΔTrを符号uとし、上記(3)式から(5)式に従って導出(算出)したx''に含まれる[x,x',xe,xe',θp,θp']の係数を、a1〜a6としている。さらに、(6)式では、上記(3)式から(5)式に従って導出(算出)したxe''に含まれる[x,x',xe,xe',θp,θp']の係数を、b1〜b6とし、上記(3)式から(5)式に従って導出(算出)したθp''に含まれる[x,x',xe,xe',θp,θp',ΔTr]の係数を、c1〜c6,p1としている。
【0065】
一方、ステアリング特性の変動を表す出力方程式は、下記(7)式によって表される。
【0067】
ただし、(7)式におけるq1はq1=−Cw(KfLf−KrLr)であり、q2はq2=Cw(CfLf−CrLr)であり,q3はq3=−Cw(KfLf
2−KrLr
2)であり,q4はq4=−Cw(CfLf
2−CrLr
2)である。
【0068】
なお、これらの運動方程式と出力方程式とは、下記(8)式により簡易的に表される。
【0070】
したがって、出力Yは、状態量x[x,x',xe,xe',θp,θp']をピッチング振動モデルVMに代入することで導出(算出)される。
ピッチング振動モデルVMにおける出力方程式の出力Yは、運転者がアクセル操作やステアリングを操作した結果として発生するスタビリティファクタ(以下、「実スタビリティファクタ」と称す)である。したがって、加算算出部42の出力は、実スタビリティフ
ァクタを考慮した制御目標値としてのSF目標値Dとなる。
【0071】
積分系算出部44は、加算算出部42からの出力を積分する。具体的には、積分系算出部44は、加算算出部42での減算結果に対して1/sおよびKiを乗算する。ただし、ここでいう「1/s」は、1/(d/dt)であり、Kiは、予め規定された比例定数である。
【0072】
加算算出部46は、各状態量x[x,x',xe,xe',θp,θp']に規定のフィードバックゲインKsを乗算した結果を、積分系算出部44の出力から減算すると共に、積分系算出部44の出力に走行抵抗外乱推定部32からの走行抵抗外乱を加算する。
【0073】
補正トルク算出部48は、加算算出部46の出力を、推定車軸トルク算出部24からの推定車軸トルクから減算し、その減算結果に、ディファレンシャル比1/Rdを乗じた結果を補正トルクとして出力する。ここでいうディファレンシャル比1/Rdとは、自車両の終減速装置における減速比である。
【0074】
補正後要求トルク算出部50は、補正トルク算出部48からの補正トルクを、基本要求トルク算出部22からの基本要求トルクから減算した結果を補正後要求トルクとして算出する。
【0075】
ここでいう補正後要求トルクとは、SF目標算出部38にて算出されたSF目標値Dに追従するように補正された基本要求トルクであり、駆動輪15A,15Bにて発生することが要求される車軸トルクである。
【0076】
エンジンECU20は、その算出された補正後要求トルクが実現されるように、エンジン80の吸入空気量や燃料噴射量などを制御する。そして、エンジン80にて出力された駆動力は、トランスミッション機構や終減速機構を介して駆動軸に伝達され、補正後要求トルクにて駆動輪15A,15Bが駆動される。
【0077】
つまり、エンジンECU20は、補正後要求トルクを基本要求量として算出し、エンジン80を制御する車載制御装置として機能する。
[実施形態の効果]
以上説明したように、エンジンECU20では、互いに異なる推定指標を用いて目標旋回半径ρ
tgtと実旋回半径ρ
truとのそれぞれを導出(算出)し、それらの目標旋回半径ρ
tgtと実旋回半径ρ
truとを比較した結果、一致度が低ければ、目標旋回半径の導出精度に対する信頼性が低いものと判定している。
【0078】
そして、エンジンECU20では、
図5(A)に示すように、目標旋回半径ρ
tgtの導出精度に対する信頼性が低い場合、SF目標値Dを抑制するため、本来実現すべき駆動力に近い駆動力が実現できる。
【0079】
換言すれば、エンジンECU20によれば、車両の挙動を適切に制御するSF目標値Dを導出(算出)することができる。
特に、エンジンECU20における抑制制御では、SF目標値Dを時間の経過に沿って順次低減している。
【0080】
このため、エンジンECU20は、抑制制御によって抑制されたSF目標値Dを用いて車両の挙動を制御することで、当該車両の挙動が急激に変化することを低減できる(
図5(A)参照)。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0081】
例えば、上記実施形態の目標旋回半径算出部36では、車輪速v
fr,車輪速v
fl,車速Vを第一推定指標とし、車輪速v
frから車輪速v
flを減算した結果を自車両のトレッド長で除すことで導出(算出)したヨーレートの絶対値を、車速Vで除すことで、目標旋回半径ρ
tgtを算出していたが、目標旋回半径ρ
tgtの算出方法は、これに限るものではない。
【0082】
すなわち、目標旋回半径算出部36においては、車速Vおよびヨーレート(ヨー角)γを第一推定指標として取得し、車速Vをヨーレート(ヨー角)γで除する(ρ=V/γ)ことで目標旋回半径ρ
tgtを算出しても良い。また、オプティカルフローを第一推定指標の一部として取得し、そのオプティカルフローに基づいて特許第4161923号公報に記載された方法によって目標旋回半径ρ
tgtを算出しても良い。ナビゲーションシステム8が有する位置検出器にて検出した現在位置の時間に沿った軌跡(即ち、走行経路)を第一推定指標として取得し、その走行経路から推定した自車両が走行中の道路の曲率に基づいて目標旋回半径ρ
tgtを算出しても良い。
【0083】
さらに、目標旋回半径算出部36においては、ナビECU10からの道路情報に含まれている道路の曲率や半径を第一推定指標として取得し、道路の曲率に基づいて目標旋回半径ρ
tgtを算出しても良いし、道路情報に含まれている半径を目標旋回半径ρ
tgtとして算出しても良い。
【0084】
なお、ナビECU10からの道路情報に含まれている道路の曲率や半径を第一推定指標として取得して目標旋回半径ρ
tgtを算出する場合、現時点から、予め規定された規定時間(例えば、数秒程度)先の走行地点における道路の曲率や半径を第一推定指標として取得しても良い。この場合、評価判定部60は、バッファメモリを備えるように構成することが好ましい。
【0085】
ここでいう「バッファメモリ」とは、入力された信号を遅延させるバッファとして機能する周知のメモリであり、目標旋回半径算出部36からの目標旋回半径ρ
tgtを規定時間遅延させる。このような評価判定部60における信頼性評価部66は、バッファメモリにて遅延された目標旋回半径ρ
tgtと実旋回半径算出部64からの実旋回半径ρ
truとの差分を導出(算出)することが好ましい。
【0086】
このような評価判定部60によれば、より適切な旋回半径を目標旋回半径ρ
tgtとして取得し、その目標旋回半径ρ
tgtの信頼性を評価できる。このようなエンジンECU20であれば、道路情報(地図データ)が作成された後に新たな道路が造成され、その新たな道路におけるカーブを走行している場合などに、目標旋回半径ρ
tgtの信頼性が低いものとして、SF目標値Dを抑制することができる。
【0087】
さらに、上記実施形態では、実旋回半径算出部64は、車速Vおよび操舵角δの絶対値に基づく周知の方法により実旋回半径ρ
truを算出していたが、実旋回半径ρ
truの算出方法は、これに限るものではない。すなわち、実旋回半径算出部64は、目標旋回半径算出部36にて用いる第一推定指標とは異なる第二推定指標を用いて実旋回半径ρ
truを算出すれば、どのような推定指標を用いて実旋回半径ρ
truを算出しても良い。したがって、例えば、実旋回半径算出部64が、車輪速v
fr、車輪速v
fl、および車速Vを第二推定指標として取得して実旋回半径ρ
truを算出しても良いし、車速Vおよびヨーレート(ヨー角)γを第二推定指標として取得して実旋回半径ρ
truを算出しても良い。
【0088】
また、上記実施形態の目標補正部74における補正では、時間の経過に沿って基準算出部72からの目標基準値Δを低減させていたが、目標補正部74における補正は、これに限るものではない。例えば、目標補正部74における補正として、目標旋回半径ρ
tgtの信頼性が低いことを表す制限信号S
limが入力されると、直ちに、基準算出部72からの目標基準値Δを「0」に設定したものをSF目標値Dとしても良い。
【0089】
この場合、SF目標値Dが考慮されないため、
図5(B)に示すように、本来実現すべき車両の挙動に比べて駆動力が大きくなる(即ち、アンダーステア特性となる)ことを低減でき、ひいては乗員が予期せぬ車両挙動となることを低減できる。
【0090】
さらに、上記実施形態における目標補正部74は、SF目標算出部38の一部として構成されていたが、目標補正部74は、SF目標算出部38とは独立して設けられていても良い。
【0091】
上記実施形態では、ピッチング振動モデルVMとして、車体を平板と仮定することに加えて、車両がマウントに支持されたエンジン80やトランスミッションを備えているものと仮定していたが、ピッチング振動モデルVMにおいて、エンジン80やトランスミッションは想定されていなくとも良い。
【0092】
すなわち、上記実施形態におけるピッチング振動モデルVMから、xe,xe'を除いた4行4列の行列によって表される状態方程式および出力方程式をピッチング振動モデルVMとしてもよい。ただし、この場合の状態量xは、[x,x',θp,θp']とする必要がある。
【0093】
上記実施形態では、車両の駆動方式をFR(フロントエンジンリアドライブ)として説明したが、本発明が適用された装置によって制御される車両の駆動方式は、FRに限るものではなく、MR(ミッドシップエンジンリアドライブ)であっても良いし、RR(リアエンジンリアドライブ)であっても良いし、FF(フロントエンジンフロントドライブ)であっても良いし、4WD(四輪駆動)であっても良い。
【0094】
なお、上記実施形態の構成の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略した態様も本発明の実施形態である。また、上記実施形態と変形例とを適宜組み合わせて構成される態様も本発明の実施形態である。また、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される発明の本質を逸脱しない限度において考え得るあらゆる態様も本発明の実施形態である。
【0095】
上記実施形態の説明で用いる符号を特許請求の範囲にも適宜使用しているが、各請求項に係る発明の理解を容易にする目的で使用しており、各請求項に係る発明の技術的範囲を限定する意図ではない。