特許第6032223号(P6032223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032223
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】コイル巻き形状合否判定方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/02 20060101AFI20161114BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20161114BHJP
   G01B 21/20 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B21C47/02 B
   B21C51/00 Q
   B21C51/00 L
   G01B21/20 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-31208(P2014-31208)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-155107(P2015-155107A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2015年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】平松 成
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−243433(JP,A)
【文献】 特開2002−148037(JP,A)
【文献】 特開2000−131048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 45/00−49/00
B21C 51/00
G01B 11/00−11/30
G01B 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延ラインの圧延機の上流に設置された形状計直下の鋼板の形状測定結果およびコイラ設備で巻き取られたコイルの側面の巻き形状測定結果に基づいてコイル巻き形状の合否を判定するコイル巻き形状合否判定方法であって、
前記鋼板の形状測定結果からコイル製品として目標とされている幅である目標幅以下の先端・尾端長さを演算する目標幅以下の先端・尾端長さ演算ステップと、
演算した先端・尾端長さからマスフロー計算により圧延後の先端・尾端長さを演算する圧延後の先端・尾端長さ演算ステップと、
演算した圧延後の先端・尾端長さからコイル径演算により、コイル内径・外径マスキング距離を演算するコイル内径・外径マスキング距離演算ステップと、
前記巻き取られたコイルの形状測定結果の内、前記コイル内径・外径マスキング距離にあたる形状測定結果を合否判定に用いないようにマスキングするマスキング処理ステップと、
マスキングされた形状測定結果に基づいてコイル巻き形状の合否を判定する合否判定ステップと、
を有することを特徴とするコイル巻き形状合否判定方法。
【請求項2】
熱間圧延ラインの圧延機の上流に設置された形状計と、コイラ設備で巻き取られたコイルの側面の巻き形状を測定する巻き形状測定器とを具備し、コイル巻き形状の合否を判定するコイル巻き形状合否判定装置であって、
前記形状計の直下の鋼板の形状測定結果からコイル製品として目標とされている幅である目標幅以下の先端・尾端長さを演算する目標幅以下の先端・尾端長さ演算手段と、
演算した先端・尾端長さからマスフロー計算により圧延後の先端・尾端長さを演算する圧延後の先端・尾端長さ演算手段と、
演算した圧延後の先端・尾端長さからコイル径演算により、コイル内径・外径マスキング距離を演算するコイル内径・外径マスキング距離演算手段と、
前記巻き形状測定器で測定したコイルの形状測定結果の内、前記コイル内径・外径マスキング距離にあたる形状測定結果を合否判定に用いないようにマスキングするマスキング処理手段と、
マスキングされた形状測定結果に基づいてコイル巻き形状の合否を判定する合否判定手段と、
を具備することを特徴とするコイル巻き形状合否判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延ラインの圧延機の上流に設置された形状計を利用したコイル巻き形状合否判定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延ラインで製造されるストリップは、搬送の利便性から最終工程(コイラ設備)でコイル状にされる。そして、搬送先の客先や次工程で巻きほぐされるが、その際コイル巻き形状が悪い(コイル端面が凸となる)場合には、巻きほぐすための設備にコイルを装着できない問題が発生する。
このような問題が生じないようにするため、例えば、特許文献1および2には、コイラ設備で巻き取ったコイル側面の巻き形状を測定する技術が開示されている。この技術を用いて、巻き形状が悪いと判定した場合には、コイルの巻き直しを実施している。
また、特許文献3には、巻取装置の一対のピンチロールにガイドロールを付設し、巻ズレを防止する技術が開示されている。さらに、特許文献4には、鋼板が巻取装置に巻き付く時点を検知し、巻取装置の巻取り速度を制御して巻ズレを防止するような巻取制御方法が開示されている。
【0003】
さらに、特許文献5には、コイル内外径部位のそれぞれ予め設定した一定距離における形状計測データを除外するマスキング処理を施し、マスキング処理された以外の形状計測データを用いて形状合否判定を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−346316号公報
【特許文献2】特開平9−26310公報
【特許文献3】特開2011−73036号公報
【特許文献4】特開平2−127920号公報
【特許文献5】特開2002−243433公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4に開示された技術により、コイル巻き形状の改善が実施されてきたものの、コイル内外径部位の形状は圧延の特性によりコイル製品として目標とされている幅である目標幅(以下、目標幅と記載)より狭くなる特徴があるため、コイル巻き形状の合否判定処理で不良の誤判定が発生する問題がある。
【0006】
また、特許文献5の形状合否判定を行う技術では、コイル内外径部位の予め設定された一定距離における形状計測データを除外するマスキング処理を施しているため、マスキングした箇所に本来合否判定すべき巻き形状が悪い部位が入ってしまう場合には、形状不良コイルを流出させてしまう問題がある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、コイル形状合否判定での誤判定をなくすることができる、コイル巻き形状合否判定方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の発明によって解決できる。
【0009】
[1] 熱間圧延ラインの圧延機の上流に設置された形状計直下の鋼板の形状測定結果およびコイラ設備で巻き取られたコイルの側面の巻き形状測定結果に基づいてコイル巻き形状の合否を判定するコイル巻き形状合否判定方法であって、
前記鋼板の形状測定結果から目標幅以下の先端・尾端長さを演算する目標幅以下の先端・尾端長さ演算ステップと、
演算した先端・尾端長さからマスフロー計算により圧延後の先端・尾端長さを演算する圧延後の先端・尾端長さ演算ステップと、
演算した圧延後の先端・尾端長さからコイル径演算により、コイル内径・外径マスキング距離を演算するコイル内径・外径マスキング距離演算ステップと、
前記巻き取られたコイルの形状測定結果の内、前記コイル内径・外径マスキング距離にあたる形状測定結果を合否判定に用いないようにマスキングするマスキング処理ステップと、
マスキングされた形状測定結果に基づいてコイル巻き形状の合否を判定する合否判定ステップと、
を有することを特徴とするコイル巻き形状合否判定方法。
【0010】
[2] 熱間圧延ラインの圧延機の上流に設置された形状計と、コイラ設備で巻き取られたコイルの側面の巻き形状を測定する巻き形状測定器とを具備し、コイル巻き形状の合否を判定するコイル巻き形状合否判定装置であって、
前記形状計の直下の鋼板の形状測定結果から目標幅以下の先端・尾端長さを演算する目標幅以下の先端・尾端長さ演算手段と、
演算した先端・尾端長さからマスフロー計算により圧延後の先端・尾端長さを演算する圧延後の先端・尾端長さ演算手段と、
演算した圧延後の先端・尾端長さからコイル径演算により、コイル内径・外径マスキング距離を演算するコイル内径・外径マスキング距離演算手段と、
前記巻き形状測定器で測定したコイルの形状測定結果の内、前記コイル内径・外径マスキング距離にあたる形状測定結果を合否判定に用いないようにマスキングするマスキング処理手段と、
マスキングされた形状測定結果に基づいてコイル巻き形状の合否を判定する合否判定手段と、
を具備することを特徴とするコイル巻き形状合否判定装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コイル形状合否判定での誤判定をなくするようにしたので、不要なコイル巻き直し工程がなくなりエネルギー原単位の削減、出荷までの時間短縮効果、ならびに形状不良コイル流出の抑止が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るコイル巻き形状合否判定装置の構成例を示す図である。
図2】従来のコイル巻き形状合否判定処理フローを示す図である。
図3】本発明に係るコイル巻き形状合否判定方法におけるコイル内径部位の処理フローを示す図である。
図4】本発明に係るコイル巻き形状合否判定方法におけるコイル外径部位の処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、以下に図ならびに数式を用いて説明を行う。図1は、本発明に係るコイル巻き形状合否判定装置の構成例を示す図である。図中、1は仕上圧延機、2はクロップシャー、3は形状計、4はコイラ設備、5は巻き形状測定器、6は鋼板、および7は演算器を、それぞれ表す。なお、図中、下段に示した5つの図は、熱間圧延ラインにおける鋼板の形状変化(板状の鋼板からコイル形状へ)を模式的に示す図である。
【0014】
図1の上段に示す設備列は、熱間圧延ラインの主な設備構成に基づくものである。7つのスタンドにより構成される仕上圧延機1、この上流に鋼板6の先尾端をカットするクロップシャー2、さらにこの上流に鋼板6の形状を測定する形状計3が設置されている。鋼板6は仕上圧延機1で仕上圧延されてストリップとなり、最終工程としてコイル状にコイラ設備4で巻き取られる。巻き取られたコイルは、巻き形状測定器5でコイルの側面形状が測定される。演算器7では、形状計3の直下での形状測定値、および巻き形状測定器5での巻き取られたコイルのコイル形状測定値に基づいて、コイル形状合否判定処理が実施される。
【0015】
合格判定であれば次工程へ、不良判定であれば巻き直しを実施するためのラインにコイルが搬送される。図2は、従来のコイル巻き形状合否判定処理フローを示す図である。
【0016】
図2(a)は、コイル巻き形状測定器でコイルの側面形状を測定後、コイルの巻きズレ量を演算し、この巻きズレ量が閾値範囲であるか否かによって合否判定処理を実施する処理フローを示している。合否判定で合格した場合は、次工程に送られるが、不合格の場合は、コイルの巻き直しを行った後に次工程に送られる
また、図2(b)の処理フローは、鋼板の先尾端の目標幅に達しない部分を除外すべく、コイル内外径部位の内外径それぞれから径方向の一定距離(一定長さ)の形状計測データを除外するマスキング処理を実施するステップを加えている点が、図2(a)の処理フローとの相違している。
【0017】
図3は、本発明に係るコイル巻き形状合否判定方法におけるコイル内径部位の処理フローを示す図である。図2(b)にて示した処理フローでは、予め設定した一定距離にてマスキング処理を行っているが、本処理フローでは、Step10の鋼板先端形状測定とこれに続くStep11〜Step13にてマスキング処理する距離(長さ)を演算している点が異なっている。
【0018】
先ず、Step10にて、コイル内径部位となる鋼板の先端形状を、クロップシャーの上流に設置した形状計にて測定する。次に、Step11にて、この測定値を基に、目標幅より狭くなる鋼板の先端長さy[mm]を演算する。
【0019】
次に、クロップシャーで先端がz [mm]だけカットされると、残された目標幅より狭くなる鋼板の先端長さx [mm]を、以下の(1)式にて算出する。
【0020】
【数1】
【0021】
その後、目標幅より狭くなる、圧延後のストリップの先端長さX [mm]を、マスフロー計算により以下の(2)式のように求める(Step12)。
【0022】
【数2】
【0023】
ここで、h[mm]、w[mm]、H[mm]、W[mm]、はそれぞれ諸元情報として与えられる圧延前の鋼板厚、圧延前の鋼板幅、圧延後のストリップ厚、圧延後のストリップ幅である。
【0024】
最後に、コイル径演算により、コイル内径部位のマスキング処理をすべき距離を演算する。目標幅より狭くなるストリップの先端のうち、目標幅より狭くなり始める境界が、マンドレルに巻きついた後のどのコイル径(直径R[mm])のところに来るかを演算する。
【0025】
直径R[mm]は、コイラ設備マンドレル直径をr[mm]とし、先に演算したストリップの先端長さX [mm]を用いて、コイル径演算により以下の(3)式のように求めることができる。
【0026】
【数3】
【0027】
コイル内径部位のマスキング処理をすべき径方向の距離R_in [mm]は、以下の(4)式のように演算することができる(Step13)。
【0028】
【数4】
【0029】
巻き形状測定器で巻き形状を測定(Step14)したコイル内径から、上記距離R_in [mm]を加えた距離分だけマスキング処理を行う(Step15)。
【0030】
次に、マスキング処理した以外の巻き形状(端面の凹凸)が、閾値以内かどうかの判定を行う(Step16)。閾値以内であれば、合格判定(Step17)をし、閾値を超えていれば、不合格判定(Step18)をする。
【0031】
図4は、本発明に係るコイル巻き形状合否判定方法におけるコイル外径部位の処理フローを示す図である。図3が、コイル内径部位すなわちストリップの先端を対象にしていたのに対して、図4は、コイル外径部位すなわちストリップの尾端を対象にしている点が異なる。
【0032】
先ず、Step20にて、コイル外径部位となる鋼板の尾端形状を、クロップシャーの上流に設置した形状計にて測定する。次に、Step21にて、この測定値を基に、目標幅より狭くなる鋼板の尾端長さy2[mm]を演算する。
【0033】
次に、クロップシャーで尾端がz2 [mm]だけカットされると、残された目標幅より狭くなる鋼板の尾端長さx2 [mm]を、以下の(5)式にて算出する。
【0034】
【数5】
【0035】
その後、鋼板の圧延後の目標幅より狭くなるストリップの尾端長さX2 [mm]を、マスフロー演算により以下の(6)式のように求める(Step22)。
【0036】
【数6】
【0037】
ストリップ全長X3[mm]は、諸元より与えられる圧延前の鋼板全長x3[mm]より、以下の(7)式のように求めることができる。
【0038】
【数7】
【0039】
そして、目標幅より狭くなるストリップの尾端長さX2[mm]を除いた圧延後のストリップ長X4 [mm]は、以下の(8)式のように求めることができる。
【0040】
【数8】
【0041】
最後に、コイル径演算により、コイル外径部位のマスキング処理をすべき距離を演算する。目標幅より狭くなるストリップの尾端のうち、目標幅より狭くなり始める境界が、マンドレルに巻きついた後のどのコイル径(直径R4[mm])のところに来るかを演算する。
【0042】
直径R4[mm]は、コイラ設備マンドレル直径をr[mm]とし、先に演算したストリップの尾端長さX4 [mm]を用いて、コイル径演算により以下の(9)式のように求めることができる。
【0043】
【数9】
【0044】
そして、圧延前の鋼板の全長X3[mm] に相当するコイル状にした際の直径R3[mm]は、以下の(10)式のように求められる。
【0045】
【数10】
【0046】
したがって、圧延前の鋼板のX2[mm] に相当するコイル状にした際の径方向の幅R2[mm]は、以下の(11)式のように求められる。
【0047】
【数11】
【0048】
最終的に、外径R4より外側にマスキング処理をすべき距離R_out[mm]は、以下の(11)式のように求めることができる。
【0049】
【数12】
【0050】
このようにマスキングをすべき距離を求めた以降のマスキング処理を含めた処理フロー(Step25〜28)は前述の図3と同様である。
【0051】
コイル内外径部位の両方で合格と判定されたコイルは次工程へ送られ、コイル内外径部位のいずれかで不合格と判定されたコイルは巻き直しを実施したのち、巻き直し終了後に次工程へ送られる。
【実施例】
【0052】
本発明の適用によって、巻直し発生率が12.035(%)となり、それまでの一定距離でのマスキング処理による合否判定での巻直し発生率12.285(%)と比べて、0.25(%)巻直し発生率が減少することを確認した。これにより、エネルギー原単位の削減、出荷までの時間短縮効果、ならびに形状不良コイル流出の抑止が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 仕上圧延機
2 クロップシャー
3 形状計
4 コイラ設備
5 巻き形状測定器
6 鋼板
7 演算器
図2
図3
図4
図1