(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032045
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】スピンドルの疲労度評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20161114BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01N19/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-26518(P2013-26518)
(22)【出願日】2013年2月14日
(65)【公開番号】特開2014-157022(P2014-157022A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】大迫 祥平
(72)【発明者】
【氏名】安福 大輔
【審査官】
山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−111436(JP,A)
【文献】
特開昭53−070958(JP,A)
【文献】
特開2002−192208(JP,A)
【文献】
特開平05−245517(JP,A)
【文献】
特表2011−501172(JP,A)
【文献】
特開平09−243518(JP,A)
【文献】
特開平05−176580(JP,A)
【文献】
特開2005−174011(JP,A)
【文献】
特開昭62−141404(JP,A)
【文献】
特開2010−112387(JP,A)
【文献】
特開2010−008189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01N 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドル上に設置したトルク実測手段を用いてトルクデータを実測するトルク実測工程と、
トルク実績から各機械要素に発生するトルク推定工程と、各機械要素におけるトルクと最弱部位応力との比率を予め計算し、トルク推定工程で推定されたトルクデータと前記の計算された比率から、スピンドル各部品の最弱部位における発生応力を求めた上で、
レインフロー法により、該発生応力から応力頻度を算出して累積疲労損傷度を算出する累積疲労損傷度算出工程を有することを特徴とするスピンドルの疲労度評価方法。
【請求項2】
トルク推定工程において、中間のクロスピン間の振動も考慮したスピンドルのねじり振動を一般化させた運動方程式[数1]で表される連成振動の方程式を離散化し、トルクモニタの測定を反映させた離散時間状態空間表現式[数2]にカルマンフィルタを用いてトルク推定をおこなうことを特徴とする請求項1記載のスピンドルの疲労度評価方法。
【数1】
【数2】
【請求項3】
請求項1記載のトルクと最弱部位の計算において予め有限要素法で比率を求めることを特徴とする請求項1記載のスピンドルの疲労度評価方法。
【請求項4】
トルク実測手段が、非接触給電式の恒久的トルクモニタであることを特徴とする請求項1記載のスピンドルの疲労度評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルの疲労度評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧延機の圧延ロールは、離れた位置に設置された駆動モータのモータ軸とスピンドルにより連結され駆動されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
スピンドルに繰り返し応力が加わって疲労度が高くなると設備故障等の要因となるため、スピンドルの疲労度評価を正確に行うことが求められる。
【0004】
従来のスピンドルの疲労度評価方法として、
図5に示すように、圧延機の圧延ロール1とロール側クロスピン2とスピンドル3と電動機側クロスピン4とモータ軸5を単純な弾性体としてモデル化し、駆動モータの電流値をトルク換算してスピンドルの疲労損傷診断を行う技術が知られている。
【0005】
従来この問題に対しては電動機のトルクを直接測定してスピンドルに発生するトルクとみなすことがおこなわれていたが、この方法では、駆動モータの電流値をトルク換算するために機械的に結合されていないことから振動を直接測定することができないという問題がある。
【0006】
また、
図5に示すように圧延ロール1とロール側クロスピン2とスピンドル3と電動機側クロスピン4とモータ軸5を単純な弾性体としてモデル化し、トルク測定の結果から各スピンドルのトルクを計算しスピンドルの疲労損傷診断を行う技術が知られている。
【0007】
しかし、前記の従来技術ではスピンドルの締結部位に発生する数百〜数kHzの高周波振動をモデルに考慮していないため正確な寿命評価をおこなうことができない問題があった。
【0008】
特に疲労損傷度は疲労損傷度の計算を説明する式[数1],周波数帯域で疲労損傷度の寄与率を分割した場合を説明する式[数2],
図6に示すように応力振幅の大きさと発生頻度に依存するため、高周波域で発生する振動を考慮できない場合、その推定寿命は実際の余寿命より低めに推定する結果を与えてしまう。そのため高周波域での振動をオンラインで予測しながら疲労損傷度を計算するための方法が重要となる。
【数1】
【数2】
【0009】
更に、近年では数値計算技術の発達により駆動系を有限要素法で定式化することで全体を正確にモデル化し、与えられたトルクから各要素の最弱部位を計算する技術が知られている。
【0010】
しかし、前記の従来技術では計算モデルが大規模となり実測データを元に逐一オンラインで計算することは不可能であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−192208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は前記の問題を解決し、スピンドルの劣化管理に重要な締結部位(スピンドルの結合要素)で発生する振動(数百Hz〜数kHz)も考慮され、オンラインで実用的な機器の余寿命評価に適用可能なスピンドルの疲労度評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明のスピンドルの疲労度評価方法は、スピンドル上に設置したトルク実測手段を用いてトルクデータを実測するトルク実測工程と、トルク実績から各機械要素に発生するトルク推定工程と、各機械要素におけるトルクと最弱部位応力との比率を予め計算し、トルク推定工程で推定されたトルクデータと前記の計算された比率から、スピンドル各部品の最弱部位における発生応力を求めた上で、レインフロー法により、該発生応力から応力頻度を算出して累積疲労損傷度を算出する累積疲労損傷度算出工程を有することを特徴とするものである。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のトルク推定工程において、中間のクロスピン間の振動も考慮したスピンドルのねじり振動を一般化させた運動方程式[数3]で表される連成振動の方程式を離散化し、トルクモニタの測定を反映させた離散時間状態空間表現式[数5]にカルマンフィルタを用いてトルク推定をおこなうことを特徴とするものである。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のトルクと最弱部位の計算において予め有限要素法で比率を求めることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のスピンドルの疲労度評価方法において、トルク実測手段が、非接触給電式の恒久的トルクモニタであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスピンドルの疲労度評価方法では、測定箇所におけるトルク実績から各機械要素に発生するトルクを推定し、更に各機械要素、部品における最弱部位の該発生応力を推定することでその時系列データから応力頻度を算出して累積疲労損傷度を算出することにより、オンラインで従来捕えることができなかったスピンドル各部位の疲労度評価まで行うことができる。すなわち、本発明によれば、
図3に示すように、スピンドルの劣化管理に重要な部位(スピンドルの結合要素)も考慮したモデルを用いて、実用的な機器の余寿命評価にも適用可能な精度での疲労度評価が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1に示すように、圧延機の圧延ロール1は、スピンドル3によって、駆動モータ6のモータ軸と連結されている。
【0020】
本実施形態では、
図2に示すように、スピンドル上に非接触給電式のトルクモニタ7を設置して、スピンドルのトルクデータを連続的に実測している。実測されたトルクデータは、トルク推定工程を経て解析用パソコンに送られる。
図2において、8はカップリング、9はジャーナル軸受を示している。
【0021】
トルク推定工程とは測定部位におけるトルクの実績から各機械要素に発生するトルクを推定する工程のことであり、
図3で示す中間のクロスピン間の振動も考慮したスピンドルのねじり振動を一般化させた運動方程式[数3]と、
【数3】
観測を考慮した連続時間状態空間表現式[数4]と、
【数4】
それを離散化させた状態空間表現式[数5]
【数5】
を用いて構成することができる。この運動方程式[数3]は従来のスピンドルモデルである運動方程式[数6]
【数6】
と異なり、中間のクロスピンの剛性を表現することができる。このためより精度の高いねじり振動を表すことが可能である。また連続時間状態空間表現式[数4]はスピンドルの中間振動を測定することにより観測行列Cの行列のランクを上げることが可能である。この特性を用いることで離散化された状態空間表現式[数5]は状態推定手法であるカルマンフィルタを適用すれば中間位置の角度・角速度を精度よく推定することが可能となる。
【0022】
カルマンフィルタにより推定された中間位置の角度・角速度を計算することができれば式[数7]で示す、各要素間でのねじり剛性と角度差を用いることでトルクを推定することが可能である。
【数7】
【0023】
解析用パソコンには、スピンドル各部品の最弱部位とトルク点の応力比データが計算されて入力されている。スピンドル各部品の最弱部位の求め方については特に限定しないが、有限要素法による応力集中箇所の特定による方法や、ひずみゲージなどによる実測などを用いることができる。代表的な最弱部位の事例として
図2のA〜E点(A:スリッパメタル、B:鰐口、CおよびE:ジャーナル軸受、D:応力集中部)が挙げられる。
【0024】
解析用パソコンでは、前記の応力比データと、トルクモニタで実測されたトルクデータから、スピンドル各部位の発生応力を求めた上で、レインフロー法により、該発生応力から応力頻度を算出して累積疲労損傷度を算出する。
【0025】
このように、スピンドル各部位とトルク実測点の応力比を予め計算しておき、トルク実測工程で実測されたトルクデータと前記の計算された応力比から、スピンドル各部品の発生応力を求めた上で、レインフロー法により、該発生応力から応力頻度を算出して累積疲労損傷度を算出することにより、従来捕えることができなかったスピンドル各部品の疲労度評価まで行うことができる。すなわち、本発明によれば、
図3に示すように、スピンドルの劣化管理に重要な部位(スピンドルの結合要素)も考慮したモデルを用いて、実用的な機器の余寿命評価にも適用可能な精度での疲労度評価が可能となる。この一連の計算・推定の手順を示したものが
図4である。まずトルクモニタによりトルクを測定する。次に予め計算した離散時間状態空間表現を用いてカルマンフィルタにより角度・角速度を推定する。推定された角度・角速度を元に内部に発生するトルクを計算する。次に内部に発生するトルクから応力比をかけることで最弱箇所の応力を計算する。このようにして時々刻々得られる応力計算値からレインフロー法により疲労損傷度を計算する。
【0026】
なお、算出された累積疲労損傷度は、スピンドル管理テーブルに入力され、A〜E点の劣化傾向管理が一括して行えるようになっている。また、スピンドル管理テーブルには、圧延時刻・パス回数・圧延ナンバー・回転数・圧延荷重・トルク電流・圧延前板厚・圧延後板厚等のデータもプロコン経由で入力されており、スピンドルの劣化傾向と使用操業条件の関係付けが簡易にできるようになっている。
【符号の説明】
【0027】
1 圧延機の圧延ロール
2 ロール側クロスピン
3 スピンドル
4 電動機側クロスピン
5 モータ軸
6 駆動モータ
7 トルクモニタ
8 カップリング
9 ジャーナル軸受