【実施例】
【0059】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0060】
まず、主成分の原料として、Fe
2O
3、NiO、CuO、ZnOを準備した。副成分の原料として、SiO
2、Bi
2O
3、Co
3O
4を準備した。
【0061】
次に、準備した主成分を、焼結体として表1〜表5に記載の組成になるように秤量した後、ボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。
【0062】
次に、得られた原料混合物を乾燥した後に、空気中において500℃〜900℃で仮焼して仮焼き粉とした。仮焼き粉および副成分の原料粉末を鋼鉄製ボールミルで72時間湿式粉砕して粉砕粉を得た。
【0063】
次に、この粉砕粉を乾燥した後、粉砕粉100重量部に、バインダとしての6wt%濃度のポリビニルアルコール水溶液を10.0重量部添加して造粒して顆粒とした。この顆粒を、加圧成形して、成形密度3.20Mg/m
3 となるようにトロイダル形状(寸法=外径13mm×内径6mm×高さ3mm)の成形体、およびディスク形状(寸法=外径12mm×高さ2mm)の成形体を得た。
【0064】
次に、これら各成形体を、空気中において、Agの融点(962℃)以下である900℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルコアサンプルを得た。さらにサンプルに対し以下の特性評価を行った。試験結果を表1〜表5に示す。なお、表1〜表5に記載した各成分の含有量は、それぞれFe
2O
3、NiO、CuO、ZnO、SiO
2、Co
3O
4、Bi
2O
3に換算した値である。
【0065】
初透磁率μi
トロイダルコアサンプルに銅線ワイヤを10ターン巻きつけ、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製4991A)を使用して、初透磁率μ
iを測定した。測定条件としては、測定周波数1MHz、測定温度25℃とした。本実施例では、初透磁率μ
iは1.5以上である場合を良好とした。
【0066】
周波数特性(μ’’立ち上がり周波数)
初透磁率μ
iを測定したトロイダルコアサンプルについて、測定周波数を1MHzから増加させながらμ’’を測定した。μ’’が0.1を超えたときの周波数をμ’’立ち上がり周波数とした。μ’’立ち上がり周波数fが200MHz以上である場合を周波数特性が良好とし、250MHz以上である場合を周波数特性が特に良好であるとした。
【0067】
相対的な周波数特性
透磁率に対する相対的な周波数特性は、f×(μ
i−1)が1000以上である場合を良好とした。
【0068】
比抵抗ρ
ディスクサンプルの両面にIn−Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、比抵抗ρを求めた(単位:Ω・m)。測定はIRメーター(HEWLETT PACKARD社製4329A)を用いて行った。本実施例では、比抵抗ρが10
6Ω・m以上である場合を良好とした。
【0069】
初透磁率μiの温度特性
室温25℃を基準とし、25℃〜125℃における初透磁率μ
iの変化率を求めた。本実施例では、μ
iの変化率が±30%以内である場合を良好とし、±25%以内である場合をより良好とした。
【0070】
直流重畳特性
トロイダルコアサンプルに銅線ワイヤを30ターン巻きつけ、直流電流を印加しないときのインダクタンスL
0および4Aの直流電流を印加したときのインダクタンスLを測定した。Lの変化率(%)を100×(L−L
0)/L
0として、Lの変化率が−20.0%以上である場合に直流重畳特性が良好であるとした。なお、本実施例では、Lの変化率がプラスである場合には常に直流重畳特性が良好であるとした。
【0071】
【表1】
【0072】
表1の試料1〜8は、Co以外の全ての組成を本発明の範囲内で同一として、Coの含有量のみを変化させた試料である。
【0073】
表1より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料3〜7)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。
【0074】
それに対し、副成分としてCoを含有せずSiとBiのみを含有する試料1は、周波数特性が低すぎ、比抵抗ρおよび直流重畳特性も好ましくない。
【0075】
また、副成分としてCoを含有するが含有量が少なすぎる試料2は、試料1と比較すれば周波数特性、比抵抗ρおよび直流重畳特性が改善しているが、依然として周波数特性、比抵抗ρおよび直流重畳特性が好ましくない。
【0076】
さらに、Coの含有量は本発明の範囲内であるが、Co/Siが本発明の範囲外である試料8は、比抵抗ρが低下し、初透磁率μ
iの温度特性が悪化した。
【0077】
【表2】
【0078】
表2の試料9〜16は、主成分およびSi、Biの含有量を試料1〜8から変化させ、特にSiの含有量を1.6重量部から5.5重量部に増加させた上で、Coの含有量を変化させた試料である。
【0079】
表2より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料10〜14)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。特に、Coの含有量が試料8(9.6重量部)よりも多い試料14(12.8重量部)においても良好な特性が得られている。これは、試料14では試料8と比較してSiの含有量が増加し、Co/Siが本発明の範囲内となったことに由来する。
【0080】
それに対し、副成分としてCoを含有せずSiとBiのみを含有する試料9は、周波数特性が低すぎ、比抵抗ρも低すぎる。
【0081】
Coの含有量が高すぎる試料15、16は、いずれも初透磁率μ
iの温度特性が好ましくない値となった。
【0082】
【表3】
【0083】
表3の試料17〜26は、試料6からSiO
2の含有量を増加させるとともに、初透磁率μ
iの値を大きく変動させないようにZnO等の成分の含有量を変化させた試料である。
【0084】
表3より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料6、19〜23)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。
【0085】
これに対し、副成分としてSiを含有しない試料17は初透磁率μ
iの温度特性が著しく悪化した。また、副成分としてSiを含有するが含有量が少なすぎる試料18は、試料17と比較すれば初透磁率μ
iの温度特性が改善しているが、依然として初透磁率μ
iの温度特性が好ましくない。
【0086】
主成分の組成が本発明の範囲外である試料24〜26は、透磁率に対する相対的な周波数特性が劣っている。さらに、ケイ素化合物およびCo/Siも本発明の範囲外である試料26は透磁率に対する相対的な周波数特性が試料24、25と比較してさらに劣っている。
【0087】
また、表3の試料26b、27〜30(試料27a以外)は、Si以外の組成を試料17と同一とし、Siの含有量のみを変化させた試料である。なお、試料27aは、酸化亜鉛の含有量を0とし、酸化ニッケルの含有量を56.0モル%とした点以外は試料27bと同組成の試料である。
【0088】
表3より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料26b、27a、27b、28、29、30a、30b)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。これに対し、ケイ素化合物の含有量が高すぎ、Co/Siが低すぎる試料30cは透磁率に対する相対的な周波数特性および比抵抗が劣っている。
【0089】
【表4】
【0090】
表4の試料31〜36は、Bi以外の組成を試料19と同一とし、Biの含有量のみを変化させた試料である。また、表4の試料19、31〜36については、焼結性を確認するため相対密度の測定も行った。
【0091】
相対密度の測定は、ディスク形状に成形して得られた焼結体について、焼成後の焼結体の寸法および重量から、焼結体密度を算出し、理論密度に対する焼結体密度を相対密度として算出した。本実施例では、相対密度は80%以上を良好とし、90%以上を特に良好とした。
【0092】
表4より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料19、33〜36)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性、相対密度(焼結性)の全てが良好である。
【0093】
これに対し、Biの含有量が少なすぎる試料31、32は、相対密度および比抵抗ρが低くなっている。すなわち、試料31、32は焼結性が極端に低下している。さらに、試料31、32は透磁率に対する相対的な周波数特性も劣っている。
【0094】
【表5】
【0095】
表5の試料38〜41は、副成分の組成を試料6と同一として、主成分の組成を試料6から変化させた試料である。
【0096】
表5より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料6、38〜40、40a)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。
【0097】
これに対し、Feの含有量が大きすぎ、Niの含有量が小さすぎる試料41は、周波数特性が低すぎ、初透磁率μ
iの温度特性も好ましくない。また、Niの含有量が小さすぎる試料40bは初透磁率μ
iの温度特性が好ましくない。
【0098】
【表6】
【0099】
表6の試料51〜59は、Co以外の全ての組成を本発明の範囲内で同一として、Coの含有量のみを変化させた試料である。
【0100】
表6より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料53〜58)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。
【0101】
それに対し、副成分としてCoを含有せずSiとBiのみを含有する試料51は、周波数特性が低すぎ、比抵抗ρおよび直流重畳特性も好ましくない。
【0102】
また、副成分としてCoを含有するが含有量が少なすぎる試料52は、試料51と比較すれば周波数特性、比抵抗ρおよび直流重畳特性が改善しているが、依然として周波数特性および直流重畳特性が好ましくない。
【0103】
さらに、Coの含有量は本発明の範囲内であるが、Co/Siが本発明の範囲外である試料59は、比抵抗ρが低下し、初透磁率μ
iの温度特性が悪化した。
【0104】
【表7】
【0105】
表7の試料61〜69は、Co以外の全ての組成を本発明の範囲内で同一として、Coの含有量のみを変化させた試料である。
【0106】
表7より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料64〜67)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。
【0107】
それに対し、副成分としてCoを含有せずSiとBiのみを含有する試料61は、周波数特性が低すぎ、直流重畳特性も好ましくない。
【0108】
また、副成分としてCoを含有するが含有量が少なすぎる試料62、63は、試料61と比較すれば周波数特性および直流重畳特性が改善しているが、依然として周波数特性および直流重畳特性が好ましくない。
【0109】
さらに、Coの含有量は本発明の範囲内であるが、Co/Siが本発明の範囲外である試料68、69は、初透磁率μ
iの温度特性が悪化した。
【0110】
【表8】
【0111】
表8の試料71〜77は、SiおよびCo以外の組成を試料56と同一とし、Coの含有量をCo
3O
4換算で1.5重量部とし、Siの含有量を変化させた試料である。
【0112】
表8より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料73〜76)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。
【0113】
これに対し、副成分としてSiを含有しない試料71は初透磁率μ
iの温度特性が著しく悪化した。また、副成分としてSiを含有するが含有量が少なすぎる試料72は、試料71と比較すれば初透磁率μ
iの温度特性が改善しているが、依然として初透磁率μ
iの温度特性が好ましくない。
【0114】
また、Co/Siが小さくなりすぎる試料77は、透磁率に対する相対的な周波数特性が劣っている。
【0115】
表8の試料81〜87は、Si以外の組成を試料56と同一とし、Siの含有量のみを変化させた試料である。なお、試料82は、酸化亜鉛の含有量を0とし、酸化ニッケルの含有量を54.7モル%とした点以外は試料83と同組成の試料である。
【0116】
全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料82〜86)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。
【0117】
これに対し、副成分としてSiを含有しない試料81は初透磁率μ
iの温度特性が著しく悪化した。
【0118】
また、Siの含有量が大きすぎ、Co/Siが小さくなりすぎる試料87は、透磁率に対する相対的な周波数特性および比抵抗ρが劣っている。
【0119】
表8の試料91〜98は、SiおよびCo以外の組成を試料56と同一とし、Coの含有量をCo
3O
4換算で4.8重量部とし、Siの含有量を変化させた試料である。
【0120】
表8より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料93〜97)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性の全てが良好となった。
【0121】
これに対し、副成分としてSiを含有しない試料91は初透磁率μ
iの温度特性が著しく悪化した。また、副成分としてSiを含有するがCo/Siが大きすぎる試料92は、試料91と比較すれば初透磁率μ
iの温度特性が改善しているが、依然として初透磁率μ
iの温度特性が好ましくない。
【0122】
また、Siが大きくなりすぎる試料98は、透磁率に対する相対的な周波数特性および比抵抗ρが劣っている。
【0123】
【表9】
表9の試料101〜108は、Bi以外の組成を試料56と同一とし、Biの含有量のみを変化させた試料である。試料111〜118は、Bi以外の組成を試料65と同一とし、Biの含有量のみを変化させた試料である。また、表9の試料56、65、101〜118については、焼結性を確認するため相対密度の測定も行った。
【0124】
表9より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料56、65、103〜108、113〜118)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性、相対密度(焼結性)の全てが良好である。
【0125】
これに対し、Biの含有量が少なすぎる試料101、102、111、112は、相対密度および比抵抗ρが低くなっている。すなわち、試料101、102、111、112は焼結性が極端に低下している。さらに、試料101、102、111、112は透磁率に対する相対的な周波数特性も劣っている。
【0126】
【表10】
【0127】
表10の試料121〜124はZrO
2の含有量を変化させた点以外は試料56と同一の組成である。また、表10の試料56、121〜124については、焼結性を確認するため相対密度の測定も行った。
【0128】
表10より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合(試料56、121〜124)には、初透磁率μ
i、周波数特性、比抵抗ρ、直流重畳特性、初透磁率μ
iの温度特性、相対密度(焼結性)の全てが良好である。