(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、タッチパネルディスプレイの薄型化と低コスト化を目的として、強化ガラス基板上にITO膜等のパターニングを行い、その後、強化ガラスを切断するという製造工程が採用されつつある。しかし、強化ガラスの切断に際し、意図しないクラックが進展しないように、内部の引っ張り応力値を適正範囲に規制する必要があり、そのためには、表面の圧縮応力が極端に大きくならないように留意しなければならない。
【0007】
その一方で、強化ガラスを切断しないパネルメーカーも存在する。よって、ガラスメーカーは、機械的強度が高い強化ガラスと、内部の引っ張り応力値が適正範囲になるように、圧縮応力を制限した強化ガラスとを製造しなければならない。現状では、前者の強化ガラスと後者の強化ガラスは異なる材質となっている。結果として、ガラスメーカーは、強化ガラス基板の生産効率の低下を余儀なくされている。逆に言えば、前者の強化ガラスと後者の強化ガラスを同一材質で対応できれば、強化ガラス基板の生産効率が飛躍的に向上する。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、同一材質により、機械的強度が高い強化ガラスと切断性が高い強化ガラスの両方を作製し得る強化ガラス基板の製造方法を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、種々の検討を行った結果、KNO
3溶融塩中のNaイオンの濃度を制御した上で、該KNO
3溶融塩を用いてガラス基板をイオン交換処理することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラス基板の製造方法は、質量%で、SiO
2 40〜71%、Al
2O
3 3〜23%、Li
2O 0〜3.5%、Na
2O 7〜20%、K
2O 0〜15%を含有するガラス組成となるように調合したガラス原料を溶融し、板状に成形した後、
Naイオンを質量で1000〜45000ppm、Liイオンを質量で1〜1000ppm含むKNO
3溶融塩中でイオン交換処理を行い、ガラス表面に圧縮応力層を形成することを特徴とする。
【0010】
KNO
3溶融塩中のNaイオンの濃度を調整すれば、圧縮応力層の圧縮応力値と応力深さを変動させることが可能になる。結果として、同一材質により、機械的強度が高い強化ガラスと切断性が高い強化ガラスの両方を作製することができる。
【0011】
本発明の強化ガラス基板の製造方法は、質量%で、SiO
2 40〜71%、Al
2O
3 3〜23%、Li
2O 0〜3.5%、Na
2O 7〜20%、K
2O 0〜15%を含有するガラス組成となるように調合したガラス原料を溶融し、板状に成形した後
、Liイオン、Naイオンに加えて、更にAgイオン、Caイオン、Srイオン、Baイオンの一種又は二種以上を含むKNO
3溶融塩中でイオン交換処理を行い、ガラス表面に圧縮応力層を形成すること
が好ましい。
【0012】
本発明の強化ガラス基板の製造方法は、ダウンドロー法で板状に成形することが好ましい。第五に、本発明の強化ガラス基板の製造方法は、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形することが好ましい。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の成形体の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを成形体の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を製造する方法である。
【0013】
本発明
に係る強化ガラス基板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス基板であって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 40〜71%、Al
2O
3 3〜23%、Li
2O 0〜3.5%、Na
2O 7〜20%、K
2O 0〜15%を含有し、且つNaイオンを
質量で1000〜45000ppm、Liイオンを質量で1〜1000ppm含むKNO
3溶融塩中でイオン交換処理されてなること
が好ましい。
【0014】
本発明
に係る強化ガラス基板は、圧縮応力層の圧縮応力値が700MPa以下及び/又は応力深さが40μm以下であることが好ましい。ここで、「圧縮応力値」及び「応力深さ」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて評価試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
【0015】
本発明
に係る強化ガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましく、両表面(おもて面と裏面)の有効面全体が研磨されていないことがより好ましい。未研磨の表面は、言い換えれば、火造り面であり、これによって平均表面粗さ(Ra)を小さくすることが可能となる。
【0016】
本発明
に係る強化ガラス基板は、液相温度が1200℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0017】
本発明
に係る強化ガラス基板は、液相粘度が10
4.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を指す。なお、液相粘度が高く、液相温度が低い程、耐失透性が向上し、ガラス基板を成形し易くなる。
【0018】
本発明
に係る強化ガラス基板は、ディスプレイのカバーガラスに用いることが好ましい。
【0019】
本発明
に係る強化ガラス基板は、太陽電池のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0020】
本発明
に係る強化ガラス基板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス基板であって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 40〜71%、Al
2O
3 3〜23%、Li
2O 0〜3.5%、Na
2O 7〜20%、K
2O 0〜15%を含有し、且つ内部引っ張り応力が60MPa以下であること
が好ましい。ここで、「内部の引っ張り応力値」は、次式によって計算される値である。
【0021】
内部の引っ張り応力値=(圧縮応力値×応力深さ)/(板厚−応力深さ×2)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の強化ガラス基板の製造方法において、ガラス組成を上記範囲に限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有範囲の説明において、%表示は、特に断りがない限り、質量%を指す。
【0023】
SiO
2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は40〜71%であり、好ましくは40〜70%、40〜63%、45〜63%、50〜59%、特に55〜58.5%である。SiO
2の含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下したり、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。一方、SiO
2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなる。また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
【0024】
Al
2O
3は、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点、ヤング率を高くする効果もあり、その含有量は3〜23%である。Al
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等による成形が困難になる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったり、高温粘性が高くなり溶融性が低下し易くなる。Al
2O
3の含有量が少な過ぎると、十分なイオン交換性能を発揮できない虞が生じる。上記観点から、Al
2O
3の好適な範囲は上限が21%以下、20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、特に16.5%以下が好ましい。また下限は7.5%以上、8.5%以上、9%以上、10%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、特に16%以上が好ましい。
【0025】
Li
2Oは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更に、Li
2Oは、ヤング率を高める成分である。また、Li
2Oは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きい。しかし、Li
2Oの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下してガラスが失透し易くなる。また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなると、かえって圧縮応力値が低くなる場合がある。従って、Li
2Oの含有量は0〜3.5%であり、好ましくは0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、
0〜0.1%であり、実質的に含有しないこと、つまり0.01%未満に抑えることが最も好ましい。
【0026】
Na
2Oは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、Na
2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。Na
2Oの含有量は7〜20%であるが、より好適な含有量は10〜20%、10〜19%、12〜19%、12〜17%、13〜17%、特に14〜17%である。Na
2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。一方、Na
2Oの含有量が少ないと、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低くなり過ぎたり、イオン交換性能が低下し易くなる。
【0027】
K
2Oは、イオン交換を促進する効果があり、アルカリ金属酸化物の中では応力深さを大きくする効果が大きい。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、K
2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。K
2Oの含有量は0〜15%である。K
2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。更に歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向があるため、上限を12%以下、10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、特に2%以下とすることが好ましい。
【0028】
アルカリ金属酸化物R
2O(RはLi、Na、Kから選ばれる1種以上)の合量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、R
2Oの合量が多くなり過ぎると、歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られない場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保することが困難となる場合がある。よって、R
2Oの合量は22%以下、20%以下、特に19%以下が好ましい。一方、R
2Oの合量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下する場合がある。よって、R
2Oの合量は8%以上、10%以上、13%以上、特に15%以上が好ましい。
【0029】
(Na
2O+K
2O)/Al
2O
3の値を好ましくは0.7〜2、より好ましくは0.8〜1.6、更に好ましくは0.9〜1.6、特に好ましくは1〜1.6、最も好ましくは1.2〜1.6の範囲に規制することが望ましい。この値が2より大きくなると、低温粘性が低下し過ぎてイオン交換性能が低下したり、ヤング率が低下したり、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。またガラス組成のバランスを欠き、耐失透性が低下する傾向がある。一方、この値が0.7より小さくなると、溶融性や耐失透性が低下し易くなる。
【0030】
K
2O/Na
2Oの質量分率の範囲は0〜2であることが好ましい。K
2O/Na
2Oの質量分率を変化させることで圧縮応力値の大きさと応力深さを変化させることが可能になる。圧縮応力値を高く設定したい場合には、上記質量分率が、0〜0.5、特に0〜0.3、0〜0.2となるように調整することが好ましい。一方、応力深さをより大きくしたり、短時間で深い応力を形成したい場合には、上記質量分率が、0.3〜2、特に0.5〜2、1〜2、1.2〜2、特に1.5〜2となるように調整することが好ましい。ここで、上記質量分率の上限を2に設定した理由は、2より大きくなると、ガラス組成のバランスを欠き、耐失透性が低下するからである。
【0031】
上記成分以外にも、ガラス物性を大きく損なわない範囲で他の成分を添加してもよい。
【0032】
例えば、アルカリ土類金属酸化物R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上)は、種々の目的で添加可能な成分である。しかし、R’Oの合量が多くなると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下することに加えて、イオン交換性能が低下する傾向がある。従って、R’Oの合量は、好ましくは0〜9.9%、0〜8%、0〜6、特に0〜5%である。
【0033】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい。MgOの含有量は0〜6%が好ましい。しかし、MgOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。従って、MgOの含有量は4%以下、3%以下、2%以下、特に1.5%以下が好ましい。
【0034】
CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい。CaOの含有量は0〜6%が好ましい。しかし、CaOの含有量が多くなると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなったり、更にはイオン交換性能が低下する場合がある。従って、CaOの含有量は4%以下、特に3%以下が好ましい。
【0035】
SrO及びBaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は各々0〜3%が好ましい。SrOやBaOの含有量が多くなると、イオン交換性能が低下する傾向がある。また密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。SrOの含有量は、好ましくは2%以下、1.5%以下、1%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。またBaOの含有量は、好ましくは2.5%以下、2%以下、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下である。
【0036】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に、圧縮応力値を高める効果が大きい。また低温粘性を低下させずに高温粘性を低下させる効果を有する成分であり、その含有量を0〜8%とすることができる。しかし、ZnOの含有量が多くなると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなるため、その含有量は6%以下、4%以下、特に3%以下が好ましい。
【0037】
SrO+BaOの合量を0〜5%に制限すると、イオン交換性能をより効果的に高めることができる。つまりSrOとBaOは、上述の通り、イオン交換反応を阻害する作用があるため、これらの成分を多く含むことは、機械的強度が高い強化ガラスを得る上で不利である。SrO+BaOの好ましい範囲は0〜3%、0〜2.5%、0〜2%、0〜1%、0〜0.2%、特に0〜0.1%である。
【0038】
R’Oの合量をR
2Oの合量で除した値が大きくなると、耐失透性が低下する傾向が現れる。よって、質量分率でR’O/R
2Oの値は、好ましくは0.5以下、0.4以下、特に0.3以下である。
【0039】
SnO
2は、イオン交換性能、特に圧縮応力値を高める効果があるため、0〜3%、0.01〜3%、0.01〜1.5%、特に0.1〜1%含有することが好ましい。SnO
2の含有量が多くなると、SnO
2に起因する失透が発生したり、ガラスが着色し易くなる傾向がある。
【0040】
ZrO
2は、イオン交換性能を顕著に高めると共に、ヤング率や歪点を高くし、高温粘性を低下させる効果がある。また液相粘度付近の粘性を高める効果があるため、所定量含有させることで、イオン交換性能と液相粘度を同時に高めることができる。但し、その含有量が多過ぎると、耐失透性が極端に低下する場合がある。そのため、0〜10%、0.001〜10%、0.1〜9%、0.5〜7%、1〜5%、特に2.5〜5%含有させることが好ましい。なお、耐失透性の観点から、ZrO
2の含有量を可及的に抑制したい場合は、ZrO
2の含有量を0.1%未満に規制することが好ましい。
【0041】
B
2O
3は、液相温度、高温粘度及び密度を低下させる効果を有すると共に、イオン交換性能、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分であるため、上記成分と共に含有できるが、その含有量が多過ぎると、イオン交換によって表面にヤケが発生したり、耐水性が低下したり、液相粘度が低下する虞がある。また応力深さが低下する傾向にある。よって、B
2O
3の含有量は、好ましくは0〜6%、0〜4%、特に0〜3%である。
【0042】
TiO
2は、イオン交換性能を高める効果がある成分である。また高温粘度を低下させる効果がある。しかし、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなり易い。特に、ディスプレイのカバーガラスとして使用する場合、TiO
2の含有量が多くなると、溶融雰囲気や原料を変更した時、透過率が変化し易くなる。そのため、紫外線硬化樹脂等の光を利用して強化ガラス基板をデバイスに接着する工程において、紫外線照射条件が変動し易くなり、安定生産が困難となる。よって、TiO
2の含有量は、好ましくは10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、2%以下、0.7%以下、0.5%以下、0.1%以下、特に0.01%以下である。
【0043】
本発明において、イオン交換性能向上の観点から、ZrO
2とTiO
2を上記範囲で含有させることが好ましいが、TiO
2源、ZrO
2源として試薬を用いてもよいし、原料等に含まれる不純物から含有させてもよい。
【0044】
耐失透性と高いイオン交換性能を両立する観点から、Al
2O
3+ZrO
2の含有量を以下のように定めることが好ましい。Al
2O
3+ZrO
2の含有量は、好ましくは12%超、13%以上、15%以上、17%以上、18%以上、特に19%以上であれば、イオン交換性能をより効果的に高めることができる。しかし、Al
2O
3+ZrO
2の含有量が多過ぎると、耐失透性が極端に低下する。よって、Al
2O
3+ZrO
2の含有量は、好ましくは28%以下、25%以下、23%以下、22%以下、特に21%以下である。
【0045】
P
2O
5は、イオン交換性能を高める成分であり、特に、応力深さを大きくする効果が大きいため、その含有量を0〜8%とすることができる。しかし、P
2O
5の含有量が多くなると、ガラスが分相したり、耐水性や耐失透性が低下し易くなる。よって、P
2O
5の含有量は5%以下、4%以下、3%以下、特に2%以下が好ましい。
【0046】
清澄剤として、As
2O
3、Sb
2O
3、CeO
2、F、SO
3、Clの一種又は二種以上を0.001〜3%含有させてもよい。但し、As
2O
3及びSb
2O
3は、環境に対する配慮から、使用は極力控えることが好ましく、各々の含有量を0.1%未満、さらには0.01%未満に制限することが好ましく、実質的に含有しないことが望ましい。またCeO
2は、透過率を低下させる成分であるため、0.1%未満、好ましくは0.01%未満に制限することが好ましい。またFは、低温粘性を低下させて、圧縮応力値の低下を招くおそれがあるため、0.1%未満、好ましくは0.01%未満に制限することが好ましい。
【0047】
Nb
2O
5やLa
2O
3等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は、好ましくは3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0048】
Co、Ni等の遷移金属元素は、ガラスを強く着色させる成分である。特に、タッチパネルディスプレイ用途に用いる場合、遷移金属元素の含有量が多いと、強化ガラス基板の透過率を低下して、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれる。遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下となるように、原料又はカレットの使用量を調整することが望ましい。
【0049】
また、Pb、Bi等の物質は環境に対する配慮から、使用は極力控えることが好ましく、その含有量を各々0.1%未満に制限することが好ましい。
【0050】
本発明の強化ガラスの製造方法は、製造効率の観点から、上記ガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することが好ましい。
【0051】
板状に成形する方法として、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形すれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、無研磨で表面品位が良好なガラス基板を成形できるからである。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うために、どのような方法で力を印加するものであってもよい。本発明
に係る強化ガラス
基板は、耐失透性が優れると共に、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法による成形を精度よく実行することができる。なお、液相温度が1200℃以下、液相粘度が10
4.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形することができる。
【0052】
なお、高い表面品位が要求されない場合には、オーバーフローダウンドロー法以外の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。例えばプレス法でガラス基板を成形すれば、小型のガラス基板を効率良く製造することができる。
【0053】
本発明の強化ガラス基板の製造方法は、イオン交換処理により、表面に圧縮応力層を形成する。イオン交換処理は、ガラス基板の歪点以下の温度でイオン交換によりガラス基板の表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法である。イオン交換処理により圧縮応力層を形成すれば、ガラス基板の板厚が薄くても、良好に圧縮応力層を形成することができ、所望の機械的強度を得ることができる。更に、風冷強化法等の物理強化法で強化された強化ガラス基板のように容易に破壊することがない。
【0054】
得られたガラス基板をNaイオンの濃度が制御されたKNO
3溶融塩中に浸漬させて、イオン交換処理を行い、ガラス表面に圧縮応力層を形成する。例えば、機械的強度を可及的に高めたい場合は、Naイオンの濃度を例えば3000ppm以
下に低減すればよく、切断性を高めたい場合は、Naイオンの濃度を例えば1000ppm以上、3000ppm以上、5000ppm以上、特に8000ppm以上に増加させればよい。イオン交換処理は、例えば400〜550℃のKNO
3溶融塩中にガラス基板を1〜8時間浸漬することにより行うことができる。イオン交換処理の条件は、ガラスの粘度特性、用途、板厚、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。
【0055】
本発明の強化ガラス基板の製造方法では、Naイオンを含むKNO
3溶融塩を用いて、イオン交換処理を行
う。Naイオンの濃度
は1000ppm以上
であり、好ましくは3000ppm以上、5000ppm以上、8000ppm以上、9000ppm以上、10000ppm以上、特に12000ppm以上である。Naイオンの濃度が1000ppmより少ないと、Naイオン濃度の変化によって、圧縮応力値が大幅に変化してしまい、強化ガラスの安定生産が困難になる。一方、Naイオンの濃度
が多いと、強化特性が低下し過ぎ
る。Naイオンの濃度
は45000ppm以下
であり、好ましくは40000ppm以下、35000ppm以下、特に30000ppm以下
である。なお、Naイオンの濃度は、例えばKNO
3に対して、微量のNaNO
3を添加することにより調整可能である。
【0056】
本発明の強化ガラス基板の製造方法では、Liイオン、Agイオン、Caイオン、Srイオン、Baイオンの一種又は二種以上を含むKNO
3溶融塩を用いて、イオン交換処理を行うことも好ましい。このようにすれば、Naイオンを含むKNO
3溶融塩と同様の効果を享受することができる。
【0057】
Liイオンの下限濃度
は1ppm以上
であり、好ましくは3ppm以上、5ppm以上、10ppm以上、50ppm以上、上限濃度
は1000ppm以下
であり、好ましくは800ppm以下、600ppm以下、特に400ppm以下である。
【0058】
Agイオン、Caイオン、Srイオン、Baイオンの濃度は、それぞれ1000ppm以上、3000ppm以上、5000ppm以上、8000ppm以上、9000ppm以上、10000ppm以上、12000ppm以上、特に15000ppm以上が好ましい。各イオンの濃度が1000ppmより少ないと、各イオンの濃度変化によって、圧縮応力値が大幅に変化してしまい、強化ガラスの安定生産が困難になる。一方、各イオンの濃度が50000ppmより多いと、強化特性が低下し過ぎるため、各イオンの濃度を50000ppm以下、45000ppm以下、40000ppm以下、35000ppm以下、特に30000ppm以下に規制することが好ましい。なお、Liイオン、Agイオン、Caイオン、Srイオン、Baイオンの濃度は、例えばKNO
3に対して、各成分の硝酸塩を添加することにより調整可能である。そして、強化ガラス基板の機械的強度を可及的に高めたい場合は、各イオンの濃度を1000ppm未満としてもよい。
【0059】
強化ガラスの機械的強度を可及的に高めたい場合、圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは600MPa以上、700MPa以上、800MPa以上、特に900MPa以上となるように調整すればよい。圧縮応力値が大きい程、強化ガラス基板の機械的強度が高くなる。一方、強化ガラスの切断性を高めたい場合、圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは700MPa以下、650MPa以下、600MPa以下、特に550MPa以下に調整すればよく、下限値は、好ましくは300MPa以上、350MPa以上、特に400MPa以上に調整すればよい。
【0060】
圧縮応力値を大きくするには、ガラス組成中のAl
2O
3、TiO
2、ZrO
2、MgO、ZnO、SnO
2の含有量を増加させたり、KNO
3溶融塩中のNaイオン等の濃度、或いはガラス組成中のSrO、BaOの含有量を低減すればよい。またイオン交換時間を短くしたり、イオン交換温度を下げればよい。応力深さは、好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、特に30μm以上である。応力深さが大きい程、強化ガラス基板に深い傷が付いても、強化ガラス基板が割れ難くなる。一方、強化ガラスの切断を行う場合、内部の引っ張り応力の観点から、応力深さは、好ましくは50μm以下、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下、25μm以下、特に20μm以下である。強化ガラスの切断を行わない場合、応力深さは、好ましくは100μm以下、80μm以下、特に60μm以下である。なお、応力深さを大きくするには、ガラス組成中のK
2O、P
2O
5、TiO
2、ZrO
2の含有量を増加させたり、KNO
3溶融塩中のNaイオン等の濃度、或いはガラス組成中のSrO、BaOの含有量を低減すればよい。またイオン交換時間を長くしたり、イオン交換温度を高めればよい。
【0061】
内部の引っ張り応力値は、好ましくは40MPa以下、35MPa以下、30MPa以下、25MPa以下、特に20MPa以下である。内部の引っ張り応力値が小さい程、強化ガラスの切断時に、強化ガラスが破損し難くなる。しかし、内部の引っ張り応力値が極端に小さくなると、圧縮応力値及び応力深さが小さくなる。よって、内部の引っ張り応力値は、好ましくは1MPa以上、10MPa以上、特に15MPa以上である。
【0062】
本発明
に係る強化ガラス基板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス基板であって、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 40〜71%、Al
2O
3 3〜23%、Li
2O 0〜3.5%、Na
2O 7〜20%、K
2O 0〜15%を含
有すること
が好ましい。
【0063】
本発明
に係る強化ガラス基板において、板厚は、好ましくは1.0mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.4mm以下である。板厚が小さい程、強化ガラス基板を軽量化することできる。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形する場合、ガラス基板の薄肉化や平滑化を未研磨で達成することができる。
【0064】
本発明
に係る強化ガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は好ましくは10Å以下、より好ましくは5Å以下、更に好ましくは4Å以下、特に好ましくは3Å以下、最も好ましくは2Å以下である。なお、平均表面粗さ(Ra)は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定すればよい。ガラス基板の理論強度は本来非常に高いが、理論強度よりも遥かに低い応力で破壊に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥がガラスの成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、強化ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来の機械的強度が損なわれ難くなり、強化ガラス基板が破壊し難くなる。またガラス基板の製造コストを下げることができる。本発明
に係る強化ガラス基板において、両表面(おもて面及び裏面)の有効面全体を未研磨とすれば、強化ガラス基板が更に破壊し難くなる。また、切断面から破壊に至る事態を防止するため、切断面に面取り加工やエッチング処理等を行ってもよい。なお、未研磨の表面を得るためには、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形すればよい。
【0065】
本発明
に係る強化ガラス基板において、液相温度は、好ましくは1200℃以下、1050℃以下、1030℃以下、1010℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に870℃以下である。液相温度を低下させるには、Na
2O、K
2O、B
2O
3の含有量を増加したり、Al
2O
3、Li
2O、MgO、ZnO、TiO
2、ZrO
2の含有量を低減すればよい。
【0066】
本発明
に係る強化ガラス基板において、液相粘度は、好ましくは10
4.0dPa・s以上、10
4.3dPa・s以上、10
4.5dPa・s以上、10
5.0dPa・s以上、10
5.4dPa・s以上、10
5.8dPa.s以上、10
6.0dPa・s以上、特に10
6.2dPa・s以上である。液相粘度を上昇させるには、Na
2O、K
2Oの含有量を増加したり、Al
2O
3、Li
2O、MgO、ZnO、TiO
2、ZrO
2の含有量を低減すればよい。
【0067】
なお、液相温度が1200℃以下、液相粘度が10
4.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法で成形可能である。
【0068】
本発明
に係る強化ガラス基板において、密度は、好ましくは2.8g/cm
3以下、2.7g/cm
3以下、特に2.6g/cm
3以下である。密度が低い程、強化ガラス基板の軽量化を図ることができる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。なお、密度を低下させるには、SiO
2、P
2O
5、B
2O
3の含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO
2、TiO
2の含有量を低減すればよい。
【0069】
本発明
に係る強化ガラス基板において、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は、好ましくは70〜110×10
−7/℃、75〜110×10
−7/℃、80〜110×10
−7/℃、特に85〜110×10
−7/℃である。熱膨張係数を上記範囲とすれば、金属、有機系接着剤等の部材と熱膨張係数が整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。ここで、「熱膨張係数」とは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお、熱膨張係数を上昇させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加さればよく、逆に低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
【0070】
本発明
に係る強化ガラス基板において、歪点は、好ましくは500℃以上、510℃以上、520℃以上、540℃以上、550℃以上、特に560℃以上である。歪点が高い程、耐熱性が向上し、強化ガラス基板に熱処理を施したとしても、圧縮応力層が消失し難くなる。また歪点が高いと、イオン交換処理時に、応力緩和が起こり難くなるため、高い圧縮応力値を得易くなる。歪点を高くするためには、アルカリ金属酸化物の含有量を低減させたり、アルカリ土類金属酸化物、Al
2O
3、ZrO
2、P
2O
5の含有量を増加させればよい。
【0071】
本発明
に係る強化ガラス基板において、10
2.5dPa・sに相当する温度は、好ましくは1650℃以下、1500℃以下、1450℃以下、1430℃以下、1420℃以下、特に1400℃以下である。10
2.5dPa・sに相当する温度は、溶融温度に相当しており、10
2.5dPa・sに相当する温度が低い程、低温でガラスを溶融することができる。従って、10
2.5dPa・sに相当する温度が低い程、溶融窯等のガラス製造設備への負荷が小さくなる共に、ガラス基板の泡品位を高めることができる。よって、10
2.5dPa・sに相当する温度が低い程、ガラス基板を安価に製造することができる。なお、10
2.5dPa・sに相当する温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B
2O
3、TiO
2の含有量を増加させたり、SiO
2、Al
2O
3の含有量を低減すればよい。
【0072】
本発明
に係る強化ガラス基板において、ヤング率は、好ましくは70GPa以上、73GPa以上、特に75GPa以上である。ディスプレイのカバーガラスに適用する場合、ヤング率が高い程、カバーガラスの表面をペンや指で押した際の変形量が小さくなるため、内部のディスプレイに与えるダメージを低減することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0074】
表1は
、試料No.1〜
4のガラス組成と特性を示すものである。
【0075】
【表1】
【0076】
次のようにして、表1に記載の各試料を作製した。まず表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて、得られたガラスバッチを1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形した。得られたガラス基板について、種々の特性を評価した。
【0077】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0078】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0079】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0080】
10
4.0dPa・s、10
3.0dPa・s、10
2.5dPa・sに相当する温度は、白金球引き上げ法で測定した。
【0081】
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
【0082】
液相温度TLは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定したものである。
【0083】
液相粘度logηTLは、液相温度における各ガラスの粘度を示す。
【0084】
その結果、得られたガラス基板は、密度が2.54g/cm
3以下、熱膨張係数が92〜102×10
−7/℃、強化ガラス素材として好適であった。また液相粘度が10
4.5dPa・s以上であり、オーバーフローダウンドロー法による成形が可能であり、しかも10
2.5dPa・sにおける温度が1560℃以下であるため、大量のガラス基板を安価に供給できるものと考えられる。
【0085】
続いて、試料No.1〜4について、Naイオンの濃度が制御されたKNO
3溶融塩槽中でイオン交換処理を行った。なお、Naイオンの濃度は、KNO
3溶融塩中に所定量のNaNO
3を添加することにより調整されている。次に、イオン交換処理後の各試料の表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力値と応力深さを算出した。その結果を表2に示す。圧縮応力値と応力深さの算出に当たり、試料No.1〜4の屈折率を1.52[(nm/cm)/MPa]とし、試料No.1の光弾性定数を28、試料No.2の光弾性定数を28、試料No.3の光弾性定数を29、試料No.4の光弾性定数を28とした。なお、未強化ガラス基板と強化ガラス基板は、表層において微視的にガラス組成が異なっているものの、全体として見た場合、ガラス組成が実質的に相違していない。よって、未強化ガラス基板と強化ガラス基板は、密度、粘度等のガラス物性が実質的に相違していない。
【0086】
【表2】
【0087】
表2から明らかなように、試料No.1〜4は、Naイオン濃度が0〜3000ppmのKNO
3溶融塩中に浸漬させた場合、圧縮応力値が900MPaより大きくなり、機械的強度が高い強化ガラス基板として好適に使用可能になる。また、Naイオン濃度が9000〜12000ppmのKNO
3溶融塩中に浸漬させた場合、圧縮応力値が500〜600MPaとなり、イオン交換処理後の切断に好適になる。更に、Naイオン濃度が9000〜12000ppmのKNO
3溶融塩中に浸漬させた場合、Naイオン濃度の増加に伴い、圧縮応力値が殆ど変化せず、同様のイオン交換温度とイオン交換時間であれば、略同等の強化特性が得られた。この場合、実際の生産において、長期に亘って強化槽として使用したとしても、イオン交換処理後の切断に好適な圧縮応力層が形成されるものと考えられる。
【0088】
なお、上記実施例では、実験の便宜上、ガラスバッチを溶融し、流し出しによる成形を行った後、イオン交換処理前に光学研磨を行った。工業的規模で生産する場合には、オーバーフローダウンドロー法等でガラス基板を作製し、ガラス基板の両表面の有効面全体が未研磨の状態でイオン交換処理することが望ましい。