【実施例】
【0014】
(実施例)
上記熱電子発電素子の実施例について、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1に示すように、熱電子発電素子1は、熱電子を発生させるエミッタ2と、エミッタ2に対面して間隙dを介して配置され、熱電子を収集するコレクタ3とを有している。エミッタ2は、内部21に水素を含有するダイヤモンド半導体よりなるとともに、ダイヤモンド半導体の表面22が水素終端されている。
【0015】
本例におけるエミッタ2は、水素濃度が1×10
21cm
−3のn型ダイヤモンド半導体よりなり、ドナーとして1×10
20cm
−3の窒素が添加されている。また、本例のエミッタ2は、モリブデンを基板23として用い、マイクロ波プラズマCVD法により基板23上に成膜されている(
図1参照)。なお、後述するように、基板23は、外部負荷4をエミッタ2と電気的に接続するための電極を兼ねている。
【0016】
エミッタ2の成膜におけるマイクロ波プラズマCVD法の成膜条件は、以下の通りである。
・水素ガス流量:300sccm
・CH
4ガス流量:3sccm
・N
2ガス流量:10sccm
・プラズマ出力:750W
・基板温度:800℃
・成膜時圧力:25Torr
【0017】
また、基板23上にエミッタ2を成膜した後、その表面22に水素プラズマ処理を施し、表面22を水素化させる処理を行った。更に、水素プラズマ処理に続けて、エミッタ2を水素雰囲気中に置くことにより表面22を水素終端させる処理を行った。
【0018】
コレクタ3を構成する材料は特に限定されないが、本例においては、内部31に水素を含有するn型ダイヤモンド半導体よりなり、ドナーとして1×10
19cm
−3の窒素が添加されているコレクタ3を用いている。また、本例のコレクタ3は、モリブデンを基板33として、マイクロ波プラズマCVD法により基板33上に成膜されている。なお、後述するように、基板33は、エミッタ2の基板23と同様に、外部負荷4をコレクタ3と電気的に接続するための電極を兼ねている。
【0019】
エミッタ2とコレクタ3との間の間隙dの大きさは特に限定されることはないが、本例においては、間隙dが20〜30μm程度となるようにエミッタ2及びコレクタ3を配置している。また、エミッタ2とコレクタ3との間の空間は、1×10
−5Pa以下に減圧された状態となっている。
【0020】
次に、熱電子発電素子1の動作について説明する。熱電子発電素子1は、
図1に示すように、エミッタ2の基板23とコレクタ3の基板33とを外部負荷4を介して接続し、この状態でエミッタ2を加熱することにより外部負荷4に電流を流すことができるよう構成されている。以下、加熱によりエミッタ2とコレクタ3との間に起電力を生じさせるメカニズムについて詳説する。
【0021】
図2に、表面22が水素終端されているエミッタ2のエネルギーバンドの一例を示す。
図2の縦方向の位置はエネルギー準位に対応しており、上方にある準位ほど高いエネルギー準位にあることを示している。また、表面22に対応する縦線200に対して左側にはエミッタ2の内部21のエネルギーバンドを示し、縦線200に対して右側には、真空準位201の位置を示している。
【0022】
図2に示すように、エミッタ2のエネルギーバンドは、真空準位201が伝導帯の下端202よりも低いエネルギー準位にある、負の電子親和力(NEA、矢印207参照)を有する状態となっている。そのため、エミッタ2を加熱することにより、価電子帯203やドナー準位204等から伝導帯に熱励起(矢印208参照)された電子205は、追加のエネルギーを必要とすることなく真空準位201へ遷移する(矢印209参照)。これは、熱電子がエミッタ2の表面22から外部空間へ放出されたことに対応する。
【0023】
エミッタ2の表面22から外部空間へ放出された電子205は、エミッタ2とコレクタ3との間の間隙dを通過してコレクタ3に収集される。そして、
図1に示すように、コレクタ3に収集された電子205は、コレクタ3の基板33から外部回路へ流れ出し(矢印101参照)、外部負荷4を通過してエミッタ2に還流する(矢印102参照)。
【0024】
次に、本例の作用効果について説明する。熱電子発電素子1のエミッタ2を構成するダイヤモンド半導体は、表面22が水素終端されているとともに、内部21の水素濃度が1×10
20cm
−3以上である。そのため、熱電子発電素子1は、上述したように、発電効率が高く、耐久性に優れたものとなる。
【0025】
また、エミッタ2は、窒素をドナーとして含有するn型ダイヤモンド半導体から構成されている。n型ダイヤモンド半導体のフェルミ準位206(
図2参照)は、真性ダイヤモンド半導体のフェルミ準位と比べて伝導帯により近いエネルギー準位にある。そのため、真性ダイヤモンド半導体やp型ダイヤモンド半導体と比べて伝導帯への熱励起がより起こりやすい。その結果、熱電子発電素子1は、エミッタ2から発生する熱電子電流を大きくしやすく、発電効率により優れたものとなりやすい。
【0026】
また、コレクタ3は、窒素をドナーとして含有するn型ダイヤモンド半導体から構成されている。これにより、p型ダイヤモンド半導体や真性ダイヤモンド半導体を用いる場合と比べて、エミッタ2の温度がより低い状態で発電を行うことが可能となる。
【0027】
また、本例のコレクタ3は、エミッタ2と比べてドナーの濃度が1/10以下である。そのため、コレクタ3において熱励起される電子の数が、エミッタ2よりも十分に少なくなる。これにより、コレクタ3からエミッタ2へ向けて放出される熱電子の数が、エミッタ2からコレクタ3へ向けて放出される熱電子の数よりも十分に少なくなる。すなわち、熱電子発電素子1は、コレクタ3からエミッタ2へ熱電子が移動する、いわゆるバックエミッションを抑制でき、発電効率をより高くすることができる。
【0028】
このように、熱電子発電素子1は、発電効率が高く、耐久性に優れたものとなる。
【0029】
なお、本例においては、エミッタ2の基板23とコレクタ3の基板33との双方にモリブデンを用いた例を示したが、これ以外の材質からなる基板を用いることも可能である。基板に採用可能な材質の例としては、シリコン半導体やダイヤモンド半導体等が挙げられる。また、半導体を基板として用いる場合には、不純物を含まない真性半導体を用いてもよく、p型半導体あるいはn型半導体を用いてもよい。エミッタ2の基板23とコレクタ3の基板33とは、同一の材質であってもよく、互いに異なる材質であってもよい。
【0030】
また、本例においては、コレクタ3をn型ダイヤモンド半導体から構成した例を示したが、エミッタ2から放出される熱電子を収集可能な材質であれば、これ以外の材質を用いることも可能である。コレクタ3の材質としては、例えば、種々の金属や真性半導体、p型半導体あるいはn型半導体を用いることができ、エミッタ2のフェルミ準位206の位置やドーパント濃度等に応じて適宜選択することができる。
【0031】
(実験例)
本例は、実施例におけるエミッタ2の水素濃度を変更して作製した各試料の耐久性を評価した例である。本例の試料(試料No.1〜No.5)は、実施例におけるエミッタ2の作製方法に準じて作製した。試料の作製方法の一例として、試料No.1及びNo.5の作製方法を示す。なお、試料No.2〜No.4については、下記の方法に準じて作製した。
【0032】
・試料No.1
モリブデンを基板23として用い、CH
4、H
2及びN
2の混合ガスを原料としてマイクロ波プラズマCVD法によりn型ダイヤモンド半導体からなるエミッタ2を成膜した。この時の混合ガスの流量比は、CH
4/H
2=0.01、N
2/CH
4=1〜10とした。また、成膜時の基板温度は800〜1000℃とし、圧力は20〜50Torrとした。
【0033】
モリブデン上にエミッタ2を成膜した後、成膜装置から取り出すことなくH
2プラズマ処理を施し、表面22の水素化を行った。この時の基板温度は600℃とし、圧力は20〜50Torrとした。H
2プラズマ処理の終了後、圧力50Torr以上のH
2ガス雰囲気下に試料を置いた状態で100℃以下まで冷却して表面22を水素終端させた後、装置から試料を取り出した。これにより得られた試料No.1におけるエミッタ2の内部21の水素濃度は1×10
21cm
−3であった。
【0034】
・試料No.5
マイクロ波プラズマCVD法に用いる原料の流量比をCH
4/H
2=0.005とした以外は、試料No.1と同一の作製条件及び作製手順により試料No.5を得た。これにより得られた試料No.5におけるエミッタ2の内部21の水素濃度は5×10
19cm
−3であった。
【0035】
以上により得られた試料を700℃で加熱し、加熱開始から10分が経過した時点における熱電子電流の大きさを測定した。
図3及び表1にその結果を示す。なお、試料の加熱及び熱電子電流の測定は、圧力1×10
−5Torrの減圧環境下において行った。また、
図3の縦軸には加熱開始から10分が経過した時点における熱電子電流の大きさを示し、横軸には各試料におけるエミッタ2の内部21の水素濃度を示した。
【0036】
【表1】
【0037】
図3及び表1より知られるように、水素濃度が1×10
20cm
−3以上である試料No.1〜No.4は、700℃で10分間加熱を行った後も、十分大きな熱電子電流が流れた。
【0038】
一方、試料No.5は、少なくとも700℃で10分間の加熱を行った後は、ほとんど熱電子電流が流れなかった。これは、700℃10分間の加熱が極めて過酷な試験条件だったためと考えられる。すなわち、試験条件をより低温にした場合において、水素を含有させないで作製した試料と試料No.5とを比較する際には、水素を含有しないものに比べて試料No.5の方が高い耐久性を示すものと考えられる。