(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
バッテリ及びエンジンの回転により発電するオルタネータを有する車載電源と、当該車載電源から電源供給されて、操舵系に運転者の操舵負担を軽減する操舵補助力を付与する電動モータと、を備える電動パワーステアリング装置であって、
予め設定されたエンジン停止条件を満足したときに前記エンジンを自動停止し、予め設定されたエンジン再始動条件を満足したときに前記エンジンを自動再始動するアイドリングストップ制御手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記アイドリングストップ制御手段によりエンジンを自動停止しているとき、エンジンの自動停止前に前記走行状態検出手段で検出した走行状態に応じて前記操舵補助制御を制限するアシスト制限手段と、を備え、
前記アシスト制限手段は、
前記アイドリングストップ制御手段によるエンジンの自動停止前に前記走行状態検出手段で検出した走行状態に応じて、前記操舵補助力の付与を許可する時間であるアシスト許容時間を設定することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
前記走行状態検出手段は、前記走行状態として、イグニッションスイッチをオン状態としてから前記アイドリングストップ制御手段によりエンジンを自動停止するまでの間の平均車速を検出し、
前記アシスト制限手段は、前記アイドリングストップ制御手段によるエンジンの自動停止前に前記走行状態検出手段で検出した平均車速が低いほど、前記アシスト制限値を小さい値に設定することを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
前記走行状態検出手段は、前記走行状態として、イグニッションスイッチをオン状態としてから前記アイドリングストップ制御手段によりエンジンを自動停止するまでの間の平均車速を検出し、
前記アシスト制限手段は、前記アイドリングストップ制御手段によるエンジンの自動停止前に前記走行状態検出手段で検出した平均車速が低いほど、前記アシスト許容時間を短く設定することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
前記アシスト制限手段により前記操舵補助制御を制限しているとき、運転者にこれを報知する報知手段を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、イグニッションON後の無走行状態では、電装システム用暗電流による電力消費があるため、走行履歴がある状態と比較してバッテリの残存電力に差がある。しかしながら、上記特許文献1に記載の技術にあっては、車両の走行状態によらずに同じように操舵アシストを制限するので、細やかな制御を行うことができない。
そこで、本発明は、車両の走行状態に応じて、より細やかな制御が可能な電動パワーステアリング装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動パワーステアリング装置の一態様は、バッテリ及びエンジンの回転により発電するオルタネータを有する車載電源と、当該車載電源から電源供給されて、操舵系に運転者の操舵負担を軽減する操舵補助力を付与する電動モータと、を備える電動パワーステアリング装置であって、予め設定されたエンジン停止条件を満足したときに前記エンジンを自動停止し、予め設定されたエンジン再始動条件を満足したときに前記エンジンを自動再始動するアイドリングストップ制御手段と、車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記アイドリングストップ制御手段によりエンジンを自動停止しているとき、エンジンの自動停止前に前記走行状態検出手段で検出した走行状態に応じて前記操舵補助制御を制限するアシスト制限手段と、を備えることを特徴としている。
【0006】
このように、アイドリングストップ制御手段によりエンジンを自動停止しているとき、エンジンの自動停止時におけるバッテリの残存電力の違いを考慮して、バッテリの電力低下を抑制するように操舵補助制御を実施することを特徴としている。
アイドリングストップ機能によりエンジンが自動停止しているときは、オルタネータの発電が停止されるため、車載電気負荷にはバッテリのみから電源供給される。上記のようにエンジン停止中に操舵補助制御を制限することで、特にアイドリングストップ車でハンドルを切った状態で渋滞停止した場合などにおいて、バッテリの過剰な電力消費を抑制することができる。したがって、エンジンスタータの作動に必要な電力を確保しておくことができ、次のエンジンの自動再始動を良好に行うことができる。
【0007】
さらに、操舵補助制御を制限する際には、アイドリングストップ状態に移行する前の走行状態に応じて、アシスト制限制御の制御態様を変更するので、実際に走行した条件の違いに伴うバッテリ残存電力の違いを考慮した適切なアシスト制限制御を行うことができる。
また、上記において、前記アシスト制限手段は、前記アイドリングストップ制御手段によるエンジンの自動停止前に前記走行状態検出手段で検出した走行状態に応じて、前記操舵補助力の上限値であるアシスト制限値、及び前記操舵補助力の付与を許可する時間であるアシスト許容時間の少なくとも一方を設定することが好ましい。
【0008】
このように、操舵補助力の上限値を制限したり、操舵アシスト時間を制限したりすることで、バッテリの電力消費を適切に抑制することができる。
さらに、上記において、前記走行状態検出手段は、前記走行状態として、イグニッションスイッチをオン状態としてから前記アイドリングストップ制御手段によりエンジンを自動停止するまでの間の平均車速を検出し、前記アシスト制限手段は、前記アイドリングストップ制御手段によるエンジンの自動停止前に前記走行状態検出手段で検出した平均車速が低いほど、前記アシスト制限値を小さい値に設定したり、前記アシスト許容時間を短く設定したりすることが好ましい。
【0009】
このように、アイドリングストップ状態に移行する前の平均車速に応じて、アシスト制限制御の制御態様を変更するので、アイドリングストップ状態に移行したときのバッテリの残存電力を考慮した適切なアシスト制限制御を行うことができる。すなわち、アイドリングストップ状態に移行する前の平均車速が低いほど、アシスト制限値を小さくしたりアシスト許容時間を短くしたりすることで、イグニッションON後の無走行状態では、走行履歴がある状態と比較してバッテリの残存電力が少ないことを考慮してアシスト制限制御を強く作動することができる。
【0010】
さらにまた、上記において、前記アシスト制限手段により前記操舵補助制御を制限しているとき、運転者にこれを報知する報知手段を備えることが好ましい。
これにより、操舵補助制御が制限されていることを運転者に認識させることができ、運転者に対して違和感を与えるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アイドリングストップ状態でアシスト制限を行うので、エンジン停止中におけるバッテリの過剰な電力消費を抑制することができ、次のエンジンの自動再始動を良好に行うことができる。また、アイドリングストップ状態に移行したときのバッテリの残存電力に応じてアシスト制限制御の制御態様を変更することができるので、より細やかな制御が可能となり、可能な限り通常のアシスト制御に近づけることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置を示す全体構成図である。
図中、符号1は、車両のステアリングホイールであり、このステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力が入力軸2aと出力軸2bとを有するステアリングシャフト2に伝達される。このステアリングシャフト2は、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は操舵トルクセンサ3を介して出力軸2bの一端に連結されている。
【0014】
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、ユニバーサルジョイント4を介して中間シャフト5に伝達され、さらに、ユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ8を介してタイロッド9に伝達され、図示しない転舵輪を転舵させる。ここで、ステアリングギヤ8は、ピニオンシャフト7に連結されたピニオン8aとこのピニオン8aに噛合するラック8bとを有するラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオン8aに伝達された回転運動をラック8bで直進運動に変換している。
【0015】
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結された減速ギヤ11と、この減速ギヤ11に連結されて操舵系に対して補助操舵力を発生する電動モータ13とを備えている。
操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を磁気信号で検出し、それを電気信号に変換するように構成されている。
【0016】
操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するためのもので、図示しないトーションバーで連結された入力軸2aと出力軸2bとの相対的な変位(回転変位)を、コイル対のインピーダンスの変化に対応させて検出するように構成されている。この操舵トルクセンサ3から出力されるトルク検出値Tはコントローラ14に入力される。
【0017】
コントローラ14には、車載電源であるバッテリ15から電源供給されることによって作動する。バッテリ15の負極は接地され、その正極はエンジン始動を行うイグニッションスイッチ16を介してコントローラ14に接続されると共に、イグニッションスイッチ16を介さず直接、コントローラ14に接続されている。
また、車載電源としては、バッテリ15の他にオルタネータ(不図示)を有する。このオルタネータは、エンジンの出力によって発電を行う。オルタネータが発電した電力は、コントローラ14に供給されたり、バッテリ15に充電されたりする。
【0018】
コントローラ14には、トルク検出値Tの他に車速センサ17で検出した車速検出値Vsが入力される。そして、これらに応じた操舵補助力を操舵系に付与する操舵補助制御(操舵アシスト)を行う。具体的には、上記操舵補助力を電動モータ13で発生するための操舵補助指令値(操舵補助トルク指令値)を公知の手順で算出し、算出した操舵補助指令値に基づいて電動モータ13の電流指令値を算出する。そして、算出した電流指令値とモータ電流検出値とにより、電動モータ13に供給する駆動電流をフィードバック制御する。
【0019】
また、コントローラ14は、車両制御用ECU18と接続されている。車両制御用ECU18は、各種センサ振動に基づいて、車両の停止状態あるいは車両の停止が予測される状態を検出したとき、エンジン停止条件が成立したとして図示しないエンジンECUに対して停止指令を出力してエンジンを自動停止し、運転者の発進操作を検出したとき、エンジン再始動条件が成立したとしてエンジンECUに対して再始動指令を出力してエンジンを自動再始動させるアイドリングストップ機能(アイドリングストップ制御手段)を実現するものである。車両制御用ECU18は、アイドリングストップ中であるか否かを示すアイドリングストップ信号Sや、エンジン回転数をコントローラ14に対して出力する。
【0020】
コントローラ14は、入力したアイドリングストップ信号Sに基づいて、車両のアイドリングストップ機能によりエンジンが自動停止していると判断した場合に、操舵補助制御を制限するアシスト制限制御を行う。このとき、車両の走行状態に応じて、操舵アシスト力の上限値を制限するためのアシスト制限値を設定してアシスト制限を行う。また、コントローラ14は、アシスト制限制御として、車両のアイドリングストップ機能によりエンジンが自動停止していると判断した場合に、車両の走行状態に応じて操舵アシストを許容する時間(アシスト許容時間[sec])を設定し、当該アシスト許容時間が経過した後、アシスト不可状態とする制御を行う。
さらに、この車両には、運転席近傍に報知手段としての警告灯19が設けられている。コントローラ14は、上記アシスト制限制御によりアシスト不可状態となっているとき、これを運転者に報知するために、警告灯19に対して点灯指示信号を出力する。
【0021】
次に、コントローラ14の具体的構成について説明する。
コントローラ14は、
図2に示すように、操舵トルクT及び車速Vsに基づいて操舵補助指令値(操舵補助トルク指令値)を演算する指令値演算部21と、操舵補助指令値を補償する指令値補償部22と、指令値補償部22で補償された操舵補助指令値に基づいて電動モータ13を駆動制御するモータ制御部23とを備えている。また、コントローラ14は、操舵トルクT、車速Vs、及びアイドリングストップ信号Sに基づいて、電動モータ13の電流指令値を制限するアシスト制限部24を備えている。
指令値演算部21は、操舵補助指令値演算部31と、位相補償部32と、加算器33と、安定化補償部34と、応答性補償部35と、加算器36と、を備える。
【0022】
操舵補助指令値演算部31は、操舵トルクT及び車速Vsをもとに、
図3に示すような操舵補助指令値算出マップを参照して、操舵補助指令値を演算する。ここで、操舵補助指令値算出マップは、横軸に操舵トルクT、縦軸に操舵補助指令値をとり、車速Vsをパラメータとした特性線図で構成されている。操舵補助指令値は、操舵トルクTの増加に対して最初は比較的緩やかに増加し、さらに操舵トルクTが増加すると、その増加に対して操舵補助指令値が急峻に増加するように設定されている。この特性曲線の傾きは、車速Vsの増加に従って小さくなるように設定されている。また、各特性曲線には、それぞれ上限値が設けられている。
【0023】
位相補償部32は、操舵補助指令値演算部31で演算した操舵補助指令値に対して位相補償を行い、位相補償後の操舵補助指令値を加算器33に出力する。ここでは、例えば、(T
1s+1)/(T
2s+1)のような伝達特性を操舵補助指令値に作用させるものとする。
加算器33は、位相補償部32が出力した位相補償後の操舵補助指令値と、後述する反力/ヒステリシス補償部41が出力したセルフアライニングトルク(SAT)とを加算し、その結果を安定化補償部34に出力する。
【0024】
安定化補償部34は、検出トルクに含まれる慣性要素とバネ要素から成る共振系の共振周波数のピーク値を除去し、制御系の安定性と応答性を阻害する共振周波数の位相のずれを補償する。例えば、sをラプラス演算子とする特性式G(s)=(s
2+a1・s+a2)/(s
2+b1・s+b2)を有する。なお、特性式G(s)のa1,a2,b1,b2は共振系の共振周波数により決定されるパラメータである。
【0025】
応答性補償部35は、操舵トルクTを入力し、応答性補償指令値を加算器36に対して出力する。この応答性補償部35では、アシスト特性不感帯での安定性確保、静摩擦の補償を行うようになっている。
加算器36は、安定化補償部34が出力した安定化補償後の操舵補助指令値と、応答性補償部35が出力した応答性補償指令値と、後述する減算器42が出力する指令補償値とを加算し、その結果を指令値演算部21の出力結果である操舵補助指令値として後述する電流指令値演算部43に出力する。
【0026】
また、指令値補償部22は、角速度演算部37と、角加速度演算部38と、摩擦・慣性補償部39と、収斂性補償部40と、反力/ヒステリシス補償部41と、減算器42と、を備える。
角速度演算部37は、回転角検出部13aで検出したモータ回転角を微分してモータ角速度ωを演算する。
【0027】
角加速度演算部38は、角速度演算部37で演算したモータ角速度ωを微分してモータ角加速度αを演算する。
摩擦・慣性補償部39は、角加速度演算部38で演算したモータ角加速度αに基づいて、電動モータ13の慣性により発生するトルク相当分を補償して慣性感又は制御応答性の悪化を防止するための慣性補償値を出力する。
【0028】
収斂性補償部40は、角速度演算部37で演算したモータ角速度ωに基づいて、ヨーレートの収斂性を補償する収斂性補償値を出力する。すなわち、収斂性補償部40は、車両のヨーの収斂性を改善するためにステアリングホイール1が振れ回る動作に対して、ブレーキをかけるように、収斂性補償値を算出する。
反力/ヒステリシス穂所部41は、操舵トルクT、車速Vs、モータ角速度ω、モータ角加速度α及び操舵補助指令値演算部31で演算した操舵補助指令値を入力し、これらに基づいてセルフアライニングトルク(SAT)を推定演算し、その結果を上記加算器33に出力する。
【0029】
減算器42は、摩擦・慣性補償部39で演算した慣性補償値から収斂性補償部40で演算した収斂性補償値を減算し、その結果を指令値補償部22の出力結果である指令補償値として上記加算器36に出力する。
また、モータ制御部23は、電流指令値演算部43と、減算器44と、電流制御部45と、モータ駆動部46と、を備える。
【0030】
電流指令値演算部43は、指令値演算部21が出力した操舵補助指令値(操舵補助トルク指令値)から電動モータ13の電流指令値を演算する。
減算器44は、電流指令値演算部43で演算した電流指令値と、モータ電流検出部13bで検出したモータ電流検出値との電流偏差を演算し、これを電流制御部45に出力する。
【0031】
電流制御部45は、上記電流偏差に対して比例積分演算を行って電圧指令値Eを出力するフィードバック制御を行う。ここで、電流制御部45には、後述するアイドリングストップ制限部48が出力するアシスト制限信号が入力され、当該アシスト制限信号に基づいて電流指令値Eを制限するアシスト制限処理を行う。このアシスト制限処理については後述する。
モータ駆動部46は、電流制御部45が出力した電圧指令値Eに基づいてデューティ演算を行い、電動モータ13の駆動指令となるデューティ比を演算する。そして、そのデューティ比に基づいて電動モータ13を駆動する。
【0032】
また、アシスト制限部24は、アイドリングストップ係数演算部47と、アイドリングストップ制限部48と、を備える。
アイドリングストップ係数演算部47は、アイドリングストップ信号Sと車速Vsとを入力し、
図4に示すアイドリングストップ係数設定処理を実行する。このアイドリングストップ係数設定処理は、イグニッションスイッチ16がON状態となったときに実行開始する。
【0033】
先ずステップS1で、アイドリングストップ係数演算部47は、アイドリングストップ信号Sを取得し、アイドリングストップ中であるか否かを判定する。そして、アイドリングストップ中でないと判定した場合にはステップS2に移行し、アイドリングストップ中であると判定した場合には、そのままアイドリングストップ係数設定処理を終了する。
ステップS2では、アイドリングストップ係数演算部47は、車両が停止中であるか、すなわち車速Vsが0であるか否かを判定する。そして、Vs=0である場合にはステップS3に移行し、Vs≠0である場合には後述するステップS5に移行する。
【0034】
ステップS3では、アイドリングストップ係数演算部47は、アイドリングストップ係数Kを“1”に設定してステップS4に移行し、設定したアイドリングストップ係数Kをメモリ等に保存してからアイドリングストップ係数設定処理を終了する。
ステップS5では、アイドリングストップ係数演算部47は、車速演算開始してステップS6に移行する。
【0035】
ステップS6では、アイドリングストップ係数演算部47は、アイドリングストップ信号Sを取得する。そして、アイドリングストップ信号SがOFF、即ちアイドリングストップ状態に移行していないと判定した場合にはそのまま車速演算を継続し、アイドリングストップ信号SがONとなってアイドリングストップ状態に移行したと判定した場合にはステップS7に移行する。
ステップS7では、アイドリングストップ係数演算部47は、車速Vsに基づいて平均車速Vaveを算出する。ここでは、平均車速Vaveとして、イグニッションONしてからアイドリングストップ状態に移行するまでの間の平均車速が算出される。
【0036】
ステップS8では、アイドリングストップ係数演算部47は、前記ステップS6で演算した平均車速Vaveが予め設定した設定車速V1(例えば、20km/h)よりも速いか否かを判定する。そして、Vave>V1であると判定した場合にはステップS9に移行し、アイドリングストップ係数Kを“2”に設定して前記ステップS4に移行する。
一方、前記ステップS8でVave≦V1であると判定した場合には、ステップS10に移行し、平均車速Vaveが予め設定した設定車速V2(例えば、40km/h)を下回っているか否かを判定する。
【0037】
そして、Vave<V2であると判定した場合にはステップS11に移行し、アイドリングストップ係数Kを“3”に設定して前記ステップS4に移行する。一方、Vave≧V2であると判定した場合にはステップS12に移行し、アイドリングストップ係数Kを“4”に設定して前記ステップS4に移行する。
また、
図2のアイドリングストップ制限部48は、アイドリングストップ信号Sと操舵トルクTとを入力し、
図5に示すアシスト制限処理を実行する。
【0038】
先ずステップS21で、アイドリングストップ制限部48は、アイドリングストップ信号Sを取得し、アイドリングストップ中であるか否かを判定する。そして、アイドリングストップ中でないと判定した場合にはステップS22に移行し、通常の操舵補助制御(通常アシスト)を実施する。すなわち、このステップS22では、電流制御部45に対して、操舵補助力の制限を行わないようにするためのアシスト制限信号を出力し、アシスト制限処理を終了する。ここで、アシスト制限信号とは、操舵補助力の制限値およびアシスト許容時間[sec]である。
【0039】
また、前記ステップS21でアイドリングストップ中であると判定した場合には、ステップS23に移行し、操舵トルクTが0であるか否かを判定する。そして、T=0である場合には、運転者が操舵操作を行っておらず、操舵補助制御の制限を行う必要がないと判断して前記ステップS22に移行し、T≠0である場合にはステップS24に移行する。
【0040】
ステップS24では、アイドリングストップ制限部48は、アイドリングストップ係数演算部47で設定したアイドリングストップ係数Kを取得し、ステップS25に移行する。
ステップS25では、アイドリングストップ制限部48は、前記ステップS24で取得したアイドリングストップ係数Kに対応するアシスト制限信号を、電流制御部45に出力する。アイドリングストップ係数Kに対応するアシスト制限信号は、
図6に示すように設定されている。
【0041】
このように、アイドリングストップ係数Kが1である場合には、操舵補助力の制限値を0.6とし、アシスト許容時間を3[sec]とする。また、アイドリングストップ係数Kが2である場合には、操舵補助力の制限値を0.7とし、アシスト許容時間を4[sec]とする。さらに、アイドリングストップ係数Kが3である場合には、操舵補助力の制限値を0.8とし、アシスト許容時間を5[sec]とする。そして、アイドリングストップ係数Kが4である場合には、操舵補助力の制限値を0.9とし、アシスト許容時間を6[sec]とする。
【0042】
そして、ステップS26では、アイドリングストップ制限部48は、前記ステップS25でアシスト制限信号を出力してから、アイドリングストップ係数Kに対応したアシスト許容時間が経過した後、警告灯19に対して点灯指示信号を出力し、アシスト制限処理を終了する。
このように、アイドリングストップ機能によりエンジンを自動停止した際、トリップ内の走行状態に応じて操舵補助制御を制限する。具体的には、上記走行状態として、イグニッションONからアイドリングストップ状態に移行するまでの間の平均車速を算出し、算出した平均車速が低くなるにつれて段階的にアシスト制限値及びアシスト許容時間を小さい値に設定する。
【0043】
電流制御部45では、アイドリングストップ制限部48が出力したアシスト制限値を、通常の操舵補助制御における電流指令値の上限値に乗算することで、電流指令値の上限値を低減する。また、電流制御部45では、アイドリングストップ状態となってからアイドリングストップ制限部48が出力したアシスト許容時間が経過すると、電流指令値を0として操舵補助制御による操舵補助力の付与を不可とする。すなわち、イグニッションONからアイドリングストップ状態に移行するまでの間の平均車速が低くなるにつれて、段階的にアシスト制限制御を強くする。
なお、
図4のステップS2及びS5〜S7が走行状態検出手段に対応し、
図4のステップS3及びS8〜S12、並びに
図5のステップS25がアシスト制限手段に対応している。また、
図5のステップS26が報知手段に対応している。
【0044】
次に、本実施形態の動作について説明する。
運転者がイグニッションスイッチ16をオン状態とすると、バッテリ15からコントローラ14に制御電力が供給され、当該コントローラ14が作動状態となる。このとき、コントローラ14は、運転者によるステアリング操作に基づいて操舵補助制御を行う。
【0045】
例えば、運転者が車両を発進させ、カーブ路を旋回走行している場合、コントローラ14は、操舵トルクT及び車速Vsに基づいて操舵補助指令値を算出し、操舵補助指令値に基づいて電動モータ13の電流指令値を算出する。次いで、算出した電流指令値とモータ電流検出値とに基づいて電圧指令値Eを算出する。そして、算出された電圧指令値Eによって電動モータ13を駆動制御すると、電動モータ13の発生トルクが減速ギヤ11を介してステアリングシャフト2の回転トルクに変換されて、運転者の操舵力がアシストされる。このようにして、運転者の操舵負担が軽減される。
【0046】
このように通常の操舵補助制御を実施している状態から、車両が渋滞停止するなどにより予め設定したエンジン停止条件が成立すると、エンジンを自動停止しアイドリングストップ状態に移行する。このとき、アイドリングストップ状態に移行する前に、車速Vsが設定車速V2(40km/h)以上で走行していたものとすると、平均車速Vaveが設定車速V2以上でありアイドリングストップ係数KはK=4に設定される。そのため、コントローラ14は、アシスト制限値を0.9に設定すると共に、アシスト許容時間を6秒に設定する。
【0047】
これにより、操舵補助力の上限値は、通常の操舵補助制御での操舵補助力の上限値と比較して若干小さい値(×0.9)となる。そして、このように操舵補助力の上限値を制限した状態で、操舵補助制御をアシスト許容時間(6秒)だけ継続した後、操舵補助制御を停止してアシスト不可状態とする。また同時に、警告灯19を点灯し、運転者にアシスト不可状態であることを報知する。
一方、運転者がイグニッションスイッチ16をオン状態とした後、無走行状態を維持し、その後アイドリングストップ状態へ移行した場合には、アイドリングストップ係数KはK=1に設定される。そのため、コントローラ14は、アシスト制限値を0.6に設定すると共に、アシスト許容時間を3秒に設定する。
【0048】
これにより、操舵補助力の上限値は、通常の操舵補助制御での操舵補助力の上限値と比較して大幅に小さい値(×0.6)となる。そして、操舵補助力の上限値を制限した状態で、操舵補助制御をアシスト許容時間(3秒)だけ継続した後、操舵補助制御を停止してアシスト不可状態とする。また同時に、警告灯19を点灯し、運転者にアシスト不可状態であることを報知する。
このように、アイドリングストップ状態に移行したとき、操舵補助制御を通常時と比較して制限するアシスト制限制御を実施する。
【0049】
エンジン停止中はオルタネータが発電していないため、エンジン停止中であるアイドリングストップ状態で電動パワーステアリング装置による操舵アシストを継続する場合、バッテリ15のみの電力供給により操舵アシストを行う必要がある。しかしながら、このエンジン停止中も、通常のエンジン作動中と同様の操舵アシストを続けた場合、バッテリ15の電力を消費して電圧が低下し、突然アシスト不能となったりエンジン再始動条件が成立てもエンジンが始動できなかったりする。
【0050】
これに対して、本実施形態では、エンジン停止条件が成立してアイドリングストップ状態となったとき、操舵補助制御を制限するので、特にアイドリングストップ車でハンドルを切った状態で渋滞停止した場合などにおける、バッテリ15の過剰な電力消費を抑制することができる。また、操舵補助制御の制限に際しては、操舵補助力の上限値を制限するようにするので、可能な限り通常のアシスト制御に近づけることが可能となる。
【0051】
ところで、昨今、車両の典型例である自動車は、イモビライザ、スマートエントリーシステム及びカーセキュリティーシステムなどのように、停車中においても電力を消費する多数の電装部品が搭載される場合が多い。エンジン停止中は、上述したようにオルタネータが発電していないため、電装システム用暗電流による電力消費は、バッテリ15によって賄われる。
そのため、イグニッションON後に無走行状態を維持した場合と、走行履歴がある場合とでは、エンジン停止時のバッテリ15の残存電力に差がある。つまり、イグニッションON後に無走行状態を維持した場合の方が、走行履歴がある場合と比較してバッテリ15の残存電力が低い。
【0052】
そこで、本実施形態では、エンジン停止条件が成立してアイドリングストップ状態となったとき、イグニッションONからアイドリングストップ状態に移行するまでの走行状態に応じて、アシスト制限制御の制御態様を変更する。
具体的には、イグニッションON後に無走行状態を維持していた場合には、走行履歴がある場合よりも操舵補助力の上限値を小さくする(操舵補助力の上限値の制限量を大きくする)。すなわち、イグニッションON後に無走行状態を維持していた場合には、アシスト制限値を小さな値として、
図7(a)に示すようにアシスト上限値を通常時と比較して大幅に小さい値に変更する。一方、イグニッションON後の走行履歴がある場合には、アシスト制限値を大きな値として、
図7(b)に示すようにアシスト上限値の制限を緩和する。
【0053】
また、このとき、イグニッションONからアイドリングストップ状態に移行するまでの走行状態としては、イグニッションONからアイドリングストップ状態に移行するまでの間の平均車速を用いる。そして、当該平均車速が低いほど、段階的にアシスト制限値を小さい値に設定する。
【0054】
また、アシスト制限制御の制御態様の変更に際し、イグニッションON後に無走行状態を維持していた場合には、走行履歴がある場合よりも操舵補助力の付与を許可する時間を短くする(早めに操舵アシスト不可状態とする)。この場合にも、イグニッションONからアイドリングストップ状態に移行するまでの間の平均車速が低いほど、段階的にアシスト許容時間を短く設定する。
このように、走行状態に応じて段階的に操舵補助制御に制限を設けるので、アイドリングストップ状態に移行したときのバッテリ残存電力に応じた細やかな制御が可能となる。
【0055】
(変形例)
なお、上記実施形態においては、走行状態としてイグニッションONからアイドリングストップ状態に移行するまでの平均車速を用いる場合について説明したが、車速情報に代えてエンジン回転数情報を用いることもできる。さらに、イグニッションONしてからの走行時間と組み合わせて走行状態を検出することもできる。
また、上記実施形態においては、アシスト制限制御として、操舵アシストの上限値の制限と操舵アシストの許容時間の設定の両方を行う場合について説明したが、何れか一方のみでもバッテリ15の消費電力を抑制することができるため、効果的である。