特許第6032032号(P6032032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032032
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 153/00 20060101AFI20161114BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20161114BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20161114BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20161114BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20161114BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C09J153/00
   C09J133/06
   C09J7/02 Z
   B32B27/00 M
   B32B27/30 A
   G02B5/30
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-16629(P2013-16629)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-148570(P2014-148570A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】尾 崎 安 里
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/064551(WO,A1)
【文献】 特開2009−102467(JP,A)
【文献】 特開2010−155923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B32B 1/00− 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系粘着剤と、架橋剤と、アクリル系トリブロックコポリマーと、を少なくとも含んでなる粘着剤組成物であって、
前記架橋剤が、トリレンジイソシアネートであり、
前記アクリル系トリブロックコポリマーが、メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレートからなるトリブロックコポリマーであり、
前記トリレンジイソシアネートが、前記アクリル系粘着剤100質量部に対して、5〜15質量部含まれてなる、ことを特徴とする、粘着剤組成物。
【請求項2】
前記アクリル系粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、水酸基含有(メタ)アクリレート単量体および/またはカルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体との共重合体からなる、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記アクリル系トリブロックコポリマーが、前記アクリル系粘着剤100質量部に対して、1〜3質量部含まれてなる、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレートトリブロックコポリマーにおいて、メチル(メタ)アクリレート単位が50モル%以上含まれている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
粘着剤組成物を架橋させた後の粘着剤の、25℃50%Rh雰囲気下における、引張弾性率が3.0〜4.0MPaであり、かつ破断伸度が500〜750%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
第1離型紙と、粘着剤層と、第2離型紙とを、この順で積層してなる粘着シートであって、前記粘着剤層が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘着剤組成物の架橋物からなる、粘着シート。
【請求項7】
請求項6に記載の粘着シートを用いて貼合体を製造する方法であって、
前記粘着シートから、第1離型紙を剥離し除去して粘着剤層を露出させ、
被着体であるトリアセチルセルロース樹脂フィルムに粘着剤層を貼り合わせ、
前記粘着シートから、第2離型紙を剥離して、他方の被着体と粘着剤層とを貼り合わせて、トリアセチルセルロース樹脂フィルムと前記他方の被着体とを接着する、
ことを含んでなる、方法。
【請求項8】
前記他方の被着体がトリアセチルセルロース樹脂フィルムである、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物に関し、より詳細には、光学素子等の光学補正用フィルムとして用いられる位相差フィルムや偏光フィルム等の貼合用途に用いられる粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の表示装置には、位相差フィルムや偏光フィルム等の種々の光学フィルムが組み込まれているが、これら光学フィルムは、粘着剤を介して液晶セルに貼り合わされている。光学フィルムを貼り合わせる粘着剤としては、透明性や粘着強度に加え、リワーク作業の際に粘着剤の一部が被着体に残留しない特性(以下、リワーク性ともいう)も要求される。このような粘着剤として、例えば特開2009−173772号公報(特許文献1)には、アクリル系粘着剤に、シランカップリング剤とイソシアネート系架橋剤とを添加し、それら添加剤の配合量を調整することにより、粘着力とリワーク性に優れた粘着剤が実現できることが提案されている。
【0003】
ところで、光学フィルムとして、透明性や光学異方性等の観点から基材としてトリアセチルセルロース樹脂からなるフィルム(TAC)が使用されている。トリアセチルセルロース樹脂フィルムは加熱条件下や加湿条件下での伸縮が大きいため、光学フィルムをガラス基板に貼り合わせた後に浮きや剥がれが生じ易いといった問題がある。特に、光学フィルムどうしを粘着剤を介して貼り合わせた場合に浮きや剥がれが生じ易くなる。このような浮きや剥がれは、光学フィルムの伸縮に追従できるような軟質の粘着剤を使用することによって解消できるが、軟質の粘着剤では、粘着剤を塗布した光学フィルムを所望の形状に裁断する際に、裁断機の刃に粘着剤が付着したり、また、粘着剤を塗布した光学フィルムを取り扱う際に、手に粘着剤が付着するなど、作業性が低下するといった問題がある。また、軟質の粘着剤では、上記したようなリワーク性が劣ってしまう。
【0004】
上記のような問題に対して、例えば特開2012−141620号公報(特許文献2)には、特定の環境下での引っ張り弾性率が所定範囲にある水酸基含有モノマー単位を含むアクリル系共重合ポリマーを用いることにより、粘着力やリワーク性に加え、浮きや剥がれが生じにくい粘着剤を実現できることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−173772号公報
【特許文献2】特開2012−141620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは今般、従来使用されていたアクリル系粘着剤に、架橋剤として特定量のトリレンジイソシアネート、および特定のアクリル系トリブロックコポリマーを配合することにより、粘着強度およびリワーク性が優れるとともに、浮きや剥がれが生じにくく、作業性にも優れる粘着剤を実現できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、粘着強度およびリワーク性が優れるとともに、浮きや剥がれが生じにくく、作業性にも優れる粘着剤を実現できる粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による粘着剤組成物は、アクリル系粘着剤と、架橋剤と、アクリル系トリブロックコポリマーと、を少なくとも含んでなる粘着剤組成物であって、
前記架橋剤が、トリレンジイソシアネートであり、
前記アクリル系トリブロックコポリマーが、メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレートからなるトリブロックコポリマーであり、
前記トリレンジイソシアネートが、前記アクリル系粘着剤100質量部に対して、5〜15質量部含まれてなることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の実施態様においては、前記アクリル系粘着剤が、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、水酸基含有(メタ)アクリレート単量体および/またはカルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体との共重合体からなることが好ましい。
【0010】
また、本発明の実施態様においては、前記アクリル系トリブロックコポリマーが、前記アクリル系粘着剤100質量部に対して、1〜3質量部含まれてなることが好ましい。
【0011】
また、本発明の実施態様においては、前記メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレートトリブロックコポリマーにおいて、メチル(メタ)アクリレート単位が50モル%以上含まれていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の実施態様においては、粘着剤組成物を架橋させた後の粘着剤の、25℃50%Rh雰囲気下における、引張弾性率が3.0〜4.0MPaであり、かつ破断伸度が500〜750%であることが好ましい。
【0013】
本発明の別の態様による粘着シートは、第1離型紙と、粘着剤層と、第2離型紙とを、この順で積層してなる粘着シートであって、前記粘着剤層が、上記粘着剤組成物からなるものである。
【0014】
また、本発明の別の態様による貼合体の製造方法は、上記粘着シートを用いて貼合体を製造する方法であって、
前記粘着シートから、第1離型紙を剥離し除去して粘着剤層を露出させ、
被着体であるポリカーボネート樹脂フィルムに粘着剤層を貼り合わせ、
前記粘着シートから、第2離型紙を剥離して、他方の被着体と粘着剤層とを貼り合わせて、ポリカーボネート樹脂フィルムと前記他方の被着体とを接着する、
ことを含んでなるものである。
【0015】
また、本発明の実施態様においては、他方の被着体がトリアセチルセルロース樹脂フィルムであってもよい。
【0016】
また、本発明においては、上記製造方法により得られた貼合体も提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アクリル系粘着剤に、架橋剤として特定量のトリレンジイソシアネート、および特定のアクリル系トリブロックコポリマーを配合されているため、光学フィルムを貼り合わせた際にも、光学フィルムの伸縮に粘着剤が追従するため、浮きや剥がれを有効に抑制できる。また、本発明による粘着剤組成物は、粘着剤組成物を架橋させた後の粘着剤の25℃50%Rh雰囲気下における、引張弾性率が3.0〜4.0MPaであり、かつ破断伸度が500〜750%の範囲にあるため、光学フィルムを表示装置に貼り合わせる組立工程においても、粘着剤を塗布した光学フィルムを所望の形状に裁断する際に、裁断機の刃に粘着剤が付着したり、また、粘着剤を塗布した光学フィルムを取り扱う際に、手に粘着剤が付着したりすることもなく作業性に優れるとともに、リワーク性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による粘着シートの一実施態様による断面概略図である。
図2】本発明による粘着シートを用いた貼合体の一実施態様による断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<粘着剤組成物>
本発明による粘着剤組成物は、アクリル系粘着剤と、架橋剤としてトリレンジイソシアネートと、特定のアクリル系トリブロックコポリマーとを必須成分として含むものである。以下、粘着剤組成物を構成する各成分について説明する。
【0020】
本発明による粘着剤組成物に含まれるアクリル系粘着剤は、後記するトリレンジイソシアネートと反応して架橋形成なし得るものであれば、従来公知のアクリル系粘着剤を制限なく使用することができ、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするアクリル系粘着剤を好適に使用できる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸をいうものとする。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等を使用することができる。これらアクリル酸エステルは1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0021】
本発明においては、上記した(メタ)アクリル酸エステルに加えて、水酸基含有(メタ)アクリレート単量体および/またはカルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体を共重合したものを用いることが好ましい。
【0022】
水酸基含有(メタ)アクリレート単量体としては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−3−ブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、メタリルアルコール等が挙げられる。これら水酸基含有(メタ)アクリレート単量体は1種または2種以上含まれていてもよい。上記したような水酸基含有(メタ)アクリレート単量体のなかでも、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく使用でき、これら水酸基含有(メタ)アクリレート単量体が含まれることにより、ガラス転移温度が高くなり、粘着剤組成物を塗布した際の塗布膜を硬くすることができるため、アクリル系粘着剤のリワーク性を向上させることができる。
【0023】
カルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらカルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体は1種または2種以上含まれていてもよい。
【0024】
上記した水酸基含有(メタ)アクリレート単量体およびカルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体は、アクリル系粘着剤の接着性およびリワーク性を考慮して、(メタ)アクリル酸エステルに添加することができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して、質量基準において水酸基含有(メタ)アクリレート単量体を10〜75%添加することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して、質量基準においてカルボキシル基含有(メタ)アクリレート単量体を0.1〜10%添加することが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、上記した単量体以外にも、適宜、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテル等のグリシジル基含有(メタ)アクリレート単量体や、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有(メタ)アクリレート単量体が含まれていてもよい。
【0026】
本発明において使用されるアクリル系粘着剤(共重合体)は、上記した単量体を、通常の溶液重合、塊状重合、乳化重合または懸濁重合等の方法により重合させることにより得ることができるが、上記アクリル系粘着剤が溶液として得られる溶液重合により製造することが好ましい。上記アクリル系粘着剤が溶液として得られることにより、そのまま本発明の粘着剤組成物の製造に使用することができる。
【0027】
溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、n−ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を挙げることができる。また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、アクリル系粘着剤の分子量を調整するために従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0028】
上記したアクリル系共重合体の質量平均分子量は、60万〜150万の範囲であることが好ましく、より好ましくは80万〜120万の範囲である。質量平均分子量が上記範囲にあることにより、接着力および塗工性がより良好になる。なお、質量平均分子量は、ポリスチレン標準試料を用いてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定することができる。上記したようなアクリル系粘着剤としては、市販のものを使用してもよく、例えば、綜研化学株式会社のSKダイン2950等を好適に使用することができる。
【0029】
次に、本発明による粘着剤組成物に含まれる架橋剤について説明する。本発明による粘着剤組成物は、上記したアクリル系粘着剤100質量部に対して、5〜15質量部の割合で、架橋剤としてトリレンジイソシアネートを含む。特定量のトリレンジイソシアネートが、アクリル系粘着剤に含まれることにより、粘着剤としての接着力とリワーク性(粘着剤層を一旦剥がしたあとの糊残り)をバランスさせることができるとともに、浮きや剥がれを有効に抑制することができる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。トリレンジイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート等の架橋剤よりも分子骨格が剛直な構造を有しているため、架橋後のアクリル粘着剤の塗膜の硬度が向上する。このような架橋剤を特定の割合で添加することにより、接着強度を維持しながらベタつきを改善することができるものと考えられる。
【0030】
トリレンジイソシアネートの含有量が5質量部未満であると、接着力は優れるものの、粘着剤層が被着体である光学フィルムの伸縮に追従できず、浮きや剥がれが生じ易くなるとともに、粘着剤がベタつきリワーク性や作業性が悪化する。一方、トリレンジイソシアネートの含有量が15質量部を超えると、粘着剤としての性能である接着力が劣り、その結果、浮きや剥がれを抑制できなくなる。好ましいトリレンジイソシアネートの含有量は、アクリル系粘着剤100質量部に対して6〜10質量部である。
【0031】
次に、本発明による粘着剤組成物に含まれるアクリル系トリブロックコポリマーについて説明する。本発明による粘着剤組成物は、上記したアクリル系粘着剤および架橋剤に加えて、アクリル系トリブロックコポリマーとして、メチル(メタ)アクリレート−ブチルアクリレート−メチル(メタ)アクリレート(以下、MMA−BA−MMAと表記する場合がある。)からなるトリブロックコポリマーを含む。上記したMMA−BA−MMAブロックコポリマーは、MMA単位が「硬い」セグメントとなり、BA単位が「柔らかい」セグメントとなる。上記のような「硬い」セグメントと「柔らかい」セグメントとを併せ持つアクリル系トリブロックコポリマーを含有することにより、適度な接着強度とリワーク性を両立させながら、浮きや剥がれを有効に抑制することができる。
【0032】
上記したアクリル系トリブロックコポリマーは、一般的なリビングラジカル重合を用いて製造することができる。このうち、重合反応の制御の容易さの点などから、原始移動ラジカル重合によって好適に製造することができる。原子移動ラジカル重合法は、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、金属錯体を触媒とする重合法である。リビングラジカル重合法によりMMA−BA−MMAブロックコポリマーを製造する場合、モノマー単位を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として次の重合体ブロックを重合する方法、別々に重合した重合体ブロックを反応により結合する方法などが挙げられるが、モノマー単位の逐次添加による方法によってMMA−BA−MMAブロックコポリマーを製造することが好ましい。
【0033】
モノマー単位の逐次添加によりMMA−BA−MMAブロックコポリマーを製造する場合、MMAブロックを構成するメタアクリル酸エステルと、BAブロックを構成するアクリル酸ブチルとの添加順序について、先にメタアクリル酸エステルモノマーを重合した後にアクリル酸ブチルモノマーを追加する方法と、先にアクリル酸ブチルモノマーを重合した後にメタアクリル酸エステルモノマーを追加する方法が挙げられるが、先にアクリル酸ブチルモノマーを重合して、BAブロックの重合末端からMMAブロックを重合させる方が、重合制御が容易である。MMAとBAとの比率は、リビングラジカル重合反応させる際のモノマーの投入量によって制御することができる。MMA−BA−MMAブロックコポリマーにおけるMMAブロックとBAブロックとの割合は、BAブロックの割合が増加すると、柔軟性が向上し、一方、MMAブロックの割合が増加すると、粘着剤のガラス転移温度が高くなることから、本発明においては、粘着剤としての接着力とリワーク性の観点から、MMAブロックが50モル%以上含まれることが好ましい。
【0034】
本発明による粘着剤組成物は、紫外線吸収剤や酸化防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、公知の化合物を使用することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、ベンゾエート系等の有機系紫外線吸収剤や、無機系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0035】
また、粘着剤組成物に酸化防止剤を含ませることにより、可視光領域の色変化および近赤外領域の色変化をより抑制し、透明性を維持することができる。紫外線や温度により、粘着剤組成物(アクリル系粘着剤)が劣化してしまう恐れがあり、酸化防止剤によりアクリル系粘着剤の酸化を抑制することができるため、透明性を維持することができる。酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、硫黄系、リン系の酸化防止剤が挙げられる。
【0036】
さらに、粘着剤組成物には、必要に応じて、例えば、加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度、その他等を改良、改質する目的で、例えば、滑剤、可塑剤、充填剤、フィラー、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、架橋剤、光安定剤、染料、顔料等の着色剤、その他等を添加してもよい。また、必要に応じて、さらにシラン系、チタン系、アルミニウム系などのカップリング剤を含むことができる。
【0037】
本発明による粘着剤組成物は、上記した各成分を混合し、必要に応じて混練、分散して、調製することができる。混合ないし分散方法は、特に限定されるものではなく、通常の混練分散機、例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、ペブルミル、トロンミル、ツェグバリ(Szegvari)アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、デスパー、高速ミキサー、リボンブレンダー、コニーダー、インテンシブミキサー、タンブラー、ブレンダー、デスパーザー、ホモジナイザー、および超音波分散機などが適用できる。また、粘着剤塗工液の粘度調整のため、希釈溶剤を加えて各成分を混合してもよい。
【0038】
上記のようにして得られる粘着剤組成物は、架橋させた後の粘着剤の、25℃50%Rh雰囲気下における、引張弾性率が3.0〜4.0MPaであり、かつ破断伸度が500〜750%の範囲となる。このような引張弾性率および破断伸度を有することにより、トリアセチルセルロース樹脂フィルムを基材する光学フィルムを他の部材に貼り合わせる際に優れた作業性やリワーク性を実現できるとともに、浮きや剥がれを有効に抑制することができる。
【0039】
<粘着シート>
本発明による粘着シートは、図1に示すように、上記した粘着剤組成物からなる粘着剤層の両面に第1離型紙および第2離型紙が設けられている層構成を有する。図1には、なお、本明細書では、粘着剤層の両面に離型紙が設けられた実施形態を図示したが、粘着剤層のいずれか一方の面にのみ離型紙を設けてもよい。なお、第1離型紙21Aと第2離型紙21Bとを合わせて離型紙21と呼称する。
【0040】
後記する第1離型紙21に、上記した粘着剤組成物を塗布し乾燥させた後、塗布面に第2離型紙21Bを貼り合わせることにより、粘着シート1が得られる。粘着剤層の厚みは、100μm〜200μm程度であることが好ましい。粘着剤層の厚み(粘着剤組成物の塗布量)が薄すぎると、ガス発生に起因する浮きや剥がれを抑制できなくなる場合がある。一方、厚みが200μmを超えても浮きや剥がれの抑制効果はそれ以上は向上せず、コストの上昇を招く。
【0041】
離型紙への粘着剤組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ロールコート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、コンマコート、ロッドコ−ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコート、ダイコート、リップコート、ディップコートなどが適用できる。粘着剤組成物を、第1離型紙21Aの離型面へ、上記のコーティング法で塗布して、乾燥した後に、第2離型紙21Bを貼り合わせればよい。
【0042】
第1離型紙21Aと第2離型紙21Bは同じものでも異なったものを用いてもよい。離型紙21としては、離型フィルム、セパレート紙、セパレートフィルム、セパ紙、剥離フィルム、剥離紙等の従来公知のものを好適に使用できる。また、上質紙、コート紙、含浸紙、プラスチックフィルムなどの離型紙用基材の片面または両面に離型層を形成したものを用いてもよい。離型層としては、離型性を有する材料であれば、特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂、有機樹脂変性シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アミノアルキド樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂などがある。これらの樹脂は、エマルジョン型、溶剤型または無溶剤型のいずれもが使用できる。
【0043】
離形層は、離形層成分を分散および/または溶解した塗液を、離型紙用基材フィルムの片面に塗布し、加熱乾燥および/または硬化させて形成する。塗液の塗布方法としては、公知で任意の塗布法が適用でき、例えば、ロールコート、グラビアコート、スプレーコートなどである。また、離形層は、必要に応じて、基材フィルムの少なくとも片面の、全面または一部に形成してもよい。
【0044】
第一および第二離型紙の剥離力は、粘着シートに対し、1〜2000mN/cm程度、さらに100〜1000mN/cmであることが好ましい。離形層の剥離力が1mN/cm未満の場合は、粘着シートや被着材との剥離力が弱く、剥がれたり部分的に浮いたりする。また、2000mN/cmより大きい場合は、離形層の剥離力が強く、剥離しにくい。安定した離形性や加工性の点で、ポリジメチルシロキサンを主成分とする付加および/または重縮合型の剥離紙用硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
【0045】
本発明によれば、図2に示すように、上記した粘着シート1を用いて、トリアセチルセルロース樹脂フィルムからなる被着体30を他の被着体40に粘着剤層11を介して貼り合わせることができる。得られた貼合体は、粘着剤層が、トリアセチルセルロース樹脂フィルムの伸縮に追従できるため、浮きや剥がれの発生がなく、特に、他の被着体40としてトリアセチルセルロース樹脂フィルムを用いたような場合であっても、良好な貼合体とすることができる。
【実施例】
【0046】
本発明を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【0047】
<アクリル系トリブロックコポリマーの準備>
アクリル系トリブロックコポリマーとして、4種類のMMA−BA−MMAブロックコポリマー1〜4を準備した。
【0048】
MMA−BA−MMAブロックコポリマー1
クラレ製のクラリティーLA2140(MMAの含有率が25%)
MMA−BA−MMAブロックコポリマー2
クラレ製のクラリティーLA4285(MMAの含有率が50%)
【0049】
MMA−BA−MMAブロックコポリマー3
トルエン868g、1,2−ジメトキシエタン43.4g、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム40.2mmolを含有するトルエン溶液60gを、内部を窒素ガスで置換した反応容器内に室温にて投入し、さらに、sec−ブチルリチウム12.5mmolを含有するシクロヘキサンとn−ヘキサンとの混合溶液7.24gと、メタクリル酸メチル93.5gとを添加した。次に、室温にて60分間撹拌して重合を開始させ、その後、反応容器内を−30℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル125gを2時間かけて滴下し、滴下後、−30℃にて5分間撹拌した。次いで、これにメタクリル酸メチル93.5gを加え、12時間撹拌した後、メタノール3.5gを添加して重合反応を停止した。このように得られた反応液をメタノール中に注入して白色沈殿物を回収し、乾燥することにより、MMA−BA−MMAブロックコポリマー3を得た。得られたMMA−BA−MMAブロックコポリマー3は、質量平均分子量が8.6万であり、MMA単位の含有率が約60モル%であった。
【0050】
MMA−BA−MMAブロックコポリマー4
シクロヘキサンとn−ヘキサンとの混合溶液として、sec−ブチルリチウム14.6mmolを含有するシクロヘキサンとn−ヘキサンとの混合溶液8.4gを添加し、メタクリル酸メチルの添加量を109.2gとし、アクリル酸n−ブチル93.6gとした以外は、上記と同様にして、MMA−BA−MMAブロックコポリマー4を得た。得られたMMA−BA−MMAブロックコポリマー4の質量平均分子量が9.2万であり、MMA単位の含有率が約70モル%であった。
【0051】
<粘着剤組成物の調製>
アクリル系粘着剤として綜研化学社製のSKダイン2950を用い、架橋剤として日本ポリウレタン工業製のトリレンジイソシアネート(アダクト型)用い、アクリル系トリブロックコポリマーとして、上記のようにして得られたMMA−BA−MMAブロックコポリマー1〜4を用い、下記の表1に示す割合で配合し、粘度調整用の希釈溶剤として酢酸エチル(製品名酢酸エチル:DICグラフィクス製)適量を配合し、攪拌機により混合することにより粘着剤組成物を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
<評価サンプルの作製>
上記のようにして得られた粘着剤組成物を乾燥して厚さが25μmになるようにシリコーン剥離処理した厚み38μmのPET製キャリアフィルム(製品名MRF:三菱樹脂製)に、アプリケーターにて塗布し、100℃で2分乾燥を行い粘着剤層を形成し、40℃環境で3日間エージング処理を行うことにより粘着シートを得た。次いで、粘着シートの粘着剤層の面を、位相差フィルム(VA−TACフィルム、コニカミノルタ社製)に貼り合わせ、位粘着剤層付きの位相差フィルムを作製した。続いて、得られた粘着剤層付きの位相差フィルムからPET製キャリアフィルムを剥離し、剥離面を、厚み60μmのTACフィルム(フジタックTD60UL、富士フィルム製)に貼り合わせ、ラミネートローラーを用いて2kg荷重で2往復させることにより、位相差フィルムとTACフィルムとを貼り合わせた。
【0054】
<粘着強度の評価>
上記のようにして得られた貼合体を所定の大きさに裁断し、引張り試験機(RTF−1150−H、エー・アンド・デイ社製)を用いて、室温にて、引張速度=300mm/分、剥離角=180°(JIS Z0237に準拠)の条件にて剥離強度(N/25mm)の測定を行った。評価結果は下記の表2に示される通りであった。
【0055】
<リワーク性の評価>
また、上記で得られた貼合体を所定の大きさに裁断したサンプルを、50℃のオーブンに30分間静置した後、オーブンから取り出し、引張り試験機(RTF−1150−H、エー・アンド・デイ社製)を用いて、室温にて、引張速度=1000mm/分の条件にて剥離強度(N/25mm)の測定を行った。評価結果は下記の表2に示される通りであった。
【0056】
<引張弾性率および破断伸度の測定>
粘着シートを10mm×300mmの大きさに裁断し、PET製キャリアフィルムを剥離して粘着剤層のみとし、それを長さ20mm、直径6mm となるよう丸めたものを評価サンプルとした。このサンプルを引張試験機にてチャック間10mm、引っ張り速度300mm/分で延伸時の破断強度を測定した。破断強度値をサンプルの断面積で割ることにより引っ張り弾性率値(MPa)を算出した。評価結果は下記の表2に示される通りであった。
【0057】
<浮き・剥がれの評価>
粘着剤層付きの位相差フィルムからPET製キャリアフィルムを剥離し、剥離面を、粘着付偏光板(HLC2−5618S:サンリッツ製)の粘着層が形成されていない面にゴムロールを用いて貼り合わせた。次いで、粘着付偏光板の粘着層が形成されている面に、0.7mm厚のガラス(ゴリラガラス:コーニング製)を貼り合わせ、ゴムロールで荷重をかけることにより、粘着剤層付きの位相差フィルムと粘着付偏光板とが積層された貼合体を得た。貼合体をオートクレーブ装置にて0.5MPa、50℃、30分の条件で熱処理を行ったものを、再度、温度60℃湿度90%Rhのオーブンへ投入し、1時間放置したものを評価サンプルとした。評価サンプルを目視にて観察し、浮きまたは剥がれが確認されたものを×、浮きまたは剥がれが確認できなかったものを○とした。評価結果は下記の表2に示される通りであった。
【0058】
<作業性(ベタつき)の評価>
粘着剤層付きの位相差フィルムからPET製キャリアフィルムを剥離し、剥離面を、粘着付偏光板(HLC2−5618S:サンリッツ製)の粘着層が形成されていない面にゴムロールを用いて貼り合わせ、オートクレーブ装置にて0.5MPa、50℃、30分の条件で熱処理を行った。得られた貼合体を、カッター刃にて20m/分の速度で210mm×300mmの寸法となるように裁断して一枚のサンプルを作製し、これを100枚重ね合わせた。100枚重ね合わせたものの裁断面に、ゴム手袋を付着させ、300mm/分の速度で剥がした際に粘着層がゴム手袋に付着しているか否かを目視にて観察した。ゴム手袋に粘着層が付着していなければ○、粘着層が付着している場合は×とした。評価結果は下記の表2に示される通りであった。
【0059】
【表2】
【符号の説明】
【0060】
1 :粘着シート
11:粘着剤層
21:離型紙
21A:第1離型紙
21B:第2離型紙
30:被着体(光学フィルム)
40:被着体(光学フィルム)
図1
図2