(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体素子の電極接合などにおいては、従来、Sn−Pb系はんだが用いられていたが、近年、環境保全の観点から、鉛フリーはんだといった新規な接合材料が求められている。また、半導体素子の接合技術においては、半導体素子への負荷を低減するために、低温での接合や無加圧での接合が可能な材料が求められている。
【0003】
銀、銅、ニッケルなどの金属ナノ粒子は、粒径が、例えば20nm以下のように、ナノメートルサイズまで小さくなると、その融点よりはるかに低い温度(焼結温度200℃以下)で焼結させることが可能となるため、半導体素子の低温接合などへの応用が期待されている。
【0004】
しかしながら、このような金属ナノ粒子は、表面が高活性であり、凝集しやすいため、通常、界面活性剤やポリマーなどで被覆して分散安定性を確保している。このため、このような金属ナノ粒子を用いて半導体素子の接合を行う際に加熱処理を施すと、金属ナノ粒子が焼結するとともに界面活性剤やポリマーなどの被膜が分解され、ガスが発生し、金属ナノ粒子間に空隙が生じる。その結果、無加圧や低温では焼結組織が密にならず、十分に高い接合強度が得られなかった。
【0005】
また、銅ナノ粒子は、低コストで耐熱性および耐マイクレーション性に優れた金属ナノ粒子であるが、一般に、酸化されやすく、表面の酸化被膜により焼結が阻害されるという問題があった。
【0006】
そこで、銅ナノ粒子の表面酸化を抑制するために、ニッケルにより被覆した銅ナノ粒子(特開2008−24969号公報(特許文献1))、中心部は銅の割合が高く、表層部がニッケル−銅合金で形成されたニッケル−銅ナノ粒子(特開2011−63828号公報(特許文献2))、銅と窒素とニッケルとを含む膜で被覆した銅ナノ粒子(特開2012−79933号公報(特許文献3))が提案されている。
【0007】
しかしながら、このようなニッケル系被膜を有する銅ナノ粒子は製造しにくく、高コストであり、さらに、このニッケル系被膜が銅ナノ粒子の焼結阻害要因となるため、無加圧や低温では十分に高い接合強度が得られなかった。
【0008】
また、特開2012−46779号公報(特許文献4)には、炭素数8以上の脂肪酸と脂肪族アミンとを含有する有機被膜を表面に備える金属ナノ粒子が開示されており、前記有機被膜が低温で熱分解されることも記載されている。
【0009】
一方、金属ナノ粒子を用いた半導体素子の実装技術においては、従来、半導体素子と基板との接合を加圧下で行なっていたが、チップの破壊による歩留まりの低下や生産工程の追加によるコストアップといった問題があり、無加圧接合による実装技術の開発が強く求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
先ず、本発明の金属ナノ粒子材料およびそれを含有する接合材料について説明する。本発明の金属ナノ粒子材料は、銅ナノ粒子と酸化ニッケルナノ粒子とを所定の割合で含有するものである。本発明の金属ナノ粒子材料、低温(例えば、400℃以下)での熱処理により焼結し、接合強度が高い接合層を形成することができる。また、本発明の金属ナノ粒子材料を用いると、熱処理時に無加圧でも、接合強度が高い接合層を形成することができる。
【0022】
(銅ナノ粒子)
本発明においては、直径が1〜1000nmの範囲にある銅粒子を「銅ナノ粒子」という。銅粒子の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察において測定することができ、本発明においては、以下に示す全銅粒子に対する銅ナノ粒子の割合および銅粒子(銅ナノ粒子を含む)の平均粒子径を、前記TEM観察において、無作為に200個の銅粒子を抽出し、これらの直径を測定することによって求められる値とする。
【0023】
本発明の金属ナノ粒子材料においては、このような銅ナノ粒子(直径が1〜1000nmの範囲にあるもの)が個数基準で全銅粒子の99%以上であることが好ましく、全ての銅粒子が前記銅ナノ粒子であることが特に好ましい。銅ナノ粒子の割合が前記下限未満になると、銅粒子の焼結温度が高くなるため、低温(例えば、400℃以下)での加熱による銅粒子同士の結合が起こりにくく、その結果、接合強度が低下する傾向にある。
【0024】
また、本発明の金属ナノ粒子材料に含まれる銅粒子(銅ナノ粒子を含む)の平均粒子径としては、10〜1000nmが好ましく、30〜500nmがより好ましく、50〜250nmが特に好ましい。銅粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、バルクに対する表面比率が大きくなるため、銅ナノ粒子の表面が大気中で酸化されやすく、その結果、金属ナノ粒子材料中で銅ナノ粒子同士の凝集が起こったり、接合時の熱処理で十分に酸化成分を除去できず、接合強度や導電性、熱伝導性などの接合材料の特性が低下する傾向にある。ただし、銅ナノ粒子を不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で取り扱えば、銅ナノ粒子表面の酸化が起こりにくく、上記の不具合が起こりにくくなるため、平均粒子径が前記下限未満の銅ナノ粒子も本発明の接合材料に使用することが可能である。また、有機被膜を備える銅ナノ粒子を使用する場合には、有機被膜の割合が銅ナノ粒子に比べて多くなるため、有機被膜が接合時の熱処理で十分に分解されずに残存し、接合強度や導電性、熱伝導性などの接合材料の特性が低下する傾向にある。他方、銅粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、粒子サイズ効果が小さいため、銅粒子の焼結温度が高くなり、低温(例えば、400℃以下)での加熱による銅粒子同士の結合が起こりにくく、その結果、接合強度が低下する傾向にある。
【0025】
このような銅ナノ粒子としては、例えば、銅ナノ粒子と、この銅ナノ粒子の表面に配置された、脂肪酸および脂肪族アミンを含有する有機被膜とを備える表面被覆銅ナノ粒子が挙げられる。前記有機被膜は低温(例えば、400℃以下)で熱分解させることができるものである。この表面被覆銅ナノ粒子は、特開2012−46779号公報に記載された方法に準じて製造することができる。すなわち、アルコール系溶媒中、脂肪酸および脂肪族アミンの共存下で、前記アルコール系溶媒に不溶な銅塩を還元せしめることによって銅ナノ粒子を形成させ、且つ、この銅ナノ粒子の表面に前記脂肪酸および脂肪族アミンを含有する有機被膜を形成させることによって前記表面被覆銅ナノ粒子を製造することができる。ここで、銅塩としては炭酸銅、水酸化銅が挙げられる。また、脂肪酸としてはオクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸が挙げられ、脂肪族アミンとしてはオクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミンなどの飽和脂肪族アミンやオレイルアミンなどの不飽和脂肪族アミンが挙げられ、脂肪酸および脂肪族アミンの炭化水素鎖の炭素数を変更することによって銅ナノ粒子の粒子径を調整することができる。
【0026】
また、本発明においては、(株)テックサイエンス製の銅ナノ粒子粉末などの市販の銅ナノ粒子を使用することもできる。さらに、溶媒中に分散された銅ナノ粒子を使用することもできる。このような銅ナノ粒子の分散液としては、(株)イオックス製「Cu60−BtTP」、立山科学工業(株)製の銅ナノ粒子分散液、大研化学工業(株)製「NCU−09」、ハリマ化成グループ(株)製の銅ナノ粒子分散液などの市販品が挙げられる。
【0027】
(酸化ニッケルナノ粒子)
本発明においては、直径が1〜1000nmの範囲にある酸化ニッケル粒子を「酸化ニッケルナノ粒子」という。酸化ニッケル粒子の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察において測定することができ、本発明においては、以下に示す全酸化ニッケル粒子に対する酸化ニッケルナノ粒子の割合および酸化ニッケル粒子(酸化ニッケルナノ粒子を含む)の平均粒子径は、前記TEM観察において、無作為に200個の酸化ニッケル粒子を抽出し、これらの直径を測定することによって求められる値とする。
【0028】
本発明の金属ナノ粒子材料においては、このような酸化ニッケルナノ粒子(直径が1〜1000nmの範囲にあるもの)が個数基準で全酸化ニッケル粒子の99%以上であることが好ましく、全ての酸化ニッケル粒子が前記酸化ニッケルナノ粒子であることが特に好ましい。酸化ニッケルナノ粒子の割合が前記下限未満になると、酸化ニッケル粒子の焼結温度が高くなるため、低温(例えば、400℃以下)での加熱による酸化ニッケル粒子同士の結合が起こりにくく、その結果、酸化ニッケル粒子を添加しても接合強度が十分に向上しない傾向にある。
【0029】
また、本発明の金属ナノ粒子材料に含まれる酸化ニッケル粒子(酸化ニッケルナノ粒子を含む)の平均粒子径としては、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。酸化ニッケル粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、粒子サイズ効果が小さいため、酸化ニッケル粒子の焼結温度が高くなり、低温(例えば、400℃以下)での加熱による酸化ニッケル粒子同士の結合が起こりにくく、その結果、酸化ニッケル粒子を添加しても接合強度が十分に向上しない傾向にある。なお、酸化ニッケル粒子の平均粒子径の下限については、酸化ニッケル粒子の表面が大気中で酸化されにくく、物性低下が起こりにくいことから、特に制限はないが、通常1nm以上である。
【0030】
本発明に用いられる酸化ニッケルナノ粒子としては、NiOナノ粒子が主成分(例えば、90質量%以上、より好ましくは95質量%以上)であるものが好ましい。NiOナノ粒子が主成分である酸化ニッケルナノ粒子を用いると、加熱による銅ナノ粒子表面の酸化物層の還元が起こりやすく、接合強度が高い接合層を形成することが可能となる。このような酸化ニッケルナノ粒子は、A.Zabet−Khosousiら、Chem.Rev.、2008年、第108巻、4072〜4124頁;C.Burdaら、Chem.Rev.2005年、第105巻、1025〜1102頁;S.C.Halimら、Material Matters、2009年、第4巻、第1号、4〜9頁に記載された方法に準じて製造することができる。また、シグマ−アルドリッチ社製の酸化ニッケル(II)ナノ粒子、イオリテック社製の酸化ニッケル(II)ナノ粒子、(株)イオックス製酸化ニッケルナノ粒子などの市販の酸化ニッケルナノ粒子を使用してもよい。さらに、ニッケルナノ粒子を酸化したものを使用することも可能である。なお、本発明においては、酸化ニッケルナノ粒子の表面の少なくとも一部が水酸化ニッケルになっていてもよい。また、酸化ニッケルナノ粒子の分散性を高めるために、表面が有機被膜で覆われた酸化ニッケルナノ粒子を使用してもよいが、酸化ニッケルナノ粒子は酸化による物性低下が起こりにくいため、必ずしも、表面が有機被膜で覆われた酸化ニッケルナノ粒子を使用する必要はない。
【0031】
(金属ナノ粒子材料)
本発明の金属ナノ粒子材料は、このような銅ナノ粒子と酸化ニッケルナノ粒子とを所定の割合で含有するものである。本発明の金属ナノ粒子材料における銅ナノ粒子と酸化ニッケルナノ粒子の割合は、全金属ナノ粒子に対して、銅ナノ粒子が99.995〜97質量%であり且つ酸化ニッケルナノ粒子が0.005〜3質量%である。酸化ニッケルナノ粒子の含有量が前記下限未満になる(すなわち、銅ナノ粒子の含有量が前記上限を超える)と、酸化ニッケルナノ粒子の添加効果が十分に得られず、銅ナノ粒子の表面が大気中で酸化されやすく、その結果、金属ナノ粒子材料中で銅ナノ粒子同士の凝集が起こったり、接合時の熱処理で十分に酸化成分を除去できず、接合強度が低下する。他方、酸化ニッケルナノ粒子の含有量が前記上限を超える(すなわち、銅ナノ粒子の含有量が前記下限未満になる)と、本発明の金属ナノ粒子材料の焼結密度が高くなりすぎ、接合時に接合層内部で応力によるクラックといった接合層破壊が発生する。また、接合強度がより高くなるという観点から、銅ナノ粒子の含有量が99.95〜99質量%であり且つ酸化ニッケルナノ粒子の含有量が0.05〜1質量%であることが好ましく、銅ナノ粒子の含有量が99.9〜99質量%であり且つ酸化ニッケルナノ粒子の含有量が0.1〜1質量%であることがより好ましい。なお、銅ナノ粒子と酸化ニッケルナノ粒子の割合において、これらの合計量は全金属ナノ粒子に対して100質量%である。
【0032】
また、本発明の金属ナノ粒子材料においては、金属ナノ粒子(直径が1〜1000nmの範囲にあるもの、銅ナノ粒子+酸化ニッケルナノ粒子)が個数基準で全金属粒子(銅粒子+酸化ニッケル粒子)の99%以上であることが好ましく、全ての金属粒子が前記金属ナノ粒子であることが特に好ましい。金属ナノ粒子の割合が前記下限未満になると、金属粒子の焼結温度が高くなるため、低温(例えば、400℃以下)での加熱による金属粒子同士の結合が起こりにくく、その結果、接合強度が低下する傾向にある。
【0033】
このような本発明の金属ナノ粒子材料は、例えば、銅ナノ粒子と酸化ニッケルナノ粒子とが所定の割合となるように、両者を混合し、得られた混合ナノ粒子を有機溶媒などの溶剤と混合したり、銅ナノ粒子と酸化ニッケルナノ粒子とが所定の割合となるように、銅ナノ粒子分散液と酸化ニッケルナノ粒子分散液とを混合したりすることによって製造することができる。また、本発明の金属ナノ粒子材料はペースト状やインク状であることが好ましく、これらを調製する場合、ペースト状やインク状となるように、前記混合ナノ粒子と溶剤とを混合してもよいし、ペースト状やインク状の銅ナノ粒子および酸化ニッケルナノ粒子を調製し、これらを混合してもよいし、前記混合ナノ粒子の分散液を調製した後、ペースト状やインク状になるまでエバポレータなどを用いて濃縮してもよい。
【0034】
銅ナノ粒子分散液および酸化ニッケルナノ粒子分散液は、銅ナノ粒子および酸化ニッケルナノ粒子をそれぞれ有機溶媒などの溶剤に分散させて調製してもよいし、前述したような市販の銅ナノ粒子分散液や酸化ニッケルナノ粒子分散液を使用してもよい。
【0035】
本発明の金属ナノ粒子材料に用いられる有機溶媒としては特に制限はないが、例えば、テトラデカン、ヘキサデカン、ドデカン、デカンなどのアルカン類;1−ブタノール、デカノール、オクタノール、ヘキサノール、イソプロピルアルコールなどのモノアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのジオール類;グリセリンなどのトリオール類;α−テルピネオール、シクロヘキサノールなどの環状アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ブチルカルビトールなどのエーテル類;酢酸エチル、ブチルカルビトールアセテートなどのエステル類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物などが挙げられる。また、本発明の金属ナノ粒子材料には、必要に応じて、セルロース誘導体(例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)やグリセリド(例えば、ヒマシ油)といった粘度調整剤、界面活性剤などの添加剤を添加してもよい。
【0036】
ナノ粒子と溶剤との混合方法としては特に制限はないが、例えば、自転・公転ミキサー、ボールミル、スターラーなどの公知の撹拌装置を用いる方法が挙げられる。
【0037】
<半導体装置>
次に、本発明の半導体装置について説明する。本発明の半導体装置は、半導体素子、基板、および前記半導体素子と前記基板とを接合する接合層を備えており、前記接合層が本発明の金属ナノ粒子材料を含有する接合材料(以下、「本発明の接合材料」という)により形成された銅と酸化ニッケルとの混合物層である。また、本発明の半導体装置においては、前記混合物層の両面に、ニッケル、コバルトおよび銀のうちの少なくとも1種の金属からなる密着層を更に備えていることが好ましい。この場合、一方の密着層は前記半導体素子の接合部に接するように配置され、他方の密着層は前記基板の接合部に接するように配置されている。
【0038】
本発明の半導体装置を構成する半導体素子としては特に制限はなく、例えば、パワー素子、LSI、抵抗、コンデンサなどが挙げられる。また、基板としては特に制限はなく、例えば、リードフレーム、電極が形成されたセラミック基板、実装基板などが挙げられる。リードフレームとしては、例えば、銅合金リードフレームが挙げられる。また、電極が形成されたセラミックス基板としては、例えば、DBC(Direct Bond Copper:登録商標)基板、活性金属接合(AMC:Active Metal Copper)基板が挙げられる。また、実装基板としては、例えば、電極が形成されたアルミナ基板、低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co−fired Ceramics)基板、ガラスエポキシ基板などが挙げられる。
【0039】
以下、図面を参照しながら本発明の半導体装置の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明の半導体装置は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
図1は、本発明の半導体装置の一実施形態を示す模式図である。この半導体装置は、半導体素子1、上部基板2a、下部基板2b、接合層3aおよび3b、信号端子5、ボンディングワイヤ6、ならびにモールド樹脂7を備えるものである。半導体素子1の上表面には、接合層3aを介して上部基板2aが接合されている。半導体素子1の下表面には、接合層3bを介して下部基板2bが接合されている。また、半導体素子1の上表面の一部と信号素子5とは、ボンディングワイヤ6によって電気的に接続されている。半導体素子1、上部基板2aの一部、下部基板2bの一部、接合層3aおよび3b、信号端子5の一部、ならびにボンディングワイヤ6は、モールド樹脂7に覆われている。また、上部基板2aの突出部2c、下部基板2bの突出部2d、および信号端子5の一部は、モールド樹脂7の外部に突出している。
【0041】
このような半導体装置は、以下のようにして製造することができる。すなわち、先ず、半導体素子1の上表面および上部基板2aの下表面のいずれか一方に本発明の接合材料を塗布して接合材料層を形成する。また、半導体素子1の下表面および下部基板2bの上表面のいずれか一方に本発明の接合材料を塗布し接合材料層を形成する。これらの接合材料層の厚さとしては特に制限はないが、生産性や接合抵抗を考慮すると、1〜500μmが好ましく、50〜400μmがより好ましく、100〜300μmが特に好ましい。接合材料の塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディップ法、フレキソ印刷法などが挙げられる。また、このような塗布は、大気中もしくは不活性ガス雰囲気中で行うことができる。
【0042】
次に、半導体素子1の上表面と上部基板2aの下表面との間に接合材料層が配置されるように、半導体素子1と上部基板2aとを貼り合わせ、また、半導体素子1の下表面と下部基板2bの上表面との間に接合材料層が配置されるように、半導体素子1と下部基板2bとを貼り合わせる。このとき、接合材料層に気泡が入り込まないように、加圧してもよい。また、貼り合わせは真空中で行なってもよいが、本発明の接合材料は大気中での銅ナノ粒子の酸化が抑制されているため、大気中で貼り合わせを行うことができる。
【0043】
このようにして半導体素子1と上部基板2aおよび半導体素子1と下部基板2bとを貼り合わせた接合体に加熱処理を施して接合材料を焼結させ、接合層3aおよび3bを形成する。これにより、半導体素子1と上部基板2aとが接合層3aを介して接合され、半導体素子1と下部基板2bとが接合層3bを介して接合される。本発明の接合材料により形成された前記接合層3aおよび3bは、銅と酸化ニッケルとの混合物層であり、銅−ニッケル合金が形成されにくいため、接合強度に優れている。
【0044】
加熱処理の温度としては特に制限はないが、150〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。加熱処理温度が前記下限未満になると、接合材料に含まれていた溶剤や有機被膜成分が接合層3aおよび3b中に残存しやすく、十分な接合強度が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、半導体素子の耐熱温度を超える場合があり、熱応力が増大し、反りや剥離が発生しやすい傾向にある。
【0045】
また、このような加熱処理は、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。さらに、本発明の接合材料を用いると、無加圧で接合することができるが、加圧しながら接合することによって接合強度が向上する傾向にある。
【0046】
また、本発明の半導体装置においては、
図2に示すように、半導体素子1と接合層3aとの間、上部基板2aと接合層3aとの間、半導体素子1と接合層3bとの間、下部基板2bと接合層3aとの間に、ニッケル、コバルトおよび銀のうちの少なくとも1種の金属からなる密着層4aおよび4bが配置されていることが好ましい。このような密着層を形成することによって、接合強度がさらに向上する傾向にある。
【0047】
このような密着層の厚さについては、1nm以上であれば高い接合強度が得られるため特に制限はないが、半導体装置の生産コストや密着層の電気抵抗などを考慮すると10μm以下が好ましい。また、生産コストをより低減するという観点から200nm以下がより好ましい。
【0048】
このような半導体装置は、以下のようにして製造することができる。すなわち、先ず、半導体素子1の両面、上部基板2aの下表面、および下部基板2bの上表面に前記密着層を形成する。密着層の形成方法としては、スパッタ法、メッキ法、塗布法などが挙げられる。
【0049】
スパッタ法により密着層を形成する場合には、先ず、半導体素子や基板などの被塗布物を真空チャンバーに挿入し、チャンバー内を減圧する。チャンバー内が真空状態になった後、アルゴンガスを導入し、被塗布物側にRFプラズマを生成して被塗布物表面の不純物の除去を行う。その後、形成する密着層の材料(例えば、ニッケル、コバルトまたは銀)のターゲットを用いてRFスパッタ法を行う。これにより、被塗布物表面に密着層を形成することができる。密着層を形成する際の被塗布物の温度としては特に制限はないが、例えば、室温(25℃程度)〜450℃が好ましい。被塗布物の温度が前記上限を超えると、半導体素子の耐熱温度を超える場合があり、熱応力が増大し、反りや剥離が発生しやすい傾向にある。
【0050】
また、塗布法により密着層を形成する場合には、先ず、半導体素子や基板などの被塗布物に、大気中もしくは不活性ガス雰囲気中でメタルマスク法、インクジェット法、スピンコート法、ディップ法、スクリーン印刷法などの手法によって、形成する密着層の材料(例えば、ニッケル、コバルトまたは銀)を含むペーストまたはインクを塗布する。ペーストやインクとしては、金属粒子と溶剤などを混合して調製したものを使用してもよいし、金属粒子を含む市販のペーストを使用してもよい。ニッケル粒子を含む市販のペーストとしては、例えば、立山科学工業(株)製のニッケルナノ粒子分散液、大研化学工業(株)製「MM12−800TO」などが挙げられる。コバルト粒子を含む市販のペーストとしては、例えば、立山科学工業(株)製のコバルトナノ粒子分散液などが挙げられる。銀粒子を含む市販のペーストとしては、例えば、住友電気工業(株)製「AGIN−W4A」、ハリマ化成(株)製「NPS−J−HTB」などが挙げられる。このようにペーストを塗布した被塗布物を不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気中で加熱処理することにより前記密着層が形成される。なお、不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気中での加熱処理の前に酸化雰囲気中で加熱処理を行なってもよい。加熱処理における雰囲気温度としては特に制限はないが、150〜450℃が好ましい。雰囲気温度が前記下限未満になると、ペースト中の有機成分(例えば、有機溶媒、有機修飾剤)の揮発除去が不十分となり、密着層中の有機成分の含有量が多くなる傾向にある。他方、前記上限を超えると、半導体素子の耐熱温度を超える場合があり、熱応力が増大し、反りや剥離が発生しやすい傾向にある。
【0051】
次に、このようにして形成した密着層の表面に、
図1に示した半導体装置の場合と同様に、本発明の接合材料を用いて接合材料層を形成し、半導体素子1と上部基板2a、半導体素子1と下部基板2bとを貼り合わせ、得られた接合体に加熱処理を施して接合材料を焼結させ、接合層3aおよび3bを形成する。これにより、半導体素子1と上部基板2aとが接合層3aおよび密着層4aおよび4bを介して接合され、半導体素子1と下部基板2bとが接合層3bおよび密着層4aおよび4bを介して接合される。このようにニッケル、コバルトおよび銀のうちの少なくとも1種の金属からなる密着層を形成することによって、接合強度がさらに向上する傾向にある。
【0052】
なお、前記密着層を形成することによって、接合強度がさらに向上する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、ニッケルなどの金属表面に形成されている不働態の酸化物層は薄く、容易に還元されるとともに、ニッケルなどの金属層には銅ナノ粒子表面の酸化物層を還元する作用もある。また、ニッケルなどの金属層は焼結時の銅ナノ粒子との濡れ性が非常に大きいため、無加圧でも高い接合強度を有する密着層を形成することができる、と推察される。
【0053】
以上、半導体素子を上部電極と下部電極とで挟持する場合(
図1および
図2)を例に本発明の半導体装置を説明したが、本発明の半導体装置はこれらに限定されるものではなく、例えば、
図3および
図4に示すように、半導体素子の一方の面のみを接合層を介して基板と接合した半導体装置などが挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例で使用した銅ナノ粒子は以下の方法により調製した。
【0055】
(調製例1)
<銅ナノ粒子の調製>
銅ナノ粒子は、特開2012−46779号公報に記載の方法に従って調製した。すなわち、フラスコにエチレングリコール(HO(CH
2)
2OH)600mlを入れ、これに炭酸銅(CuCO
3・Cu(OH)
2・H
2O)120mmolを添加したところ、炭酸銅はエチレングリコールにほとんど溶解せずに沈殿した。これに、デカン酸(C
9H
19COOH)180mmolおよびデシルアミン(C
10H
21NH
2)60mmolを添加した後、窒素ガスを0.5L/minで流しながら、エチレングリコールの沸点で1時間加熱還流させたところ、微粒子が生成した。得られた微粒子をヘキサン中に分散させて回収し、アセトンおよびエタノールを順次添加して洗浄した後、遠心分離(3000rpm、20min)により回収し、真空乾燥(35℃、30min)を施した。
【0056】
得られた微粒子について、X線回折装置(ブルカー社製「全自動多目的X線回折装置D8 ADVANCE」)を用い、X線源:CuKα線(λ=0.15418nm)、加速電圧:35kV、加速電流:40mAの条件で粉末X線回折(XRD)測定を行なった。得られたXRDスペクトルから金属成分を同定し、銅が主成分であることを確認した。
【0057】
また、得られた銅微粒子をトルエンに分散させ、この分散液をエラスチックカーボン支持膜(高分子材料膜(15〜20nm厚)+カーボン膜(20〜25nm厚))付きCuマイクログリッド(応研商事(株)製)上に滴下した後、自然乾燥させて観察用試料を作製した。この観察用試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子(株)製「JEM−2000EX」)を用いて加速電圧200kVで観察した。このTEM観察において、無作為に200個の銅微粒子を抽出し、その直径を測定したところ、直径1〜1000nmの範囲にある銅ナノ粒子は全銅微粒子の100%(個数基準)であった。また、これらの平均粒子径は200nmであった。
【0058】
(実施例1)
調製例1で調製した銅ナノ粒子と酸化ニッケルナノ粒子(シグマアルドリッチジャパン合同会社製「酸化ニッケル(II)(NiO)ナノ粒子」)、平均粒子径:<50nm、直径1〜1000nmの範囲にあるナノ粒子の含有率:100%(個数基準))とを乳鉢ですりつぶして混合し、全金属ナノ粒子に対して99.995質量%の銅ナノ粒子と0.005質量%の酸化ニッケルナノ粒子を含有する混合粉末を調製した。この混合粉末10gにデカノール500μlおよびテルピネオール500μlを添加し、自転・公転ミキサーにより撹拌して接合材料ペーストを調製した。
【0059】
<接合強度測定>
リードフレームや半導体素子などにより構成される半導体装置において、接合層の接合強度を直接測定することは困難である。従って、得られた接合材料により形成される接合層の接合強度は、
図5に示すせん断強度測定用接合体を用いて、以下の方法により測定した。
【0060】
先ず、無酸素銅(C1020)からなる試験片8a(直径5mmφ×高さ2mm)の一方の面および無酸素銅(C1020)からなる試験片8b(10mm×22mm×3mm)の一方の面にそれぞれRFスパッタリング法により厚さ40nmのNi密着層10aおよび10bを形成した。
【0061】
次に、試験片8b上のNi密着層10bの表面に、メタルマスク(直径5mmφ×厚さ0.15mm)を用いてスクリーン印刷法により接合材料ペーストを塗布し、接合材料層(直径5mmφ×厚さ150μm)を形成した。この接合材料層と試験片8a上のNi密着層10aとが接するように試験片8aと試験片8bとを貼り合わせ、水素雰囲気中、無加圧の条件下、200℃で10分間予備加熱した後、接合温度350℃で5分間の加熱処理を施し、試験片8aと試験片8bが接合層9により接合された、せん断強度測定用接合体(
図5)を作製した。
【0062】
このようにして3個のせん断強度測定用接合体を作製し、これらのせん断強度を、インストロン型万能試験機(インストロン社製)を用いて、20℃、剪断速度1mm/分でそれぞれ測定し、これらの平均値を接合材料により形成された接合層の接合強度とした。その結果を表1および
図6に示す。
【0063】
(実施例2〜8)
銅ナノ粒子および酸化ニッケルナノ粒子の含有量を表1に示す割合に変更した以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製し、さらに、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表1および
図6に示す。
【0064】
(実施例9)
実施例7と同様にして接合材料ペースト(酸化ニッケルナノ粒子含有量:1質量%)を調製し、これに、平均粒子径が1.2μmの銅粉を前記接合材料ペースト中の全ナノ粒子:銅粉=31:69の質量比で添加し、全銅粒子に対する直径1〜1000nmの範囲にある銅ナノ粒子の割合が99.0%(個数基準)の接合材料ペースト(酸化ニッケルナノ粒子含有量:0.31質量%)を調製した。この接合材料ペーストを用いた以外は実施例1と同様にしてせん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0065】
(比較例1)
酸化ニッケルナノ粒子を混合しなかった以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製し、さらに、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表1および
図6に示す。
【0066】
(比較例2〜3)
銅ナノ粒子および酸化ニッケルナノ粒子の含有量を表1に示す割合に変更した以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製し、さらに、せん断強度測定用接合体を作製して接合層の接合強度を求めた。その結果を表1および
図6に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1および
図6に示した結果から明らかなように、全金属ナノ粒子に対して99.995〜97質量%の銅ナノ粒子と0.005〜3質量%の酸化ニッケルナノ粒子を含有する接合材料により形成された接合層(実施例1〜9)の接合強度は、酸化ニッケルナノ粒子を含まない接合材料により形成された接合層(比較例1)および酸化ニッケルナノ粒子の含有量が3質量%を超える接合材料により形成された接合層(比較例2〜3)の接合強度に比べて、高くなることが確認された。