(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図12、
図13に示すように、一般に、樹脂成形部品100は、部品本来の役割を果たす本体部120と、本体部の一部に形成された取付部110とを備えている。この取付部110は、本体部の外周縁又は本体部に形成された開口部の外周縁から所定の長さを有するフランジ部111を延設して形成され、斯かるフランジ部111の先端に貫通孔112が形成されている場合が多い。そして、フランジ部111の先端に形成した貫通孔112を介して、樹脂成形部品100に他の部品を取り付けたり、樹脂成形部品100を他の部品に取り付けたりしている。
しかし、先端に貫通孔112の形成されたフランジ部111には、射出成形時に基端側から流入する溶融樹脂f0が貫通孔112を回避して左右分岐する。左右分岐した溶融樹脂f1、f2が再び合流する合流部113、114において、ウェルドラインWLが発生し易い。分岐した溶融樹脂f1、f2の先頭部は、再合流する前から固化が始まっているので、
図14(a)に示すように、ウェルドラインWLを境に固化した樹脂が面直に接合する不連続面を形成し、強度的に弱くなるので、
図14(b)に示すように、外力Gがフランジ部に面方向から作用すると、ウェルドラインWLから割れやすくなる。
そのため、先端に貫通孔の形成されたフランジ部において、ウェルドラインを低減するための検討がなされている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、先端に貫通孔の形成されたフランジを有する樹脂成形部品において、フランジの他部品に取り付ける側の面に凹部が形成され、成形時において溶融樹脂の合流する部分に形成されるウェルドラインが貫通孔の周囲に形成され、凹部は溶融樹脂の合流する部分よりも上流側かつ貫通孔の近傍に形成され、凹部の底面側の樹脂の厚みが凹部の側面側の樹脂のうち最も薄い部分の厚みよりも大きいことを特徴とする樹脂成形部品が、開示されている。
特許文献1に開示された樹脂成形部品の構成によれば、成形時において凹部の側面側の樹脂の流れよりも底面側の樹脂の流れが多くなり、貫通孔の周囲に形成される溶融樹脂の合流する部分、すなわちウェルドラインが形成される部分に凹部の底面側からより多くの樹脂が流れ込むようになる。その結果、ウェルドラインの形成を抑制することができると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、フランジの他部品に取り付ける側の面に凹部が形成され、凹部は溶融樹脂の合流する部分よりも上流側かつ貫通孔の近傍に形成され、凹部の底面側の樹脂の厚みが凹部の側面側の樹脂のうち最も薄い部分の厚みよりも大きいことを特徴とするので、相当量の厚みを有するフランジを前提とした技術である。例えば、特許文献1の実施形態では、凹部の底面側の樹脂の厚みは、6mmで、凹部の側面側の樹脂のうち最も薄い部分の厚みは、2.5mmで、フランジ全体の厚みは、20mmである。
これに対して、
図12、
図13に示すような、一般的な樹脂成形部品100におけるフランジ部111の樹脂の厚みは、2mm程度である。樹脂の厚みが2mm程度しかないフランジ部に特許文献1の凹部を形成して、ウェルドラインが形成される部分に凹部の側面側より底面側からより多くの樹脂が流れ込むようにすることは、事実上困難である。したがって、特許文献1の技術を、フランジ部の樹脂の厚みが2mm程度である一般の樹脂成形部品に採用することは適さないという問題があった。
また、特許文献1の技術は、凹部の側面側の樹脂の流れよりも底面側の樹脂の流れが多くなり、貫通孔の周囲に形成される溶融樹脂の合流する部分、すなわちウェルドラインが形成される部分に凹部の底面側からより多くの樹脂が流れ込むようにすることによって、ウェルドラインの形成を抑制する技術である。そのため、より多くの樹脂が流れ込むフランジ下面側(凹部の底面側)においては、ウェルドラインの形成を抑制することが可能であるが、樹脂の流れ込みが少ないフランジ上面側(凹部の底面と反対側)においては、ウェルドラインの形成を抑制することは困難である。したがって、特許文献1の技術を適用しても、フランジの上面側でウェルドラインが残存し、そこから割れが生じる問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、フランジ部の樹脂の厚みが2mm程度である一般の樹脂成形部品に適用することができ、貫通孔の周辺で溶融樹脂が合流する合流部に生じるウェルドラインで割れにくくするフランジ部の形状を備える樹脂成形部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る樹脂成形部品及びその製造方法は、次のような構成を有している。
(1)先端に貫通孔が形成されたフランジ部を有する樹脂成形部品であって、
前記貫通孔を隔てて左右いずれか一方の側のフランジ部には、薄肉部を形成したことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、貫通孔を隔てて左右いずれか一方の側のフランジ部には、薄肉部を形成したので、射出成形時に貫通孔を回避して左右分岐した溶融樹脂の内、薄肉部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の粘性抵抗が増加する。そのため、薄肉部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力が、貫通孔を隔てて薄肉部と反対側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力に比べて、相対的に小さくなる。
したがって、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部において、薄肉部を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層は、貫通孔を隔てて薄肉部と反対側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層に押し返されて、ウェルドラインが断面くさび状に湾曲して形成される。
その結果、貫通孔が形成されたフランジ部に外力が作用しても、断面くさび状に湾曲して形成されたウェルドラインの境界面で、その外力に対抗しつつ割れを低減することができる。よって、ウェルドラインが面直に形成される従来のフランジ部の形状に比較して、大幅に強度が向上する。
【0009】
なお、薄肉部は、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部の手前に形成されていることが好ましい。ウェルドラインが、薄肉部に掛かる量を低減できるので、より一層強度を向上できるからである。また、薄肉部の厚みは、貫通孔を隔てた反対側のフランジ部の厚みの1/3〜2/3倍程度が好ましい。薄肉部の厚みは、貫通孔を隔てた反対側のフランジ部の厚みの1/2倍程度が更に好ましい。ウェルドラインが、より一層断面くさび状に湾曲して形成されやすくなるからである。
以上のように、本発明によれば、フランジ部の樹脂の厚みが2mm程度である一般の樹脂成形部品に適用することができ、貫通孔の周辺で溶融樹脂が合流する合流部に生じるウェルドラインで割れにくくするフランジ部の形状を備える樹脂成形部品を提供することができる。
【0010】
(2)(1)に記載された樹脂成形部品において、
前記薄肉部は、前記貫通孔の外周縁から前記一方の側のフランジ部の外周縁まで形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、薄肉部は、貫通孔の外周縁から一方の側のフランジ部の外周縁まで形成されているので、薄肉部を形成する一方の側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力を、貫通孔を隔てて薄肉部と反対側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力に比べて、貫通孔の外周縁から一方の側のフランジ部の外周縁まで、いずれの箇所においても小さくさせることができる。
そのため、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部において、貫通孔の外周縁から一方の側のフランジ部の外周縁まで、全長にわたってウェルドラインが断面くさび状に湾曲して形成される。
したがって、貫通孔が形成されたフランジ部に外力が作用しても、断面くさび状に湾曲して形成されたウェルドラインの境界面の全範囲で、その外力に対抗しつつ割れを低減することができる。その結果、ウェルドラインでより一層割れにくくすることができる。
【0012】
(3)(1)又は(2)に記載された樹脂成形部品において、
前記薄肉部は、前記一方の側のフランジ部の対向する上下面をそれぞれ凹ませて形成することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、薄肉部は、一方の側のフランジ部の対向する上下面をそれぞれ凹ませて形成するので、薄肉部を形成する一方の側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂のコア層は、貫通孔を隔てて薄肉部と反対側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂のコア層とフランジ部の上下方向の略中央付近で合流させることができる。
そのため、ウェルドラインがフランジ部の上下方向略中央を中心に対称的な断面くさび状に湾曲して形成される。
したがって、貫通孔が形成されたフランジ部に外力が作用しても、フランジ部の上下方向略中央を中心に対称的な断面くさび状に湾曲したウェルドラインの境界面で、その外力を上下略均等に分散させて、割れをより一層低減することができる。
【0014】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された樹脂成形部品の製造方法において、
前記薄肉部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の温度を、前記貫通孔を隔てて前記薄肉部と反対側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の温度に比べて、相対的に低くすることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、薄肉部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の温度を、貫通孔を隔てて薄肉部と反対側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の温度に比べて、相対的に低くするので、薄肉部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の粘性抵抗が一層増加する。そのため、薄肉部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力が、貫通孔を隔てて薄肉部と反対側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力に比べて、より一層小さくなる。
したがって、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部において、薄肉部を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層は、貫通孔を隔てて薄肉部と反対側のフランジ部を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層により大きく押し返されて、ウェルドラインは、先端が鋭角的な断面くさび状に湾曲して形成される。
【0016】
その結果、貫通孔が形成されたフランジ部に外力が作用しても、先端が鋭角的に形成された断面くさび状に湾曲したウェルドラインの境界面で、その外力をより広く分散させて、割れをより一層低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フランジ部の樹脂の厚みが2mm程度である一般の樹脂成形部品に適用することができ、貫通孔の周辺で溶融樹脂が合流する合流部に生じるウェルドラインで割れにくくするフランジ部の形状を備える樹脂成形部品及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る実施形態である樹脂成形部品及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
<樹脂成形部品におけるフランジ部の基本構成>
まず、本発明に係る実施形態である樹脂成形部品において、貫通孔の周辺で溶融樹脂が合流する合流部に生じるウェルドラインで割れにくくするフランジ部の基本構成を、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1に、本発明に係る実施形態である樹脂成形部品の部分斜視図を示す。
図2に、
図1に示す樹脂成形部品における取付部を構成するフランジ部の詳細説明図を示す。
図3に、
図2に示すフランジ部のB−B断面図を示す。
【0021】
図1、
図2に示すように、樹脂成形部品10は、部品本来の役割を果たす本体部1と、本体部の一部に形成された取付部2とを備えている。例えば、樹脂成形部品10は、自動車のバンパーやドアトリムなどの車両用樹脂内外装部品が該当する。この取付部2は、本体部1の外周縁又は本体部1に形成された開口部の外周縁から所定の長さを有するフランジ部20を延設して形成され、斯かるフランジ部20の先端に貫通孔3が形成されている。貫通孔3は、フランジ部20の長手方向と同一の方向に短径を、長手方向と直交する方向に長径を有する長孔である。貫通孔3の、短径は7〜8mm程度であり、長径は10〜12mm程度である。フランジ部20の長手方向と直交する幅は20〜25mm程度であり、フランジ部20の厚みは1.5〜2.5mm程度である。フランジ部20の樹脂の材質は、PP(ポリプロピレン)等の射出成形可能な熱可塑性プラスチックであれば、特
に限定されることはない。繊維強化型のプラスチックであっても良い。
【0022】
また、貫通孔3を隔てて左右いずれか一方の側のフランジ部には、薄肉部21が形成されている。薄肉部21は、貫通孔3の長径側外周縁から一方の側のフランジ部の外周縁まで形成されている。薄肉部21の厚みは、貫通孔3を隔てた反対側のフランジ部22の厚みの1/2倍程度である。薄肉部21の厚みは、均等に形成することもできるが、徐々に変化させることもできる。フランジ部20の長手方向における薄肉部21の幅wは、貫通孔3の短径と略同一である。
【0023】
図2に示すように、貫通孔3を隔てて左右いずれか一方の側のフランジ部に薄肉部21を形成したことによって、射出成形時に貫通孔3を回避して左右分岐した溶融樹脂の内、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の粘性抵抗が増加する。そのため、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P1が、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P2に比べて、相対的に小さくなる。溶融樹脂の圧力差(P2>P1)は、主に、薄肉部21の厚みと貫通孔3を隔てた反対側のフランジ部22の厚みとの差に比例して生じる。溶融樹脂の圧力差(P2>P1)によって、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部23A、23Bにおいて形成されるウェルドライン24は、平面視でフランジ部20の長手方向と傾斜する方向に形成される。
【0024】
図3に示すように、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部23A、23Bにおいて、フランジ部の上下面において溶融樹脂が冷却され固化し始めた流動性の低いスキン層23AS、23BSが形成され、スキン層23AS、23BSに覆われた中央部には、高温で流動性が高いコア層23AC、23BCが形成されている。
流動性の低いスキン層23AS、23BSの圧力q1は、左右略均等であるが、流動性が高いコア層23AC、23BCの圧力P1、P2は、上述したように左右相違する。すなわち、薄肉部21に近い合流部23A側の溶融樹脂のコア層23ACの圧力P1が、薄肉部21と反対側の合流部23B側の溶融樹脂のコア層23BCの圧力P2より、相対的に小さい。
【0025】
圧力P1が小さい薄肉部21に近い合流部23A側の溶融樹脂のコア層23ACは、圧力P2が大きい薄肉部21と反対側の合流部23B側の溶融樹脂のコア層23BCに押し返されて、ウェルドラインが断面くさび状に湾曲して形成される。
その結果、貫通孔3が形成されたフランジ部に上下方向から外力が作用しても、断面くさび状に湾曲して形成されたウェルドライン24の境界面で、その外力に対抗しつつ割れを低減することができる。
【0026】
なお、
図1、
図2に示すように、薄肉部21は、フランジ部20の上下面のいずれか一方側からのみ凹ませて形成することもできるが、フランジ部20の上下面からそれぞれ凹ませて形成することも可能である(図示しない)。対向する上下面をそれぞれ凹ませて薄肉部21を形成することによって、薄肉部21を形成する一方の側のフランジ部20を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂のコア層23ACは、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂のコア層23BCと、フランジ部20の上下方向の略中央付近で合流させることができる。
そのため、ウェルドライン24がフランジ部20の上下方向略中央を中心に対称的な断面くさび状に湾曲して形成される。
【0027】
また、
図2に示すように、薄肉部21は、貫通孔3の外周縁から一方の側のフランジ部20の外周縁まで形成されているので、薄肉部21を形成する一方の側のフランジ部20を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P1を、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P2に比べて、貫通孔3の外周縁から一方の側のフランジ部20の外周縁まで、いずれの箇所においても小さくさせることができる。
そのため、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部23A、23Bにおいて、貫通孔3の外周縁から一方の側のフランジ部20の外周縁まで、全長にわたってウェルドライン24が断面くさび状に湾曲して形成される。
【0028】
<薄肉部の変形例>
次に、上述した薄肉部のバリエーションとして、薄肉部の変形例を
図4〜
図11を用いて説明する。
図4に、
図2に示す薄肉部における第1変形例の斜視図を示す。
図5に、
図2、
図4に示す薄肉部のC−C,D−D断面図を示す。
図6に、
図2、
図4に示す薄肉部のC−C,D−D断面図の変形例を示す。
図7に、
図2に示す薄肉部における第2変形例の斜視図を示す。
図8に、
図7に示す薄肉部のE−E断面図を示す。
図9に、
図2に示す薄肉部における第3変形例の斜視図を示す。
図10に、
図9に示す薄肉部のF−F断面図を示す。
図11に、
図2に示す薄肉部における第4変形例の斜視図を示す。
【0029】
(第1変形例)
図4に示すように、フランジ部20の長手方向における薄肉部21Aの幅を、貫通孔3の外周縁の幅w2と一方の側のフランジ部20の外周縁の幅w1とで相違させてもよい。例えば、薄肉部21Aにおける一方の側のフランジ部20の外周縁の幅w1を貫通孔3の外周縁の幅w2より長くすることによって、一方の側のフランジ部20の外周縁側における溶融樹脂のコア層の圧力P11を、貫通孔3の外周縁側における溶融樹脂のコア層の圧力P12より小さくさせて、フランジ部20の長手方向に対するウェルドライン24の傾斜角θを増大させることができる。ウェルドライン24の傾斜角θが増大することによって、ウェルドライン24の長さLが長くなる。そのため、フランジ部の先端に外力を作用させたときに、長さLが長くなったウェルドライン24全体で、力の分散を図ることが可能となり、ウェルドライン24は撓みにくくなる。その結果、ウェルドライン24は、より一層割れにくくなる。
【0030】
なお、
図5、
図6に示すように、薄肉部21Aは、フランジ部20の上面211及び下面212のいずれか一方側からのみ凹ませて形成することができるが、フランジ部20の上面211及び下面212からそれぞれ凹ませて形成することも可能である(図示しない)。また、
図5に示すように、薄肉部21の厚みt1は、他のフランジ部20,22の厚みt0の1/2倍程度であり、全体で均等に形成することが好ましい。ただし、
図6に示すように、薄肉部21の厚みt2、t3は、徐々に変化させて形成することもできる。この場合、薄肉部21の厚みt2、t3の平均値が、他のフランジ部20,22の厚みt0の1/2倍程度であることが好ましい。
【0031】
(第2変形例)
図7に示すように、薄肉部21B、21C、21Dは、フランジ部20の長手方向に複数個並列状に形成してもよい。薄肉部21B、21C、21Dを複数個並列状に形成することによって、1個当たりの薄肉部の幅を短くすることができるので、貫通孔3の周辺で他の部品と当接する面を確保し易くなる。当接面が増加するので、貫通孔3を介して他の部品を締結する際、薄肉部21B、21C、21Dを緩みにくくすることができる。
なお、
図8に示すように、薄肉部21B、21C、21Dは、フランジ部20の上面211及び下面212からそれぞれ凹ませて形成することができるが、フランジ部20の上面211及び下面212のいずれか一方側からのみ凹ませて形成することも可能である(図示しない)。薄肉部21B、21C、21Dの厚みt4、t5、t6は、それぞれ他のフランジ部20,22の厚みt0の1/2倍程度が好ましい。
【0032】
(第3変形例)
図9に示すように、薄肉部21Eを、貫通孔3の外周縁側のリブ21Fと一方の側のフランジ部20の外周縁側のリブ21Gとによって囲むように形成してもよい。貫通孔3の外周縁側と一方の側のフランジ部20の外周縁側とにリブ21F、21Gを形成して、薄肉部21Eを囲むことによってフランジ部20を補強することができる。
なお、
図10に示すように、薄肉部21Eは、フランジ部20の上面211及び下面212からそれぞれ凹ませて形成することができるが、フランジ部20の上面211及び下面212のいずれか一方側からのみ凹ませて形成することも可能である(図示しない)。薄肉部21Eの厚みt7は、他のフランジ部20,22の厚みt0の1/2倍程度が好ましい。
【0033】
(第4変形例)
図11に示すように、薄肉部21Hは、互いに近接する複数個の凹形状として形成してもよい。複数個の凹形状が互いに近接して形成されることによって、薄肉部21Hをフランジ部20の一定範囲に形成したのと略同等の効果を奏することができる。また、フランジ部20の凹形状が形成されていない薄肉部21Hの周辺部21Lは、フランジ部20を補強する効果を奏する。凹形状は、円筒形状でもよいが、矩形形状など他の立体形状でもよい。各薄肉部21Hの厚みは、他のフランジ部20,22の厚みt0の1/3〜1/2倍程度が好ましい。
【0034】
<樹脂成形部品の製造方法>
次に、樹脂成形部品10を射出成形法によって製造する方法について説明する。射出成形法自体は、公知技術であるので、ここでは本願発明の特徴である、薄肉部21を形成する溶融樹脂の冷却方法を中心に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る樹脂成形部品10には、本体部1の一部に樹脂注入口(ゲート)INが形成されている。
樹脂注入口(ゲート)INから、金型キャビティ内に注入される溶融樹脂は、ガラス転移温度以上に加熱されて、流動性が高い。
【0035】
図2に示すように、本体部1の外周縁から延設されたフランジ部20を形成する金型キャビティ内には、加熱されて流動性の高い溶融樹脂が、フランジ部20の基端側から流入してくる。基端側から流入してくる溶融樹脂は、貫通孔3の手前で左右に分岐する。
貫通孔3の手前で左右に分岐した一方の溶融樹脂は、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を通過する際、上下の隙間が狭い金型表面から熱吸収されやすい。そのため、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂は、温度が低下して、粘性抵抗が増大する。これに対して、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂は、上下の隙間が広いので金型表面から熱吸収されにくい。そのため、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂は、温度が低下しにくく、粘性抵抗も増大しにくい。
【0036】
その結果、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P1が、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P2に比べて、相対的に小さくなる。
そのため、
図3に示すように、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部23A,23Bにおいて、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層23ACは、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層23BCに押し返されて、ウェルドライン24が断面くさび状に湾曲して形成される。
【0037】
なお、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂を積極的に冷却することによって、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P1を、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P2に比べて、より一層小さくさせることができる。この場合、ウェルドライン24の断面くさび状に湾曲した形状は、先端が一層鋭角的に形成されることになる。
ここで、薄肉部を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂を積極的に冷却する手段としては、例えば、薄肉部を形成する金型において、熱伝導性の高いZAS又はアルミ合金等を用いること、冷却水の配管経路を他の回路とは別に設定して温度コントロールすること等がある。
【0038】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る樹脂成形部品10によれば、貫通孔3を隔てて左右いずれか一方の側のフランジ部20には、薄肉部21を形成したので、射出成形時に貫通孔3を回避して左右分岐した溶融樹脂の内、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の粘性抵抗が増大する。そのため、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P1が、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P2に比べて、相対的に小さくなる。
したがって、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部23A,23Bにおいて、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層23ACは、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層23BCに押し返されて、ウェルドライン24が断面くさび状に湾曲して形成される。
その結果、貫通孔3が形成されたフランジ部20に外力が作用しても、断面くさび状に湾曲して形成されたウェルドライン24の境界面で、その外力に対抗しつつ割れを低減することができる。よって、ウェルドライン24が面直に形成される従来のフランジ部の形状に比較して、大幅に強度が向上する。
【0039】
また、本実施形態によれば、薄肉部21は、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部23A,23Bの手前に形成されている。そのため、ウェルドライン24が、薄肉部21に掛かる量を低減できるので、より一層強度を向上できる。また、薄肉部21の厚みは、貫通孔3を隔てた反対側のフランジ部22の厚みの1/2倍程度であるので、ウェルドライン24が、より一層断面くさび状に湾曲して形成されやすくなる。
【0040】
また、本実施形態によれば、薄肉部21は、貫通孔3の外周縁から一方の側のフランジ部20の外周縁まで形成されているので、薄肉部21を形成する一方の側のフランジ部20を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P1を、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P2に比べて、貫通孔3の外周縁から一方の側のフランジ部20の外周縁まで、いずれの箇所においても小さくさせることができる。
そのため、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部23A,23Bにおいて、貫通孔3の外周縁から一方の側のフランジ部20の外周縁まで、全長にわたってウェルドライン24が断面くさび状に湾曲して形成される。
したがって、貫通孔3が形成されたフランジ部20に外力が作用しても、断面くさび状に湾曲して形成されたウェルドライン24の境界面の全範囲で、その外力に対抗しつつ割れを低減することができる。その結果、ウェルドライン24でより一層割れにくくすることができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、薄肉部21は、一方の側のフランジ部20の対向する上下面をそれぞれ凹ませて形成するので、薄肉部21を形成する一方の側のフランジ部20を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂のコア層23ACは、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂のコア層23BCと上下方向の略中央付近で合流させることができる。
そのため、ウェルドライン24がフランジ部20の上下方向略中央を中心に対称的な断面くさび状に湾曲して形成される。
したがって、貫通孔3が形成されたフランジ部20に外力が作用しても、フランジ部20の上下方向略中央を中心に対称的な断面くさび状に湾曲したウェルドライン24の境界面で、その外力を上下略均等に分散させて、割れをより一層低減することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る樹脂成形部品10の製造方法によれば、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の温度を、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の温度に比べて、相対的に低くするので、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の粘性抵抗が一層増大する。そのため、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P1が、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を流れる溶融樹脂の圧力P2に比べて、より一層相対的に小さくなる。
そのため、左右分岐した溶融樹脂が再び合流する合流部23A,23Bにおいて、薄肉部21を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層23ACは、貫通孔3を隔てて薄肉部21と反対側のフランジ部22を形成する金型キャビティ内を通過した溶融樹脂のコア層23BCに押し返されて、ウェルドライン24は、先端が鋭角的な断面くさび状に湾曲して形成される。
【0043】
その結果、貫通孔3が形成されたフランジ部20に外力が作用しても、先端が鋭角的に形成された断面くさび状に湾曲したウェルドライン24の境界面で、その外力をより広く分散させて、割れをより一層低減することができる。