(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記幅方向溝のうちの前記タイヤ外側領域Aoに設けられた幅方向溝のタイヤ幅方向に対する傾斜角度は、前記幅方向溝のうちのタイヤ内側領域Aiに設けられた幅方向溝のタイヤ幅方向に対する傾斜角度よりも大きいことを特徴とする、
請求項4に記載の空気入りタイヤ。
前記タイヤ内側領域Ai及び前記タイヤ外側領域Aoにおいて、タイヤ幅方向の接地端からタイヤ赤道線に向かって接地幅CWの15%の幅を有するショルダー領域Asの少なくとも一方に、タイヤ周方向に延びる周方向細溝が設けられることを特徴とする、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
これより、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤ1について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態の空気入りタイヤ1の子午断面図である。なお、本実施形態の空気入りタイヤ1は、従来の空気入りタイヤと同様の子午断面形状を有する。ここで、空気入りタイヤの子午断面形状とは、タイヤ赤道面CLと垂直な平面上に現れる空気入りタイヤの断面形状をいう。
【0013】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸AXと直交する方向をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸AXを中心として回転する方向をいう(
図2参照)。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸AXと平行な方向をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸AXに直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本明細書及び図面では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0014】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、タイヤ子午断面視で、一対のビード部2と、ビード部に連なるサイドウォール部3と、サイドウォール部3同士を連結するトレッド部10とを備える。
【0015】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、その総幅SWと外径ODとの比が、
SW/OD ≦ 0.3 ・・・<1>
の関係を満たすように形成されている。
【0016】
なお、本発明では、総幅SWは、空気入りタイヤ1をリム組みし、空気入りタイヤ1の寸法を規定するために230[kPa](任意に設定した内圧)で内圧を充填したときの無負荷状態における、サイドウォール上のデザインを含んだサイドウォール同士の間の間隔であり、外径ODは、このときのタイヤの外径である。なお、上述のように230[kPa]という内圧は、空気入りタイヤの寸法を規定するために選択されたものである。したがって、本発明に係る空気入りタイヤ1は、通常に使用される範囲の内圧が充填されているものであれば、本発明の効果を発揮するものであり、230[kPa]の内圧が充填されていることが本発明を実施する上で必須ではないことに留意されたい。
【0017】
ここで、本発明において使用されるリムは、空気入りタイヤ1の内径に適合したリム径を有し、かつISO4000−1:2001に準拠して、タイヤ断面幅の呼びSnと、リム組みされるタイヤの偏平比により表1の対応表によって定められる係数K1との積で求めた値(Rm=K1×Sn)に最も近い、表2に示されている規定リム幅Rm[mm]に対応するリム幅の呼びを有するリムである。
【0020】
図2は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤ1のトレッド部10の一部を示す平面展開図である。
図2では、タイヤ赤道線CLよりも左側が車両装着時の車両側であり、タイヤ赤道線CLよりも右側が車両装着時の車両側とは反対側であるものとして説明する。つまり、本明細書及び図面では、この空気入りタイヤ1は、車両の右側に装着されているものとして説明される。
【0021】
本実施形態の空気入りタイヤ1のトレッド部10には、タイヤ周方向に延びる4つの周方向溝12A、12B、12C、12Dと、各周方向溝12A、12B、12C、12Dによって区画された陸部14A、14B、14C、14D、14Eとが形成されている。陸部14A、14B、14D、14Eには、周方向溝12A、12B、12C、12D以外のトレッド部10に配置された溝である、タイヤ周方向を横断する方向に延びる複数の幅方向溝16A、16B及びサイプ18が形成されている。なお、本明細書では、周方向溝12及び幅方向溝16を総称して溝12、16と呼び、本発明では、周方向溝12及び幅方向溝16は1.5mm以上の溝幅を有するものとし、サイプ18は、1.5mm未満の溝幅を有するものとする。
図2に示されているように、溝12、16、陸部14及びサイプ18の構成によって、トレッド部10には、非対称パターンが形成されている。
【0022】
さらに、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、総幅SWと接地幅CWとの比が、
0.75 ≦ CW/SW ≦ 0.9 ・・・<2>
の関係を満たすように形成されている。
【0023】
本発明では、接地幅CWとは、空気入りタイヤ1を上述したリムにリム組みし、230[kPa]で内圧を充填し、負荷能力の80%に相当する荷重をかけて平面に接地させたときの接地面の領域である接地領域Gのタイヤ幅方向の最大幅である。なお、接地長Lとは、この接地領域Gのタイヤ周方向の最大長さである。
【0024】
また、本発明では、負荷能力は、ISO4000−1:1994に基づいて負荷能力が決定される。しかしながら、当該ISO規格において負荷能力指数が設定されていないサイズについては、個別で算出して諸外国の規格との整合を考慮して決定するとの記載があり、この場合では、負荷能力については各国の規格に基づいて算出される。したがって、本発明では実際には、JIS規格で採用している負荷能力算出式を利用したJIS D4202−1994解説の「負荷能力の算定」に記載されている、下記の算定式(c)から各タイヤサイズの負荷能力が算出されている。
X=K×2.735×10−5×P
0.585×Sd
1.39×(D
R−12.7+Sd)
但し、X=負荷能力[kg]
K=1.36
P=230(=空気圧[kPa])
Sd=0.93×S
1−0.637d
S
1=S×((180°−Sin
−1((Rm/S))/131.4°)
S=設計断面幅[mm]
R
m=設計断面幅に対応したリム幅[mm]
d=(0.9−偏平比[−])×S
.75−6.35
D
R=リム径の基準値[mm]
【0025】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、上記の式<2>の関係を満たすように、
図1に示したような内部構造の形状、子午断面視におけるトレッド部10表面の輪郭形状、空気入りタイヤ1の各部材の材料などを、従来のやり方によって、例えば試作試験やシミュレーションなどによって決定することができる。
【0026】
さらに、車両装着時に、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、トレッド部10の接地領域Gにおいて、当該接地領域Gにおける溝面積比率GR、前記タイヤ内側領域Aiにおける接地溝面積比率GRi、及びタイヤ外側領域Aoにおける接地溝面積比率をGRoが、以下の関係を満たすように形成されている。
10[%] ≦ GR ≦ 25[%] ・・・<3>
GRi < GRo ・・・<4>
【0027】
ここで、溝面積比率GRとは、接地領域G内の陸部面積と溝面積との総和(=接地面積)に対する溝面積の比率である。
【0028】
さらに、
図2に示すように、タイヤ内側領域Aiとは、車両装着時に、接地領域Gにおいてタイヤ赤道線CLから車両側に位置すると共に接地幅Wの半分の幅を有する範囲であり、タイヤ外側領域Aoとは、車両装着時に、接地領域においてタイヤ赤道線CLから車両側とは反対側に位置すると共に接地幅Wの半分の幅を有する範囲である。そして、タイヤ内側領域Aiでの接地溝面積比率をGRiは、前記タイヤ内側領域Aiにおける陸部面積と溝面積との総和に対する溝面積の比率であり、タイヤ外側領域Aoでの接地溝面積比率をGRoは、タイヤ外側領域Aoにおける陸部面積と溝面積との総和に対する溝面積の比率である。
【0029】
本実施形態に係る空気タイヤ1によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
【0030】
(1) 本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、その総幅SWと外径ODとの比が、上述の式<1>の関係を満たすように形成されている。それにより、一般的なサイズ(例えば205/55R16(SW/OD=0.32))の空気入りタイヤと比較すると、外径ODに対して総幅SWが狭くなる。その結果、空気入りタイヤ1の前方投影面積が小さく、タイヤ周辺の空気抵抗が低減され、ひいては空気入りタイヤ1の転がり抵抗を低減することができる。その一方で、単に総幅SWを狭くすると空気入りタイヤ1の負荷能力が低下するが、式<1>を満たすことにより外径ODが総幅SWに対して相対的に大きいので、負荷能力の低下を抑制することができる。
【0031】
(2) 本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、総幅SWと接地幅CWとの比が上述の式<2>を満たすように形成されている。したがって、(1)において説明されたように比較的狭い総幅SWに対して接地幅CWを広くし、ひいては接地領域Gの形状をタイヤ幅方向に大きくすることによって、操縦安定性を改善することができる。
【0032】
(3) 本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、接地面積に対する溝面積比率GRが、上述の式<3>に示された範囲の値を取るように形成されている。この溝面積比率GRの範囲は、一般的な空気入りタイヤと比較して、低く設定されている。それにより、陸部14が接地する面積が増大することよってトレッド部10の剛性が高くなり、操縦安定性を向上させることができる。なお、溝面積比率GRが25%よりも高くなると、トレッド部10の剛性が低下してしまい、コーナリングフォースを十分に得ることができず操縦安定性を向上させることが困難になる。そして、上述のように総幅SWが狭いと排水性が向上するが、溝面積比率GRが10%よりも低くなると、トレッド部10に設けられる溝12、16が少なくなり接地領域Gにおいて十分に排水することができず、総合的に排水性を維持することが困難になってしまう。
【0033】
(4) 本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ外側領域Aoにおける接地溝面積比率GRoと、タイヤ内側領域Aiにおける接地溝面積比率GRiとが、上述の式<4>の関係を満たすように形成されている、それにより、タイヤ内側領域Aiよりも、タイヤ外側領域Aoに設けられる溝が多くなる。これにより、旋回時の排水性を向上させることができる。
【0034】
(5) (1)において説明したように、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、一般的なサイズの空気入りタイヤと比較すると、相対的に外径ODが大きく総幅SWが狭い。したがって、自動車の省スペース化、意匠性の向上などを見込むことができる。
【0035】
さらに、溝面積比率GRが、
15[%] ≦ GR ≦ 22[%]
の関係を満たすとさらに好ましい。さらに高度に、排水性の悪化を抑制しつつ、タイヤ外側領域Aoにおけるトレッド部10の剛性が高くなり、ひいては操縦安定性を向上させることができるからである。
【0036】
また、溝面積比率GR、GRi、GRoが、
0.1 ≦ (GRo−GRi)/GR ≦ 0.6 ・・・<5>
の関係を満たすと好ましい。排水性の悪化を抑制しつつ、タイヤ外側領域Aoにおけるトレッド部10の剛性が高くなり、ひいては操縦安定性を向上させることができるからである。なお、一方では、「(GRi−GRo)/GR」が0.1よりも小さいと、排水性の悪化を充分に抑制することができない。他方では、「(GRi−GRo)/GR」が0.6よりも大きいと、タイヤ内側領域Aiにおいてトレッド部10のブロック剛性が低下しすぎてしまい、操縦安定性の低下を引き起こす場合がある。
【0037】
さらに、溝面積比率GR、GRi、GRoが、
0.2 ≦ (GRo−GRi)/GR ≦ 0.4
の関係を満たすとさらに好ましい。排水性の悪化抑制と、ブロック剛性及び接地面積の増加による操縦安定性の向上とを、より高度に両立させることができるからである。
【0038】
ここで、
図2を参照しつつ、タイヤ外内側領域Aoi、タイヤ内外側領域Aioを定義する。タイヤ外内側領域Aoiは、タイヤ外側領域Aoのうちのタイヤ赤道線CL側に位置する、接地幅CWの25%の幅を有する範囲である。そして、タイヤ内外側領域Aioは、タイヤ内側領域Aiのうちのタイヤ赤道線CL側に位置する、接地幅CWの25%の幅を有する範囲である。
【0039】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1の接地長Lは、上述の式<1>を満たすことによって比較的長くなるので、トレッド部10のタイヤ幅方向中央部における溝面積比率が排水性に与える影響が大きい。それに伴い、タイヤ外内領域Aoiにおける溝面積比率GRoi及びタイヤ内外領域Aioにおける溝面積比率GRioが、
GRoi>GRio ・・・<6>
の関係を満たすと好ましい。排水性の影響の大きいトレッド部10のタイヤ幅方向中央部においてさらに、タイヤ内側領域Aiよりも排水性に影響の大きいタイヤ外側領域Aoにより多くの溝12、16が配置されることになるからである。
【0040】
さらにここで、タイヤ外外側領域Aooを定義する。タイヤ外外側領域Aooは、タイヤ外側領域Aoのうちのタイヤ幅方向の接地端GEo側に位置する、タイヤ外内領域Aoi以外の、接地半幅CWの25%の幅を有する範囲である。このとき、タイヤ外内領域Aoiにおける溝面積比率GRoi及びタイヤ外外側領域Aooにおける溝面積比率GRooが、
GRoi>GRoo ・・・<7>
の関係を満たすと好ましい。タイヤ外側領域Aoにおいて、タイヤ外外側領域Aooよりも排水性への影響が大きい、トレッド部10のタイヤ幅方向中央部側に位置するタイヤ外内側領域Aoiに、より多くの溝12、16が設けられることによって、排水性の悪化を抑制しつつ、操縦安定性をより改善することができるからである。
【0041】
上述のように、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、トレッド部10のタイヤ幅方向中央部における溝面積比率が排水性に与える影響が大きい。したがって、トレッド部10のタイヤ幅方向中央部、具体的にはタイヤ赤道線を中心として接地幅CWの40%の幅を有する範囲であるセンター領域Acに、タイヤ周方向に延びる周方向溝12が設けられていると好ましい。
図2を参照すると、本実施形態の空気入りタイヤ1では、当該センター領域Acに周方向溝12B、12Cが設けられている。これにより、排水性の悪化をより抑制することができる。なお、式<6>と同様の趣旨で、周方向溝12が、センター領域Acのうちの、タイヤ赤道線CLよりもタイヤ外側領域Ao側に設けられるとさらに好ましい。
【0042】
排水性の悪化抑制効果に加えて、センター領域Acに周方向溝12が設けられることによって、これら周方向溝12B、12Cよりもタイヤ幅方向の接地端側に位置する陸部14のタイヤ幅方向の幅が広くなる。それにより、操縦安定性を改善することもできる。しかしながら、本発明では、本実施形態に係る空気入りタイヤ1のように、センター領域Acに周方向溝12が設けられていなくてもよい。
【0043】
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1のトレッド部10には、タイヤ赤道線を横断する方向に延びる幅方向溝16A、16Bが設けられており、これらの幅方向溝16A、16Bは、タイヤ幅方向に対して傾斜している。それにより、空気入りタイヤ1が湿潤路面上を転動するときに接地領域G内に侵入する水は、接地前端側(踏み込み側)から接地後端側(蹴り出し側)へ排水されるので、幅方向溝16A、16Bが周方向溝12と平行に近い角度を有すると、よりスムーズに接地領域G内に侵入した水を排水することができる。
【0044】
言い換えると、幅方向溝16のタイヤ幅方向に対する傾斜角度を大きくすると、旋回時の排水性に有利である。したがって、さらに、本実施形態に係る空気入りタイヤ1のように、タイヤ外側領域Aoに設けられた幅方向溝16Bのタイヤ幅方向に対する傾斜角度θoは、タイヤ内側領域Aiに設けられた幅方向溝16Aのタイヤ幅方向に対する傾斜角度θiよりも大きいと好ましい。幅方向溝16のタイヤ幅方向に対する傾斜角度に関して、タイヤ内側領域Aiよりもタイヤ外側領域Aoの方が、旋回時の排水性に対する寄与度が大きく、効率的に旋回時の排水性を改善することができるからである。
【0045】
しかしながら、本発明に係る空気入りタイヤは、タイヤ外側領域Aoに設けられた幅方向溝16Bのタイヤ幅方向に対する傾斜角度θoは、タイヤ内側領域Aiに設けられた幅方向溝16Aのタイヤ幅方向に対する傾斜角度θiと同じ又はこれよりも小さくてもよい。さらに、本発明に係る空気入りタイヤでは、周方向溝16は、タイヤ幅方向に対して傾斜しておらず、タイヤ幅方向に平行に延びていてもよいし、トレッド部10に設けられていなくてもよい。
【0046】
さらにここで、ショルダー領域Asを定義する。ショルダー領域Asは、タイヤ内側領域Ai及びタイヤ外側領域Aoにおいて、タイヤ幅方向の接地端GEo、GEiからタイヤ赤道線に向かって接地幅CWの15%の幅を有する範囲である。そして、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、そのトレッド部10のショルダー領域Asに、周方向溝12A、12Dが設けられている。これら周方向溝12A、12Dの溝幅は、センター領域Acに配置された周方向溝12B、12Cと比べると細い。ここで、本発明では、1.5mm以上、3.0mm以下の溝幅を有する周方向溝を、周方向細溝12A、12Dと呼ぶこととする。
【0047】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1のように、トレッド部10のショルダー領域Asに周方向細溝12A、12Dが設けられていると、さらにいえば、これらショルダー領域Asの少なくとも一方に周方向細溝が設けられていると好ましい。トレッド部10のショルダー領域Asに集中する傾向のある内部応力が、周方向細溝12A、12Dが設けられていることで分散されることによって、空気入りタイヤ1の転動によるヒステリシスロスを減少させ、ひいては転がり抵抗を低減できるからである。また、ショルダー領域Asに周方向溝12A、12Dが設けられることになるので、旋回時排水性の悪化抑制の効果もあり好ましい。しかしながら、本発明に係る空気入りタイヤは、ショルダー領域Asに周方向細溝が設けられていなくてもよい。
【0048】
さらに、本実施形態に係る空気入りタイヤ1のように、タイヤ内側領域Aiに、タイヤ赤道線を横断する方向に延びるサイプ18が設けられていると好ましい。溝面積比を大幅に変更することなく、サイプ18を設けた部分のトレッド剛性を低下させることによって、トレッド部10全体の剛性バランスを調節することができ、ひいては操縦安定性を改善することができるからである。しかしながら、本発明に係る空気入りタイヤは、内側領域Aiにサイプ18が設けられていなくてもよい。
【0049】
上述のように、本実施形態の空気入りタイヤ1のトレッド部10には、周方向溝12及び幅方向溝16の両方が設けられている。しかしながら、本発明では、空気入りタイヤ1のトレッド部10には溝12,16が設けられており、この空気入りタイヤ1の接地領域Gにおいて、少なくとも式<2>〜<4>が満たされていればよい。言い換えれば、本発明の空気入りタイヤ1のトレッド部10には、少なくとも式<2>〜<4>を満たすように、周方向溝12又は幅方向溝16のいずれか一方が設けられていればよい。
【実施例】
【0050】
本実施例では、様々な条件を有する空気入りタイヤについて、燃費指数、操縦安定性、旋回時排水性に関するタイヤ性能試験が行われた。
【0051】
これらの性能試験では、各テストタイヤに適合する上述したサイズのリムを組付け、各々に230[kPa]の内圧を充填して行われた。
【0052】
これより、テストタイヤについて行われた性能試験の試験方法について説明する。
【0053】
(燃費性能)
テストタイヤを排気量1800ccの前輪駆動車に装着し、全長2kmのテストコースを時速100km/hにて50周走行し、従来例の燃料消費率を100としたときの燃費改善率を測定した。指数が大きいほど燃費が良いことを表している。
【0054】
(操縦安定性)
テストタイヤを標準リムにリム組みして乗用車(排気量1800cc)に装着し、1周2kmのテストコースをレーンチェンジしながら3周走行したときのフィーリングを3人の専門ドライバーにより評価した。評価結果は、従来例のフィーリング評価点の平均値を100としたときの、各テストタイヤの評価点の平均値を指数で表示した。この指数値が大きいほど操縦安定性が優れていることを示す。
【0055】
(旋回時排水性)
テストタイヤを排気量1800ccの小型前輪駆動車に装着し、一定の水深(平均10mm)の路面を一定の半径(100m)で旋回しながら速度を上げていくときの発生横加速度を計測し、発生横加速度が最大となるときの速度をハイドロプレーニング速度とし、その結果を、従来タイヤを100とする指数で示す。この指数値が大きいほど、旋回時排水性に優れることを意味する。
【0056】
これより、各テストタイヤ及びその性能試験結果について説明する。
(従来例)
従来例に係る空気入りタイヤは、タイヤサイズが205/55R16であり、その「SW/OD」の値が0.32であり、すなわち式<1>を満たさない。従来例に係る空気入りタイヤのトレッド部には、
図3に示されているトレッドパターンが設けられている。
【0057】
(実施例1〜14)
実施例1〜14に係る空気入りタイヤは、タイヤサイズがそれぞれ異なり、「SW/OD」が0.30〜0.21の範囲の値を取り、すなわち式<1>を満たす。実施例1〜14に係る空気入りタイヤのトレッド部10には、
図3に示されているトレッドパターンを基礎として各タイヤサイズに適合するように変更されたトレッドパターンが設けられている。
【0058】
従来例及び実施例1〜14に係る空気入りタイヤについて、燃費指数に関する性能試験が行われた。表3には、各テストタイヤの寸法に関する数値と、性能試験結果とが示されている。
【0059】
【表3】
【0060】
表3の性能試験結果によれば、式<1>を満たす実施例1〜14に係るテストタイヤは、従来例よりも燃費指数において優れている。この性能試験結果により、試験されたタイヤサイズのうちでは、タイヤサイズ165/55R20(実施例11)であれば、タイヤサイズ205/55R16に対して燃費が十分に改善されることが確認された。したがって、以後のトレッドパターンに関する試験については、このタイヤサイズが使用される。
【0061】
(実施例15〜17、比較例1〜3)
実施例15〜17及び比較例1〜3に係る空気入りタイヤは、タイヤサイズが165/55R20である。比較例1に係る空気入りタイヤは、タイヤサイズのみが従来例から変更されたテストタイヤである。そして、実施例15〜17及び比較例2〜3に係る空気入りタイヤは、「CW/SW」が0.82であり、「(GRo−GRi)/GR」が0.32であり、かつ、溝面積比率GRが5〜27[%]の範囲で振り分けられたテストタイヤである。ここで、実施例15〜17に係る空気入りタイヤは式<1>〜<4>の関係のすべてを満たしているが、比較例1〜3に係る空気入りタイヤは式<3>の関係を満たさない。
【0062】
ここで、実施例及び比較例に係る空気入りタイヤのトレッド部には、従来例のトレッドパターン、つまり
図3のトレッドパターンを基礎として、各テストタイヤに設定されている溝面積比率GRなどの各寸法パラメータに適合するように変更されたトレッドパターンが設けられている。ここで一例として、実施例17に係る空気入りタイヤのトレッド部には、
図2に示されているトレッドパターンが設けられている。同様に、実施例及び比較例に係る空気入りタイヤでは、
図2に示されたトレッドパターンのように、
図3のトレッドパターンを基礎として、周方向溝12及び幅方向溝16の溝面積や、周方向溝12のタイヤ幅方向位置などを変更することによって、各テストタイヤの各寸法パラメータに適合させている。
【0063】
(実施例18〜20、比較例4、5)
実施例18〜20及び比較例4、5に係る空気入りタイヤは、タイヤサイズが165/55R20である。さらに、これらの空気入りタイヤは、「GR」が18[%]であり、「(GRo−GRi)/GR」が0.32であり、かつ、「CW/SW」が0.73〜0.91の範囲で振り分けられたテストタイヤである。上述のように、実施例18〜20及び比較例4、5に係る空気入りタイヤのトレッド部には、
図3を基礎として変更されたトレッドパターンが設けられている。ここで、実施例18〜20に係る空気入りタイヤは式<1>〜<4>の全ての関係を満たしているが、比較例4、5に係る空気入りタイヤは式<2>の関係を満たさない。
【0064】
従来例、実施例15〜20及び比較例1〜5に係る空気入りタイヤについて、燃費指数、操縦安定性及び旋回時排水性に関する性能試験が行われた。表4には、各テストタイヤの寸法に関する数値と、性能試験結果とが示されている。
【0065】
【表4】
【0066】
表4の性能試験結果によれば、式<1>〜<4>の関係を満たす実施例15〜20に係る空気入りタイヤは、従来例に対して、燃費指数において上回り、操縦安定性及び旋回時の排水性の両方においても維持又はそれを上回る性能を有する。これに対して、比較例1〜5に係る空気入りタイヤは、操縦安定性又は旋回時排水性のうちの一方が、従来例を下回っており、これらの性能を両立させることができていない。
【0067】
(実施例21〜24)
実施例21〜24に係る空気入りタイヤは、タイヤサイズが165/55R20であるテストタイヤであって、「(GRo−GRi)/GR」が0.05〜0.8の範囲で振り分けられたテストタイヤである。上述のように、これら実施例に係る空気入りタイヤのトレッド部には、従来例のトレッドパターンを基礎として変更されたトレッドパターンが設けられている。ここで、実施例21〜24に係る空気入りタイヤは、式<1>〜<4>の関係を満たしており、さらに実施例22、23に係る空気入りタイヤは式<5>を満たす一方で、実施例21、24に係る空気入りタイヤは式<5>を満たさない。
【0068】
従来例及び実施例21〜24に係る空気入りタイヤについて、燃費指数、操縦安定性及び旋回時排水性に関する性能試験が行われた。表5には、各テストタイヤの寸法に関する数値と、性能試験結果とが示されている。
【0069】
【表5】
【0070】
表5の性能試験結果によれば、式<5>の関係を満たす実施例22、23に係る空気入りタイヤは、式<5>の関係を満たさない実施例21、24に係る空気入りタイヤよりも、操縦安定性及び旋回時排水性がより高度にバランスされている。
【0071】
(実施例25〜28)
実施例25〜28に係る空気入りタイヤは、タイヤサイズが165/55R20であり、上述のように、これら実施例に係る空気入りタイヤのトレッド部には、従来例のトレッドパターンを基礎として変更されたトレッドパターンが設けられている。実施例25〜28に係る空気入りタイヤは、式<1>〜<5>の全ての関係を満たしている。さらに、実施例26に係る空気入りタイヤは式<6>の関係を満たしており、実施例27に係る空気入りタイヤは式<7>の関係を満たしており、実施例28に係る空気入りタイヤは式<6>及び式<7>の両方の関係を満たしている。その一方で、実施例25に係る空気入りタイヤは式<6>及び式<7>の両方の関係を満たしていない。
【0072】
従来例、実施例25〜28に係る空気入りタイヤについて、燃費指数、操縦安定性及び旋回時排水性に関する性能試験が行われた。表6には、各テストタイヤの寸法に関する数値及び条件と、性能試験結果とが示されている。なお、表6の「GRoi vs. GRio」の項目は、「GRoi」と「GRio」との大小関係を、ひいては式<6>を満たすか否か示している。また、「GRoi vs. GRoo」の項目は、「GRoi」と「GRoo」との大小関係を、ひいては式<7>を満たすか否かについて示している。
【0073】
【表6】
【0074】
式<6>を満たす実施例26及び実施例28に係る空気入りタイヤはそれぞれ、旋回時の排水性において、式<6>を満たさない実施例25及び実施例27に係る空気入りタイヤを上回る。さらに、式<7>を満たす実施例27及び実施例28に係る空気入りタイヤはそれぞれ、操縦安定性において、式<7>を満たさない実施例25及び実施例26に係る空気入りタイヤを上回る。
【0075】
本発明は、以下のように規定される。
【0076】
(1) トレッド部に溝によって形成された非対称パターンが形成されている空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤの総幅SWと外径ODとの比が、
SW/OD≦0.3
の関係を満たし、かつ、
前記トレッド部における接地領域での接地幅をCWとすると共に溝面積比率をGRとし、車両装着時において、接地領域におけるタイヤ赤道線から車両側に位置する範囲をタイヤ内側領域Aiとし、前記タイヤ内側領域Aiにおける接地溝面積比率をGRiとし、車両装着時において、接地領域におけるタイヤ赤道線から車両側とは反対側に位置する範囲をタイヤ外側領域Aoとし、前記タイヤ外側領域Aoにおける接地溝面積比率をGRoとしたときに、前記接地領域は、
0.75 ≦ CW/SW ≦ 0.9
10[%] ≦ GR ≦ 25[%]
GRi < GRo
の関係を満たすように形成されていることを特徴とする、
空気入りタイヤ。
【0077】
(2) 前記GR、前記GRi及び前記GRoが、
0.1 ≦ (GRo−GRi)/GR ≦ 0.6
の関係を満たすことを特徴とする、
(1)に記載の空気入りタイヤ。
【0078】
(3) 前記タイヤ内側領域Aiのうち、タイヤ赤道線側に位置する接地幅CWの25%に相当する幅を有する範囲を内外側領域Aioとし、前記内外側領域Aioにおける溝面積比をGRioとし、さらに、前記タイヤ外側領域Aoのうち、タイヤ赤道線側に位置する接地幅CWの25%に相当する幅を有する範囲を外内側領域Aoiとし、前記外内側領域Aoiにおける溝面積比をGRoiとしたときに、
GRoi>GRio
を満たすことを特徴とする、
(1)又は(2)に記載の空気入りタイヤ。
【0079】
(4) 前記タイヤ外側領域Aoのうち、タイヤ赤道線側に位置する接地幅CWの25%に相当する幅を有する範囲をタイヤ外内側領域Aoiとし、前記タイヤ外内側領域Aoiにおける溝面積比をGRoiとし、さらに、前記タイヤ外側領域Aoのうち、タイヤ幅方向接地端側に位置する接地幅CWの25%に相当する幅を有する範囲をタイヤ外外側領域Aooとし、前記タイヤ外外側領域Aooにおける溝面積比をGRooとしたときに、 GRoi>GRoo
の関係を満たすことを特徴とする、
(1)〜(3)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【0080】
(5) タイヤ赤道線を中心として接地幅CWの40%の幅を有するセンター領域Acに、タイヤ周方向に延びる周方向溝が設けられていることを特徴とする、
(1)〜(4)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【0081】
(6) 前記トレッド部には、タイヤ赤道線を横断する方向に延びる幅方向溝が設けられており、
前記幅方向溝は、タイヤ幅方向に対して傾斜していることを特徴とする、
(1)〜(5)のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【0082】
(7) 前記幅方向溝のうちの前記タイヤ外側領域Aoに設けられた幅方向溝のタイヤ幅方向に対する傾斜角度は、前記幅方向溝のうちのタイヤ内側領域Aiに設けられた幅方向溝のタイヤ幅方向に対する傾斜角度よりも大きいことを特徴とする、
(6)に記載の空気入りタイヤ。
【0083】
(8) 前記タイヤ内側領域Ai及び前記タイヤ外側領域Aoにおいて、タイヤ幅方向の接地端からタイヤ赤道線に向かって接地幅CWの15%の幅を有するショルダー領域Asの少なくとも一方に、タイヤ周方向に延びる周方向細溝が設けられることを特徴とする、
(1)〜(7)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【0084】
(9) 前記タイヤ内側領域Aiに、タイヤ赤道線を横断する方向に延びるサイプが設けられることを特徴とする、
(1)〜(8)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。