(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パンチと、ダイと、前記パンチに対向するパッドと、を備えるプレス成形装置を用いて鋼板製の成形素材をプレス成形することにより、所定方向に延びて形成され、溝底部と、前記溝底部に連続する稜線部と、前記稜線部に連続する縦壁部と、を有し、前記所定方向に対して交差する断面が略溝型断面を成し、前記所定方向の少なくとも一方の端部のうち、前記稜線部と、前記溝底部及び前記縦壁部のそれぞれ少なくとも一部と、に亘る範囲に連続して形成された外向き連続フランジを有する自動車車体用構造部材を製造する方法であって、
前記パッドにより、前記成形素材を押圧して前記パンチに押し当てて、少なくとも前記溝底部及び前記稜線部の端部に形成されるフランジに相当する部分を、前記押圧する方向とは反対の方向に立ち上げるとともに、
前記パッドにより、前記稜線部に成形される部分の端部を前記押圧する方向に曲げるとともに当該端部の少なくとも一部を拘束する一方、前記溝底部に成形される部分のうちの端部以外の領域を非拘束として、前記パンチ及び前記ダイによりプレス成形を行い、中間成形体を形成する第1の工程と、
前記中間成形体をさらにプレス成形し前記自動車車体用構造部材を形成する第2の工程と、
を含む、自動車車体用構造部材の製造方法。
前記第1の工程において、前記溝底部に成形される部分の全面と併せて、前記溝底部の端部に形成されるフランジに相当する部分のうち前記溝底部に成形される部分に連続する少なくとも一部が非拘束とされる、請求項1又は2に記載の自動車車体用構造部材の製造方法。
前記第1の工程において、前記稜線部に成形される部分の端部のうち、前記稜線部に成形される部分と前記溝底部に成形される部分との接続部を起点とする断面周長の少なくとも1/2の長さの部分を非拘束とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車車体用構造部材の製造方法。
前記第1の工程において使用される前記パンチにおける前記稜線部の成形面である肩部のうち、少なくとも前記所定方向の端部に相当する部分の曲率半径が2mm〜45mmの範囲内の値である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車車体用構造部材の製造方法。
前記鋼板は、板厚が2.3mm以上の鋼板、又は引張強度が440MPa以上の高張力鋼板である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車車体用構造部材の製造方法。
所定方向に延びて形成され、溝底部と、前記溝底部に連続する稜線部と、前記稜線部に連続する縦壁部と、を有し、前記所定方向に対して交差する断面が略溝型断面を成し、前記所定方向の少なくとも一方の端部のうち、前記稜線部と、前記溝底部及び前記縦壁部のそれぞれ少なくとも一部と、に亘る範囲に連続して形成された外向き連続フランジを有する自動車車体用構造部材を製造するために用いられ、
パンチと、ダイと、前記パンチに対向するパッドと、を備え、前記パッド及び前記パンチにより鋼板製の成形素材を拘束した状態で前記パンチ及び前記ダイによりプレス成形を行うプレス成形装置において、
前記パッドは、前記成形素材を押圧して、前記稜線部に成形される部分の端部を前記押圧する方向に曲げるとともに当該端部の少なくとも一部を拘束する一方、前記溝底部に成形される部分のうちの端部以外の領域を非拘束とする、プレス成形装置。
前記パッドは、前記溝底部に成形される部分の全面と併せて、前記溝底部の端部に形成されるフランジに相当する部分のうち前記溝底部に成形される部分に連続する少なくとも一部を非拘束とする、請求項7又は8に記載のプレス成形装置。
前記パッドは、前記稜線部に成形される部分の端部のうち、前記稜線部に成形される部分と前記溝底部に成形される部分との接続部を起点とする断面周長の少なくとも1/2の長さの部分を非拘束とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載のプレス成形装置。
前記パンチにおける前記稜線部の成形面である肩部のうち、少なくとも前記所定方向の端部に相当する部分の曲率半径が2mm〜45mmの範囲内の値である、請求項7〜10のいずれか1項に記載のプレス成形装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、車体の剛性や衝撃荷重負荷時の荷重伝達特性を高めるためには、構造部材の端部に形成される外向きフランジを連続フランジとして、構造部材が連続フランジを介して他の部材に接合されることが好ましい。すなわち、後述するように、外向きフランジが、構造部材の稜線部の外周に相当する部分にも形成されて、構造部材の端部における、稜線部と、溝底部及び縦壁部のそれぞれ少なくとも一部とに亘って連続する外向きフランジが形成されることが好ましい。
【0009】
しかしながら、高張力鋼板は、軟鋼板のような強度の低い鋼板に比べて延性が低く、プレス成形の際に破断しやすいという問題がある。また、高張力鋼板や、板厚が大きい鋼板をプレス成形する際には高いプレス荷重が必要となるため、成形素材に対して十分な張力を付与可能とすべくプレス荷重をさらに増大させることは容易ではない。そのため、高張力鋼板や板厚が大きい鋼板からなる成形素材をプレス成形する際には、しわが発生しやすいという問題もある。
【0010】
このような理由から、従来のプレス成形で構造部材の端部に外向き連続フランジを形成しようとすると、プレス成形時に、稜線部フランジのエッジにおける伸びフランジ割れや、稜線部フランジの根元近傍におけるしわが生じやすい。したがって、従来のプレス成形法では、外向き連続フランジとしての所望の形状を得ることが困難であった。
【0011】
このように、成形素材として高張力鋼板や板厚の大きい鋼板を用いた場合、プレス成形技術上の制約により、上記のようなしわや割れを生じさせずに外向き連続フランジを有する構造部材を製造することが困難である。そのため、現状では、稜線部フランジを設ける代わりに、当該部分に切欠きを形成することによって、プレス成形時の困難性を補わざるを得なかった。かかる切欠きは、ねじり剛性や荷重伝達特性等の性能を低下させる要因となっている。
【0012】
この点、特許文献1〜4により開示された従来の技術は、プレス成形時における、稜線部フランジのエッジの割れや稜線部フランジの根元付近のしわを抑制しつつ外向き連続フランジを形成することについて、何ら考慮していない。したがって、特許文献1〜4により開示された従来の技術によっても、略溝型断面を有し、端部に所望の形状の外向き連続フランジを有する、高強度鋼板製あるいは高張力鋼板製の構造部材をプレス成形することは難しい。
【0013】
なお、本明細書において、略溝型断面を有する成形体の端部を、溝の外側へ折り曲げたフランジを「外向きフランジ」という。また、成形体の端部のうち、稜線部と、溝底部及び縦壁部のそれぞれ少なくとも一部とに亘って連続して形成された外向きフランジを「外向き連続フランジ」という。また、本明細書において、外向き連続フランジのうち、稜線部の外周に相当する部分に形成されるフランジを「稜線部フランジ」という。
【0014】
また、本明細書において、「フランジに切欠きを設ける」とは、切欠きがフランジの幅方向の全体にわたって設けられ、フランジが不連続となることをいう。また、フランジ幅は、フランジの高さと同じ意味で用いられる。したがって、フランジ幅が部分的に小さくされ、一部のフランジが残される場合には、フランジに切欠きを設けていないものとする。
【0015】
本発明の目的は、略溝型断面を有し、端部に外向き連続フランジを有する、高張力鋼板製あるいは板厚の大きい鋼板製の構造部材をプレス成形する際に、パッド荷重の増加を抑制しつつ、稜線部フランジのエッジの割れや稜線部フランジの根元付近のしわを抑制することが可能な自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、パンチと、ダイと、前記パンチに対向するパッドと、を備えるプレス成形装置を用いて鋼板製の成形素材をプレス成形することにより、所定方向に延びて形成され、溝底部と、前記溝底部に連続する稜線部と、前記稜線部に連続する縦壁部と、を有し、前記所定方向に対して交差する断面が略溝型断面を成し、前記所定方向の少なくとも一方の端部のうち、前記稜線部と、前記溝底部及び前記縦壁部のそれぞれ少なくとも一部と、に亘る範囲に連続して形成された外向き連続フランジを有する自動車車体用構造部材を製造する方法であって、
前記パッドにより、前記成形素材を押圧して前記パンチに押し当てて、少なくとも前記溝底部及び前記稜線部の端部に形成されるフランジに相当する部分を、前記押圧する方向とは反対の方向に立ち上げるとともに、
前記パッドにより、前記稜線部に成形される部分の端部を前記押圧する方向に曲げるとともに当該端部の少なくとも一部を拘束する一方、前記溝底部に成形される部分のうちの端部以外の領域を非拘束として、前記パンチ及び前記ダイによりプレス成形を行い、中間成形体を形成する第1の工程と、
前記中間成形体をさらにプレス成形し前記自動車車体用構造部材を形成する第2の工程と、
を含む、自動車車体用構造部材の製造方法が提供される。
【0017】
また、前記第1の工程において、前記溝底部に成形される部分の端部の少なくとも一部が非拘束とされてもよい。
【0018】
また、前記第1の工程において、前記溝底部に成形される部分の全面と併せて、前記溝底部の端部に形成されるフランジに相当する部分のうち前記溝底部に成形される部分に連続する少なくとも一部が非拘束とされてもよい。
【0019】
また、前記第1の工程において、前記稜線部に成形される部分の端部のうち、前記稜線部に成形される部分と前記溝底部に成形される部分との接続部を起点とする断面周長の少なくとも1/2の長さの部分を非拘束としてもよい。
【0020】
また、前記第1の工程において使用される前記パンチにおける前記稜線部の成形面である肩部のうち、少なくとも前記所定方向の端部に相当する部分の曲率半径が2mm〜45mmの範囲内の値であってもよい。
【0021】
また、前記鋼板は、板厚が2.3mm以上の鋼板、又は引張強度が440MPa以上の高張力鋼板であってもよい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、所定方向に延びて形成され、溝底部と、前記溝底部に連続する稜線部と、前記稜線部に連続する縦壁部と、を有し、前記所定方向に対して交差する断面が略溝型断面を成し、前記所定方向の少なくとも一方の端部のうち、前記稜線部と、前記溝底部及び前記縦壁部のそれぞれ少なくとも一部と、に亘る範囲に連続して形成された外向き連続フランジを有する自動車車体用構造部材を製造するために用いられ、
パンチと、ダイと、前記パンチに対向するパッドと、を備え、前記パッド及び前記パンチにより鋼板製の成形素材を拘束した状態で前記パンチ及び前記ダイによりプレス成形を行うプレス成形装置において、
前記パッドは、前記成形素材を押圧して、前記稜線部に成形される部分の端部を前記押圧する方向に曲げるとともに当該端部の少なくとも一部を拘束する一方、前記溝底部に成形される部分のうちの端部以外の領域を非拘束とする、プレス成形装置が提供される。
【0023】
また、前記パッドは、前記溝底部に成形される部分の端部の少なくとも一部を非拘束としてもよい。
【0024】
また、前記パッドは、前記溝底部に成形される部分の全面と併せて、前記溝底部の端部に形成されるフランジに相当する部分のうち前記溝底部に成形される部分に連続する少なくとも一部を非拘束としてもよい。
【0025】
また、前記パッドは、前記稜線部に成形される部分の端部のうち、前記稜線部に成形される部分と前記溝底部に成形される部分との接続部を起点とする断面周長の少なくとも1/2の長さの部分を非拘束としてもよい。
【0026】
また、前記パンチにおける前記稜線部の成形面である肩部のうち、少なくとも前記所定方向の端部に相当する部分の曲率半径が2mm〜45mmの範囲内の値であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、第1の工程のプレス成形時に、稜線部に成形される部分の端部がパッドにより曲げられるとともに拘束されつつ、溝底部に成形される部分のうちの端部以外の領域が非拘束とされる。したがって、パッド荷重を増加させることなく、パッドによって拘束される部分の単位面積当たりの荷重が増大する。これにより、稜線部に成形される部分の端部がパッドにより確実に拘束されるとともに、パッドにより押圧される部分の鋼板材料を張り出させることにより稜線部の端部が形成されるようになる。その結果、パッドにより押圧される部分の周辺の鋼板材料の移動が抑制され、パッド荷重の増加を抑制しつつも、外向き連続フランジのエッジの割れや、外向き連続フランジの根元付近のしわが抑制されたプレス成形体が得られるようになる。
【0028】
このようなプレス成形を経て製造される、略溝型断面を有し、端部に外向き連続フランジが形成された、高張力鋼板製あるいは板厚が大きい鋼板製の構造部材は、所望の形状の外向き連続フランジを有するために、ねじり剛性や荷重伝達特性が高められる。また、かかる構造部材は、稜線部フランジを含む外向き連続フランジの全面を介して他の部材との接合が可能となり、構造部材を備える接合構造体の強度や剛性が大幅に向上する。したがって、例えば、板厚が2.3mm以上の鋼板や引張強度が440MPa以上の鋼板の、自動車車体構造部材への適用可能性が拡大する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0031】
<1.自動車車体用構造部材>
本発明の実施の形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置は、所望の形状の外向き連続フランジを有する構造部材を製造するためのものである。したがって、まず、本実施形態において製造される構造部材について説明する。
【0032】
図1は、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置により製造される構造部材1の一例を示す。
図1(a)は、構造部材1の斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA矢視図である。構造部材1は、
図1(a)中に矢印Xで示す所定方向(
図1(b)における紙面に略直交する方向、軸方向ともいう。)へ延びて形成されている。かかる構造部材1は、2.3mm以上の板厚を有し、JIS Z 2241に準拠した引張試験により測定される引張強度が440MPa以上の高張力鋼板製のプレス成形体である。
図1(a)に示す構造部材1は、構造部材1の長手方向が所定方向となっているが、所定方向は構造部材1の長手方向に限られない。
【0033】
かかる構造部材1は、例えば、フロアクロスメンバ、サイドシル、フロントサイドメンバ、あるいはフロアトンネルブレースとして、あるいは、それらの一部として用いられる。構造部材1が、フロアクロスメンバ、サイドシル、フロントサイドメンバ又はフロアトンネル等の補強部材として使用される場合、好ましくは590MPa以上、より好ましくは780MPa以上の引張強度を有する高強度鋼板が成形素材として用いられる。
【0034】
図1に示すように、構造部材1は、溝底部2と、溝底部2に連続する稜線部3a,3bと、稜線部3a,3bに連続する縦壁部4a,4bと、縦壁部4a,4bに連続する曲線部5a,5bと、曲線部5a,5bに連続するフランジ部6a,6bとを有する略ハット型の横断面形状を有する。略ハット型の横断面形状は、略溝型の横断面形状の一態様である。二つの稜線部3a,3bは、溝底部2の幅方向の両端に連続して形成される。二つの縦壁部4a,4bは、それぞれ二つの稜線部3a,3bに連続して形成される。二つの曲線部5a,5bは、それぞれ二つの縦壁部4a,4bに連続して形成される。二つのフランジ部6a,6bは、それぞれ二つの曲線部5a,5bに連続して形成される。ただし、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置を用いて製造される構造部材1において、縦壁部4a,4bに連続する曲線部5a,5bや、曲線部5a,5bに連続するフランジ部6a,6bは省略されていてもよい。
【0035】
構造部材1の長手方向の端部の外周には、溝底部2、稜線部3a,3b及び縦壁部4a,4bに沿うように、外向き連続フランジ7が形成されている。かかる構造部材1は、公知のプレス成形体とは異なり、稜線部フランジ7a,7bを有し、稜線部3a,3bの外周に相当する部分に切欠きを有さないプレス成形体である。構造部材1が外向き連続フランジ7を有することにより、稜線部フランジ7a,7bにおいてもスポット溶接等による他の部材と接合が可能となる。したがって、構造部材1に対して軸回転方向の負荷が生じた際のねじり剛性が高められる。また、構造部材1が外向き連続フランジ7を有することにより、構造部材1に軸方向荷重が負荷された際に、稜線部3a,3bの端部への応力集中が抑制される。これにより、構造部材1の荷重伝達特性が高められる。
【0036】
なお、本明細書において、所定方向(長手方向又は軸方向)の端部とは、溝底部2、稜線部3a,3b及び縦壁部4a,4b等と外向き連続フランジ7との間の立ち上がり曲面と、外向き連続フランジ7との境界部から、所定方向に沿ってフランジ幅の長さの範囲内の領域を意味する。
【0037】
外向き連続フランジ7のフランジ幅は、他の部材との接合を行わない領域では2mm以上であることが好ましい。また、外向き連続フランジ7のうち、他の部材に対して、レーザー溶接やスポット溶接等により接合される領域では、フランジ幅が10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることがより好ましい。なお、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法によれば、フランジ幅を比較的大きくしても、所望の形状の外向き連続フランジ7を有する構造部材1を得ることができる。外向き連続フランジ7のフランジ幅は、後述する展開ブランク(成形素材)16の形状を変更することにより適宜調整することができる。
【0038】
図1に示す構造部材1は略ハット型の横断面形状を有するプレス成形体であるが、構造部材1の横断面形状は略ハット型に限られない。本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置は、少なくとも溝底部2と、稜線部3a,3bと、縦壁部4a,4bとを有し、所定方向の端部に外向き連続フランジ7を有するプレス成形体の製造に適用可能である。また、
図1に示す構造部材1の外向き連続フランジ7は、長手方向の端部の外周の全体に亘って連続して設けられているが、溝底部2又は縦壁部4a,4bの外周に相当する領域においては不連続となっていてもよい。例えば、
図2に示すように、溝底部2や縦壁部4a,4bに沿うフランジの一部に切欠き8が設けられていてもよい。
【0039】
また、構造部材1の成形素材は、2.3mm以上の板厚を有する、引張強度が440MPa以上の鋼板に限られず、板厚が2.3mm未満の鋼板であってもよいし、引張強度が440MPa未満の鋼板であってもよい。ただし、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置は、従来のプレス成形方法では所望形状に成形することが困難な、2.3mm以上の板厚を有する鋼板又は引張強度が440MPa以上の鋼板を成形素材とする場合に、特に有効である。なお、板厚の上限や引張強度の上限は規定されないが、通常、板厚の上限は15mm程度であり、また、引張強度の上限は1310MPa程度である。
【0040】
かかる構造部材1は、端部に形成された外向き連続フランジ7を介して他の部材に接合され、接合構造体として使用することができる。
図3は、接合構造体20の構成例を示す。かかる接合構造体20は、構造部材1が、その端部に形成された外向き連続フランジ7を介して他の鋼板製部材10にスポット溶接されて構成されている。かかる接合構造体20において、構造部材1の外向き連続フランジ7のフランジ幅は、10mm以上である。かかる接合構造体20は、外向き連続フランジ7の全体に亘って、等間隔で複数個所にスポット溶接が施されている。したがって、かかる接合構造体20は、接合強度が高められ、ねじり剛性に優れるとともに、構造部材1の軸方向への荷重伝達特性に優れている。
【0041】
なお、
図1に示した構造部材1は、長手方向の一方の端部に外向き連続フランジ7を有しているが、長手方向の両端部に外向き連続フランジ7を有する構造部材1であってもよい。
【0042】
<2.自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置>
次に、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置について説明する。上述のとおり、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法及びプレス成形装置は、
図1に例示した、所定方向の少なくとも一方の端部に外向き連続フランジ7を有する構造部材1を製造するために用いられる方法及び装置である。以下、自動車車体構造部材の製造方法の概略を説明した後に、本実施形態にかかるプレス成形装置及び自動車車体用構造部材の製造方法について詳細に説明する。
【0043】
(2−1.製造方法の概略)
まず、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法の概略を説明する。本実施形態にかかるプレス成形体の製造方法は、第1のプレス成形装置を用いて行われる第1の工程と、第2のプレス成形装置を用いて行われる第2の工程とを含む。
【0044】
第1の工程は、第1のプレス成形装置を用いて行われる。かかる第1のプレス成形装置が、後述する本実施形態にかかるプレス成形装置に相当する。第1の工程では、パッドにより、成形素材が押圧されてパンチに押し当てられ、少なくとも溝底部及び稜線部の端部に形成されるフランジに相当する部分が、押圧方向とは反対の方向に立ち上げられる。また、パッドにより、稜線部に成形される部分の端部が押圧方向に曲げられるとともに、当該端部の少なくとも一部が拘束される。一方、溝底部に成形される部分の端部のうちの端部以外の領域が非拘束とされる。そして、パッドにより成形素材が拘束された状態で、パンチ及びダイによりプレス成形が行われ、中間成形体が形成される。
【0045】
第2の工程は、第1のプレス成形装置とは異なる第2のプレス成形装置を用いて行われる。第1の工程では、少なくとも稜線部の端部を拘束するパッドが用いられるために、プレス方向における、パッドの下方に位置する部分はプレス成形されない状態となる。したがって、第2の工程では、第2のプレス成形装置を用いて中間成形体をプレス成形することにより、構造部材が成形される。
【0046】
第2のプレス成形装置は、第1のプレス成形装置では成形しきれない部分をプレス成形できるものであればよい。具体的には、第2のプレス成形装置は、溝底部、稜線部及び縦壁部に成形される部分のうち、パッドあるいはダイによってプレスされない領域をプレス成形できるものであればよい。さらに、第2のプレス成形装置は、第1のプレス成形装置では成形しきれない外向き連続フランジの部分をプレス成形するものであってもよい。かかる第2のプレス成形装置は、ダイ及びパンチを備えた公知のプレス成形装置により構成することができる。
【0047】
(2−2.プレス成形装置)
次に、本実施形態にかかるプレス成形装置について説明する。上述のように、本実施形態にかかるプレス成形装置は、第1の工程において中間成形体の成形に用いられる第1のプレス成形装置である。
図4及び
図5は、本実施形態にかかるプレス成形装置11の構成例を模式的に示す図である。
図4は、第1のプレス成形装置11における、構造部品1の端部の領域を成形する部分を概略的に示す断面図である。
図4は、成形素材16がパンチ13上にセットされた、プレス成形開始前の状態を示している。
図5は、第1のプレス成形装置11の構成を概略的に示す分解斜視図である。また、
図6(a)及び(b)は、パッド15によって成形素材16が拘束された様子を模式的に示す斜視図及び断面図である。
【0048】
かかる第1のプレス成形装置11は、パンチ13と、ダイ14と、パンチ13に成形素材16を押し当てて成形素材16を拘束するパッド15を備える。第1のプレス成形装置11は、基本的に、パッド15及びパンチ13により成形素材16を拘束した状態で、ダイ14をパンチ13に向けて移動させることにより、成形素材16をプレス成形する装置として構成される。
【0049】
パンチ13は、成形する構造部材1の略溝型の横断面形状に対応する形状を有するパンチ面13bと、その長手方向の端部に位置する側壁13aとを備える。パンチ面13bは、上面部13baと、稜線部を成形するための肩部13bbとを有する。また、側壁13aは、パッド15のフランジ成形部15−3と協働して、外向き連続フランジ7を成形する部分である。
【0050】
ここで、パンチ13の肩部13bbのうち、少なくとも長手方向の側壁13a側の端部の曲率半径Rpが2mm以上であることが好ましい。かかる部分の肩部13bbの曲率半径Rpが2mm未満の場合には、成形素材16における稜線部3a,3bに成形される部分の端部をパッド15により拘束する際に当該端部に生じる歪みを分散させることが困難となる。また、かかる部分の肩部13bbの曲率半径Rpが45mmを超える場合には、従来の製造方法やプレス成形装置によって稜線部3a,3bに成形される部分の端部をプレス成形する場合であっても、比較的歪みが抑えられる。したがって、本実施形態にかかるプレス成形装置11は、稜線部3a,3bの曲率半径Rpが2mm〜45mmの範囲内の構造部材1を製造する場合に特に有効である。
【0051】
パッド15は、拘束部15−1,15−2と、フランジ成形部15−3とを有する。かかるパッド15は、成形される構造部材1の軸方向に沿って分割された拘束部15−1,15−2が、フランジ成形部15−3において連結された分割パッドである。ただし、フランジ成形部15−3を有さず、完全に分割された2つの拘束部15−1,15−2からなるパッド15であってもよい。
【0052】
拘束部15−1,15−2は、それぞれパンチ13の肩部13bbに対向して配置され、パンチ13の肩部13bbに対して成形素材16を押し当てて成形素材16を拘束する。拘束部15−1,15−2及び肩部13bbによって拘束される成形素材16の部分は、主として、稜線部フランジ7a,7bに成形される部分の近傍において稜線部3a,3bに成形される部分である。パッド15の拘束部15−1,15−2によって稜線部3a,3bに成形される部分の端部の領域が押圧されることにより、当該押圧される領域の鋼板材料を張り出させて稜線部3a,3bの端部が形成され、周辺の鋼板材料の移動が抑制される。以下の説明では、パッド15を稜線パッドともいう。
【0053】
本実施形態にかかる稜線パッド15は、外向き連続フランジ7に成形される部分から離れた溝底部2に成形される部分については拘束しないように構成される。また、本実施形態にかかる稜線パッド15は、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍においても、溝底部2に成形される部分については拘束しないように構成される。これにより、稜線パッド15によって拘束される成形素材16の面積が、溝底部の大部分を拘束する従来のパッドの拘束面積よりも小さくなる。したがって、パッド荷重を著しく増加させることなく、稜線部3a,3bに成形される部分の端部を押圧する単位面積当たりの荷重が増加する。したがって、当該稜線部3a,3bに成形される部分の端部の周辺の鋼板材料の移動が、さらに抑制されやすくなる。
【0054】
また、本実施形態にかかる稜線パッド15は、溝底部2に成形される部分の端部を非拘束とするために、稜線部3a,3bに成形される部分の端部が稜線パッド15により押圧されて拘束される間、溝底部2に成形される部分にたわみが誘発される。したがって、溝底部2及び稜線部3a,3bに成形される部分の端部の線長が長くなって、稜線部フランジ7a,7bのエッジの伸び率が低減するとともに、稜線部フランジ7a,7bの根元付近の縮み変形が抑制される。その結果、稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れや、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわが抑制される。特に、本実施形態にかかる稜線パッド15は、溝底部2に成形される部分から連続する外向き連続フランジ7に成形される部分も非拘束としている。したがって、たわみがより誘発されやすくなっており、稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れや、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわの抑制効果が高められている。
【0055】
このとき、稜線パッド15による成形素材16の拘束は、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍において、稜線部3a,3bに成形される部分の全体又は一部のみに対して行われることが好ましい。
図6(a)に示すように、本実施形態にかかる稜線パッド15の拘束部15−1,15−2は、成形素材16における外向き連続フランジ7の近傍において、稜線部3a,3bに成形される部分の一部を拘束する。すなわち、
図6(a)は、稜線部3a,3bに成形される部分と溝底部2に成形される部分との接続部を起点として、稜線部3a,3bの断面周長に沿って角度θ分が非拘束とされた例を示している。また、本実施形態にかかる稜線パッド15は、溝底部2に成形される部分から連続する外向きフランジ7に成形される部分も非拘束としている。
【0056】
これにより、
図6(b)に示すように、溝底部2に成形される部分の成形素材16にたわみが誘発されやすくなっている。したがって、溝底部2及び稜線部3a,3bに成形される部分の端部の横断面の線長が長くなって、稜線部フランジ7a,7bのエッジの伸び率が低減されるとともに、稜線部フランジ7a,7bの根元付近の縮み変形が抑制される。その結果、稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れや、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわが抑制される。
【0057】
なお、従来のパッド15’による成形素材の拘束範囲を
図7に示す。
図7(a)及び(b)は、従来のパッド15’により成形素材16が拘束される様子を示す断面図及び斜視図である。かかる
図7に示すように、従来のパッド15’は、溝底部2に成形される部分を拘束するものの、稜線部3a,3bに成形される部分を拘束するものではない。したがって、稜線部3a,3bに成形される部分の周辺の材料が移動しやすく、稜線部フランジ7a,7bのエッジの伸びフランジ割れや、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわが発生しやすい。
【0058】
ただし、
図8に示すように、本実施形態にかかる稜線パッド15Aは、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍において、稜線部3a,3bに成形される部分の断面周長の全長に亘って当該部分を拘束してもよい。かかる稜線パッド15Aは、
図6(a)に示す、稜線部3a,3bに成形される部分と溝底部2に成形される部分との接続部を起点として、稜線部3a,3bの断面周長に沿う角度θを0°とした例である。かかる稜線パッド15Aであっても、
図7に示す従来のパッド15’に比べて拘束面積は十分に小さく、単位面積当たりのパッド荷重を増加させることができるとともに、成形素材16のたわみを誘発させることも可能である。
【0059】
また、
図9に示すように、本実施形態にかかる稜線パッド15Bは、溝底部2に成形される部分から連続する、立ち上がり曲面を含む外向き連続フランジ7に成形される部分を拘束してもよい。かかる稜線パッド15Bであっても、
図7に示す従来のパッド15’に比べて拘束面積は十分に小さく、単位面積当たりのパッド荷重を増加させることができるとともに、成形素材16のたわみを誘発させることもできる。
【0060】
ただし、稜線パッド15は、外向き連続フランジ7の近傍において、稜線部3a,3bに成形される部分の材料を張り出させて稜線部3a,3bを成形することにより、周辺材料の移動を抑制する効果を狙ったものである。したがって、稜線部3a,3bに成形される部分の端部のうち稜線パッド15により拘束される範囲は、稜線部3a,3bに成形される部分の断面周長の少なくとも1/3以上の長さの範囲とすることが好ましい。なお、稜線パッド15により拘束される範囲は、稜線部3a,3bに隣接する縦壁部4a,4bの一部をさらに含んでもよい。
【0061】
また、稜線部3a,3bに成形される部分の端部のうち、稜線部3a,3bに成形される部分と溝底部2に成形される部分との接続部側を非拘束とすることによって、溝底部2のたわみが誘発されやすくなる。したがって、稜線部3a,3bに成形される部分の端部のうち稜線パッド15により非拘束とされる範囲は、上記の接続部を起点とする断面周長の少なくとも1/2以上の長さの範囲とすることが好ましい。
【0062】
また、稜線部3a,3bに成形される部分の長手方向における、稜線パッド15により拘束される範囲は、稜線部フランジ7a,7bの近傍、すなわち、稜線部フランジ7a,7bの根元からの所定範囲の少なくとも一部であることが好ましい。所定の範囲は、稜線部フランジ7a,7bのフランジ幅と同程度とすることができる。この場合に、かかる所定範囲の全域で稜線部3a,3bに成形される部分が拘束される必要はなく、所定範囲の一部が拘束されればよい。
【0063】
なお、稜線部3a,3bに成形される部分の端部における単位面積当たりのパッド荷重を増加させる観点からは、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍において、溝底部2に成形される部分が稜線パッド15によって拘束されていてもよい。すなわち、
図10に示すように、本実施形態にかかる稜線パッド15Cは、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍における稜線部3a,3bに成形される部分の少なくとも一部と併せて、溝底部2に成形される部分の端部を拘束してもよい。
【0064】
ダイ14は、全体として略溝型の横断面形状を有する。
図4及び
図5に例示したダイ14は、稜線パッド15により非拘束とされる端部を除いて、溝底部2に成形される部分に対応するプレス面を有する構成となっている。ただし、溝底部2に成形される部分全体に対応するプレス面を有しない構成、すなわち、成形されるプレス成形体の軸方向に沿って二つに分割されたダイ14であってもよい。
【0065】
かかるダイ14は、プレス方向において、稜線パッド15に重ならないように構成される。ダイ14は、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍において、稜線部3a,3bに成形される部分が稜線パッド15により拘束される一方、溝底部2に成形される部分の少なくとも一部が非拘束とされた状態で、パンチ13に向けて移動される。これにより、プレス方向において稜線パッド15に重ならない領域の溝底部2,稜線部3a,3b及び縦壁部4a,4b等がプレス成形される。
【0066】
かかる第1のプレス成形装置11であれば、例えば、板厚が2.3mm以上の鋼板や引張強度が440MPa以上の高張力鋼板からなる成形素材16であっても、パッド荷重の著しい増加を伴わずにプレス成形することが可能になる。また、かかる第1のプレス成形装置11により、稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れや稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわが抑制された中間成形体が得られる。したがって、最終形態のプレス成形体として、剛性や荷重伝達特性に優れた構造部材1が得られる。
【0067】
本実施形態では、ダイ14に、コイルスプリングやガスシリンダー等を介して、稜線パッド15が懸架されている。かかるダイ14をパンチ13に向けて移動させることにより、始めに、稜線パッド15が、成形素材16を押圧する。そして、稜線パッド15は、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍で、稜線部3a,3bに成形される部分を拘束する一方、溝底部2に成形される部分の少なくとも一部を非拘束とする。その後、ダイ14が成形素材16をプレス成形する。ただし、稜線パッド15及びダイ14が、個別に、パンチ13に向けて移動可能に構成されていてもよい。
【0068】
以上の説明では、稜線パッド15が、長手方向に沿って分割された拘束部15−1,15−2がフランジ成形部15−3において連結された構成を有していたが、稜線パッドの構成はかかる例に限定されない。例えば、
図11に示すように、パンチ13に対向する面であって、溝底部2に成形される部分のうち非拘束とする部分に対応して凹部21−3を設けることにより2つの拘束部21−1,21−2を形成した稜線パッド21としてもよい。
図11に示す稜線パッド21においても、図示しないフランジ成形部を有してもよいし、フランジ成形部が省略されていてもよい。
【0069】
なお、稜線パッド15,21が存在することにより、ダイ14によって成形素材16をパンチ13に押し当てることができない領域が存在する。例えば、プレス方向において、稜線パッド15,21と重なる縦壁部やフランジ部分は、ダイ14によってプレス成形することはできない。また、溝底部2に成形される部分に対応するプレス面を有しないダイ14を用いた場合には、溝底部2においても、第1のプレス成形装置11によりプレス成形されない領域が存在する。これらの領域は、第2の工程においてプレス成形される。第2の工程で用いられるプレス成形装置は、公知のプレス成形装置により構成することができるため、ここでの説明を省略する。
【0070】
(2−3.製造方法)
次に、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法について具体的に説明する。本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法は、
図1に例示した、外向き連続フランジ7を有する構造部材1の製造方法の例である。
【0071】
(2−3−1.第1の工程)
図12及び
図13は、上述した第1のプレス成形装置11を用いて行われる第1の工程を概略的に示す説明図である。
図12は、稜線パッド15により成形素材16が拘束される様子を模式的に示す断面図である。
図13は、ダイ14により成形素材16がプレス成形される様子を模式的に示す断面図である。かかる
図12及び
図13は、第1の工程において、成形素材16のうち、外向き連続フランジ7が形成される長手方向の端部の領域を成形する様子を示している。さらに、以下に説明する製造方法では、稜線パッド15がダイ14に懸架された第1のプレス成形装置11が用いられている。
【0072】
第1の工程では、まず、構造部材1を平坦状に展開した形状を有する展開ブランクが成形素材16として準備され、当該成形素材16がパンチ13上にセットされる。次いで、
図12及び
図6(a)に示すように、ダイ14がパンチ13に向けて移動することに伴い、稜線パッド15により、成形素材16における外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍で、稜線部3a,3bに成形される部分がプレス方向に曲げられるとともに拘束される。このとき、溝底部2に成形される部分については非拘束とされるために、稜線パッド15により押圧される部分には、比較的大きいパッド荷重が負荷される。ただし、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍における溝底部2に成形される部分の一部又は全部が拘束されてもよい。
【0073】
このとき、稜線部3a,3bに成形される部分のうち、断面周長の少なくとも1/3の長さの部分が、稜線パッド15により押圧されることが好ましい。稜線パッド15が当該部分を押圧することにより、稜線パッド15の拘束部15−1,15−2により押圧する部分の鋼板材料を張り出させて稜線部3a,3bの一部が形成されるようになるため、周辺の鋼板材料の移動が抑制される。
【0074】
また、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍で、稜線パッド15が成形素材16を拘束する際に、溝底部2に成形される部分の端部が非拘束となるため、
図6(b)に示すように、溝底部2に成形される部分での成形素材16のたわみが誘発される。したがって、溝底部2及び稜線部3a,3bに成形される部分の端部の線長が長くなって、稜線部フランジ7a,7bのエッジの伸び率が低減するとともに、稜線部フランジ7a,7bの根元付近の縮み変形が抑制される。その結果、稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れや、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわが抑制される。
【0075】
このとき、稜線部3a,3bに成形される部分のうち、稜線部3a,3bに成形される部分と溝底部2に成形される部分との接続部側を非拘束とすることによって、溝底部2のたわみが誘発されやすくなる。したがって、稜線部3a,3bに成形される部分の端部のうち、稜線部3a,3bに成形される部分と溝底部2に成形される部分との接続部を起点とする断面周長の少なくとも1/2以上の長さの範囲を非拘束とすることが好ましい。
【0076】
また、使用するパンチ13の肩部13bbのうち、少なくとも長手方向の側壁13a側の端部の曲率半径Rpが2mm以上であることが好ましい。かかる部分の肩部13bbの曲率半径Rpが2mm未満の場合には、成形素材16における稜線部3a,3bに成形される部分の端部をパッド15により拘束する際に当該端部に生じる歪みを分散させることが困難となる。また、かかる部分の肩部13bbの曲率半径Rpが45mmを超える場合には、従来の製造方法によって稜線部3a,3bに成形される部分の端部をプレス成形する場合であっても、比較的歪みが抑えられる。したがって、本実施形態にかかる自動車車体用構造部材の製造方法は、稜線部3a,3bの曲率半径Rpが2mm〜45mmの範囲内の構造部材1を製造する場合に特に有効である。
【0077】
次いで、
図13に示すように、ダイ14がパンチ13に向けてさらに移動することに伴って、ダイ14及びパンチ13により1段階目のプレス成形が行われる。これにより、押圧方向において、稜線部パッド13の下方に位置する部分(
図13の16A)等を除き、成形素材16がプレス成形され、中間成形体が成形される。この間、稜線パッド15により、外向き連続フランジ7に成形される部分の近傍で、稜線部3a,3bに成形される部分が拘束される一方、溝底部2に成形される部分が非拘束とされる。
【0078】
したがって、ダイ14及びパンチ15を用いたプレス成形中においても、稜線部フランジ7a,7bのエッジの伸び率が低減されるとともに、稜線部フランジ7a,7bの根元付近の縮み変形が抑制される。これにより、得られる中間成形体における稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れや、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわが抑制される。
【0079】
パンチ13及びダイ14を用いた1段階目のプレス成形は、ダイ14により成形素材16を押圧して折り曲げ、パンチ13に押し当てる曲げ成形であってよい。あるいは、かかる1段階目のプレス成形は、ダイ14及びブランクホルダにより、成形素材16における縦壁部に成形される部分を挟持するとともに、ダイ14及びブランクホルダをパンチ13に向けて移動させて成形する、深絞り成形であってもよい。
【0080】
以上のように、第1の工程では、プレス方向において、稜線部パッド15の下方に位置する部分(
図13の16A)等を除き、成形素材16がプレス成形されて、中間成形体が成形される。なお、
図12〜
図13には示されていないが、
図1に例示した構造部材1における曲線部5a,5b及びフランジ部6a,6bの一部は、第1の工程において、パンチ13及びダイ14によってプレス成形されてもよいし、次の第2の工程においてプレス成形されてもよい。
【0081】
(2−3−2.第2の工程)
第1の工程において1段階目のプレス成形を行った後、第2の工程では2段階目のプレス成形が行われる。第1の工程では、溝底部2に成形される部分の少なくとも一部が稜線パッド15により押圧されないため、最終形状に成形できない場合がある。また、第1の工程では、プレス方向において、稜線パッド15の下方に位置する部分であって、稜線部パッド15に重なる縦壁部4a,4bに成形される部分は、構造部材1としての最終形状に成形することができない。また、構造部材1における曲線部5a,5b及びフランジ部6a,6aに成形される部分の全部又は一部についても、第1の工程において、最終形状に成形できない場合がある。
【0082】
さらに、成形素材16に対して、稜線パッド15が押圧する領域によっては、稜線部3a,3bに成形される部分の端部の一部についても、第1の工程において、最終形状に成形できない場合がある。例えば、第1の工程において、稜線部3a,3bに成形される部分のうち、稜線部3a,3bに成形される部分の断面周長の1/2が稜線パッド15により成形された場合には、断面周長の残りの1/2を成形する必要がある。
【0083】
したがって、第2の工程では、第2のプレス成形装置を用いて、パンチ及びダイにより中間成形体に対して2段階目のプレス成形を行い、最終形状としての構造部材1を成形する。第2の工程は、最終形状に成形したい部分の形状に対応する押圧面を有するパンチ及びダイを用いて、公知のプレス成形により行うことができる。
【0084】
なお、第2の工程は、パッドを用いないで行われる、ダイ及びパンチのみによるスタンピングプレス成形でもよく、パッドを用いて行われる通常のプレス成形でもよい。
【0085】
<3.まとめ>
以上説明したように、本実施形態にかかるプレス成形装置(第1のプレス成形装置)11、及び当該第1のプレス成形装置11を用いた第1の工程を含む自動車車体用構造部材の製造方法によれば、所定方向の端部に、溝底部2から縦壁部4a,4bに亘って形成された外向き連続フランジ7を有する構造部材1が得られる。第1の工程では、稜線パッド15により、稜線部3a,3bに成形される部分の端部がプレス方向に曲げられるとともに拘束される。一方、第1の工程では、溝底部2に成形される部分の端部以外の領域は非拘束とされる。したがって、溝底部2のたわみが誘発され、溝底部2及び稜線部3a,3bの断面周長が長くなるために、稜線部フランジ7のエッジの割れが抑制される。
【0086】
また、溝底部2に成形される部分が非拘束とされることから、パッド荷重を著しく増加させることなく、稜線パッド15により拘束される部分の単位面積当たりの荷重が増大する。したがって、稜線部3a,3bに成形される部分の端部が稜線パッド15により確実に拘束されるとともに、稜線パッド15により押圧される部分の鋼板材料を張り出させることにより稜線部の端部が形成される。その結果、稜線パッド15により押圧される部分の周辺の鋼板材料の移動が抑制され、パッド荷重の増加を抑制しつつも、外向き連続フランジ7のエッジの割れや、外向き連続フランジ7の根元付近のしわが抑制されたプレス成形体が得られるようになる。
【0087】
このように、本実施形態によれば、板厚が2.3mm以上の鋼板、又は引張強度が440MPa以上の高張力鋼板からなる成形素材16であっても、稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れや、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわの原因となる周辺の材料の伸びや縮み変形が抑制される。このように成形されたプレス成形体により自動車車体用の構造部材を構成することにより、剛性や衝撃荷重の伝達特性を向上させることができる。
【0088】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0089】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0090】
(1)実施例1,2及び比較例1
実施例1では、
図4及び
図5に示す稜線パッド15を用いて、本実施形態にかかる製造方法により構造部材1を製造した。実施例1では、稜線部3a,3bに成形される部分の端部のうち、稜線部3a,3bと溝底部2との境界から稜線部3a,3bに沿って稜線部3a,3bの断面周長の1/2の範囲を非拘束とした。
【0091】
また、実施例2では、
図10に示す稜線パッド15Cを用いて、本実施形態にかかる製造方法により構造部材1を製造した。実施例2では、稜線部3a,3bに成形される部分の端部における稜線パッド15による拘束範囲は、稜線部3a,3bの断面周長の全長とした。また、実施例2では、溝底部2に成形される部分の端部についても拘束した。
【0092】
また、比較例1では、
図7(a)及び(b)に示すように、成形素材16における溝底部2に成形される部分の全面を拘束する一方、稜線部3a,3bに成形される部分の端部を非拘束とするパッド15’を用いる以外は実施例1と同じ条件で、構造部材を製造した。
【0093】
使用した成形素材16は、JIS Z 2241に準拠した引張試験により測定される引張強度が980MPa級の板厚1.4mmの鋼板である。また、製造される構造部材における、略溝型断面の高さは100mm、溝底部の幅は80mm、外向き連続フランジ7のフランジ幅は15mmであった。また、使用したパンチの肩部の曲率半径は12mmであった。
【0094】
(1−1)板厚増加率(板厚減少率)
実施例1,2及び比較例1により製造される構造部材における稜線部フランジ7a,7b近傍の板厚増加率(板厚減少率)について、それぞれ有限要素法による数値解析を行った。解析の結果、比較例1にかかる構造部材において、稜線部フランジのエッジの板厚減少率の最大値は約29.8%であった。また、比較例1にかかる構造部材の稜線部フランジの根元付近における板厚増加率の最大値は約17.0%であった。
【0095】
これに対して、実施例1,2にかかる構造部材1において、稜線部フランジ7a,7bのエッジの板厚減少率の最大値はそれぞれ約12.5%、約13.4%であった。したがって、実施例1,2にかかる構造部材1は、比較例1にかかる構造部材よりも、稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れが抑制され得ることが分かった。また、実施例1,2にかかる構造部材1において、稜線部フランジ7a,7bの根元付近における板厚増加率の最大値はそれぞれ約14.1%、約13.0%であった。したがって、実施例1,2にかかる構造部材1は、比較例1にかかる構造部材よりも、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわが抑制され得ることが分かった。
【0096】
(1−2)パッド荷重
次に、上記の実施例1及び比較例1にかかる構造部材を製造するにあたって、パッドによって成形素材16をパンチ13に押し当てて拘束しておくために必要なパッド荷重を求めた。その結果、実施例1の稜線パッド15のパッド荷重は、比較例1のパッドのパッド荷重の1.2倍程度であり、パッド荷重の著しい増加を要しないことが分かった。
【0097】
(1−3)拘束範囲
次に、上述した実施例1にかかる構造部材1の製造方法における、稜線部3a,3bに成形される部分の拘束範囲が板厚増加率(板厚減少率)に与える影響について、有限要素法による数値解析を行った。ここでは、
図6(a)に示す非拘束範囲の角度θを0°〜45°の範囲内で変化させた。なお、角度θ=0°の状態では、稜線部3a,3bに成形される部分の端部の全領域が押さえられる。また、角度θ=45°の状態では、稜線部3a,3bに成形される部分と溝底部2に成形される部分との接続部を起点として、稜線部3a,3bの断面周長の1/2の領域が非拘束とされる。
【0098】
解析の結果、角度θ=0°の場合における、稜線部フランジ7a,7bのエッジの板厚減少率の最大値は約13.1%であった。また、角度θの増大に伴って、すなわち、拘束範囲の減少に伴って板厚減少率の最大値は低下し、角度θ=45°の場合における稜線部フランジ7a,7bのエッジの板厚減少率の最大値は約12.5%であった。かかる角度θ=0°〜45°の範囲における稜線部フランジ7a,7bのエッジの板厚減少率の最大値は、許容範囲内の値である。
【0099】
(1−4)パンチの肩部の曲率半径
次に、上述した実施例1及び比較例1にかかる構造部材の製造方法における第1の工程で使用するプレス成形装置(第1のプレス成形装置)11のパンチ13の肩部13bbの曲率半径Rpと、形成される稜線部フランジ7a,7bのエッジの板厚減少率との関係について、有限要素法による数値解析を行った。ZIS Z 2241に準拠した引張試験により測定される引張強度が590MPa級の板厚が2.3mmの鋼板を成形素材として使用し、パンチ13の肩部13bbの曲率半径Rpを異ならせる点以外は同じ条件で構造部材を製造した。パンチ13の肩部13bbの曲率半径Rpは、0mm〜45mmの範囲内で変化させた。
【0100】
解析結果を
図14に示す。横軸はパンチ13の肩部13bbの曲率半径Rp(mm)を示し、縦軸は板厚減少率の最大値(相対値)を示す。かかる
図14に示すように、実施例1にかかる稜線パッド15を用いた場合、肩部13bbの曲率半径Rpが45mm以下の範囲においては比較例1にかかるパッドを用いた場合に比べて、板厚減少率の最大値が低下することが分かる。また、実施例1にかかる稜線パッド15を用いた場合、肩部13bbの曲率半径Rpが2mm未満になると、稜線部フランジ7a,7bのエッジが破断し、所望の外向き連続フランジ7とすることができなかった。
【0101】
したがって、実施例1にかかる稜線パッド15を用いる場合に、パンチ13の肩部13bbの曲率半径Rpが2mm〜45mmの範囲内であれば、プレス成形体の成形性を確保しつつ、比較例1にかかるパッドを用いる場合に比べて稜線部フランジ7a,7bや稜線部3a,3bの端部の歪みを抑制できることが分かった。
【0102】
(2)実施例3,4及び比較例2
実施例3,4及び比較例2では、使用する成形素材16を、ZIS Z 2241に準拠した引張試験により測定される引張強度が270MPa級であり板厚が3.2mmの鋼板として、それぞれ実施例1,2及び比較例1と同様の条件で構造部材を製造した。
【0103】
(2−1)板厚増加率(板厚減少率)
実施例3,4及び比較例2により製造される構造部材における稜線部フランジ7a,7b近傍の板厚増加率(板厚減少率)について、それぞれ有限要素法による数値解析を行った。解析の結果、比較例2にかかる構造部材において、稜線部フランジのエッジの板厚減少率の最大値は約12.7%であった。また、比較例2にかかる構造部材の稜線部フランジの根元付近における板厚増加率の最大値は約6.8%であった。
【0104】
これに対して、実施例3,4にかかる構造部材1において、稜線部フランジ7a,7bのエッジの板厚減少率の最大値はそれぞれ約7.5%、約7.6%であった。したがって、実施例3,4にかかる構造部材1は、比較例2にかかる構造部材よりも、稜線部フランジ7a,7bのエッジの割れが抑制され得ることが分かった。また、実施例3,4にかかる構造部材1において、稜線部フランジ7a,7bの根元付近における板厚増加率の最大値はそれぞれ約5.2%、約6.5%であった。したがって、実施例3,4にかかる構造部材1は、比較例2にかかる構造部材よりも、稜線部フランジ7a,7bの根元付近のしわが抑制され得ることが分かった。
【0105】
(2−2)パッド荷重
次に、上記の実施例3及び比較例2にかかる構造部材を製造するにあたって、パッドによって成形素材16をパンチ13に押し当てて拘束しておくために必要なパッド荷重を求めた。その結果、実施例3の稜線パッド15のパッド荷重は、比較例2のパッドのパッド荷重の1.3倍程度であり、パッド荷重の著しい増加を要しないことが分かった。