特許第6032487号(P6032487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032487
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】溶存硫化物の除去装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/74 20060101AFI20161121BHJP
   C01B 17/06 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C02F1/74 C
   C01B17/06 A
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-58995(P2013-58995)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2013-223860(P2013-223860A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-65529(P2012-65529)
(32)【優先日】2012年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】隅倉 光博
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】岡村 和夫
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−031228(JP,A)
【文献】 特公昭47−041836(JP,B1)
【文献】 特開2010−269248(JP,A)
【文献】 特開昭61−259754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70−1/78
C01B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物が溶存した原水から溶存硫化物を除去するための装置であって、
前記原水を一時的に貯留する反応槽と、
活性炭と、
前記反応槽に貯留した前記原水と酸素を含む気体との間で前記活性炭を繰り返し往復循環させる活性炭進退機構とを備え
前記活性炭進退機構が、軸線周りに回転可能に軸支された回転軸部と、
前記活性炭を保持して前記回転軸部に着脱可能に支持される活性炭保持手段と、
前記回転軸部を軸線周りに回転させるとともに前記活性炭保持手段及び前記活性炭を前記原水と前記気体の間で繰り返し往復循環させるための回転駆動手段とを備え、
前記活性炭保持手段が、前記原水の水流方向に対して直交する方向に回転可能に構成され、
前記活性炭を触媒として作用させ、前記原水中の溶存硫化物を酸素によって酸化させて、硫黄に転換することにより、前記原水中の溶存硫化物を除去することを特徴とする溶存硫化物の除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に溶存している硫化物を除去するための溶存硫化物の除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水に、硫化水素(HS)などの分子態硫化物、硫化水素イオン(HS)や硫化物イオン(S2−)などのイオン態硫化物が溶存していると、硫化水素として揮散し、悪臭の発生、コンクリート腐食、金属腐食などを招くおそれがある。このため、食品加工工場、下水処理場、し尿処理場などでは、排水などからこの種の溶存硫化物を除去する対策や揮散した硫化水素を気相から除去する対策を講じるようにしている。
【0003】
ここで、水に溶存している硫化物は、酸性域で分子態硫化物として、アルカリ域でイオン態硫化物として存在する比率が高くなる。このため、従来、排水などの処理原水(処理対象の原水)から溶存硫化物を除去する際には、塩酸などの酸を用い、原水を酸性化して硫化物を硫化水素などの分子態硫化物とし、この酸性域にpH調整した原水をエアレーションして溶存硫化物を強制的に揮散させ、気化した硫化物、すなわち硫化水素を特殊な活性炭で吸着除去したり、脱硫剤で捕捉除去して、処理原水から溶存硫化物を除去する方法が多用されている。
【0004】
一方、揮散した硫化水素を気相から除去する方法として、活性炭で吸着除去する方法や、脱硫剤で捕捉除去する方法の他に、活性炭を触媒として用いる方法が特許文献1に開示されている。この特許文献1の方法では、洗浄塔内の上部に設けたスプレーからアルカリ水溶液を噴出させつつ硫化水素を含む悪臭ガスを洗浄塔内に流通させ、アルカリ水溶液に硫化水素を吸収させる。そして、硫化水素を吸収して溶存硫化物を含むアルカリ水溶液に活性炭を添加してエアレーションし、活性炭による触媒作用を利用して空気酸化させることにより溶存硫化物を硫黄(単体硫黄、コロイド状の硫黄)に転換する。このように活性炭の触媒作用によって溶存硫化物を再度硫化水素に転換することのない化学的に安定な硫黄まで酸化させることができるため、処理水をそのまま放流することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−4167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の処理原水から溶存硫化物を除去する方法では、エアレーションを行って気相に硫化水素を揮散させるため、処理原水の量に対し空気の量が非常に多く必要になる。これにより、処理量に対しエアレーションタンクや脱硫装置を組み合わせた装置全体(溶存硫化物の除去装置)の規模が大きくなるという問題があった。
【0007】
また、エアレーションによる処理原水からの溶存硫化物の揮散(揮散工程)と、気相からの硫化水素(気化した硫化物)の除去(除去工程)の二段の工程を要することになるため、処理効率が悪く、直接的に処理原水から溶存硫化物を除去する手法が強く望まれていた。なお、処理原水に活性炭を添加して直接的に溶存硫化物を吸着除去することも考えられるが、活性炭の吸着量に限界があり、溶存硫化物濃度が高濃度であるほど処理効率ひいては経済性の面で問題が生じるため、この手法は実用的でない。
【0008】
一方、特許文献1に開示された方法を利用し、活性炭の触媒作用で溶存硫化物を硫黄に酸化させて、直接的に処理原水から溶存硫化物を除去することも考えられる。しかしながら、この方法においても、処理原水に添加した活性炭をエアレーションによって撹拌しながら溶存硫化物の酸化反応を促進させるようにするため、やはり処理原水の量に対し空気の量が非常に多く必要になり、装置全体の規模が大きくなってしまう。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、直接的且つ効率的に排水などの原水から溶存硫化物を除去することが可能な溶存硫化物の除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の溶存硫化物の除去装置は、硫化物が溶存した原水から溶存硫化物を除去するための装置であって、前記原水を一時的に貯留する反応槽と、活性炭と、前記反応槽に貯留した前記原水と酸素を含む気体との間で前記活性炭を繰り返し往復循環させる活性炭進退機構とを備え、前記活性炭進退機構が、軸線周りに回転可能に軸支された回転軸部と、前記活性炭を保持して前記回転軸部に着脱可能に支持される活性炭保持手段と、前記回転軸部を軸線周りに回転させるとともに前記活性炭保持手段及び前記活性炭を前記原水と前記気体の間で繰り返し往復循環させるための回転駆動手段とを備え、前記活性炭保持手段が、前記原水の水流方向に対して直交する方向に回転可能に構成され、前記活性炭を触媒として作用させ、前記原水中の溶存硫化物を酸素によって酸化させて、硫黄に転換することにより、前記原水中の溶存硫化物を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の溶存硫化物の除去装置によれば、活性炭進退機構によって、活性炭を原水(液相)と空気などの酸素を含む気体(気相)との間で繰り返し往復循環させることで、活性炭と原水中の溶存硫化物と気体中の酸素とを連続的に接触させることができ、活性炭を触媒として作用させ、原水中の溶存硫化物を酸素によって酸化させ、硫黄に転換することが可能になる。
【0017】
これにより、活性炭を原水と酸素を含む気体との間で繰り返し往復循環させるだけで、溶存硫化物濃度が低下した処理水を得ることができる。
【0018】
また、活性炭を原水と酸素を含む気体との間で繰り返し往復循環させ、活性炭が間欠的に気相に配されることで、活性炭の間(粒状の活性炭同士の間隙)から原水が排出され、これとともに活性炭の間で生成した硫黄を排除することが可能になる。これにより、酸素や溶存硫化物と接触する活性炭の接触面積を自動的に回復させることができ、また、自動的に新たな酸素を含む気体を含んだ状態で活性炭を原水中に浸漬させることができる。すなわち、自動的に溶存硫化物の除去性能の回復を図りつつ連続的に溶存硫化物の除去処理を行なうことが可能になる。
【0019】
そして、このように活性炭を原水と酸素を含む気体との間で繰り返し往復循環させ、エアレーションを行なうことなく、溶存硫化物を除去できるため、装置(処理設備)全体の構成を非常にコンパクトにすることができる。また、装置をコンパクトにできることで、装置を可搬式にすることも可能になり、この場合には、硫化物含有水(原水)が発生するオンサイトで処理を行なうことが可能になる。
【0020】
さらに、活性炭を原水と酸素を含む気体との間で繰り返し往復循環させ、活性炭の触媒作用によって原水中の溶存硫化物を硫黄に転換して除去するので、硫化水素が気化することがなく、硫化水素の気散を確実に防止しつつ溶存硫化物の除去を行なうことが可能になる。また、原水中の溶存硫化物を硫黄として回収、除去できるため、処理に伴う廃棄物コストを大幅に低減することも可能になる。
【0021】
さらに、連続して除去処理を行うと、生成した硫黄によって活性炭の触媒としての性能が徐々に低下することになるが、活性炭の吸着性能によって溶存硫化物を除去処理する場合と比較し、硫黄を除去するだけで容易に活性炭の性能を回復、再生することができる。
【0022】
よって、本発明の溶存硫化物の除去装置によれば、従来と比較し、より直接的且つ効率的に排水などの原水から溶存硫化物を除去することが可能になる。
【0023】
また、本発明の溶存硫化物の除去装置においては、活性炭進退機構が、軸線周りに回転する回転軸部と、この回転軸部に着脱可能に取り付けて支持される活性炭保持手段とを備えて構成されているため、回転軸部を回転させるだけで、活性炭保持手段に保持された活性炭を原水と酸素を含む気体との間で繰り返し往復循環させることができる。これにより、より効率的に溶存硫化物の除去処理を行なうことが可能になる。また、活性炭保持手段が着脱可能に取り付けられているため、活性炭の性能が低下した場合には、活性炭保持手段を取り外して交換するだけで、容易に処理性能を回復させることができ、この点からも効率的に溶存硫化物の除去を行なうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第一実施形態に係る溶存硫化物の除去装置(及び溶存硫化物の除去方法)を示す図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る溶存硫化物の除去装置の変更例を示す図である。
図3】本発明の第二実施形態に係る溶存硫化物の除去装置(及び溶存硫化物の除去方法)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第一実施形態)
以下、図1を参照し、本発明の第一実施形態に係る溶存硫化物の除去装置及び溶存硫化物の除去方法について説明する。本実施形態は、活性炭の触媒作用によって硫化物が溶存する排水などの原水から溶存硫化物を除去するための溶存硫化物の除去装置及び溶存硫化物の除去方法に関するものである。
【0026】
本実施形態の溶存硫化物の除去装置Aは、図1に示すように、排水などの処理原水(処理対象の原水)W1を一時的に貯留する反応槽1と、活性炭2と、活性炭2を反応槽1内に貯留された処理原水W1と空気(酸素を含む気体)Rとの間で繰り返し往復循環させる活性炭進退機構3とを備えて構成されて構成されている。
【0027】
本実施形態の反応槽1は、上部が開口した容器であり、側部に、処理原水W1を内部に導入するための原水供給口1aと、処理原水W1を処理水W2として外部に排出するための処理水排出口1bとを備えて形成されている。また、原水供給口1aは、一側部に設けられるとともに給水管4が接続されている。処理水排出口1bは、原水供給口1aと反対側の他側部に設けられている。そして、本実施形態では、送水ポンプ5の駆動によって給水管4から原水供給口1aを通じて反応槽1の内部に処理原水W1が供給され、処理原水W1を供給するとともに処理水排出口1bから順次処理水(処理後の原水)W2をオーバーフローして排出するように構成されている。
【0028】
本実施形態の活性炭進退機構3は、反応槽1内の処理原水W1の液面に沿って軸線O1方向を水平方向に配して延設され、軸線O1周りに回転可能に軸支された回転軸部6と、活性炭2を保持して回転軸部6に着脱可能に支持される活性炭保持手段7と、回転軸部6を軸線O1周りに回転させるとともに活性炭保持手段7及び活性炭2(活性炭カートリッジ8)を処理原水W1と空気Rの間で繰り返し往復循環させるための電導モータなどの回転駆動手段9とを備えている。また、本実施形態の活性炭保持手段7は、処理原水W1の水流方向に対して直交する方向に回転可能に構成されている。
【0029】
活性炭保持手段7は、処理原水W1中に浸漬させるとともに活性炭2を処理原水W1と接触させることができるように構成されている。本実施形態の溶存硫化物の除去装置Aでは、例えば、活性炭保持手段7を筒状のカラムとし、このカラムの内部に粒状の活性炭2を充填し、さらにカラムの両端部の開口に網目状の蓋材を取り付けて構成したり、活性炭保持手段7を外面から内面に貫通する複数の貫通孔を有する筒状のカラムとし、このカラムの内部に活性炭2を充填して構成したり、活性炭保持手段7を網目状の部材とし、この網目状部材で活性炭2を内包して構成されている。
【0030】
そして、この活性炭保持手段7は、取付部材10を用い、処理原水W1の液面近くに配置された回転軸部6と互いの軸線O1、O2を平行にした状態で、この回転軸部6に着脱可能に取り付けて支持されている。また、本実施形態では、活性炭保持手段7の軸線O2方向一端側と他端側に取付部材10がそれぞれ取り付けられ、活性炭2と活性炭保持手段7からなる活性炭カートリッジ8が2つの取付部材10で回転軸部6に取り付けて支持されている。さらに、本実施形態では、活性炭カートリッジ8が2つ設けられており、取付部材10によって、これら2つの活性炭カートリッジ8を回転軸部6を間にして対称位置に配置して取り付けられている。なお、勿論、活性炭2とこれを保持した活性炭保持手段7からなる活性炭カートリッジ8を1つ備えて溶存硫化物の除去装置Aを構成しても、2つ以上備えて構成してもよい。
【0031】
次に、上記のように構成した本実施形態の溶存硫化物の除去装置Aを用いて、溶存硫化物を含んだ処理原水W1から溶存硫化物を除去する際には(本実施形態の溶存硫化物の除去方法では)、まず、送水ポンプ5を駆動して反応槽1に処理原水W1を供給する。また、これとともに回転駆動手段9を駆動して回転軸部6を軸線O1周りの一方向に回転させる。
【0032】
そして、回転軸部6を回転させると、一方の活性炭カートリッジ8(活性炭2及び活性炭保持手段7)が反応槽1の処理原水W1中に浸漬され、この一方の活性炭カートリッジ8と回転軸部6を挟んで対称位置にある他方の活性炭カートリッジ8(活性炭2及び活性炭保持手段7)が空気R中に配され、回転軸部6の回転によって、これら一方の活性炭カートリッジ8と他方の活性炭カートリッジ8が交互に且つ連続的に処理原水W1と空気Rの間を繰り返し往復循環する。
【0033】
また、このとき、活性炭カートリッジ8が処理原水W1中に浸漬すると、カラムなどの孔から処理原水W1が入り込み、活性炭2と接触する。また、活性炭カートリッジ8が処理原水W1中から空気R中に出されると、入り込んだ処理原水W1が排出され、活性炭2が空気Rと接触する。さらに、活性炭カートリッジ8が空気R中から処理原水W1中に入る際には、活性炭2の間(粒状の活性炭2同士の間隙)に空気Rを巻き込んだ状態で浸漬され、徐々に処理原水W1が活性炭2の間に入り込んで空気Rが排出されてゆく。
【0034】
そして、このように活性炭カートリッジ8とともに活性炭2が処理原水W1と空気Rの間を繰り返し往復循環すると、処理原水W1中の溶存硫化物が活性炭2に吸着するのではなく、活性炭2が触媒として作用し、空気R中の酸素によって溶存硫化物が酸化される。
【0035】
これにより、回転軸部6を軸線O1周りに回転させ、活性炭2を処理原水W1と空気Rの間で繰り返し往復循環させるだけで、空気R中の酸素と活性炭2により、分子態硫化物(HS)が、酸化反応で硫化水素イオン(HS)、硫化物イオン(S2−)のイオン態硫化物に転換され、さらにイオン態硫化物(HS、S2−)が、酸化反応によって化学的に安定な単体及び/又はコロイド状の硫黄、硫酸イオン、チオ硫酸イオンに転換されてゆく。
【0036】
よって、溶存硫化物が除去され、溶存硫化物濃度が非常に低くなった処理水W2が、反応槽1の処理水排出口1bから排出されることになる。なお、処理水W2を適宜ろ過するなどして、溶存硫化物を除去した清浄な処理水W2を得ることができる。また、反応槽1の底部に沈降して溜まった硫黄は適宜回収すればよい。
【0037】
ここで、活性炭2を処理原水W1中に浸漬させたままで溶存硫化物の除去処理を行う場合には、硫黄の生成に伴って活性炭2の溶存硫化物や空気Rとの接触面積が徐々に減少するなどし、溶存硫化物の除去性能が徐々に低下する可能性がある。
【0038】
これに対し、本実施形態の溶存硫化物の除去装置A及び溶存硫化物の除去方法では、活性炭2が間欠的に空気R中に配される際に、活性炭2の間から処理原水W1が排出され、これとともに活性炭2の間に溜まった硫黄が排出される。これにより、活性炭2の接触面積が自動的に回復し、また、自動的にフレッシュな空気Rを含んだ状態で活性炭2が処理原水W1中に浸漬され、自動的に溶存硫化物の除去性能の回復が図られることになる。
【0039】
また、本実施形態では、活性炭2が着脱可能に活性炭進退機構3に取り付けられているため、活性炭2による除去性能が低下した場合には、活性炭カートリッジ8の交換が容易に行なえ、効率的に溶存硫化物の除去が行える。
【0040】
したがって、本実施形態の溶存硫化物の除去装置A及び溶存硫化物の除去方法においては、活性炭進退機構3によって、活性炭2を原水W1(液相)と空気などの酸素を含む気体R(気相)との間で繰り返し往復循環させることで、活性炭2と原水W1中の溶存硫化物と気体R中の酸素とを連続的に接触させることができ、活性炭2を触媒として作用させ、原水W1中の溶存硫化物を酸素によって酸化させ、硫黄に転換することが可能になる。
【0041】
これにより、活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させるだけで、溶存硫化物濃度が低下した処理水W2を得ることができる。
【0042】
また、活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させ、活性炭2が間欠的に気相に配されることで、活性炭2の間から原水W1が排出され、これとともに活性炭2の間で生成した硫黄を排除することが可能になる。これにより、酸素や溶存硫化物と接触する活性炭2の接触面積を自動的に回復させることができ、また、自動的に新たな酸素を含む気体Rを含んだ状態で活性炭2を原水W1中に浸漬させることができる。すなわち、自動的に溶存硫化物の除去性能の回復を図りつつ連続的に溶存硫化物の除去処理を行なうことが可能になる。
【0043】
そして、このように活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させ、エアレーションを行なうことなく、溶存硫化物を除去できるため、装置(処理設備)A全体の構成を非常にコンパクトにすることができる。また、装置Aをコンパクトにできることで、装置Aを可搬式にすることも可能になり、この場合には、硫化物含有水(原水W1)が発生するオンサイトで処理を行なうことが可能になる。
【0044】
さらに、活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させ、活性炭2の触媒作用によって原水W1中の溶存硫化物を硫黄に転換して除去するので、硫化水素が気化することがなく、硫化水素の気散を確実に防止しつつ溶存硫化物の除去を行なうことが可能になる。また、原水W1中の溶存硫化物を硫黄として回収、除去できるため、処理に伴う廃棄物コストを大幅に低減することも可能になる。
【0045】
さらに、連続して除去処理を行うと、生成した硫黄によって活性炭2の触媒としての性能が徐々に低下することになるが、活性炭2の吸着性能によって溶存硫化物を除去処理する場合と比較し、硫黄を除去するだけで容易に活性炭2の性能を回復、再生することができる。
【0046】
よって、本実施形態の溶存硫化物の除去装置A及び溶存硫化物の除去方法によれば、従来と比較し、より直接的且つ効率的に排水などの原水W1から溶存硫化物を除去することが可能になる。
【0047】
また、本実施形態の溶存硫化物の除去装置Aにおいては、活性炭進退機構3が、軸線O1周りに回転する回転軸部6と、この回転軸部6に着脱可能に取り付けて支持される活性炭保持手段7とを備えて構成されているため、回転軸部6を回転させるだけで、活性炭保持手段7に保持された活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させることができる。これにより、より効率的に溶存硫化物の除去処理を行なうことが可能になる。また、活性炭保持手段7が着脱可能に取り付けられているため、活性炭2の性能が低下した場合には、活性炭保持手段7を取り外して交換するだけで、容易に処理性能を回復させることができ、この点からも効率的に溶存硫化物の除去を行なうことが可能になる。
【0048】
(第二実施形態)
以下、図3を参照し、本発明の第二実施形態に係る溶存硫化物の除去装置及び溶存硫化物の除去方法について説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態と活性炭進退機構および反応槽の構成が異なるのみであり、その他の部分については第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0049】
本実施形態の溶存硫化物の除去装置Bは、図3に示すように、排水などの処理原水(処理対象の原水)W1を一時的に貯留する反応槽11と、活性炭2と、活性炭2を反応槽11内に貯留された処理原水W1と空気(酸素を含む気体)Rとの間で繰り返し往復循環させる活性炭進退機構13とを備えて構成されて構成されている。本実施形態では、反応槽11の内部に活性炭進退機構13が4つ配設されている。
【0050】
本実施形態の反応槽11は、上部が開口した容器であり、側部に、処理原水W1を内部に導入するための原水供給口11aと、処理原水W1を処理水W2として外部に排出するための処理水排出口11bとを備えて形成されている。また、原水供給口11aは、一側部に設けられるとともに給水管4が接続されている。処理水排出口11bは、原水供給口11aと反対側の他側部に設けられている。そして、本実施形態では、反応槽11の底面が一側部から他側部に向かって下り勾配となるように形成されている。つまり、反応槽11は、給水管4から原水供給口11aを通じて反応槽11の内部に処理原水W1が供給され、重力を利用して処理原水W1が一側部から他側部へ向かって自然流下し、処理水排出口11bから順次処理水(処理後の原水)W2をオーバーフローして排出するように構成されている。
【0051】
本実施形態の活性炭進退機構13は、反応槽11内の処理原水W1の液面に沿って軸線O3方向を水平方向に配して設けられ、軸線O3周りに回転可能に軸支された回転軸部16と、活性炭2を保持して回転軸部16に対して着脱可能に設けられた活性炭保持手段17と、を備えている。また、本実施形態では、活性炭保持手段17が、処理原水W1の水流方向と平行する方向(図3の矢印方向)に回転できるように構成されている。
【0052】
活性炭保持手段17は、処理原水W1中に浸漬させるとともに活性炭2を処理原水W1と接触させることができるように構成されている。また、本実施形態の活性炭保持手段17は、一側部から流通してきた処理原水W1の水流を利用して軸線O3周りに回転できるよう、言い換えれば、水車のように回転可能に構成されている。
【0053】
そして、活性炭保持手段17及び活性炭2からなる活性炭カートリッジ18は、回転軸部16から放射状に略等間隔に延設された複数(本実施形態では8本)の取付部材20の先端部にそれぞれ着脱可能に取り付けられている。なお、本実施形態では、一つの活性炭進退機構13に活性炭カートリッジ18が8つ設けられているが、勿論、活性炭進退機構13を構成する活性炭カートリッジ18の数はこれに拘らない。
【0054】
そして、本実施形態では、上述のように構成された活性炭進退機構13が処理原水W1の水流方向に沿って略等間隔に4つ配設されている。なお、本実施形態では、一つの除去装置Bに活性炭進退機構13が4つ設けられているが、勿論、活性炭進退機構13の数はこれに拘らない。
【0055】
次に、上記のように構成した本実施形態の溶存硫化物の除去装置Bを用いて、溶存硫化物を含んだ処理原水W1から溶存硫化物を除去する際には(本実施形態の溶存硫化物の除去方法では)、まず、給水管4を介して反応槽11に処理原水W1を供給する。すると、処理原水W1は、反応槽11の底面が下り勾配となっているため、一側部から他側部へ向かって自然流下する。すると、処理原水W1が活性炭進退機構13の下端付近に位置する活性炭保持手段17に接触し、処理原水W1の水流の勢いを利用して活性炭保持手段17が回転軸部16(軸線O3)を中心に水車のように回転する。
【0056】
そして、回転軸部16を回転させると、下端付近に位置する一部の活性炭カートリッジ18(活性炭2及び活性炭保持手段17)が反応槽11の処理原水W1中に浸漬され、それ以外の活性炭カートリッジ18が空気R中に配され、回転軸部16の回転によって、これら複数の活性炭カートリッジ18が水車のように順番に且つ連続的に処理原水W1と空気Rの間を繰り返し往復循環する。また、処理原水W1は、反応槽1内を自然流下する際に、複数の活性炭進退機構13の各活性炭保持手段17(活性炭2)に接触しながら流れ、処理水排出口11bから処理水W2として排出されることとなる。
【0057】
その結果、第一実施形態と同様に、活性炭カートリッジ18とともに活性炭2が処理原水W1と空気Rの間を繰り返し往復循環すると、処理原水W1中の溶存硫化物が活性炭2に吸着するのではなく、活性炭2が触媒として作用し、空気R中の酸素によって溶存硫化物が酸化される。つまり、分子態硫化物(HS)が、酸化反応で硫化水素イオン(HS)、硫化物イオン(S2−)のイオン態硫化物に転換され、さらにイオン態硫化物(HS、S2−)が、酸化反応によって化学的に安定な単体及び/又はコロイド状の硫黄、硫酸イオン、チオ硫酸イオンに転換されてゆく。
【0058】
よって、処理原水W1は、4つの活性炭進退機構13を順次通過することにより、溶存硫化物が除去される。その結果、溶存硫化物濃度が非常に低くなった処理水W2が、反応槽11の処理水排出口11bから排出されることになる。なお、処理水W2を適宜ろ過するなどして、溶存硫化物を除去した清浄な処理水W2を得ることができる。また、反応槽11の底部に沈降して溜まった硫黄は適宜回収すればよい。
【0059】
本実施形態の溶存硫化物の除去装置B及び溶存硫化物の除去方法では、第一実施形態と同様の作用効果が得られる。つまり、本実施形態の溶存硫化物の除去装置B及び溶存硫化物の除去方法によれば、従来と比較し、より直接的且つ効率的に排水などの原水W1から溶存硫化物を除去することが可能になる。
【0060】
また、本実施形態の溶存硫化物の除去装置Bにおいては、活性炭進退機構13が、軸線O3周りに回転する回転軸部16と、この回転軸部16に着脱可能に取り付けて支持される活性炭保持手段17とを備えて構成されているため、回転軸部16を回転させるだけで、活性炭保持手段17に保持された活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させることができる。これにより、より効率的に溶存硫化物の除去処理を行なうことが可能になる。また、活性炭保持手段17が着脱可能に取り付けられているため、活性炭2の性能が低下した場合には、活性炭保持手段17を取り外して交換するだけで、容易に処理性能を回復させることができ、この点からも効率的に溶存硫化物の除去を行なうことが可能になる。
【0061】
さらに、本実施形態においては、活性炭保持手段17が、処理原水W1の水流方向と平行する方向に回転できるように構成するとともに、反応槽11の底面が一側部から他側部に向かって下り勾配となるように形成した。したがって、処理原水W1が反応槽11内を自然流下することにより、その水流を利用して活性炭保持手段17を回転させることを可能にした。つまり、電気などを利用せずに水車のように回転軸部16を回転させるように構成したため、より簡易な構成で除去装置Bを実現することができる。
【0062】
以上、本発明に係る溶存硫化物の除去装置及び溶存硫化物の除去方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態では、反応槽1が上部に開口を備えたオープンタイプの反応槽であるものとして説明を行ったが、例えば、図2に示すように、反応槽1を略密閉のクローズタイプの反応槽とし、反応槽1内の気相中に酸素を含む気体Rを供給するようにしても、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。なお、このようにクローズタイプとした場合であっても、処理に必要な気体量は少量であるため、酸素を含む気体Rの供給量は少量で済む。また、酸素を含む気体Rは必ずしも空気でなくてもよい。また、図2は、第一実施形態に対応した図となっているが、第二実施形態についてもクローズタイプの反応槽11を採用することができるのは言うまでもない。
【0064】
また、上記実施形態では、活性炭進退機構3,13が、軸線O1,O3周りに回転する回転軸部6,16と、活性炭2を保持し、回転軸部6,16に着脱可能に取り付けて支持される活性炭保持手段7,17とを備え、回転軸部6,16を回転させることにより、活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させるように説明を行った。これに対し、本発明においては、活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させることができればよく、本実施形態のように回転軸部6,16の回転によって往復循環させることに限定する必要はない。
例えば、第一実施形態において、活性炭2を保持した活性炭保持手段7を上下方向に進退させて、活性炭2を原水W1と酸素を含む気体Rとの間で繰り返し往復循環させるようにしてもよく、この場合においても、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0065】
また、第二実施形態では、処理原水W1の水流を利用して回転軸部16を回転させるように構成したが、回転軸部16を軸線O3周りに回転させる電導モータなどの回転駆動手段を備えてもよい。また、第二実施形態では、送水ポンプ5を設けない場合の説明をしたが、送水ポンプ5を設けてもよい。このように回転駆動手段や送水ポンプを設けた場合は、反応槽11の底面は平坦にしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1,11 反応槽
1a,11a 原水供給口
1b,11b 処理水排出口
2 活性炭
3,13 活性炭進退機構
4 給水管
5 送水ポンプ
6,16 回転軸部
7,17 活性炭保持手段
8,18 活性炭カートリッジ
9 回転駆動手段
10,20 取付部材
A 溶存硫化物の除去装置
O1,O3 回転軸部の軸線
O2 活性炭カートリッジの軸線
R 酸素を含む気体(空気)
W1 処理原水(処理対象の原水)
W2 処理水
図1
図2
図3