特許第6032285号(P6032285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032285
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】インダイレクトスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20161114BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B23K11/11 510
   B23K11/24 315
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-527420(P2014-527420)
(86)(22)【出願日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2014001257
(87)【国際公開番号】WO2014167772
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2014年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-81379(P2013-81379)
(32)【優先日】2013年4月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】松下 宗生
(72)【発明者】
【氏名】池田 倫正
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−122928(JP,A)
【文献】 特開2010−194609(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/087508(WO,A1)
【文献】 特開2012−157888(JP,A)
【文献】 特開2012−011398(JP,A)
【文献】 特開2006−198676(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0218323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
B23K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の金属板を重ね合わせた部材に対し、前記部材の一方の面側の金属板に溶接電極を加圧しながら押し当て、前記部材の他方の面側の金属板には前記溶接電極と離隔した位置に給電端子を取り付け、前記溶接電極と前記給電端子との間で通電し、該溶接電極の反対側は支持のない中空の状態で溶接を行うインダイレクトスポット溶接方法において、
前記溶接電極の電極先端部は、前記溶接電極の最先端を含み、該最先端側から見て該最先端を中心とした半径R(mm)の円の範囲内に位置する曲率半径r1(mm)の第1の曲面と、該第1の曲面の周囲に位置する曲率半径r2(mm)の第2の曲面とから構成される2段のドーム形状であって、下記(1)〜(3)式を満足することを特徴とするインダイレクトスポット溶接方法。

2√t≦R≦6√t ・・・(1)
30≦r1 ・・・(2)
6≦r2≦12 ・・・(3)
ただし、tは前記部材のうち、薄い方の金属板の板厚(mm)である。
【請求項2】
前記通電する電流値については通電開始から終了まで一定にし、
前記溶接電極の加圧力に関しては、通電開始から2つの時間帯t1,t2に区分し、最初の時間帯t1では加圧力F1で加圧したのち、次の時間帯t2では、F1よりも低い加圧力F2で加圧する請求項1に記載のインダイレクトスポット溶接方法。
【請求項3】
前記溶接電極の加圧力および前記通電する電流値に関して、通電開始から2つの時間帯t1,t2に区分し、最初の時間帯t1では加圧力F1で加圧し、かつ電流値C1で通電したのち、次の時間帯t2では、F1よりも低い加圧力F2で加圧し、かつC1よりも高い電流値C2で通電する請求項1に記載のインダイレクトスポット溶接方法。
【請求項4】
前記溶接電極の加圧力に関して、通電開始から2つの時間帯tF1,tF2に区分し、最初の時間帯tF1では、加圧力F1で加圧したのち、次の時間帯tF2では、F1よりも低い加圧力F2で加圧し、
前記通電する電流値に関しては、時間帯tF1,tF2とは独立して、通電開始から2つの時間帯tC1,tC2に区分し、最初の時間帯tC1では、電流値C1で通電したのち、次の時間帯tC2では、C1よりも高い電流値C2で通電する請求項1に記載のインダイレクトスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の金属板を重ね合わせた部材に対し、一方の面側の金属板に溶接電極を加圧しながら押し当て、他方の面側の金属板には溶接電極から離隔した位置に給電端子を取り付け、これら溶接電極と給電端子との間で通電して溶接を行うインダイレクトスポット溶接方法に関するものである。本発明は特に、重ね合わせた部材の溶接部以外での金属板間の通電、いわゆる分流が大きな場合においても、好適なナゲットが得られるインダイレクトスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディーや自動車部品の溶接に際しては、従来から抵抗スポット溶接、主にダイレクトスポット溶接が使用されてきたが、最近では、インダイレクトスポット溶接等が使用されるようになってきた。
【0003】
上記したダイレクトスポット溶接およびインダイレクトスポット溶接の特徴を、図1を用いて説明する。
いずれのスポット溶接も、重ね合わせた少なくとも2枚の金属板を溶接により接合する点では変わりはない。
図1(A)は、ダイレクトスポット溶接法を示したものである。この溶接は、同図に示すとおり、重ね合わせた2枚の金属板1,2を挟んでその上下から一対の電極3,4を加圧しつつ電流を流し、金属板の抵抗発熱を利用して、溶接部5を得る方法である。なお、電極3,4はいずれも、加圧制御装置6,7および電流制御装置8を備えており、これらによって加圧力と通電する電流値が制御できる仕組みになっている。
【0004】
図1(B)に示すインダイレクトスポット溶接法は、重ね合わせた2枚の金属板21,22に対し、一方の金属板21には電極23を加圧しながら押し当て、他方の金属板22には電極23から離隔した位置で給電端子24を取り付け、これらの間で通電することにより、金属板21,22に溶接部25を形成する方法である。
【0005】
ここで、輸送機器メーカーにおける現状の抵抗スポット溶接による溶接部の管理基準では、溶接部は、ダイレクトスポット溶接で得られるような、金属板間で完全に溶融した状態を経て形成される碁石形のナゲットであることを要求されることが多い。そのため、上記した溶接法のうち、スペース的に余裕があり、金属板を上下から挟む開口部が得られる場合には、ダイレクトスポット溶接法が用いられる。
【0006】
しかしながら、実際の溶接に際しては、十分なスペースがなかったり、閉断面構造で金属板を上下から挟むことができない場合も多く、かような場合には、インダイレクトスポット溶接法が用いられる。
【0007】
ここで、インダイレクトスポット溶接法を上記のような用途に使用する際には、重ね合わせた金属板は一方向からのみ電極により加圧され、その反対側は支持の無い中空の状態になっている。従って、両側から電極で挟むダイレクトスポット溶接法のように電極直下に局部的に高い加圧力を与えることができない。また、通電中に電極が金属板に沈み込んでいくため、電極−金属板間、金属板−金属板間の接触状態が変化する。
【0008】
このような理由により、従来のインダイレクトスポット溶接では、重ね合わせた金属板間で電流の通電経路が安定しないため、金属板間で溶融した状態を経て形成される碁石形のナゲットを安定して得ることは難しいとされていた。特に、重ね合わせた金属板が一方向からのみ電極により加圧され、その反対側は支持の無い中空の状態であり、かつ、金属板の両端が拘束された場合などでは、溶接部以外での金属板間の通電、所謂分流が大きくなり、碁石型のナゲットを安定して得ることは一層困難となる。
【0009】
ここで、特許文献1には、インダイレクトスポット溶接に適用可能な、所定強度の溶接部を得ることができる溶接電極として、「略円錐状の先端形状を備え、円錐の先端角度が120度〜165度である円錐面と、前記円錐の先端中心部に直径が1.5〜3mmの平坦部を備えた抵抗溶接用電極」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−198676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1には、同文献に開示の技術に従って溶接された溶接部に関して、「金属板11,12の重合部の金属組織を観察すると、金属板11,12の重合部の金属が、従来の通常のナゲットに比べて細かく部分的に溶融して再結晶したものが多数形成される事象が見られ、所謂、拡散接合の状態で接合している場合であり、従来の通常のナゲットとは異なる事象で接合している場合もある。」(同文献1の段落[0038])との記載がある。すなわち、特許文献1に記載の溶接電極を用いて得られる溶接部は、ダイレクトスポット溶接で見られるナゲットのように、完全に溶融した状態を経て碁石形に形成されたナゲットであるとは限らない、という問題があった。
【0012】
既述のとおり、輸送機器メーカーにおける現状のスポット溶接部の管理基準では、溶接部は碁石形のナゲットであることを要求されることが多い。そのため、所定の接合強度が得られた溶接部であっても、完全に溶融した状態を経て形成された碁石形のナゲットが得られなければ管理基準を満足しない。従って、溶接部以外での金属板間の通電、所謂分流が大きな場合であっても、より安定して碁石形のナゲットを得ることのできるインダイレクトスポット溶接方法が求められている。
【0013】
そこで、本発明では、溶接部以外での金属板間の通電、所謂分流が大きな場合であっても、金属板間で溶融した状態を経て形成された碁石形のナゲットをより安定して得ることができるインダイレクトスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
さて、本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
a)上述のとおり、インダイレクトスポット溶接では、ダイレクトスポット溶接のように電極直下の重ね合わせた金属板間に溶接部を形成するための十分な発熱が得難く、ナゲットが形成されにくい。特に、溶接部以外での金属板間の通電、所謂分流が大きな場合においては、ナゲット形成がさらに困難となる。
b)上記の問題を解決するには、通電中に電極が金属板に沈み込んでいく現象が生じても、電極直下の重ね合わせた金属板間で高い電流密度が維持できるよう、電極先端部を適切な形状とした溶接電極を用いる必要がある。
c)上記溶接電極の電極先端部の形状は、溶接に供する重ね合わせた金属板に関し、ナゲット径の基準となる金属板の板厚に関連する。すなわち、ナゲット径の基準となる金属板の板厚とは、2枚の金属板を重ね合わせた部材の、より薄い方の金属板の板厚である。
d)上記の形状とした溶接電極を用いることに加えて、通電中の電流値およびその時間を細かく制御する、または通電中の電極の加圧力およびその時間を細かく制御する、さらには通電中の電流値と電極の加圧力およびその時間を細かく制御することがより有効である。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)2枚の金属板を重ね合わせた部材に対し、前記部材の一方の面側の金属板に溶接電極を加圧しながら押し当て、前記部材の他方の面側の金属板には前記溶接電極と離隔した位置に給電端子を取り付け、前記溶接電極と前記給電端子との間で通電し、該溶接電極の反対側は支持のない中空の状態で溶接を行うインダイレクトスポット溶接方法において、
前記溶接電極の電極先端部は、前記溶接電極の最先端を含み、該最先端側から見て該最先端を中心とした半径R(mm)の円の範囲内に位置する曲率半径r1(mm)の第1の曲面と、該第1の曲面の周囲に位置する曲率半径r2(mm)の第2の曲面とから構成される2段のドーム形状であって、下記(1)〜(3)式を満足することを特徴とするインダイレクトスポット溶接方法。

2√t≦R≦6√t ・・・(1)
30≦r1 ・・・(2)
6≦r2≦12 ・・・(3)
ただし、tは前記部材のうち、薄い方の金属板の板厚(mm)である。


【0016】
(2)前記通電する電流値については通電開始から終了まで一定にし、
前記溶接電極の加圧力に関しては、通電開始から2つの時間帯t1,t2に区分し、最初の時間帯t1では加圧力F1で加圧したのち、次の時間帯t2では、F1よりも低い加圧力F2で加圧する上記(1)に記載のインダイレクトスポット溶接方法。
【0017】
(3)前記溶接電極の加圧力および前記通電する電流値に関して、通電開始から2つの時間帯t1,t2に区分し、最初の時間帯t1では加圧力F1で加圧し、かつ電流値C1で通電したのち、次の時間帯t2では、F1よりも低い加圧力F2で加圧し、かつC1よりも高い電流値C2で通電する上記(1)に記載のインダイレクトスポット溶接方法。
【0018】
(4)前記溶接電極の加圧力に関して、通電開始から2つの時間帯tF1,tF2に区分し、最初の時間帯tF1では、加圧力F1で加圧したのち、次の時間帯tF2では、F1よりも低い加圧力F2で加圧し、
前記通電する電流値に関しては、時間帯tF1,tF2とは独立して、通電開始から2つの時間帯tC1,tC2に区分し、最初の時間帯tC1では、電流値C1で通電したのち、次の時間帯tC2では、C1よりも高い電流値C2で通電する上記(1)に記載のインダイレクトスポット溶接方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電極先端部を適切な形状とした溶接電極を用いるので、溶接部以外での金属板間の通電、所謂分流が大きな場合であっても、金属板間で溶融した状態を経て形成される碁石型のナゲットをより安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】従来技術である、ダイレクトスポット溶接法(A)およびインダイレクトスポット溶接法(B)の溶接要領の説明図である。
図2】本発明の一実施形態における溶接電極の電極先端部の形状を示した図である。
図3】本発明の他の実施形態における通電時間および加圧力の関係(A)ならびに通電時間および電流値の関係(B)を示した図である。
図4】実施例1および2の溶接要領の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に従い具体的に説明する。
本発明に従うインダイレクトスポット溶接方法では、2枚の金属板を重ね合わせた部材に対し、この部材の一方の面側の金属板に溶接電極を加圧しながら押し当て、上記部材の他方の面側の金属板には上記溶接電極と離隔した位置に給電端子を取り付け、上記溶接電極と上記給電端子との間で通電して溶接を行う。図4を用いて実施例に後述するように、金属板を重ね合わせた部材を凹形状の金属製治具の上に配置し、治具下部にアース電極を取り付け、重ね合わせた金属板を一方向からのみ溶接電極により加圧し、その反対側は支持の無い中空の状態とする場合には、金属製治具およびアース電極を組み合わせたものが給電端子に相当する。
【0022】
本発明の特徴的構成の一つは溶接電極の電極先端部の形状であり、本発明方法の一実施形態における溶接電極の電極先端部の形状を図2に示す。溶接電極の電極先端部30は、溶接電極の最先端を含み、最先端側から見て最先端を中心とした半径R(mm)の円の範囲内に位置する曲率半径r1(mm)の第1の曲面31と、第1の曲面の周囲に位置する曲率半径r2(mm)の第2の曲面32とから構成される2段のドーム形状であって、後述する式(1)〜(3)を満足する。
【0023】
電極先端部30を2段のドーム形状とし、第1の曲面31を第2の曲面32よりも曲率半径が大きな曲面とすることで、通電中に電極が金属板に沈み込んでいく現象が生じても、電極直下の重ね合わせた金属板間で高い電流密度を維持することができる。さらに、第1の曲面31を第2の曲面32よりも曲率半径が大きな曲面とすることで、通電開始時に電極−金属板間の接触面積を十分に確保することができ、電流密度が過大となり電極が接触する側の金属板から溶融金属が飛散するなどの不具合を解消することができる。また、第2の曲面32は第1の曲面31よりも曲率半径がより小さな曲面である。そのため、通電中に電極が金属板に沈み込み、第1の曲面31に加えて第2の曲面32も金属板と接触し始めた際の、電極−金属板間の接触面積の増大を抑制することができる。
【0024】
ここで、本発明の特徴的構成の一つは、第1の曲面31および第2の曲面32の境界を定める半径R(mm)を、溶接に供する金属板を重ね合わせた部材のうち、ナゲット径の基準となる金属板の板厚t(mm)の平方根の整数倍により限定することである。ここで、ナゲット径の基準となる金属板の板厚tとは、2枚の金属板を重ね合わせた部材のスポット溶接において、より薄い金属板の板厚である。2枚が同じ板厚の場合はその板厚となる。
一般に、2枚の金属板を重ね合わせた部材からなる板組みでは、より薄い方の板の板厚の平方根の整数倍によりナゲット径の要求値が規定される。一方、半径Rが適正な大きさの場合は、溶接中に電極と金属板との接触面積が増大していく過程において、半径Rを超えた範囲へのナゲット径の増大を抑制することができ、良好なナゲット径を得ることができる。また、このとき、半径Rとナゲット径には相関関係があるため、任意の板組みにおいて要求されるナゲット径を得るに際して、適正な半径Rを設定するためには、半径Rをより薄い板の板厚の平方根の整数倍で限定してやればいい。
【0025】
半径Rが2√t(mm)未満の範囲では、通電開始時に、電極−金属板間の接触面積が極端に小さい範囲で抑制されるため、電流密度が過大となり、電極が接触する側の金属板から溶融金属が飛散するなどの不具合が発生する。一方、半径Rが6√t(mm)超となると、上述の、通電中に電極が金属板に沈み込み、第1の曲面31に加えて第2の曲面32も金属板と接触し始めた際に、電極−金属板間の接触面積の増大を抑制する効果が十分に得られない。よって、半径R(mm)を次式(1)の範囲に限定した。
2√t≦R≦6√t(mm) ・・・(1)
ここで、tは既述の薄い方の金属板の板厚(mm)である。
また、上記作用効果をより確実に得るためには、半径Rは、3√t≦R≦5√t(mm)の範囲であることがより好ましい。
【0026】
第1の曲面31の曲率半径r1(mm)については、r1を30mm以上とすることで、通電開始時に電極−金属板間の接触面積を十分に確保することができ、電流密度が過大となり電極が接触する側の金属板から溶融金属が飛散するなどの不具合を解消することができる。よって、曲率半径r1(mm)を次式(2)の範囲に限定した。
30≦r1 ・・・(2)
また、上記作用効果をより確実に得るために、r1を40mm以上とすることがより好ましい。曲率半径を無限大とみなして、第1の曲面を平坦面とすることもできる。
【0027】
第2の曲面32の曲率半径r2(mm)については、r2が6mm未満になると、通電中に電極が金属板に過大に沈み込み、金属板間の溶接部を不用に変形し、割れの原因となるので好ましくない。一方、r2が12mm超となると、通電中に電極が金属板に沈み込み、第1の曲面31に加えて第2の曲面32も金属板と接触し始めた際の、接触面積の増大を抑制する効果が十分に得られない。よって、曲率半径r2(mm)を次式(3)の範囲に限定した。
6≦r2≦12 ・・・(3)
また、上記作用効果をより確実に得るために、曲率半径r2(mm)を、8≦r2≦10の範囲とすることがより好ましい。
【0028】
溶接電極の電極先端部30下端の電極半径については、図2に示すように、例えば8mmとすることができ、4.0〜12.5mm程度で適宜定めることができる。
【0029】
以上のとおり、本発明のインダイレクトスポット溶接方法では、溶接電極の先端部30を構成する第1の曲面31および第2の曲面32が上掲の(1)〜(3)式を満足するので、金属板間の電流密度を適正にすることができる。そのため、溶接部以外での金属板間の通電、所謂分流が大きな場合であっても、金属板間で溶融した状態を経て形成される碁石形のナゲットをより安定して得ることができる。
【0030】
なお、本発明で用いる金属板は特に限定されず、例えば鋼鉄製の金属板を用いることができる。また、本発明が対象とする薄い方の金属板の板厚tは0.5〜1.8mm程度であり、金属板を重ね合わせた部材の総板厚は1〜4mm程度である。
【0031】
ここで、本発明に従うインダイレクトスポット溶接において、通電開始から通電終了までの時間帯、加圧力Fおよび電流値Cの制御に関しては特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、通電開始から通電終了まで、加圧力Fおよび電流値Cを一定にしても、好適なナゲットを安定して得ることができる。この場合、それぞれ、通電時間:0.06〜0.60s程度、加圧力F:100〜1500N程度、電流値C:4〜12kA程度とすることができる。
【0032】
上述のとおり、本発明では、通電開始から通電終了までの時間帯、加圧力Fおよび電流値Cの制御が限定されるものではない。しかし、電極先端部の形状が上掲の(1)〜(3)式を満足する溶接電極を用いることに加えて、通電時間を区分して、溶接電極の加圧力および電流値を制御することがより好ましい。本発明に従う他の好適な実施形態における、通電時間と加圧力および通電時間と電流値の基本的な関係を図3(A)、(B)にそれぞれ示す。かかる制御を行うことで、より顕著な効果を得ることができる。上記実施形態における好適な通電時間および加圧力の関係ならびに通電時間および電流値の関係を、以下説明する。
【0033】
上記実施形態では、溶接電極の加圧力、通電する電流値に関して、通電開始からの時間帯を同時にまたはそれぞれ独立して2つに区分し、それぞれの時間帯において溶接電極の加圧力Fまたは通電する電流値Cの一方を、あるいは加圧力Fおよび電流値Cの両方を制御することが好ましい。ここで、加圧力Fおよび/または電流値Cを同時に制御する場合には、区分した各時間帯をt1,t2とし、また加圧力Fと電流値Cの両方を独立して制御する場合には、加圧力Fを区分する時間帯をtF1,tF2、電流値Cを区分する時間帯をtC1,tC2とし、各時間帯での加圧力をF1,F2、電流値をC1,C2で示す。
【0034】
上記実施形態において、時間帯t1では、加圧力F1で加圧し、電流値C1を通電する。
この時間帯t1は、溶接電極を重ね合わせた金属板に加圧しながら押し当てつつ、通電を開始し、金属板間の接触抵抗による発熱から溶融部の形成を始める時間帯である。重ね合わせた金属板を一方向からのみ溶接電極により加圧し、その反対側は支持の無い中空の状態でインダイレクトスポット溶接を行う際には、加圧力F1を、両側から電極で挟むダイレクトスポット溶接法のような高い加圧力とすることができない。しかし、加圧力F1が低すぎると、電極と金属板との間の接触面積が極度に小さくなり、電流密度が過度に上昇して金属板表面が溶融飛散し、表面形状が著しく損なわれる不具合が発生する。従って、加圧力F1は、かような不具合が生じないよう、適宜選択することが好ましい。
【0035】
また、電流値C1は、金属板間からの発熱により溶融が開始するのに十分な高さの電流値とする必要があるが、高すぎると前述したように金属板表面が溶融飛散し、えぐれた形状となり外観が著しく損なわれるばかりか、継手強度も低下する不具合が発生するので、かような不具合が生じないように、適宜選択することが好ましい。
【0036】
上記実施形態において、時間帯t1に続く次の時間帯t2では、加圧力F2で加圧し、電流値C2を通電する。
この時間帯t2は、時間帯t1で形成が始まった溶融部をさらに成長させていく段階である。しかしながら、通電による発熱で電極周辺の金属板が軟化し、電極の反対側は支持の無い中空の状態でインダイレクトスポット溶接を行う際には、金属板が軟化すると電極先端部が金属板に沈み込み、電極−金属板間、金属板−金属板間の接触面積が増大し電流密度が低下する。そのため、ナゲットを成長させるに十分な発熱が得られない。従って、この時間帯t2では、加圧力F2を加圧力F1よりも低い加圧力とし、電極先端部が金属板に沈み込むのを抑えることが好ましい。
【0037】
一方、電流値C2については、電流値C1よりも高い電流値として、前述した電極の沈み込みによる接触面積の増大から電流密度が低下することを抑止することが好ましい。しかしながら、電流値があまりに高すぎると電極の反対側の金属板表面から溶融金属が飛散し、溶け落ちて、外観が著しく損なわれるばかりか、継手強度も低下する不具合が発生する。従って、かような不具合が生じないように、電流値C2を適宜選択することが好ましい。
【0038】
以上、通電開始から2つの時間帯に区分し、加圧力Fと電流値Cの両方を同時に制御する好適実施形態について説明したが、本発明に従う実施形態は、加圧力のみを制御するようにしてもよく、さらには加圧力Fと電流値Cの両方を独立して制御することがより好ましい。
すなわち、上記の時間帯t1,t2において、電流値C1,C2は一定とし、加圧力F2をF1より低くする方法でも、同様の効果を得ることができる。しかしながら、前述したとおり、上記の時間帯t1,t2において、加圧力F2をF1より低くし、かつ電流値C2をC1より高くすることによって、より一層の効果を得ることができる。
【0039】
さらに、加圧力Fに関しては、通電開始から時間帯tF1,tF2に区分し、加圧力F2をF1より低くする一方、電流値Cに関しては、時間帯tF1,tF2とは別に独立して、通電開始から時間帯tC1,tC2に区分し、電流値C2をC1より高くすることも好ましい。このように加圧力の変化、電流の変化を独立した時間帯で最適に行うことによって、より高い効果を得ることができる。
【0040】
ここに、通電開始から2つの時間帯t1,t2に区分し、加圧力Fと電流値Cの両方を同時に制御する場合、時間帯t1,t2における通電時間はそれぞれ、t1:0.02〜0.30s、t2:0.10〜0.60s程度とすることが好ましい。また、各時間帯t1,t2における加圧力はそれぞれ、F1:300〜2000N、F2:100〜1500N程度、電流値はそれぞれC1:2.0〜10.0kA、C2:2.5〜12.0kA程度とすることが好ましい。
なお、時間帯t1,t2において、電流値C1,C2は一定とし、加圧力F2をF1より低くする場合、一定電流値は2.5〜10kA程度とすることが好ましい。
【0041】
さらに、加圧力Fと電流値Cの両方を独立して制御する場合には、加圧力Fに関しては、tF1:0.02〜0.30s、tF2:0.10〜0.60s程度とし、各時間帯tF1,tF2においてそれぞれF1:300〜2000N、F2:100〜1500N程度とすることが好ましく、また電流値Cに関しては、tC1:0.02〜0.30s、tC2:0.10〜0.60s程度とし、各時間帯tC1,tC2においてそれぞれC1:2.0〜10.0kA、C2:2.5〜12.0kA程度とすることが好ましい。
【実施例1】
【0042】
インダイレクトスポット溶接法を、図4に示すような構成で実施した。
表1に示す化学成分になる引張強さ:270MPa以上のSPC270鋼板を、上鋼板、下鋼板として組み合わせて、重ね合わせた2枚の鋼板からなる部材を作製した。上鋼板の板厚は1.0mmであり、下鋼板の板厚は1.2mmである。この部材を、図4に示すような凹形状の金属製治具の上に配置し、支持間隔を30mmとし、治具下部にアース電極を取り付け、上方から溶接電極で加圧し、上記部材の溶接を行った。また、上記のように重ねた上鋼板、下鋼板の両端をクランプにより治具上で拘束し、上鋼板、下鋼板間を密着させることにより、通電時に鋼板間で分流を起こりやすくさせ、意図的に電極直下にナゲットが形成されにくい条件を設定した。
溶接に際しては、直流インバータ式の電源を使用した。また、溶接に使用した電極はクロム銅合金を材質としており、溶接電極の電極先端部は、溶接電極の最先端を含み、最先端側から見て最先端を中心とした半径R(mm)の円の範囲内に延在する曲率半径r1(mm)の第1の曲面と、第1の曲面の周囲に延在する曲率半径r2(mm)の第2の曲面とから構成される2段のドーム形状である。これら、R,r1,r2の寸法を表2にそれぞれ示す。また、溶接電極の電極先端部下端の電極半径についても表2にそれぞれ示す。さらに、溶接の際の、通電開始から通電終了までの時間帯と、それぞれの時間帯での加圧力および電流値との条件を表2に示す。表2に記載の条件で、No.1〜16までインダイレクトスポット溶接を試行した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表2中、No.2〜6,14〜16で用いた溶接電極の電極形状は、本発明要件を満足する。一方、No.1,7〜13で用いた溶接電極の電極形状は、本発明要件を満足しない。また、表2中、No.1〜11については、加圧力Fおよび電流値Cは一定としている。No.12,14については、通電する時間帯をt1,t2に区分し、電流値を一定にする一方で、加圧力Fを制御した。No.13,15については、時間帯をt1,t2に区分し、加圧力Fと電流値Cを同時に制御した。No.16については、電極の加圧力に関しては、通電開始から2つの時間帯tF1,tF2に区分する一方、通電する電流値に関しては、時間帯tF1,tF2とは独立して、通電開始から2つの時間帯tC1,tC2に区分して、加圧力Fと電流値Cを独立して制御した。
【0046】
表3に、表2に示す電極形状および通電パターンで溶接したときの各継手のナゲット径、ナゲット厚さ、ナゲット厚さ/径および外観不具合について調べた結果を示す。
【0047】
なお、表3においてナゲット径は、溶接部を中心で切断した断面において、上鋼板、下鋼板間で形成される溶融部の重ね線上での長さとした。ナゲット厚さは、溶接部を中心で切断した断面において、上鋼板、下鋼板間に形成される溶融部の最大厚さとした。また、ナゲット厚さ/径は、上述したナゲット厚さをナゲット径で除したものである。ここに、ナゲット径が4mm以上、かつナゲット厚さ/径が0.22以上であれば、好適なナゲットと判断することができる。
【0048】
また、溶接部が溶融飛散しておこる外観不具合に関しては、溶接部の下鋼板で起こる溶融金属の飛散、脱落の発生を「溶け落ち」として表3に開示した。
さらに、以下の基準で総合評価を行った。
○:ナゲット径4mm以上、ナゲット厚さ/径が0.22以上で、かつ外観不具合がないもの
×:ナゲット径4mm未満、ナゲット厚さ/径が0.22未満または外観不具合ありのうち、1つでも条件を満たすもの
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示したとおり、薄い方の鋼板の板厚1.0mmに対して、本発明要件を満足する溶接電極を用いてインダイレクトスポット溶接を行ったNo.2〜6,14〜16はいずれも、意図的に設定された電極直下にナゲットが形成されにくい条件下においても、十分なナゲット径と、この径に対して十分な厚さを有する溶融ナゲットを得ることができ、また外観不具合は全く観察されなかった。
これに対し、本発明要件を満足しない溶接電極を用いたNo.7では、ナゲット厚さ/径が0.22未満を満たさなかった。また、No.9,11では、ナゲット径が不十分であった。さらにNo.1,8,10,12,13では、いずれもナゲットの形成が観察されず、さらに溶け落ちが発生した。
【実施例2】
【0051】
上鋼板の板厚を1.0mmとし、下鋼板の板厚を0.7mmとして、溶接電極の電極形状および通電開始から通電終了までの時間帯と、それぞれの時間帯での加圧力、電流値との条件を表4に示すとおりとした以外は、実施例1と同じ条件でインダイレクトスポット溶接を行い、No.1〜6まで試行した。
【0052】
【表4】
【0053】
表4中、No.2〜5で用いた溶接電極の電極形状は、本発明要件を満足する。一方、No.1,6で用いた溶接電極の電極形状は、本発明要件を満足しない。また、表4中、No.1〜6については、加圧力Fおよび電流値Cは一定としている。
【0054】
表5に、表4に示す電極形状および通電パターンで溶接したときの各継手のナゲット径、ナゲット厚さ、ナゲット厚さ/径および外観不具合について調べた結果を示す。なお、表5におけるナゲット径およびナゲット厚さは、実施例1にて既述のとおりである。ここに、ナゲット径が3.4mm以上、かつナゲット厚さ/径が0.20以上であれば、好適なナゲットと判断することができる。
【0055】
また、溶接部が溶融飛散しておこる外観不具合に関しては、溶接部の下鋼板で起こる溶融金属の飛散、脱落の発生を「溶け落ち」として表5に開示した。
さらに、以下の基準で総合評価を行った。
○:ナゲット径3.4mm以上、ナゲット厚さ/径が0.20以上で、かつ外観不具合がないもの
×:ナゲット径3.4mm未満、ナゲット厚さ/径が0.20未満または外観不具合ありのうち、1つでも条件を満たすもの
【0056】
【表5】
【0057】
表5に示したとおり、薄い方の鋼板の板厚0.7mmに対して、本発明要件を満足する溶接電極を用いてインダイレクトスポット溶接を行ったNo.2〜5はいずれも、意図的に設定された電極直下にナゲットが形成されにくい条件下においても、十分なナゲット径と、この径に対して十分な厚さを有する溶融ナゲットを得ることができ、また外観不具合は全く観察されなかった。
これに対し、本発明要件を満足しない溶接電極を用いたNo.6では、ナゲット径が不十分であり、かつナゲット厚さ/径が0.20未満であった。また、No.1では、ナゲットの形成が観察されず、さらに溶け落ちが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、電極先端部を適切な形状とした溶接電極を用いるので、溶接部以外での金属板間の通電、所謂分流が大きな場合であっても、金属板間で溶融した状態を経て形成される碁石型のナゲットをより安定して得ることができる。
【符号の説明】
【0059】
1,2 金属板
3,4 電極
5 溶接部
6,7 加圧制御装置
8 電流制御装置
21,22 金属板
23 溶接電極
24 給電端子
25 溶接部
30 電極先端部
31 第1の曲面
32 第2の曲面
図1
図2
図3
図4