(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料を蓄圧保持する蓄圧容器(42)と、前記燃料を噴射孔(11b)から噴射する燃料噴射弁(10)と、前記蓄圧容器から前記噴射孔まで前記燃料を流通させる燃料通路(42b、11a)と、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサ(20)と、を備える燃料噴射システムに適用される燃料性状判定装置(30)であって、
前記燃料噴射弁による前記燃料の噴射時に前記燃圧センサにより検出される前記燃料圧力に基づいて、前記燃料圧力の変化を示す圧力波形を取得する波形取得部と、
前記波形取得部により取得される前記圧力波形の脈動周期及び前記燃料通路の長さに基づいて、前記圧力波形を形成する圧力波の速度を算出する速度算出部と、
前記速度算出部により算出される前記速度に基づいて、前記燃料の密度を算出する密度算出部と、
前記燃料のセタン価を算出するセタン価算出部と、
前記密度算出部により算出される前記密度及び前記セタン価算出部により算出される前記セタン価に基づいて、前記燃料の動粘度を算出する動粘度算出部と、
前記動粘度算出部により算出される前記動粘度に基づいて、前記燃料の性状を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする燃料性状判定装置。
燃料を蓄圧保持する蓄圧容器と、前記燃料を噴射孔から噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器から前記噴射孔まで前記燃料を流通させる燃料通路と、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備える燃料噴射システムに適用される燃料性状判定装置であって、
前記燃料噴射弁による前記燃料の噴射時に前記燃圧センサにより検出される前記燃料圧力に基づいて、前記燃料圧力の変化を示す圧力波形を取得する波形取得部と、
前記波形取得部により取得される前記圧力波形の脈動周期及び前記燃料通路の長さに基づいて、前記圧力波形を形成する圧力波の速度を算出する速度算出部と、
前記速度算出部により算出される前記速度に基づいて、前記燃料の密度を算出する密度算出部と、
前記燃料のセタン価を算出するセタン価算出部と、
前記密度算出部により算出される前記密度及び前記セタン価算出部により算出される前記セタン価に基づいて、前記燃料の性状を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする燃料性状判定装置。
前記動粘度算出部は、燃料の密度、動粘度、及びセタン価の予め求められた相関関係を用いて、前記密度算出部により算出される前記密度から前記動粘度を算出する請求項1に記載の燃料性状判定装置。
前記動粘度算出部は、燃料の密度と動粘度との予め求められた相関関係を用いて、前記密度算出部により算出される前記密度から前記動粘度を算出し、前記セタン価算出部により算出される前記セタン価に応じて前記動粘度を補正する請求項1に記載の燃料性状判定装置。
前記速度算出部は、前記燃料通路の長さの2倍の長さを、前記波形取得部により取得される前記圧力波形の脈動周期で割ることにより、前記速度を算出する請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料性状判定装置。
前記動粘度算出部により算出される前記動粘度に基づいて、前記燃料噴射弁による前記燃料の噴射状態を制御する制御部を備える請求項1、5,6のいずれか1項に記載の燃料性状判定装置。
前記判定部は、前記密度算出部により算出される前記密度が所定密度よりも高い場合に、前記セタン価算出部により前記セタン価を算出することなく、前記燃料の性状が良好であると判定する請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料性状判定装置。
前記判定部は、前記セタン価算出部により算出される前記セタン価が所定セタン価よりも高い場合に、前記密度算出部により前記密度を算出することなく、前記燃料の性状が良好であると判定する請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料性状判定装置。
燃料を蓄圧保持する蓄圧容器と、前記燃料を噴射孔から噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器から前記噴射孔まで前記燃料を流通させる燃料通路と、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備える燃料噴射システムにおいて、前記燃料の性状を判定する方法であって、
前記燃料噴射弁による前記燃料の噴射時に前記燃圧センサにより検出される前記燃料圧力に基づいて、前記燃料圧力の変化を示す圧力波形を取得する工程と、
取得した前記圧力波形の脈動周期及び前記燃料通路の長さに基づいて、前記圧力波形を形成する圧力波の速度を算出する工程と、
算出した前記速度に基づいて、前記燃料の密度を算出する工程と、
前記燃料のセタン価を算出する工程と、
算出した前記密度及び算出したセタン価に基づいて、前記燃料の動粘度を算出する工程と、
算出した前記動粘度に基づいて、前記燃料の性状を判定する工程と、
を備えることを特徴とする燃料性状判定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料の温度変化は緩やかであるため、燃料供給ポンプの異常を検出するまでに、ポンプの駆動や燃料噴射弁による燃料噴射等に悪影響を及ぼすおそれがある。また、燃料の温度を正確に検出するためには、高精度の温度センサが必要となる。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、迅速に燃料性状を判定することのできる燃料性状判定装置、及び燃料性状判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1に記載の発明は、燃料を蓄圧保持する蓄圧容器と、前記燃料を噴射孔から噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器から前記噴射孔まで前記燃料を流通させる燃料通路と、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備える燃料噴射システムに適用される燃料性状判定装置であって、前記燃料噴射弁による前記燃料の噴射時に前記燃圧センサにより検出される前記燃料圧力に基づいて、前記燃料圧力の変化を示す圧力波形を取得する波形取得部と、前記波形取得部により取得される前記圧力波形の脈動周期及び前記燃料通路の長さに基づいて、前記圧力波形を形成する圧力波の速度を算出する速度算出部と、前記速度算出部により算出される前記速度に基づいて、前記燃料の密度を算出する密度算出部と、前記燃料のセタン価を算出するセタン価算出部と、前記密度算出部により算出される前記密度及び前記セタン価算出部により算出される前記セタン価に基づいて、前記燃料の動粘度を算出する動粘度算出部と、前記動粘度算出部により算出される前記動粘度に基づいて、前記燃料の性状を判定する判定部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、蓄圧容器に燃料が蓄圧保持され、燃料通路を通じて蓄圧容器から燃料噴射弁の噴射孔まで燃料が流通させられる。燃料通路内の燃料圧力が燃圧センサにより検出される。また、燃料のセタン価が算出される。なお、セタン価の算出方法としては、公知の種々の方法を採用することができる。
【0009】
ここで、燃料噴射弁による燃料の噴射時に燃圧センサにより検出される燃料圧力に基づいて、燃料圧力の変化を示す圧力波形が取得される。取得された圧力波形の脈動周期及び燃料通路の長さに基づいて、圧力波形を形成する圧力波の速度が算出される。すなわち、燃料の噴射後に燃料通路内に残留する圧力波は、燃料通路内を往復して定常波を形成する。このため、圧力波形の脈動周期(定常波の振動周期)と燃料通路の長さとに基づいて、圧力波の速度を算出することができる。なお、定常波においては、燃圧センサが燃料通路内の燃料圧力を検出する位置は任意である。そして、算出された圧力波の速度に基づいて、燃料の密度が算出される。すなわち、圧力波の速度と燃料の密度との物理的関係に基づいて、燃料の密度を算出することができる。
【0010】
そして、算出された燃料の密度及び算出されたセタン価に基づいて、燃料の動粘度が算出される。すなわち、燃料の密度と燃料の動粘度とは相関関係がある。さらに、セタン価を考慮することで、燃料の密度と燃料の動粘度との相関がより強くなることが、本願発明者によって確認された。したがって、これらの相関関係を用いて、燃料の密度から燃料の動粘度を算出することができる。なお、燃料の密度、燃料の動粘度、及びセタン価の相関関係は、予め実験等により求めておくことができる。
【0011】
燃料の動粘度は、燃料の潤滑油としての特性等を示すため、燃料の動粘度に基づいて燃料性状の良否を判定することができる。このように、燃料の噴射時に燃圧センサにより燃料圧力を検出することによって、燃料の性状を判定することができる。したがって、迅速に燃料性状を判定することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、燃料を蓄圧保持する蓄圧容器と、前記燃料を噴射孔から噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器から前記噴射孔まで前記燃料を流通させる燃料通路と、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備える燃料噴射システムに適用される燃料性状判定装置であって、前記燃料噴射弁による前記燃料の噴射時に前記燃圧センサにより検出される前記燃料圧力に基づいて、前記燃料圧力の変化を示す圧力波形を取得する波形取得部と、前記波形取得部により取得される前記圧力波形の脈動周期及び前記燃料通路の長さに基づいて、前記圧力波形を形成する圧力波の速度を算出する速度算出部と、前記速度算出部により算出される前記速度に基づいて、前記燃料の密度を算出する密度算出部と、前記燃料のセタン価を算出するセタン価算出部と、前記密度算出部により算出される前記密度及び前記セタン価算出部により算出される前記セタン価に基づいて、前記燃料の性状を判定する判定部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上述したように、燃料の密度、燃料の動粘度、及びセタン価は、相関関係がある。したがって、請求項2に記載の発明のように、算出された密度及びセタン価に基づいて、燃料の性状を判定することもできる。
【0014】
請求項11に記載の発明は、燃料を蓄圧保持する蓄圧容器と、前記燃料を噴射孔から噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器から前記噴射孔まで前記燃料を流通させる燃料通路と、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備える燃料噴射システムにおいて、前記燃料の性状を判定する方法であって、前記燃料噴射弁による前記燃料の噴射時に前記燃圧センサにより検出される前記燃料圧力に基づいて、前記燃料圧力の変化を示す圧力波形を取得する工程と、取得した前記圧力波形の脈動周期及び前記燃料通路の長さに基づいて、前記圧力波形を形成する圧力波の速度を算出する工程と、算出した前記速度に基づいて、前記燃料の密度を算出する工程と、前記燃料のセタン価を算出する工程と、算出した前記密度及び算出したセタン価に基づいて、前記燃料の動粘度を算出する工程と、算出した前記動粘度に基づいて、前記燃料の性状を判定する工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
上記工程によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、車載ディーゼルエンジンのコモンレール式燃料噴射システムとして具体化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ディーゼルエンジン(内燃機関)は、4つの気筒#1〜#4を備えており、気筒内に高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させる。
【0018】
図1は、燃料噴射システムの概略を示す模式図である。まず、燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射システムについて説明する。
【0019】
燃料タンク40内の燃料は、燃料ポンプ41によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧保持される。コモンレール42には、各燃料配管42bを介して、各気筒の燃料噴射弁10(#1〜#4)が接続されている。コモンレール42内の燃料は、各燃料配管42bを通じて、燃料噴射弁10(#1〜#4)へ分配供給される。複数の燃料噴射弁10(#1〜#4)は、所定の順序で燃料の噴射を行う。本実施形態では、#1→#3→#4→#2の順番で繰り返し噴射することを想定している。
【0020】
なお、燃料ポンプ41にはプランジャポンプが用いられており、プランジャの往復動に同期して燃料が圧送される。そして、燃料ポンプ41は、エンジン出力を駆動源としてクランク軸により駆動され、#1→#3→#4→#2の順番で噴射される期間中に、決められた回数だけ燃料を圧送する。
【0021】
燃料噴射弁10は、ボデー11、ニードル形状の弁体12及び電動アクチュエータ13等を備えている。ボデー11は、内部に高圧通路11aを形成するとともに、燃料を噴射する噴射孔11bを形成している。弁体12は、ボデー11内に収容されて噴射孔11bを開閉する。なお、上記燃料配管42b及び高圧通路11aによって、コモンレール42から噴射孔11bまで燃料を流通させる燃料通路が構成されている。
【0022】
ボデー11内には弁体12に背圧を付与する背圧室11cが形成されており、高圧通路11a及び低圧通路11dは背圧室11cと接続されている。電動アクチュエータ13は、高圧通路11a及び低圧通路11dと背圧室11cとの連通状態を切り換えるように、制御弁14を作動させる。電動アクチュエータ13の駆動は、ECU30により制御される。
【0023】
背圧室11cが低圧通路11dと連通するよう制御弁14を作動させると、背圧室11c内の燃料圧力は低下して弁体12はリフトアップ(開弁作動)し、噴射孔11bが開かれる。その結果、コモンレール42から高圧通路11aへ供給された高圧燃料は、噴射孔11bから燃焼室へ噴射される。一方、背圧室11cが高圧通路11aと連通するよう制御弁14を作動させると、背圧室11c内の燃料圧力は上昇して弁体12はリフトダウン(閉弁作動)し、噴射孔11bが閉じられて燃料噴射が停止される。
【0024】
燃圧センサ20は、以下に説明するステム21(起歪体)及び圧力センサ素子22等を備えている。ステム21はボデー11に取り付けられており、ステム21に形成されたダイヤフラム部21aが高圧通路11aを流通する高圧燃料の圧力を受けて弾性変形する。圧力センサ素子22はダイヤフラム部21aに取り付けられており、ダイヤフラム部21aで生じた弾性変形量に応じて圧力検出信号をECU30へ出力する。
【0025】
燃圧センサ20は、全ての燃料噴射弁10に搭載されている。以下の説明では、気筒#1に搭載されている燃料噴射弁10を噴射弁10(#1)、噴射弁10(#1)に搭載されている燃圧センサ20をセンサ20(#1)と記載する。同様に、気筒#2〜#4に搭載されている燃料噴射弁10および燃圧センサ20を、噴射弁10(#2〜#4)、センサ20(#2〜#4)と記載する。
【0026】
ECU30(電子制御装置)は、CPU、ROM、RAM、記憶装置、及び入出力インターフェイス等を備える周知のマイクロコンピュータである。ECU30は、車両のアクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度NE等に基づき目標噴射状態(噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を算出する。例えば、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対応する最適噴射状態を、噴射状態マップにして記憶させておく。そして、現状のエンジン負荷及びエンジン回転速度に基づき、噴射状態マップを参照して目標噴射状態を算出する。なお、エンジン回転速度NEは、エンジンに設けられた回転速度センサ25により検出される。
【0027】
算出した目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、tq(
図2(a)参照)は、後に詳述する噴射率パラメータtd,te,Rmaxに基づき設定される。そして、これらの噴射率パラメータの学習値は、燃圧センサ20の検出値の変化(圧力波形)により検出される。
【0028】
次に、噴射率パラメータを検出して学習する手法について、
図2を用いて以下に説明する。なお、以下の説明では、噴射弁10(#1)で燃料噴射した時のセンサ20(#1)の検出値に基づく学習についての説明であるが、他の噴射弁で噴射している時についても同様であり、噴射している燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20の検出値に基づき噴射率パラメータを学習する。
【0029】
例えば噴射弁10(#1)で燃料噴射した時には、センサ20(#1)の検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形(
図2(c)参照)として検出する。検出した燃圧波形に基づき単位時間当たりの燃料噴射量の変化を表した噴射率波形(
図2(b)参照)を演算して、噴射状態を検出する。検出した噴射率波形(噴射状態)を特定する噴射率パラメータtd,te,Rmaxを学習して、噴射弁10(#1)の噴射制御に用いる。
【0030】
図2(c)の燃圧波形に示されるセンサ20(#1)の検出値は、噴射開始に伴い変化点P1から降下を開始し、最大噴射率に達したことに伴い変化点P2にて降下が終了する。その後、弁体12のリフトダウンを開始したことに伴い変化点P3で上昇を開始し、弁体12が閉弁して噴射終了したことに伴い変化点P4で上昇が終了する。その後、上昇と下降を繰り返すよう脈動しながら減衰していく(一点鎖線枠Wc内参照)。すなわち、燃料の噴射後に燃料配管42b及び高圧通路11a内に残留する圧力波は、燃料配管42b及び高圧通路11a内を往復して定常波を形成する。
【0031】
燃料を噴射した直後は、その噴射分だけ噴射システム内全体の燃料圧力が低下する。詳しくは、
図2(c)に示すように、噴射開始前の基準圧力Psから噴射終了後の圧力Peまで、燃料圧力が低下量ΔPcだけ低下する。
【0032】
この燃圧波形は、
図2(b)に示す噴射率波形と相関がある。具体的には、変化点P1の出現時期と噴射開始時期R1とは相関があり、変化点P3の出現時期と噴射終了時期R4とは相関があり、変化点P1からP2までの圧力降下量ΔPと最大噴射率(噴射率パラメータRmax)とは相関がある。
【0033】
図2(a)は、噴射弁10(#1)に出力した噴射指令信号を示しており、先述した噴射率パラメータtdは、噴射開始指令時期t1に対する噴射開始時期R1の遅れ時間(噴射開始遅れ時間td)である。噴射率パラメータteは、噴射終了指令時期t2に対する噴射終了時期R4の遅れ時間(噴射終了遅れ時間te)である。
【0034】
したがって、先述した各種相関を表す相関係数を予め試験して取得しておき、これらの相関係数を用いて、センサ20(#1)の燃圧波形から検出された変化点P1,P3の出現時期および圧力降下量ΔPに基づき、噴射率パラメータtd,te,Rmaxを算出する。また、これらの噴射率パラメータtd,te,Rmaxに基づいて噴射率波形を推定することができ、推定した噴射率波形の面積(
図2(b)中の網点ハッチ参照)に基づき噴射量Qを算出する。
【0035】
以上により、燃圧センサ20の検出値を用いれば、噴射指令信号に対する実際の噴射状態(噴射率パラメータtd,te,Rmaxおよび噴射量Q等)を算出して学習することができる。そして、ECU30は、その学習値に基づき目標噴射状態に対応する噴射指令信号を設定する。
【0036】
次に、燃料噴射システムにおいて、現在使用されている燃料の性状を判定する燃料性状判定について説明する。
図3は、燃料性状判定の処理手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、ECU30(燃料性状判定装置)によって所定の周期で繰り返し実行される。
【0037】
まず、燃料性状判定用の噴射を実行する条件が成立しているか否か判定する(S10)。具体的には、エンジンの暖機が完了しており、エンジンの燃料カット中である場合に、判定用の噴射条件が成立していると判定する。この判定において、燃料性状判定用の噴射を実行する条件が成立していないと判定した場合(S10:NO)、この一連の処理を一旦終了する(END)。
【0038】
一方、S10の判定において、燃料性状判定用の噴射を実行する条件が成立していると判定した場合(S10:YES)、燃料噴射弁10により燃料を噴射させる(S11)。詳しくは、エンジン回転速度NEが所定の回転速度NEjになった時に、1つの燃料噴射弁10に対して、噴射指令信号を出力して所定量Qjの燃料を噴射させる。この燃料性状判定用の噴射は、1つの燃料噴射弁10によって1回のみ実行される。このとき、後述するS15の処理で算出される燃料の噴射量が所定量Qjとなるように、燃料噴射弁10の駆動を制御する。続いて、S12〜S16の燃料の密度ρを算出する処理と、S21〜S24の燃料の密度ρと動粘度νとの相関関係を選択する処理とが、並行して実行される。なお、S12〜S16の処理と、S21〜S24の処理とは、互いに前後して実行されてもよい。
【0039】
燃料噴射弁10による燃料噴射時に、噴射を行っている燃料噴射弁10の燃圧センサ20により検出される燃料圧力に基づいて、燃料圧力の変化を示す圧力波形を取得する(S12)。例えば、噴射弁10(#1)で燃料を噴射した時には、センサ20(#1)の検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を圧力波形(
図2(c)参照)として取得する。
【0040】
続いて、取得した圧力波形の脈動周期T及び燃料通路の長さLに基づいて、圧力波形を形成する圧力波の速度vを算出する(S13)。詳しくは、
図2(c)の一点鎖線枠Wc内に示すように、圧力波形のうち、燃料の噴射終了後に生じる脈動部分の1周期分を計測して周期Tを算出する。そして、この周期Tで、燃料配管42b及び高圧通路11a(燃料通路)の長さLの2倍の長さ2Lを割ることにより、圧力波の速度vを算出する。
【0041】
続いて、取得した圧力波形に基づいて、燃料噴射弁10による燃料の噴射前後での燃料圧力の低下量ΔPcを算出する(S14)。詳しくは、
図2(c)に示すように、噴射開始前の基準圧力Psから噴射終了後の圧力Peを引いて、燃料圧力の低下量ΔPcを算出する。
【0042】
続いて、取得した圧力波形に基づいて、燃料噴射弁10による燃料の噴射量Qを算出する(S15)。詳しくは、上述したように、噴射率パラメータtd,te,Rmaxに基づいて噴射率波形を推定し、推定した噴射率波形の面積(
図2(b)中の網点ハッチ参照)に基づき噴射量Qを算出する。なお、S13〜S15の処理順序は、任意に変更することができる。
【0043】
続いて、上記のように算出した速度v、低下量ΔPc、噴射量Q、及び燃料通路の容積Vに基づいて、燃料の密度ρを算出する(S16)。詳しくは、流体力学で規定される下式により、密度ρを算出する。燃料通路の容積Vは、燃料配管42bの容積と高圧通路11aの容積の合計である。なお、「v^2」は、vの二乗を意味する。ρ=ΔPc×V/(Q×v^2)。
【0044】
また、燃料噴射弁10による燃料噴射後に、エンジン回転速度NEの変動量ΔNEを検出する(S21)。詳しくは、
図4に示すように、エンジン回転速度NEが所定の回転速度NEjになった時に、所定量Qjの燃料が噴射されると、噴射された燃料の燃焼で発生するトルクTqによりエンジン回転速度NEが上昇(変動)する。そこで、燃料の噴射によるエンジン回転速度NEの変動量ΔNEを、回転速度センサ25により検出されるエンジン回転速度NEに基づいて検出する。
【0045】
続いて、検出された変動量ΔNEに基づいて、トルクTqの変動量ΔTqを算出する(S22)。詳しくは、検出された変動量ΔNEを用いて、下式によりトルクTqを算出する。Tq=k×NE×ΔNE。kは比例定数である。そして、トルクTqの変動量ΔTqを算出する。ここで、
図4に示すように、所定量Qjの燃料を噴射した際にエンジン回転速度NEが上昇する量は、燃料のセタン価CNに応じて異なる。具体的には、燃料のセタン価CNが高いほど、エンジン回転速度NEの上昇量は大きくなる。このため、エンジン回転速度NEの変動量ΔNEに基づいて算出されたるトルクTqの変動量ΔTqも、燃料のセタン価CNに応じて異なることとなる。
【0046】
続いて、算出されたトルクTqの変動量ΔTqに基づいて、燃料のセタン価CNを算出する(S23)。詳しくは、予め実験等に基づいて取得したトルクTqの変動量ΔTqと燃料のセタン価CNとの関係に基づいて、燃料のセタン価CNを算出する。なお、燃料の噴射によるエンジン回転速度NEの変動量ΔNEに基づいて、燃料のセタン価CNを算出することもできる。
【0047】
続いて、算出されたセタン価に基づいて、燃料の密度ρと動粘度νとの相関関係を選択する(S24)。詳しくは、
図5に「+」で示すように、全ての燃料を対象とした場合、燃料の密度ρと動粘度νとは相関を有するものの、そのばらつきが比較的大きくなっている。これに対して、同図に「○」で示すように、対象を低セタン価の燃料に絞ると、燃料の密度ρと動粘度νとの相関が強くなり、そのばらつきが比較的小さくなっている。実線の直線は、低セタン価の燃料における密度ρと動粘度νとの相関関係を示すグラフである。破線の直線は、実線の直線からのばらつきが所定値よりも小さくなる範囲の上限と下限とを示している。
【0048】
同様にして、
図6に「○」で示すように、対象を高セタン価の燃料に絞ると、燃料の密度ρと動粘度νとの相関が強くなり、そのばらつきが比較的小さくなっている。
図5に実線で示す低セタン価の燃料のグラフに対して、
図6に実線で示す高セタン価の燃料のグラフは、動粘度νが高い側にシフトすると共に傾きが大きくなっている。これらを踏まえて、算出されたセタン価に応じて、燃料の密度ρと動粘度νとの相関関係を示すグラフを選択する。
【0049】
続いて、選択した燃料の密度ρと動粘度νとの相関関係を示すグラフを用いて、密度ρから燃料の動粘度νを算出する(S17)。すなわち、燃料の密度ρ、動粘度ν、及びセタン価CNの予め求められた相関関係を用いて、算出された密度ρから燃料の動粘度νを算出する。
【0050】
続いて、算出した燃料の動粘度νが閾値rよりも小さいか否か判定する(S18)。ここで、燃料の動粘度νが小さいほど、燃料による潤滑性が低下し、燃料の潤滑油としての特性が低下することとなる。上記閾値rは、燃料ポンプ41の駆動や燃料噴射弁10による燃料の噴射に、現在使用している燃料が悪影響を及ぼすか否か判定することのできる値に設定されている。
【0051】
上記判定において、算出した燃料の動粘度νが閾値rよりも小さいと判定した場合(S18:YES)、燃料性状の悪化に対する処置を行う(S19)。ここで、燃料の動粘度νに応じて、燃料噴射弁10による燃料の噴射特性が変化する。このため、算出した燃料の動粘度νに基づいて、燃料噴射弁10による燃料の噴射状態を制御する。詳しくは、動粘度νに応じて、目標噴射状態(噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を補正する。そして、この一連の処理を一旦終了する(END)。
【0052】
一方、上記判定において、算出した燃料の動粘度νが閾値rよりも小さくないと判定した場合(S18:NO)、この一連の処理を一旦終了する(END)。すなわち、燃料性状が悪化していない(良好である)と判定して、燃料性状の悪化に対する処置は行わない。
【0053】
なお、S12の処理が波形取得部としての処理に相当し、S13の処理が速度算出部としての処理に相当し、S14の処理が低下量算出部としての処理に相当し、S15の処理が噴射量算出部としての処理に相当し、S16の処理が密度算出部としての処理に相当し、S21〜S23の処理がセタン価算出部としての処理に相当し、S17の処理が動粘度算出部としての処理に相当し、S18の処理が判定部としての処理に相当し、S19の処理が制御部としての処理に相当する。
【0054】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0055】
・燃料噴射弁10による燃料の噴射時に燃圧センサ20により検出される燃料圧力に基づいて、燃料圧力の変化を示す圧力波形が取得される。取得された圧力波形の脈動周期T及び燃料通路の長さLに基づいて、圧力波形を形成する圧力波の速度vが算出される。すなわち、燃料の噴射後に燃料通路内に残留する圧力波は、燃料通路内を往復して定常波を形成する。このため、圧力波形の脈動周期T(定常波の振動周期)と燃料通路の長さLとに基づいて、圧力波の速度vを算出することができる。なお、定常波においては、燃圧センサ20が燃料通路内の燃料圧力を検出する位置は任意である。そして、算出された圧力波の速度vに基づいて、燃料の密度ρが算出される。すなわち、圧力波の速度vと燃料の密度ρとの物理的関係に基づいて、燃料の密度ρを算出することができる。
【0056】
・算出された燃料の密度ρ及び算出されたセタン価CNに基づいて、燃料の動粘度νが算出される。すなわち、燃料の密度ρと燃料の動粘度νとは相関関係がある。さらに、セタン価CNを考慮することで、燃料の密度ρと燃料の動粘度νとの相関がより強くなることが、本願発明者によって確認された。したがって、これらの相関関係を用いて、燃料の密度ρから燃料の動粘度νを算出することができる。
【0057】
・燃料の動粘度νは、燃料の潤滑油としての特性等を示すため、燃料の動粘度νに基づいて燃料性状の良否を判定することができる。このように、燃料の噴射時に燃圧センサ20により燃料圧力を検出することによって、燃料の性状を判定することができる。したがって、迅速に燃料性状を判定することができる。
【0058】
・圧力波形に基づいて算出される燃料の噴射量Qが所定量Qjとなるように、燃料噴射弁10により燃料が噴射される。このため、燃料のセタン価CNにかかわらず、正確に所定量Qjの燃料を噴射した上で、エンジン回転速度NEの変動量ΔNEを検出することができる。このため、変動量ΔNEに基づき算出されるトルクTqの変動量ΔTq、ひいてはセタン価CNを正確に算出することができる。
【0059】
・取得された圧力波形に基づいて、燃料噴射弁10による燃料の噴射前後での燃料圧力の低下量ΔPcが算出される。また、取得された圧力波形に基づいて、燃料噴射弁10による燃料の噴射量Qが算出される。そして、算出された圧力波の速度v、算出された燃料圧力の低下量ΔPc、算出された燃料の噴射量Q、及び燃料通路の容積Vに基づいて、燃料の密度ρが算出される。すなわち、取得された圧力波形だけを用いて、これらの物理的関係に基づいて、燃料の密度ρを算出することができる。
【0060】
・燃料の密度ρ、動粘度ν、及びセタン価CNの予め求められた相関関係を用いて、算出された密度ρから動粘度νを算出している。したがって、算出された燃料の密度ρ及びセタン価CNに基づいて、燃料の動粘度νを容易に算出することができる。
【0061】
・燃料通路の長さLの2倍の長さ2Lを、取得された圧力波形の脈動周期Tで割ることにより、圧力波の速度vを算出している。したがって、圧力波形の脈動周期T及び燃料通路の長さLに基づいて、圧力波の速度vを容易に算出することができる。
【0062】
・燃料の動粘度νに応じて、燃料噴射弁10による燃料の噴射特性が変化する。この点、算出された燃料の動粘度νに基づいて、燃料噴射弁10による燃料の噴射状態が制御される。したがって、燃料の性状に応じて、適切に燃料を噴射することができる。
【0063】
なお、上記実施形態を以下のように変更して実施することもできる。
【0064】
・取得された圧力波形を周波数解析することにより、圧力波の脈動周期Tを算出することもできる。
【0065】
・燃料のセタン価CNを算出する方法として、以下の方法を採用することもできる。すなわち、エンジンの気筒内の圧力を検出する筒内圧センサを設け、筒内圧センサにより検出される筒内圧力に基づいて燃料の点火時期を算出する。そして、予め実験等に基づいて取得した燃料の点火時期とセタン価CNとの関係に基づいて、算出された点火時期からセタン価CNを算出することもできる。なお、その他にも、種々の方法により燃料のセタン価CNを算出することができる。
【0066】
・下式により、燃料の密度ρを算出することもできる。すなわち、燃料の体積弾性率Kと、上述した圧力波の速度vとに基づいて、燃料の密度ρを算出することもできる。ρ=K/v^2。
【0067】
体積弾性率Kは、実験等により予め求めておくことができる。また、下式により、体積弾性率Kを算出することもできる。すなわち、上述した燃料圧力の低下量ΔPcと、燃料の噴射量Qと、燃料通路の容積Vとに基づいて、体積弾性率Kを算出することもできる。燃料通路の容積Vは、燃料配管42bの容積と高圧通路11aの容積の合計である。ΔPc=K×Q/V。そして、ECU30は、算出された体積弾性率Kに応じて、燃料ポンプ41による燃料の圧送量を制御(補正)してもよい。
【0068】
・上述したように、燃料の密度ρ、燃料の動粘度ν、及びセタン価CNは、相関関係がある。したがって、算出された密度ρ及び算出されたセタン価CNに基づいて、燃料の性状を判定することもできる。
【0069】
・
図5,6において、全ての燃料を対象とした、燃料の密度ρと動粘度νとの相関関係を示す直線(グラフ)を設定しておき、その直線を用いて、算出された密度ρから動粘度νを算出する。そして、算出された動粘度νを、算出されたセタン価CNに応じて補正してもよい。詳しくは、セタン価CNが低いほど動粘度νを小さくするように補正し、セタン価CNが高いほど動粘度νを大きくするように補正する。すなわち、セタン価CNが低い場合に、セタン価CNが高い場合よりも動粘度νを小さくするように補正する。こうした構成によっても、燃料の動粘度νを正確に算出することができる。
【0070】
・
図6において、動粘度νが判定値νrよりも高ければ、燃料の性状が悪化していない(良好である)と判定する場合がある。この場合、燃料の密度ρが判定値ρrよりも大きければ、燃料の動粘度νが判定値νrよりも大きくなる。このため、S12〜S16の処理により算出される密度ρが判定値ρr(所定密度)よりも高い場合に、S21〜S24の処理を実行することなく、燃料の性状が悪化していないと判定することもできる。
【0071】
・同様にして、燃料のセタン価CNが判定値CNrよりも高ければ、燃料の動粘度νが判定値νrよりも大きくなる。このため、S21〜S23の処理により算出されるセタン価CNが判定値CNr(所定セタン価)よりも高い場合に、S12〜S16の処理を実行することなく、燃料の性状が悪化していないと判定することもできる。