(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被膜が、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素と、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素とからなる請求項5に記載の被覆立方晶窒化硼素焼結体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上85体積%以下の立方晶窒化硼素と、15体積%以上60体積%以下の結合相と、不可避的不純物とからなる。本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素が40体積%未満になり、結合相が60体積%を超えると難削材の加工において、立方晶窒化硼素焼結体の強度が低下するため、耐欠損性が低下する。一方、立方晶窒化硼素が85体積%を超え、結合相が15体積%未満になると、難削材の加工において、反応摩耗が進行するため、耐欠損性が低下する。
【0012】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる結合相は、Al化合物と、Zr化合物を含む。Al化合物は、Al元素と、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む。Zr化合物は、Zr元素と、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む。
【0013】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる結合相は、Al化合物とZr化合物のみから構成されてもよい。また、結合相は、Al化合物とZr化合物の他に、Ti、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Si、W、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属、および/または、前記金属の少なくとも1種とC、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素との化合物をさらに含んでもよい。しかしながら、耐反応摩耗性と靱性に優れる立方晶窒化硼素焼結体を得ることができるため、本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる結合相は、Al化合物とZr化合物のみからなることが好ましい。
【0014】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるAl化合物とZr化合物以外の結合相として、例えば、TiN、TiCN、TiB
2、HfO
2、NbN、TaN、Cr
3C
2、Mo、Mo
2C、WC、W
2Co
21B
6、SiC、Co、CoWB、Co
3W
3CおよびNiなどを挙げることができる。
【0015】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるAl化合物として、例えば、Al
2O
3、AlNおよびAlB
2などを挙げることができる。立方晶窒化硼素焼結体の反応摩耗を抑制する効果を大きくすることができるため、その中でも、Al化合物は、Al
2O
3を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるAl化合物の平均粒径が、80nm以上300nm以下である場合には、立方晶窒化硼素焼結体の強度が向上するため、耐欠損性に優れた立方晶窒化硼素焼結体を得ることができる。Al化合物の平均粒径が80nm以下の場合には、Al化合物の粒子が脱落することにより、耐摩耗性が低下する。一方、Al化合物の平均粒径が、300nm以上の場合には、立方晶窒化硼素焼結体の強度が低下することにより、耐欠損性が低下する。その中でも、Al化合物の平均粒径が、80nm以上200nm以下であることが、さらに好ましい。
【0017】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZr化合物として、例えば、ZrO
2、ZrO、ZrN、ZrCNおよびZrB
2などを挙げることができる。その中でも、Zr化合物が、ZrO、またはZrOとZrO
2を含む場合には、耐摩耗性および耐欠損性に優れる立方晶窒化硼素焼結体を得ることができる。その中でも、ZrOとZrO
2を含むことが好ましい。この場合には、耐摩耗性と耐欠損性のバランスに優れる立方晶窒化硼素焼結体を得ることができるためである。なお、本発明においてZrO
2とは、正方晶ZrO
2、単斜晶ZrO
2、立方晶ZrO
2のすべての結晶系のZrO
2を意味する。本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZrOが、耐摩耗性を向上させる作用がある。また、本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZrO
2の結晶系が正方晶および立方晶のどちらか1種、または両方混在した状態である場合には、靱性が優れ、耐欠損性が向上した立方晶窒化硼素焼結体を得ることができる。そのため、本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZrO
2の結晶系は、正方晶および立方晶のどちらか1種、または両方混在したものであることが好ましい。なお、本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZrO
2は、CeO
2、Y
2O
3、MgOおよび/またはCaOなどを添加して得られたZrO
2であると好ましい。
【0018】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZr化合物は、X線回折測定におけるZrOの(111)面のピーク強度をI
1、正方晶ZrO
2の(101)面のピーク強度をI
2t、立方晶ZrO
2の(111)面のピーク強度をI
2cとしたとき、I
1とI
2tとI
2cとの合計強度に対するI
1の強度の比[I
1/(I
1+I
2t+I
2c)]が、0.6以上1.0以下である。I
1/(I
1+I
2t+I
2c)が、0.6未満である場合、ZrOが少ないため、耐摩耗性が低下する。I
1/(I
1+I
2t+I
2c)は、1.0を超えて大きくなることはないため、この上限を1.0にした。
【0019】
本発明において、ZrOの(111)面、正方晶ZrO
2の(101)面、および立方晶ZrO
2の(111)面のピーク強度の合計とは、ZrOの(111)面、正方晶ZrO
2の(101)面のピーク強度、および立方晶ZrO
2の(111)面のピーク強度を合計した値に相当する。例えば、JCPDSカード51−1149番によると、ZrOの(111)面は、33.5度付近に回折角2θの回折ピークが存在する。なお、JCPDSカード72−2743番によると、正方晶ZrO
2の(101)面は、30.18度付近に回折角2θの回折ピークが存在する。また、JCPDSカード49−1642番によると、立方晶ZrO
2の(111)面は、30.12度付近に回折角2θの回折ピークが存在する。
【0020】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるAl
2O
3の結晶構造は、α-Al
2O
3であることが好ましい。この場合、立方晶窒化硼素焼結体を用いた難削材の加工において、反応摩耗を抑制することができるためである。また、本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるα-Al
2O
3は、X線回折測定におけるα-Al
2O
3の(110)面のピーク強度をI
3としたとき、I
3の強度に対するI
1の強度の比[I
1/I
3]が、0.3以上0.8以下であることが好ましい。I
1/I
3が、0.3未満である場合、ZrOが少ないため、立方晶窒化硼素焼結体の耐摩耗性および耐欠損性が低下する場合がある。I
1/I
3が、0.8を超えて大きくなる場合、相対的にα-Al
2O
3が少ないため、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が低下する。そのため、反応摩耗により立方晶窒化硼素焼結体に欠損を生じる場合がある。
【0021】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるα-Al
2O
3の(110)面は、JCPDSカード83−2080番によると、37.76度付近に回折角2θの回折ピークが存在する。
【0022】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZrO、正方晶ZrO
2、立方晶ZrO
2およびα-Al
2O
3のX線回折強度は市販のX線回折装置を用いて測定することができる。例えば、株式会社リガク製X線回折装置RINT TTRIIIを用いることができる。この装置を用いる場合、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:1/2°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.15mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:1°/min、回折角2θ測定範囲:20〜50°という条件で行うことができる。この条件により、ZrOの(111)面、正方晶ZrO
2の(101)面、立方晶ZrO
2の(111)面およびα-Al
2O
3の(110)面の回折線についてX線回折強度を測定できる。得られたX線回折パターンから上記の各回折ピークのピーク強度を求めるときに、X線回折装置付属の解析ソフトウェアを用いてもよい。解析ソフトウェアでは、各回折ピークから三次式近似を用いてバックグラウンド除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行うことにより、各回折ピークのピーク強度を求めることができる。
【0023】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZr化合物は、立方晶窒化硼素焼結体全体に対して1体積%以上10体積%以下含むと好ましい。立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZr化合物が1体積%未満である場合、立方晶窒化硼素焼結体の耐摩耗性および、耐欠損性が低下する傾向がある。立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZr化合物が10体積%を超えて大きくなると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が低下する傾向がある。そのため、立方晶窒化硼素焼結体の反応摩耗が進行することにより、刃先の強度が不足し、欠損を生じる場合がある。
【0024】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素の平均粒径は、0.2μm以上2.0μm以下であることが好ましい。立方晶窒化硼素の平均粒径が0.2μm未満の場合には、立方晶窒化硼素が凝集することにより、焼結体の組織が不均一になるので、耐欠損性が低下する場合がある。立方晶窒化硼素の平均粒径が、2.0μmを超える場合には、結合相の平均厚みが増大することにより、立方晶窒化硼素焼結体の結合相内での脆性破壊が起こりやすくなり、耐欠損性が低下する場合がある。その中でも、立方晶窒化硼素の平均粒径が0.2μm以上1.2μm以下であることが、さらに好ましい。
【0025】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に不可避的に含有される不純物(不可避的不純物)としては、原料粉末などに含まれるリチウムなどが挙げられる。不可避的不純物の合計量は、通常は立方晶窒化硼素焼結体全体に対して1質量%以下に抑えることができる。そのため、不可避的不純物が本発明の立方晶窒化硼素焼結体の特性値に影響を及ぼすことは極めて少ない。
【0026】
本発明の立方晶窒化硼素、結合相およびZr化合物の体積%は、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨し、SEMを用いて立方晶窒化硼素焼結体の研磨面の反射電子像を観察する。SEMを用いて5,000〜20,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の研磨面を反射電子像で観察する。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて観察すると、黒色領域は立方晶窒化硼素であり、灰色領域と白色領域は結合相であることを特定することができる。さらに、白色領域はZr化合物であり、灰色領域はAl化合物であることを特定することができる。その後、SEMを用いて組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用いて、得られた組織写真から立方晶窒化硼素、結合相およびZr化合物の占有面積をそれぞれ求める。このようにして求めた、立方晶窒化硼素、結合相およびZr化合物の占有面積の値の割合を体積含有率とする。結合相の組成はX線回折装置によって同定することができる。
【0027】
本発明の立方晶窒化硼素の平均粒径は、SEMで撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨し、SEMを用いて立方晶窒化硼素焼結体の研磨面の反射電子像を観察する。SEMを用いて5,000〜20,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真内の、立方晶窒化硼素の面積と等しい面積の円の直径を求める。この円の直径を立方晶窒化硼素の粒径とする。次に、このようにして求めた断面組織内に存在する立方晶窒化硼素の粒径の平均値を求めることにより、立方晶窒化硼素の平均粒径を求めることができる。この時、立方晶窒化硼素の平均粒径は、ASTM E 112−96に準拠して解析することができる。
【0028】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体に含まれるAl化合物の平均粒径は、SEMで撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。Al化合物の平均粒径は、熱食刻した後の焼結体組織からAl化合物について測定し、求める。焼結温度よりも低い温度で熱食刻することにより、Al化合物の平均粒径を観察することができる。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨し、真空焼結炉を用いて、圧力3.0×10
−3Pa〜6.3×10
−3Pa、温度1000℃〜1250℃、保持時間30〜60分の条件にて熱食刻を行う。SEMを用いて熱食刻された立方晶窒化硼素焼結体の研磨面の反射電子像を観察する。SEMを用いて20,000〜50,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用いて、得られた組織写真からAl化合物の面積と等しい面積の円の直径をAl化合物の粒径とする。次に、このようにして求めた断面組織内に存在するAl化合物の粒径の平均値を求めることにより、Al化合物の平均粒径を求めることができる。この時、Al化合物の平均粒径は、ASTM E 112−96に準拠して解析する。
【0029】
立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面とは、立方晶窒化硼素焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨して得られた立方晶窒化硼素焼結体の面である。立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を得る方法としては、例えばダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法を挙げることができる。
【0030】
耐摩耗性を向上するために、立方晶窒化硼素焼結体の表面に被膜を形成することが好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の表面に被膜を形成したものを、被覆立方晶窒化硼素焼結体という。
【0031】
本発明の被覆立方晶窒化硼素焼結体の被膜(単に、「本発明の被膜」という。)は、被覆工具の被膜として使用されるものであれば、特に限定されない。本発明の被膜は、第1の元素と、第2の元素とを含む化合物の層であることが好ましい。本発明の被膜は、単層、または、複数の層を含む積層であることが好ましい。第1の元素は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。第2の元素は、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。被膜がこのような構成を有する場合、被覆立方晶窒化硼素焼結体を用いた被覆工具の耐摩耗性が向上する。
【0032】
本発明の被膜の例として、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、TiSiN、および、CrAlNなどを挙げることができる。被膜は、単層、または、2層以上を含む積層のいずれでもよい。被膜は、好ましくは、組成が異なる複数の層を交互に積層した構造を有する。被膜が積層した構造の場合には、各層の平均膜厚は、5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の被覆立方晶窒化硼素焼結体の被膜全体の平均膜厚は、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。被膜全体の平均膜厚が0.5μm未満である場合、被覆立方晶窒化硼素焼結体の耐摩耗性が低下する。被膜全体の平均膜厚が20μmを超える場合、被覆立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が低下する。
【0034】
本発明の被覆立方晶窒化硼素焼結体における被膜を構成する各膜の膜厚は、被覆立方晶窒化硼素焼結体の断面組織から、光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定することができる。なお、本発明の被覆立方晶窒化硼素焼結体における被膜を構成する各膜の平均膜厚は、次のように求めることができる。まず、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍における3箇所以上の断面形状から、各膜の膜厚および各積層構造の厚さを測定する。次に、測定した各膜の膜厚の平均値を計算することで、各膜の平均膜厚を求めることができる。
【0035】
また、本発明の被覆立方晶窒化硼素焼結体における被膜を構成する各膜の組成は、本発明の被覆立方晶窒化硼素焼結体の断面組織からEDSおよび波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いて測定することができる。
【0036】
本発明の被覆立方晶窒化硼素焼結体における被膜の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法、およびイオンミキシング法などの物理蒸着法を使用して、形成することができる。その中でもアークイオンプレーティング法を用いた場合には、被膜と基材の密着性に優れる被覆立方晶窒化硼素焼結体を得ることができる。そのため、アークイオンプレーティング法を用いて被膜を形成することが好ましい。
【0037】
例えば、本発明の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、
工程(A):平均粒径0.2〜2.0μmのZrO
2粉末60〜80体積%と、平均粒径0.5〜5.0μmの、Al金属の粉末20〜40体積%とを配合(ただし、これらの合計は100体積%である)する工程と、
工程(B):前記工程(A)で配合した原料粉をZrO
2製ボールにて5〜48時間の湿式ボールミルにより混合し、混合物を準備する第1混合工程と、
工程(C):得られた混合物を所定の形状に成形して仮焼結することにより、成形体を得る成形工程と、
工程(D):前記工程(C)で得られた成形体を焼結炉に入れて、0.1〜250.0×10
6PaのAr雰囲気にて1600〜1800℃の範囲の焼結温度で60分間保持して焼結する第1焼結工程と、
工程(E):前記工程(D)を経た複合体を超硬合金製乳鉢にて粉砕し、複合体粉末を作製する粉砕工程と、
工程(F):前記工程(E)で得られた複合体粉末を超硬合金製ボールにて24〜96時間の湿式ボールミルによりさらに複合体粉末を微粒にする粉砕工程と、
工程(G):前記工程(F)を経た複合体粉末を比重分離し、その後、酸処理により超硬合金由来成分を除去する超硬合金除去工程と、
工程(H):前記工程(G)を経た複合体粉末1〜10体積%と、平均粒径0.2〜2.0μmの立方晶窒化硼素40〜85体積%と、平均粒径0.05〜3.0μmの、Al元素の窒化物、酸化物および硼化物から成る群より選択された少なくとも1種の粉末14〜50体積%と、平均粒径0.5〜5.0μmの、Al粉末3〜13体積%とを配合(ただし、これらの合計は100体積%である)する工程と、
工程(I):前記工程(H)で配合した原料粉をAl
2O
3製ボールにて5〜24時間の湿式ボールミルにより混合し、混合物を準備する第2混合工程と、
工程(J):得られた混合物を所定の形状に成形して成形体を得る成形工程と、
工程(K):前記工程(J)で得られた成形体を超高圧発生装置に入れて、4.5〜6.0GPaの圧力にて1300〜1500℃の範囲の焼結温度で所定の時間保持して焼結する第2焼結工程とを含む。
【0038】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法の各工程は、以下の意義を有する。
工程(A)では、ZrO
2と、Al金属を含む複合体粉末を作製することができる。その中でも、ZrO
2として、CeO
2、Y
2O
3、MgO、および/またはCaOなどを添加して得られたZrO
2粉末を用いる場合には、靱性に優れる正方晶または立方晶を形成することができる。ZrO
2粉末の一次粒子の平均粒径が30〜50nmであると場合には、立方晶窒化硼素焼結体の組織中に微細なZrO
2が分散しやすくなるという効果がある。しかしながら、取り扱いのしやすさから、平均粒径30〜50nmのZrO
2の一次粒子が凝集した、平均粒径0.1〜2μmの二次粒子のZrO
2粉末を用いることが好ましい。
【0039】
工程(B)では、ZrO
2と、Al金属とが凝集することを防ぎ、均一に混合することができる。
【0040】
工程(C)では、得られた混合物を所定の形状に成形して仮焼結する。得られた成形体を以下の焼結工程で焼結する。
【0041】
工程(D)では、成形体を焼結することができる。ZrO
2と、Al粉末とを高温で焼結することにより、ZrOを含む複合体を作製することができる。これは、以下の式(1)の反応が生じたことにより、ZrOが形成されるためと考えられる。そのため、工程(A)において、ZrO
2と、Al金属との割合を調整することにより、ZrOが形成される割合を制御することができる。
3ZrO
2+2Al→3ZrO+Al
2O
3 (1)
【0042】
工程(D)を経た複合体は、高温で焼結したことにより、Al
2O
3の平均粒径が、0.3μmよりも大きくなる。そのため、工程(D)により得られた複合体を、工程(E)および工程(F)において、粒度が小さい複合体粉末に粉砕することができる。
【0043】
工程(G)では超硬合金を除去し、複合体粉末の純度を高くすることができる。
【0044】
工程(H)では、立方晶窒化硼素焼結体の組成を調整することができる。また、立方晶窒化硼素の粒径を調整することができる。なお、工程(H)で示した上述の粉末以外に、耐摩耗性を向上させる目的で、Ti、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素と、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素との化合物粉末を配合してもよい。
【0045】
工程(I)では、所定の配合組成の混合粉末を均一に混合させることができる。
【0046】
工程(J)では得られた混合物を所定の形状に成形する。得られた成形体を以下の焼結工程で焼結する。
【0047】
工程(K)では4.5〜6.0GPaの圧力にて1300〜1500℃の範囲の温度で焼結することにより、Al化合物の粗粒化を抑制した立方晶窒化硼素焼結体を作製することができる。
【0048】
工程(A)から工程(K)までの工程を経て得られた立方晶窒化硼素焼結体に対して、必要に応じて研削加工および/または刃先のホーニング加工を行ってもよい。被覆立方晶窒化硼素焼結体は、製造した立方晶窒化硼素焼結体に対して、物理蒸着法を使用して、被膜を形成することができる。
【0049】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体は、耐摩耗性、耐欠損性に優れるため、切削工具、耐摩耗工具に応用されることが好ましい。本発明の立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体は、その中でも切削工具に応用されることが、さらに好ましい。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
ZrO
2全体に対して3mol%のY
2O
3が添加された平均粒径40nmのZrO
2粒子(一次粒子)が凝集してできた平均粒径0.6μmのZrO
2(PSZ)粉末、ZrO
2全体に対して10mol%のY
2O
3が添加された平均粒径40nmのZrO
2粒子(一次粒子)が凝集してできた平均粒径0.6μmのZrO
2(FSZ)粉末、および平均粒径4.0μmのAl粉末、を用いて表1に示す配合組成に配合した。なお、比較品1〜4、8、10については、複合体粉末を作製しなかった。
【0051】
【表1】
【0052】
配合した原料粉末を、ZrO
2製ボールと、ヘキサン溶媒とともにボールミル用のシリンダーに入れてボールミル混合を24時間行った。ボールミルで混合して得られた混合粉末を圧粉成型した後、1.33×10
−3Pa、750℃の条件で仮焼結をした。
【0053】
発明品1〜10、比較品5〜7、9については、1.0×10
5PaのAr雰囲気にて1700℃の焼結温度で60分間保持して各焼結体を得た。発明品11〜15については、1.0×10
5PaのAr雰囲気にて1800℃の焼結温度で60分間保持して各焼結体を得た。
【0054】
得られた各焼結体を超硬合金製乳鉢にて粉砕し、各複合体粉末を作製した。その後、各複合体粉末を、超硬合金製ボールと、ヘキサン溶媒とともにボールミル用のシリンダーに入れて48時間のボールミル粉砕をした。
【0055】
さらに、得られた各複合体混合物を比重分離した。その後、酸処理を行うことにより、各複合体混合物に混入した超硬合金を除去した。
【0056】
以上の工程を経て得られた複合体粉末、平均粒径0.2、0.4、1.2、2.0および3.8μmのcBN粉末、平均粒径0.6μmのPSZ粉末、平均粒径0.6μmのZrC粉末、平均粒径0.6μmのZrN粉末、平均粒径0.6μmのZrB
2粉末、平均粒径0.4μmのTiN粉末、平均粒径3.0μmのSiC粉末、平均粒径0.1μmのAl
2O
3粉末、および平均粒径4.0μmのAl粉末を用いて、表2に示す配合組成に配合した。
【0057】
【表2】
【0058】
配合した原料粉末をAl
2O
3製ボールとヘキサン溶媒とともにボールミル用のシリンダーに入れてボールミル混合した。ボールミルで混合して得られた混合粉末を圧粉成型した後、1.33×10
−3Pa、750℃の条件で仮焼結をした。これらの仮焼結体を超高圧高温発生装置に入れて、表3に示す条件で焼結し、発明品および比較品の立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0059】
【表3】
【0060】
こうして得られた立方晶窒化硼素焼結体についてX線回折測定を行って立方晶窒化硼素焼結体の組成を調べた。その結果、発明品2は、ZrO
2の結晶系が正方晶と立方晶の両方が混在した状態であることが確認された。発明品5は、ZrO
2の結晶系が立方晶であることが確認された。また立方晶窒化硼素焼結体の断面組織をSEMで撮影して、撮影した断面組織写真を市販の画像解析ソフトを用いてcBNの体積%、結合相の体積%およびZr化合物の体積%を測定した。これらの結果を表4に示した。
【0061】
【表4】
【0062】
株式会社リガク製X線回折装置RINT TTRIIIを使用して、得られた立方晶窒化硼素焼結体について回折線のピーク高さを測定した。測定条件は、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:1/2°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.15mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:1°/min、回折角2θ測定範囲:20〜50°とした。上記の測定条件で、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中光学系による、立方晶窒化硼素焼結体のX線回折測定を行った。得られたX線回折パターンからZrOの(111)面のX線回折強度をI
1と、正方晶ZrO
2(101)面のX線回折強度をI
2tと、立方晶ZrO
2の(111)面のX線回折強度をI
2cと、α-Al
2O
3の(110)面のX線回折強度をI
3とを測定した。
図1に一例として、発明品7のX線回折測定結果のパターンを示す。なお、正方晶ZrO
2(101)面をt−ZrO
2(101)とし、立方晶ZrO
2(111)面をc−ZrO
2(111)とした。その後、I
1とI
2tとI
2cとのピーク強度の合計に対するI
1のピーク強度の比[I
1/(I
1+I
2t+I
2c)]、I
3のピーク強度の合計に対するI
1のピーク強度の比[I
1/I
3]をそれぞれ求めた。それらの値を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
得られた立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の平均粒径は、SEMで撮影した断面組織写真から市販の画像解析ソフトを用いて求めた。具体的には、SEMを用いて10,000倍の反射電子像を観察し、SEMに付属するEDSを用いて、立方晶窒化硼素が黒色であること、Al化合物が灰色であること、Zr化合物が白色であることを確認した。10,000倍の倍率で、立方晶窒化硼素焼結体の画像を少なくとも10視野以上撮影した。次に、市販の画像解析ソフトを用い、ASTM E 112−96に準拠して得られた値を、焼結体組織内に存在する立方晶窒化硼素の粒径とした。その値を表6に示した。
【0065】
【表6】
【0066】
得られた立方晶窒化硼素焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨し、真空焼結炉に入れて熱食刻を行った。熱食刻は、5.3×10
−3Paの圧力、1050℃の温度にて、30分間保持する条件で行った。SEMを用いて熱食刻された立方晶窒化硼素焼結体の研磨面の反射電子像を観察した。SEMを用いて30,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真を少なくとも10視野以上撮影した。その後、市販の画像解析ソフトを用い、ASTM E 112−96に準拠して得られた値を、焼結体組織内に存在するAl化合物の粒径とした。それらの結果を表7に示した。
【0067】
【表7】
【0068】
発明品および比較品をISO規格CNGA120408インサート形状の切削工具に加工した。得られた切削工具について、下記の切削試験を行った。その結果を表8に示す。
【0069】
[切削試験]
外周連続切削(旋削)、
被削材:インコネル718、
被削材形状:円柱φ120mm×350mm、
切削速度:270m/min、
切込み:0.3mm、
送り:0.18mm/rev、
クーラント:湿式、
評価項目:試料が欠損または最大逃げ面摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に達するまでの切削時間を測定した。
【0070】
【表8】
【0071】
発明品の立方晶窒化硼素焼結体は、比較品の立方晶窒化硼素焼結体に比べ、耐欠損性を低下させることなく、耐摩耗性が向上した。したがって、発明品は、比較品に比べて工具寿命が長くなったといえる。
【0072】
(実施例2)
実施例1の発明品1〜15の表面にPVD装置を用いて被覆処理を行った。発明品1〜5の立方晶窒化硼素焼結体の表面に平均層厚3μmのTiN層を被覆したものを発明品16〜20とし、発明品6〜10の立方晶窒化硼素焼結体の表面に平均層厚3μmのTiAlN層を被覆したものを発明品21〜25とした。発明品11〜15の立方晶窒化硼素焼結体の表面に1層あたり3nmのTiAlNと、1層あたり3nmのTiAlNbWNとを交互に500層ずつ積層した交互積層を被覆したものを発明品26〜30とした。発明品16〜30について、実施例1と同じ切削試験を行った。その結果を表9に示す。
【0073】
【表9】
【0074】
被覆層を被覆した発明品16〜30は、被覆層を被覆していない発明品1〜12のいずれよりも、さらに工具寿命を長くすることができた。
40体積%以上85体積%以下のcBNと、15体積%以上60体積%以下の結合相と、不可避的不純物とからなるcBN焼結体であり、結合相はAl元素と、N、OおよびBから選ばれる少なくとも1種の元素とからなるAl化合物と、Zr元素とC、N、OおよびBから選ばれる少なくとも1種の元素とからなるZr化合物を含み、Zr化合物はZrO、またはZrOとZrO