特許第6032231号(P6032231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032231
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】燃料性状検出装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20161114BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   F02D45/00 364K
   F02D41/04 380P
   F02D41/04 385P
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-44521(P2014-44521)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-169121(P2015-169121A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 英生
(72)【発明者】
【氏名】増田 誠
(72)【発明者】
【氏名】石塚 康治
(72)【発明者】
【氏名】川村 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅幸
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−144527(JP,A)
【文献】 特開2010−112282(JP,A)
【文献】 特開2010−019115(JP,A)
【文献】 特開2008−082245(JP,A)
【文献】 特開2009−144528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00−41/40
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒(11a)内に燃料を噴射する燃料噴射弁(17)を備えて前記燃料噴射弁から噴射された燃料を圧縮自着火燃焼させるように構成された内燃機関(10)に適用され、
セタン価及び密度が異なる燃料間で着火性に差異が生じる燃料の噴射条件を設定する設定手段(S13、S19、S24、S29)と、
その設定手段で設定された噴射条件で燃料性状の検査用の燃料を前記燃料噴射弁に噴射させる噴射制御手段(S14、S19、S24、S29)と、
前記検査用の燃料の着火性を検出する着火性検出手段(S15、S20、S25、S30〜S32)と、
燃料性状をセタン価及び密度を2軸とした2次元マップ(100)上の位置であらわしたときに、前記燃料噴射弁から噴射される燃料の燃料性状が前記2次元マップ上のどの位置にあるかを、前記着火性検出手段が検出した着火性に基づいて特定する燃料性状特定手段(S16、S17、S18、S21〜S23、S26〜S28、S33)と、
を備えることを特徴とする燃料性状検出装置(40)。
【請求項2】
前記設定手段(S13、S19)は、同じセタン価であっても密度が異なる燃料間で燃料の着火タイミングに差異が生じる程度に前記内燃機関の圧縮上死点から進角させた噴射タイミングを前記噴射条件として設定し、
前記噴射制御手段(S14、S19)は、前記設定手段で設定された噴射タイミングで前記検査用の燃料を噴射させ、
前記着火性検出手段(S15、S20)は、前記着火性として前記検査用の燃料の着火タイミングを検出し、
前記燃料性状特定手段(S16〜S18、S21〜S23)は、前記着火性検出手段が検出した着火タイミングに基づいて燃料性状を特定することを特徴とする請求項1に記載の燃料性状検出装置。
【請求項3】
前記設定手段(S24)は、同じセタン価であっても密度が異なる燃料間で着火するかしないかが変わってくる程度に少量の噴射量を前記噴射条件として設定し、
前記噴射制御手段(S24)は、前記設定手段で設定された噴射量で前記検査用の燃料を噴射させ、
前記着火性検出手段(S25)は、前記着火性として前記検査用の燃料の着火を検出し、
前記燃料性状特定手段(S26〜S28)は、前記着火性検出手段が着火を検出できた場合には高密度の燃料であると特定し、前記着火性検出手段が着火を検出できなかった場合には低密度の燃料であると特定することを特徴とする請求項1に記載の燃料性状検出装置。
【請求項4】
前記設定手段(S29)は、前記検査用の燃料の着火が可能な限界の噴射量まで、設定する噴射量を変化させていき、
前記着火性検出手段(S30〜S32)は、前記設定手段が噴射量を変化させている間における前記検査用の燃料の着火状態の変化に基づいて前記着火性として前記限界の噴射量を検出し、
前記燃料性状特定手段(S33)は、前記限界の噴射量に基づいて燃料性状を特定することを特徴とする請求項1に記載の燃料性状検出装置。
【請求項5】
前記燃料性状特定手段(S17、S22、S23、S27、S28、S33)は、前記燃料噴射弁から噴射される燃料が、前記2次元マップ上において標準のセタン価となる標準セタン価領域(101)に位置する燃料か、前記標準セタン価領域よりも低いセタン価となる低セタン価領域のうち低密度側に設定される軽質領域(102)に位置する燃料か、前記低セタン価領域のうち高密度側に設定される重質領域(103)に位置する燃料かを特定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料性状検出装置。
【請求項6】
前記燃料性状特定手段は、
前記検査用の燃料の着火タイミングに基づいて、前記標準セタン価領域に位置する燃料か前記低セタン価領域に位置する燃料かを特定する第1の特定手段(S16、S17、S18)と、
前記第1の特定手段により前記低セタン価領域に位置する燃料と特定された場合に、さらに、前記着火性検出手段が検出した着火性に基づいて前記軽質領域に位置する燃料か前記重質領域に位置する燃料かを特定する第2の特定手段(S21〜S23、S26〜S28、S33)とを備えることを特徴とする請求項5に記載の燃料性状検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮自着火式の内燃機関に使用される燃料の燃料性状を検出する燃料性状検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮自着火式の内燃機関に使用される燃料の燃料性状としてセタン価を検出する発明の提案がある(例えば特許文献1参照)。例えば特許文献1の発明では、主噴射の前後に実行される副噴射の一つを特定噴射として、その特定噴射における噴射量の変更分に対する発生トルクの変化量(トルク感度)からセタン価を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−144528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料性状をあらわす指標にはセタン価の他にも密度もあり、セタン価が同じ値を示したとしても密度が異なる燃料間では、燃焼の様子が変わってくる。そのため、最適な燃焼にするには、使用燃料のセタン価に加えて密度も考慮した燃焼制御をする必要があり、その燃焼制御のためには使用燃料のセタン価及び密度の両方を検出することは有益である。なお、燃料密度は、セタン価の検出とは別に、専用のセンサ(燃料密度センサ)を用いて検出することも考えられるが、この場合には、セタン価及び密度の検出に使用するセンサ数が増加してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、燃料性状の検出に使用するセンサ数の増加を抑制しつつ、セタン価が同じであっても密度の違いを区別する形で使用燃料のセタン価及び密度の両方を検出できる燃料性状検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の燃料性状検出装置は、気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備えて前記燃料噴射弁から噴射された燃料を圧縮自着火燃焼させるように構成された内燃機関に適用され、
セタン価及び密度が異なる燃料間で着火性に差異が生じる燃料の噴射条件を設定する設定手段と、
その設定手段で設定された噴射条件で燃料性状の検査用の燃料を前記燃料噴射弁に噴射させる噴射制御手段と、
前記検査用の燃料の着火性を検出する着火性検出手段と、
燃料性状をセタン価及び密度を2軸とした2次元マップ上の位置であらわしたときに、前記燃料噴射弁から噴射される燃料の燃料性状が前記2次元マップ上のどの位置にあるかを、前記着火性検出手段が検出した着火性に基づいて特定する燃料性状特定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明者の知見によると、セタン価及び密度が異なる燃料間では、特定の噴射条件で燃料噴射をすると、燃焼の際に燃料の分子構造的な違いが顕著にあらわれて、その分子構造的な違いにより着火性に差異が生じる。そこで、本発明では、その特定の噴射条件で燃料性状の検査用の燃料を噴射させて、その燃料の着火性を検出する。検出した着火性は、セタン価及び密度を反映したものとなっている。燃料性状特定手段は、その着火性に基づいて、使用燃料がセタン価及び密度を2軸とした2次元マップ上のどの位置にあるかを特定する。これにより、セタン価が同じであっても密度の違いを区別する形で使用燃料のセタン価及び密度の両方を検出できる。また、着火性に基づいて燃料密度を検出し、専用のセンサで燃料密度を検出しているわけではないので、燃料性状の検出に使用するセンサ数の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ディーゼルエンジン及びECUを示す模式図である。
図2】インジェクタによる燃料噴射のタイミング及び噴射量の様子を示した図である。
図3】エンジンで使用対象となる燃料の分布を示す分布図である。
図4】噴射タイミングと着火タイミングの関係を、標準燃料、軽質低セタン燃料、重質低セタン燃料ごとに示した図である。
図5】第1実施形態における燃料性状検出処理のフローチャートである。
図6】燃料密度と失火限界噴射量との関係を、標準燃料、低セタン燃料ごとに示した図である。
図7】第2実施形態における燃料性状検出処理のフローチャートである。
図8】第3実施形態における燃料性状検出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を参照しながら説明する。本実施形態は、車両用のディーゼルエンジンに適用され、そのディーゼルエンジンの運転を制御する制御装置(ECU)として具体化している。
【0010】
はじめに、図1を参照して、ディーゼルエンジン10の概要について説明する。ディーゼルエンジン10(圧縮自着火式内燃機関)は、例えば直列4気筒エンジンであり、同図では1つの気筒(シリンダ)のみを示している。同図に示すように、エンジン10は、シリンダブロック11、ピストン12、シリンダヘッド13、吸気通路14、排気通路15、吸気弁16、インジェクタ17、排気弁18、VVT21、EGR装置26等を備えている。
【0011】
シリンダブロック11には、4つのシリンダ11aが形成されている。各シリンダ11aには、それぞれピストン12が往復動可能に収容されている。シリンダブロック11には、シリンダヘッド13が組み付けられている。シリンダ11a、ピストン12、及びシリンダヘッド13によって、燃焼室が形成されている。
【0012】
シリンダブロック11には、吸気通路14が接続されている。吸気通路14は、吸気マニホールド及びシリンダヘッド13内のヘッド内通路14aを介して、各シリンダ11aに接続されている。エンジン10のクランクシャフト(図示略)の回転により、カムシャフト19A、19Bが回転させられる。カムシャフト19Aの回転に基づいて各吸気弁16が駆動され、各吸気弁16により各ヘッド内通路14aが開閉される。VVT21(可変バルブタイミング装置)は、クランクシャフトとカムシャフト19Aとの回転位相を調整することで、吸気弁16の開閉タイミングを可変とする。
【0013】
シリンダブロック11には、排気通路15が接続されている。排気通路15は、排気マニホールド及びシリンダヘッド13内のヘッド内通路15aを介して、各シリンダ11aに接続されている。カムシャフト19Bの回転に基づいて各排気弁18が駆動され、各排気弁18により各ヘッド内通路15aが開閉される。
【0014】
燃料ポンプ(図示略)により、コモンレール20へ燃料(軽油)が圧送される。コモンレール20(蓄圧容器)は燃料を蓄圧状態で保持する。インジェクタ17(燃料噴射弁)は、コモンレール20内に蓄圧状態で保持された燃料を、シリンダ11a内に噴射する。
【0015】
EGR装置26(排気再循環装置)は、EGR通路27及びEGRバルブ28を備えている。EGR通路27は、排気通路15と吸気通路14とを接続している。EGR通路27には、EGR通路27を開閉するEGRバルブ28が設けられている。EGR装置26は、EGRバルブ28の開度に応じて、排気通路15内の排気の一部を吸気通路14内の吸気に導入する。
【0016】
エンジン10の吸気行程において吸気通路14を通じてシリンダ11a内に空気が吸入され、圧縮行程においてピストン12により空気が圧縮される。圧縮上死点付近でインジェクタ17によりシリンダ11a内に燃料が噴射され、燃焼行程において噴射された燃料が自着火して燃焼される。排気行程においてシリンダ11a内の排気が、排気通路15を通じて排出される。排気通路15内の排気の一部は、EGR装置26により吸気通路14内の吸気に導入される。
【0017】
また、エンジン10には、エンジン10の運転制御に必要な各種センサが設けられている。具体的には、例えば、エンジン10には、シリンダ11a内の圧力(筒内圧)を検出する筒内圧センサ31、ノッキングを検出するノックセンサ32、エンジン10の回転数を検出する回転数センサ33、車両の運転者の要求トルクを車両側に知らせるためのアクセルペダルの操作量(踏み込み量)を検知するアクセルペダルセンサ34が設けられている。ノックセンサ32は、例えばシリンダブロック11に直接取り付けられて、そのシリンダブロック11の振動を検出するセンサとすることができる。回転数センサ33は、例えばクランク角を検出するセンサとすることができる。また、エンジン10には、シリンダブロック11内に形成された冷却水路(ウォータジャケット)内を流れる冷却水の温度を検出する水温センサ35等、エンジン10内の各部の温度を検出する温度センサも設けられている。
【0018】
ECU(Electric Control Unit)40は、CPU、メモリ41(ROM、RAM、記憶装置等)、入出力インターフェース等を備える周知のマイクロコンピュータである。ECU40は、上記各センサ31〜35等の各種センサの検出値に基づいて、インジェクタ17、VVT21、EGR装置26等を制御する。詳しくは、予めエンジン10の運転状態に応じてインジェクタ17、VVT21、及びEGR装置26の制御状態が適合化されており、各種センサの検出値に基づいて、適合化された制御状態となるように各装置を制御する。
【0019】
図2に、インジェクタ17による燃料噴射のタイミング及び噴射量の様子を示す。図2において、凸部F1〜F3が燃料噴射の様子を示しており、その凸部F1〜F3における位置(左右方向における位置)は噴射タイミングを示し、凸部F1〜F3の高さは噴射量を示している。ECU40は、図2に示すように、インジェクタ17により、主噴射F1及び副噴射F2(パイロット噴射、プレ噴射)を実行させる。主噴射F1は、圧縮上死点付近にて実行され、エンジン10の出力(ピストン12の駆動)を得るための噴射である。副噴射F2は、主噴射F1よりも早いタイミングで実行され、例えば吸入気体と使用燃料との混合気を生成することを目的としたり、騒音、振動及びNOxの低減を目的としたりする噴射である。さらに、ECU40は、本発明の「燃料性状検出装置」に相当し、主噴射F1、副噴射F2とは別に、使用燃料の燃料性状を検出するための噴射F3(検出用噴射)を実行させる。検出用噴射F3の詳細は後述する。
【0020】
図3は、エンジン10で使用対象となる燃料の分布を示す分布図である。詳しくは、図3の分布図は、横軸を密度、縦軸をセタン価とした2次元マップ100上に、各燃料の点をあらわした図である。エンジン10に用いられる燃料は、JIS K2204規格により2号に分類されるJIS2号軽油付近の領域101を中心として、大きくは灯油側の領域102とA重油側の領域103へ分布している。灯油に近付くほどパラフィン系の化合物等の軽質成分を多く含む軽質燃料となり、A重油に近付くほど芳香族化合物等の重質成分を多く含む重質燃料となる。軽質成分を多く含むほど燃料密度が小さくなり、重質成分を多く含むほど燃料密度が大きくなっている。また、灯油に近付くほどセタン価が低くなり、A重油に近付くほどセタン価が低くなっている。
【0021】
すなわち、領域101を標準セタン価領域、領域102を軽質領域、領域103を重質領域というと、軽質領域102及び重質領域103は、標準セタン価領域101よりもセタン価が低くなっている。また、軽質領域102と重質領域103とは互いに同等のセタン価を示しているが、軽質領域102の密度は重質領域103の密度よりも低くなっている。また、軽質領域102と重質領域103の間には、燃料分布が少ない領域104が存在する。
【0022】
このように、使用対象となる燃料は、図3の2次元マップ100上の広い範囲に分布しており、2次元マップ100上の位置に応じて燃焼の様子が変わってくる。具体的には、例えば、標準セタン価領域101に位置する燃料は、低セタン価領域102、103に位置する燃料に比べて、セタン価が高くなっているので、着火性が良い。これを言い換えると、低セタン価領域102、103に位置する燃料は、標準セタン価領域101に位置する燃料(標準燃料)に比べて、着火性が悪い。
【0023】
また、軽質領域102に位置する軽質低セタン燃料は、軽質成分としてのパラフィン系の化合物が多く、そのパラフィン系の化合物は鎖式化合物(非環式化合物)である。なお、鎖式化合物には、分岐が無い化合物(直鎖化合物)と、分岐(側鎖)が有る化合物があり、軽質領域102に位置する軽質低セタン燃料には、分岐化合物が多い。他方、重質領域103に位置する重質低セタン燃料は、重質成分としての芳香族化合物が多く、その芳香族化合物の分子構造は環状構造である。よって、軽質低セタン燃料は、標準燃料に比べて、分岐化合物を多く含んでいるので、着火に至るまでの反応性が劣るので着火遅れが長くなる。重質低セタン燃料は、標準燃料に比べて、環状構造の化合物を多く含んでいるので、着火に至るまでの反応性が劣るので着火遅れが長くなる。しかしながら、同じ低セタンであっても、軽質低セタン燃料は、蒸散性が良いために微小量の燃料ではリーンになり過ぎて失火しやすく、他方、重質低セタン燃料は、燃焼時に環状構造が分解しにくく、燃焼期間が長くなり、スモーク(すす)も発生しやすい。このため、セタン価に応じて、燃料の噴射量や、吸気弁16の開閉タイミング、EGR量(排気再循環量)を制御したとしても、密度(軽質か重質か)も考慮しなければ、燃料の燃焼を適切に制御できないおそれがある。
【0024】
そこで、ECU40は、燃焼を適正に制御するために、使用燃料が、図3の2次元マップ100上のどの領域101〜103に位置する燃料かを検出する燃料性状検出処理を実行する。ここで、図4は、本実施形態における燃料性状の検出方法の考え方を説明する図である。詳細には、図4は、燃料の噴射タイミングと噴射された燃料の着火タイミング(噴射されてから着火するまでの着火遅れ期間)の関係を、標準燃料、軽質低セタン燃料、重質低セタン燃料ごとに示した図である。図4に示すように、標準燃料、軽質低セタン燃料、重質低セタン燃料のいずれも、噴射タイミングが早くにつれて、着火タイミングは遅くなっていく。これは、噴射タイミングが早くなると、圧縮上死点から離れていき、気筒内の温度、圧力が低い状態で噴射されることになるので、着火性が低下するためである。
【0025】
また、標準燃料と低セタン燃料(軽質低セタン燃料、重質低セタン燃料)とを比べると、低セタン燃料は、標準燃料に比べて着火タイミングが遅い。これは、上述したように、低セタン燃料は、標準燃料よりもセタン価が低いためである。
【0026】
さらに、軽質低セタン燃料と重質低セタン燃料とを比べると、噴射タイミングが遅いうちは、軽質低セタン燃料と重質低セタン燃料の間で着火タイミングの差は小さい。これは、噴射タイミングが遅いと、気筒内の温度、圧力が高い状態で噴射されることになるので、芳香族化合物等の分解しにくい重質成分を多く含んだ重質低セタン燃料であっても空気との反応が促進され、結果として、軽質低セタン燃料と同等の反応速度になるためである。これに対して、噴射タイミングが早くなると、気筒内の温度、圧力が低い状態(燃焼しにくい雰囲気)で噴射されることになるので、軽質低セタン燃料と重質低セタン燃料との間の分子構造的な違いによる空気(酸素)との反応速度の違いが顕著にあらわれる。すなわち、軽質低セタン燃料は、燃焼しにくい雰囲気では環状構造と軽質成分(鎖式化合物)の反応性の違いがあらわれ、同じ低セタンの重質低セタン燃料に比べて、低温酸化反応における反応速度が速いため、結果、着火タイミングが早くなる。言い換えると、重質低セタン燃料は、分解しにくい重質成分(環状構造)を多く含んでいるので、同じ低セタンの軽質低セタン燃料に比べて、低温酸化反応における反応速度が遅くなり、結果、着火タイミングが遅くなる。よって、図4に示すように、噴射タイミングが早くなるほど、重質低セタン燃料と軽質低セタン燃料との間の着火タイミングの差が大きくなっていく。
【0027】
ECU40は、標準燃料、軽質低セタン燃料、重質低セタン燃料間における図4の特性の違いを利用して、燃料性状検出処理を実行する。図5は、この燃料性状検出処理のフローチャートである。図5の処理は、ECU40により、所定の周期(例えばインジェクタ17による1噴射毎)で繰り返し実行される。
【0028】
図5の処理を開始すると、先ず、エンジン10の運転条件として、燃料性状検出に適した予め定めた第1条件が成立したか否かを判断する(S11)。具体的には、例えば、エンジン10が安定状態(例えば暖機完了したうえでエンジン回転数や負荷の変動が少ない状態)にある安定運転条件を上記第1条件に設定する。そして、その安定運転条件が成立したか否かとして、例えば、水温センサ35で検出される冷却水の温度が所定温度以上であり、かつ、回転数センサ33で検出されるエンジン回転数が所定範囲内にあり、かつ、エンジン10の負荷が所定範囲内にあるか否かを判断する。なお、エンジン10の負荷は、エンジン回転数とアクセルペダルセンサ34の検出値とに基づいて定まる燃料噴射量の指令値とすれば良い。
【0029】
第1条件が成立しない場合には(S11:No)、図5のフローチャートの処理を終了する。この場合には、今回の処理実行時では燃料性状の検出は行われないことになる。第1条件が成立した場合には(S11:Yes)、エンジン10の運転条件を、燃料性状検出に適した予め定められた第2条件に設定する(S12)。具体的には、例えば、後述のS14で検査用の燃料噴射を行うが、この燃料噴射によりエンジン10の運転に支障をきたさないように、具体的には例えばエンジン10からのスモーク発生が増加しないように、エンジン10の運転条件を設定する。具体的には、シリンダ11aに吸入される空気量(吸入空気量)やO2濃度(酸素濃度)を、スモーク発生を抑制できる所定範囲内となるように調整する。この場合、吸入空気量、O2濃度が所定範囲内となる運転条件が上記第2条件である。吸入空気量は、例えば、VVT21により吸気弁16の開閉タイミングを変更することで、調整できる。VVT21により吸気弁16の閉タイミングを吸気下死点に近づけることで、吸入空気量を増加させることができる。また、O2濃度は、例えば、EGR装置26によるEGR量を変更することで、調整できる。EGRバルブ28の開度を縮小することで、EGR量を減少させることができるので、O2濃度を増加させることができる。また、スモーク発生が少ない主噴射と副噴射をしない条件で、O2濃度を減少させることも可能である。したがって、第2条件はエンジン10の運転に支障をきたさない範囲で、燃料性状検出可能な条件であれば良い。
【0030】
次に、検出用噴射F3(図2参照)の噴射条件を設定する(S13)。ここでは、先ず、使用燃料が標準燃料と低セタン燃料のどちらかであるかを特定するための噴射条件を設定する。具体的には、噴射条件として、図4の「A」で示す噴射タイミングを設定する。その噴射タイミングは、標準燃料と低セタン燃料の間では着火タイミングに差異が生じるが、軽質低セタン燃料と重質低セタン燃料の間ではその差異が小さいタイミング(図4の横軸において遅めのタイミング)である。S13で設定する噴射タイミングは、図4の「A」のタイミングで示される特徴を有したタイミングであればいつでも良いが、例えば、図2のF3で示すように、副噴射F2よりも早いタイミングに設定される。これによって、検査用噴射F3は主噴射F1、副噴射F2とずれることになるので、検査用噴射F3による燃料性状の検出を精度よく行うことができる。また、主噴射F1、副噴射F2の役割が損なわれることを防止できる。また、検査用噴射F3における噴射量は、着火可能な噴射量であれば燃料性状の検出という観点では特に限定はないが、主噴射F1、副噴射F2の役割を損なわない程度に少ない量に設定する。なお、S13の処理を実行するECU40が本発明の「設定手段」に相当する。
【0031】
次に、S13で設定した噴射条件(噴射タイミング、噴射量)で、インジェクタ17により検査用噴射F3を開始する(S14)。なお、S14の処理を実行するECU40が本発明の「噴射制御手段」に相当する。次に、筒内圧センサ31の検出値に基づいて、検査用噴射F3で噴射された燃料の着火タイミングを検出する(S15)。具体的には、S14の検査用噴射F3の開始から、燃料の燃焼による筒内圧の上昇が筒内圧センサ31により検出されるまでの期間を検出する。なお、着火の前後ではシリンダブロック11の振動の様子が変わってくるので、ノックセンサ32の検出値(シリンダブロック11の振動の様子)に基づいて着火タイミングを検出しても良い。なお、S15の処理を実行するECU40が本発明の「着火性検出手段」に相当する。
【0032】
次に、S15で検出した着火タイミングが予め定められた閾値より遅いか否かを判断する(S16)。この閾値は、図4のライン200の位置、つまり図4の標準燃料の特性と、低セタン燃料(軽質低セタン燃料、重質低セタン燃料)の特性の間の位置に設定される。着火タイミングが閾値より早い場合には(S16:No)、使用燃料は、図3の標準セタン価領域101に位置する燃料(標準燃料)であると特定する(S17)。その後、図5のフローチャートの処理を終了する。
【0033】
これに対し、着火タイミングが閾値より遅い場合には(S16:Yes)、使用燃料は、図3の軽質領域102又は重質領域103に位置する低セタン燃料であると特定する(S18)。次に、S14で開始した検査用噴射F3における噴射タイミングを、S14の開始時のそれから進角させる(S19)。つまり、S19では、S14で設定した噴射タイミングから進角させた噴射タイミングを再設定し、再設定した噴射タイミングで検査用噴射F3を行う。なお、図2にはS19における噴射タイミングの変更(進角)を(1)「タイミング変更」における矢印301で示している。どの程度進角させるかは、例えば、図4の「B」のタイミングのように、軽質低セタン燃料と重質低セタン燃料の間における着火タイミングの差異が大きくなる噴射タイミングまで進角させる。具体的には、燃料の分子構造に起因した反応速度の影響が顕著にあらわれるように、シリンダ11a内の温度、圧力が十分に低いタイミングまで進角させる。進角後の噴射タイミング(図4の「B」の噴射タイミング)は、軽質低セタン燃料と重質低セタン燃料の間で着火タイミングに差異が生じる程度に圧縮上死点から進角させた噴射タイミングである。なお、S19の処理を実行するECU40が本発明の「設定手段」及び「噴射制御手段」に相当する。
【0034】
次に、噴射タイミングの進角後の検査用噴射F3で噴射された燃料の着火タイミングをS15と同様の方法で検出する(S20)。なお、S20の処理を実行するECU40が本発明の「着火性検出手段」に相当する。次に、S15で検出した着火タイミングとS19で検出した着火タイミングの間の変化率を算出する(S21)。この変化率は、S15で検出し着火タイミングとS19で検出した着火タイミングの差分(変化量)を、S19の進角量(図4のAとBの間隔)で割った値となる。そして、算出した変化率が予め定められた閾値より大きいか否かを判断する(S21)。つまり、S21では、噴射タイミングに対する着火タイミングの変化を示したライン(図4参照)の傾きを算出して、その傾きが閾値より大きいか否かを判断することを意味する。
【0035】
なお、S21では、着火タイミングの変化率に代えて、S19の進角前後における着火タイミングの変化量が閾値より大きいか否かを判断しても良いし、S19の進角後の着火タイミングの絶対値(図4の「B」における着火タイミング)が閾値より大きいか否かを判断しても良い。図4に示すように、重質低セタン燃料の着火タイミングの変化率、変化量又は絶対値は、軽質低セタン燃料のそれらよりも大きくなっている。
【0036】
そこで、着火タイミングの変化率、変化量又は絶対値が閾値より大きい場合には(S21:Yes)、使用燃料は図3の重質領域103に位置する重質低セタン燃料であると特定する(S23)。その後、図5のフローチャートの処理を終了する。これに対して、着火タイミングの変化率、変化量又は絶対値が閾値より小さい場合には(S21:No)、使用燃料は図3の軽質領域102に位置する軽質低セタン燃料であると特定する(S22)。その後、図5のフローチャートの処理を終了する。なお、S16〜S18、S21〜S23の処理を実行するECU40が本発明の「燃料性状特定手段」に相当する。また、S16〜S18の処理を実行するECU40が本発明の「第1の特定手段」に相当する。また、S21〜S23の処理を実行するECU40が本発明の「第2の特定手段」に相当する。
【0037】
図5の処理で使用燃料の燃料性状を特定した後、ECU40は、特定した燃料性状に応じた燃焼制御を実行する。具体的には、ECU40は、使用燃料が標準燃料の場合には、各種センサの検出値に基づいて、予め適合化された制御状態となるように、インジェクタ17による燃料の噴射量、VVT21による吸気弁16の開閉タイミング、及びEGR装置26によるEGR弁の開度(EGR量)を制御する。また、使用燃料が重質低セタン燃料の場合には、例えば、EGR装置26によるEGR量を減少させて、シリンダ11a内のO2濃度を上昇させる。これによって、燃料の酸化が促進されるため、燃料の着火タイミングを早めることができる。したがって、燃料の着火位置を燃焼室の内側に移動させることができ、ひいては燃焼重心を燃焼室の内側に移動させることができ、冷却損失を抑制することができる。また、重質成分が重合する前に燃焼・酸化することにより、スモークの発生を抑制することができる。
【0038】
また、使用燃料が軽質低セタン燃料の場合には、例えば、VVT21により吸気弁16の開閉タイミングを変更させて、シリンダ11aで吸気(気体)を圧縮する際の圧縮比を上昇させたり、パイロット噴射(図2の副噴射F2)の噴射量を増加させたりする。シリンダ11aでの吸気の圧縮比を上昇させると、噴射された燃料が着火までに過度に拡散することを抑制して燃焼を安定させることができ、燃料の着火性を向上させることができる。また、噴霧が着火前に燃焼室壁面に付着する量を抑えることにより、冷却損失やHCの発生を抑制することができる。また、インジェクタ17により実行されるパイロット噴射の噴射量を増加させると、パイロット噴射による燃焼を安定させることができるとともに、シリンダ11a内の温度をより上昇させることができる。その結果、パイロット噴射に続く主噴射による燃焼を安定させることができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、図5のS16の処理により、使用燃料のセタン価の高低を特定できるとともに、低セタン価と特定した場合には、S18以降の処理により、軽質か重質か(密度の高低)を特定できる。よって、使用燃料の燃料性状に応じた最適な燃焼制御を実行できる。また、軽質か重質かの特定の際に、燃料密度を検出するセンサ(燃料密度センサ)を用いていないので、センサ数の増加を抑えることができる。また、検査用噴射の噴射条件の設定を、S13とS19の2段階に分けて、先ず標準燃料か低セタン燃料かを特定し、低セタン燃料であると特定したことを条件に次に軽質か重質かを特定しているので、それら特定を精度よく行うことができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心にして説明する。本実施形態の構成は図1の構成と同じである。ECU40が実行する燃料性状検出処理が第1実施形態と異なっている。ここで、図6は、本実施形態における燃料性状の検出方法の考え方を説明する図である。詳細には、図6は、燃料密度と、燃料の着火が可能な限界の噴射量(失火限界噴射量)との関係を、標準セタン価の燃料(標準燃料)、低セタン価の燃料(低セタン燃料)ごとに示した図である。図6において、ライン201は低セタン燃料の失火限界噴射量を示し、ライン202は標準燃料の失火限界噴射量を示している。なお、失火限界噴射量は、着火不能な噴射量と着火可能な噴射量の境界に位置する噴射量に相当する。低セタン燃料では、ライン201より上の領域で着火が可能であり、ライン201より下の領域では着火が不能、つまり失火する。標準燃料では、ライン202より上の領域で着火が可能であり、ライン202より下の領域では着火が不能、つまり失火する。
【0041】
図6に示すように、低セタン燃料は標準燃料に比べて失火限界噴射量が多くなっている。これは、低セタン燃料は、標準燃料に比べてセタン価が低く、着火性が悪いためである。また、低セタン燃料、標準燃料のどちらも、密度が低いほど、失火限界噴射量が多い。これは、密度が低い軽質燃料は、沸点が低く蒸散性が高い。蒸散性が高いと、噴射タイミングが早く(気筒内の温度、圧力が低く)、噴射量が少ない条件では、気筒内に噴射された燃料噴霧は蒸散により消えてリーン(空気過剰)になり過ぎてしまい、その結果、失火しやすくなるためである。なお、図6のライン201では、高密度側のラインと低密度側のラインの中間を点線201aで図示している。この点線201aの領域は、図3の領域104に相当し、中間密度(標準燃料の密度付近)の低セタン燃料が存在しないことを意味する。
【0042】
なお、図3の標準セタン価領域101は、高密度側(重質領域103の密度側)に及んでいないので、図6のライン202では、高密度側には図示されていない。
【0043】
ECU40は、使用燃料が標準燃料か低セタン燃料かは第1実施形態と同様にして特定する一方で、軽質低セタン燃料か重質低セタン燃料は図6のライン201で示す特性を利用して特定する。図7は、本実施形態における燃料性状検出処理のフローチャートである。図7において、図5の処理と同一の処理には同一の符号を付している。
【0044】
図7において、先ず、第1実施形態と同様に、検査用噴射F3(図2参照)における着火タイミングが閾値より遅いか否かを判断する(S11〜S16)。ただし、S13、S14で実行する検査用噴射F3における噴射タイミングは、後述のS24で噴射量を減少させた際に、軽質燃料を失火させることができる程度に、シリンダ11a内の圧力、温度が低いタイミング(図2の副噴射F2より早いタイミング)に設定される。S16において、着火タイミングが閾値よりも早い場合には(S16:No)、使用燃料は標準燃料であると特定し(S17)、遅い場合には(S16:Yes)、使用燃料は低セタン燃料であると特定する(S18)。
【0045】
使用燃料は低セタン燃料であると特定した場合、次に、S13で設定した噴射タイミングに固定したままで、検査用噴射F3における噴射量を、S13で設定した噴射量から減少させる(S24)。つまり、S24では、S13で設定した噴射量から減少させた噴射量を再設定し、その再設定した噴射量で検査用噴射F3を行う。なお、図2には、S24における噴射量変更の様子を(2)「噴射量変更」における矢印302で示している。噴射量をどの程度減少させるかは、減少後の噴射量が、軽質低セタン燃料に対しては失火限界噴射量に達し、重質低セタン燃料に対しては失火限界噴射量に達しない噴射量となるように、その減少量を設定する。具体的には、例えば、減少後の噴射量が図6の点線201aの領域に位置する失火限界噴射量C(以下、閾値噴射量という)となるように、検査用噴射F3の噴射量を減少させる。この場合、閾値噴射量Cでの密度Dより低密度側の軽質低セタン燃料では、失火限界噴射量は閾値噴射量Cよりも多いので、失火する(着火不能)。これに対し、密度Dより高密度側の重質低セタン燃料では、失火限界噴射量は閾値噴射量Cよりも少ないので、失火しない(着火可能)。なお、S24の処理を実行するECU40が本発明の「設定手段」、「噴射制御手段」に相当する。
【0046】
次に、筒内圧センサ31又はノックセンサ32の検出値に基づいて噴射量減少後の検査用噴射F3で噴射された燃料の着火タイミングの検出を試みる(S25)。なお、S25の処理を実行するECU40が本発明の「着火性検出手段」に相当する。次に、S25の着火タイミングの検出結果に基づいて、S24の検査用噴射F3による燃焼が失火したか否かを判断する(S26)。具体的には、S25の検出結果が着火タイミングを検出できなかった結果の場合には、着火しなかったと判断、つまり失火したと判断し、着火タイミングを検出できた結果の場合には着火したと判断、つまり失火しなかったと判断する。なお、S25では、失火の検出を試み、S26では、失火を検出できたか否かを判断することと同義である。
【0047】
S26において失火した場合には(S26:Yes)、使用燃料は軽質低セタン燃料であると特定する(S27)。これに対して、失火しなかった場合には(S26:No)、使用燃料は重質低セタン燃料であると特定する(S28)。S27、S28の後、図7のフローチャートの処理を終了する。その後、ECU40は、第1実施形態と同様に、特定した燃料性状に応じた燃焼制御を実行する。このように、本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、S26〜S28の処理を実行するECU40が本発明の「燃料性状特定手段」、「第2の特定手段」に相当する。
【0048】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。本実施形態は、第2実施形態の変形例に位置づけられる実施形態である。すなわち、第2実施形態では、使用燃料が低セタン燃料の場合に、図6の特性を利用して軽質低セタン燃料か重質低セタン燃料かを特定したが、本実施形態では、図6の特性を利用して使用燃料の密度そのものを特定する。ここで、図8は、本実施形態におけるECU40が実行する燃料性状検出処理のフローチャートである。図8において、図7の処理と同一の処理には同一符号を付している。図8の処理では、S11〜S18が図7の処理と同じであり、S29以下の処理が図7の処理と異なっている。
【0049】
すなわち、先ず、使用燃料が標準燃料か低セタン燃料かを上記実施形態と同様の方法で特定する(S11〜S18)。使用燃料が低セタン燃料であると特定した場合、次に、図7のS24と同様に、S13で設定した噴射タイミングに固定したままで、検査用噴射F3における噴射量を、S13で設定した噴射量から減少させる(S29)。つまり、S29では、S13で設定した噴射量から減少させた噴射量を再設定し、その再設定した噴射量で検査用噴射F3を行う。ただし、S29では、噴射量の減少量がS24と異なり、具体的には、使用燃料の失火限界噴射量を特定することを目的として、失火限界噴射量に至るまで噴射量を徐々に減少させていく。そのために、今回のS29では、予め定められた微小減少量だけ噴射量を減少させる。なお、S29の処理を実行するECU40が本発明の「設定手段」、「噴射制御手段」に相当する。
【0050】
次に、筒内圧センサ31又はノックセンサ32の検出値に基づいて噴射量減少後の検査用噴射F3で噴射された燃料の着火タイミングの検出を試みる(S30)。次に、S30の着火タイミングの検出結果に基づいて、S29の検査用噴射F3による燃焼が失火したか否かを判断する(S31)。失火しなかった場合には(S31:No)、S29に戻って、検査用噴射F3における噴射量をさらに予め定められた微小減少量だけ減少させる。このように、S31で失火が検出されるまで、検査用噴射F3における噴射量が徐々に減少していく。
【0051】
S31で失火を検出した場合には(S31:Yes)、S29で調整した最新の噴射量を使用燃料における失火限界噴射量として特定する(S32)。なお、S30〜S32の処理を実行するECU40が本発明の「着火性検出手段」に相当する。次に、S32で特定した失火限界噴射量及び図6のライン201で示す特性に基づいて、使用燃料の密度(軽質か重質か)を特定する(S33)。そのために、図6のライン201で示す特性を予め実験で求めておき、求めたその特性をメモリ41(図1参照)に記憶させておく。S33の後、図8のフローチャートの処理を終了する。なお、S33の処理を実行するECU40が本発明の「燃料性状特定手段」、「第2の特定手段」に相当する。
【0052】
以上説明したように、本実施形態では、使用燃料の低セタン価と特定した場合に、その使用燃料の密度そのものを特定することができる。よって、特定したセタン価及び密度に応じてよりきめ細かい燃焼制御を実行することができる。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限度で種々の変更が可能である。例えば、図7のS13では、図4の「A」の噴射タイミングで検査用噴射を行っていたが、「B」の噴射タイミングで検査用噴射を行っても良い。この場合、S16における閾値は、図4のライン203の位置に設定される。これによっても、標準燃料か低セタン燃料かを特定できる。また、「B」の噴射タイミングでは、軽質低セタン燃料と重質低セタン燃料との間でも着火タイミングの差異が大きくなっている。そこで、図7のS18以降では、S24〜S26の噴射量減少による失火か否かの判断に加えて、S15で検出される着火タイミングも考慮して、軽質低セタン燃料か重質低セタン燃料かを特定しても良い。これによって、軽質低セタン燃料か重質低セタン燃料かの特定精度を向上できる。
【0054】
また、上記実施形態では、図5図7図8のS16では着火タイミングが早いか遅いかに基づいて標準燃料か低セタン燃料かを特定、つまり使用燃料のセタン価の高低を特定していたが、図6の特性に基づいてその特定を行っても良い。具体的には、図6のライン201、202で示されるように、セタン価が高いほど失火限界噴射量が少なくなる。そこで、図8のS29〜S32と同様にして使用燃料の失火限界噴射量を求めて、その失火限界噴射量が閾値より多いか少ないかを判断する。そして、失火限界噴射量が閾値より多い場合に低セタン燃料と特定し、閾値より少ない場合に標準燃料と特定する。
【0055】
また、上記実施形態では、使用燃料が、標準燃料、軽質低セタン燃料、重質低セタン燃料のどれであるかを特定していた。つまり、図3の3つの領域101〜103のどの位置の燃料かを特定していたが、図3の領域をさらに細かい領域に分けて、使用燃料がそれら領域のどれに位置するかを特定しても良い。具体的には、例えば、図3では低セタン領域として密度が高いか低いかで2つの領域102、103に分けていたが、密度に応じて3つ以上の領域に分けても良い。この場合、密度が高くなるほど(重質成分が多くなるほど)、図4の「B」のタイミングにおける着火タイミングが遅くなる。そこで、図5のS21では異なる複数の閾値を設定する。そして、S20で検出された着火タイミングの変化率、変化量又は絶対値が複数の閾値のうちのどの閾値間の位置にあるかに基づいて、低セタン燃料の密度をより細かく特定しても良い。これによって、より正確に使用燃料の燃料性状(セタン価、密度)を検出できる。
【0056】
また、図8のS29以降では、検査用噴射の噴射量を多い状態から少ない状態に減少させていき、着火→失火を検出することで、失火限界噴射量を特定していた。反対に、検査用噴射の噴射量を少ない状態から多い状態に増加させていき、失火→着火を検出することで、失火限界噴射量を特定しても良い。
【符号の説明】
【0057】
10 ディーゼルエンジン(内燃機関)
11a シリンダ(気筒)
17 インジェクタ(燃料噴射弁)
40 ECU(燃料性状検出装置)
図1
図2
図4
図5
図6
図7
図8
図3