特許第6032143号(P6032143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032143
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】回転機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   H02P27/06
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-146992(P2013-146992)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-19553(P2015-19553A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2015年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】西端 幸一
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−102455(JP,A)
【文献】 特開2010−200541(JP,A)
【文献】 特開2009−213336(JP,A)
【文献】 特開2010−154735(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0134053(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0029982(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機(10)に電気的に接続された電力変換器(20)を備えるシステムに適用され、
前記回転機の制御量の指令値に基づき、前記制御量を前記指令値に制御すべく、前記回転機の2相回転座標系における前記電力変換器の出力電圧ベクトルの振幅を算出する振幅算出手段(30c,30d;30r〜30x)と、
前記指令値に基づき、前記制御量を前記指令値に制御すべく、前記出力電圧ベクトルの位相を算出する位相算出手段(30i,30j;30r〜30x)と、
前記振幅算出手段によって算出された前記出力電圧ベクトルの振幅を前記電力変換器の入力電圧で規格化した値である変調率を算出する変調率算出手段(30e)と、
前記回転機の電気角速度の取り得る範囲のうち、規定角速度未満の範囲を第1の範囲と定義し、前記規定角速度以上の範囲を第2の範囲と定義する場合において、前記第1の範囲における最大変調率を、前記第2の範囲における前記最大変調率よりも小さく設定し、また、前記電力変換器に入力される直流電圧が高いほど、前記最大変調率による前記変調率の制限を大きくするように前記最大変調率を設定する最大変調率設定手段(30k)と、
前記電気角速度及び前記直流電圧に基づき、前記変調率算出手段によって算出された前記変調率を前記電気角速度及び前記直流電圧と関係付けられた前記最大変調率で制限する制限処理を行う制限手段(30f)と、
前記制限手段によって制限された前記変調率、及び前記位相算出手段によって算出された前記出力電圧ベクトルの位相に基づき、前記電力変換器を構成するスイッチング素子(S¥#)のオンオフ操作用の操作信号であって、前記回転機を制御するための前記操作信号を生成する生成手段(30g;30y)と、
前記回転機を制御すべく、前記生成手段によって生成された前記操作信号に基づき、前記スイッチング素子をオンオフ操作する操作手段(Dr¥#)と、
備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記直流電圧が高いほど、前記最大変調率による前記変調率の制限を大きくするように前記最大変調率を設定することとは、前記直流電圧が高いほど、前記規定角速度を高く設定することであることを特徴とする請求項記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記最大変調率設定手段(30l)は、さらに、前記回転機に流れる電流と正の相関を有するパラメータ又は前記指令値のいずれかである設定パラメータの値が大きいほど、前記最大変調率による前記変調率の制限を大きくするように前記最大変調率を設定し、
前記制限手段(30l)は、前記制限処理として、前記電気角速度、前記直流電圧及び前記設定パラメータの値に基づき、前記変調率算出手段によって算出された前記変調率を前記電気角速度、前記直流電圧及び前記設定パラメータの値と関係付けられた前記最大変調率で制限する処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
回転機(10)に電気的に接続された電力変換器(20)を備えるシステムに適用され、
前記回転機の制御量の指令値に基づき、前記制御量を前記指令値に制御すべく、前記回転機の2相回転座標系における前記電力変換器の出力電圧ベクトルの振幅を算出する振幅算出手段(30c,30d;30r〜30x)と、
前記指令値に基づき、前記制御量を前記指令値に制御すべく、前記出力電圧ベクトルの位相を算出する位相算出手段(30i,30j;30r〜30x)と、
前記振幅算出手段によって算出された前記出力電圧ベクトルの振幅を前記電力変換器の入力電圧で規格化した値である変調率を算出する変調率算出手段(30e)と、
前記回転機の電気角速度の取り得る範囲のうち、規定角速度未満の範囲を第1の範囲と定義し、前記規定角速度以上の範囲を第2の範囲と定義する場合において、前記第1の範囲における最大変調率を、前記第2の範囲における前記最大変調率よりも小さく設定し、また、前記回転機に流れる電流と正の相関を有するパラメータ又は前記指令値のいずれかである設定パラメータの値が大きいほど、前記最大変調率による前記変調率の制限を大きくするように前記最大変調率を設定する最大変調率設定手段(30l)と、
前記電気角速度及び前記設定パラメータの値に基づき、前記変調率算出手段によって算出された前記変調率を前記電気角速度及び前記設定パラメータの値と関係付けられた前記最大変調率で制限する制限処理を行う制限手段(30l)と、
前記制限手段によって制限された前記変調率、及び前記位相算出手段によって算出された前記出力電圧ベクトルの位相に基づき、前記電力変換器を構成するスイッチング素子(S¥#)のオンオフ操作用の操作信号であって、前記回転機を制御するための前記操作信号を生成する生成手段(30g;30y)と、
前記回転機を制御すべく、前記生成手段によって生成された前記操作信号に基づき、前記スイッチング素子をオンオフ操作する操作手段(Dr¥#)と、
を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項5】
前記設定パラメータの値が大きいほど、前記最大変調率による前記変調率の制限を大きくするように前記最大変調率を設定することとは、前記設定パラメータの値が大きいほど、前記規定角速度を高く設定することであることを特徴とする請求項3又は4記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
回転機(10)に電気的に接続された電力変換器(20)を備えるシステムに適用され、
前記回転機の制御量の指令値に基づき、前記制御量を前記指令値に制御すべく、前記回転機の2相回転座標系における前記電力変換器の出力電圧ベクトルの振幅を算出する振幅算出手段(30c,30d)と、
前記指令値に基づき、前記制御量を前記指令値に制御すべく、前記出力電圧ベクトルの位相を算出する位相算出手段(30i,30j)と、
前記振幅算出手段によって算出された前記出力電圧ベクトルの振幅を前記電力変換器の入力電圧で規格化した値である変調率を算出する変調率算出手段(30e)と、
前記回転機に流れる高調波電流を検出する高調波電流検出手段(30p)と、
前記回転機に流れる高調波電流の取り得る範囲のうち、規定電流を超える範囲を第1の範囲と定義し、前記規定電流以下の範囲を第2の範囲と定義する場合において、前記第1の範囲における最大変調率を、前記第2の範囲における前記最大変調率よりも小さく設定する最大変調率設定手段(30q)と、
記高調波電流検出手段によって検出された高調波電流に基づき、前記変調率算出手段によって算出された前記変調率を前記高調波電流と関係付けられた前記最大変調率で制限する制限処理を行う制限手段(30q)と
記制限手段によって制限された前記変調率、及び前記位相算出手段によって算出された前記出力電圧ベクトルの位相に基づき、前記電力変換器を構成するスイッチング素子(S¥#)のオンオフ操作用の操作信号であって、前記回転機を制御するための前記操作信号を生成する生成手段(30g;30y)と、
前記回転機を制御すべく、前記生成手段によって生成された前記操作信号に基づき、前記スイッチング素子をオンオフ操作する操作手段(Dr¥#)と、
を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項7】
回転機(10)に電気的に接続された電力変換器(20)を備えるシステムに適用され、
前記回転機の制御量の指令値に基づき、前記制御量を前記指令値に制御すべく、前記回転機の2相回転座標系における前記電力変換器の出力電圧ベクトルの振幅を算出する振幅算出手段(30c,30d)と、
前記指令値に基づき、前記制御量を前記指令値に制御すべく、前記出力電圧ベクトルの位相を算出する位相算出手段(30i,30j)と、
前記振幅算出手段によって算出された前記出力電圧ベクトルの振幅を前記電力変換器の入力電圧で規格化した値である変調率を算出する変調率算出手段(30e)と、
前記電力変換器を構成するスイッチング素子(S¥#)のオンオフ操作用の操作信号であって、前記回転機を制御するための前記操作信号の波形が、前記電力変換器から出力される高調波電圧に関する情報及び前記変調率と関係付けられて予め記憶された記憶手段(32)と、
前記回転機の電気角速度が低いほど、最大高調波電圧を低く設定する電圧設定手段と、
記記憶手段に記憶された前記操作信号の波形のうち、前記操作信号の波形と関係付けられた前記高調波電圧が、前記電気角速度に基づき設定された前記最大高調波電圧以下となる波形を抽出する制限処理を行う制限手段(30y)と
前記制限処理によって抽出された波形のうち、前記変調率算出手段によって算出された前記変調率に最も近い波形に基づき、前記操作信号を生成する生成手段(30y)と、
前記回転機を制御すべく、前記生成手段によって生成された前記操作信号に基づき、前記スイッチング素子をオンオフ操作する操作手段(Dr¥#)と、
を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項8】
前記回転機に流れる電流に基づき、前記回転機のトルクを推定するトルク推定手段(30h)を更に備え、
前記制御量は、前記トルク推定手段によって推定されたトルクであり、
前記位相算出手段(30i,30j)は、前記制御量を前記指令値にフィードバック制御するための操作量として前記出力電圧ベクトルの位相を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項9】
前記制御量は、前記回転機に流れる2相回転座標系の電流であり、
前記振幅算出手段(30r〜30x)は、前記制御量を前記指令値にフィードバック制御するための操作量として前記出力電圧ベクトルの振幅を算出し、
前記位相算出手段(30r〜30x)は、前記制御量を前記指令値にフィードバック制御するための操作量として前記出力電圧ベクトルの位相を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項10】
前記制限手段は、前記電力変換器の出力電圧に含まれる基本波成分が、前記電力変換器の出力電圧を正弦波とする場合に前記電力変換器の出力電圧に含まれる基本波成分よりも大きくなる過変調領域において、前記制限処理を行うことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機に電気的に接続された電力変換器を構成するスイッチング素子のオンオフ操作用の操作信号であって、前記回転機を制御するための前記操作信号を生成する生成手段と、前記回転機を制御すべく、前記生成手段によって生成された前記操作信号に基づき、前記スイッチング素子をオンオフ操作する操作手段と、を備える回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、下記特許文献1に見られるように、回転機(交流電動機)を制御すべく、回転機に矩形波電圧を印加する矩形波制御を行うものが知られている。この制御によれば、電圧利用率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−78495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記矩形波制御や、過変調制御では、電圧利用率を向上させることができるものの、回転機に高調波電圧が印加されることとなる。高調波電圧の印加によって回転機に流れる高調波電流が大きくなる場合には、回転機の制御性が大きく低下する懸念がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転機の制御性を向上させることのできる回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、発明は、回転機(10)に電気的に接続された電力変換器(20)を構成するスイッチング素子(S¥#)のオンオフ操作用の操作信号であって、前記回転機を制御するための前記操作信号を生成する生成手段(30g;30y)と、前記回転機を制御すべく、前記生成手段によって生成された前記操作信号に基づき、前記スイッチング素子をオンオフ操作する操作手段(Dr¥#)と、前記回転機の電気角速度又は前記回転機に流れる高調波電流に基づき、前記電力変換器から出力される高調波電圧を所定値以下とするように、前記操作信号の生成に制限を課す制限処理を行う制限手段(30f;30k;30l;30n;30q;30y)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
回転機の電気角速度(回転機の回転速度)が低い領域においては、回転機に印加される高調波電圧に対する回転機のインピーダンス(以下、高調波インピーダンス)が小さくなる。このため、高調波電圧の印加によって回転機に流れる高調波電流が大きくなる。その結果、回転機の制御性が大きく低下する懸念がある。
【0008】
ここで、上記発明では、制限手段を備えた。詳しくは、電気角速度が低い領域においては、高調波インピーダンスが小さくなる。このため、電気角速度によれば、高調波インピーダンスが小さくなって高調波電流が大きくなる状況を把握できる。一方、高調波電流によれば、回転機に流れる高調波電流を直接的に把握できる。このように、制限手段において用いられる電気角速度及び高調波電流は、高調波電流が大きくなる状況を把握可能なパラメータである。このため、上記電気角速度及び高調波電流は、回転機に印加される高調波電圧を所定値以下とするような操作信号を生成するためのパラメータとなる。したがって、制限手段を備える上記発明によれば、回転機に流れる高調波電流を低減させることができる。これにより、回転機の制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態にかかるモータ制御システムの全体構成図。
図2】同実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図。
図3】第2の実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図。
図4】第3の実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図。
図5】第4の実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図。
図6】第5の実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図。
図7】第6の実施形態にかかる電流フィードバック制御のブロック図。
図8】第7の実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図。
図9】同実施形態にかかるパルスパターン選択処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる回転機の制御装置を車載主機として回転機を備える車両に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示すように、モータ制御システムは、モータジェネレータ10、インバータ20及び制御装置30を備えている。モータジェネレータ10は、車載主機であり、図示しない駆動輪に連結されている。本実施形態では、モータジェネレータ10として、埋め込み磁石同期機(IPMSM)を用いている。
【0012】
モータジェネレータ10は、「電力変換器」としてのインバータ20を介して「直流電源」としての高電圧バッテリ22に接続されている。高電圧バッテリ22の出力電圧は、例えば百V以上である。なお、高電圧バッテリ22及びインバータ20の間には、インバータ20の入力電圧を平滑化する平滑コンデンサ24が設けられている。
【0013】
インバータ20は、高電位側(上アーム側)のスイッチング素子S¥p(¥=U,V,W)及び低電位側(下アーム側)のスイッチング素子S¥nの直列接続体を備えている。詳しくは、インバータ20は、3組のスイッチング素子S¥p,S¥nの直列接続体を備え、スイッチング素子S¥p,S¥nの接続点は、モータジェネレータ10の¥相に接続されている。ちなみに、本実施形態では、上記スイッチング素子S¥#(#=p,n)として、電圧制御形のスイッチング素子を用い、より具体的には、IGBTを用いている。そして、スイッチング素子S¥#には、フリーホイールダイオードD¥#が逆並列に接続されている。
【0014】
モータ制御システムは、さらに、モータジェネレータ10のV相に流れる電流を検出するV相電流センサ40V、モータジェネレータ10のW相に流れる電流を検出するW相電流センサ40W、インバータ20の入力電圧(高電圧バッテリ22から出力される直流電圧)を検出する電圧センサ42、及びモータジェネレータ10の回転角(電気角θ)を検出する回転角センサ44(例えばレゾルバ)を備えている。
【0015】
制御装置30は、マイコンを主体として構成され、モータジェネレータ10の制御量(本実施形態ではトルク)をその指令値(以下、指令トルクTrq*)にフィードバック制御すべく、インバータ20を操作する。詳しくは、制御装置30は、インバータ20を構成するスイッチング素子S¥#をオンオフ操作すべく、上記各種センサの検出値に基づき、操作信号g¥#を生成し、生成された操作信号g¥#を駆動回路Dr¥#(ゲート駆動回路)に対して出力する。ここで、上アーム側の操作信号g¥pと、対応する下アーム側の操作信号g¥nとは、互いに相補的な信号となっている。すなわち、上アーム側のスイッチング素子S¥pと、対応する下アーム側のスイッチング素子S¥nとは、交互にオン状態とされる。
【0016】
なお、本実施形態において、駆動回路Dr¥#が、モータジェネレータ10を制御すべく、操作信号g¥#に基づきスイッチング素子S¥#をオンオフ操作する「操作手段」を構成する。また、指令トルクTrq*は、制御装置30よりも上位の制御装置から入力される。
【0017】
続いて、図2を用いて、制御装置30によって実行されるモータジェネレータ10のトルクフィードバック制御について説明する。
【0018】
2相変換部30aは、V相電流センサ40Vによって検出されたV相電流iv、W相電流センサ40Wによって検出されたW相電流iw、及び回転角センサ44によって検出された電気角θに基づき、3相固定座標系におけるU相電流iu,V相電流iv,W相電流iwを2相回転座標系(dq座標系)における電流であるd軸電流idr及びq軸電流iqrに変換する。なお、U相電流iuは、キルヒホッフの法則に基づき、V相電流iv及びW相電流iwから算出すればよい。
【0019】
速度算出部30bは、回転角センサ44によって検出された電気角θに基づき、電気角速度ωを算出する。
【0020】
指令電圧算出部30cは、指令トルクTrq*を入力として、規格化電圧振幅「Vn/ω」を算出する。ここで、規格化電圧振幅「Vn/ω」とは、2相回転座標系におけるインバータ20の出力電圧ベクトルの振幅指令値(以下、電圧振幅Vn)を電気角速度ωで除算した値のことである。なお、インバータ20の出力電圧ベクトルの振幅Vは、上記出力電圧ベクトルのd軸成分vdの2乗値及びq軸成分の2乗値の和の平方根として定義される。また、電圧振幅Vnは、例えば、指令トルクTrq*及び電圧振幅Vnが関係付けられたマップを用いて算出すればよい。
【0021】
速度乗算部30dは、規格化電圧振幅「Vn/ω」に電気角速度ωを乗算することで、電圧振幅Vnを算出する。なお、本実施形態において、速度乗算部30d及び指令電圧算出部30cが「振幅算出手段」を構成する。
【0022】
変調率算出部30eは、電圧センサ42によって検出された入力電圧VINVで電圧振幅Vnを規格化した値である変調率Mを算出する。詳しくは、入力電圧VINVの「1/2」で電圧振幅Vnを除算することで変調率Mを算出する。変調率算出部30eによって算出された変調率Mは、変調率制限部30fを介して操作信号生成部30gに入力される。なお、本実施形態において、変調率算出部30eが「変調率算出手段」を構成する。
【0023】
トルク推定器30hは、2相変換部30aから出力されたd軸電流idr及びq軸電流iqrに基づき、モータジェネレータ10の推定トルクTeを算出する。ここで、推定トルクTeは、d軸電流idr及びq軸電流iqrと推定トルクTeとの関係を記憶したマップを用いて算出してもよいし、モデル式を用いて算出してもよい。なお、本実施形態において、トルク推定器30hが「トルク推定手段」を構成する。
【0024】
トルク偏差算出部30iは、指令トルクTrq*から推定トルクTeを減算することでトルク偏差ΔTを算出する。
【0025】
位相算出部30jは、トルク偏差ΔTに基づき、推定トルクTeを指令トルクTrq*にフィードバック制御するための操作量として電圧位相δを算出する。詳しくは、トルク偏差ΔTを入力とする比例積分制御によって電圧位相δを算出する。なお、本実施形態において、トルク偏差算出部30i及び位相算出部30jが「位相算出手段」を構成する。
【0026】
操作信号生成部30gは、位相算出部30jから出力された電圧位相δと、変調率制限部30fから出力された変調率Mとに基づき、操作信号g¥#を生成して駆動回路Dr¥#に出力する。
【0027】
詳しくは、操作信号生成部30gは、変調率M毎に、電気角θ1周期における操作信号の波形(パルスパターン)をマップデータとして記憶している。操作信号生成部30gは、入力された変調率Mに該当するパルスパターンを選択する。ここで、パルスパターンは、制御装置30の備えるROM等のメモリ32(「記憶手段」に相当)に予め記憶されている。
【0028】
パルスパターンが選択されると、操作信号生成部30gは、パルスパターンの出力タイミングを位相算出部30jから出力された電圧位相δに基づき設定することで、操作信号g¥#を生成する。なお、本実施形態において、操作信号生成部30gが「生成手段」を構成する。
【0029】
ここで、本実施形態では、変調率Mが第1の規定値Ma(1.15)以下となる場合、インバータ20の出力電圧(具体的には、線間電圧)を電気角速度ωの正弦波とする正弦波制御が行われる。一方、変調率Mが第1の規定値Maを超える過変調領域の場合、過変調制御が行われる。過変調領域においてインバータ20出力電圧に含まれる基本波成分の振幅又は実効値は、インバータ20の出力電圧を正弦波とする場合にインバータ20の出力電圧に含まれる基本波成分の振幅又は実効値よりも大きくなる。特に本実施形態では、変調率Mが第1の規定値Maよりも高い第2の規定値Mb(1.27)となる場合、矩形波制御(1パルス制御)が行われる。矩形波制御が行われる場合、パルスパターンとして、電気角θ1周期において高電位側のスイッチング素子S¥pをオン状態とする期間と低電位側のスイッチング素子S¥nをオン状態する期間とが1回ずつとされるパルスパターン(1パルス波形)が選択される。
【0030】
なお、本実施形態では、正弦波制御及び過変調制御の境界である第1の規定値Maを「1.15」に設定した。この設定は、例えば3次高調波を重畳する手法により、正弦波制御を行うことのできる領域を拡大するためになされたものである。
【0031】
続いて、本実施形態にかかる特徴的構成である変調率制限部30fについて説明する。
【0032】
変調率制限部30fは、モータジェネレータ10に高調波電流が流れることにより、モータジェネレータ10のトルク制御性が低下することを回避するために設けられる。本実施形態において、変調率制限部30fが「最大変調率設定手段」及び「制限手段」を構成する。以下、トルク制御性が低下するメカニズムについて説明した後、変調率制限部30fについて説明する。
【0033】
まず、トルク制御性が低下するメカニズムについて説明する。
【0034】
変調率Mが第1の規定値Ma以下となって正弦波制御が行われる場合、インバータ20の出力電圧を正弦波とすることができるため、インバータ20の出力電圧に含まれる高調波成分(以下、高調波電圧)は無視し得る。これに対し、変調率Mが第1の規定値Maを超える過変調領域となる場合には、インバータ20の出力電圧を正弦波とすることができない。このため、インバータ20からモータジェネレータ10へと印加される高調波電圧が高くなる。ここで、3相固定座標系における高調波電圧は、3の倍数を除く奇数成分(5,7,11,13,…)が主な成分である。上記高調波電圧の各次数成分は、次数が低くなるほど振幅が大きくなる傾向があり、また、パルスパターンが同じ場合に入力電圧VINVが大きくなるほど高調波電圧振幅が大きくなる。
【0035】
モータジェネレータ10に印加される高調波電圧が高くなると、モータジェネレータ10に流れる高調波電流が大きくなる。特に、電気角速度ωが低くなる領域においては、高調波電圧に対するモータジェネレータ10のインピーダンス(以下、高調波インピーダンス)が低下し、モータジェネレータ10に流れる高調波電流の増大が顕著となり得る。
【0036】
電気角速度ωが低くなる領域において高調波インピーダンスが低下するのは、以下の理由による。詳しくは、3相固定座標系における5次,7次,11次,13次の高調波電圧を例にして説明すると、3相固定座標系における5次,7次の高調波電圧は、2相回転座標系において6次の高調波電圧に変換される。また、3相固定座標系における11次,13次の高調波電圧は、2相回転座標系において12次の高調波電圧に変換される。ここで、2相回転座標系において特に大きい6次の高調波電圧を例にすると、6次の高調波電圧についての電圧方程式は下式(eq1)で表される。
【数1】
ここで、上式(eq1)において、6次の高調波電圧についてのd軸インダクタンス,q軸インダクタンス,d軸電流,q軸電流,永久磁石の電機子鎖交磁束を「Ld6」,「Lq6」,「id6」,「iq6」,「φ6」で示した。また、上式(eq1)では、モータジェネレータ10の電機子巻線抵抗を無視し、モータジェネレータ10の回転速度が一定となる定常状態を想定している。
【0037】
上式(eq1)において、右辺第1項の「−6ωLq6」,「6ωLd6」は、6次の高調波電圧についての高調波インピーダンスを示す。これらインピーダンスは、電気角速度ωが低くなるほど小さくなる。
【0038】
電気角速度ωの低くなることで高調波インピーダンスが小さくなると、モータジェネレータ10に流れる高調波電流が大きくなる。高調波電流が大きくなると、モータジェネレータ10のトルクリプルが発生したり、トルク制御の安定性が悪化したりする等、モータジェネレータ10のトルク制御性が低下する懸念がある。
【0039】
こうした問題に対処すべく、本実施形態では、制御装置30に上記変調率制限部30fを備えた。以下、変調率制限部30fについて説明する。
【0040】
変調率制限部30fは、変調率算出部30eによって算出された変調率Mが最大変調率Mlimitを超える場合、上記変調率Mを最大変調率Mlimitで制限して出力する。本実施形態では、モータジェネレータ10が使用される場合に想定される電気角速度ωの取り得る範囲を、最小角速度ωminから最大角速度ωmaxまでの範囲とする。そして、電気角速度ωの取り得る範囲「ωmin〜ωmax」のうち、規定角速度ωth未満の範囲「ωmin〜ωth」を第1の範囲と定義し、規定角速度ωth以上の範囲「ωth〜ωmax」を第2の範囲と定義する。そして、第2の範囲「ωth〜ωmax」における最大変調率Mlimitを第2の規定値Mbに設定し、第1の範囲「ωmin〜ωth」における最大変調率Mlimitを、第2の範囲「ωth〜ωmax」における最大変調率Mlimitよりも小さく設定する。これは、電気角速度ωが低い領域である第1の範囲において、高調波電流を低減させるための設定である。つまり、第1の範囲における高調波インピーダンスは、第2の範囲における高調波インピーダンスよりも小さい。このため、第1の範囲において高調波電流を低減させるためには、第1の範囲において電圧振幅Vnを制限することが要求される。この要求を実現するために、上述した態様で最大変調率Mlimitを設定する。
【0041】
特に本実施形態では、第1の範囲「ωmin〜ωth」において、電気角速度ωが低くなるほど、最大変調率Mlimitを低く設定する。これは、電気角速度ωが低くなるほど、高調波インピーダンスが低くなることに鑑みた設定である。なお、本実施形態では、最小角速度ωminに対応する最大変調率Mlimitを第1の規定値Maに設定する。
【0042】
変調率制限部30fは、電気角速度ωに基づき、変調率算出部30eによって算出された変調率Mを電気角速度ωと関係付けられた最大変調率Mlimitで制限することで、操作信号g¥#の生成に制限を課す。すなわち、電気角速度ωが規定角速度ωth以上である場合、過変調制御が制約されない。これに対し、電気角速度ωが規定角速度ωth未満である場合、変調率算出部30eによって算出された変調率Mが低下させられて過変調制御が制約されることとなる。
【0043】
なお、最大変調率Mlimitは、例えば、電気角速度ω及び最大変調率Mlimitが関係付けられたマップを用いて算出すればよい。
【0044】
変調率制限部30fから出力された変調率Mは、操作信号生成部30gに入力される。電気角速度ωが規定角速度ωth未満となる場合、操作信号生成部30gは、変調率制限部30fによって制限された変調率M、及び位相算出部30jによって算出された電圧位相δに基づき、操作信号g¥#を生成する。
【0045】
ちなみに、本実施形態では、上述した手法で生成された操作信号g¥#に基づきインバータ20を操作することで、インバータ20から出力される高調波電圧を所定値以下とすることができる。上記所定値は、トルク制御性を良好に維持できる高調波電圧の最大値として定められる。詳しくは、上記所定値は、第1の範囲「ωmin〜ωth」において電気角速度ωが低いほど低くなる。これは、電気角速度ωが低いほど高調波インピーダンスが小さくなることから、電気角速度ωが低い領域において高調波電圧を制限する必要があるためである。
【0046】
このように、本実施形態では、第1の範囲「ωmin〜ωth」における最大変調率Mlimitを、第2の範囲「ωth〜ωmax」における最大変調率Mlimitよりも低く設定した。そして、電気角速度ωに基づき、変調率算出部30eによって算出された変調率Mを電気角速度ωと関係付けられた最大変調率Mlimitで制限する処理を行った。これにより、電気角速度ωが低い領域において高調波電流を低減させることができ、ひいてはモータジェネレータ10のトルク制御性を好適に向上させることができる。
【0047】
特に、本実施形態では、第1の範囲「ωmin〜ωth」において、電気角速度ωが低くなるほど最大変調率Mlimitを低く設定した。電気角速度ωが低くなるほど高調波インピーダンスが小さくなることから、こうした設定がトルク制御性を向上させることに大きく寄与している。
【0048】
さらに、本実施形態では、変調率Mを最大変調率Mlimitで制限する簡易な手法によって高調波電流を低減させることができるため、演算負荷を低減させることもできる。
【0049】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0050】
本実施形態では、電気角速度ωに加えて、入力電圧VINVに基づき最大変調率Mlimitを設定する。
【0051】
図3に、本実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図を示す。なお、図3において、先の図2に示した処理等と同一の処理等については、便宜上、同一の符号を付している。
【0052】
図示されるように、変調率制限部30kには、電気角速度ωに加えて、入力電圧VINVが入力される。変調率制限部30kは、入力電圧VINVが高いほど、規定角速度ωthを高く設定する。すなわち、入力電圧VINVが高いほど、最大変調率Mlimitを制限する電気角速度ωの範囲を高速側に拡大する。これは、入力電圧VINVが高くなるほど、モータジェネレータ10に印加される高調波電圧が高くなり、高調波電流が大きくなることに基づく設定である。
【0053】
特に本実施形態では、最大変調率Mlimitの最小値を第1の規定値Maにするとの条件と、電気角速度ωの単位変化量あたりの最大変調率Mlimitの変化量(最大変調率Mlimitの傾き)を固定するとの条件とを課す。ここで、図3には、入力電圧VINVが高くなるほど(V1<V2<V3)、規定角速度ωthが高く設定される(ω1<ω2<ω3)ことを示した。詳しくは、図中、規定角速度ωthが第1の角速度ω1となる場合における最大変調率Mlimitを実線にて示し、規定角速度ωthが第2の角速度ω2となる場合における最大変調率Mlimitを一点鎖線にて示した。また、規定角速度ωthが第3の角速度ω3となる場合における最大変調率Mlimitを二点鎖線にて示した。
【0054】
なお、最大変調率Mlimitは、例えば、電気角速度ω及び入力電圧VINVと最大変調率Mlimitとが関係付けられたマップを用いて算出すればよい。
【0055】
以上説明した本実施形態によれば、上記第1の実施形態で得られる効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0056】
変調率制限部30fにおいて、入力電圧VINVが高いほど、規定角速度ωthを高く設定した。このため、高調波電流が大きくなる状況を的確に把握して高調波電流を低減させることができる。これにより、モータジェネレータ10のトルク制御性をより好適に向上させることができる。
【0057】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0058】
本実施形態では、電気角速度ω及び入力電圧VINVに加えて、指令トルクTrq*(「設定パラメータ」に相当)に基づき最大変調率Mlimitを設定する。
【0059】
図4に、本実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図を示す。なお、図4において、先の図3に示した処理等と同一の処理等については、便宜上、同一の符号を付している。
【0060】
図示されるように、変調率制限部30lには、電気角速度ω及び入力電圧VINVに加えて、指令トルクTrq*が入力される。変調率制限部30lは、指令トルクTrq*が大きいほど、規定角速度ωthを高く設定する。すなわち、指令トルクTrq*が大きいほど、最大変調率Mlimitを制限する電気角速度ωの範囲を高速側に拡大する。これは、指令トルクTrq*が大きいほど、高調波電流が大きくなることに基づく設定である。つまり、指令トルクTrq*が大きいほど、モータジェネレータ10に流れる電流が大きくなる。電流が大きくなると、磁束飽和等によってインダクタンスが減少する特性を持っており、高調波成分についても同様にd,q軸インダクタンス(上式(eq1)参照)が小さくなる。これにより、高調波インピーダンスが小さくなり、高調波電流が大きくなる。ここで、図4には、入力電圧VINVに加えて、指令トルクTrq*が大きくなるほど(T1<T2<T3)、規定角速度ωthが高くなる(ω1<ω2<ω3)ことを示した。
【0061】
なお、最大変調率Mlimitは、例えば、電気角速度ω、入力電圧VINV及び指令トルクTrq*と最大変調率Mlimitとが関係付けられたマップを用いて算出すればよい。
【0062】
以上説明した本実施形態によれば、上記第2の実施形態で得られる効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0063】
変調率制限部30fにおいて、指令トルクTrq*が大きいほど、規定角速度ωthを高く設定した。このため、高調波電流が大きくなる状況を的確に把握して高調波電流を低減させることができる。これにより、モータジェネレータ10のトルク制御性をよりいっそう好適に向上させることができる。
【0064】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0065】
本実施形態では、最大変調率Mlimitの設定に用いるパラメータとして、指令トルクTrq*に代えて、電流ベクトルの振幅Inを用いる。なお、本実施形態において、電流ベクトルの振幅Inが、モータジェネレータ10に流れる電流と正の相関を有するパラメータ(設定パラメータ)に相当する。
【0066】
図5に、本実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図を示す。なお、図5において、先の図4に示した処理等と同一の処理等については、便宜上、同一の符号を付している。
【0067】
図示されるように、電流振幅算出部30mは、d軸電流idr及びq軸電流iqrに基づき、電流ベクトルの振幅Inを算出する。ここで、電流ベクトルの振幅Inは、d軸電流idrの2乗値及びq軸電流iqrの2乗値の和の平方根として定義される。
【0068】
変調率制限部30nには、電気角速度ω及び入力電圧VINVに加えて、電流ベクトルの振幅Inが入力される。変調率制限部30lは、電流ベクトルの振幅Inが大きいほど、規定角速度ωthを高く設定する。すなわち、電流ベクトルの振幅Inが大きいほど、最大変調率Mlimitを制限する電気角速度ωの範囲を高速側に拡大する。ここで、図5には、入力電圧VINVに加えて、電流ベクトルの振幅Inが大きくなるほど(I1<I2<I3)、規定角速度ωthが高くなる(ω1<ω2<ω3)ことを示した。
【0069】
なお、最大変調率Mlimitは、例えば、電気角速度ω、入力電圧VINV及び電流ベクトルの振幅Inと最大変調率Mlimitとが関係付けられたマップを用いて算出すればよい。
【0070】
以上説明した本実施形態によれば、上記第2の実施形態で得られる効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0071】
変調率制限部30nにおいて、電流ベクトルの振幅Inが大きいほど、規定角速度ωthを高く設定した。このため、高調波電流が大きくなる状況を的確に把握して高調波電流を低減させることができる。これにより、モータジェネレータ10のトルク制御性をよりいっそう好適に向上させることができる。
【0072】
さらに、本実施形態では、最大変調率Mlimitの設定に、モータジェネレータ10に流れる電流検出値としての電流ベクトルの振幅Inを用いた。このため、高調波電流が増大する状況であるか否かをより的確に把握することができ、最大変調率Mlimitの設定精度を高めることもできる。これにより、トルク制御性の向上効果をより大きくすることができる。
【0073】
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0074】
本実施形態では、高調波電流を直接検出し、高調波電流の検出値に基づき最大変調率Mlimitを設定する。
【0075】
図6に、本実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図を示す。なお、図6において、先の図2に示した処理等と同一の処理等については、便宜上、同一の符号を付している。
【0076】
図示されるように、高調波電流検出部30pは、V相電流ivのFFT解析によって特定次数の高調波電流を抽出する。本実施形態では、V相電流ivに含まれる5次の高調波電流を抽出する。高調波電流検出部30pは、抽出された5次の高調波電流の実効値又は振幅(以下、高調波電流検出値Ia)を変調率制限部30qに対して出力する。なお、本実施形態において、高調波電流検出部30pが「高調波電流検出手段」を構成する。また、本実施形態では、V相電流ivを用いたが、これに限らず、W相電流iwを用いてもよい。
【0077】
変調率制限部30qは、高調波電流検出値Iaに基づき、最大変調率Mlimitを設定する。詳しくは、モータジェネレータ10が使用される場合に想定される高調波電流検出値Iaの取り得る範囲を、最小電流値Iminから最大電流値Imaxまでの範囲とする。そして、高調波電流検出値Iaの取り得る範囲「Imin〜Imax」のうち、第1の規定電流Ith1を超える範囲「Ith1〜Imax」を第1の範囲と定義し、第1の規定電流Ith1以下の範囲「Imin〜Ith1」を第2の範囲と定義する。そして、第2の範囲「Imin〜Ith1」における最大変調率Mlimitを第2の規定値Mbに設定し、第1の範囲「Ith1〜Imax」における最大変調率Mlimitを、第2の範囲「Imin〜Ith1」における最大変調率Mlimitよりも小さく設定する。
【0078】
特に本実施形態では、第1の範囲「Ith1〜Imax」のうち、第1の規定電流Ith1から第2の規定電流Ith2(Ith1<Ith2<Imax)までの範囲において、高調波電流検出値Iaが大きくなるほど、最大変調率Mlimitを低く設定する。また、第1の範囲「Ith1〜Imax」のうち第2の規定電流Ith2以上となる範囲において、最大変調率Mlimitを第1の規定値Maに設定する。すなわち、高調波電流検出値Iaが第2の規定電流Ith2以上となる場合に過変調制御を禁止する。
【0079】
変調率制限部30qは、高調波電流検出値Iaに基づき、変調率算出部30eによって算出された変調率Mを高調波電流検出値Iaと関係付けられた最大変調率Mlimitで制限する。すなわち、高調波電流検出値Iaが第1の規定電流Ith1以下である場合、過変調制御が制約されない。これに対し、高調波電流検出値Iaが第1の規定電流Ith1を上回る場合には、変調率算出部30eによって算出された変調率Mが低下させられて過変調制御が制約されることとなる。
【0080】
なお、最大変調率Mlimitは、例えば、高調波電流検出値Ia及び最大変調率Mlimitが関係付けられたマップを用いて算出すればよい。
【0081】
このように、本実施形態では、第1の範囲「Ith1〜Imax」における最大変調率Mlimitを、第2の範囲「Imin〜Ith1」における最大変調率Mlimitよりも小さく設定した。そして、高調波電流検出値Iaに基づき、変調率算出部30eによって算出された変調率Mを高調波電流検出値Iaと関係付けられた最大変調率Mlimitで制限した。これにより、高調波電流が大きくなることを回避でき、ひいてはモータジェネレータ10のトルク制御性を好適に向上させることができる。
【0082】
(第6の実施形態)
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0083】
本実施形態では、トルクを直接の制御量とするトルクフィードバック制御に代えて、電流を直接の制御量とする電流フィードバック制御を行う。詳しくは、指令トルクTrq*を実現するための指令電流とモータジェネレータ10に流れる電流とが一致するように、スイッチング素子S¥#をオンオフ操作する。すなわち、本実施形態では、モータジェネレータ10のトルクが最終的な制御量となるものであるが、トルクを制御すべく、モータジェネレータ10に流れる電流を直接の制御量として、これを指令電流に制御する。
【0084】
図7に、本実施形態にかかる電流フィードバック制御のブロック図を示す。なお、図7において、先の図2に示した処理等と同一の処理等については、便宜上、同一の符号を付している。
【0085】
図示されるように、最大電圧算出部30rは、入力電圧VINVの「1/2」に第2の規定値Mbを乗算することで最大電圧Vmaxを算出する。ここで、最大電圧Vmaxとは、現在の入力電圧VINVにおいて電圧振幅Vnの取り得る範囲の最大値のことである。
【0086】
指令電流算出部30sは、指令トルクTrq*、電気角速度ω及び最大電圧Vmaxに基づき、2相回転座標系における電流の指令値であるd軸指令電流id*と、q軸指令電流iq*とを算出する。なお、d軸指令電流id*及びq軸指令電流iqは、例えば、指令トルクTrq*、電気角速度ω及び最大電圧Vmaxと、d軸指令電流id*及びq軸指令電流iqとが関係付けられたマップを用いて算出すればよい。
【0087】
d軸偏差算出部30tは、d軸指令電流id*からd軸電流idrを減算することでd軸電流偏差Δidを算出する。一方、q軸偏差算出部30uは、q軸指令電流iq*からq軸電流iqrを減算することでq軸電流偏差Δiqを算出する。
【0088】
d軸指令電圧算出部30vは、d軸電流idrをd軸指令電流id*にフィードバック制御するための操作量としてd軸上の指令電圧vd*を算出する。具体的には、d軸電流偏差Δidに基づく比例積分制御によってd軸上の指令電圧vd*を算出する。一方、q軸指令電圧算出部30wは、q軸電流iqrをq軸指令電流iq*にフィードバック制御するための操作量としてq軸上の指令電圧vq*を算出する。具体的には、q軸電流偏差Δiqに基づく比例積分制御によってq軸上の指令電圧vq*を算出する。
【0089】
振幅位相算出部30xは、d軸指令電圧vd*及びq軸指令電圧vq*に基づき、電圧振幅Vn及び電圧位相δを算出する。電圧振幅Vnは、変調率算出部30eに出力され、電圧位相δは、操作信号生成部30gに出力される。
【0090】
なお、本実施形態において、最大電圧算出部30r、指令電流算出部30s、d軸偏差算出部30t、q軸偏差算出部30u、d軸指令電圧算出部30v、q軸指令電圧算出部30w及び振幅位相算出部30xが「振幅算出手段」及び「位相算出手段」を構成する。
【0091】
以上説明した本実施形態によっても、上記第1の実施形態で得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0092】
(第7の実施形態)
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0093】
本実施形態では、高調波電圧を所定値以下とするように操作信号g¥#を生成する制限処理を変更する。
【0094】
図8に、本実施形態にかかるトルクフィードバック制御のブロック図を示す。なお、図8において、先の図2に示した処理等と同一の処理等については、便宜上、同一の符号を付している。
【0095】
図示されるように、本実施形態では、変調率制限部30fが除去されている。このため、変調率算出部30eによって算出された変調率Mは、そのまま操作信号生成部30yに入力される。操作信号生成部30yには、変調率Mに加えて、電気角速度ωも入力される。なお、本実施形態において、操作信号生成部30yが「生成手段」及び「制限手段」を構成する。
【0096】
ここで、本実施形態において、メモリ32には、規格化高調波電圧Vh(「高調波電圧に関する情報」に相当)及び変調率Mと関係付けられたパルスパターンが予め記憶されている。ここで、規格化高調波電圧Vhとは、パルスパターンによって生成された操作信号g¥#によってスイッチング素子S¥#をオンオフ操作する場合における高調波電流の実効値を、入力電圧VINVの「1/2」で除算した値のことである。ここでの高調波電圧の実効値は、例えば、6次の高調波電圧の実効値、12次の高調波電圧の実効値、6次及び12次の高調波電圧の実効値の合計値、又はインバータ20の出力電圧に含まれる全高調波成分の実効値の合計値とすればよい。なお、パルスパターンと規格化高調波電圧Vhとを関係付けることができるのは、変調率M(インバータ20の出力電圧に含まれる基本波成分)が定まると、上記出力電圧に含まれる高調波成分も定まるためである。
【0097】
図9に、本実施形態にかかるパルスパターン選択処理の手順を示す。この処理は、操作信号生成部30yによって例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0098】
この一連の処理では、まずステップS10において、電気角速度ωに基づき、最大高調波電圧Vlimitを設定する。詳しくは、電気角速度ωが高いほど、最大高調波電圧Vlimitを高く設定する。なお、最大高調波電圧Vlimitは、上記第1の実施形態で説明した所定値と同じ技術的意義を有するパラメータである。また、本実施形態において、本ステップの処理が「電圧設定手段」を構成する。
【0099】
続くステップS12では、メモリ32に記憶された全てのパルスパターンのそれぞれについて、パルスパターンと関係付けられた規格化高調波電圧Vhと、入力電圧VINVの「1/2」とを乗算することで判定電圧Vjdgを算出する。
【0100】
続くステップS14では、全てのパルスパターンのうち、判定電圧Vjdgが最大高調波電圧Vlimit以下となるパルスパターンを抽出する。すなわち、判定電圧Vjdgが最大高調波電圧Vlimitを超えるパルスパターンを除外することで、操作信号g¥#を生成するための候補となるパルスパターンが制限され、操作信号g¥#の生成に制限が課される。なお、本ステップにおいて抽出対象から除外されるパルスパターンは、主に、変調率Mが第1の規定値Maを超える過変調領域のパルスパターンである。
【0101】
続くステップS16では、上記ステップS14において抽出されたパルスパターンのうち、変調率算出部30eによって算出された変調率Mに最も近いパルスパターンを選択する。そして、ステップS18では、上記ステップS16において選択されたパルスパターンに基づき、操作信号g¥#を生成する。
【0102】
なお、ステップS18の処理が完了した場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0103】
以上説明した本実施形態によっても、モータジェネレータ10のトルク制御性を好適に向上させることができる。
【0104】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0105】
・第1の範囲における最大変調率Mlimitを、第2の範囲における最大変調率Mlimitよりも小さく設定する手法としては、上記第1の実施形態に例示したものに限らない。要は、電気角速度ωが低い第1の範囲において変調率Mを制限できれば、他の設定手法であってもよい。ここで、最大変調率Mlimitの設定手法の一例として、第1の範囲全てにおける最大変調率Mlimitを第1の規定値Maに固定する手法も考えられる。この場合、電気角速度ωが規定角速度ωth未満となる場合、過変調制御が禁止されることとなる。また、上記設定手法の一例として、第1の範囲における最大変調率Mlimitの傾きを1次式(線形)とする手法に限らず、2次式や3次式とする手法も考えられる。
【0106】
・入力電圧VINVが高いほど、最大変調率Mlimitによる変調率Mの制限を大きくするように最大変調率Mlimitを設定する手法としては、入力電圧VINVが高いほど、規定角速度ωthを高く設定するものに限らない。例えば、入力電圧VINVが高いほど、規定角速度ωthを固定したままで、第1の範囲における最大変調率Mimitの傾きを大きくするものであってもよい。
【0107】
また、設定パラメータの値が大きいほど、最大変調率Mlimitによる変調率Mの制限を大きくするように最大変調率Mlimitを設定する手法としては、設定パラメータの値が大きいほど、規定角速度ωthを高く設定するものに限らない。例えば、設定パラメータの値が大きいほど、規定角速度ωthを固定したままで、第1の範囲における最大変調率Mimitの傾きを大きくするものであってもよい。
【0108】
・上記第4の実施形態において、「設定パラメータ(回転機に流れる電流と正の相関を有するパラメータ)」として、電流ベクトルの振幅Inに代えて、モータジェネレータ10の相電流(V相電流ivやW相電流iw)に含まれる特定次数成分の実効値又は振幅を用いてもよい。ここで、上記特定次数成分としては、例えば、相電流の基本波成分が挙げられる。なお、上記特定次数成分は、例えばFFT解析によって抽出すればよい。また、例えば、上記パラメータとして、相電流の実効値又は振幅を用いたり、2相回転座標系の電流値(d軸電流idr及びq軸電流iqrのうち少なくとも一方)に含まれる特定次数成分(例えば、6次や12次)の実効値又は振幅を用いたりしてもよい。
【0109】
・上記第6の実施形態において、電流ベクトルの振幅Inに基づき最大変調率Mlimitを設定してもよい。また、上記第6の実施形態において、2相回転座標系における指令電流ベクトルの振幅に基づき最大変調率Mlimitを設定してもよい。
【0110】
・上記第3,第4の実施形態において、最大変調率Mlimitの設定に用いるパラメータから入力電圧VINVを除いてもよい。
【0111】
・「高調波電流検出手段」としては、相電流に含まれる5次成分を検出するものに限らない。例えば、相電流に含まれる7次成分、11次成分又は13次成分を検出するものであってもよい。また、「高調波電流検出手段」の検出対象としては、3相固定座標系における電流に限らず、2相固定座標系における電流(d軸電流idr及びq軸電流iqrのうち少なくとも一方)であってもよい。この場合、2相固定座標系における電流に含まれる6次成分や12次成分等の実効値又は振幅を検出すればよい。
【0112】
・上記第6の実施形態において、上記第2〜第5,第7の実施形態で説明した最大変調率Mlimitの設定手法を適用してもよい。
【0113】
・上記第7の実施形態において、「高調波電圧に関する情報」としては、高調波電流の実効値を入力電圧VINVで規格化した値に限らず、例えば、高調波電圧の振幅を入力電圧VINVで規格化した値であってもよい。
【0114】
・上記第7の実施形態では、1つの変調率Mに対して1つのパルスパターンをメモリ32に記憶させたがこれに限らない。1つの変調率Mを実現するために複数のパルスパターンを生成できることから、1つの変調率Mに対して複数のパルスパターンをメモリ32に記憶させてもよい。この場合、1つの変調率Mに対する複数のパルスパターンのそれぞれについて、電気角θ1周期におけるスイッチング回数が異なるため、スイッチング損失も異なる。したがって、規格化高調波電圧Vh及び変調率Mに加えて、スイッチング損失に関する情報(電気角θ1周期におけるスイッチング回数)と関係付けられたパルスパターンをメモリ32に記憶させてもよい。この場合、パルスパターン選択処理において、全てのパルスパターンのうちスイッチング回数が目標回数以下となるパルスパターンを抽出するとの処理を設けてもよい。
【0115】
・上記第7の実施形態において、最大高調波電圧Vlimitを設定するためのパラメータに、モータジェネレータ10のロータ温度、モータジェネレータ10のステータ温度及びモータジェネレータ10のインダクタンス特性のうち少なくとも1つを加えてもよい。詳しくは、ロータ温度が高いほど、電機子鎖交磁束が減少することから、モータジェネレータ10に電流が流れやすくなる。このため、ロータ温度が高いほど、最大高調波電圧Vlimitを低く設定すればよい。
【0116】
また、ステータ温度が高いほど、ステータの巻線抵抗が低くなり、モータジェネレータ10に電流が流れやすくなる。このため、ステータ温度が高いほど、最大高調波電圧Vlimitを低く設定すればよい。
【0117】
さらに、インダクタンス特性について、モータジェネレータ10のインダクタンスは個体差によってばらつく。そして、インダクタンスが高いほど、高調波電流が流れにくくなる。このため、インダクタンスが高いほど、最大高調波電圧Vlimitを高くするように最大高調波電圧Vlimitを適合すればよい。
【0118】
・「生成手段」としては、パルスパターンを選択して操作信号を生成するものに限らず、例えば以下に説明するものであってもよい。指令トルクTrq*とするための操作量として、位相が電気角で互いに120度ずつずれた正弦波の3相指令電圧を算出する。そして、算出された3相指令電圧とキャリア信号(例えば三角波信号)との大小比較に基づく三角波比較PWM制御によって操作信号g¥#を生成する。
【0119】
・上記各実施形態では、制御量をその指令値にフィードバック制御したがこれに限らず、制御量を指令値にフィードフォワード制御してもよい。
【0120】
・「回転機」として、IPMSMに限らず、表面磁石同期機(SPMSM)や巻線界磁型同期機であってもよい。また、「回転機」としては、同期機に限らず、例えば誘導機であってもよい。さらに、「回転機」としては、車載主機として用いられるものに限らず、電動パワーステアリング装置や空調用電動コンプレッサを構成する電動機等、他の用途に用いられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0121】
10…モータジェネレータ、20…インバータ、30…制御装置、S¥#…スイッチング素子、Dr¥#…駆動回路。
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