特許第6032279号(P6032279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6032279ポリエステル樹脂、缶塗料用樹脂組成物、缶用塗装金属板および缶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032279
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、缶塗料用樹脂組成物、缶用塗装金属板および缶
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/06 20060101AFI20161114BHJP
   C08G 63/189 20060101ALI20161114BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20161114BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20161114BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20161114BHJP
   B65D 8/16 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C09D175/06
   C08G63/189
   C08L67/02
   C08G18/42 008
   C08G18/80
   B65D8/16
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-507537(P2014-507537)
(86)(22)【出願日】2013年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2013054685
(87)【国際公開番号】WO2013145992
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-73858(P2012-73858)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川楠 哲生
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−001688(JP,A)
【文献】 特開平04−036364(JP,A)
【文献】 特開2004−217682(JP,A)
【文献】 特開2001−106968(JP,A)
【文献】 特開平07−113059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 〜 64/42
C08L 1/00 〜 101/16
C08K 3/00 〜 13/08
C09D 1/00 〜 10/00
101/00 〜 201/10
B65D 6/00 〜 13/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸成分とポリオール成分からなり、次の(i)〜(iii)の条件を有するポリエステル樹脂と硬化剤とを含み、ポリエステル樹脂/硬化剤=98/2〜50/50(重量部)の割合で含有することを特徴とする缶塗料用樹脂組成物。(i)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、テレフタル酸成分と2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率の合計が80モル%以上である、(ii)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率が2〜80モル%である、(iii)ポリエステル樹脂を構成するポリオール成分のうち、エチレングリコール成分と1,2−プロピレングリコール成分の共重合比率の合計が50モル%以上であり、エチレングリコール成分よりも1,2−プロピレングリコール成分を過剰に含む。
【請求項2】
ポリエステル樹脂の還元粘度が0.3〜0.7dl/g、ガラス転移温度が70℃以上、比重(30℃)が1.245以上および酸価が200eq/t以下であることを特徴とする請求項1に記載の缶塗料用樹脂組成物
【請求項3】
前記硬化剤がブロックイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の缶塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の缶塗料用樹脂組成物を金属板に塗布し硬化させる工程を含む缶用塗装金属板の製造方法。
【請求項5】
ポリカルボン酸成分とポリオール成分からなり、次の(i)〜(iii)の条件を有するポリエステル樹脂と硬化剤との反応物を含む層が金属板の表面に積層されている缶用塗装金属板。(i)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、テレフタル酸成分と2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率の合計が80モル%以上である、(ii)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率が2〜80モル%である、(iii)ポリエステル樹脂を構成するポリオール成分のうち、エチレングリコール成分と1,2−プロピレングリコール成分の共重合比率の合計が50モル%以上であり、エチレングリコール成分よりも1,2−プロピレングリコール成分を過剰に含む。
【請求項6】
ポリカルボン酸成分とポリオール成分からなり、次の(i)〜(iii)の条件を有し、還元粘度が0.3〜0.7dl/g、ガラス転移温度が70℃以上、比重(30℃)が1.245以上および酸価が200eq/t以下であるポリエステル樹脂と硬化剤との反応物を含む層が金属板の表面に積層されている缶用塗装金属板。(i)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、テレフタル酸成分と2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率の合計が80モル%以上である、(ii)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率が2〜80モル%である、(iii)ポリエステル樹脂を構成するポリオール成分のうち、エチレングリコール成分と1,2−プロピレングリコール成分の共重合比率の合計が50モル%以上であり、エチレングリコール成分よりも1,2−プロピレングリコール成分を過剰に含む。
【請求項7】
請求項5または6に記載の缶用塗装金属板を構成材料として含む缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品および飲料用金属缶等に塗装される塗料に配合されるベース樹脂として用いられた場合に、加工性、硬化性、耐レトルト性、耐内容物性および耐デント性に優れる塗膜を得ることができ、そのため特に缶内面塗料用ベース樹脂に適したポリエステル樹脂に関する。更に、缶塗料用樹脂組成物、缶用塗装金属板および缶に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に食品および飲料用金属缶の内面には、多種多様の内容物による缶材質の腐食を防止することを目的として、塗装が施されている。缶内面用塗料には、まず毒性のないこと、十分な硬化性を有していること(硬化性)、次いで成形時の加工性に優れること(加工性)、加熱殺菌処理に耐えること(耐レトルト性)、食塩や酸性を示す内容物を加熱殺菌処理したときのブリスターや白化が無いこと(耐内容物性)、加熱殺菌処理後の耐衝撃性(耐デント性)などが要求される。また、特に近年では外因子内分泌撹乱物質(以下、環境ホルモンと略記する場合がある)として作用することが懸念されているビスフェノール型エポキシ樹脂等の物質も使用が避けられつつある。
【0003】
缶内面用塗料用ベース樹脂としてはポリ塩化ビニル系樹脂及びエポキシ−フェノール系樹脂が現在多く使用されているが、これらは次のような重大な問題を指摘されているのが現状であり、これらに代わる内面コート剤の開発が望まれている。
【0004】
まず、ポリ塩化ビニル系樹脂は、優れた耐レトルト性、耐内容物性、加工性を有するが、樹脂中に残留する塩ビモノマーが発ガン性などの重大な衛生上の問題のある物質であることが指摘されている。また、缶を焼却処理する際に、ポリ塩化ビニル系樹脂から毒性、腐食性の強い塩素ガス、塩化水素ガスおよび猛毒のダイオキシンが発生する可能性があるので、焼却装置の腐食や環境汚染につながる問題が生じるおそれがある。さらにポリ塩化ビニル系樹脂は缶材質である金属との接着性が不十分でありエポキシ樹脂で下地処理した上にコーティングする必要があるなどコーティング工程が繁雑である。
【0005】
次にエポキシ−フェノール系樹脂では焼き付け温度が高く、焼付け時に発泡等の外観不良を起し易い。また、先に述べたようにエポキシ樹脂中に含まれるビスフェノール−Aが環境ホルモンとして作用する疑いがあるとされている。
【0006】
更に、缶外面用塗料においても、前述した缶内面用塗料と同様に要求される加工性や耐レトルト性に加え、環境ホルモン対策も必要となりつつある。
【0007】
かかる問題点を解決するために、焼却時に有毒ガスや腐食性ガスを発生せず、塗膜中にビスフェノール−Aなどの環境ホルモンを含有しないポリエステル系樹脂の缶内面用塗料への適応が試みられているが、加工性、硬化性、耐レトルト性、耐内容物性および耐デント性を同時に満足する缶用に好適な塗料樹脂、及び塗料樹脂組成物は得られていない。
【0008】
特許文献1には、ジカルボン酸成分がテレフタル酸80〜100モル%およびイソフタル酸0〜20モル%からなり、グリコール成分としてプロピレングリコール60〜90モル%、エチレングリコール又は1,3−ブチレングリコールを10〜30モル%共重合させることによりフレーバー性、環境性、衛生性に優れる金属包装体用塗料に用いられるポリエステル樹脂が得られることが開示されている。しかし、かかる従来技術は加工性や硬化性が満足できるものではないという問題点があった。
【0009】
特許文献2には、テレフタル酸70〜95モル%を含有する芳香族ジカルボン酸80〜100モル%および芳香族ジカルボン酸以外の多塩基酸0〜20モル%からなる酸成分と、2−メチル−1,3プロパンジオールと1,4−シクロヘキサンジメタノールを必須成分とし2−メチル−1,3プロパンジオールの含有量が25〜50モル%であるグリコール成分とを反応させて得られるポリエステル樹脂であって、テレフタル酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールの合計重量が前記ポリエステル樹脂の45〜65重量%の範囲である缶塗料用ポリエステル樹脂が開示されており、加工性と耐汚染性に優れるとされている。しかし、かかる従来技術は加工性や硬化性が満足できるものではないという問題点があった。
【0010】
また、特許文献3には、ヒドロキシ含有ポリエステル樹脂とフェノール−ホルムアルデヒド樹脂を必須成分とし、さらにベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド樹脂および/またはブロックトポリイソシアネート等が配合されている塗料が開示されており、加工性、硬化性、レトルト性に優れるとされている。しかし、かかる従来技術は加工性や硬化性が満足できるものではないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−359759号公報
【特許文献2】特開2008−81617号公報
【特許文献3】特開2005−42110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、非常に高い硬化性を持ち、なおかつ加工性も優れ、耐レトルト性、耐内容物性および耐デント性にも優れる塗膜を形成することのできるポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。すなわち本発明は、以下の(1)〜(7)の構成を有するものである。
(1) ポリカルボン酸成分とポリオール成分からなり、次の(i)〜(iii)の条件を有するポリエステル樹脂。(i)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、テレフタル酸成分と2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率の合計が80モル%以上である、(ii)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率が2〜80モル%である、(iii)ポリエステル樹脂を構成するポリオール成分のうち、エチレングリコール成分と1,2−プロピレングリコール成分の共重合比率の合計が50モル%以上であり、エチレングリコール成分よりも1,2−プロピレングリコール成分を過剰に含む。
(2) (1)に記載のポリエステル樹脂において、還元粘度が0.3〜0.7dl/g、ガラス転移温度が70℃以上、比重(30℃)が1.245以上および酸価が200eq/t以下であることを特徴とする(1)に記載のポリエステル樹脂。
(3) (1)または(2)に記載のポリエステル樹脂と硬化剤を含み、ポリエステル樹脂/硬化剤=98/2〜50/50(重量部)の割合で含有することを特徴とする缶塗料用樹脂組成物。
(4) 前記硬化剤がブロックイソシアネート化合物であることを特徴とする(3)に記載の缶塗料用樹脂組成物。
(5) (3)または(4)に記載の缶塗料用樹脂組成物を金属板に塗布し硬化させる工程を含む缶用塗装金属板の製造方法。
(6) (1)または(2)に記載のポリエステル樹脂と硬化剤との反応物を含む層が金属板の表面に積層されている缶用塗装金属板。
(7) (6)に記載の缶用塗装金属板を構成材料として含む缶。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステル樹脂と硬化剤からなる塗料用樹脂組成物は非常に高い硬化性を持ち、なおかつ得られる塗膜は加工性に優れ、耐レトルト性、耐内容物性および耐デント性にも優れるため、缶塗料に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明におけるポリエステル樹脂は、ポリカルボン酸成分とポリオール成分からなり、次の(i)〜(iii)の条件を有するポリエステル樹脂。(i)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、テレフタル酸成分と2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率の合計が80モル%以上である、(ii)ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分のうち、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の共重合比率が2〜80モル%である、(iii)ポリエステル樹脂を構成するポリオール成分のうち、エチレングリコール成分と1,2−プロピレングリコール成分の共重合比率の合計が50モル%以上であり、エチレングリコール成分よりも1,2−プロピレングリコール成分を過剰に含む。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フェニレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、テルペン−マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸などを挙げることができ、これらの中から1種または2種以上を選び使用することができる。その中でも、加工性や耐レトルト性、耐内容物性の点から、テレフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸を使用することが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステル樹脂におけるテレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸の共重合比率の合計は、全酸成分中、80〜100モル%であり、より好ましくは85〜100モル%であり、さらに好ましくは90〜100モル%であり、特に好ましくは95〜100モル%である。上記未満であると加工性および/または耐デント性が低下することがある。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂における2,6−ナフタレンジカルボン酸の共重合比率の下限は、全酸成分中、2モル%であり、より好ましくは3モル%であり、特に好ましくは4モル%である。上記未満であると溶剤溶解性および/または塗料安定性が低下したり、加工性、硬化性および/または耐デント性が低下することがある。2,6−ナフタレンジカルボン酸の共重合比率の上限は、全酸成分中、80モル%であり、より好ましくは70モル%であり、さらに好ましくは60モル%であり、特に好ましくは50モル%であり、最も好ましくは40モル%である。上記を越えると溶剤溶解性および/または塗料安定性が低下したり、加工性および/または耐デント性が低下することがある。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂を構成するポリオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、4−プロピル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルグリコール類、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類などの脂環族ポリオールが挙げることができ、これらの中から1種またはそれ以上を選び使用できる。その中でも、耐レトルト性、耐内容物性の点から、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコールを使用することが好ましい。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂におけるエチレングリコールと1,2−プロピレングリコールの共重合比率の合計は、全ポリオール成分中、50〜100モル%であり、より好ましくは60〜100モル%であり、さらに好ましくは70〜100モル%であり、特に好ましくは80〜100モル%であり、最も好ましくは90〜100モル%である。上記未満であるとTgが低下し、耐レトルト性および/または耐内容物性が不良となったり、それに伴い耐デント性が低下することがある。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂におけるエチレングリコールの共重合比率の下限は、全ポリオール成分中、好ましくは5モル%であり、より好ましくは10モル%であり、さらに好ましくは13モル%であり、特に好ましくは15モル%である。上記未満であると硬化性が低下したり、Tgが低下し、耐レトルト性および/または耐内容物性が不良となることがある。エチレングリコールの共重合比率の上限は、全ポリオール成分中、好ましくは45モル%であり、より好ましくは40モル%であり、さらに好ましくは35モル%である。上記を越えるとポリエステル樹脂の結晶性が高くなり、溶剤溶解性および/または塗料安定性が低下することがある。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂における1,2−プロピレングリコールの共重合比率の下限は、全ポリオール成分中、好ましくは45モル%であり、より好ましくは50モル%であり、さらに好ましくは55モル%であり、特に好ましくは60モル%であり、最も好ましくは65モル%である。上記未満であると溶剤溶解性および/または塗料安定性が低下することがある。1,2−プロピレングリコールの共重合比率の上限は、全ポリオール成分中、好ましくは95モル%であり、より好ましくは90モル%であり、さらに好ましくは85モル%であり、特に好ましくは80モル%である。上記を越えると加工性および/または硬化性が低下することがある。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂において、エチレングリコール成分よりも1,2−プロピレングリコール成分を過剰に含むことが必要である。1,2−プロピレングリコールの共重合比率からエチレングリコールの共重合比率を引いた値の下限は、好ましくは10モル%であり、より好ましくは20モル%であり、さらに好ましくは30モル%であり、特に好ましくは35モル%である。上記未満であるとポリエステル樹脂の結晶性が高くなり、溶剤溶解性および/または塗料安定性が低下したり、加工性および/または耐デント性が低下することがある。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂において、ポリカルボン酸成分および/またはポリオール成分に3官能以上の成分を共重合しても良い。3官能以上のポリカルボン酸成分としては、例えばトリメリト酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などが挙げられ、3官能以上のポリオールとしてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコシドなどが挙げられる。これらを使用することにより、塗料を硬化させた時の架橋密度が上がり、加工性を向上させることができる。
【0025】
3官能以上の酸成分およびグリコール成分の共重合比率は、酸またはグリコール成分中、好ましくは0〜5モル%であり、より好ましくは0〜4モル%であり、さらに好ましくは0〜3モル%であり、特に好ましくは0〜2モル%である。上記を越えるとポリエステル樹脂の可とう性が失われ加工性および/または耐デント性が低下したり、ポリエステルの重合時にゲル化することがある。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂には、任意の方法で酸価を付与してもよい。酸価を付与することにより、架橋剤との硬化性の向上、缶用金属材料との密着性改良等の効果が得られる場合がある。酸価を付与する方法としては重縮合後期に多価カルボン酸無水物を付加する解重合方法、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重縮合し、酸価を有するポリエステル樹脂を得る方法などがあるが、操作の容易さ、目標とする酸価を得易いことから前者の解重合方法が好ましい。
【0027】
このような解重合方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、無水ヘキサヒドロフタル酸などが挙げられる。好ましくは無水トリメリト酸である。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂の特性のうち、酸価は好ましくは0〜200eq/tであり、より好ましくは0〜180eq/tであり、さらに好ましくは0〜160eq/tであり、さらに好ましくは0〜150eq/tである。上記を越えると耐レトルト性および/または耐内容物性が不良となることがある。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂の特性のうち、還元粘度(dl/g)の下限は、好ましくは0.3である。上記未満であると加工性、硬化性が低下することがある。還元粘度(dl/g)の上限は、好ましくは0.7である。上記を越えると溶剤溶解性が低下し、塗料安定性が低下したり、塗装作業性が低下することがある。なお、本発明における還元粘度は、実施例に記載の方法により決定した値とする。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂の特性のうち、ガラス転移温度(Tg)の下限は、好ましくは70℃であり、より好ましくは75℃であり、さらに好ましくは78℃であり、特に好ましくは80℃である。上記未満であると耐レトルト性および/または耐内容物性が不良となることがある。ガラス転移温度(Tg)の上限は、好ましくは120℃であり、より好ましくは100℃であり、さらに好ましくは105℃である。上記を越えることは経済的生産性の面から好ましくない。なお、本発明におけるTgは、JIS K 7121−1987に規定されているTigとほぼ一致するが、厳密には実施例に定める方法により決定した値とする。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂の特性のうち、比重の下限は、好ましくは1.245であり、より好ましくは1.248であり、さらに好ましくは1.250であり、特に好ましくは1.255であり、最も好ましくは1.260である。上記未満であると加工性、硬化性が低下することがある。比重の上限は、好ましくは1.400である。上記を越える樹脂を作製することは技術的な面から困難である。なお、本発明における比重は、実施例に記載の方法により決定した値とする。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂の特性のうち、ガラス転移温度(Tg)は共重合成分及びその比率を変更することにより調整することができる。例えば、ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分として、芳香族ポリカルボン酸や脂環族ポリカルボン酸の共重合比率を高くすることによりTgが高くなる傾向があり、またポリエステル樹脂を構成するポリオール成分として、脂環族ポリオールや、主鎖の炭素数が3以下の脂肪族ポリオールの共重合比率を高くすることによりTgが高くなる傾向にある。一方、ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分として脂肪族ポリカルボン酸の共重合比率を高くすることによりTgが低くなる傾向があり、またポリエステル樹脂を構成するポリオール成分として主鎖の炭素数が4以上の脂肪族ポリオールの共重合比率を高くすることによりTgが低くなる傾向にある。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂の特性のうち、比重は共重合成分及びその比率を変更することにより調整することができる。例えば、ポリエステル樹脂を構成するポリオール成分として、主鎖の炭素数が3以下であり側鎖の炭素数が2以下であるような脂肪族ポリオールの共重合比率を高くすることにより比重が高くなる傾向にある。一方、ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸成分として、側鎖の有無によらず主鎖の炭素数が4以上の脂肪族ポリカルボン酸の共重合比率を高くすることにより比重が低くなる傾向があり、またポリエステル樹脂を構成するポリオール成分として、側鎖の有無によらず主鎖の炭素数が4以上である脂肪族ポリオールや主鎖の炭素数が3以上で側鎖の炭素数が3以上の脂肪族ポリオールの共重合比率を高くすることにより比重が低くなる傾向にある
【0034】
本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステルの公知の重縮合方法により製造することができる。例えば、ポリカルボン酸成分とポリオール成分をエステル化させてオリゴマーを得て、これを更に減圧下、高温で溶融重縮合させる直接重合法、ポリカルボン酸の炭素数1〜2の低級アルキルエステル体とポリオール成分をエステル交換させてオリゴマーを得て、これを更に減圧下、高温で溶融重縮合させるエステル交換法などを挙げることができる。これらの方法により製造された本発明のポリエステル樹脂の特性および缶塗料用樹脂組成物の性能には差異は見られないため、どちらの方法で製造してもかまわない。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂の特性として、溶剤溶解性や塗料安定性の点から、示差熱分析(DSC)によって融点(Tm)を示す明確なピークが認められないことが好ましい。ポリエステル樹脂が融点を示し結晶性を有する場合、溶剤溶解性および/または塗料安定性が低下し、加工性および/または耐デント性が低下することがある。
【0036】
本発明の缶塗料用樹脂組成物を構成する硬化剤は、本発明のポリエステル樹脂と反応し架橋構造を形成するものであれば特に限定されないが、イソシアネート化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。本発明の缶塗料用樹脂組成物を構成する硬化剤は、加工性の点からイソシアネート化合物であることが好ましく、ブロックイソシアネート化合物であることがさらに好ましい。
【0037】
前記イソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジシソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ポリメチレンポリイソシアネート、クルードトリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、デカメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等のジイソシアネート、及び前記イソシアネートのビウレット体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体、イソシアヌレート変性体、ウレトンイミン変性体、ポリオールとのアダクト体、これらの混合変性体が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を選び使用することができる。また、イソシアネート化合物と、ポリオール、ポリアミン等の含活性水素化合物とからなるプレポリマー、変性体、誘導体、混合物等のウレタン前駆体の形で用いることもできる。
【0038】
本発明の缶塗料用樹脂組成物を構成する硬化剤としては、イソシアネート化合物の末端NCO基をブロック化処理したブロックイソシアネート化合物を使用することが好ましい。ブロック剤としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール等のフェノール系化合物、2−ヒドロキシピリジン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール,n−ブタノール、イソブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール系化合物、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアエトン等の活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミド等の酸アミド系化合物、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム系化合物、イミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素系化合物、ホルムアミドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、カルバゾール、エチレンイミン、ポリエチレンイミン等のアミン系化合物が挙げられる。これらは1種またはそれ以上を混合して使用することができる。
【0039】
このようなブロック剤とイソシアネート硬化剤成分の反応は、例えば20〜200℃で、必要に応じて、公知の不活性溶剤や触媒を使用して行うことができる。ブロック剤は末端イソシアネート基に対して0.7〜1.5倍モル量を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明に使用するブロックイソシアネート化合物の配合比率は、ポリエステル樹脂/ブロックイソシアネート化合物=98/2〜50/50(重量部)であり、より好ましくはポリエステル樹脂/硬化剤=95/5〜60/40(重量部)である。ブロックイソシアネート化合物の配合比率が、ポリエステル樹脂98重量部に対し、2重量部未満だと十分な硬化性が得られず、加工性、耐レトルト性、耐内容物性および/または耐デント性が低下することがある。ブロックイソシアネート化合物の配合比率が、ポリエステル樹脂50重量部に対し、50重量部を超えると、未反応の硬化剤成分が残存し、耐レトルト性および/または耐内容物性が低下することがある。
【0041】
本発明の缶塗料用樹脂組成物には、要求特性に合わせて、酸化チタン、シリカなどの公知の無機顔料、リン酸およびそのエステル化物、有機スズ化合物等の硬化触媒、表面平滑剤、消泡剤、分散剤、潤滑剤等の公知の添加剤を配合することができる。特に潤滑剤はDI缶やDR(またはDRD)缶等の成形時に必要とされる塗膜の潤滑性を付与するために重要であり、例えばポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、ラノリン系ワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及びカルナバろう等を好適な潤滑剤の例として挙げることができる。潤滑剤は、1種または2種以上を混合し使用することができる。
【0042】
本発明の缶塗料用樹脂組成物は、公知の有機溶剤に溶解された状態で塗料化することができる。塗料化に使用する有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、芳香族系炭化水素化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノアセテート、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等から、溶解性、蒸発速度等を考慮して、1種または2種以上を選択し、使用される。
【0043】
本発明の缶塗料用樹脂組成物には、塗膜の可撓性、密着性付与などの改質を目的としたその他の樹脂を配合することができる。その他の樹脂の例としては、エチレン−重合性不飽和カルボン酸共重合体、及びエチレン−重合性カルボン酸共重合体アイオノマーを挙げることができ、これらから選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を配合することにより塗膜の可撓性および/または密着性を付与できる場合がある。
【0044】
本発明の缶塗料用樹脂組成物は、飲料缶、缶詰用缶、その蓋、キャップ等に用いることができる金属からなる金属板であればいかような金属素材からなるに金属板に対してでも、その片面あるいは両面に、また必要であれば端面にも塗装することができる。前記金属素材としては、例えばブリキ、ティンフリースティール、アルミニウム等を挙げることができる。これらの素材からなる金属板にはあらかじめリン酸処理、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、その他の防錆処理剤による防食処理、塗膜の密着性向上を目的とした表面処理を施したものを使用しても良い。
【0045】
本発明の塗装金属板は、本発明の塗料組成物をロールコーター塗装、スプレー塗装などの公知の塗装方法によって金属板に塗装することにより得ることができる。塗装膜厚は特に限定されるものではないが、乾燥膜厚で3〜18μm、更には3〜10μmの範囲であることが好ましい。塗膜の焼付条件は通常、約100〜300℃の範囲で約5秒〜約30分の程度であり、さらには約150〜250℃の範囲で、約1〜約15分の程度である事が好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例における特性値の評価は、以下の方法によって行った。
【0047】
(1)樹脂組成の測定
ポリエステル樹脂の試料を、重クロロホルムに溶解し、VARIAN社製 NMR装置400−MRを用いて、H−NMR分析を行ってその積分値比より、モル比を求めた。
【0048】
(2)数平均分子量の測定
ポリエステル樹脂の試料を、樹脂濃度が0.5重量%程度となるようにテトラヒドロフランで溶解および/または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF−802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
【0049】
(3)還元粘度(単位:dl/g)の測定
ポリエステル樹脂の試料0.1gをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25ccに溶解し、30℃で測定した。
【0050】
(4)ガラス転移温度(Tg)の測定
示差走査型熱量計(SII社、DSC−200)により測定した。ポリエステル樹脂の試料5mgをアルミニウム製の抑え蓋型容器に入れて密封し、液体窒素を用いて−50℃まで冷却し、次いで150℃まで20℃/分にて昇温させた。この過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とした。
【0051】
(5)酸価の測定
ポリエステル樹脂の試料0.2gを40mlのクロロホルムに溶解し、0.01Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、カルボキシル基含有樹脂10gあたりの当量(当量/10g)を求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0052】
(6)試験片の作成
ブリキ板(JIS G 3303 SPTE、70mm×150mm×0.3mm)の片面にバーコーターで塗料組成物を乾燥後の膜厚が5〜8μmになるように塗装し、焼付条件205℃×10分間として硬化焼き付けを行い、これを試験片とした(以下、試験片という)。
【0053】
(7)加工性の評価
得られた試験片を、塗膜が外側となる方向に180°折り曲げ加工を施し、折り曲げ部に発生する塗膜の割れについて、通電値を測定することにより評価した。アルミ板製の電極(幅20mm、奥行き50mm、厚さ0.5mm)の上に1%NaCl水溶液に浸したスポンジ(幅20mm、奥行き50mm、厚さ10mm)を載せたものを用意し、スポンジの20mmの辺と平行になるように試験片の折り曲げ部の中央部付近をスポンジに接触させ、アルミ板電極と試験板の裏面の非塗装部との間に5.0Vの直流電圧をかけ、通電値を測定した。通電値が小さい方が折り曲げ特性が良好であることを意味する。
(判定)
◎:0.5mA未満
○:0.5mA以上1.0mA未満
△:1.0mA以上2.0mA未満
×:2.0mA以上
【0054】
(8)硬化性の評価
試験片の塗膜面に、メチルエチルケトンを浸したガーゼフェルトを1cm接触するように押し当て、500gの荷重をかけてラビング試験を行った。塗膜が剥がれるまでの回数(一往復で一回とする)を、以下の基準で評価した。
(判定)
◎:50回以上でも塗膜が剥がれず、塗膜に変化がみられなかった
○:25〜49回で塗膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
△:16〜24回で塗膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
×:15回以下で塗膜が剥がれ、ブリキ板が露出した
【0055】
(9)耐レトルト性の評価
試験片を立ててステンレスカップに入れ、これにイオン交換水を試験片の半分の高さになるまで注ぎ、これをレトルト試験機(トミー工業(株)製 ES−315)の圧力釜の中に設置し、125℃×90分のレトルト処理を行なった。処理後の評価は一般的に塗膜に対してより厳しい条件にさらされることになると思われる蒸気接触部分で行い、塗膜の白化、ブリスターの状態を目視で以下のように判定した。
(判定)
◎:良好
○:わずかに白化はあるがブリスターはない
△:若干の白化および/または若干のブリスターがある
×:著しい白化および/または著しいブリスターがある
【0056】
(10)耐内容物性の評価
試験片を立ててステンレスカップに入れ、これに食塩3重量%、及びクエン酸3重量%を含む水溶液を試験片全体が浸かるまで注ぎ、これをレトルト試験機(トミー工業(株)製 ES−315)の圧力釜の中に設置し、125℃×90分処理した後、塗膜の白化、ブリスターの状態を目視で以下のように判定した。
(判定)
◎:良好
○:わずかに白化はあるがブリスターはない
△:若干白化および/または若干のブリスターがある
×:著しい白化および/または著しいブリスターがある
【0057】
(11)耐デント性の評価
デュポン衝撃試験器を用い、(9)で示したレトルト処理を行った試験片の塗装面を下にし、その試験片の蒸気接触部分の非塗装面に直径1/2インチの球頭の打撃ポンチを押し当て、その上から1kgの重りを50cmの高さから落下させ衝撃を加えた。次いでアルミ板製の電極(幅20mm、奥行き50mm、厚さ0.5mm)の上に1重量%NaCl水溶液に浸したスポンジ(幅20mm、奥行き50mm、厚さ10mm)を載せたものを用意し、衝撃を加えた試験片の凸部分をスポンジに接触させ、アルミ板電極と試験板の裏面の非塗装部との間に5.0Vの直流電圧をかけ、通電値を測定した。通電値が小さい方が折り曲げ特性が良好であることを意味する。
(判定)
◎:0.5mA未満
○:0.5mA以上1.0mA未満
△:1.0mA以上2.0mA未満
×:2.0mA以上
【0058】
直接重合法によるポリエステル樹脂の合成例(1)
テレフタル酸2251重量部、2,6−ナフタレンジカルボン酸189重量部、無水トリメリト酸28重量部、エチレングリコール344重量部、1,2−プロピレングリコール1795重量部、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート(以下、TBTと略記する場合がある)1.0重量部(全酸成分に対して0.02モル%)を10Lオートクレーブに仕込み、3.5Kg/cm・Gの窒素加圧下で3時間かけて235℃まで徐々に昇温しながら、エステル化反応を行った。次いで、系内を徐々に減圧していき、1時間かけて10mmHgまで減圧重合を行うとともに温度を250℃まで昇温し、さらに1mmHg以下の真空下で70分間後期重合を行ない、本発明のポリエステル樹脂(合成例(1))を得た。得られたポリエステル樹脂の数平均分子量は21,000、還元粘度は0.63dl/g、ガラス転移温度(Tg)は85℃、酸価は15eq/t、比重(30℃)は1.280であった。
【0059】
直接重合法による合成例(2)〜(8)、及び比較合成例(1)〜(6)
合成例(1)と同様に直接重合法にて、但し仕込み組成を変更して、樹脂組成が表1〜2に示されるような本発明のポリエステル樹脂(合成例(2)〜(8)、及び比較合成例(1)〜(6))を製造した。
【0060】
エステル交換法によるポリエステル樹脂の合成例(9)
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した3Lフラスコに、テレフタル酸ジメチル878重量部、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル71重量部、無水トリメリト酸9重量部、エチレングリコール115重量部、1,2−プロピレングリコール599重量部、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート(以下、TBTと略記する場合がある)0.3重量部(全酸成分に対して0.02モル%)を仕込み、160℃から220℃まで4時間かけて昇温しながらエステル交換反応を行った。次いで、系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧して初期重合を行うとともに温度を250℃まで昇温し、さらに1mmHg以下の真空下で70分間後期重合を行い本発明のポリエステル樹脂(合成例(9))を得た。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
樹脂ワニスの製造例
合成例(1)〜(9)、比較合成例(1)〜(6)のポリエステル樹脂をシクロヘキサノン/ソルベッソ−150=1/1(重量比)に溶解して固形分40重量%の樹脂ワニスを調製した。
【0064】
実施例(1)
合成例(1)の樹脂ワニス45部、IPDI系ブロックイソシアネート(Bayer MaterialScience社製、DESMODUR VP LS 2078/2、固形分60重量%)3.3部、DBTL(ジブチルスズジラウレート)0.02部を配合した後、シクロヘキサノン/ソルベッソ−150=1/1(重量比)で塗装に適した粘度になるまで希釈し、本発明の塗料組成物を得た。これを前述した方法により塗布、焼付を行い本発明の塗装金属板の試験片を得た。塗料組成物の配合並びに試験片を評価した結果を表3〜4に示した。
【0065】
実施例(2)〜(8)、比較例(1)〜(7)
実施例(1)と同様にして、但し、配合を表2に従って変更して、本発明の塗料樹脂組成物を得た。次いで、同じく前述した方法により塗布、焼付を行い、本発明の塗装金属板の試験片を得た。塗料組成物の配合並びに試験片を評価した結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
コロネート2513:日本ポリウレタン工業(株)製、HDI系ブロックイソシアネート化合物
VESTANAT B 1370:EVONIK INDUSTRIES社製、IPDI系ブロックイソシアネート化合物
DESMODUR VP LS 2078/2:Bayer MaterialScience社製、IPDI系ブロックイソシアネート化合物
DBTL:ジブチルスズジラウレート
【0069】
表3〜4で明らかなように、本発明のポリエステル樹脂を使用した缶塗料用樹脂組成物から得られた塗膜は、その加工性、硬化性、耐レトルト性、耐内容物性、耐デント性のいずれもが優れている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明品は、加工性、硬化性、耐レトルト性、耐内容物性、耐デント性に優れたポリエステル樹脂、および缶塗料用樹脂組成物、およびそれを塗布した缶用塗装金属板であり、食品、および飲料用金属缶等に塗装される塗料の主剤として好適である。