特許第6032462号(P6032462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6032462発信源推定方法およびそれを利用した発信源推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032462
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】発信源推定方法およびそれを利用した発信源推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/04 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
   G01S5/04
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-78280(P2012-78280)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-205398(P2013-205398A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成23年10月19日 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告」 (2011年10月26日〜28日)
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】314012087
【氏名又は名称】株式会社光電製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】阪口 啓
(72)【発明者】
【氏名】荒田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏浩
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−179946(JP,A)
【文献】 特開2009−175096(JP,A)
【文献】 特開2006−308588(JP,A)
【文献】 特開2005−098958(JP,A)
【文献】 特開平11−352207(JP,A)
【文献】 特開平05−288823(JP,A)
【文献】 佐野健太郎、外6名,“携帯端末を用いた不正行為検出のための屋内位置推定方式”,電子情報通信学会技術研究報告,2012年 2月29日,Vol.111,No.452,p.189-194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未知位置に配置された発信源から送信された送信信号が、互いに異なった既知位置に配置された複数のセンサのそれぞれにおいて受信されており、前記複数のセンサのそれぞれから受信信号を取得する取得部と、
前記取得部において取得した受信信号に対してセンサ間における相互相関を導出するとともに、相互相関の絶対値の平均として予期される期待値を導出する第1導出部と、
前記第1導出部において導出した期待値から減算すべきレプリカであって、かつ未知位置候補位置と、発信源の送信電力が1の電力スペクトルである規格化フィルタの候補と、伝搬学習プロセスで取得した伝送路特性とからレプリカを導出する第2導出部と、
前記第2導出部において導出したレプリカと前記第1導出部において導出した期待値との誤差を減算によって導出する第3導出部と、
前記第2導出部における候補位置を変更しながら、前記第2導出部と前記第3導出部とに対して処理を繰り返し実行させることによって導出された複数の誤差から、最小の誤差を選択する選択部と、
前記選択部において選択した誤差に対応した候補位置を、発信源が設置された位置として出力する出力部とを備え、
前記第2導出部は、規格化フィルタの候補から作成したレプリカ送信信号の自己相関と、候補位置および2つのセンサ間の伝送路特性の相互相関とを畳み込んでから、絶対値を計算した後に、平均として予期される期待値としてレプリカを導出することを特徴とする発信源推定装置。
【請求項2】
前記取得部は、センサに複数のアンテナが備えられている場合、アンテナごとの受信信号を取得し、
前記第1導出部は、異なったセンサに備えられたアンテナ間において、相互相関の絶対値の平均として予期される期待値を導出するとともに、同一のセンサに備えられたアンテナ間における受信信号の相互相関の期待値も導出し、
前記第2導出部は、異なったセンサに備えられたアンテナ間において、相互相関の絶対値の平均として予期される期待値を使用してレプリカを導出するとともに、同一のセンサに備えられたアンテナ間において、規格化フィルタの候補から作成したレプリカ送信信号の自己相関と、候補位置および2つのセンサ間の伝送路特性の相互相関とを畳み込んでから、絶対値を計算した後に、平均として予期される期待値としてレプリカを導出し、
前記第3導出部は、異なったセンサに備えられたアンテナ間に対する期待値とレプリカから誤差を導出するとともに、同一のセンサに備えられたアンテナ間における期待値とレプリカからも誤差を導出することを特徴とする請求項1に記載の発信源推定装置。
【請求項3】
前記選択部において選択した誤差に対応した候補位置を推定した後に当該候補位置における発信源の送信電力を推定する電力推定部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の発信源推定装置。
【請求項4】
未知位置に配置された発信源から送信された送信信号が、互いに異なった既知位置に配置された複数のセンサのそれぞれにおいて受信されており、前記複数のセンサのそれぞれから受信信号を取得するステップと、
取得した受信信号に対してセンサ間における相互相関を導出するとともに、相互相関の絶対値の平均として予期される期待値を導出するステップと、
導出した期待値から減算すべきレプリカであって、かつ未知位置候補位置と、発信源の送信電力が1の電力スペクトルである規格化フィルタの候補と、伝搬学習プロセスで取得した伝送路特性とからレプリカを導出するステップと、
導出したレプリカと導出した期待値との誤差を減算によって導出するステップと、
候補位置を変更しながら、前記レプリカを導出するステップと前記誤差を導出するステップとに対して処理を繰り返し実行させることによって導出された複数の誤差から、最小の誤差を選択するステップと、
選択した誤差に対応した候補位置を、発信源が設置された位置として出力するステップとを備え、
前記レプリカを導出するステップは、規格化フィルタの候補から作成したレプリカ送信信号の自己相関と、候補位置および2つのセンサ間の伝送路特性の相互相関とを畳み込んでから、絶対値を計算した後に、平均として予期される期待値としてレプリカを導出することを特徴とする発信源推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発信源推定技術に関し、未知の発信源を推定する発信源推定方法およびそれを利用した発信源推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信技術の急激な発展に伴って周波数資源が逼迫しているため、多数の無線システムが共存することができる電波の有効利用が求められている。そのため、一般に無線システムの利用にあたっては無線局免許が必要であるが、無線局免許を取得せず電波を利用する不法無線局が存在している場合があり、既存の無線システムに対して干渉を及ぼしてしまう。そのため日本の総務省ではDetect Unlicensed Radio Stations(DEURAS)と呼ばれる電波監視システムを用いて不法無線局の探知を行っている。DEURASでは複数のセンサを用いて不法無線局が送信している電波の電界強度および到来方向Direction of Arrival(DOA)を測定することで不法無線局の位置を推定している(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】総務省、電波監視システム、[online]、インターネット<URL:http://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/monitoring/moni/type/deurasys/index.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DEURAS以外にも各センサの平均受信電力Received Signal Strength Indicator(RSSI)を用いた方法やセンサ間の電波の到来遅延時間差Time Difference of Arrival(TDOA)、各センサへの電波の到来角方向DOAを用いた未知発信源の検出方法が提案されている。また、近年ではこれらの手法を複数センサを用いた手法への拡張が検討されている。現在では実際にのようなRSSI、TDOA、DOAを利用した未知発信源の位置推定を実用化した製品も存在する。しかしながらこれらの手法は特に都市部においてマルチパスの影響から位置推定精度が劣化する。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、マルチパスの存在下においても推定精度の悪化を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の発信源推定装置は、未知位置に配置された発信源から送信された送信信号が、互いに異なった既知位置に配置された複数のセンサのそれぞれにおいて受信されており、複数のセンサのそれぞれから受信信号を取得する取得部と、取得部において取得した受信信号に対してセンサ間における相互相関を導出するとともに、相互相関の絶対値の期待値を導出する第1導出部と、第1導出部において導出した期待値に対するレプリカであって、かつ未知位置が候補位置であると仮定した場合のレプリカを導出する第2導出部と、第2導出部において導出したレプリカと第1導出部において導出した期待値との誤差を導出する第3導出部と、第2導出部における候補位置を変更しながら、第2導出部と第3導出部とに対して処理を繰り返し実行させることによって導出された複数の誤差から、ひとつの誤差を選択する選択部と、選択部において選択した誤差に対応した候補位置を、発信源が設置された位置として出力する出力部とを備える。第2導出部は、候補位置から既知位置までの伝送路特性の相互相関であって、かつセンサ間における相互相関の絶対値の期待値と、発信源から送信された送信信号の自己相関とをもとにレプリカを導出する。
【0007】
この態様によると、センサ間における相互相関の絶対値の期待値と、発信源から送信された送信信号の自己相関とをもとにレプリカを導出するので、RSSIとTDOAを利用できる。
【0008】
取得部は、センサに複数のアンテナが備えられている場合、アンテナごとの受信信号を取得し、第1導出部は、異なったセンサに備えられたアンテナ間において、相互相関の絶対値の期待値を導出するとともに、同一のセンサに備えられたアンテナ間における受信信号の相互相関の期待値も導出し、第2導出部は、異なったセンサに備えられたアンテナ間において、相互相関の絶対値の期待値を使用してレプリカを導出するとともに、同一のセンサに備えられたアンテナ間において、候補位置から既知位置までの伝送路特性の相互相関であって、かつアンテナ間における相互相関の期待値と、発信源から送信された送信信号の自己相関とをもとにレプリカを導出し、第3導出部は、異なったセンサに備えられたアンテナ間に対する期待値とレプリカから誤差を導出するとともに、同一のセンサに備えられたアンテナ間における期待値とレプリカからも誤差を導出してもよい。この場合、同一のセンサに備えられたアンテナ間における期待値とレプリカも導出するので、RSSIとTDOAとに加えてDOAも利用できる。
【0009】
選択部において選択した誤差に対応した候補位置をもとに、発信源の送信電力を推定する電力推定部をさらに備えてもよい。この場合、候補位置を導出してから送信電力を推定するので、推定精度を向上できる。
【0010】
本発明の別の態様は、発信源推定方法である。この方法は、未知位置に配置された発信源から送信された送信信号が、互いに異なった既知位置に配置された複数のセンサのそれぞれにおいて受信されており、複数のセンサのそれぞれから受信信号を取得するステップと、取得した受信信号に対してセンサ間における相互相関を導出するとともに、相互相関の絶対値の期待値を導出するステップと、導出した期待値に対するレプリカであって、かつ未知位置が候補位置であると仮定した場合のレプリカを導出するステップと、導出したレプリカと導出した期待値との誤差を導出するステップと、候補位置を変更しながら、レプリカを導出するステップと誤差を導出するステップとに対して処理を繰り返し実行させることによって導出された複数の誤差から、ひとつの誤差を選択するステップと、選択した誤差に対応した候補位置を、発信源が設置された位置として出力するステップとを備える。レプリカを導出するステップは、候補位置から既知位置までの伝送路特性の相互相関であって、かつセンサ間における相互相関の絶対値の期待値と、発信源から送信された送信信号の自己相関とをもとにレプリカを導出する。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マルチパスの存在下においても推定精度の悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係るDSMシステムの構成を示す図である。
図2図1のDSMシステムの処理手順を示す図である。
図3図1のDSMシステムによる周波数利用状況マッピングを示す図である。
図4図1のDSMシステムに対する数値解析の諸元を示す図である。
図5図1のDSMシステムに対する数値解析におけるセンサ、未知発信源の配置を示す図である。
図6図1のDSMシステムによる送信電力10dBmでの位置推定特性評価結果を示す図である。
図7図1のDSMシステムによる位置推定特性評価結果を示す図である。
図8図1のDSMシステムによる伝搬路学習とRSSIを利用した送信電力推定結果を示す図である。
図9図9(a)−(b)は、図1のDSMシステムによるフィルタ推定結果を示す図である。
図10図1のフュージョンセンタの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を具体的に説明する前に、まず概要を述べる。本発明の実施例は、不法無線局や未知発信源の位置を推定する発信源推定装置に関する。発信源推定装置は、RSSI、TDOA、DOAの3つの情報をすべて活用する。さらに、本発明の実施例は、不法無線局や未知発信源の位置推定だけでなく、分散スペクトラムモニター(Distributed Spectrum Monitor, DSM)にも関する。分散スペクトラムモニターによって、既存システムも含めて、電波利用が希薄な周波数およびそのエリア(ホワイトスペース)の特定や、効率的にエナジーハーベスティングが可能な電波利用が盛んな周波数およびそのエリア(チャージングスペース)の特定も同時になされる。その結果、より高効率な周波数資源の活用が実現される
【0015】
以下では、1.DSMの概要、2.DSMにおける複数センサを用いた未知発信源の推定手法、3.DSMを実現するための送信電力推定、4.特性評価、5.装置構成の順番で本実施例を説明する。なお、2.では、(i)単一アンテナ、(ii)複数アンテナを用いた場合に分けて説明する。
【0016】
1.DSMの概要
図1は、本発明の実施例に係るDSMシステム100の構成を示す。DSMシステム100は、フュージョンセンタ10、センサ12と総称される第1センサ12a、第2センサ12b、第3センサ12c、未知送信源14と総称される第1未知送信源14a、第2未知送信源14bを含む。ここでは、3つのセンサ12が示されているが、センサ12の数はこれに限定されない。第1未知送信源14aあるいは第2未知送信源14bから送信された信号は、複数のセンサ12のそれぞれにおいて受信される。未知送信源14が設置されている位置、信号の送信電力は未知である。各センサ12は、受信信号をフュージョンセンタ10に出力する。フュージョンセンタ10は、各センサ12からの受信電力をもとに、未知送信源14が設置されている位置、信号の送信電力を推定する。推定の具体的な処理は後述する。
【0017】
図2は、DSMシステム100の処理手順を示す。DSMシステム100は、前述のフュージョンセンタ10、センサ12に加えて既知情報データベース16も含む。また、DSMシステム100は、伝搬路学習プロセス、未知送信源推定プロセス、そしてスペクトラムマップ作成プロセスの3つからなる。以下では、各プロセスにおける具体的な処理を順を追って説明する。
【0018】
まず、伝搬路学習プロセスでは、未知発信源推定に必要な、実際の環境における任意位置からセンサ12間の伝搬路情報とその計算量の学習・取得を行う。しかしながら、任意位置すべてに既知発信源を設置し伝搬路推定を行うのは現実的に考えると非常に難しい。そこで地形データや建物データを用いてレイトレースシミュレーションによって、任意位置からセンサ12までの伝搬路およびその統計量をモデリングする。しかしながら、実際の環境では人や車などの移動物や、事前データに存在しない障害物の存在などによってシミュレートした伝搬路とは異なる場合がある。そこでセルラシステムなどを既知発信源として活用して、既知位置からセンサ12までの伝搬路を実際に測定し、その統計量を取得する。これを用いて先ほどのシミュレートした任意位置からの伝搬路を繰り返し補正し、実際の環境における任意位置とセンサ12間の伝搬路情報およびその統計量を取得する。
【0019】
次に、未知発信源推定プロセスでは、伝搬路学習プロセスで取得した伝搬路情報の統計量、未知送信源14の送信信号パターン候補データベース、および未知送信源14からの受信信号を用いて未知送信源14の情報の推定を行う。各センサ12もしくはアンテナ間における伝搬路情報の統計量から作成した相互相関と、送信信号の自己相関の畳み込み積分が、各センサ12もしくはアンテナにおける受信信号の相互相関に等しくなるという特徴を用いて未知発信源を推定する。
【0020】
最後に、スペクトラムマップ作成プロセスでは、推定した未知送信源14の情報と、あらかじめ所有している既知発信源の情報を用いてスペクトラムマップの作成を行う。図3は、DSMシステム100による周波数利用状況マッピングを示す。任意の位置や周波数における、受信電力を地形データ上にマッピングし、十分な電力を受けることのできるチャージングスペース202や利用されていない周波数領域ホワイトスペース200を発見する。
【0021】
2.DSMにおける複数センサを用いた未知発信源の推定手法
ここでは広帯域信号を想定し、伝搬路は伝搬遅延プロファイルが指数分布にしたがうマルチパスである統計モデルを用いる。また、各パスはレイリー分布にしたがい無相関である。なお、簡単のため未知送信源14はひとつであるとし、最初のプロセスである伝搬路学習プロセスは学習済みであると仮定する。
【0022】
(i)単一アンテナの場合
i番目の(i=1,・・・,M)センサ12が任意の位置から受ける受信信号は、広帯域信号および伝搬環境が時々刻々と変化する場合、未知送信源14の位置ψにおける動的伝搬チャネルと未知送信源14の送信信号を用いて以下のように表される。
【数1】
ここでtとτは信号系列上の時間および遅延時間を表しており、
【数2】
は伝搬路の変動を表す時間である。gは未知発信源の送信電力が1の電力スペクトル(以下、「規格化フィルタ」という)の形であり送信フィルタおよび変調方式に依存する。pは未知発信源の送信電力である。また、
【数3】
は未知発信源の送信信号、
【数4】
は未知発信源の位置ψからi番目のセンサ12までの伝搬路応答、
【数5】
は分散σの白色ガウス雑音である。
【0023】
式(1)で表現されるi番目のセンサ12の受信信号とj番目のセンサ12の受信信号の時間tに関する相互相関は、Δtをi番目のセンサ12およびj番目のセンサ12で観測される信号の伝搬遅延差分(TDOA)を表すものとして以下のように計算できる。ただし、本来i=jは自己相関と呼ぶが以下では簡略化のために相互相関と表記する。また、式の簡潔化のためにψ、g、pの記載を省略し、Rx[A,B]を関数AとBのxに対する相関と置く。
【数6】
【0024】
ただし、Dijはi=jのとき1、
【数7】
のとき0である。
【数8】
は統計的処理であるため
【数9】
に依存しない。ここで、
【数10】
と置けば、式(2)はさらに以下のように変形できる。
【数11】
【0025】
【数12】
はそれぞれ未知発信源の送信信号の時間に関する自己相関および未知発信源からi番目のセンサ12までの伝搬路とj番目のセンサ12までの伝搬路の相互相関を表している。すなわち各センサ12における未知発信源からの受信信号同士の相互相関は、未知発信源から各センサ12までの伝搬路同士の相互相関と、送信信号の自己相関との畳み込み積分で表すことができる。このとき送信信号の自己相関は、未知発信源の送信電力および規格化フィルタの形によって形状が決定する。また、伝搬路応答同士の相互相関は、
【数13】
のときにピーク値を持つことからi番目のセンサ12までの伝搬遅延およびj番目のセンサ12までの伝搬遅延の差分の情報を持つ関数となり、その形状はそれぞれのセンサまでの伝搬路の環境によって決定される。ここで、
【数14】

【数15】
に関して変化するため期待値を取る必要がある。
【0026】
しかし、伝搬路応答の位相は一様分布するため、動的な環境で式(2)の期待値を取ると相互相関の値は0となり、位置に関する情報を抽出することができない。そのため、式(2)の絶対値を取ることで位相情報を棄却する。この処理によって
【数16】
に関して変化するのはi番目のセンサ12とj番目のセンサ12のそれぞれのチャネルの振幅に限られる。よって式(2)について絶対値を取り、
【数17】
に対する期待値を取ると以下のように表される。なお、Ex[・]をxに対する期待値と置く。
【数18】
【0027】
伝搬路応答の振幅は確率的に変動するため、式(4)からRSSIとTDOA情報抽出が可能であることを示している。すなわち伝搬路の相互相関にはTDOAとRSSIの位置によって決定される2つの情報が含まれていることを示している。よって式(1)に示されるように受信信号は位置、送信電力および規格化フィルタにも依存するため、式(3)で表される相互相関および式(4)で示した絶対値の期待値を各センサの受信信号から作成し、さらに受信信号をセンサ中の最大平均受信電力によって規格化すると、以下の式で書き表すことができる。
【数19】
【0028】
ここで、推定候補の場所から相互相関のレプリカを作成し、そのレプリカと
【数20】
の値の差分が最小となる場所を推定値とする。具体的に、位置候補ψ、規格化フィルタ候補gおよび伝搬学習プロセスで取得した伝搬路情報の統計量から作成したレプリカは式(3)から以下のように表される。
【数21】
【0029】
【数22】
は推定規格化フィルタ候補gから作成したレプリカ送信信号
【数23】
の自己相関
【数24】
と、推定候補位置ψおよび伝搬路の学習プロセスで取得した動的伝搬路応答の統計量から作成したi番目のセンサ12およびj番目のセンサ12の伝搬路応答
【数25】
の相互相関
【数26】
を畳み込み、絶対値を取った後に
【数27】
に対する期待値を取ったものである。
【0030】
よって、式(5)、式(8)を用いて、未知発信源の位置および規格化フィルタを以下の最尤推定法によって推定できる。
【数28】
式(9)において未知発信源の位置および規格化フィルタの2つのパラメータを変化させ、実際の受信信号から作成した
【数29】
と推定値のレプリカから作成した
【数30】
の差の二乗和が最小となったものがそれら2つのパラメータの推定値となる。また、真値同士の相互相関を引いた値は雑音となる。
【0031】
(ii)複数アンテナの場合
i番目のセンサ12の第kアンテナ(k=1,・・・,N)が任意の位置から受ける受信信号のレプリカは、広帯域信号、線形アレーアンテナおよび伝搬環境が時々刻々と動的に変化することを想定した場合、未知発信源の位置ψにおける動的伝搬路応答と未知発信源の送信信号を用いて以下のように表される。
【数31】
【0032】
ここでdは第1素子のアンテナを基準点としたときの、基準点から第k素子の位置までの距離であり、λは到来波の波長を、θ(τ)は到来角度を表す。このとき同一センサ間の相互相関と異なるセンサにおけるアンテナ間の相互相関では期待値を取った場合の振る舞いが異なる。なお、以下では単一アンテナの場合と同様に式の簡潔のためにψ、g、pの記載を省略する。
【0033】
(ii−1)同一センサにおけるアンテナ間の相互相関
i番目のセンサ12に関して同一センサ間における第kアンテナと第lアンテナの相互相関は以下のように表される。
【数32】
ただし
【数33】
である。したがって、
【数34】
のときに相互相関のピークが現れることを示しており、
【数35】
に関する変化が相互相関に与える影響は、伝搬路応答の振幅と到来角度であるといえる。
【0034】
式(12)の相互相関において
【数36】
に関する期待値を取ると以下のように表される。
【数37】
【0035】
よって、
【数38】
のときは値が0となり、
【数39】
のときは以下の式で表される。
【数40】
式(14)から
【数41】
は同一センサの異なるアンテナ間における相互相関は動的な伝搬路応答において、その変化に対して期待値を取ったとしてもRSSI、DOAの情報を抽出することが可能であることを示している。
【0036】
(ii−2)異なるセンサにおけるアンテナ間の相互相関
i番目のセンサ12の第kアンテナとj番目のセンサ12の第lアンテナとの相互相関は以下のように表される。
【数42】
【0037】
よって、
【数43】
の変化が相互相関に与える影響は、伝搬路応答の振幅および位相と到来角度であるといえる。一般に動的伝搬路応答の位相は一様分布するため、式(15)の期待値を取ると位置に関する情報を抽出することができない。そこで単一アンテナのときと同様に式(15)について絶対値を取る。この処理によって
【数44】
に関して変化するのはi番目のセンサ12およびj番目のセンサ12のチャネルの振幅に限られる。よって式(15)の絶対値について、
【数45】
に対する期待値を取ると以下のように表される。
【数46】
【0038】
一般に、動的な伝搬路応答では振幅の確率分布は任意の形となるため、式(16)はRSSIとTDOA情報の抽出が可能であることを示している。以上から複数アンテナを用いた場合、伝搬路の相互相関にはRSSI、TDOA、DOAの位置によって決定される3つの情報が含まれていることを示した。よって、式(10)に示されるように受信信号は位置、送信電力および規格化フィルタにも依存するため、式(12)、式(15)で表される相互相関および式(13)、式(16)に示した絶対値の期待値を各センサの受信信号から作成し、さらに受信信号をセンサにおける最大平均受信電力によって規格化すると、以下の式に書き表すことができる。
【数47】
【0039】
また、位置候補ψ、規格化フィルタ候補gおよび伝搬学習プロセスで取得した伝搬路情報の統計量から作成したレプリカは式(3)から以下のように表される。
【数48】
【数49】
は推定規格化フィルタ候補gから作成したレプリカ送信信号
【数50】
の自己相関
【数51】
と、推定候補位置ψおよび伝搬路の学習プロセスで取得した動的伝搬路応答の統計量から作成したi番目のセンサ12の第kアンテナおよびj番目のセンサ12の第lアンテナの伝搬路応答
【数52】
の相互相関を畳み込み、
【数53】
に対する期待値を取ったものである。
【0040】
また、
【数54】
は畳み込みに対して絶対値を取った後に
【数55】
に対する期待値を取ったものである。よって、式(17)、式(18)、式(21)を用いて、未知発信源の位置および規格化フィルタを以下の最尤推定法によって推定できる。
【数56】
式(22)において未知発信源の位置および規格化フィルタの2つのパラメータを変化させ、実際の受信信号から作成した
【数57】
とレプリカから作成した
【数58】
との差の二乗和が最小となったものがそれら2つのパラメータの推定値となる。また、真値同士の相互相関を引いた値は雑音となる。
【0041】
3.DSMを実現するための送信電力推定
式(9)および式(22)を用いることで未知発信源の位置推定を行うことができるが、DSMのスペクトラムマップ作成のためには未知発信源の送信電力も知る必要がある。そこで、未知発信源の位置推定後に学習した伝搬路情報およびRSSIを用いることで、以下の最尤推定法から未知発信源の送信電力Ptxを推定する。
【数59】
【0042】
ただし、
【数60】
であり、平均受信電力を表している。また、Ptx,0は未知発信源の真の送信電力であり、
【数61】
は未知発信源の推定送信電力および学習した伝搬路情報から作成した推定平均受信電力である。式(23)において未知発信源の送信電力をパラメータとして変化させ、実際の平均受信電力との差の和が最小となったものが送信電力パラメータの推定値となる。
【0043】
4.特性評価
提案手法の未知発信源の位置、送信電力およびフィルタ推定精度を数値解析によって評価する。ここで、図4は、DSMシステム100に対する数値解析の諸元を示し、図5は、DSMシステム100に対する数値解析におけるセンサ12、未知送信源14の配置を示す。位置推定および送信電力推定では図4の諸元に加え未知発信源の送信電力を変化させ、各送信電力において推定を繰り返し行うことで評価を行った。フィルタ推定では図4の諸元に加え未知発信源の送信電力を−10dBmとし、三角フィルタと矩形フィルタを用いて推定した。なおいずれの場合においても伝搬路は学習済みであるとしている。
【0044】
図6は、DSMシステム100による送信電力10dBmでの位置推定特性評価結果を示す。これは、未知送信源14の送信電力を10dBm、フィルタ既知、アンテナ2本を用いた場合の式(22)の評価関数における誤差を示す。誤差は見やすくするためにログスケールで表記した。図6から、未知発信源の位置における評価関数の誤差が最小となっており、位置推定が正しく行われていることが確認できる。
【0045】
図7は、DSMシステム100による位置推定特性評価結果を示す。これは、未知送信源14の位置推定について送信電力を−10dBmから15dBmまで5dBmごとに変化させた場合の、フィルタ既知の条件下において、RSSI、TDOAそれぞれを用いた従来法と本実施例であるDSMにおいてアンテナ1本とアンテナ2本を用いた場合の位置推定誤差の送信電力に対する標準偏差を示す。ここで、RSSI、TDOAはそれぞれ本実施例と同様に伝搬路応答の相互相関を既知としている。いずれの送信電力においても本実施例はRSSI、TDOAを用いた従来法のどちらよりも推定誤差の標準偏差は小さく、推定精度がよいといえる。また、送信電力が−5dBmにおいても提案手法ではほぼ推定できている。
【0046】
送信電力が−5dBmにおける各センサの平均受信SNRは図5の左のセンサから0.4、8.0、−2.6[dB]となっている。このことから受信電力が雑音電力より小さくなるような劣悪な受信環境においてもある程度の推定誤差を持って位置推定が可能であるといえる。さらに、アレーアンテナの素子数を2とした場合、アンテナ数が1の場合と大きな差はないものの推定誤差の標準偏差が小さくなっているといえる。したがって、さらに多くのアンテナをセンサに用いることでより精度の高い位置推定が可能であるといえる。
【0047】
図8は、DSMシステム100による伝搬路学習とRSSIを利用した送信電力推定結果を示す。これは、式(23)を用いた未知送信源14の送信電力推定について送信電力を−20dBmから20dBmまで5dBmごとに変化させた場合の、送信電力推定誤差の標準偏差を示す。ただし未知送信源14の位置およびフィルタが既知であるとする。図8より、未知送信源14の送信電力が0dBmより大きくなる場合は完全に推定できているが、これは送信電力が0dBmにおける各センサの平均受信SNRが5.4、13.0、2.4[dB]となっており、各センサにおける平均受信SNRが0dBを上回っているため推定できていると考えられる。未知発信源の送信電力が−5dBmのときに推定精度が劣化する理由としては、一部センサの平均受信SNRが0dBを下回っているためであると考えられる。
【0048】
図9(a)−(b)は、DSMシステム100によるフィルタ推定結果を示す。これは、送信電力を10dBm、アンテナ2本および未知送信源14のフィルタを矩形フィルタおよび三角フィルタとした場合の式(22)の評価関数における誤差をそれぞれ示す。未知送信源14の位置における矩形フィルタを用いた場合と三角フィルタを用いた場合の誤差は矩形フィルタの誤差が最小となっているため、位置およびフィルタが正しく推定できているといえる。すなわち、未知発信源の位置とフィルタを同時に推定することが可能であるといえる。
【0049】
5.装置構成
図10は、フュージョンセンタ10の構成を示す。フュージョンセンタ10は、取得部20、第1導出部22、第2導出部24、第3導出部26、選択部28、出力部30、電力推定部32を含む。まず、(i)単一アンテナの場合について説明する。取得部20は、未知位置に配置された未知送信源14から送信された送信信号が、互いに異なった既知位置に配置された複数のセンサ12のそれぞれにおいて受信されており、複数のセンサ12のそれぞれから受信信号を取得する。受信信号は、式(1)のように示される。
【0050】
第1導出部22は、取得部20において取得した受信信号に対してセンサ12間における相互相関を導出するとともに、相互相関の絶対値の期待値を導出する。第1導出部22での処理は、式(5)から式(7)に相当する。特に、相互相関の絶対値の期待値は、式(5)に相当する。
【0051】
第2導出部24は、第1導出部22において導出した期待値に対するレプリカであって、かつ未知位置が候補位置であると仮定した場合のレプリカを導出する。具体的に説明すると、第2導出部24は、候補位置から既知位置までの伝送路特性の相互相関であって、かつセンサ12間における相互相関の絶対値の期待値と、未知送信源14から送信された送信信号の自己相関とをもとにレプリカを導出する。レプリカは、式(8)に相当する。
【0052】
第3導出部26は、第2導出部24において導出したレプリカと第1導出部22において導出した期待値との誤差を導出する。選択部28は、第2導出部24における候補位置を変更しながら、第2導出部24と第3導出部26とに対して処理を繰り返し実行させることによって導出された複数の誤差から、ひとつの誤差を選択する。これら処理は、式(9)において、最小値を選択することに相当する。
【0053】
出力部30は、選択部28において選択した誤差に対応した候補位置を、発信源が設置された位置として出力する。出力部30から出力される位置は、式(9)において選択された2つのパラメータの推定値に相当する。電力推定部32は、選択部28において選択した誤差に対応した候補位置をもとに、発信源の送信電力を推定する。これは、式(23)、式(24)に相当する。
【0054】
次に、(ii)複数アンテナの場合について説明する。取得部20は、センサ12に複数のアンテナが備えられている場合、アンテナごとの受信信号を取得する。受信信号は、式(10)、式(11)のように示される。第1導出部22は、異なったセンサ12に備えられたアンテナ間において、相互相関の絶対値の期待値を導出する。相互相関の絶対値の期待値は、式(18)に相当する。また、第1導出部22は、同一のセンサ12に備えられたアンテナ間における受信信号の相互相関の期待値も導出する。相互相関の期待値は、式(17)に相当する。
【0055】
第2導出部24は、異なったセンサ12に備えられたアンテナ間において、相互相関の絶対値の期待値を使用してレプリカを導出する。レプリカは、式(21)の下段に相当する。また、第2導出部24は、同一のセンサ12に備えられたアンテナ間において、候補位置から既知位置までの伝送路特性の相互相関であって、かつアンテナ間における相互相関の期待値と、未知送信源14から送信された送信信号の自己相関とをもとにレプリカを導出する。レプリカは、式(21)の上段に相当する。
【0056】
第3導出部26は、異なったセンサ12に備えられたアンテナ間に対する期待値とレプリカから誤差を導出するとともに、同一のセンサ12に備えられたアンテナ間における期待値とレプリカからも誤差を導出する。前者は、式(22)の右辺の第2項に相当し、後者は、式(22)の右辺の第1項に相当する。
【0057】
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0058】
本発明の実施例によれば、センサ間における相互相関の絶対値の期待値と、発信源から送信された送信信号の自己相関とをもとにレプリカを導出するので、RSSIとTDOAを利用できる。また、RSSIとTDOAが利用されるので、マルチパスの存在下においても推定精度の悪化を抑制できる。また、同一のセンサに備えられたアンテナ間における期待値とレプリカも導出するので、RSSIとTDOAとに加えてDOAも利用できる。また、RSSIとTDOAとに加えてDOAが利用されるので、マルチパスの存在下においても推定精度の悪化を抑制できる。また、未知送信源14の位置を導出してから送信電力を推定するので、推定精度を向上できる。また、屋外における高精度な位置推定および波源の情報の推定が可能となり、違法電波発信源の発見できる。また、屋外における高精度な位置推定および波源の情報の推定が可能となり、ホワイトスペースやチャージングスペースを検出できる。
【0059】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0060】
10 フュージョンセンタ、 12 センサ、 14 未知送信源、 16 既知情報データベース、 20 取得部、 22 第1導出部、 24 第2導出部、 26 第3導出部、 28 選択部、 30 出力部、 32 電力推定部、 100 DSMシステム。
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図10
図6
図9