特許第6032497号(P6032497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032497
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20161121BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20161121BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   H01M10/0587
   H01M10/0566
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-263049(P2013-263049)
(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公開番号】特開2015-118875(P2015-118875A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100142239
【弁理士】
【氏名又は名称】福富 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】近藤 親平
(72)【発明者】
【氏名】福本 友祐
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−235795(JP,A)
【文献】 特開2013−218898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05− 10/0587
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な正極集電体上に正極活物質層を備える正極シートと、長尺な負極集電体上に負極活物質層を備える負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に介在するセパレータシートとを重ね合わせて捲回した捲回電極体と、
前記捲回電極体を収容した電池ケースと、
前記電池ケースに注入された非水電解液と
を備え、
前記セパレータシートは、該セパレータシートの表面に無機フィラーとバインダとを含むフィラー層を有しており、
ここで前記捲回電極体の捲回軸方向において、前記フィラー層の両側の端部に含まれるバインダは、当該端部を除くフィラー層の中間部に含まれるバインダよりも、前記非水電解液に対して膨潤度が高い、非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関し、詳しくはハイレート充放電に対する耐久性が高められた非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池その他の非水電解液二次電池は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている(例えば特許文献1)。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。この種の非水電解液二次電池の一つの典型的な形態として、長尺状の正極シートと、長尺状の負極シートとを、セパレータシートを介在させた状態で重ね合わせて、これを捲回した捲回電極体を備えた構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−225397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非水電解液二次電池の用途のなかには、ハイレートでの充放電を繰り返す態様で使用されることが想定されるものがある。車両の動力源として用いられる非水電解液二次電池は、このような使用態様が想定される非水電解液二次電池の代表例である。しかし、従来の一般的な非水電解液二次電池は、ローレートでの充放電サイクルに対しては比較的高い耐久性を示すものであっても、ハイレート充放電を繰り返す充放電パターンでは性能低下(電池抵抗の上昇等)を起こしやすいことが知られていた。本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ハイレート充放電に対する耐久性が高められた非水電解液二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、捲回電極体を備えた非水電解液二次電池において、車両動力源用の非水電解液二次電池において想定されるようなハイレートで放電と充電とを連続して繰り返すと、内部抵抗が顕著に上昇する事象がみられることに着目した。そこで、かかるハイレート充放電の繰り返しが非水電解液二次電池に及ぼす影響を詳細に解析した。
【0006】
その結果、ハイレート充放電を繰り返した非水電解液二次電池では、捲回電極体に浸透した非水電解液の塩濃度に場所による偏り(ムラ)が生じること、より詳しくは、ハイレート充放電で使用されることによって非水電解液および塩の一部が捲回電極体の捲回軸方向中央部から両端部(開口端部)に移動し、両端部(開口端部)から電極体の外部に移動することによって、捲回電極体の捲回軸方向中央部の塩濃度が両端部(開口端部)に比べて低くなる(初期状態に比べて塩濃度が大きく低下する)ことを見出した。このように非水電解液の塩濃度の分布に偏りが存在すると、塩濃度が相対的に低い部分では電池反応が相対的に遅くなることから、電池全体としてのハイレート充放電性能が低下する。また、塩濃度が相対的に高い部分に電池反応が集中するため当該部分の劣化が促進される。これらの事象は、いずれもハイレート充放電を繰り返す充放電パターン(ハイレート充放電サイクル)に対する非水電解液二次電池の耐久性を低下させる要因になり得る。
【0007】
本発明は、かかる知見に基づいて、上記非水電解液の塩濃度の分布の偏りを解消または緩和するというアプローチによってハイレート充放電サイクルに対する非水電解液二次電池の耐久性を向上させるものである。
【0008】
即ち、本発明により提供される非水電解液二次電池は、長尺な正極集電体上に正極活物質層を備える正極シートと、長尺な負極集電体上に負極活物質層を備える負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に介在するセパレータシートとを重ね合わせて捲回した捲回電極体と、前記捲回電極体を収容した電池ケースと、前記電池ケースに注入された非水電解液とを備える。前記セパレータシートは、該セパレータシートの表面に無機フィラーとバインダとを含むフィラー層を有する。ここで前記捲回電極体の捲回軸方向において、前記フィラー層の両側の端部に含まれるバインダは、当該端部を除くフィラー層の中間部に含まれるバインダよりも、前記非水電解液に対して膨潤度が高い。
【0009】
この非水電解液二次電池によれば、捲回軸方向において、フィラー層の両側の端部に含まれるバインダが、当該端部を除く中間部に含まれるバインダよりも非水電解液に対して膨潤度が高い。このため、電池ケースに収容され、電池ケースに非水電解液が注入された状態において、フィラー層の両側の端部が中間部よりも厚くなる。このことにより、捲回電極体の捲回軸方向両端部では中央部に比べて隙間が減少し、非水電解液および塩の一部が捲回電極体の捲回軸方向両端部から電極体の外部に排出されることを防止することができる。かかる非水電解液二次電池では、捲回電極体内で塩濃度の分布に偏り(ムラ)が生じ難い。このため、捲回電極体内で塩濃度の分布に偏りが生じることに起因して、内部抵抗が上昇する事象が緩和され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、リチウムイオン二次電池の構造の一例を示す図である。
図2図2は、リチウムイオン二次電池の捲回電極体を示す図である。
図3図3は、図2中のIII−III断面を示す断面図である。
図4図4は、リチウムイオン二次電池について、捲回電極体の正極シートと負極シートとセパレータとの積層構造を示す断面図である。
図5図5は、捲回電極体の積層構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池を図面に基づいて説明する。ここではまず、非水系二次電池の一構造例を説明し、その後、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池(リチウムイオン二次電池)について詳細に説明する。なお、同じ作用を奏する部材、部位には適宜に同じ符号を付している。また、各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。また、ここでは、非水系二次電池の一構造例と、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池(リチウムイオン二次電池)とについて、適宜、共通の図面を基に説明している。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100を示している。このリチウムイオン二次電池100は、図1に示すように、捲回電極体200と電池ケース300とを備えている。また、図2は、捲回電極体200を示す図である。図3は、図2中のIII−III断面を示している。
【0013】
リチウムイオン二次電池100は、図1に示すような扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)300に構成されている。リチウムイオン二次電池100は、図2に示すように、扁平形状の捲回電極体200が、図示しない非水電解液とともに、電池ケース300に収容されている。
【0014】
電池ケース300は、一端(電池100の通常の使用状態における上端部に相当する。)に開口部を有する箱形(すなわち有底直方体状)のケース本体320と、その開口部に取り付けられて該開口部を塞ぐ矩形状プレート部材からなる封口板(蓋体)340とから構成される。電池ケース300の材質は、例えばアルミニウムが例示される。
【0015】
捲回電極体200は、図2に示すように、長尺なシート状正極(正極シート220)と、該正極シート220と同様の長尺シート状負極(負極シート240)とを計二枚の長尺シート状セパレータ(セパレータ262,264)とを備えている。
【0016】
正極シート220は、帯状の正極集電体221と正極活物質層223とを備えている。正極集電体221には、例えば、帯状のアルミニウム箔が用いられている。正極集電体221の幅方向片側の端部に沿って未塗工部222が設定されている。図示例では、正極活物質層223は、正極集電体221に設定された未塗工部222を除いて、正極集電体221の両面に保持されている。正極活物質層223には、正極活物質や導電材やバインダが含まれている。
【0017】
正極活物質には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いられる物質を使用することができる。正極活物質の例を挙げると、LiNiCoMnO(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiMn(マンガン酸リチウム)などのリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。例えば、正極活物質に、導電材としてアセチレンブラック(AB)等の粉末状カーボン材料を混合することができる。また、正極活物質と導電材の他に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のポリマー(バインダや増粘剤として機能し得る。)を添加することができる。
【0018】
負極シート240は、図2に示すように、帯状の負極集電体241と負極活物質層243とを備えている。負極集電体241には、例えば、帯状の銅箔が用いられている。負極集電体241の幅方向片側には、端部に沿って未塗工部242が設定されている。負極活物質層243は、負極集電体241に設定された未塗工部242を除いて、負極集電体241の両面に保持されている。負極活物質層243には、負極活物質や増粘剤やバインダなどが含まれている。
【0019】
負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボンなどの炭素系材料などが挙げられる。そして、かかる負極活物質を、スチレンブタジエンラバー(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のポリマー(バインダや増粘剤として機能し得る。)を添加することができる。
【0020】
≪セパレータシート262、264≫
セパレータシート262、264は、図2および図3に示すように、正極シート220と負極シート240とを隔てる部材である。この例では、セパレータシート262、264は、微小な孔を複数有する所定幅の帯状のシート材で構成されている。セパレータシート262、264の材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系の樹脂を好適に用いることができる。セパレータシート262、264の構造は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。
【0021】
また、セパレータシート262、264は、その表面に無機フィラー(典型的には粒状)とバインダとを含む層(以下、フィラー層という。)を有する。ここで、無機フィラーとしては、絶縁性を有する無機フィラー(例えば、金属酸化物、金属水酸化物などのフィラー)で構成するとよい。このリチウムイオン二次電池100では、セパレータシート262、264の表裏のうち、正極活物質層223に対向する側の面に無機フィラーを含む
フィラー層266が形成されている。無機フィラーとしては、耐熱性があり、かつ電池の使用範囲内で電気化学的に安定であるものが好ましい。好適例として、アルミナ(Al)、アルミナ水和物(例えばベーマイト(Al・HO))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、炭酸マグネシウム(MgCO)、等の無機金属化合物が例示される。これらの無機金属化合物材料の一種又は二種以上を用いることができる。
【0022】
フィラー層266に用いられるバインダとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリル系樹脂が例示される。
【0023】
上記フィラー層266は、無機フィラー、バインダおよび溶媒を混合分散したスラリーをセパレータ基材の表面(ここでは片面)に適当量塗布しさらに乾燥することによって形成することができる。上記スラリーに用いられる溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒が挙げられる。
【0024】
この例では、図2および図3に示すように、負極活物質層243の幅b1は、正極活物質層223の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータシート262、264の幅c1、c2は、負極活物質層243の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。
【0025】
≪電解液(非水電解液)≫
電解液(非水電解液)としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート、等からなる群から選択された一種または二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF等のリチウム塩を用いることができる。一例として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば質量比1:1)にLiPFを約1mol/Lの濃度で含有させた非水電解液が挙げられる。
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100のセパレータシート262、264について、より詳細に説明する。リチウムイオン二次電池100は、図1図3に示すように、長尺な正極集電体221上に正極活物質層223を備える正極シート220と、長尺な負極集電体241上に負極活物質層243を備える負極シート240と、正極シート220と負極シート240との間に介在するセパレータシート262、264とを重ね合わせて捲回した捲回電極体200とを備えている。また、捲回電極体200を収容した電池ケース300と、電池ケース300に注入された非水電解液とを備えている。セパレータシート262、264は、その表面に無機フィラーとバインダとを含むフィラー層266を有している。
【0027】
図4は、かかるリチウムイオン二次電池100について、捲回電極体200の正極シート220と負極シート240とセパレータシート262、264との積層構造の一部を示す断面図である。本実施形態では、図4に示すように、捲回電極体200の捲回軸WLの方向において、フィラー層266の両側の端部E1、E2に含まれるバインダは、当該端部E1、E2を除く中間部Cに含まれるバインダよりも、非水電解液に対して膨潤度が高い。
【0028】
ここで、非水電解液に対するバインダの膨潤度は、バインダを乾燥させて所定の厚さ(例えば、約100μm)のフィルム状にする。このフィルムを所定の大きさ(例えば、3cm×3cmの正方形)に切り出す。かかるフィルムを十分に乾燥させた状態で、バインダの質量(浸漬前のバインダの質量)を測定する。次に、非水電解液に24時間浸漬する。非水電解液から取り出したバインダの質量(浸漬後のバインダの質量)を測定する。バインダの膨潤度は、浸漬後のバインダの質量を、浸漬前のバインダの質量で割った値を基に下記の式によって定めることができる。
バインダの膨潤度(%)=(浸漬後のバインダの質量)/(浸漬前のバインダの質量)×100;
【0029】
ここで非水電解液に対して膨潤度が高いバインダとしては、非水電解液とSP値の差が小さいバインダを用いるとよい。また、非水電解液に対して膨潤度が低いバインダとしては、非水電解液とSP値(溶解パラメータ)の差が大きいバインダを用いるとよい。ここで、SP値は「溶解パラメータ」とも称される。SP値(溶解パラメータ)は、溶媒と溶質との間に作用する力を分子間力のみと仮定した場合に、この分子間力をSP値(溶解パラメータ)と見なしたものである。非水電解液のSP値は、該非水電解液を構成する非水溶媒のSP値を基に体積比を乗じて算出するとよい。好ましくは、フィラー層266の両側の端部E1、E2に含まれるバインダは、非水電解液とのSP値の差が2(好ましくは1、より好ましくは0.5)よりも小さく、かつ、当該端部E1、E2を除く中間部Cに含まれるバインダは、非水電解液とのSP値の差が2(好ましくは2.5、より好ましくは3)よりも大きい。なお、フィラー層266の両側の端部E1、E2に含まれるバインダと、中間部Cに含まれるバインダとは、異種のバインダを用いてもよいし、同種のバインダであって且つ重合度が異なるバインダを用いてもよい。
【0030】
図5は、本発明の一実施形態であり、フィラー層266の両側の端部E1、E2に含まれるバインダが、中間部Cに含まれるバインダよりも、非水電解液に対して膨潤度が高い捲回電極体200の積層構造を例示している。
【0031】
この場合、フィラー層266の両側の端部E1、E2に含まれるバインダが、中間部Cに含まれるバインダよりも、非水電解液に対して膨潤度が高い。このため、電池ケース300に収容され、電池ケース300に非水電解液が注入された状態において、フィラー層266の両側の端部E1、E2が中間部Cよりも厚くなる。このことにより、捲回電極体200の捲回軸方向両端部では中央部に比べて隙間が減少し、非水電解液および塩の一部が捲回電極体200の捲回軸方向両端部から電極体200の外部に排出されることを防止することができる。かかる非水電解液二次電池では、捲回電極体200内で塩濃度の分布に偏り(ムラ)が生じ難い。このため、捲回電極体200内で塩濃度の分布に偏りが生じることに起因して、内部抵抗が上昇する事象が緩和され得る。
【0032】
この実施形態では、図2および図3に示すように、セパレータシート262、264の幅が正極活物質層223および負極活物質層243よりも広い(c1、c2>b1>a1)。この場合、図4に示すように、セパレータシート262、264は、捲回軸方向において、正極活物質層223および負極活物質層243に対向している部位262a、264a(以下、電極対向部位という。)と、正極活物質層223および負極活物質層243に対向していない部位262b、264b(以下、電極非対向部位という。)と、を有している。電極非対向部位262b、264bは、セパレータシート262、264の両側の縁に設けられている。
【0033】
この場合、上記高膨潤度のバインダが用いられるフィラー層266の両側の端部(以下、高膨潤度バインダ端部ともいう。)E1、E2は、セパレータシート262、264のうち電極非対向部位262b、264bに位置し、かつ、電極対向部位262a、264aに位置していないことが好ましい。例えば、電極非対向部位262b、264bの幅(すなわちセパレータシート262、264の端からの距離)をW1とし、高膨潤度バインダ端部E1、E2の幅(すなわちフィラー層266の端267からの距離)をW2とした場合、概ね0.5≦(W2/W1)<1を満足することが好ましく、0.65≦(W2/W1)≦0.8を満足することが特に好ましい。このような(W2/W1)の値の範囲内であると、高膨潤度バインダ端部E1、E2が電極対向部位262a、264aにかからないため、捲回電極体の捲回軸方向中央部が膨潤することによる不具合を回避しつつ、非水電解液の電極体外部排出を抑制する効果を十分に得ることができる。上記高膨潤度バインダ端部E1、E2の幅W2としては、概ね2mm以上(例えば2mm以上4mm以下)にすることが好ましい。
【0034】
次に、フィラー層266の形成方法について説明する。フィラー層266は、高膨潤度バインダ端部E1、E2と、中間部Cとで異なるスラリーを用いて形成するとよい。つまり、それぞれ高膨潤度バインダ端部E1a、E2a用のスラリーと中間部C用のスラリーを調製し、フィラー層266の高膨潤度バインダ端部E1、E2と、中間部Cとでスラリーを塗り分ける。高膨潤度バインダ端部E1a、E2a用のスラリーには、膨潤度の相対的に高い(非水電解液に対してSP値の差が小さい)バインダが含まれているとよい。また、中間部C用のスラリーには、膨潤度の相対的に低い(非水電解液に対してSP値の差が大きい)バインダが含まれているとよい。これにより、捲回軸方向の両側の端部E1、E2に含まれるバインダが、捲回軸方向の中間部Cに含まれるバインダより、非水電解液に対する膨潤度が高いフィラー層266が得られる。
【0035】
≪試験例≫
非水系二次電池の評価試験として、フィラー層の捲回軸方向の両側の端部に含まれるバインダの非水電解液に対する膨潤度が、中間部に含まれるバインダの非水電解液に対する膨潤度よりも高い形態について、評価用セルを用意し、その効果を検証した。
【0036】
正極220は、正極活物質層223に含まれる正極活物質粒子としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3粉末、バインダとしてPVDF、導電材としてアセチレンブラック(AB)を用いた。ここで、正極活物質層223を形成する際の合剤には、LiNi1/3Mn1/3Co1/3と、PVDFと、ABとを、質量割合にて、LiNi1/3Mn1/3Co1/3:PVDF:AB=96:2:2とし、NMPを分散溶媒として混合したペーストを用意した。そして、かかるペーストを、正極集電体221としてのアルミニウム箔(厚さ15μm)の上に帯状に塗布し、乾燥させ、ロールプレスによる圧延を行なって、正極220を形成した。
【0037】
負極240は、負極活物質層243に含まれる負極活物質粒子として天然黒鉛粉末、バインダとしてSBR、増粘剤としてCMCを用いた。ここで、負極活物質層243を形成する際の合剤には、黒鉛と、SBRと、CMCとを、質量割合にて、黒鉛:SBR:CMC=98:1:1とし、水を分散溶媒として混合したペーストを用意した。そして、かかるペーストを、負極集電体241としての銅箔(厚さ10μm)の上に帯状に塗布し、乾燥させ、ロールプレスによる圧延を行なって、負極240を形成した。
【0038】
セパレータシート262、264には、PEの単層からなる多孔質膜を用いた。また、セパレータ262は、正極220と対向している側の面にフィラー層266を形成した。フィラー層266は、無機フィラーとしてのアルミナ粒子と、バインダとしてのSBRとを含んでいる。なお、電解液には、エチレンカーボネート(SP値:14.7)とジエチルカーボネート(SP値:8.8)とエチルメチルカーボネート(SP値:9.4)とを体積比率において、3:4:3で配合し、LiPFを1.1モル溶解させたものを用いた。この場合、非水電解液の70%がSP値9付近となり、その平均値は10.75である。
【0039】
上記で作製した負極と、正極と、セパレータシートとを用いて、評価試験用の電池(リチウムイオン二次電池)を構築した。ここでは、セパレータを介在させた状態で、正極シートと負極シートとを積層して捲回した捲回電極体を作製した。そして、捲回電極体を電池ケースに収容し、非水電解液を注液して封口し、評価用セルを構築した。
【0040】
《評価試験用の電池のサンプル1〜4》
以下、評価試験用の電池の複数のサンプル1〜4について説明する。評価試験用の電池の各サンプル1〜4は、図4に示すように、捲回電極体の捲回軸方向において、フィラー層266の両側の端部(高膨潤度バインダ端部)E1、E2に含まれるバインダ(SBR)と、中間部Cに含まれるバインダ(SBR)とで、SP値(非水電解液に対する膨潤度)が異なる。
【0041】
サンプル1では、フィラー層266の高膨潤度バインダ端部E1、E2に含まれるバインダのSP値を9とし、中間部Cに含まれるバインダのSP値を7とした。また、セパレータシート262、264の電極非対向部位262b、264bの幅W1を6mmとし、フィラー層266の高膨潤度バインダ端部E1、E2の幅W2を4mmとした。
【0042】
サンプル2では、フィラー層266の高膨潤度バインダ端部の幅W2を15mmとした。それ以外は上述したサンプル1と同じ構成とした。
【0043】
サンプル3では、フィラー層266の高膨潤度バインダ端部E1、E2に含まれるバインダのSP値を7とした。それ以外は上述したサンプル1と同じ構成とした。
【0044】
サンプル4では、フィラー層266の高膨潤度バインダ端部E1、E2に含まれるバインダのSP値を7とした。それ以外は上述したサンプル2と同じ構成とした。
【0045】
上記サンプル1〜4に係る評価用セルに対し、ハイレート充放電を繰り返す充放電パターンを付与し、充放電サイクル試験を行った。具体的には、室温(約25℃)環境下において、30Cの定電流放電によって10秒間放電を行い、10分間休止した後、5Cの定電流充電によって60秒間充電を行い、10分間休止するハイレート充放電サイクルを30000回繰り返した。その際、500サイクルごとにSOCを60%に調整した。そして、上記充放電サイクル試験前におけるIV抵抗(電池の初期の抵抗)と、充放電サイクル試験後におけるIV抵抗とから抵抗増加率を算出した。ここで、充放電サイクルの前後におけるIV抵抗は、それぞれ、電池をSOC60%の充電状態とし、25℃の環境下で、1C、3C、5Cでそれぞれ10秒間充電処理を行い、測定された測定電流値を横軸に、初期電圧値から10秒時点での電圧値を引いた値である電圧ドロップ値ΔVを縦軸にプロットし、その傾きから求めた。なお、抵抗上昇率(%)は、[充放電サイクル試験後のIV抵抗/充放電サイクル試験前のIV抵抗]により求めた。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、サンプル1,2に係る電池では、フィラー層の端部に含まれるバインダのSP値が、中間部に含まれるバインダのSP値よりも大きい(即ち非水電解液に対する膨潤度が高い)。かかるサンプル1、2の電池は、サンプル3、4に比べて、ハイレート充放電試験後における抵抗上昇率がより低く、耐久性に優れるものであった。サンプル1、2の電池では、フィラー層の端部が電解液に膨潤することにより非水電解液が電極体の外部に排出されにくくなり、結果として抵抗上昇が抑制できたものと推測される。また、サンプル1の電池の方がサンプル2に比べてより耐久性に優れるものであった。サンプル2に係る電池では、高膨潤度バインダ端部がセパレータシートの電極対向部位にもかかっているため、膨潤後には捲回電極体の捲回軸方向中央部と両端部とで圧力が異なる(ムラが発生)。そのため、電解液の排出は抑制されたものの、反応ムラによる劣化が生じたため、抵抗上昇抑制効果はサンプル1よりも低下したものと推測される。この結果から、高膨潤度バインダ端部E1、E2は、セパレータシート262、264のうち電極非対向部位262b、264bに位置し、かつ、電極対向部位262a、264aに位置していないことが好ましい(図4参照)。
【0048】
以上、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明したが、本発明に係る二次電池は、上述した何れの実施形態にも限定されず、種々の変更が可能である。例えば、他の電池形態として、円筒型電池などが知られている。円筒型電池は、円筒型の電池ケースに捲回電極体を収容した電池である。
【0049】
また、上述したように、本発明は二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)のハイレート充放電に対する耐久性の向上に寄与し得る。このため、本発明は、ハイブリッド車や、電気自動車の駆動用電池など車両駆動電源用の二次電池に好適である。すなわち、二次電池は、例えば、自動車などの車両のモータ(電動機)を駆動させる車両駆動用電源として好適に利用され得る。車両駆動用電源は、複数の二次電池を組み合わせた組電池としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
100 リチウムイオン二次電池
200 捲回電極体
220 正極シート
240 負極シート
262,264 セパレータシート
266 フィラー層
300 電池ケース
E1、E2 端部
C 中間部
図1
図2
図3
図4
図5