(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
結晶及び構造秩序を持つ試料の表面の設定箇所に対し、全反射臨界角を基準にした設定範囲の入射角でX線を入射し、前記試料からの所望の回折角度で回折する回折X線の強度を測定し、前記入射角に対する前記回折X線の強度の変化を示す測定X線回折強度プロファイルを取得し、
前記試料の前記設定箇所において前記入射角の前記設定範囲で全面反射した前記X線の反射強度を測定し、前記入射角とX線反射強度の関係を示すX線反射強度プロファイルを取得し、
前記X線反射強度プロファイルを解析することにより前記試料中の深さ方向の密度分布を決定し、前記試料中の前記X線に対する屈折率を求め、前記試料中に形成される前記X線による電場強度と前記入射角の関係を示す電場強度分布を計算し、
前記試料中の結晶量の深さ分布を仮定し、
前記結晶量の深さ分布を重み因子として前記電場強度分布に乗算して求められた乗算結果を前記試料の深さに対して厚みの積分を実行することにより、前記設定範囲の前記入射角とX線回折強度の関係を計算して計算X線回折強度プロファイルを取得し、
前期計算X線回折強度プロファイルが前記測定X線回折強度プロファイルに一致するように、前記結晶量の深さ分布を変化させてパラメータフィッティングを実施し、前期計算X線回折強度プロファイルが前記測定X線回折強度プロファイルに一致させる前記結晶の深さ分布を前記試料の深さ方向の最終結晶量分布として決定する
処理を含むX線結晶分析方法。
前記試料において、前記最終結晶量分布が決定される対象となる前記結晶及び構造秩序を持つ薄膜の下には、前記薄膜よりも密度の高い材料から形成される高密度層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のX線結晶分析方法。
前記試料において、前記最終結晶量分布が決定される対象となる前記結晶及び構造秩序を持つ薄膜は有機物から形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のX線結晶分析方法。
同一回折指数の互いに方位の異なる回折X線を2つ以上の前記測定X線回折強度プロファイルを取得し、それぞれの前記測定X回折強度プロファイルを取得するために前記X線を照射したと同じ箇所について前記計算X線回折強度プロファイルを取得して前記最終結晶量分布を決定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のX線結晶分析方法。
【背景技術】
【0002】
現在の先端デバイスにおいては、シリコンや窒化ガリウムなどに代表される無機物半導体だけでなく、機能高分子・有機金属錯体などの有機物も使用されている。
【0003】
一般に、前者は単結晶に近い材料であり、薄膜として形成した場合でもエピタキシャルに近い状態で結晶が成長でき、非常に結晶性が良い。一方、後者は、結晶性が低い。このような材料を用いたデバイス開発では、材料の結晶性や結晶配向性だけでなく、結晶の量及び結晶の深さ方向の分布がデバイスの電気特性や応力特性に大きな影響を与える。材料の結晶を評価する代表的な手法はX線回折法である。
【0004】
X線回折法を用いる結晶分析法において、試料の表面近傍及び試料の表面から深さ方向の構造を評価する手法として、微小角入射X線回折法がある。微小角入射X線回折法は、X線を試料に対して浅い角度で入射し、試料に対するX線の侵入深さを小さく抑えることにより薄膜からの回折X線を敏感に測定する手法である。
【0005】
X線の入射角が試料の全反射臨界角よりも小さい場合、X線の侵入深さは数nmのオーダーである。全反射臨界角を超えてX線の入射角を大きくすることにより、X線の侵入深さを100nm〜数μmの深さに変化させることができる。従来は、この現象を利用し、全反射臨界角度近傍にX線の入射角を制御することにより、X線の侵入深さに対応した試料領域からのX線回折を取得し、薄膜及び表面近傍の結晶に関する情報を得ていた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係るX線結晶分析方法を実施する試験装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るX線結晶分析方法による分析対象となる試料の層構造の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るX線結晶分析方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態に係るX線結晶分析方法において試料の設定箇所について測定したX線回折強度プロファイルの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るX線結晶分析方法において試料の設定箇所についてのX線反射強度のX線入射角の依存性を例示する特性図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るX線結晶分析方法における試料の設定箇所における深さ方向の試料密度分布を例示する図である。
【
図7】
図7(a)、(b)、(c)は、実施形態に係るX線結晶分析方法における試料の設定した箇所におけるX線入射角と電場強度の関係を例示する電界強度分布図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るX線結晶分析方法における試料の設定した箇所における深さ方向で仮定した結晶量分布の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係るX線結晶分析方法における試料の設定した箇所におけるX線回折強度と入射角の関係を計算により求めたX線回折強度プロファイルである。
【
図10】
図10は、
図8に示したX線回折強度プロファイルを
図3に示したX線回折強度プロファイルにフィッティングさせた例を示すX線回折強度プロファイルである。
【
図11】
図11は、実施形態に係るX線結晶分析方法において試料の選択箇所における結晶量分布の試験結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して実施形態を説明する。図面において、同様の構成要素には同じ参照番号が付されている。
図1は、実施形態に係るX線結晶分析方法を実施する試験装置の一例を示す斜視図である。
【0013】
図1において、X線源1は、その前方に置かれた試料10の表面にX線をビーム状に出射し、その表面に対する出射角θを調整できる構造を有している。試料10に対してX線源1と反対側には、CCDアレイのようなX線検出素子アレイを含むX線検出器3が試料10から反射されたX線を受光する向きに配置されている。また、X線光源1の出射角θとX線検出器3の検出値に基づいて、試料10内の結晶分布を求める演算部4がX線源1とX線検出器3に接続されている。なお、
図1において、X線検出器3に示す一点鎖線の横線は試料10上面の延長上にある面内の位置を示し、それより上の領域はその面外の領域を示している。
【0014】
試料10の中に複数の微結晶が存在する場合には、試料10に照射されたX線の一部は回折X線となって試料10の外に放出される。試料10におけるX線の入射角θが、試料10の表面における全反射臨界角に近い場合、試料10からは回折X線の他に、試料10表面で鏡面反射する成分X
0が存在する。鏡面反射は、
図1に示したX線検出器3の一転鎖線に示す位置に照射される。また、X線の照射角θを0°から大きくしてゆくほど試料10内でのX線の入射深さが深くなる。
【0015】
試料10として、
図2に例示されるような構造、即ち、ガラス基板11上に酸化インジウム・スズ(ITO)透明導電層12、酸化モリブデン(MoO
3)層13、有機物層14が順に形成された積層構造を使用する。この積層構造は、例えば有機薄膜太陽電池に利用される。有機物層14として、結晶及び構造秩序を持つ層、例えば、ポリカルバゾール共役系高分子であるPCDTBT、或いは、フラーレン誘導体であるPCBMが形成される。
【0016】
次に、X線結晶分析方法を
図3に示すフローチャートに従って説明する。そのフローは、
図1に示す演算部4により実行されてもよい。例えば、
図3に示すフローを実行するためのプログラムをコンピュータの記憶部に格納し、CPU等により実行してもよい。
【0017】
上記の構造を有する試料10の設定箇所に、波長0.14nmのX線ビームを全反射臨界角θc付近の入射角θで照射する(
図3のS1、S2)。そして、
図1のX線検出器3の破線の半円で示す回折角度17°に出現する試料10内の結晶からの回折X線の強度と出射角θの関係を測定し、
図4に示すX線回折強度プロファイルを取得する(
図3のS3)。
図4では、入射角θは、全反射臨界角θcを基準としてその近傍の範囲、例えば約0.04°〜0.30°の範囲が設定される。この場合の全反射臨界角θcは、0.16°である。なお、試料10上でのX線の試料10表面に対する入射角の大きさは、X線源1からの出射角の大きさと同じ角度とする。
【0018】
図4の横軸は、試料10の表面に対するX線の入射角θの大きさを示し、縦軸は標準化された回折X線の強度を示している。入射角θが0.00°〜約0.14°までの範囲では、回折角度17°での回折X線の強度はほぼゼロである。さらに、入射角θが約0.15°から約0.18°の間で下方の透明導電層12に依存するピークを有し、約0.18°から約0.25°まで回折X線強度が振動しながら減少している。さらに、約0.25°以上では一定強度をほぼ維持している。振動を有する回折X強度プロファイルは、試料10の深さ方向に結晶分布が存在することを反映しているが、このままでは深さ方向(厚み方向)の結晶量の分布については不明である。
【0019】
次に、試料10において
図4に示した測定時に照射された箇所にX線を照射し、入射角θを変えて試料表面で鏡面反射するX線強度を測定すると、
図5に示すようなプロファイルが得られる(
図3のS4)。
図5において、縦軸のX線の鏡面反射強度は対数目盛で示され、入射角θが約0.16°より大きくなると、試料10の積層構造に応じて振動するプロファイルを持ち、さらに大きくなると速やかに減衰する。反射率のプロファイルは、物質の厚さ、密度、界面のラフネスに応じて特有の振動構造を有する。なお、約0.02°〜約0.16°までは入射角θが小さすぎるので、X線照反射度が正確に測定できず、論理的には約0.16°の場合と同じ強度となる。
【0020】
そこで、
図5に示したX線反射強度プロファイルが現れるような試料10の深さ方向の密度分布、厚さをフィッティングにより求めると、
図6のような分布となる(
図3のS5)。
図6に示す横軸では、試料10のガラス基板1の上面を厚さの基準0として示し、後述する
図7、
図8、
図11でも同様である。
【0021】
図6によれば、試料10においてITO透明導電膜12の密度が一番高く、その上のMoO
3層13と有機物層14の密度は深さ方向に変化している。X線反射強度プロファイルから試料の密度を決定する方法は公知の分析技術であり、例えばX線反射率法がある。X線反射率法は、試料10表面に極浅い角度でX線を入射し、その入射角対鏡面方向に反射したX線の強度に基づいて
図5に示すようなX線強度プロファイルを測定した後に、そのプロファイルをシミュレーション結果と比較し、シミュレーションパラメータを最適化することによって、試料の膜厚・密度を決定する手法である。この場合、試料10の有機物層14における密度の分析結果から深さ方向の結晶量分布を直接的には導きだせない。
【0022】
なお、
図6の密度分布に基づいて計算によりX線反射強度プロファイルを求めると、
図5で白線に示すように全反射臨界角θc以上では実測値と一致することが確認される。なお、X線反射強度プロファイルにおいて、上記のように全反射臨界角θcより低い角度では実測値の誤差が大きいので、計算によるX線反射強度プロファイルを以下の演算等に用いる。
【0023】
次に、
図6に示した試料10内の密度分布に基づいて試料10中のX線に対する屈折率分布を計算し、入射角θの条件を定めて試料10中のX線による電場強度分布E(Z,θ)を計算する(
図3のS6)。そのような電場強度分布は例えば入射角0°から0.3°までの範囲で求められ、その一例を
図7(a)、(b)、(c)に示す。
図7(a)、(b)、(c)では、全反射臨界角θcより大きい0.165°、0.170°、0.175°の場合を示し、試料10表面の上にも電場が現れている。
【0024】
電場強度分布E(Z、θ)は、歪曲波ボルン近似(DWBA:Distorted Wave Born Approximation)法により計算される。DWBA法は、公知の手法であり、例えばZeit fur Kristallography Vol.213 (1998) pp.319-336に記載されている。
【0025】
次に、試料10の表面から有機物層14を含む90nmの深さまでの結晶量の深さ分布D(Z)を
図8に示すように仮定する(
図3のS7)。
図8は、マルチスライス法を用いて、有機物層14を上層、中層、下層の三層に分割した例を示している。
【0026】
マルチスライス法は、結晶に電子線が入射したとき結晶下での透過波および回折波の強度を計算する手法の一つである。そして、結晶を含む層を表面に平行で深さ方向にある程度の幅を持った短冊状の連なりとみなし、この結晶に入射した電子は最初のスライスで散乱され位相変化を受け、次のスライスまで伝播し、次々のスライスで散乱と伝播を繰り返して電子線が結晶の下面に到達するものとして、結晶下面での回折振幅(強度)が計算される。
図8では、上層、中層、下層に全て同じ結晶量が分布していると仮定しているが、異なるように仮定してもよい。
【0027】
図8に示した結晶量の深さ分布関数D(Z)を重み因子として使用して電場強度分布E(Z、θ)に乗算し、乗算結果を試料10の深さに対して試料厚みの積分を計算する。この計算により、上記の上層、中層、下層については、
図9の破線、二点鎖線、一点鎖線で示すように、入射角θに対する計算X線回折強度プロファイルが得られる(
図3のS8)。この場合の試料10の上層、中層、下層のそれぞれの計算X線回折強度プロファイルの和を
図9の実線で示す。
【0028】
次に、
図9の実線で示した和の計算X線回折強度プロファイルが、
図4に示した測定結果のX線回折強度プロファイルに一致するように、結晶量の深さ分布D(Z)を調整してパラメータフィッティングを実施する。即ち、
図10の実線とドットに示すように、測定によるX線回折強度プロファイルに計算によるX線回折強度プロファイルを一致させる。そのような調整した結晶量の深さ分布D(Z)を使用する上層、中層、下層の計算X線回折強度プロファイルの再度の計算によれば、
図10の破線、二点鎖線、一点鎖線に示すようなX線回折強度プロファイルが求められる。
【0029】
次に、
図10に示すX線回折強度プロファイルを得るために変更調整された結晶量の深さ分布D(Z)は、例えば
図11に示すようになる。
図11によれば、
図4に示した実測によるX線回折強度プロファイルとなる試料10の結晶の量の分布は、上層が約0.20、中層が約0.35、下層が約1.3となり、結晶量が下の層になるほど多くなるように分布していることがわかる(
図3のS9)。なお、マルチスライス法を用いる際には三層に限るものではなく層を増やすほど結晶分布の詳細が明らかになる。
【0030】
以上の説明では、まず、試料10に対するX線の入射角θを変化させることにより得られるピーク構造及び振動構造などの微細構造を含んだX線回折強度の変化のプロファイル(
図4)を取得している。さらに、X線反射強度(
図5)により決定される密度(
図6)、屈折率を利用して試料10中のX線電場強度(
図7)を算出し、併せて、試料10中の深さ方向の結晶量の分布(
図8)を仮定する。そして、その結晶量分布を重み因子に使用して電場強度に乗算し、その結果を深さ方向に対して試料10の有機物の厚みの積分を計算し、入射角θに対する計算X線回折強度プロファイル(
図9)を求める。さらに、計算X線回折強度プロファイルを実測X線回折強度プロファイルにフィッティングするように試料10中の結晶量の深さ方向の分布を変更し(
図10)、その変更後のデータを深さ方向の最終の結晶量分布(
図11)として決定する。
【0031】
これにより、有機物に代表される結晶性が低い、もしくは結晶が材料中に点在している系での結晶の深さ分布を決定することが可能となった。特に、分析対象が有機薄膜である場合、薄膜中の電場強度の深さ分布は下地層に大きく依存するので、有機薄膜よりも大きい密度を持つ物質を下地層、例えばITO透明導電層にすると、分析効果が大きい。
【0032】
ところで、上記の実施形態では、結晶量の深さの分布は、上記のマルチスライス法の代わりにガウス関数、ローレンツ関数、擬フォークトなどのピーク関数を用いて仮定してもよい。この場合は、複数のピーク関数を用いて、ピーク関数のパラメータ、位置、幅、面積をフィッティングにより決定する。
【0033】
また、複数箇所にX線を照射して同一回折指数、例えば17°の互いに方位の異なる回折X線の強度を測定して複数の測定X線回折強度プロファイルとX線反射強度の入射角依存性を取得し、さらに上記の演算を実施して複数箇所で最終結晶量分布を決定してもよい。これにより、同じ試料について面方向の最終の結晶量分布を取得することができ、同一面での厚さ方向の結晶量分布のバラツキを検出することができる。
【0034】
なお、上記の
図4〜
図11までの縦軸と横軸の各目盛は、特定する場合を除いて比例目盛とする。
【0035】
ここで挙げた全ての例および条件的表現は、発明者が技術促進に貢献した発明および概念を読者が理解するのを助けるためのものであり、ここで具体的に挙げたそのような例および条件に限定することなく解釈すべきであり、また、明細書におけるそのような例の編成は本発明の優劣を示すこととは関係ない。本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、それに対して種々の変更、置換および変形を施すことができると理解すべきである。