(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032486
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】電力管理システム、電力管理方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20161121BHJP
H02J 3/14 20060101ALI20161121BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20161121BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 180
H02J3/14
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J3/38 130
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-52494(P2013-52494)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-180134(P2014-180134A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】下田 英介
(72)【発明者】
【氏名】山根 俊博
(72)【発明者】
【氏名】沼田 茂生
【審査官】
田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−250649(JP,A)
【文献】
特開2006−246584(JP,A)
【文献】
特開2011−101553(JP,A)
【文献】
特開2011−114944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00− 5/00
7/00− 7/12
7/34− 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電装置が発電した発電電力と商用の電力系統から供給される買電電力とに基づいて蓄電池の出力を制御する電力管理システムであって、
制御対象日の気象情報と類似した気象情報に対応付けられて記録されている負荷電力の過去実績データを取得する負荷電力取得部と、
前記負荷電力取得部によって取得した過去実績データに基づいて、前記蓄電池の補償周波数帯域を決定する補償帯域決定部と、
前記補償帯域決定部によって決定された前記蓄電池の補償周波数帯域と、前記買電電力、及び前記蓄電池の出力の合計とに基づいて負荷電力を推定し、該推定した負荷電力に基づいて前記蓄電池の出力を制御する蓄電池制御部と
を備え、
前記補償帯域決定部は、前記負荷電力の過去実績データから離散フーリエ変換によって各周波数の振幅を算出し、該振幅と周波数とに基づいて、低域遮断周波数と負荷変動補償に必要な蓄電池容量との関係を求め、2点の線形補間により、実効蓄電池容量で最も補償帯域を広くとれる低域遮断周波数を決定することを特徴とする電力管理システム。
【請求項2】
前記負荷電力取得部は、
気象情報とその気象情報を有する日の負荷電力データとを対応付けて蓄積する過去実績データ蓄積部と、
制御対象日の気象情報を取得する気象情報取得部と、
前記気象情報取得部によって取得した制御対象日の気象情報と類似した気象情報に対応付けられて記録されている負荷電力データを、前記過去実績データ蓄積部から取得する気象類似日負荷電力データ取得部と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の電力管理システム。
【請求項3】
前記蓄電池制御部は、前記補償帯域決定部によって決定された前記蓄電池の補償周波数帯域に基づいて、前記買電電力と前記蓄電池の出力との合計値をフィルタリングすることで、前記蓄電池の出力を制御する蓄電池出力指令値を出力する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力管理システム。
【請求項4】
発電装置が発電した発電電力と商用の電力系統から供給される買電電力とに基づいて蓄電池の出力を制御する電力管理方法であって、
制御対象日の気象情報と類似した気象情報に対応付けられて記録されている負荷電力の過去実績データを取得するステップと、
前記取得した過去実績データに基づいて、前記蓄電池の補償周波数帯域を決定するステップと、
前記決定された前記蓄電池の補償周波数帯域と、前記買電電力、及び前記蓄電池の出力の合計とに基づいて負荷電力を推定し、該推定した負荷電力に基づいて前記蓄電池の出力を制御するステップと
を備え、
前記補償周波数帯域を決定するステップは、前記負荷電力の過去実績データから離散フーリエ変換によって各周波数の振幅を算出し、該振幅と周波数とに基づいて、低域遮断周波数と負荷変動補償に必要な蓄電池容量との関係を求め、2点の線形補間により、実効蓄電池容量で最も補償帯域を広くとれる低域遮断周波数を決定することを特徴とする電力管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーク電力削減量を最大化する電力管理システム、電力管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力需要が伸びる重負荷期の夏期、及び冬期の電力逼迫により、需要家側には、積極的なピーク電力削減が求められている。また、分散型電源に対する固定買取制度の開始や、環境負荷低減などの観点から太陽光発電の導入機運が高まっている。分散型電源を有するシステムとしては、例えば下記の特許文献1に記載されたシステムがある。このような背景から、電力ピーク時間帯に太陽光発電を用いてピーク電力を削減することが期待されている。しかしながら、太陽光発電等の自然エネルギーは、天候次第で大きく出力が変動するため、確実にピーク電力を削減できるとは限らない。
【0003】
この対策として、太陽光発電と蓄電池とで構成されるマイクログリッドが開発、実用化されている。ここで、
図9は、マイクログリッドの蓄電池の負荷変動補償の一例を示す図である。この図において、横軸は時刻、縦軸は建物の消費電力を表している。このマイクログリッドの蓄電池は、建物の負荷変動に蓄電池出力を追従させることで、電力会社からの買電電力の変動を抑制する(以下、負荷変動補償と呼ぶ)制御を行っている。ここで、符号aは、負荷変動補償前の負荷電力(建物内における負荷電力)を表しており、符号bは、負荷変動補償後の買電電力(負荷変動補償を行った場合に消費される買電電力)を表している。この図においては、10時から16時までの間において、蓄電池からの電力も必要に応じて建物に供給することで、負荷の急増時や、太陽光発電の出力減少時には、蓄電池から放電が行われ、ピーク電力を削減することができる。例えば、符号aにおけるピーク値と符号bにおけるピーク値との差(ピーク電力削減量)に示すように、ピーク電力を削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−246584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、建物の負荷変動は、様々な周波数成分で構成されているため、与えられた蓄電池容量で最大限のピーク電力削減量を得るためには、蓄電池で補償すべき負荷変動の周波数帯域(以下、補償帯域と呼ぶ)を適切に決定することが重要である。上述した従来技術では、シミュレーションや、実運転などを繰り返し行い、ピーク電力削減効果の大きい補償帯域を、試行錯誤的に決定していたため、多大な労力と時間がかかっていた。
【0006】
そのため、日々異なる気象条件等で負荷電力パターンが変化した場合における補償帯域の再設定が困難であり、同じ補償帯域を使用し続けていた。また、あらかじめ補償帯域を広く設定すると、実効蓄電池容量を上回り、運用途中で蓄電池容量が枯渇する場合があった。これらの理由により、毎日の運用において実効蓄電池容量で最大限のピーク電力削減量を得られていないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、与えられた蓄電池容量に対してピーク電力削減量が最大となる補償帯域を、高速、かつ最適に決定することができる電力管理システム、電力管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、発電装置が発電した発電電力と商用の電力系統から供給される買電電力とに基づいて蓄電池の出力を制御する電力管理システムであって、制御対象日の気象情報と類似した気象情報に対応付けられて記録されている負荷電力の過去実績データを取得する負荷電力取得部と、前記負荷電力取得部によって取得した過去実績データに基づいて、前記蓄電池の補償周波数帯域を決定する補償帯域決定部と、前記補償帯域決定部によって決定された前記蓄電池の補償周波数帯域と、前記買電電力、及び前記蓄電池の出力の合計とに基づいて負荷電力を推定し、該推定した負荷電力に基づいて前記蓄電池の出力を制御する蓄電池制御部とを備え
、前記補償帯域決定部は、前記負荷電力の過去実績データから離散フーリエ変換によって各周波数の振幅を算出し、該振幅と周波数とに基づいて、低域遮断周波数と負荷変動補償に必要な蓄電池容量との関係を求め、2点の線形補間により、実効蓄電池容量で最も補償帯域を広くとれる低域遮断周波数を決定することを特徴とする。
【0009】
本発明は、上記の発明において、前記負荷電力取得部は、気象情報とその気象情報を有する日の負荷電力データとを対応付けて蓄積する過去実績データ蓄積部と、制御対象日の気象情報を取得する気象情報取得部と、前記気象情報取得部によって取得した制御対象日の気象情報と類似した気象情報に対応付けられて記録されている負荷電力データを、前記過去実績データ蓄積部から取得する気象類似日負荷電力データ取得部とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明は、上記の発明において、前記蓄電池制御部は、前記補償帯域決定部によって決定された前記蓄電池の補償周波数帯域に基づいて、前記買電電力と前記蓄電池の出力との合計値をフィルタリングすることで、前記蓄電池の出力を制御する蓄電池出力指令値を出力することを特徴とする。
【0012】
また、上述した課題を解決するために、本発明は、発電装置が発電した発電電力と商用の電力系統から供給される買電電力とに基づいて蓄電池の出力を制御する電力管理方法であって、制御対象日の気象情報と類似した気象情報に対応付けられて記録されている負荷電力の過去実績データを取得するステップと、前記取得した過去実績データに基づいて、前記蓄電池の補償周波数帯域を決定するステップと、前記決定された前記蓄電池の補償周波数帯域と、前記買電電力、及び前記蓄電池の出力の合計とに基づいて負荷電力を推定し、該推定した負荷電力に基づいて前記蓄電池の出力を制御するステップとを備え
、前記補償周波数帯域を決定するステップは、前記負荷電力の過去実績データから離散フーリエ変換によって各周波数の振幅を算出し、該振幅と周波数とに基づいて、低域遮断周波数と負荷変動補償に必要な蓄電池容量との関係を求め、2点の線形補間により、実効蓄電池容量で最も補償帯域を広くとれる低域遮断周波数を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、与えられた蓄電池容量に対してピーク電力削減量が最大となる補償帯域を、高速、かつ最適に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の電力管理システム1の構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態において、低域遮断周波数の決定方法を説明するための概念図である。
【
図3】本実施形態による、蓄電池制御を説明するブロック図である。
【
図4】本実施形態において、冬期の代表的な負荷電力プロファイルの一例を示す図である。
【
図5】
図4の負荷電力を離散フーリエ変換した結果を示す図である。
【
図6】本実施形態において、低域遮断周波数と負荷変動補償に必要な蓄電池容量との関係の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態において、シミュレーションによるピーク電力削減量の算出結果を示す図である。
【
図8】同様のシミュレーションを用いて、低域遮断周波数を0.001mHz刻みで試行錯誤的に変化させたときのピーク電力削減量と蓄電池容量の推移を示す図である。
【
図9】蓄電池の負荷変動補償の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の電力管理システム1の構成を示すブロック図である。本発明は、蓄電池によるピーク電力削減効果を向上させる電力管理システムとして、与えられた蓄電池容量に対してピーク電力削減量が最大となる補償帯域の上下限周波数を、高速、かつ最適に決定する機能(以下、補償帯域決定機能と呼ぶ)を備えている。上下限周波数は、上記補償帯域の上限(高域側)の周波数と下限(低域側)の周波数とを表し、以下、高域・低域遮断周波数と称することもある。
【0017】
図1において、電力管理システム1は、システム演算部10と、過去実績データDB(データベース)11と、リアルタイムコントローラ12と、定置用蓄電池部13とからなる。システム演算部10は、気象情報取得部20と気象類似日負荷電力データ取得部21と蓄電池補償帯域決定部22とを有する。リアルタイムコントローラ12は、決定補償帯域格納部30と、蓄電池出力指令値計算部31とを有する。
【0018】
また、上記気象情報取得部20と、気象類似日負荷電力データ取得部21と、過去実績データDB11とで負荷電力取得部40として構成することもできる。また、蓄電池補償帯域決定部22は、補償帯域決定部(補償帯域決定機能)41として構成することもできる。また、決定補償帯域格納部30と、蓄電池出力指令値計算部31と、定置用蓄電池部13とで、蓄電池制御部42として構成することもできる。
【0019】
負荷電力取得部40は、制御対象日の前日に翌日(制御対象日)の気象情報と類似した気象情報に対応付けられて記録されている負荷電力の過去実績データ(平日、土日・祝日に対応)を取得する(1日1回)。より具体的には、過去実績データDB11は、外部に設けられたシステムから、負荷電力の履歴と、太陽光発電装置によって発電された電力を表すPV発電電力と、天気、温度、湿度等を含む気象情報とを対応づけて記憶する。気象情報取得部20は、インターネット2を介して天気、温度、湿度等を含む気象情報を外部に接続された気象情報提供サーバ等から取得する。気象類似日負荷電力データ取得部21は、気象情報取得部20によって取得した気象情報に類似する気象情報が対応づけられた負荷電力のデータやPV発電電力のデータを、過去実績データとして過去実績データDB11から取得する。気象情報が類似するか否かの判定は、例えば、天気(天候)が同じであり、お互いの温度と湿度とが、それぞれ所定の範囲内にあれば類似すると判定し、天気が異なったり、天気が同じであっても、お互いの温度と湿度との少なくともいずれかが、所定の範囲外である場合には、類似しないと判定する。
【0020】
補償帯域決定部41(蓄電池補償帯域決定部22)は、負荷電力取得部40が取得した過去実績データを用いて、高域・低域遮断周波数を決定する。すなわち、蓄電池補償帯域決定部22は、時刻の経過と負荷電力との関係を表す負荷電力プロファイルのうち、ある時刻の範囲における負荷電力プロファイルから、あるいは、過去の類似する電力プロファイルや、シミュレーション結果などを解析することで、その負荷電力プロファイルに対応する最適な蓄電池の補償周波数帯域(低域遮断周波数、及び高域遮断周波数)を求める。高域遮断周波数については、短周期の速い変動を補償してもピーク電力削減効果が小さいことから固定値として、以下の手順で低域遮断周波数を決定する。
【0021】
補償帯域決定部41は、負荷電力を周波数解析することで補償帯域を特定するため、負荷電力の過去実績データから、数式(1)の離散フーリエ変換の公式を用いて、負荷電力の各周波数f
kにおける実数部R(f
k)、虚数部I(f
k)を計算し、数式(2)から、負荷電力の各周波数の振幅|X(f
k)|[kW]を求める。負荷電力のサンプリング間隔Δt、サンプル数Nから、基本周波数f
1は、数式(3)から求められ、ナイキスト周波数f
sは、数式(4)から求められる。kは、サンプル数Nのうちいずれであるかを表す値である。tは、時間を表す。x(t)は、負荷電力を表す。X(f
k)は、周波数f
kにおける負荷電力を表す。
【0026】
図2は、本実施形態において、低域遮断周波数の決定方法を説明するための概念図である。この図において、縦軸は振幅、横軸は時間を表す。補償帯域決定部41は、離散フーリエ変換で求めた振幅|X(f
k)|と周波数f
kとを用いて、数式(5)より正弦波の半周期分を時間積分したもの(=面積;
図2参照)を、数式(6)のように、高域遮断周波数まで積算することで、低域遮断周波数と負荷変動補償に必要な蓄電池容量との関係を求める。そして、実効蓄電池容量(電池残量(SOC)の使用範囲として定める下限値から上限値までに対応する容量)で最も補償帯域を広くとれる低域遮断周波数を2点の線形補間により決定する。例えば、補償帯域決定部41は、上述のような補償帯域を決定する処理を1日1回実行する。
【0029】
次に、蓄電池制御部42が行う蓄電池制御処理について説明する。蓄電池制御部42は、例えば、蓄電池制御処理を制御周期1秒として実行する。蓄電池制御部42は、所定の蓄電池制御のアルゴリズムに従って、リアルタイム制御で、様々な周波数成分を持つ負荷電力の変動(買電電力と蓄電池出力との合計)に基づいて負荷電力の推定を行い、補償帯域決定部41によって決定された補償周波数帯域の変動を抽出して蓄電池出力指令を解き、蓄電池出力指令値を出力する(制御周期1秒)。
【0030】
より具体的には、決定補償帯域格納部30は、蓄電池補償帯域決定部22で決定した高域・低域遮断周波数を決定される毎に格納する。蓄電池出力指令値計算部31は、決定補償帯域格納部30からの高域・低域遮断周波数と、買電電力、及び蓄電池出力の合計とに基づいて、負荷電力を推定し、該推定した負荷電力に基づいて前記蓄電池の出力を制御するための蓄電池出力指令値を算出する。定置用蓄電池部13は、上記蓄電池出力指令値計算部31からの蓄電池出力指令値に従って、自身の内部に設けられた蓄電池の出力を制御する。
【0031】
図3は、本実施形態による、蓄電池制御(蓄電池出力指令値計算部31の構成)を説明するブロック図である。蓄電池出力指令値計算部31は、加算器50と、バンドパスフィルタ51と、リミッタ52とから構成される。加算器50は、買電電力と蓄電池出力とを加算する。バンドパスフィルタ51は、低域遮断周波数と高域遮断周波数に従って、加算器50から供給される買電電力と蓄電池出力との合計値をフィルタリングする。リミッタ52は、バンドパスフィルタ51から供給される出力信号の振幅を制限し、蓄電池出力指令値として出力する。すなわち、蓄電池出力指令値計算部31では、様々な周波数成分を持つ負荷電力の変動(加算器50で加算した買電電力と蓄電池出力との合計)を、
図3に示すバンドパスフィルタ51に通すことで、補償帯域の変動を抽出して蓄電池出力指令を解き、蓄電池出力指令値として出力する。この制御により、
図9に示すような負荷変動補償を実現する。
【0032】
なお、太陽光発電は、発電電力等を任意に制御できない電源であるので、本実施形態による制御では負の値をもつ負荷として取り扱い、
図3に示す制御系に組み込まない。
【0033】
次に、上述した実施形態による電力管理システム1の効果について説明する。
電力管理システム1の電源設備は、太陽光発電(定格出力14.3kW)と鉛蓄電池(定格出力90kW、定格容量163kWh)で構成されており、一般負荷、防災負荷、重要負荷(合計400kW程度)が接続されている。鉛蓄電池の定格蓄電池容量は、163kWhだが、蓄電池の長寿命化を考慮して電池残量(SOC)の使用範囲を30%から95%と設定しており、実効蓄電池容量は、106kWhである。
【0034】
(負荷電力取得)
図4は、冬期の代表的な負荷電力プロファイルの一例を示す図である。この図において、縦軸は電力(負荷電力)、横軸は時刻を表しており、この図に示すような負荷電力(業務時間帯8時〜17時を対象)を気象類似日の実績データとして過去実績データDB11から取得したと仮定する。
【0035】
(補償帯域決定)
高域遮断周波数については100mHzに予め決定して固定値として用い、低域遮断周波数を決定した。
図5は、
図4の負荷電力を離散フーリエ変換した結果を示す図である。この図において、縦軸は負荷電力の振幅を表し、横軸は負荷電力の周波数を表す。負荷電力のサンプリング間隔Δtは1秒、サンプル数Nは2の基数になるよう、8時から17時6分7秒までを用いた。このため、サンプル数N、サンプリング間隔Δtから基本周波数f
1は、数式(3)から0.031mHz、ナイキスト周波数f
sは、数式(4)から500mHzとして得られる。
図5では、0.031mHz刻みでナイキスト周波数500mHzまでの各周波数の振幅が観測されている。
【0036】
離散フーリエ変換で求めた振幅|X(f
k)|と周波数f
kを用いて、数式(6)に従って、高域遮断周波数100mHz(数式(6)中のkは3276に相当)まで積算することで、低域遮断周波数と負荷変動補償に必要な蓄電池容量との関係を求める。
【0037】
図6は、本実施形態において、低域遮断周波数と負荷変動補償に必要な蓄電池容量との関係の一例を示す図である。実効蓄電池容量が106kWhである場合、最も補償帯域を広くとれる低域遮断周波数は、この図を参照すると、0.061mHzから0.092mHzの間にあるので、この2点の線形補間を行うことで低域遮断周波数を0.066mHzに決定する。これらの計算は、一般的な表計算ソフトウェア等を用いて簡単に計算できるレベルのため、短時間で済む。
【0038】
(蓄電池制御結果)
補償帯域決定で決定した高域・低域遮断周波数がピーク電力削減量を最大化する補償帯域であることを確認するために、MATLAB/Simulink(マトラボ(マットラブ)/シミュリンク)を用いてシミュレーションを行う。実機に実装した制御系と同一のモデルを、MATLAB/Simulink上に構築して負荷電力に対する蓄電池出力を模擬した。本実施形態では、シミュレーション結果を真値とみなす。また、シミュレーションには、
図4に示した過去の実績データをリアルタイムの負荷電力として用いる。
【0039】
図7は、本実施形態において、シミュレーションによるピーク電力削減量の算出結果を示す図であり、
図7(A)は、瞬時電力での負荷変動補償結果を表し、
図7(B)は、30分平均値での負荷変動補償結果を表している。
図7(A)、
図7(B)において、それぞれ、縦軸は電力、横軸は時刻を表す。また、
図7(A)、(B)は、低域遮断周波数を0.066mHzとし、高域遮断周波数を100mHzとしたときのシミュレーション結果を示している。
【0040】
ピーク電力は、瞬時電力ではなく、30分間の平均値より算出されるため、
図7(B)から、ピーク電力削減量は、35.2kWと推定される。また、必要となる蓄電池容量は、
図7(A)に示す蓄電池出力の時間積分値の最大値であるので79.1kWhとして得ることができ、これは実効蓄電池容量106kWを下回っている。
【0041】
図8は、同様のシミュレーションを用いて、低域遮断周波数を0.001mHz刻みで試行錯誤的に変化させたときのピーク電力削減量と蓄電池容量の推移を示す図である。この図において、縦軸はピーク電力削減量を表し、横軸は低域遮断周波数を表している。また、この図においては、高域遮断周波数を100mHzに固定した場合について図示されている。0.01mHzから10mHzまで変化させたときのシミュレーション時間は、約6時間であり、試行錯誤的であるため時間がかかる。
図8に示すように、実効蓄電池容量は、106kWhなので、低域遮断周波数が0.048mHzのとき、ピーク電力削減量は、最大で41.1kWと計算される。0.066mHzのときのピーク電力削減量と比べると、5.9kWしか誤差が生じておらず、本実施形態による電力管理システム1によって十分な精度で、高速に低域遮断周波数(補償帯域)を取得することができるといえる。このように、本実施形態の電力管理システム1によれば、日々異なる負荷電力に応じて実効蓄電池容量で、最大限のピーク電力削減量が得られる運用が可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 電力管理システム
2 インターネット
10 システム演算部
11 過去実績データDB
12 リアルタイムコントローラ
13 定置用蓄電池部
20 気象情報取得部
21 気象類似日負荷電力データ取得部
22 蓄電池補償帯域決定部
30 決定補償帯域格納部
31 蓄電池出力指令値計算部
40 負荷電力取得部
41 補償帯域決定部
42 蓄電池制御部