(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する密封装置において、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動する樹脂製のシールリングと、
前記環状溝の溝底面に対して隙間を空けた状態で前記シールリングにおける内周面に沿うように設けられ、前記シールリングを外周面側に向かって押圧する金属ばねと、
を備えると共に、
前記シールリングの外周面には、高圧側の端部から低圧側の端部に至らない位置まで伸び、高圧側から流体を導入する凹部が形成されると共に、
前記シールリングの内周面には、前記金属ばねの軸線方向の位置決めを行うガイド部が形成されており、かつ該ガイド部の先端には前記金属ばねの内周面側への抜け落ちを抑制する突起が設けられていることを特徴とする密封装置。
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する密封装置において、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動する樹脂製のシールリングと、
前記環状溝の溝底面に対して隙間を空けた状態で前記シールリングにおける内周面に沿うように設けられ、前記シールリングを外周面側に向かって押圧する金属ばねと、
を備えると共に、
前記シールリングの外周面には、高圧側の端部から低圧側の端部に至らない位置まで伸び、高圧側から流体を導入する凹部が形成されると共に、
前記シールリングの周方向の1箇所には合口部が設けられ、該合口部を挟んだ両側の内周面には、前記金属ばねの周方向への移動を規制する突起がそれぞれ設けられていることを特徴とする密封装置。
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力
を保持する密封装置において、
前記環状溝における低圧側の側壁面に密着し、かつ前記ハウジングにおける前記軸が挿通される軸孔の内周面に対して摺動する樹脂製のシールリングと、
前記環状溝の溝底面に対して隙間を空けた状態で前記シールリングにおける内周面に沿うように設けられ、前記シールリングを外周面側に向かって押圧する金属ばねと、
を備えると共に、
前記シールリングの外周面には、高圧側の端部から低圧側の端部に至らない位置まで伸び、高圧側から流体を導入する凹部が形成されると共に、
前記シールリングの内周面には、前記金属ばねの軸線方向の位置決めを行うガイド部が形成されており、かつ該ガイド部の先端には前記金属ばねの内周面側への抜け落ちを抑制する第1突起が設けられており、
前記シールリングの周方向の1箇所には合口部が設けられ、該合口部を挟んだ両側の内周面には、前記金属ばねの周方向への移動を規制する第2突起がそれぞれ設けられていることを特徴とする密封装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本実施例に係る密封装置は、自動車用のATやCVTなどの変速機において、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する用途に用いられるものである。また、以下の説明において、「高圧側」とは、密封装置の両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、密封装置の両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。
【0029】
(実施例1)
図1〜
図7を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置について説明する。
【0030】
<密封装置の構成>
特に、
図1、
図5〜
図7を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置の構成について説明する。本実施例に係る密封装置100は、軸400の外周に設けられた環状溝410に装着され、相対的に回転する軸400とハウジング500(ハウジング500における軸400が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、密封装置100は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、
図5〜
図7中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、密封装置100は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
【0031】
そして、本実施例に係る密封装置100は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂製のシールリング200と、金属ばね300とから構成される。本実施例に係る金属ばね300は、環状部材における周方向の1箇所が欠落したCリングを用いている。
【0032】
また、シールリング200と金属ばね300が組み合わされた状態においては、シールリング200の外周面の周長は、ハウジング500における軸孔の内周面の周長よりも長くなるように構成されている。なお、シールリング200単体については、その外周面の周長はハウジング500の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、仮に金属ばね300を装着しない状態で、かつ外力が作用しない状態にすると、シールリング200の外周面はハウジング500の軸孔の内周面には接しない。
【0033】
<シールリング>
特に、
図1〜
図4を参照して、本発明の実施例1に係るシールリング200について、より詳細に説明する。シールリング200には、周方向の1箇所に合口部210が設けられている。また、シールリング200の外周面には流体を導入するための凹部220が、周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成されている。更に、シールリング200の内周面には、金属ばね300の軸線方向(軸400の中心軸線方向を意味する。以下同様)の位置決めを行うガイド部としての突起223,224が設けられている。これらの突起223,224は、金属ばね300の両側に設けられるように、シールリング200における一方の側面側と他方の側面側にそれぞれ設けられている。また、これらの突起223,224は、周方向に間隔を空けて、複数設けられている。
【0034】
なお、本実施例に係るシールリング200は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部210と複数の凹部220と複数の突起223,224が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これらに合口部210と複数の凹部220と複数の突起223,224を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、合口部210と複数の凹部220と複数の突起223,224を切削加工により得ることもできる。しかしながら、例えば、予め合口部210及び複数の突起223,224を有したものを成形した後に、複数の凹部220を切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0035】
合口部210は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。これにより、シールリング200においては、切断部を介して一方の側の外周側には第1嵌合凸部211a及び第1嵌合凹部212aが設けられ、他方の側の外周側には第1嵌合凸部211aが嵌る第2嵌合凹部212bと第1嵌合凹部212aに嵌る第2嵌合凸部211bが設けられている。特殊ステップカットに関しては公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮によりシールリング200の周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。なお、ここでは合口部210の一例として、特殊ステップカットの場合を示したが、合口部210については、これに限らず、ストレートカットやバイアスカットなども採用し得る。なお、シールリング200の材料として、低弾性の材料(PTFEなど)を採用した場合には、合口部210を設けずに、エンドレスとしてもよい。
【0036】
凹部220は、周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成されている。なお、本実施例においては、合口部210付近を除き、等間隔となるように複数の凹部220が設けられている。また、凹部220は、その周方向の長さが比較的長く、合口部210付近を除き、凹部220と凹部220との間の部位の周方向の長さは凹部220の周方向の長さに比べて短くなるように構成されている。以下、凹部220と凹部220との間の部位をリブ221と称する。このような構成により、凹部220は、周方向のほぼ全域に亘って形成されている。つまり、合口部210が形成されている部位と、周方向の長さが短い複数のリブ221の部位を除き、周方向の全域に亘って凹部220が形成されている。また、本実施例におけるリブ221の両側面は、凹部220の底面から垂直となるように構成されている。
【0037】
また、凹部220は、一方(後述のように高圧側(H))の端部から他方(後述のように低圧側(L))の端部に至らない位置まで伸びるように形成されている。より具体的には、凹部220は他方の端部付近まで伸びるように形成されている。以下、シールリング200の外周面側において、他方側(低圧側(L))における凹部220が形成されずに残っている部位を低圧側凸部222と称する。なお、凹部220の深さについては、浅い方が、リブ221及び低圧側凸部222が設けられている部位の剛性が高くなる。一方、これらリブ221及び低圧側凸部222は摺動により摩耗するため、凹部220の深さは経時的に浅くなっていく。そのため、凹部220の深さが浅くなり過ぎると流体を導入することができなくなってしまう。そこで、上記剛性と経時的な摩耗が進んでも流体の導入を維持することの両者を考慮して、初期の凹部220の深さを設定するのが望ましい。例えば、シールリング200の肉厚が1.7mmの場合、凹部220の深さを0.1mm以上0.3mm以下程度に設定するとよい。また、凹部220の幅(軸線方向の幅)に関して、凹部220の幅を広くするほど、低圧側凸部222の幅は狭くなる。この幅が狭いほど、トルクを低減することができるものの、幅を狭くし過ぎると、シール性及び耐久性が低下してしまう。そこで、使用環境等に応じて、シール性及び耐久性を維持できる程度に、当該幅を可及的に狭くするのが望ましい。なお、例えば、シールリング200の幅(軸線方向の幅)の全長が1.9mmの場合、低圧側凸部222の幅は、0.3mm以上0.7mm以下程度に設定するとよい。また、リブ221の周方向の幅は0.3mm以上0.7mm以下に設定するとよい。
【0038】
<密封装置の使用時のメカニズム>
特に、
図5〜
図7を参照して、本実施例に係る密封装置100の使用時のメカニズムについて説明する。
図5及び
図6は、エンジンが停止して、密封装置100を介して左右の領域の差圧がなく(または、差圧が殆どなく)、無負荷の状態を示している。なお、
図5はシールリング200において凹部220が設けられている部位の模式的断面図(軸400の軸線を含む断面図)であり、
図6はシールリング200においてリブ221が設けられている部位の模式的断面図(軸400の軸線を含む断面図)である。
図5中のシールリング200は、
図3中のAA断面に相当し、
図6中のシールリング200は
図3中のBB断面に相当する。
図7は、エンジンがかかり、密封装置100を介して、左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった状態を示している。なお、
図7はシールリング200において凹部220が設けられている部位の模式的断面図(軸400の軸線を含む断面図)である。
図7中のシールリング200は、
図3中のAA断面に相当する。
【0039】
密封装置100が環状溝410に装着された状態においては、金属ばね300は、自己の拡張力によって、シールリング200を外周面側に向かって押圧する機能を発揮する。従って、シールリング200の外周面のうち凹部220を除く部位、すなわち、リブ221と低圧側凸部222が設けられている部位は、ハウジング500の軸孔の内周面に接した状態を維持する。
【0040】
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、
図7に示すように、高圧側(H)からの流体圧力によって、シールリング200は、環状溝410における低圧側(L)の側壁面に密着した状態となる。なお、シールリング200は、ハウジング500における軸孔の内周面に対して接した(摺動した)状態を維持していることは言うまでもない。
【0041】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係る密封装置100によれば、シールリング200は金属ばね300によって外周面側に向かって押圧される。そのため、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)、または流体圧力が殆ど作用していない(差圧が殆ど生じていない)状態においても、シールリング200はハウジング500の軸孔の内周面に接した状態となる。なお、シールリング200におけるリブ221の外周面と、低圧側凸部222の外周面と、合口部210付近における凹部220が形成されていない部分の外周面によって、環状の連続したシール面が形成される。そのため、シールリング200が環状溝410における低圧側(L)の側壁面に密着した状態を維持する限り、封止機能が発揮される。従って、シール対象領域の流体圧力が高まりだした直後から流体圧力を保持させることができる。つまり、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいては、エンジン停止状態からアクセルが踏み込まれることでエンジンが始動することによって、シール対象領域側の油圧が高まりだした直後から油圧を保持させることができる。
【0042】
ここで、一般的には、樹脂製のシールリングの場合、流体の漏れを抑制する機能はあまり発揮されない。しかしながら、本実施例においては、シールリング200が金属ばね300により外周面側に向かって押圧されることによって、ある程度流体の漏れを抑制する機能が発揮される。そのため、エンジンが停止することでポンプなどによる作用が停止した後も、しばらくの間差圧が生じた状態を維持させることが可能となる。従って、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいて、エンジンの停止状態がそれほど長くない場合には、差圧が生じた状態を維持できるので、エンジンを再始動させた際に、その直後から好適に流体圧力を保持させることができる。
【0043】
なお、エンジンが停止してから、かなりの時間が経過した状態では、流体圧力が完全に作用しなくなる(差圧がゼロになる)。この場合、シールリング200が環状溝410の側壁面(差圧が生じた際における低圧側(L)の側壁面)から離れ得る。そのため、流体の漏れが生じ得る。しかしながら、上記の通り、エンジンの停止状態がそれほど長くない場合には、差圧が生じた状態を維持できるので、シールリング200が環状溝410の低圧側(L)の側壁面に密着した状態を維持することができる。従って、低負荷の状態であっても、流体の漏れを抑制する機能が発揮される。
【0044】
また、シールリング200の外周面には複数の凹部220が形成されており、これら複数の凹部220内には高圧側(H)から流体が導入される。そのため、流体圧力が高まっても、凹部220が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。なお、
図7における矢印は、流体圧力がシールリング200に対して作用する様子を示している。これにより、本実施例に係る密封装置100においては、流体圧力の増加に伴う、シールリング200による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
【0045】
また、凹部220は、周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成されていることから凹部220と凹部220の間の部位(リブ221)は、ハウジング500の軸孔の内周面に対して接した状態となる。また、複数のリブ221が設けられることで、リブ221を設けない場合に比べて、シールリング200の剛性の低下を抑制できる。従って、シールリング200が環状溝410内で傾いてしまうことを抑制でき、シールリング200の装着状態を安定化させることができる。なお、仮に、複数のリブ221を設けない構成を採用した場合、
図5及び
図7において、シールリング200が、図中反時計回り方向に傾いてしまうことが懸念される。
【0046】
また、本実施例においては、凹部220は、高圧側(H)の端部から低圧側(L)の端部付近まで伸びるように、かつ合口部210付近と、周方向の長さが短い複数のリブ221が設けられている部位を除く全周に亘って形成されている。このように、本実施例においては、シールリング200の外周面の広範囲に亘って凹部220を設けたことにより、シールリング200とハウジング500の軸孔の内周面との摺動面積を可及的に狭くすることができ、摺動トルクを極めて軽減することができる。なお、シールリング200とハウジング500の軸孔の内周面との摺動面積は、シールリング200と環状溝410の低圧側(L)の側壁面との密着面積よりも十分狭くなっている。これに伴い、シールリング200が環状溝410における低圧側(L)の側壁面に対して摺動してしまうことを抑制できる。従って、本実施例に係るシールリング200は外周面側が摺動するため、環状溝の側壁面との間で摺動するシールリングの場合に比べて、密封対象流体による潤滑膜(ここでは油膜)が形成され易くなり、より一層、摺動トルクを低減させることができる。
【0047】
このように、摺動トルクの低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本実施例に係る密封装置100を好適に用いることが可能となる。
【0048】
更に、本実施例においては、金属ばね300は、環状溝410の溝底面に対して隙間を空けた状態でシールリング200における内周面に沿うように設けられているので、軸400とハウジング500の偏心による影響は殆ど受けない。また、シールリング200と金属ばね300が相対的に回転してしまうことはない。従って、シールリング200と金属ばね300が摺動してしまうことはなく、シールリング200の内周面側が摺動により摩耗してしまうことはない。
【0049】
また、金属ばね300は、突起223,224によって、軸線方向の位置決めがなされている。従って、シールリング200は、金属ばね300によって、安定的に外周面側に向かって押圧される。
【0050】
(シールリングの変形例)
上記実施例においては、金属ばね300の軸線方向の位置決めを行うガイド部の例として、シールリング200の内周面に複数の突起223,224を形成する場合を示した。上記実施例のように、複数の突起223,224を周方向に間隔を空けて複数設け、かつ突起223と突起224が周方向の異なる位置に配置する構成を採用することで、これらの突起223,224を金型による成形によって容易に形成することが可能となる。つまり、これらの突起223,224は軸線方向に対してアンダーカットにはならない。
【0051】
しかしながら、金属ばね300の軸線方向の位置決めを行うガイド部の構成は上記実施例に示した構成に限定されるものではない。例えば、
図8及び
図9に示すように、シールリング200の内周面に沿って溝225を形成し、この溝225に金属ばね300を嵌めるようにしてもよい。この場合には、切削加工によって、シールリング200の内周面に溝225を形成すればよい。なお、加工上の困難性を伴う場合には、合口部付近を除いて、略環状の溝225を形成することもできる。この場合には、Cリングである金属ばね300において、周方向の1箇所が欠落している部分を合口部付近に位置するように、金属ばね300を溝225に嵌めればよい。なお、
図8及び
図9において、溝225以外の構成については、上記実施例で説明した通りであるので、同一の構成部には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0052】
また、金属ばね300の例として、Cリングの場合を示したが、金属ばね300は、Cリングに限定されるものではない。例えば、
図10に示す金属ばね300aのように、環状のコイルスプリングを用いても良い。なお、
図10において、溝225及び金属ばね300a以外の構成については、上記実施例で説明した通りであるので、同一の構成部には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0053】
(実施例2)
図11〜
図19を参照して、本発明の実施例2に係る密封装置について説明する。
【0054】
<密封装置の構成>
特に、
図11、
図14〜
図19を参照して、本発明の実施例2に係る密封装置の構成について説明する。本実施例に係る密封装置100は、軸400の外周に設けられた環状溝410に装着され、相対的に回転する軸400とハウジング500(ハウジング500における軸400が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、密封装置100は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、
図17〜
図19中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、密封装置100は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
【0055】
そして、本実施例に係る密封装置100は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂製のシールリング200と、金属ばね300とから構成される。本実施例に係る金属ばね300は、環状部材における周方向の1箇所が欠落したCリングを用いている。
【0056】
また、シールリング200と金属ばね300が組み合わされた状態においては、シールリング200の外周面の周長は、ハウジング500における軸孔の内周面の周長よりも長くなるように構成されている。なお、シールリング200単体については、その外周面の周長はハウジング500の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、仮に金属ばね300を装着しない状態で、かつ外力が作用しない状態にすると、シールリング200の外周面はハウジング500の軸孔の内周面には接しない。
【0057】
<シールリング>
特に、
図11〜
図16を参照して、本発明の実施例2に係るシールリング200について、より詳細に説明する。なお、
図12及び
図13は本実施例に係るシールリング200の側面図であり、
図12は
図11においてシールリング200を図中下側から見た図に相当し、
図13は
図11においてシールリング200を図中上側から見た図に相当する。
図14は本実施例に係る密封装置における合口部付近における一部破断斜視図である。
図15及び
図16は本実施例に係るシールリング200の模式的断面図であり、
図15は
図13中のAA断面図であり、
図16は
図13中のBB断面図である。なお、
図15及び
図16においては、金属ばね300が装着された状態における金属ばね300の位置を点線にて示している。
【0058】
シールリング200には、周方向の1箇所に合口部210が設けられている。また、シールリング200の外周面には流体を導入するための凹部220が、周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成されている。
【0059】
また、シールリング200の内周面には、金属ばね300の軸線方向(軸400の軸線方向)の位置決めを行うガイド部としてのガイド突起231,232が設けられている。これらのガイド突起231,232は、金属ばね300の両側に設けられるように、シールリング200における一方の側面側と他方の側面側にそれぞれ設けられている。また、これらのガイド突起231,232は、周方向に間隔を空けて、複数設けられている。なお、これらのガイド突起231,232は内周面側に向かって突出するように設けられている。
【0060】
また、これらのガイド突起231,232の先端には金属ばね300の内周面側への抜け落ちを抑制する第1突起231a,232aがそれぞれ設けられている。これらの第1突起231a,232aは、軸線方向かつ内側に向かって突出するように設けられている。
【0061】
更に、シールリング200の合口部210を挟んだ両側の内周面には、金属ばね300の周方向への移動を規制する第2突起233がそれぞれ設けられている。なお、金属ばね300は、周方向の1箇所の欠落部分を挟んだ両端が、一対の第2突起233を挟み込むようにして、シールリング200の内周面側に装着される(
図14参照)。これにより、金属ばね300の先端が第2突起233に突き当たることで、金属ばね300の周方向への移動が規制される。
【0062】
なお、本実施例に係るシールリング200は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部210と、複数の凹部220と、第1突起231a,232aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起231,232と、2つの第2突起233が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これら合口部210と、複数の凹部220と、第1突起231a,232aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起231,232と、2つの第2突起233を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、合口部210と、複数の凹部220と、第1突起231a,232aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起231,232と、2つの第2突起233を切削加工により得ることもできる。しかしながら、例えば、予め、合口部210と、第1突起231a,232aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起231,232と、2つの第2突起233とを有したものを成形した後に、複数の凹部220を切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0063】
合口部210は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。これにより、シールリング200においては、切断部を介して一方の側の外周側には第1嵌合凸部211a及び第1嵌合凹部212aが設けられ、他方の側の外周側には第1嵌合凸部211aが嵌る第2嵌合凹部212bと第1嵌合凹部212aに嵌る第2嵌合凸部211bが設けられている。特殊ステップカットに関しては公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮によりシールリング200の周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。なお、ここでは合口部210の一例として、特殊ステップカットの場合を示したが、合口部210については、これに限らず、ストレートカットやバイアスカットやステップカットなども採用し得る。
【0064】
凹部220は、周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成されている。なお、本実施例においては、合口部210付近を除き、所定の間隔で複数の凹部220が設けられている。また、凹部220は、その周方向の長さが比較的長く、合口部210付近を除き、凹部220と凹部220との間の部位の周方向の長さは凹部220の周方向の長さに比べて短くなるように構成されている。以下、凹部220と凹部220との間の部位をリブ221と称する。このような構成により、凹部220は、周方向のほぼ全域に亘って形成されている。つまり、合口部210が形成されている部位と、周方向の長さが短い複数のリブ221の部位を除き、周方向の全域に亘って凹部220が形成されている。また、本実施例におけるリブ221の両側面は、凹部220の底面から垂直となるように構成されている。
【0065】
また、凹部220は、一方(後述のように高圧側(H))の端部から他方(後述のように低圧側(L))の端部に至らない位置まで伸びるように形成されている。より具体的には、凹部220は他方の端部付近まで伸びるように形成されている。以下、シールリング200の外周面側において、他方側(低圧側(L))における凹部220が形成されずに残っている部位を低圧側凸部222と称する。なお、凹部220の深さについては、浅い方が、リブ221及び低圧側凸部222が設けられている部位の剛性が高くなる。一方、これらリブ221及び低圧側凸部222は摺動により摩耗するため、凹部220の深さは経時的に浅くなっていく。そのため、凹部220の深さが浅くなり過ぎると流体を導入することができなくなってしまう。そこで、上記剛性と経時的な摩耗が進んでも流体の導入を維持することの両者を考慮して、初期の凹部220の深さを設定するのが望ましい。例えば、シールリング200の肉厚が1.7mmの場合、凹部220の深さを0.1mm以上0.3mm以下程度に設定するとよい。また、凹部220の幅(軸線方向の幅)に関して、凹部220の幅を広くするほど、低圧側凸部222の幅は狭くなる。この幅が狭いほど、トルクを低減することができるものの、幅を狭くし過ぎると、シール性及び耐久性が低下してしまう。そこで、使用環境等に応じて、シール性及び耐久性を維持できる程度に、当該幅を可及的に狭くするのが望ましい。なお、例えば、シールリング200の幅(軸線方向の幅)の全長が1.9mmの場合、低圧側凸部222の幅は、0.3mm以上0.7mm以下程度に設定するとよい。また、リブ221の周方向の幅は0.3mm以上0.7mm以下に設定するとよい。
【0066】
<密封装置の使用時のメカニズム>
特に、
図17〜
図19を参照して、本実施例に係る密封装置100の使用時のメカニズムについて説明する。
図17及び
図18は、エンジンが停止して、密封装置100を介して左右の領域の差圧がなく(または、差圧が殆どなく)、無負荷の状態を示している。なお、
図17はシールリング200において凹部220が設けられている部位の模式的断面図(軸400の軸線を含む断面図)であり、
図18はシールリング200においてリブ221が設けられている部位の模式的断面図(軸400の軸線を含む断面図)である。
図17中のシールリング200は、
図13中のCC断面に相当し、
図18中のシールリング200は
図13中のDD断面に相当する。
図19は、エンジンがかかり、密封装置100を介して、左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった状態を示している。なお、
図19はシールリング200において凹部220が設けられている部位の模式的断面図(軸400の軸線を含む断面図)である。
図19中のシールリング200は、
図13中のCC断面に相当する。
【0067】
密封装置100が環状溝410に装着された状態においては、金属ばね300は、自己の拡張力によって、シールリング200を外周面側に向かって押圧する機能を発揮する。従って、シールリング200の外周面のうち凹部220を除く部位、すなわち、リブ221と低圧側凸部222が設けられている部位は、ハウジング500の軸孔の内周面に接した状態を維持する。
【0068】
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、
図19に示すように、高圧側(H)からの流体圧力によって、シールリング200は、環状溝410における低圧側(L)の側壁面に密着した状態となる。なお、シールリング200は、ハウジング500における軸孔の内周面に対して接した(摺動した)状態を維持していることは言うまでもない。
【0069】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係る密封装置100によれば、シールリング200は金属ばね300によって外周面側に向かって押圧される。そのため、流体圧力が作用してない(差圧が生じていない)、または流体圧力が殆ど作用していない(差圧が殆ど生じていない)状態においても、シールリング200はハウジング500の軸孔の内周面に接した状態となる。なお、シールリング200におけるリブ221の外周面と、低圧側凸部222の外周面と、合口部210付近における凹部220が形成されていない部分の外周面によって、環状の連続したシール面が形成される。そのため、シールリング200が環状溝410における低圧側(L)の側壁面に密着した状態を維持する限り、封止機能が発揮される。従って、シール対象領域の流体圧力が高まりだした直後から流体圧力を保持させることができる。つまり、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいては、エンジン停止状態から、ブレーキペダルが解除されたり、アクセルが踏み込まれたりすることでエンジンが始動することによって、シール対象領域側の油圧が高まりだした直後から油圧を保持させることができる。
【0070】
ここで、一般的には、樹脂製のシールリングの場合、流体の漏れを抑制する機能はあまり発揮されない。しかしながら、本実施例においては、シールリング200が金属ばね300により外周面側に向かって押圧されることによって、ある程度流体の漏れを抑制する機能が発揮される。そのため、エンジンが停止することでポンプなどによる作用が停止した後も、しばらくの間差圧が生じた状態を維持させることが可能となる。従って、アイドリングストップ機能を有するエンジンにおいて、エンジンの停止状態がそれほど長くない場合には、差圧が生じた状態を維持できるので、エンジンを再始動させた際に、その直後から好適に流体圧力を保持させることができる。
【0071】
なお、エンジンが停止してから、かなりの時間が経過した状態では、流体圧力が完全に作用しなくなる(差圧がゼロになる)。この場合、シールリング200が環状溝410の側壁面(差圧が生じた際における低圧側(L)の側壁面)から離れ得る。そのため、流体の漏れが生じ得る。しかしながら、上記の通り、エンジンの停止状態がそれほど長くない場合には、差圧が生じた状態を維持できるので、シールリング200が環状溝410の低圧側(L)の側壁面に密着した状態を維持することができる。従って、低負荷の状態であっても、流体の漏れを抑制する機能が発揮される。
【0072】
また、シールリング200の外周面には複数の凹部220が形成されており、これら複数の凹部220内には高圧側(H)から流体が導入される。そのため、流体圧力が高まっても、凹部220が設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。なお、
図19中の矢印は、流体圧力がシールリング200に対して作用する様子を示している。これにより、本実施例に係る密封装置100においては、流体圧力の増加に伴う、シールリング200による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
【0073】
また、凹部220は、周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成されていることから凹部220と凹部220の間の部位(リブ221)は、ハウジング500の軸孔の内周面に対して接した状態となる。また、複数のリブ221が設けられることで、リブ221を設けない場合に比べて、シールリング200の剛性の低下を抑制できる。従って、シールリング200が環状溝410内で傾いてしまうことを抑制でき、シールリング200の装着状態を安定化させることができる。なお、仮に、複数のリブ221を設けない構成を採用した場合、
図17〜
図19において、シールリング200が、図中反時計回り方向に傾いてしまうことが懸念される。
【0074】
また、本実施例においては、凹部220は、高圧側(H)の端部から低圧側(L)の端部付近まで伸びるように、かつ合口部210付近と、周方向の長さが短い複数のリブ221が設けられている部位を除く全周に亘って形成されている。このように、本実施例においては、シールリング200の外周面の広範囲に亘って凹部220を設けたことにより、シールリング200とハウジング500の軸孔の内周面との摺動面積を可及的に狭くすることができ、摺動トルクを極めて軽減することができる。なお、シールリング200とハウジング500の軸孔の内周面との摺動面積は、シールリング200と環状溝410の低圧側(L)の側壁面との密着面積よりも十分狭くなっている。これに伴い、シールリング200が環状溝410における低圧側(L)の側壁面に対して摺動してしまうことを抑制できる。従って、本実施例に係るシールリング200は外周面側が摺動するため、環状溝の側壁面との間で摺動するシールリングの場合に比べて、密封対象流体による潤滑膜(ここでは油膜)が形成され易くなり、より一層、摺動トルクを低減させることができる。
【0075】
このように、摺動トルクの低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本実施例に係る密封装置100を好適に用いることが可能となる。
【0076】
更に、本実施例においては、金属ばね300は、環状溝410の溝底面に対して隙間を空けた状態でシールリング200における内周面に沿うように設けられているので、軸400とハウジング500の偏心による影響は殆ど受けない。また、シールリング200と金属ばね300が相対的に回転してしまうことはない。従って、シールリング200と金属ばね300が摺動してしまうことはなく、シールリング200の内周面側が摺動により摩耗してしまうことはない。
【0077】
そして、本実施例においては、シールリング200の内周面には、金属ばね300の軸線方向の位置決めを行うガイド部としてのガイド突起231,232が設けられている。そのため、金属ばね300が軸線方向にずれてしまうことを抑制できる。従って、シールリング200は、金属ばね300によって安定的に外周面側に向かって押圧される。
【0078】
また、本実施例においては、このガイド突起231,232の先端に、金属ばね300の内周面側への抜け落ちを抑制する第1突起231a,232aが設けられる構成を採用している。従って、金属ばね300が取り付けられたシールリング200を環状溝410に装着する際や、製品輸送時や製品使用時における圧力変動による外乱等が発生した場合であっても、金属ばね300がシールリング200から抜け落ちてしまうことを抑制できる。
【0079】
また、本実施例においては、シールリング200の合口部210を挟んだ両側の内周面に、金属ばね300の周方向への移動を規制する第2突起233が設けられる構成を採用している。従って、シールリング200に対する金属ばね300の周方向への位置ずれを抑制できる。これにより、安定したシール性を発揮させることができる。
【0080】
(シールリングの変形例)
上記実施例においては、シールリング200の外周面に、周方向にそれぞれ間隔を空けて複数の凹部220を設け、かつ、凹部220と凹部220との間のリブ221が軸線方向に伸びるように構成される場合を示した。しかしながら、これら凹部220とリブ221の配置構成については、これに限定されるものではない。
【0081】
例えば、
図20に示す変形例1のように、複数のリブ221aを、ハウジング500に対するシールリング200の摺動方向(
図20中矢印R方向)に向かうにつれて、低圧側(L)から高圧側(H)に向かって伸びるように設けられる構成を採用してもよい。この場合には、ハウジング500とシールリング200との相対的な回転に伴って、凹部220a内に導入される流体は、高圧側(H)から低圧側(L)、かつシールリング200に対するハウジング500の摺動方向に向かって積極的に流れていく(
図20中矢印X方向に流れていく)。
【0082】
これにより、凹部220aのうち、低圧側凸部222とリブ221aとで形成される楔状の先端付近に流体の流れが集中する。そして、この流体の流れの集中によって動圧が発生するため、シールリング200は内周面側に向かって押圧される。従って、この動圧によっても、シールリング200による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。なお、この変形例1は、上記実施例1,2、及び実施例1の変形例のいずれにも適用可能である。
【0083】
また、
図21に示す変形例2のように、複数のリブ221bを、ハウジング500に対するシールリング200の摺動方向(
図21中矢印R方向)に向かうにつれて、高圧側(H)から低圧側(L)に向かって伸びるように設けられる構成を採用してもよい。この場合には、ハウジング500とシールリング200との相対的な回転に伴って、凹部220b内に導入される流体は、低圧側(L)から高圧側(H)、かつシールリング200に対するハウジング500の摺動方向に向かって積極的に流れていく(
図21中矢印X方向に流れていく)。
【0084】
このように、ハウジング500とシールリング200との相対的な回転に伴って、凹部220b内に導入された流体は、高圧側(H)に戻されるように作用する。従って、流体の漏れを抑制することができる。なお、この変形例2は、上記実施例1,2、及び実施例1の変形例のいずれにも適用可能である。
【0085】
また、
図22に示す変形例3のように、シールリング200の外周面に、幅方向の両端面に至る位置まで伸びるように、高圧側(H)と低圧側(L)に交互に位置が変化しながら周方向に向かって伸びるように形成される凸部222bを設けることもできる。より具体的には、この凸部222bは、周方向に向かって蛇行する波形状となるように構成されている。
【0086】
そして、このような凸部222bが形成されることによって、シールリング200の外周面における高圧側(H)と低圧側(L)の双方に、凹部220c,220dが周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成される。そして、高圧側(H)の凹部220cは、高圧側(H)の端部から低圧側(L)の端部に至らない位置まで伸びるように構成され、高圧側(H)から流体を導入する機能を発揮する。
【0087】
この変形例に係るシールリング200の外周面に形成されている凸部222bは、高圧側(H)と低圧側(L)に交互に位置が変化しながら周方向に向かって伸びるように形成されている。そのため、ハウジング500の軸孔に対してシールリング200の外周面が摺動する位置が、高圧側(H)や低圧側(L)に偏ってしまうことはない。従って、シールリング200が環状溝410内で傾いてしまうことを抑制でき、シールリング200の装着状態を安定化させることができる。
【0088】
また、シールリング200の外周面の高圧側(H)には複数の凹部220cが形成されており、これら複数の凹部220c内には高圧側(H)から流体が導入される。そのため、流体圧力が高まっても、凹部220cが設けられた領域においては流体圧力が内周面側に向かって作用する。これにより、本変形例においても、流体圧力の増加に伴う、シールリング200による外周面側への圧力の増加を抑制でき、摺動トルクを低く抑えることができる。
【0089】
更に、本変形例に係るシールリング200は、幅方向(軸方向)の中心面に対して対称的な構造となっている。従って、シールリング200を装着する際に装着する向きを気にしなくてもよく、装着性に優れている。また、高圧側(H)と低圧側(L)が入れ替わる環境下においても適用可能である。なお、この変形例3は、上記実施例1,2、及び実施例1の変形例のいずれにも適用可能である。
【0090】
また、
図23に示す変形例4のように、シールリング200の外周面に、幅方向の両端面に至る位置まで至るように、高圧側(H)と低圧側(L)に交互に位置が変化しながら周方向に向かって伸びるように形成される凸部222cを設けることもできる。ただし、この変形例4の場合には、上記の変形例3の場合とは異なり、凸部222cは周方向に向かって矩形状の波形状となるように構成されている。
【0091】
このような凸部222cが形成されることによって、シールリング200の外周面における高圧側(H)と低圧側(L)の双方に、凹部220e,220fが周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成される。そして、高圧側(H)の凹部220eは、高圧側(H)の端部から低圧側(L)の端部に至らない位置まで伸びるように構成され、高圧側(H)から流体を導入する機能を発揮する。
【0092】
この変形例4においても、上記変形例3の場合と同様の作用効果が得られることは言うまでもない。なお、この変形例4は、上記実施例1,2、及び実施例1の変形例のいずれにも適用可能である。
【0093】
また、
図24に示す変形例5のように、シールリング200の外周面に、幅方向の両端面に至る位置まで至るように、高圧側(H)と低圧側(L)に交互に位置が変化しながら周方向に向かって伸びるように形成される凸部222dを設けることもできる。ただし、この変形例5の場合には、上記の変形例3の場合とは異なり、凸部222dは周方向に向かって三角形状の波形状となるように構成されている。
【0094】
このような凸部222dが形成されることによって、シールリング200の外周面における高圧側(H)と低圧側(L)の双方に、凹部220g,220hが周方向にそれぞれ間隔を空けて複数形成される。そして、高圧側(H)の凹部220gは、高圧側(H)の端部から低圧側(L)の端部に至らない位置まで伸びるように構成され、高圧側(H)から流体を導入する機能を発揮する。
【0095】
この変形例5においても、上記変形例3の場合と同様の作用効果が得られることは言うまでもない。なお、この変形例5は、上記実施例1,2、及び実施例1の変形例のいずれにも適用可能である。
【0096】
また、上記実施例において、周方向に複数の凹部220を設けて、凹部220と凹部220との間にリブ221を設ける構成を採用している理由は、上記の通り、シールリング200が環状溝410内で傾いてしまうことを抑制するためである。
【0097】
しかしながら、
図25に示す変形例6のように、シールリング200の外周面に、合口部210付近を除く全周に亘って凹部220を設け、かつ、低圧側凸部222だけでなく、高圧側にも高圧側凸部222aを設けることによって、シールリング200の傾きを抑制するようにしてもよい。ただし、高圧側凸部222aについては、低圧側凸部222よりも突出量を少なくすることで、高圧側凸部222aとハウジング500の軸孔の内周面との間に隙間Sを確保させる必要がある。このように隙間Sが確保されることにより、凹部220に流体を導入することが可能となる。なお、高圧側凸部222aについても、低圧側凸部222と同様に、シールリング200における合口部210の付近を除く全周に亘って設けてもよいし、周方向に間隔を空けて複数設けるようにしてもよい。なお、この変形例6は、上記実施例1,2、及び実施例1の変形例のいずれにも適用可能である。
【0098】
(その他)
上記実施例2においては、シールリング200の内周面に、第1突起231a,232aがそれぞれ設けられたガイド突起231,232、及び第2突起233の両者が兼ね備えられる構成を示した。
【0099】
しかしながら、使用環境によっては、以下のような構成を採用してもよい。すなわち、シールリング200の内周面に、第1突起231a,232aがそれぞれ設けられたガイド突起231,232を備え、第2突起233については備えられていない構成を採用することもできる。また、シールリング200の内周面に、第2突起233を備え、ガイド突起231,232については備えられていない構成を採用することもできる。更に、シールリング200の内周面に、第1突起231a,232aが設けられていないガイド突起231,232、及び第2突起233を備える構成を採用することもできる。
【0100】
(実施例3)
図26〜
図31には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、基本的な構成および作用については実施例2と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0101】
<密封装置の構成>
特に、
図26、
図28〜
図31を参照して、本発明の実施例3に係る密封装置の構成について説明する。本実施例に係る密封装置100は、軸400の外周に設けられた環状溝410に装着され、相対的に回転する軸400とハウジング500(ハウジング500における軸400が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、密封装置100は、流体圧力(本実施例では油圧)が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施例においては、
図31中の右側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、密封装置100は図中右側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。
【0102】
そして、本実施例に係る密封装置100は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂製のシールリング200と、金属ばね300とから構成される。本実施例に係る金属ばね300は、環状部材における周方向の1箇所が欠落したCリングを用いている。
【0103】
また、シールリング200と金属ばね300が組み合わされた状態においては、シールリング200の外周面の周長は、ハウジング500における軸孔の内周面の周長よりも長くなるように構成されている。なお、シールリング200単体については、その外周面の周長はハウジング500の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、仮に金属ばね300を装着しない状態で、かつ外力が作用しない状態にすると、シールリング200の外周面はハウジング500の軸孔の内周面には接しない。
【0104】
<シールリング>
特に、
図26〜
図30を参照して、本発明の実施例3に係るシールリング200について、より詳細に説明する。なお、
図28は本実施例に係る密封装置における合口部付近における一部破断斜視図である。
図29及び
図30は本実施例に係るシールリング200の模式的断面図であり、
図29は
図27中のAA断面図であり、
図30は
図27中のBB断面図である。なお、
図29及び
図30においては、金属ばね300が装着された状態における金属ばね300の位置を点線にて示している。
【0105】
シールリング200には、周方向の1箇所に合口部210が設けられている。また、シールリング200の外周面には、幅方向の中央に周方向に伸びる凸部250が設けられている。この凸部250の軸線方向(軸400の軸線方向)の両側に一対の凹部260が設けられている。
【0106】
また、シールリング200の内周面には、金属ばね300の軸線方向の位置決めを行うガイド部としてのガイド突起271,272が設けられている。これらのガイド突起271,272は、金属ばね300の両側に設けられるように、シールリング200における一方の側面側と他方の側面側にそれぞれ設けられている。また、これらのガイド突起271,272は、周方向に間隔を空けて、複数設けられている。なお、これらのガイド突起271,272は内周面側に向かって突出するように設けられている。
【0107】
また、これらのガイド突起271,272の先端には金属ばね300の内周面側への抜け落ちを抑制する第1突起271a,272aがそれぞれ設けられている。これらの第1突起271a,272aは、軸線方向かつ内側に向かって突出するように設けられている。
【0108】
更に、シールリング200の合口部210を挟んだ両側の内周面には、金属ばね300の周方向への移動を規制する第2突起273がそれぞれ設けられている。ここで、上記実施例2における第2突起233は、軸線方向に伸びる構成であるのに対して、本実施例に係る第2突起273は、金属ばね300の端部が嵌る嵌合凹部273aを有する構成となっている。ただし、本実施例においても、上記実施例2で示した第2突起233と同様の構成を採用することもできる。
【0109】
なお、本実施例に係るシールリング200は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部210と、凸部250と、一対の凹部260と、第1突起271a,272aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起271,272と、2つの第2突起273が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これらに合口部210と、凸部250と、一対の凹部260と、第1突起271a,272aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起271,272と、2つの第2突起273を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、合口部210と、凸部250と、一対の凹部260と、第1突起271a,272aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起271,272と、2つの第2突起273を切削加工により得ることもできる。しかしながら、例えば、予め合口部210と、第1突起271a,272aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起271,272と、2つの第2突起273とを有したものを成形した後に、凸部250と、一対の凹部260を切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0110】
合口部210については、本実施例においても、上記実施例1,2と同様に、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。合口部210に関しては、実施例1,2で説明した通りであるので、その説明は省略する。
【0111】
一対の凹部260は、合口部210付近を除く全周に亘って形成されている。合口部210付近の凹部260が設けられていない部位と、凸部250の外周面は同一面となっている。これらによって、シールリング200の外周面側における環状の連続的なシール面を形成する。つまり、シールリング200の外周面において、合口部210付近を除く領域では、凸部250の外周面のみが軸孔の内周面に対して摺動する。
【0112】
凸部250の幅については、狭いほどトルクを低減することができるものの、幅を狭くし過ぎると、シール性及び耐久性が低下してしまう。そこで、使用環境等に応じて、シール性及び耐久性を維持できる程度に、当該幅を可及的に狭くするのが望ましい。なお、例えば、シールリング200の横幅の全長が1.9mmの場合、凸部250の幅は、0.3mm以上0.7mm以下程度に設定するとよい。
【0113】
<密封装置の使用時のメカニズム>
特に、
図31を参照して、本実施例に係る密封装置100の使用時のメカニズムについて説明する。
図31は、エンジンがかかり、密封装置100を介して、左側の領域に比べて右側の領域の流体圧力の方が高くなった状態を示している。なお、
図31中のシールリング200は、
図27中のCC断面に相当する。
【0114】
密封装置100が環状溝410に装着された状態においては、金属ばね300は、自己の拡張力によって、シールリング200を外周面側に向かって押圧する機能を発揮する。従って、シールリング200の外周面のうち凹部260を除く部位、すなわち、凸部250が設けられている部位は、ハウジング500の軸孔の内周面に接した状態を維持する。
【0115】
そして、エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、
図31に示すように、高圧側(H)からの流体圧力によって、シールリング200は、環状溝410における低圧側(L)の側壁面に密着した状態となる。なお、シールリング200は、ハウジング500における軸孔の内周面に対して接した(摺動した)状態を維持していることは言うまでもない。
【0116】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
以上のように構成された本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例2の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0117】
なお、本実施例に係る密封装置100の場合には、シールリング200に設けられた一対の凹部260のうち、高圧側(H)の凹部260に高圧側(H)から流体が導入される。従って、流体圧力の増加に伴う、シールリング200による外周面側への圧力の増加を抑制する機能は、実施例2に比べて劣るものの、実施例2の場合と同様の効果を得ることができる。なお、
図31中の矢印は、流体圧力がシールリング200に対して作用する様子を示している。
【0118】
また、本実施例に係るシールリング200の場合には、幅方向の中心面に対して、対称的な形状となっているため、シールリング200を環状溝410に装着する際に、装着方向を気にする必要はない。また、高圧側(H)と低圧側(L)の関係が入れ替わるような環境下においても、上記のような優れた効果が発揮される。
【0119】
(実施例4)
図32には、本発明の実施例4が示されている。本実施例においては、上記実施例3に示す構成に対して、一対の凹部内に複数のリブを設ける場合の構成を示す。その他の構成および作用については実施例3と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0120】
本実施例に係る密封装置100においても、実施例3と同様に、樹脂製のシールリング200と、金属ばね300とから構成される。そして、本実施例に係るシールリング200においても、上記実施例3と同様に、合口部210,凸部250,一対の凹部260,第1突起271a,272aがそれぞれ設けられた複数のガイド突起271,272と、2つの第2突起273を備えている。これらの構成については、上記実施例3に係るシールリングと同一の構成であるので、その説明は省略する。なお、
図32においては、上記実施例3で示したガイド突起272及び第2突起273は現われていないが、本実施例に係るシールリング200にも、これらは備えられている。また、合口部210については、本実施例においても、特殊ステップカットを採用した場合を示しているが、これに限られないことは、上記実施例1,2で説明した通りである。
【0121】
そして、本実施例においては、一対の凹部260内に、凸部250に繋がるように設けられた複数のリブ251が設けられている。これら複数のリブ251を設けた点のみが、上記実施例3と異なっている。
【0122】
以上のように構成された本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例3に係る密封装置100の場合と同様の作用効果を得ることができる。また、本実施例においては、複数のリブ251が設けられているので、シールリング200の剛性が高くなり、特に、捩じれ方向に対する強度が高くなっている。従って、差圧が大きくなる環境下においても、シールリング200の変形が抑制され、安定的に密封性が発揮される。